説明

スケール除去装置

【課題】構造物表面に固着したスケールにスケール除去液を所定時間接触させることができ、簡単に且つ安全にスケールを除去することができるスケール除去装置を提供する。
【解決手段】スケール除去液10を用いて、スケール200が固着した構造物表面106から検査対象となる部位のスケールを除去するスケール除去装置であって、スケール除去液10を収納する液容器4と、液容器内のスケール除去液が注入される液注入口23と、液注入口に設けられた液逆止弁24とを有し、一面側が開放したケース本体2と、ケース本体の開放した側の縁部に設けられ、密着性及び気密性を有するシール部3とを備え、シール部3が構造物表面106に当接されることにより構造物表面106とケース本体2との間に充填空間21が形成され、充填空間21にスケール除去液10が充填されることによりケース本体2が構造物表面106に吸着保持されるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スケール除去液を用いて構造物表面に固着したスケールを除去するスケール除去装置に係り、特に、金属酸化物を含むスケールが固着した構造物表面から検査対象部位のスケールを除去するスケール除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物に対して肉厚測定などの検査を行う際には、検査を実施する前に検査対象部位の構造物表面に付着しているスケールを取り除く必要がある。例えば、ボイラの伝熱管の肉厚測定には超音波探傷等が用いられるが、図8(A)に示すように、伝熱管106の表面に灰やクリンカ、或いは金属酸化物を含むスケール200が固着しているため、正確に肉厚を測定することができない。そこで、伝熱管106のうち検査対象となる部位のスケールを、部分的に除去する作業が行われていた。
【0003】
従来、スケールの除去には、研掃材や高圧水を吹き付けるブラスト法、又はグラインダやハンマー等を用いてスケールをはつって除去する方法等のように、物理的にスケールを除去する方法が多く用いられている。ところが、これらの方法では検査対象部位まで削って減肉させてしまったり、構造物に損傷を与えてしまったりすることがあった。
また、図8(B)に示すように、複数の伝熱管106が近接配置され、グラインダ110等の工具が入らない場合には、検査対象部位を研磨できないため、必要な検査が行えないことがあった。
【0004】
そこで、特許文献1(特開2004−202485号公報)には、プラント機器に付着した灰やクリンカ等の付着物を水で湿潤させた後、ブラスト等で物理的に付着物を除去する方法が開示されている。
しかし、灰やクリンカのような付着物は水を吸って湿潤状態になると柔らかくなり除去しやすくなるが、金属酸化物のように構造物表面に硬く固着しているスケールは除去できなかった。
【0005】
一方、金属酸化物を含むスケールを化学的に除去する方法として、スケール除去液が知られている。スケール除去液は、酸やアルカリを含み、構造物表面に硬く固着しているスケールを溶解させて除去するものである。
このスケール除去液を用いたスケール除去方法が、特許文献2(特開2003−14396号公報)に開示されている。これは、プラント停止期間に、ボイラ蒸発管内にスケール除去液を注入して蒸発管内のスケールを除去するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−202485号公報
【特許文献2】特開2003−14396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示されるスケール除去方法は、スケール除去液を注入することができる蒸発管内のスケールを除去対象としたものであり、蒸発管表面に固着したスケールには適用できなかった。
また、特許文献1に開示されるように、水の代わりにスケール除去液を構造物表面に噴射することが考えられるが、スケール除去液は酸性やアルカリ性を示すものが多く、作業者の安全性を考慮するとこの方法は適用できない。また、一般にスケール除去液は、スケールが反応するまで数時間程度接触させておく必要があるが、スケールが固着して凹凸状になった構造物表面に液状のスケール除去液を所定時間保持することはできなかった。
【0008】
