説明

スター型重合体、その合成方法及びベクター

【課題】N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に4個以上有する化合物をイニファターとしてスター型重合体を光照射リビング重合によって効率よく合成することができるスター型重合体の合成方法及びこの方法により製造されたスター型重合体よりなるベクターを提供する。
【解決手段】N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に4個以上有する化合物をイニファターとする光照射リビング重合によるスター型重合体の合成方法であって、非極性溶媒中にモノマー及びイニファターを溶解させてなる原料溶液を調製する工程と、該原料溶液中に光を照射する第1の光照射工程と、光照射した溶液をアルコールで希釈する希釈工程と、希釈された溶液に光照射する第2の光照射工程とを有することを特徴とするスター型重合体の合成方法。この方法により製造されたベクター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スター型重合体の合成方法と、この方法により合成されたスター型重合体と、このスター型重合体よりなるベクターとに関する。
【背景技術】
【0002】
DNAを細胞中に運搬するための非ウイルス系ベクターとして、例えば、リポフェクチン(Lipofectin)(登録商標)として商品化された、カチオン性脂質であるジオレオイルオキシプロピルトリメチルアンモニウム(Felgner et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,7413-7417,1987)がある。ベクター用の高分子としてはポリエチレンイミンもエキソゲン(Exogen)として商品化されている。
【0003】
核酸は一般に生体内においてあまり安定ではなく、ある種の酵素によって分解される。本出願人は、核酸を凝集体とし、この凝集体の周囲にカチオン性ポリマーを含むベクターを配置させて酵素から保護することができるベクターとして、分岐鎖を有するカチオン性ポリマーよりなるベクターをWO2004/092388 A1にて提案している。
【0004】
このベクターは、核酸凝集体と複合体を形成させて生体内へ投与される。
【0005】
同号公報には、このベクターの具体例として、ベンゼン誘導体のベンゼン環から2〜6個の分岐鎖を放射状に分岐させた化合物よりなるものが記載されている。
【0006】
同号公報には、分岐鎖を結合させる核となるベンゼン誘導体として、具体的には次が例示されている。即ち、3分岐鎖用としては、2,4,6−トリス(ブロモメチル)メシチレンとナトリウムN,N−ジエチルジチオカルバメートとをエタノール中で付加反応させて得られる2,4,6−トリス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)メシチレンであり、4分岐鎖としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとナトリウムN,N−ジエチルジチオカルバメートとをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとナトリウムN,N−ジエチルジチオカルバメートとをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンである。
【0007】
この分岐鎖の好適例として、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH=CHCONHCN(CHの重合体が挙げられている。
【0008】
この3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドと、核となる上記の各ベンゼン誘導体とをメタノールなどのアルコール溶液あるいは溶解性を考慮してクロロホルムなどの非極性溶媒の溶液として混合し、光重合反応させることにより、ベンゼン環に対し上記ベンゼン誘導体由来の−CH−を介して上記ビニル系モノマーの重合体が結合して放射状に分岐鎖を構成してなるカチオン性ポリマーが生成する。このようにして生成したカチオン性ポリマーよりなるベクターは、高い電荷密度を有しており、結果、カチオン性ポリマーと核酸で形成される核酸含有複合体も高密度なものであり、生体内の酵素による作用を受けにくい立体構造をのために、核酸の失活、分解を抑制することができる。
【0009】
なお、同号公報には、ベンゼン誘導体以外のものとして、ナフタレン、アントラセン、ピレンも記載されている。
