説明

スチレン系エラストマー樹脂ペレットの製造方法

【課題】スチレン系エラストマー樹脂ペレットの製造、輸送及び加工の際に生ずるブロッキングに対し、耐ブロッキング性の良好なペレットを安定的に提供する。
【解決手段】水溶液でスチレン系エラストマー樹脂ペレットを処理するスチレン系エラストマー樹脂ペレットの製造方法であって、該水溶液が、芳香族ビニル系単量体を主成分とする重合体の水性乳濁液をアルコール凝集させることによって生じた凝集体を含み、その固形分濃度が0.01重量%以上、0.1重量%未満であることを特徴とするスチレン系エラストマー樹脂ペレットの製造方法により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロッキング防止性に優れたスチレン系エラストマー樹脂ペレットの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性スチレン系エラストマー樹脂は溶融成形可能なゴム状物質であり、射出成形、押し出し成形、カレンダー成形等、通常熱可塑性樹脂で用いられる成形法により成形することができる。熱可塑性スチレン系エラストマー樹脂は、その強度と伸びおよび制振性に優れた性質を有しており、具体的な用途としては、エラストマー材料、樹脂、ゴム、アスファルト等の改質材、制振材、粘着剤のベースポリマー、樹脂改質剤の成分として用いることができる。
【0003】
このように優れた性質、加工性を有する熱可塑性スチレン系エラストマー樹脂であるが、その反面、軟化点の低さから室温付近でも樹脂同士の付着、すなわちブロッキングが発生しやすい。このブロッキングは熱可塑性樹脂のペレット化、乾燥、梱包、成形に至るまで、あらゆる場面において取り扱いの困難な状況を発生させる。具体的には、樹脂をペレットに成形する段階においては、ペレット同士あるいはペレットが加工設備へ付着することにより運転の支障になる。また、ホッパー内部でペレットが閉塞し、払い出しが不能になることもよく知られた事実である。
【0004】
一方、スチレン系エラストマー樹脂の回収方法には、薄膜蒸発機や押出機による溶媒除去後ストランドカット方式や水中カット方式でペレット化する方法やスチームストリッピングによって粉粒体化する方法が採用されているケースが多い。
【0005】
ストランドカット方式や水中カット方式でペレット化する方法においては水中でブロッキング防止剤を付与することが最も効果的で、例えば市販のブロッキング防止剤を付与する方法では、スチレン系エラストマー樹脂の場合、同成分であるスチレン系共重合体粉末を水中に投与する方法が挙げられる。粉末状のスチレンは疎水性であるため、予め粉末とアルコールを混合させて親水性としたブロッキング防止剤が市販されているが、十分とはいえない場合があった。
【0006】
一方、特許文献1においては脂肪酸アミドを付与する製造方法が開示されている。この製造法によって一定のブロッキング防止性の良好なスチレン系エラストマー樹脂ペレットの安定生産が可能となるが、まだ十分とはいえない場合があった。さらに特許文献2のように、水性乳濁液に無機塩を添加する方法を水中カット方式に応用展開する方法もあるが、この方法では、水中カット循環タンク内の無機塩濃度が高くなり、押出機のダイを腐食させてしまう懸念があった。
【0007】
前記の水性乳濁液に無機塩を添加する方法では凝集体が生じており、これがブロッキング防止性に寄与している。水性乳濁液から凝集体を生じさせる方法として、他にはアルコールを添加する方法がある。重合体を単離する一例として特許文献3のようにアルコール凝集法が挙げられている場合があるが、ブロッキング防止剤としてアルコール凝集体を使用している例はない。
【0008】
一方、一般的に水性乳濁液には乳化剤が含まれるため、循環系統内の攪拌などにより泡立ちを生じ、凝集体が浮上する、またタンクから泡がオーバーフローするなどの問題が生じる。特許文献4では、消泡作用のある非イオン界面活性剤を添加しているが、添加物混入不可のものには使用できない。
【0009】
このようにスチレン系エラストマー樹脂ペレットを製造するにあたっての諸問題を解決し、ブロッキング性の良好な製品を安定的に生産する製造プロセスの開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−293946号公報
【特許文献2】WO2007/007837号公報
【特許文献3】特開平5−262836号公報