したがって、本発明はかかる従来技術の問題に鑑み、構造物表面に固着したスケールにスケール除去液を所定時間接触させることができ、簡単に且つ安全にスケールを除去することができるスケール除去装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明に係るスケール除去装置は、スケール除去液を用いて、スケールが固着した構造物表面から検査対象となる部位のスケールを除去するスケール除去装置であって、前記スケール除去液を収納する液容器と、前記液容器内の前記スケール除去液が注入される液注入口と、前記液注入口に設けられた液逆止弁とを有し、一面側が開放したケース本体と、前記ケース本体の開放した側の縁部に設けられ、密着性及び気密性を有するシール部とを備え、前記シール部が前記構造物表面に当接されることにより前記構造物表面と前記ケース本体との間に充填空間が形成され、前記充填空間に前記スケール除去液が充填されることにより前記ケース本体が前記構造物表面に吸着保持されるように構成したことを特徴とする。
【0010】
本発明のスケール除去装置は、構造物表面にシール部を当接させ、構造物表面とケース本体とで形成される充填空間内にスケール除去液を注入することにより、構造物表面にスケール除去液を長時間保持することができる。よって、スケール除去液によりスケールが十分に溶解し、容易に除去することが可能となる。
さらに、本発明によれば、グラインダ等の工具を使用する必要がないため構造物表面を傷つけることなく簡単にスケールを除去することができ、また、機器が密集した部位等のように作業空間が狭い場所にも適用でき検査可能な範囲が広がる。
【0011】
さらにまた、シール部により充填空間からスケール除去液が漏れることを防止でき、安全性の高い装置とすることができる。特に、シール部は密着性を有しているため、構造物表面がスケールにより凹凸状となっていても、高い気密性(又は液密性)を保持することができる。
また、シール部により充填空間の気密性(又は液密性)が保持されるため、充填空間内を液密状態にすることにより外部から充填空間内に空気が流入することがなく、これによりケース本体を構造物表面に吸着保持でき、スケール除去液を構造物表面に長時間保持させておくことができる。よって、作業員はケース本体を長時間手で押さえる必要がなくなり、作業の簡易化が図れる。
なお、前記スケール除去液の形態は、液状の他にスラリー状のものも含む。
【0012】
また、前記充填空間内の空気を排出する空気抜き手段をさらに備え、前記空気抜き手段は、可撓性材料で形成された前記ケース本体からなり、前記ケース本体を変形させることにより前記充填空間内の空気が排出されるように構成することが好ましい。
このように、ケース本体を可撓性材料で形成することにより、簡単な構成で充填空間内の空気を排出することができる。そして、空気を排出した後にケース本体の変形を戻しながらスケール除去液を注入することで、充填空間内を液密状態にすることができる。これに加えて、ケース本体を可撓性材料で形成することにより、構造物の形状に沿ってケース本体が変形可能となるため、本装置を様々な形状の構造物に適用することができるようになる。
【0013】
また、前記充填空間内の空気を排出する空気抜き手段をさらに備え、前記空気抜き手段は、前記ケース本体に設けられた空気抜き穴と、前記空気抜き穴に設けられた空気逆止弁とからなり、前記液注入口を介して前記液容器から注入される前記スケール除去液の注入圧により前記空気逆止弁が開いて前記充填空間内の空気が排出されるように構成することが好ましい。
このように、ケース本体に空気抜き穴を設けるとともに、この空気抜き穴にスケール除去液の注入圧以上で開く空気逆止弁を設けることにより、簡単な構成で充填空間内の空気とスケール除去液とを置換させることができる。なお、本構成では、空気抜き穴を設けているためケース本体を可撓性材料で形成しても剛性材料で形成してもよく、ケース本体材料の選択範囲が広がる。
【0014】
さらに、前記液逆止弁は、前記液容器の口部を前記液注入口に装着したときにのみ前記液容器内と前記充填空間とが連通するように構成されていることが好ましい。
これにより、スケール除去液注入時とスケール除去液排出時にのみ液容器と充填空間とが連通し、簡単にスケール除去液の注入又は排出が行える。なお、構造物表面にスケール除去液を保持させている間は閉じられているため、充填空間の気密性を保持することができる。
【0015】