【0010】
上記の合成反応は、上記ベンゼン誘導体等をイニファターとした光照射リビング重合反応である。
【0011】
なお、本明細書において、イニファターとは、光照射によりラジカルを発生させる重合開始剤、連鎖移動剤としての機能と共に、成長末端と結合して成長を停止する機能、さらに光照射が停止すると重合を停止させる重合開始・重合停止剤として機能する分子のことである。
【0012】
WO2004/092388 A1に記載の上記各ベンゼン誘導体等よりなるイニファターのうち、4分岐鎖以上の多分岐鎖のものはアルコールには難溶である。このイニファターはベンゼン、トルエンには可溶である。また、クロロホルム等のハロゲン化アルキルや、塩化メチレン等にも可溶である。
【特許文献1】WO2004/092388 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
(1) ジチオカルバメートの光吸収波長は約240nm〜300nmの範囲にあり、この波長の光を照射することで効率良くラジカル開裂をさせて重合を行うことが可能である。イニファターの良溶媒であるベンゼンやトルエンは芳香環由来の光吸収が250nm〜260nm付近に存在するため、イニファターを効率良くラジカル開裂させる波長の光を溶媒自体が吸収し、重合反応の進行は溶媒の光吸収と拮抗することになる。
【0014】
光路が短い、すなわち、小容量で重合を行う実験室レベルでは溶媒が光を吸収しても容器の全域に光が到達する。量産などの大容量の反応容器で光路が長くなった場合、溶媒による光吸収のために、入光側の容器表面でしか重合は進行しない。入光側の容器表面では、分子間の架橋や重合物の分解が複雑に起こり、目的物である分子量の大きいポリマーを効率よく得ることはできない。
【0015】
(2) 上記の良溶媒であるクロロホルム、塩化メチレンなどは、240〜300nmの範囲の光を吸収せず、これらを使用した光照射重合は光路が長い、つまり量産スケールの大容量の反応容器でも重合が可能である。
【0016】
しかしながら、クロロホルム等はポリマー成長鎖からの連鎖移動を起こしやすく、目的物であるイニファター系のポリマーの成長停止反応に寄与する。また、クロロホルム等が光分解して発生するラジカルを開始剤とした重合が起こり、イニファターと無関係なホモポリマーを生成させる。さらに、成長停止反応に寄与するハロゲン化アルキルラジカルはリビング末端を失活させてしまうため、重合度を上げることやAB型ブロックポリマーの合成が不可能となる。
【0017】
なお、AB型ブロックポリマーとは、Aモノマーを重合した後にこのポリマーを単離し、次いで、Bモノマーとの系にて光照射を行うことにより合成されるブロックポリマーである。
【0018】
本発明は、上記問題点を解消し、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に4個以上有する化合物をイニファターとしてスター型重合体を光照射リビング重合によって効率よく合成することができるスター型重合体の合成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1のスター型重合体の合成方法は、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に4個以上有する化合物をイニファターとする光照射リビング重合によるスター型重合体の合成方法であって、非極性溶媒中にモノマー及びイニファターを溶解させてなる原料溶液を調製する工程と、該原料溶液中に光を照射する第1の光照射工程と、光照射した溶液をアルコールで希釈する希釈工程と、希釈された溶液に光照射する第2の光照射工程とを有することを特徴とするものである。
【0020】
請求項2のスター型重合体の合成方法は、請求項1において、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に4個以上有する化合物は、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル環、ビフェニレン環、ピリジン環、ピロール環、フラン環又はピレン環を核とし、この核に分岐鎖として4個以上の該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団が結合していることを特徴とするものである。
【0021】
請求項3のスター型重合体の合成方法は、請求項1又は2において、モノマーがビニル系モノマーであることを特徴とするものである。
【0022】