【特許文献4】特開2001−40167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記現状に鑑み、ブロッキング性の良好なスチレン系エラストマー樹脂ペレット製品を安定的に製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、
水溶液でスチレン系エラストマー樹脂ペレットを処理するスチレン系エラストマー樹脂ペレットの製造方法であって、該水溶液が、芳香族ビニル系単量体を主成分とする重合体の水性乳濁液をアルコール凝集させることによって生じた凝集体を含み、その固形分濃度が0.0.1重量%以上、0.1重量%未満であることを特徴とするスチレン系エラストマー樹脂ペレットの製造方法に関する。
【0013】
好ましい実施態様としては、前記芳香族ビニル系単量体を主成分とする重合体が、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、及びジビニルベンゼンからなる群の少なくとも1種を、30重量%以上、100重量%以下含む熱可塑性樹脂であることを特徴とするスチレン系エラストマー樹脂ペレットの製造方法に関する。
【0014】
好ましい実施態様としては、前記アルコールがエチルアルコール、メチルアルコール、及びイソプロピルアルコールからなる群の少なくとも1種を主成分とすることを特徴とするスチレン系エラストマー樹脂ペレットの製造方法に関する。
【0015】
好ましい実施態様としては、前記凝集体の平均径が1μm以上、100μm以下であることを特徴とするスチレン系エラストマー樹脂ペレットの製造方法に関する。
【0016】
好ましい実施態様としては、前記スチレン系エラストマー樹脂が、(A)イソブチレンを主体として構成される重合体ブロックと(B)芳香族ビニル系単量体を主体として構成される重合体ブロックからなる重合体であることを特徴とするスチレン系エラストマー樹脂ペレットの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、ブロッキング性の良好なスチレン系エラストマー樹脂ペレットを、設備腐食要因の無機塩をブロッキング防止剤に用いることなく、さらにブロッキング防止剤循環系統内の攪拌などによる泡立ちを生じることなく、安定的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明で用いられる水中カットペレット化装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔スチレン系エラストマー樹脂〕
本発明における「スチレン系エラストマー樹脂」とは、スチレン及びその誘導体のモノマー(以後「芳香族ビニル系単量体」と呼ぶ)を重合して得られる重合体ブロックを構成単位として含むブロック共重合体である。スチレン系エラストマー樹脂の原料として使用されるスチレン系単量体としては特に限定されないが、スチレン、o−、m−又はp−メチルスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、2,6−ジメチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−メチル−o−メチルスチレン、α−メチル−m−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、β−メチル−o−メチルスチレン、β−メチル−m−メチルスチレン、β−メチル−p−メチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、α−メチル−2,6−ジメチルスチレン、α−メチル−2,4−ジメチルスチレン、β−メチル−2,6−ジメチルスチレン、β−メチル−2,4−ジメチルスチレン、o−、m−又はp−クロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、α−クロロ−o−クロロスチレン、α−クロロ−m−クロロスチレン、α−クロロ−p−クロロスチレン、β−クロロ−o−クロロスチレン、β−クロロ−m−クロロスチレン、β−クロロ−p−クロロスチレン、2,4,6−トリクロロスチレン、α−クロロ−2,6−ジクロロスチレン、α−クロロ−2,4−ジクロロスチレン、β−クロロ−2,6−ジクロロスチレン、β−クロロ−2,4−ジクロロスチレン、o−、m−又はp−t−ブチルスチレン、o−、m−又はp−メトキシスチレン、o−、m−又はp−クロロメチルスチレン、o−、m−又はp−ブロモメチルスチレン、シリル基で置換されたスチレン誘導体等が挙げられる。スチレン系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンからなる群から選ばれた1種以上の単量体を使用することが好ましく、コストの面からスチレン、α−メチルスチレン、あるいはこれらの混合物を用いることが特に好ましい。