また、前記シール部は、ゲル状材料若しくはポリウレタン材料で形成されていることが好ましく、これによりスケールが固着してできた構造物表面の微小な凹凸にもシール部が変形して侵入しやすく、充填空間の気密性をより高く保持することが可能となる。
さらに好適には、前記シール部は、ゲル状材料若しくはポリウレタン材料で形成された接着物質であるとよく、これにより吸着保持力と接着力とによりケース本体を保持することができ、作業中にケース本体が剥がれ落ちてしまうことを確実に防止できる。
【0016】
さらにまた、上記したスケール除去装置は、ボイラの伝熱管外表面のスケール除去に用いられることが好ましい。
ボイラの伝熱管には、灰やクリンカの他に金属酸化物を含むスケールが硬く固着しやすい。また、ボイラの伝熱管は複数近接して配置されていることが多く、これにより広い作業空間を確保することが困難である。そこで、本発明に係るスケール除去装置を用いることで、簡単に且つ安全にスケールを除去することが可能となり、また検査対象範囲を広げることができるため、必要な検査を確実に実施することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
以上記載のように本発明によれば、構造物表面にスケール除去液を長時間保持することができ、スケールを容易に除去することが可能となる。
さらに、構造物表面を傷つけることなく簡単にスケールを除去することができ、また作業空間が狭い場所にも適用できるため構造物の検査可能な範囲が広がる。
さらにまた、構造物表面が凹凸状であってもシール部によりスケール除去液が漏れることを防止でき、安全性の高い装置とすることができる。また、シール部によりケース本体を構造物表面に吸着保持でき、これにより作業員はケース本体を長時間手で押さえる必要がなくなり、作業の簡易化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るスケール除去装置の基本構成を示す図であり、(A)は開放面側から見た正面図で、(B)は側面図である。
【図2】スケール除去装置を伝熱管に適用した場合を示す図であり、(A)は装置を伝熱管に吸着保持した状態を示す断面図で、(B)はスケール除去後の伝熱管を示す断面図である。
【図3】第1実施形態に係るスケール除去装置を説明する図であり、(A)はスケール除去液注入時の状態を示す側断面図で、(B)はスケール除去液注入後の状態を示す側断面図である。
【図4】第2実施形態に係るスケール除去装置を説明する図であり、(A)はスケール除去液注入時の状態を示す側断面図で、(B)はスケール除去液注入後の状態を示す側断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係るスケール除去装置の変形例を示す図であり、(A)は開放面側から見た正面図で、(B)は側面図である。
【図6】スケール除去装置が適用されるボイラの全体構成図である。
【図7】スケール除去装置をボイラの伝熱管に用いた状態を示す斜視図である。
【図8】従来のスケール除去方法を説明する図であり、(A)はスケールが固着した伝熱管の断面図で、(B)はグラインダで伝熱管のスケールを除去する状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0020】
本発明の実施形態に係るスケール除去装置は、スケール除去液を用いて構造物表面に固着したスケールを除去する装置である。ここでは特に、構造物表面のうち肉厚測定等の検査を行う検査対象部位のみをスケール除去範囲としている。なお、構造物とは、伝熱管等のボイラを構成する各構造物(機器類も含んで構造物と総称する)、タービン翼等のように発電所の各構造物、水門等の建築構造物など、スケールが固着する構造物全般に用いることができる。特に、酸化鉄等の金属酸化物を含むスケールが固着する構造物に好適に用いられる。ただし、以下の実施形態では一例としてボイラの伝熱管に適用した場合につき説明する。
【0021】
まず最初に、図1を参照して、本発明の実施形態に係るスケール除去装置の基本構成を説明する。ここで、図1(A)はスケール除去装置を開放面側から見た正面図で、(B)は側面図である。
スケール除去装置1は、主に、スケール除去液が充填されるケース本体2と、ケース本体2の開放された側の縁部22に設けられたシール部3と、スケール除去液が収納される液容器4とを備える。
【0022】