請求項4のスター型重合体の合成方法は、請求項3において、ビニル系モノマーが3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドであることを特徴とするものである。
【0023】
請求項5のスター型重合体の合成方法は、請求項4において、前記溶媒がハロゲン化アルキル又はハロゲン化アルキレンであることを特徴とするものである。
【0024】
請求項6のスター型重合体の合成方法は、請求項4において、溶媒がクロロホルム、四塩化炭素又は塩化メチレンであることを特徴とするものである。
【0025】
請求項7のスター型重合体の合成方法は、請求項4において、溶媒がクロロホルムであることを特徴とするものである。
【0026】
請求項8のスター型重合体の合成方法は、請求項1ないし7のいずれか1項において、前記原料溶液中のモノマー濃度が70重量%以上であることを特徴とするものである。
【0027】
請求項9のスター型重合体の合成方法は、請求項1ないし8のいずれか1項において、第1の光照射工程の光の波長が240〜300nmであることを特徴とするものである。
【0028】
請求項10のスター型重合体の合成方法は、請求項1ないし9のいずれか1項において、前記アルコールがメタノールであることを特徴とするものである。
【0029】
請求項11のスター型重合体の合成方法は、請求項1ないし10のいずれか1項において、前記アルコールは前記モノマーのアルコール溶液であることを特徴とするものである。
【0030】
請求項12のスター型重合体は、請求項1ないし11のいずれか1項の方法により合成されたものである。
【0031】
請求項13のスター型重合体は、請求項12のスター型重合体に、さらに該スター型重合体のモノマーに使用したモノマーと異種のビニル系モノマーを追加重合してなるものである。
【0032】
請求項14のベクターは、請求項12又は13のスター型重合体よりなるものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明のスター型重合体の合成方法によれば、光照射リビング重合の初期だけ非極性溶媒中で光照射リビング重合反応を行わせ、その後はアルコール溶媒中で光照射リビング重合を行わせる。これにより、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に4個以上有する化合物をイニファターとしてスター型重合体を光照射リビング重合によって効率よく合成することができる。
【0034】
本発明の要点は次の通りである。
(1) ジチオカルバメートの光吸収波長である240nm〜300nmの範囲に吸収を持たず、かつ、ハロゲン化アルキルのように容易にラジカルの連鎖移動を起こさず、容易に分解してラジカルを発生することがない、アルコールを溶媒として重合を行う。
(2) ところがアルコールはイニファターを溶解しない貧溶媒である。イニファターをクロロホルムやベンゼンへ溶解し、これをアルコールへ滴下すると、直ちにイニファターが沈殿してしまう。
(3) イニファターを微量のクロロホルム又はトルエンなどへ溶解したペーストをモノマーと混合することで流動性のある高粘度溶液となる。該高粘度溶液中のモノマーの含有量は90%程度である。この状態で重合を行うことは、反応が暴走する危険性があることと粘度が高く、拡散性に乏しいため均質にモノマーを連鎖反応へ供与することは不可能である。
(4) 前記ペーストを光路の短い小さな容器へ入れ、エネルギーの低い、好ましくは240〜300nmの単色光を照射すると、ジチオカルバメート分子団が開裂し、ラジカルが発生してモノマーの付加を受ける。そのまま重合を続けた場合は、分子量分布も不均質で分子間架橋が多い塊状のポリマーが生成する。本発明では、この単色光を照射する時間を短く、イニファターへ数分子のモノマーが付加した時点で照射を止める。この状態でイニファターはアルコールに(短時間であるが)見掛け上は可溶のものとなる。したがってアルコールを溶媒として十分な拡散分散性のある低粘度溶液として光照射を行うことで均質な重合が可能となる。最初にイニファターを溶解するために使用したクロロホルム又はベンゼンは微量であるため連鎖移動や開始剤として寄与せず、芳香環由来の光吸収も重合の進行と拮抗しえず、大過剰に存在するアルコールの中では、アルコール単独で重合した状態と近似するものである。
【0035】
この方法によって製造されたスター型重合体は、これをベクターとして用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0037】