【0020】
本発明の製造方法は、従来公知の「スチレン系エラストマー樹脂」、例えば一般にスチレン系熱可塑性エラストマーとよばれているブロック共重合体やスチレン−ブタジエンゴム(SBR)に適用可能である。スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−エチレンブチレン共重合体−スチレン(S−EB−S)、スチレン−エチレンプロピレン共重合体−スチレン(S−EP−S)、スチレン−ブタジエン−スチレン(S−B−S)、スチレン−イソプレン−スチレン(S−I−S)、スチレン−イソブチレン−スチレン(S−IB−S)を挙げることができる。
【0021】
また「スチレン系エラストマー樹脂」としては、イソブチレンを含むものが好ましく、特に(A)イソブチレンを主体として構成される重合体ブロックと、(B)芳香族ビニル系単量体を主体として構成される重合体ブロックからなる「イソブチレン系ブロック共重合体」が好ましい。イソブチレン系ブロック共重合体は比較的粘着性が高く、ブロッキングが発生しやすい場合があるので、本発明の製造方法による改善効果が大きい。さらに強度・伸びに優れるイソブチレン系ブロック共重合体を安定的に生産できるという点から、本発明は、イソブチレンと芳香族ビニル系単量体などの単量体を、ルイス酸触媒および開始剤の存在下でカチオン重合して得られるイソブチレン系ブロック共重合体の製造に適用することが好ましい。
【0022】
(A)のイソブチレンを主体として構成される重合体ブロックは、通常、イソブチレン単位を60重量%以上、イソブチレン系重合体特有のガスバリア性を維持する観点から好ましくは80重量%以上含有する重合体ブロックである。また、(B)の芳香族ビニル系単量体を主体として構成される重合体ブロックは、通常、芳香族ビニル系単量体単位を60重量%以上、スチレン系エラストマー樹脂としての強度、伸び等の物性を維持する観点から好ましくは80重量%以上含有する重合体ブロックである。
【0023】
上記ルイス酸触媒は、カチオン重合に使用できるものであれば特に限定されず、TiCl4、BCl3、BF3、AlCl3、SnCl4等のハロゲン化金属を挙げることができるが、なかでも四塩化チタン(TiCl4)がイソブチレン系ブロック重合体の反応性とその触媒回収の容易さと回収触媒の安全性の観点から好ましい。
【0024】
上記カチオン重合において用いられる重合溶媒としては特に限定されず、ハロゲン化炭化水素からなる溶媒、非ハロゲン系の溶媒又はこれらの混合物を用いることができる。好ましくは、炭素数3〜8の1級及び/又は2級のモノハロゲン化炭化水素と脂肪族及び/又は芳香族炭化水素との混合溶媒がイソブチレン系ブロック共重合体の溶解性の面から好ましい。
【0025】
上記炭素数3〜8の1級及び/又は2級のモノハロゲン化炭化水素としては特に限定されず、塩化メチル、塩化メチレン、1−クロロブタン、クロロベンゼンなどを挙げることができる。この中でも、イソブチレン系ブロック共重合体の溶解度、分解による無害化の容易さ、コスト等のバランスから、1−クロロブタンが好適である。
【0026】
また、上記脂肪族及び/又は芳香族系炭化水素としては特に限定されず、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン等が挙げられる。メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン及びトルエンからなる群より選ばれる1種以上がコストおよびカチオン重合の反応性の観点から特に好ましい。
【0027】
なお、カチオン重合の際に用いる開始剤としては、下記式(I)で表される化合物を用いるのがカチオン重合の反応性の観点から好ましい。
【0028】
(CR12X)nR3 (I)
[式中、Xは、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルコキシ基若しくはアシロキシ基を表す。R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜6の1価炭化水素基を表し、R1とR2は同一であっても異なっていてもよい。R3は多価芳香族炭化水素基又は多価脂肪族炭化水素基を表す。nは1〜6の自然数を示す。]