ケース本体2は、一面側が開放し、この開放された一面側が構造物表面に当接されることにより充填空間21を形成する。ケース本体2の材料は、可撓性材料であっても剛性材料であってもよい。特に好ましくは、ゴム、プラスチック、ビニール等の樹脂材料で形成することが軽量となり好ましい。
また、ケース本体2の形状は特に限定されないが、図1には半球面状に形成されたケース本体2を示している。これは、構造物表面が平板状である場合により適しており、半球面状に形成されることにより構造物表面への吸着保持力を高くすることができる。さらに、ケース本体2の縁部22の形状は、平面状であっても、曲面状であってもよいが、ケース本体材料が剛性である場合には構造物表面形状に沿った形状とすることが好ましい。
さらにまた、ケース本体2は、液容器4内のスケール除去液が注入される液注入口23と、液注入口23に設けられた液逆止弁24とを有している。
【0023】
シール部3は、密着性及び気密性を有する材料で形成され、ケース本体2の開放された側の縁部22に全周にわたって設けられる。このシール部3によりケース本体2内の充填空間21の気密性(又は液密性)が保持され、充填空間21にスケール除去液が充填された状態で、ケース本体2が構造物表面に吸着保持されるようになっている。
さらに、シール部3の材料は、スケール除去液に対する耐薬品性を有するゲル状材料若しくはポリウレタン材料で形成されていることが好ましい。これによりスケールが固着してできた構造物表面の微小な凹凸にもシール部3が変形して侵入しやすく、充填空間21の気密性をより高く保持することが可能となる。さらに好適には、シール部3は、ゲル状材料若しくはポリウレタン材料で形成された接着物質であるとよく、これにより吸着保持力と接着力とによりケース本体2を保持することができ、作業中にケース本体2が剥がれ落ちてしまうことを確実に防止できる。具体的にシール部3には、ゲル状材料としてアクリルベース又はウレタンベースのゴム状ゲル素材等が用いられ、ポリウレタン材料としてポリウレタンフォーム、ポリウレタンエストラマー、ポリウレタン接着剤等が用いられる。
【0024】
液容器4は、スケール除去液が収納される容器本体41と、スケール除去液の注入、吸引を行う口部42とを有する。容器本体41は、容器本体41内のスケール除去液を口部42から押し出す手段を有し、さらに好適には、充填空間21内のスケール除去液を容器本体41内に吸引する手段を有するとよい。例えば、容器本体41が可撓性を有する樹脂材料で形成されることにより、容器本体41内のスケール除去液が口部42から押し出され、さらに容器本体41が形状復元性を有することにより、形状復元時にスケール除去液が口部42から吸引する。また別の構成として、容器本体41がシリンダ状に形成され、スケール除去液を押し出す手段及び吸引する手段としてピストンを有していてもよい。
【0025】
スケール除去液は、構造物表面から金属酸化物を含むスケールを溶解・除去する液状又はスラリー状の薬剤であり、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、リン酸、スルファミン酸等の無機酸を主成分とする薬剤、或いはクエン酸、ヒドロキシ酢酸、蟻酸、リンゴ酸、シュウ酸、グルコン酸等の有機酸を主成分とする薬剤が用いられる。特に好適には、酸洗作用を有する塩酸と、腐食抑制作用を有するインヒビタと、還元作用を有する塩化第一すずとを含み、pH2程度の薬剤が用いられる。
【0026】
ここで、図2を参照して、上記した構成を有するスケール除去装置1の作用を効果とともに説明する。図2はスケール除去装置を伝熱管に適用した場合を示す図であり、(A)は装置を伝熱管に吸着保持した状態を示す断面図で、(B)はスケール除去後の伝熱管を示す断面図である。
まず、伝熱管表面106の検査対象部位にシール部3を当接し、密着させる。これにより、伝熱管表面106とケース本体2との間に密閉された充填空間21が形成される。この充填空間21に、ケース本体2の液注入口23を介して液容器4からスケール除去液10を注入する。充填空間21がスケール除去液10により液密状態になったらスケール除去液10の注入を停止する。このとき、充填空間21内に少量の空気が残存していてもよい。
【0027】
シール部3により充填空間21の気密性(又は液密性)が保持されるため、充填空間21内を液密状態にすることにより充填空間21内に外部から空気が流入することがなく、これによりケース本体2を構造物表面106に吸着保持できる。よってスケール除去液10を構造物表面に長時間保持させておくことができ、作業員はケース本体2を長時間手で押さえる必要がなくなり、作業の簡易化が図れる。