本発明において、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に4個以上有する化合物としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル環、ビフェニレン環、ピリジン環、ピロール環、フラン環又はピレン環に該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団が4個以上分岐鎖として結合しているものが好適である。
【0038】
分岐鎖を結合させるイニファターとなるのはベンゼン環が好適であり、具体的には次が例示される。即ち、4分岐鎖としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとナトリウムN,N−ジエチルジチオカルバメートとをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとナトリウムN,N−ジエチルジチオカルバメートとをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンである。特に、後者のヘキサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンが好適である。
【0039】
上記のイニファターは、アルコール等の極性溶媒に対しては殆ど不溶であるが、非極性溶媒には易溶である。この非極性溶媒としてはハロゲン化アルキル又はハロゲン化アルキレンが好適であり、特にクロロホルム又は塩化メチレン特にクロロホルムが好適である。
【0040】
このイニファターに重合させるモノマーとしては、ビニル系モノマー、アクリル酸誘導体、スチレン誘導体等が好適であり、具体的には3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH=CHCONHCN(CHが好ましい。
【0041】
イニファターと上記モノマーとを反応させるには、イニファター及びモノマーを含んでなる原料溶液を調製し、これにまず第1の光照射工程によってイニファターに対しモノマーが結合した反応生成物を生成させる。
【0042】
このモノマーの該原料溶液中の濃度は70重量%以上、例えば70〜99重量%が好適である。
【0043】
イニファターの濃度は10〜1000mM程度が好適である。
【0044】
照射する光の波長は240〜300nmが好適である。光の照射時間は照射強度にも依存するが、1〜30分程度が好適であり、1μW/cm2〜1mW/cm2程度の低い照射強度で1分〜5分程度が特に好適である。
【0045】
次に、この反応生成物を含む溶液をアルコール、好ましくは上記モノマーのアルコール溶液で希釈する。このアルコールとしてはメタノール又はエタノール、特にメタノールが好適である。アルコール溶液中のモノマー濃度としては、終濃度として、100mM〜5M程度が好適である。
【0046】
上記第1の光照射工程からの反応生成物含有液1体積部に対し、このアルコール溶液5〜500体積部を添加するのが好ましい。
【0047】
このようにアルコール溶液で希釈した希釈液を、第2の光照射工程に供し、上記反応生成物に対しさらに上記モノマーを重合させる。この際の照射光源としては240〜330nmの波長の光を含むものであればよく、例えば低圧水銀灯や高圧水銀灯などを用いることができる。光照射時間は10分〜120分程度が好適である。
【0048】
この第2の光照射により、反応液中に目的とする分岐型スター型重合体が生成するので、必要に応じ精製してスター型重合体を得る。
【0049】
このスター型重合体の分子量は分岐鎖の鎖数によるが、分岐鎖が4個の場合は、5千〜50万、特に3万〜7万、とりわけ4万〜6万程度が好ましい。分岐鎖が6個の場合は、5千〜50万、特に1万〜3万、とりわけ1万〜2万程度が好ましい。
【0050】
このようにして生成したスター型重合体よりなるベクターが核酸を核酸含有複合体として包囲することによって、生体内の酵素による核酸の失活、分解を抑制することができる。
【0051】
分岐鎖を構成する高分子鎖は基端側に第4級アミンを有し、先端側に第3級アミンを有するものであってもよい。分岐鎖を結合させる核の近傍を4級アミンにし、その周囲を3級アミンにすれば、細胞傷害性の低減と遺伝子導入の高効率化が期待できる。4級アミンはベクターとして必須の要素であるカチオンではあるが、殺菌剤や抗菌コートなどにも使用されているように細胞傷害性があるので、周囲を3級とすることは細胞傷害性の点で有利である。
【0052】