上記一般式(I)の化合物の具体例としては、1,4−ビス(α−クロル−イソプロピル)ベンゼン[C64(C(CH32Cl)2]が挙げられる[なお、1,4−ビス(α−クロル−イソプロピル)ベンゼンはジクミルクロライドとも呼ばれる]。
【0029】
イソブチレン系ブロック共重合体の重合に際しては、更に必要に応じて電子供与体成分を共存させることもできる。このような化合物として、例えば、ピリジン類、アミン類、アミド類、スルホキシド類、エステル類、又は、金属原子に結合した酸素原子を有する金属化合物等を挙げることができる。
【0030】
実際の重合を行うに当たっては、各成分を冷却下、例えば−100℃以上0℃未満の温度で混合する。エネルギーコストと重合の安定性を釣り合わせるために、特に好ましい温度範囲は−80℃〜−30℃である。
【0031】
またイソブチレン系ブロック共重合体の数平均分子量にも特に制限はないが、流動性、加工性、物性等の面から、30000〜500000であることが好ましく、50000〜400000であることが特に好ましい。
【0032】
重合後のイソブチレン系ブロック共重合体を含有する重合体溶液は、水またはアルカリ水と接触させて、触媒を失活して反応を停止させた後、引き続き水洗を行い、触媒残査や金属イオンを抽出、除去して、精製ドープを得ることができる。
【0033】
失活及び水洗温度は特に制限されるものではないが、常温〜100℃の範囲が好ましい。また、失活及び水洗に使用する水量は、特に限定されるものではないが、重合体溶液に対する水の体積比が1/10〜10の範囲が触媒失活の効率と生産性のバランスから好ましい。
【0034】
このようにして得られた精製重合体溶液、すなわち触媒を失活、除去したイソブチレン系ブロック共重合体を含有する重合終了後の溶液をフラッシュ蒸発、薄膜式蒸発、撹拌槽、濡れ壁式等の蒸発機を単独あるいは複数用いることにより所望濃度の溶媒量にまで溶媒を除去することができる。このようにして得られたエラストマー樹脂はストランドカットあるいは水中カット方式により、それぞれ求められる形状のペレットに加工することができる。
【0035】
なお上記の通り、本発明のスチレン系エラストマー樹脂は、芳香族ビニル系単量体を重合して得られる重合体ブロックを構成単位として含む重合体であれば特に制限なく、従来公知の重合体を使用することが可能である。本発明のスチレン系エラストマー樹脂としては、例えば、一般にスチレン系熱可塑性エラストマーとよばれているブロック共重合体やスチレン−ブタジエンゴム(SBR)を挙げることができる。スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−エチレンブチレン共重合体−スチレン(S−EB−S)、スチレン−エチレンプロピレン共重合体−スチレン(S−EP−S)、スチレン−ブタジエン−スチレン(S−B−S)、スチレン−イソプレン−スチレン(S−I−S)、スチレン−イソブチレン−スチレン(S−IB−S)を挙げることができる。
【0036】
〔ペレット化設備のフロー例〕
図1は、ペレット化設備のフロー例である。
【0037】
重合体は蒸発操作終了後の溶融状態のまま押出機1を経由してダイス2から押出される。ダイス面には高速で回転するカッターが密着しており、ダイス及びカッターは水中に位置する構造となっている。循環冷却水は冷却水タンク4から循環ポンプ5により循環する。冷却水タンク4にはブロッキング防止剤および水溶性高分子を含有する水溶液を添加しておき、運転中は、好ましい濃度になるように濃度管理を行い適宜追加するのが好ましい。循環冷却水は途中熱交換器6を経由することにより適宜温度調節されるようになっている。
【0038】
カットされたペレットは循環冷却水中を分散したスラリー状態で3の脱水乾燥機へ送られる。脱水乾燥機ではペレットと循環冷却水が分離され、かつペレット表面水の乾燥が行われる。乾燥ペレットは乾燥機上部の開口部より系外に排出される。分離された循環冷却水は脱水乾燥機3から再度冷却水タンク4に戻され再利用される。
【0039】
ここで脱水乾燥機3から冷却水タンク4への液移送は落水によって行なわれるため、発泡の原因となる。
【0040】
〔ブロッキング防止剤〕
