説明

スズ又はスズ合金電気メッキ浴液における酸化によるスズ損失の制限

【課題】メッキ浴中で共通な他の成分と相溶性であり、スラッジ形成を妨げるために二価スズの酸化を防止し及び/又は第一スズを安定化させる酸化防止剤(還元剤)を提供する。
【解決手段】フルオロホウ酸、有機スルホン酸又はこれらの組み合わせからなる群から選択される酸、任意にこれらの塩を含む基準溶液;二価スズイオン;および酸化二価スズを還元するのに有効量のヒドロキシベンゼンスルホン酸又はこれらの塩を含む酸化防止化合物、を含むスズ及びスズ合金のメッキ溶液を使用して基体を電気メッキするメッキ方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
二価スズ、鉱酸(即ち、硫酸、塩酸及びフッ化水素酸)、フェノールスルホン酸、フルオロホウ酸及びメタンスルホン酸をはじめとする酸を含む電気メッキ浴は、スズ及びスズ合金をメッキするのに使用される。課題は、二価スズ(Sn2+)から四価スズ(Sn4+)への酸化に起因する、利用され得る二価スズの損失である。四価スズは、スズ酸として蓄積し、ついには浴中で不溶性のスラッジを形成する。メッキに利用され得る量の二価スズを除去することに加えて、スラッジ形成は装置汚染及び栓塞をも生じさせ、結果的に運転費用の増加と共に不良品の原因となる。
【背景技術】
【0002】
二価スズの酸化は、電気メッキセルのアノードにおいて生じるか、又は浴中に導入された空気から生じ得る。例えば、所謂「高速メッキ」加工において要求されるメッキ液の迅速なポンプ輸送は、実質量の酸素を浴へ混入することとなり、それは二価スズの酸化を助ける。従って、高速スズメッキは、他の非高速スズメッキ用途に比較してスラッジ問題を悪化させる。この酸化及び相応するスラッジ形成を防止するためには、二価スズを溶液中に維持しなければならないか、及び/又は一旦酸化が生じたら二価スズに迅速に戻されなければならない。
【0003】
メッキ浴における二価スズの酸化を最小化する試みは、例えば、双方ともノーベル等の米国特許第5,094,726号及び米国特許第5,066,367号に開示され、これらは四価スズの蓄積を防止するために酸化防止剤(還元剤とも称される)と組み合わせてアルキルスルホン酸ベースのスズ溶液を使用するものである。詳細には、ノーベル等の技術は可溶性二価スズ化合物、3未満のpHを有する溶液を提供するのに十分な量の可溶性アルキル又はアルキロールスルホン酸、少なくとも一つの湿潤剤、並びに四価スズ及び酸化スズスラッジの形成を減少し又は妨げるのに十分な量のヒドロキシフェニル化合物を含む、スズ又はスズ鉛合金を電気メッキするための電解質に関するものである。ヒドロキシフェニル化合物としては、ピロカテコール、ヒドロキノン、レゾルシノール、フロログルシノール、ピロガロール、3‐アミノフェノール又はヒドロキノン硫酸エステルが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5094726号明細書
【特許文献2】米国特許第5066367号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、還元剤は、湿潤剤、スルホン酸及びスズ電気メッキ浴の他の成分と非相溶性であり得る。これらの還元剤は、反応してメッキに有害な効果を与える不溶性の油及びゲルを形成し、熱転移表面をコーティングし及び/又はセル内にエマルションを形成することにより結果的に不良品を生成する。メッキ浴中で共通な他の成分と相溶性であり、スラッジ形成を妨げるために二価スズの酸化を防止し及び/又は第一スズを安定化させる酸化防止剤(還元剤)が、望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様において、フルオロホウ酸、有機スルホン酸又はこれらの組み合わせからなる群から選択される酸、任意にこれらの塩を含む基礎液;二価スズイオン;および二価スズの酸化を低減するのに有効量のヒドロキシベンゼンスルホン酸又はこれらの塩を含む酸化防止化合物を含むスズ及びスズ合金の電気メッキに使用される溶液が提供される。
【0007】
本発明の第二の態様において、基体と、フルオロホウ酸、有機スルホン酸又はこれらの組み合わせからなる群から選択される酸、任意にこれらの塩を含む基礎液;二価スズイオン;および二価スズの酸化を低減するのに有効量のヒドロキシベンゼンスルホン酸又はこれらの塩を含む酸化防止化合物を含む基礎液を含む溶液とを接触させることを含むスズ及びスズ合金を電気メッキする方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ある種のヒドロキシベンゼンスルホン酸又はそれらの塩を二価スズ又はスズ合金酸性メッキ浴に添加することは、二価スズの酸化速度の実質的な減少をもたらすことが見出された。ヒドロキシベンゼンスルホン酸又はそれらの塩の使用は、結果的に不溶性油、ゲル又は他の同様な物質の形成を起こさせない。このことは、運転条件が結果として周囲酸素を連続してメッキ浴液に導入させる、特に高速メッキ態様において真実である。ヒドロキシベンゼンスルホン酸の添加により生じた改良は、酸化防止剤がメッキ浴中の他の成分と反応して不溶性油及び/又はゲルを形成すると認められる不溶性アノードが、その浴の曇点またはその付近の浴温度で使用されるときに特に著しくなる。
【0009】
ヒドロキシベンゼンスルホン酸又はそれらの塩は、一般的に式Iにより表される:
【0010】
【化1】