分岐鎖を構成する高分子鎖は、2種類以上のモノマーを重合してなるAB型ブロックポリマー、つまり、Aモノマーを重合した後にこのポリマーを単離し、次いで、Bモノマーとの系にて光照射を行うことにより合成されるブロックポリマーを使用することができるが、基端部へカチオン性モノマーを使用し、先端部に非イオン性の親水性モノマーを使用することが好適である。また、先端部に疎水性のモノマーを使用することで、細胞膜の透過性が向上し、遺伝子導入に有利になることもある。
【0053】
また、本発明のベクター内のカチオン性ポリマーはその正電荷が経時的に失活する性質を有していても良い。このようにベクター内の正電荷が失活することで、ベクターが包囲した核酸凝集体から核酸を放出する機能を付与することができる。この核酸の放出はベクターが細胞膜を透過した後に行われるよう当業者によって適宜条件を設定すれば良い。このような機能を有するカチオン性ポリマーとしては、長鎖状の分岐鎖に4,4’−ベンジリデンビス(N,N−ジメチルアニリン)骨格を有する化合物が担持されているものが挙げられる。4,4’−ベンジリデンビス(N,N−ジメチルアニリン)骨格を有する化合物としてはロイコマラカイトグリーンが挙げられ、該化合物を担持したカチオン性ポリマーは光照射によってカチオン化し、経時的に正電荷を失活する性質を有している。
【0054】
上記スター型重合体よりなるベクターと核酸とを複合させるには、このベクターの濃度1〜1000μg/mL程度の分散液に対し、常温にて核酸を添加し、混合すればよい。核酸に対してカチオン性ポリマーを過剰量添加し、カチオン性ポリマーを核酸に対し飽和状態に核酸含有複合体として複合化させるのが好ましい。
【0055】
使用する核酸としては、DNA、RNAのいずれでもかまわない。核酸の好ましい例としては、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV1−TK遺伝子),p53癌抑制遺伝子及びBRCA1癌抑制遺伝子やサイトカイン遺伝子としてTNF−α遺伝子,IL−2遺伝子,IL−4遺伝子,HLA−B7/IL−2遺伝子,HLA−B7/B2M遺伝子,IL−7遺伝子,GM−CSF遺伝子,IFN−γ遺伝子及びIL−12遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにgp−100,MART−1及びMAGE−1などの癌抗原ペプチド遺伝子が癌治療に利用できる。
【0056】
また、VEGF遺伝子,HGF遺伝子及びFGF遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにc−mycアンチセンス,c−mybアンチセンス,cdc2キナーゼアンチセンス,PCNAアンチセンス,E2Fデコイやp21(sdi−1)遺伝子が血管治療に利用できる。かかる一連の遺伝子は当業者には良く知られたものである。
【0057】
また、21〜23塩基の二本鎖RNAを使用したRNA干渉によるmRNA破壊などに利用することも可能である。
【0058】
核酸含有複合体の粒径は50〜400nm程度が好適である。これよりも小さいと、核酸含有複合体内部の核酸にまで酵素の作用が及ぶおそれ、あるいは腎臓にて濾過排出されるおそれがある。また、これよりも大きいと、細胞に導入されにくくなるおそれがある。
【0059】
核酸は、細胞に導入されることによりその細胞内で機能を発現することができるような形態で用いる。例えばDNAの場合、導入された細胞内で当該DNAが転写され、それにコードされるポリペプチドの産生を経て機能発現されるように当該DNAが配置されたプラスミドとして用いる。好ましくは、プロモーター領域、開始コドン、所望の機能を有する蛋白質をコードするDNA、終止コドンおよびターミネーター領域が連続的に配列されている。
【0060】
所望により2種以上の核酸をひとつのプラスミドに含めることも可能である。
【0061】
本発明において、核酸を導入する対象として望ましい「細胞」としては、当該核酸の機能発現が求められるものであり、このような細胞としては、例えば使用する核酸(すなわちその機能)に応じて種々選択され、例えば心筋細胞、平滑筋細胞、繊維芽細胞、骨格筋細胞、血管内皮細胞、骨髄細胞、骨細胞、血球幹細胞、血球細胞等が挙げられる。また、単球、樹状細胞、マクロファージ、組織球、クッパー細胞、破骨細胞、滑膜A細胞、小膠細胞、ランゲルハンス細胞、類上皮細胞、多核巨細胞等、消化管上皮細胞・尿細管上皮細胞などである。
【0062】
本発明のベクターを用いた核酸含有複合体は任意の方法で生体に投与することができる。
【0063】
当該投与方法としては静脈内又は動脈内への注入が特に好ましいが、筋肉内、脂肪組織内、皮下、皮内、リンパ管内、リンパ節内、体腔(心膜腔、胸腔、腹腔、脳脊髄腔等)内、骨髄内への投与の他に病変組織内に直接投与することも可能である。