本発明のブロッキング防止剤とは、スチレン系エラストマー樹脂のブロッキングを防止するために有効であることが当業者に知られている物質、あるいは当業者にとって有効であろうことが合理的に予測されうる物質をいい、特に本発明においては、乳化重合法によって得られる水性乳濁液よりなる各種熱可塑性樹脂をいう。具体的には、芳香族ビニル系単量体からなる重合体(ポリスチレン等)や、アクリル系単量体と芳香族ビニル系単量体からなる共重合体を挙げることができる。
【0041】
上記熱可塑性樹脂としては、粒子径の制御が比較的容易であることからビニル系ポリマーの乳化重合体またはその凝集体が好ましい。上記ビニル系ポリマーを構成する重合性モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチ−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼンなどの芳香族ビニル系単量体のうち少なくとも1種類が含まれていることが好ましい。そのほかに、非芳香族ビニル系単量体として、(メタ)アクリル酸、クロトン酸などの不飽和カルボン酸類、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリロニトリル、シアン化ビニリデンなどのシアン化ビニル化合物、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレンなどのハロゲン化ビニル化合物が含まれていてもよい。これら非芳香族ビニル系単量体は2種以上を適宜併用してもよい。
【0042】
熱可塑性樹脂の主成分である芳香族ビニル系単量体としては、上述したスチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼンなどが挙げられるが、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、コストの面から、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン又はこれらの混合物が特に好ましい。
【0043】
熱可塑性樹脂の芳香族ビニル系単量体の割合は、30重量%以上100重量%以下がそれを付着させる樹脂粉粒体の透明性を維持する観点で好ましく、50重量%以上100重量%以下が特に芳香族ビニル系単量体を含む樹脂粉粒体との親和性の観点からより好ましい。
【0044】
〔水性乳濁液の調整方法〕
水性乳濁液を調整する方法は特に限定されないが、水性溶媒、重合開始剤、乳化剤等の存在下で、上記重合性モノマーを乳化重合することにより得ることができる。得られた水性乳濁液はそのまま本発明の製造方法において用いることができる。
【0045】
〔重合開始剤〕
上記重合開始剤としては公知のラジカル重合開始剤などを使用でき、水溶性や油溶性の重合開始剤、熱分解型やレドックス型の重合開始剤などが使用される。たとえば通常の過硫酸塩などの無機開始剤、あるいは有機過酸化物、アゾ化合物などを単独で用いるか、上記化合物と亜硫酸塩、亜硫酸水素、チオ硫酸塩、第一金属塩、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートなどを組み合わせ、レドックス系で用いてもよい。重合開始剤として好ましい過硫酸塩としてはたとえば過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどがあげられ、好ましい有機過酸化物としては、たとえばt−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどがあげられる。
【0046】
〔乳化剤〕
また、上記乳化剤としては公知のものが使用され、たとえば脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩(ドデシル硫酸ナトリウムなど)、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルリン酸エステル塩、スルホコハク酸ジエステル塩などのアニオン系界面活性剤やポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルなどの非イオン系界面活性剤などがあげられる。
【0047】
〔重合条件〕
熱可塑性樹脂を重合する際の温度や時間などにも特に限定はなく、使用目的に応じて所望の比粘度、粒子径になるように適宜調整すればよい。
【0048】