さらにまた、シール部3により充填空間21からスケール除去液10が漏れることを防止でき、安全性の高い装置とすることができる。特に、シール部は密着性を有しているため、構造物表面106がスケール200により凹凸状となっていても、高い気密性(又は液密性)を保持することができる。
【0028】
このように本実施形態のスケール除去装置1は、構造物表面106にシール部3を当接させ、構造物表面106とケース本体2とで形成される充填空間21内にスケール除去液10を注入することにより、構造物表面106にスケール除去液10を長時間保持することができる。よって、スケール除去液10によりスケール200が十分に溶解し、容易に除去することが可能となる。
さらに、本実施形態のスケール除去装置1によれば、グラインダ等の工具を使用する必要がないため構造物表面106を傷つけることなく簡単にスケール200を除去することができ、また、機器が密集した部位等のように作業空間が狭い場所にも適用でき検査可能な範囲が広がる。
【0029】
次に、図3の第1実施形態及び図4の第2実施形態を参照して、スケール除去装置1の具体的な構成例を説明する。
なお、第1実施形態及び第2実施形態において、上記した基本構成と同一の構成についてはその詳細な説明を省略する。
【0030】
(第1実施形態)
図3は第1実施形態に係るスケール除去装置を説明する図であり、(A)はスケール除去液注入時の状態を示す側断面図で、(B)はスケール除去液注入後の状態を示す側断面図である。
第1実施形態に係るスケール除去装置1は、図1に示したように液注入口23と液逆止弁24とを有するケース本体2と、シール部3と、スケール除去液10が収納された液容器4とを備えている。さらにこれに加えて、第1実施形態は充填空間21内の空気を排出する空気抜き手段を備えた構成となっている。
【0031】
空気抜き手段は、可撓性材料で形成されたケース本体2からなり、ケース本体2を変形させることにより充填空間21内の空気が排出されるようになっている。このケース本体2は、例えば、ゴム、プラスチック、ビニール等の可撓性樹脂材料で形成される。
また、液注入口23は環状に形成されており、この内部に液逆止弁24が設けられている。液逆止弁24は、液容器4からのスケール除去液10の注入圧によって開くように構成してもよいし、液容器4の口部42を液注入口23に挿入することにより液容器4内と充填空間21とが連通するように構成してもよい。なお、図3には弁板を有する逆止弁を例示したが、これに限定されるものではなく、ボール逆止弁等の他の逆止弁であってもよい。
【0032】
このスケール除去装置1によるスケール除去方法を説明する。
まず、図3(A)に示すように、ケース本体2を充填空間21が潰れるように変形させた状態で、シール部3を伝熱管表面106に当接し、密着させる。次に、液注入口23に液容器4の口部42を挿入する。これにより液逆止弁24が開き、容器本体41と充填空間21とが連通した状態となる。そして、容器本体41を押圧してスケール除去液10を充填空間21内に注入する。このとき、充填空間21内にスケール除去液10が徐々に溜まっていくとケース本体2の変形が戻っていき、完全に変形が戻ったときに充填空間21内には十分な量のスケール除去液10が充填されている。
【0033】
スケール除去液10の注入が終了したら、図3(B)に示すように、液注入口23から液容器4を引き抜く。これにより、液逆止弁24は閉じて充填空間内21は気密状態(液密状態)となる。こうして、シール部3の密着性及び気密性と、充填空間21が液密状態に保たれていることから、ケース本体2は伝熱管表面106に吸着保持される。この状態で1時間から3時間程度保持した後、スケール除去液10を排出する。この保持時間は、スケール除去液10の種類によって設定される。
【0034】
スケール除去液10の排出は、シール部3に外力を与えて伝熱管表面106からケース本体2を剥離し、スケール除去液10を洗い流してもよいし、スケール除去液10液容器4に戻してもよい。この場合、容器本体41を潰した状態に変形させて内部の空気を抜いた後、口部42を液注入口23に挿入し、容器本体41の変形を戻す際の吸引力を使って充填空間21内のスケール除去液10を吸引し、充填空間21から排出する。