【0064】
この核酸含有複合体を有効成分とする医薬は、更に必要に応じて製剤上許容し得る担体(浸透圧調整剤,安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)と混合することが可能である。これら担体は公知のものが使用できる。
【0065】
また、この核酸含有複合体を有効成分とする医薬は、含まれる核酸の種類が異なる2種以上の核酸含有複合体を含めたものも包含される。このような複数の治療目的を併せ持つ医薬は、多様化する遺伝子治療の分野で特に有用である。
【0066】
投与量としては、動物、特にヒトに投与される用量は目的の核酸、投与方法および治療される特定部位等、種々の要因によって変化する。しかしながら、その投与量は治療的応答をもたらすに十分であるべきである。
【0067】
この核酸含有複合体は、好ましくは遺伝子治療に適用される。適用可能な疾患としては、当該複合体に含められる核酸の種類によって異なるが、末梢動脈疾患、冠動脈疾患、動脈拡張術後再狭窄等の病変を生じる循環器領域での疾患に加え、癌(悪性黒色腫、脳腫瘍、転移性悪性腫瘍、乳癌等)、感染症(HIV等)、単一遺伝病(嚢胞性線維症、慢性肉芽腫、α1−アンチトリプシン欠損症、Gaucher病等)等が挙げられる。
【実施例】
【0068】
実施例1
[イニファターの合成]
まず、下記反応式(化1)に従って、ヘキサキス(N,N−ジエチルジチオカルバメートミルメチル)ベンゼンよりなるイニファターを合成した。
【0069】
6分岐型の原料のヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンはあらゆる溶媒に難溶のため、エタノール中で固相/液相の接触によりNaBrを脱離させて合成した(反応式は図1参照)。ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼン5gへ30倍モル量のNaSCSN(Et)を加え、エタノール1000mL中で室温で攪拌した。反応の終点はTLCにより確認し、原料成分が確認されなくなるまで攪拌を継続した。終了までには5日間を要した。得られたイニファターはクロロホルムにより再結晶が可能であった。合成されたイニファターはNMRにより構造を確認した(図5参照)。
【0070】
【化1】

【0071】
[モノマーの精製]
モノマーである3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAAm)は減圧蒸留により精製した。オイルバス温を約100℃とすると、禁止剤であるキノリン系化合物が析出するので、リービッヒには冷却水を通さず、ヘアドライヤーで加熱して揮発成分を真空トラップまで誘導した。揮発成分が確認されなくなった後、減圧を停止し、リービッヒ、ト字管など蒸留系の内部をクロロホルムで洗浄し、管壁へ付着したキノリン系物質を除去した。DMAPAAmの揮発が開始した後(オイルバス温は約150℃)、110℃〜115℃の分画を採取した。蒸留の停止はオイルバス温を下げることで行い、常圧へ戻すまでには10分間の真空引きを継続した。常圧へ戻す作業は窒素ガスにて行い、精製したDMAPAAmは保管せずに、即、重合に使用した。
【0072】
[光重合]
第1の光照射工程
イニファター(0.06g、終濃度1mM)をクロロホルム約200μLで濡らし、DMAPAAm4.0mLと混合し、石英セル(10mmセル長)内へ入れ、276nmの単色光(約1μW/cm)を5分間照射した。
【0073】
希釈工程
DMAPAAm(終濃度約5g=0.1Mから約80g=1.5Mまで)をメタノールと混合し、全量をメタノールで350mLと混合し、窒素ガスバブリングを1時間行った。ここに276nmの単色光(約1μW/cm)を5分間照射した4mLの溶液を混合し、希釈した。
【0074】
第2の光照射工程
この希釈液に高圧水銀灯で光照射し、光重合を30分間行った。反応終了時にかすかな淡黄色への着色と増粘を観察した。
【0075】
[ポリマーの精製]
重合溶液をエバポレートしてメタノールを留去し、ジエチルエーテル中へ滴下してポリマーを再沈殿させた。沈殿をメタノールへ溶解し、#2の濾紙で濾過した後にジエチルエーテル中へ滴下し再沈殿させた。これを24時間放置し、ポリマーを完全に析出させた。その後さらにクロロホルム/ジエチルエーテル系で2回再沈殿させた。得られた精製ポリマーを水へ溶解し、エバポレーターで残留する有機溶媒を除去し、0.2μmメンブランフィルターで濾過した後に凍結乾燥して6分岐型スターポリマーを得た。NMRにより目的物であることを確認した。分子量はGPCにより測定した。重合時間を主とする重合条件設定により、自在に分子量を制御することができた。