水性乳濁液として添加される熱可塑性樹脂の量は、冷却水槽中の樹脂固形分濃度で0.5重量%から20重量%であるのが好ましい。0.5重量%未満ではブロッキング防止剤としての効果が十分でない場合がある。また、20重量部を超えると、冷却水槽内の粘度上昇、スケールの発生などによるトラブルを招くことがあり好ましくない。
【0049】
〔ブロッキング防止剤のアルコール凝集方法〕
ブロッキング防止剤をアルコール凝集する方法は特に限定されない。使用するアルコールは、たとえば、エチルアルコール、メチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、メトキシエタノール、エトキシエタノール等が挙げられ、これらの混合物でも構わない。
【0050】
これらの中でも、製造コストの理由からエチルアルコール、メチルアルコール、及びイソプロピルアルコールからなる群の少なくとも1種を主成分とするアルコールを使用することが好ましい。
【0051】
ブロッキング防止剤とアルコールの混合比は、ブロッキング防止剤の種類、濃度、アルコールの種類、濃度に左右される。例えばブロッキング防止剤としてポリスチレン水性乳濁液を使用した時のアルコール凝集に必要な混合比は、固形分濃度27重量%のポリスチレン水性乳濁液100重量部に対し、アルコールとして99重量%エタノールを用いた場合、20〜150重量部が好ましく、99重量%メタノールを用いた場合、100〜250重量部が好ましく、99重量%イソプロパノールを用いた場合、10〜100重量部が好ましい。これらの中からコスト、プロセス上の処理時間、安全性等を考慮して最適な方法、量を選択すればよい。
【0052】
本発明のアルコール凝集させた凝集体の平均径は、特に制限はないが、ブロッキング防止性の理由から1μm以上、100μm以下であることが好ましい。
【0053】
〔ブロッキング防止剤の調整〕
本発明は、水溶液でスチレン系エラストマー樹脂ペレットを処理するスチレン系エラストマー樹脂ペレットの製造方法であって、該水溶液が、芳香族ビニル系単量体を主成分とする重合体の水性乳濁液をアルコール凝集させることによって生じた凝集体を含み、その固形分濃度が0.01重量%以上、0.1重量%未満であることを特徴とする。
【0054】
上記固形分濃度とは、冷却水タンク内中の固形分濃度のことをいう。固形分濃度が0.01重量%未満の場合、ブロッキング防止性を発現せず、0.1重量%以上の場合は、冷却水タンク内で泡が発生し、その泡が経時的に成長してついにはタンク外へオーバーフローすることから連続生産が不可能になるという問題が発生する。これは脱水乾燥機からのタンクへの戻りが落水となっていること、またブロッキング防止剤内に発泡性の乳化剤が若干残留していることが原因である。
【0055】
上記固形分濃度は、ブロッキング防止剤を120℃の乾燥機中で揮発分を除いた後の残留物の重量から算出したデータを基に、タンク内への仕込み量、つまり凝固組成物、水、及び水溶性高分子の仕込み量から換算した。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0057】
本実施例に示す重合体の分子量および引張強度は以下に示す方法で測定した。
【0058】
分子量:Waters社製GPCシステム(カラム:昭和電工(株)製Shodex K−804(ポリスチレンゲル)、移動相:クロロホルム)。数平均分子量はポリスチレン換算で表記した。
【0059】
得られた樹脂ペレットの耐ブロッキング性については、樹脂を100℃の箱型乾燥機で乾燥後、内径5cmのシリンダーに30g充填してピストンにて0.03MPaの荷重をかけて85℃雰囲気下2時間保管した後、得られたペレットの流動性を目視で確認することで評価した。
【0060】
芳香族ビニル系単量体を主成分とする重合体粒子の粒子径は(株)堀場製作所製レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920を用いて体積基準平均粒子径として測定した。
【0061】
(製造例1)
撹拌機付き20L反応容器に、1−クロロブタン(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)5.17kg、ヘキサン(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)0.45kg、p−ジクミルクロライド7.77gを加えた。反応容器を−70℃に冷却した後、N,N−ジメチルアセトアミド4.49g、イソブチレン1.29kgを添加した。さらに四塩化チタン33.9gを加えて重合を開始し、−70℃で溶液を攪拌しながら2時間反応させた。次いで反応溶液にスチレン552gを添加し、さらに30分間反応を続け、重合体溶液を得た。