【0011】
ここで、YはH、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン及びアンモニウムイオンからなる群から選択され、ここでaは0、1、2、又は3(a=0、1、2又は3)であり、bは1、2、3、4又は5(b=1、2、3、4又は5)であり、a及びbの合計は2、3、4又は5(a+b=2、3、4又は5)であり、及びそれぞれのRは独立してハロゲン、CN、COOY、C〜Cアルキル、置換C〜Cアルキル及びC〜Cアルコキシからなる群から選択され、ここで前記アルキル置換基は直鎖又は分岐鎖アルコキシ、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アシル、フェニル、ハロ置換フェニル、ヘテロアリール、ハロゲン、ヒドロキシ、シアノ、又はそれらの少なくとも一つを含む組み合わせからなる群から選択される。a+bの合計が5未満であるとき、ベンゼン環内の残りの炭素原子は水素で置換されていることは当業者により認識されるであろう。好ましくは、ヒドロキシベンゼンスルホン酸又はそれらの塩は式IIにより表される:
【0012】
【化2】

【0013】
ここで、a、R及びYは上記の通りである。より好ましくは、a=0、及びYはカリウムイオン(K)である。
【0014】
二価スズの酸化を抑制する(スラッジ形成を防止する)ためのヒドロキシベンゼンスルホン酸の有効量は、浴組成、メッキ速度、温度及び/又はpH等の要因に応じて当業者により容易に決定され得る。一般に、メッキ浴中のヒドロキシベンゼンスルホン酸の有効量は、0.1より大、好ましくは0.25より大、最も好ましくは0.5g/lより大である。有効量は、一般に10未満、好ましくは5未満及びより好ましくは1g/l未満である。
【0015】
電気メッキ浴の他の成分は、一般に当業者に知られている。これらには、基礎溶液に可溶性の、好適なスズ化合物が含まれる。望ましい合金金属は基礎液に可溶性又は相溶性の任意の形態で添加されることができ、それらには銅、ビスマス、金及び銀があげられる。金属は、好ましくはスルホネート及び/又はスルホン酸塩の形態で添加される。
【0016】
使用に好適な酸としては、例えば、メタンスルホン酸、エチルスルホン酸をはじめとする1〜7の炭素原子を含有するアルカンスルホン酸;1〜7の炭素原子を含有するアルキロールスルホン酸;例えば、フェノールスルホン酸、フェニルスルホン酸をはじめとする芳香族スルホン酸;フルオロホウ酸;例えば、硫酸、塩酸及びフッ化水素酸をはじめとする鉱酸;及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。メタンスルホン酸、フェノールスルホン酸、フェニルスルホン酸及びフルオロホウ酸が、最も好ましい。これらの酸の塩又は他の誘導体も使用され得るが、但し、溶液は十分に酸性であり、全ての必要な成分を溶液中に維持できることを条件とする。これらの溶液のpH範囲は、一般には5未満、好ましくは3未満であろう。
【0017】
多岐に亘る界面活性剤が、上記したヒドロキシベンゼンスルホン酸又はこれらの塩を含有する電気メッキ液における使用に好適である。スズが高速電気メッキ法を使用して電着されるとき、実質的に非発泡性湿潤剤及び/又は界面活性剤を利用することが好ましい。この種の典型的な界面活性剤は、次の両方ともトーベン等による米国特許第4,880,507号及び4,994,155号に見出され得る。ノーベル等の米国特許第4,701,244号に示される湿潤剤または界面活性剤も本発明における使用に好適である。33℃より高い曇点を有する界面活性剤が好ましい。加えて、メッキ液は、電気メッキプロセスの特性、得られる電着特性を改良するために当業者に知られた添加剤、または他の成分、例えば、光沢剤、レベリング剤、ビスマス化合物、アセトアルデヒド又は前述の少なくとも一つを含む組み合わせ等を含有することができる。