【0035】
上記した第1実施形態によれば、ケース本体2を可撓性材料で形成することにより、簡単な構成で充填空間21内の空気を排出することができる。そして、空気を排出した後にケース本体2の変形を戻しながらスケール除去液10を注入することで、充填空間21内を液密状態にすることができる。これに加えて、ケース本体2を可撓性材料で形成することにより、構造物の形状に沿ってケース本体2が変形可能となるため、本装置を様々な形状の構造物に適用することができるようになる。
【0036】
(第2実施形態)
図4は第1実施形態に係るスケール除去装置を説明する図であり、(A)はスケール除去液注入時の状態を示す側断面図で、(B)はスケール除去液注入後の状態を示す側断面図である。
第2実施形態に係るスケール除去装置1は、上記図3に示した第1実施形態とは異なる空気抜き手段を備えた構成となっている。なお、第2実施形態では、ケース本体2を可撓性材料で形成しても剛性材料で形成してもよいが、好適には剛性材料で形成してケース本体2が変形しない構成とすることが好ましい。
【0037】
この空気抜き手段は、ケース本体2に設けられた空気抜き穴5と、この空気抜き穴5に設けられた空気逆止弁6とからなる。
空気抜き穴5は、充填空間21の上方に位置する。
空気逆止弁6は、液注入口23を介して液容器4から注入されるスケール除去液10の注入圧により開いて、充填空間21内の空気が排出されるようになっている。ここで、スケール除去液10の注入圧は、充填空間21にスケール除去液10を充填したときのスケール除去液10の液圧よりも高く設定される。なお、液逆止弁24及び空気逆止弁6は、図4では弁板を有する逆止弁を例示したが、これに限定されるものではなく、ボール逆止弁等の他の逆止弁であってもよい。
【0038】
このスケール除去装置1によるスケール除去方法を説明する。
まず、図4(A)に示すように、シール部3を伝熱管表面106に当接し、密着させる。次に、液注入口23に液容器4の口部42を挿入する。これにより液逆止弁24が開き、容器本体41と充填空間21とが連通した状態となる。そして、容器本体41を押圧してスケール除去液10を充填空間21内に注入する。このとき、スケール除去液10の注入圧により空気逆止弁6が開き、空気抜き穴5から充填空間21内の空気が排出される。これにより充填空間21内の空気がスケール除去液10に置換される。
スケール除去液10の注入が終了したら、図4(B)に示すように、液注入口23から液容器4を引き抜く。これにより、液逆止弁24は閉じて充填空間内21は気密状態(液密状態)となる。こうして、シール部3の密着性及び気密性と、充填空間21が液密状態に保たれていることから、ケース本体2は構造物表面106に吸着保持される。この状態で1時間から3時間程度保持した後、スケール除去液10を排出する。
【0039】
スケール除去液10は、シール部3に外力を与えて伝熱管表面106からケース本体2を剥離し、洗い流してもよいし、液容器4に戻してもよい。この場合、容器本体41を潰した状態に変形させて内部の空気を抜いた後、口部42を液注入口23に挿入し、容器本体41の変形を戻す際の吸引力を使って充填空間21内のスケール除去液10を吸引し、充填空間21から排出する。このとき、空気逆止弁6を強制的に開放するか、若しくは他の空気穴を設けておくことが好ましい。
【0040】
上記した第1実施形態によれば、ケース本体2に空気抜き穴5を設けるとともに、この空気抜き穴5にスケール除去液10の注入圧以上で開く空気逆止弁6を設けることにより、簡単な構成で充填空間21内の空気とスケール除去液10とを置換させることができる。
【0041】
ここで、図5を参照して、上記した基本構成、第1実施形態及び第2実施形態に適用できる変形例を説明する。
図5は本発明の実施形態に係るスケール除去装置1の変形例を示す図であり、(A)は開放面側から見た正面図で、(B)は側面図である。
同図に示すように、スケール除去装置1は、ケース本体2を方形に形成してもよい。これは、伝熱管表面のスケール除去に特に適しており、さらにケース本体2の縁部22と、シール部3とを伝熱管の曲率に合せて湾曲させることがより好ましい。
【0042】
さらに、図1乃至図5に示したスケール除去装置1は、ボイラの伝熱管外表面のスケール除去に用いられることが好ましい。
図6はスケール除去装置が適用されるボイラの一例を示す全体構成図である。