【0062】
得られた重合体溶液を大量の水中へあけて反応を停止させた。反応停止後、分液ロートで重合体溶液相と水相を分離した。同様の方法で重合体溶液相の水洗を2回行った後、水層が中性になっているのを確認してから重合体溶液相を払い出し、重合体溶液を得た。
【0063】
GPC分析を行ったところ、数平均分子量が66,000、分子量分布が1.28であった。
【0064】
(製造例2)
撹拌機およびジャケット付き200L反応容器に、スチレンモノマー(苛性水溶液で重合禁止剤を抽出除去したもの)26.9kg、苛性ソーダによりpH10に調製した蒸留水を90.3kg、ドデシル硫酸ナトリウムを150g加え、窒素通気雰囲気下で70℃に加熱しながら60分間撹拌した。その後、過硫酸カリウムを75g添加して4時間反応させることによりポリスチレン粒子を含有する水性乳濁液を得た。
【0065】
得られたポリスチレン粒子の粒子径は、体積基準平均粒子径で0.17μmであった。また水性乳濁液の固形分濃度は27%であった。
【0066】
(実施例1)
製造例2で得られた水性乳濁液100重量部に対し、99重量%エタノールを109重量部添加し凝集体を生じさせ、この凝集体を含み水を主成分とする液体からなるスラリー液を冷却水タンク4に添加し、水槽中の固形分濃度を0.03重量%とした。
【0067】
次に上記製造例1で得られた重合体溶液を図1に示すようなベント口付き二軸押出機に供給し、胴部バレル及びスクリューを180℃に温度調節しながら、押出機に付帯する孔径2.8mmのダイスから水中カットシステムによって球状ペレットに加工した。
【0068】
これらを通して得られるペレットの耐ブロッキング性は、表1に示すように、ブロック化せず流動性は良好であった。また発泡は液面の一部に見られるものの、泡の成長はなく、連続的に安定生産が可能であった。
【0069】
なお、このとき用いた凝集体の平均径は12μmであった。
【0070】
(実施例2)
スラリー液を冷却水タンク4に添加し、水槽中の固形分濃度を0.09%とした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0071】
これらを通して得られるペレットの耐ブロッキング性は、表1に示すように、ブロック化せず流動性は良好であった。また発泡はタンク内液面の一部に見られるものの、泡の成長はなく、連続的に安定生産が可能であった。
【0072】
なお、このとき用いた凝集体の平均径は12μmであった。
【0073】
(実施例3)
製造例2で得られた水性乳濁液100重量部に対し、99重量%メチルアルコールを212重量部添加し凝集体を生じさせ、この凝集体を含み水を主成分とする液体からなるスラリー液を冷却水タンク4に添加し、水槽中の固形分濃度を0.09重量%とした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0074】
これらを通して得られるペレットの耐ブロッキング性は、表1に示すように、ブロック化せず流動性は良好であった。また発泡はタンク内液面の一部に見られるものの、泡の成長はなく、連続的に安定生産が可能であった。
【0075】
なお、このとき用いた凝集体の平均径は12μmであった。
【0076】
(実施例4)
製造例2で得られた水性乳濁液100重量部に対し、99重量%イソプロピルアルコールを45重量部添加し凝集体を生じさせ、この凝集体を含み水を主成分とする液体からなるスラリー液を冷却水タンク4に添加し、水槽中の固形分濃度を0.09重量%とした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0077】
これらを通して得られるペレットの耐ブロッキング性は、表1に示すように、ブロック化せず流動性は良好であった。また発泡はタンク内液面の一部に見られるものの、泡の成長はなく、連続的に安定生産が可能であった。
【0078】
なお、このとき用いた凝集体の平均径は12μmであった。
【0079】
(比較例1)
冷却水タンク4にスラリー液を添加しない、つまり冷却水槽内には水以外は投入しないこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0080】
これらを通して得られるペレットの耐ブロッキング性は、表1に併せて示すように、互いに強固に付着しており、ほぐすこともできなかった。
【0081】
(比較例2)