【0018】
湿潤剤/界面活性剤及び他の添加剤の最適量は、選択される特定の薬剤、特定の用途、それが使用される特定の浴条件、及び過度の実験をしないで当業者に容易に決定される他の要因に応じて変化することができる。一般に、少なくとも0.05、好ましくは少なくとも0.5、より好ましくは少なくとも1ml/l及び多くとも10、好ましくは多くとも5、より好ましくは多くとも2ml/lの湿潤剤が純粋なスズ及び他のスズ合金について優れた結果を与える。例えば、浴中の金属濃度が増加したとき、より多量の湿潤剤及び異なる組み合わせが使用され得る。
【0019】
電気メッキ液は、スズ化合物、酸、任意にpH調整物質、湿潤剤及び酸化防止剤の任意の順序での組み合わせにより調製され得る。その溶液は、添加順序及び最終所望容量又は成分濃度への水または他の溶媒による希釈に依存して、ろ過が必要となり得る。電気メッキ液は、一般に、周囲温度(20℃)またはそれ以上の温度で撹拌しつつ運転され、また高速電気メッキ用途に望ましい高温で運転される。好適な溶液温度は、過度の実験なしで当業者にとって容易に確認可能である。典型的に、電気メッキは、少なくとも15℃及び高くとも66℃の温度で遂行される。
【0020】
浴は、また、望ましい温度を維持するため冷却され、又は加熱され得る。電気メッキ工程が高速条件下で行われるとき、ポンプ輸送による撹拌及び溶液のターンオーバーは、溶液の酸素含量をその最大濃度またはその付近に維持し、その結果スズを酸化する傾向(例えば、Sn2+からSn4+)を助ける。これらの条件下で、本発明の酸化防止剤の使用は、溶液中の他の成分と相互作用して油及び/又はエマルションを含む不溶性の物質を生成することなく、スズをその二価状態(すなわち、Sn2+)に維持する。
【0021】
種々の合金は、溶液中で使用されるスズおよび合金形成金属の相対比率に応じて製造され得る。例えば、60‐40スズ‐鉛合金をメッキするとき、20g/lスズ金属及び10g/l鉛金属が使用され得る、99‐1スズ‐銅、98‐2スズ‐ビスマス、97‐3スズ‐銀及びこれらの少なくとも一つを含む組み合わせも使用されうる。他の比率は、過度の実験なしで当業者により常法で決定される。
【実施例】
【0022】
実施例
不溶性物質の形成を評価し、メッキ浴中の二価スズの損失を防止する酸化防止剤の有効性を評価するための試験が行われた。酸化防止剤の組み合わせもまた、評価された。
【0023】
種々の酸化防止剤が不溶性油及び/又はゲルの形成について有する効果を決定するために、促進試験が行われた。試験過程において、1リットルの試験溶液は、撹拌バーによる撹拌下で30〜50℃の間に維持された。ステンレス鋼電極は、10アンペア負荷の下に置かれた。エトキシル化(EO)及びプロポキシル化(PO)界面活性剤は、水中でメタンスルホン酸(MSA)及び評価対象の酸化防止剤と混合された。「EO/PO‐ブタノール」は、一端にブタノール末端を有する酸化エチレン及び酸化プロピレンの共重合体を意味する。「EO‐ビスフェノール」は、両端にフェノール末端を有する酸化エチレンポリマーを意味する。結果は、表1に記載される。
【0024】
【表1】