ボイラ101は、主に、バーナ103が設けられた燃焼室102と、燃焼ガスを用いて蒸気を生成する伝熱管104と、燃焼室102の出口から延設されたダクト105と、ダクト105上に配設された排熱回収装置107と、ダクト105に接続された煙突108とを備える。
ボイラ101の燃焼室102では、バーナ103から供給される燃料と燃焼空気を燃焼させて高温の燃焼ガスを生成する。燃焼ガスは伝熱管104で熱交換されて管内の水を加熱し、蒸気を発生させる。この過程で発生した排ガスは、燃焼室102の出口から延設されたダクト105を通って排熱回収装置107で余熱回収された後、煙突108より排出される。
【0043】
図7に示すように、排熱回収装置107は、ダクト105上に直列に配置された複数の伝熱管106を有している。この伝熱管106には、灰やクリンカの他に金属酸化物を含むスケールが固着しやすい。また、ボイラ101の伝熱管106は複数近接して配置されていることが多く、これにより広い作業空間を確保することが困難である。そこで、本実施形態に係るスケール除去装置1を用いることで、簡単に且つ安全にスケールを除去することが可能となり、また検査対象範囲を広げることができるため、必要な検査を確実に実施することが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
1 スケール除去装置
2 ケース本体
21 充填空間
22 縁部
23 液注入口
24 液逆止弁
3 シール部
4 液容器
41 容器本体
42 口部
5 空気抜き穴
6 空気逆止弁
10 スケール除去液
101 ボイラ
106 伝熱管
200 スケール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スケール除去液を用いて、スケールが固着した構造物表面から検査対象となる部位のスケールを除去するスケール除去装置であって、
前記スケール除去液を収納する液容器と、
前記液容器内の前記スケール除去液が注入される液注入口と、前記液注入口に設けられた液逆止弁とを有し、一面側が開放したケース本体と、
前記ケース本体の開放した側の縁部に設けられ、密着性及び気密性を有するシール部とを備え、
前記シール部が前記構造物表面に当接されることにより前記構造物表面と前記ケース本体との間に充填空間が形成され、前記充填空間に前記スケール除去液が充填されることにより前記ケース本体が前記構造物表面に吸着保持されるように構成したことを特徴とするスケール除去装置。
【請求項2】
前記充填空間内の空気を排出する空気抜き手段をさらに備え、
前記空気抜き手段は、可撓性材料で形成された前記ケース本体からなり、
前記ケース本体を変形させることにより前記充填空間内の空気が排出されるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のスケール除去装置。
【請求項3】
前記充填空間内の空気を排出する空気抜き手段をさらに備え、
前記空気抜き手段は、前記ケース本体に設けられた空気抜き穴と、前記空気抜き穴に設けられた空気逆止弁とからなり、
前記液注入口を介して前記液容器から注入される前記スケール除去液の注入圧により前記空気逆止弁が開いて前記充填空間内の空気が排出されるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のスケール除去装置。
【請求項4】
前記液逆止弁は、前記液容器の口部を前記液注入口に装着したときにのみ前記液容器内と前記充填空間とが連通するように構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のスケール除去装置。
【請求項5】
前記シール部は、ゲル状材料若しくはポリウレタン材料で形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のスケール除去装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のスケール除去装置は、ボイラの伝熱管外表面のスケール除去に用いられることを特徴とするスケール除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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