【0076】
比較例1
比較例としては、イニファターをクロロホルムへ溶解し、DMAPAAmをクロロホルムと混合し、クロロホルムで全量を350mLとして光重合を行った。その結果、モノマー濃度や重合時間に依存性に分子量が上昇するが、分子量は約18000で頭打ちになり、それ以上の分子量のポリマーを得ることはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】比較例の結果を示すグラフである。
【図2】比較例の結果を示すグラフである。
【図3】比較例の結果を示すグラフである。
【図4】実施例の結果を示すグラフである。
【図5】イニファターのNMRである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に4個以上有する化合物をイニファターとする光照射リビング重合によるスター型重合体の合成方法であって、
非極性溶媒中にモノマー及びイニファターを溶解させてなる原料溶液を調製する工程と、
該原料溶液中に光を照射する第1の光照射工程と、
光照射した溶液をアルコールで希釈する希釈工程と、
希釈された溶液に光照射する第2の光照射工程と
を有することを特徴とするスター型重合体の合成方法。
【請求項2】
請求項1において、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に4個以上有する化合物は、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル環、ビフェニレン環、ピリジン環、ピロール環、フラン環又はピレン環を核とし、この核に分岐鎖として4個以上の該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団が結合していることを特徴とするスター型重合体の合成方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、モノマーがビニル系モノマーであることを特徴とするスター型重合体の合成方法。
【請求項4】
請求項3において、ビニル系モノマーが3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドであることを特徴とするスター型重合体の合成方法。
【請求項5】
請求項4において、前記溶媒がハロゲン化アルキル又はハロゲン化アルキレンであることを特徴とするスター型重合体の合成方法。
【請求項6】
請求項4において、溶媒がクロロホルム、四塩化炭素又は塩化メチレンであることを特徴とするスター型重合体の合成方法。
【請求項7】
請求項4において、溶媒がクロロホルムであることを特徴とするスター型重合体の合成方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、前記原料溶液中のモノマー濃度が70重量%以上であることを特徴とするスター型重合体の合成方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項において、第1の光照射工程の光の波長が240〜300nmであることを特徴とするスター型重合体の合成方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項において、前記アルコールがメタノールであることを特徴とするスター型重合体の合成方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項において、前記アルコールは前記モノマーのアルコール溶液であることを特徴とするスター型重合体の合成方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項の方法により合成されたスター型重合体。
【請求項13】
請求項12のスター型重合体に、さらに該スター型重合体のモノマーに使用したモノマーと異種のビニル系モノマーを追加重合してなるスター型重合体。
【請求項14】
請求項12又は13のスター型重合体よりなるベクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−70579(P2007−70579A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−262432(P2005−262432)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】