【0025】
表1のデータが明確に示すように、ヒドロキシベンゼンスルホン酸(実施例1及び2)の使用は、電気メッキ浴における使用に合致した条件下で不溶性物質の形成を防止する。
【0026】
周囲酸素がポンプ輸送及び撹拌で浴中に絶えず導入される高速メッキ運転をシミュレートするために試験が行われた。手順は、既知の二価スズ濃度の試験メッキ液の調製を伴った。酸化防止剤は、その後、それぞれが二価スズの損失にいかに影響するかを決定するために異なる濃度で評価された。試験過程で、溶液温度を45℃(+/−5℃)に維持しながら、酸素を既知速度で試験溶液にバブリングした。結果は、上記試験を遂行する前に存在する二価スズの総量に対して、試験後に存在する二価スズの総量の比率として計算されたスズ損失パーセント(%)として表2において示さる。それぞれの場合において、50g/lスズ、100g/lMSA(遊離酸として)及び酸素を含有した出発試験溶液は、500ml/分で、120時間、バブリングされた。
【0027】
【表2】

【0028】
実施例3、4及び5により示されたように、開示された酸化防止剤の使用は、明確に比較試料に対して、試料内でのスズ酸化の著しい減少を実証する。この結果は、メッキ運転過程でのスズスラッジ形成についての同様な減少に当てはめられる。加えて、ヒドロキシベンゼンスルホン酸の組み合わせも、表3の実施例により実証されるように二価スズの酸化を減少するのに有用である。
【0029】
表3の実施例は、上記の温度及び酸素バブリング速度の下での20g/lスズ、10g/l鉄及び40g/lMSA(遊離酸)を含有する試験溶液を表す。試験は104時間の期間にわたり行われた。
【0030】
【表3】

【0031】
表3の結果は、ヒドロキシベンゼンスルホン酸が単一溶液に混合されたとき、酸化防止特性の予期しない改良を明らかに示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロホウ酸、有機スルホン酸又はこれらの組み合わせからなる群から選択される酸、任意にこれらの塩を含む基礎液;
二価スズイオン;及び
式:
【化1】

(式中、Yはアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン及びアンモニウムイオンからなる群から選択され、aは0である)
で表される酸化防止剤化合物
を含む、スズ及びスズ合金の電気メッキに使用のための溶液。
【請求項2】
Yがカリウムのアルカリ金属イオンである、請求項1に記載の溶液。
【請求項3】
該酸化防止剤化合物が、スズイオンを二価の状態に維持するのを助けるのに有効な量で存在する、請求項1に記載の溶液。
【請求項4】
該有機スルホン酸がアルカンスルホン酸、芳香族スルホン酸又はこれらの組み合わせを含む請求項1に記載の溶液。
【請求項5】
基体を、請求項1から4のいずれかに記載の溶液と接触させることを含むスズ又はスズ合金を電気メッキする方法。
【請求項6】
スズイオンを二価の状態に維持するのを助けるのに有効な量で酸化防止剤化合物を添加することを含む電気メッキ液中のスズの酸化を低減させる方法であって、該酸化防止剤化合物が式:
【化2】

(式中、Yはアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン及びアンモニウムイオンからなる群から選択され、aは0である)で表される、方法。
【請求項7】
Yがカリウムのアルカリ金属イオンである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
該電気メッキ液中の酸素含量がその最大濃度又はその付近である請求項6に記載の方法。
【請求項9】
電気メッキが少なくとも15℃の温度において行われる請求項6に記載の方法。

【公開番号】特開2009−242948(P2009−242948A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−139920(P2009−139920)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【分割の表示】特願2003−57519(P2003−57519)の分割
【原出願日】平成15年3月4日(2003.3.4)
【出願人】(591016862)ローム・アンド・ハース・エレクトロニック・マテリアルズ,エル.エル.シー. (270)
【Fターム(参考)】