製造例2で得られた水性乳濁液を、アルコール凝集の操作を行なわずに冷却水タンク4に添加し、水槽中の固形分濃度を1.2重量%とした。
【0082】
これらを通して得られるペレットの耐ブロッキング性は、表1に併せて示すように、互いに付着しており、流動性は良好ではなかった。
【0083】
なお、このとき用いた凝集体の平均径は0.17μmであった。
【0084】
(比較例3)
比較例2において、冷却水タンク4には、予め冷却水槽中に、上記製造例2で得られた水性乳濁液を1.2重量%、凝集剤としての芒硝0.71重量%(50mmol/L)となるように添加しておき、それに、ブロッキング防止助剤としてのメチルセルロースを冷却水槽内濃度15ppmとなるように添加した。
【0085】
表1に併せて示すように、得られたペレットはブロック化せず流動性は良好であったが経時的に押出機のダイス(材質はステライト)が腐食し出し、処理を中断せざるをえなかった。
【0086】
なお、このとき用いた凝集体の平均径は11μmであった。
【0087】
(比較例4)
スラリー液を冷却水タンク4に添加し、水槽中の固形分濃度を0.005%とした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0088】
これらを通して得られるペレットの耐ブロッキング性は、表1に併せて示すように、互いに付着しており、流動性は良好ではなかった。ただし発泡はタンク内液面の一部に見られるものの、泡の成長はなかった。
【0089】
なお、このとき用いた凝集体の平均径は12μmであった。
【0090】
(比較例5)
ブロッキング防止剤(3)を冷却水タンク4に添加し、水槽中の固形分濃度を0.1%とした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0091】
これらを通して得られるペレットの耐ブロッキング性は、表1に併せて示すように、ブロック化せず流動性は良好であった。ただしタンク内に発泡があり、泡が経時的に成長してついにはタンク外へオーバーフローするため連続生産が不可能であった。
【0092】
なお、このとき用いた凝集体の平均径は12μmであった。
【0093】
(比較例6)
製造例2で得られた水性乳濁液100重量部に対し、99重量%エタノールを5重量部添加した。本条件では水性乳濁液が凝集状態にならなかった。
【0094】
(比較例7)
製造例2で得られた水性乳濁液を、−25℃の冷凍室内に保管し完全に凍結させ、その後冷凍室から取り出し、20℃の室内に放置して解凍を行なう。この操作にて水性乳濁液内には凝固組成物が生じ、凝固組成物と、乳化剤を含む水を主成分とする液体とからなるスラリー液を冷却水タンク4に添加し、水槽中の固形分濃度を1.0重量%とした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0095】
これらを通して得られるペレットの耐ブロッキング性は、表1に併せて示すように、互いに付着しており、流動性は良好ではなかった。また水槽中の固形分濃度が0.1%以上の場合、タンク内に発泡が生じ、泡が経時的に成長してついにはタンク外へオーバーフローするため連続生産が不可能であった。
【0096】
なお、このとき用いた凝集体の平均径は485μmであった。
【0097】
【表1】

【符号の説明】
【0098】
1:押出し機
2:ダイス
3:脱水乾燥機
4:冷却水タンク
5:循環ポンプ
6:熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液でスチレン系エラストマー樹脂ペレットを処理するスチレン系エラストマー樹脂ペレットの製造方法であって、該水溶液が、芳香族ビニル系単量体を主成分とする重合体の水性乳濁液をアルコール凝集させることによって生じた凝集体を含み、その固形分濃度が0.01重量%以上、0.1重量%未満であることを特徴とするスチレン系エラストマー樹脂ペレットの製造方法。
【請求項2】
前記芳香族ビニル系単量体を主成分とする重合体が、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、及びジビニルベンゼンからなる群の少なくとも1種を、30重量%以上、100重量%以下含む熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のスチレン系エラストマー樹脂ペレットの製造方法。
【請求項3】
前記アルコールがエチルアルコール、メチルアルコール、及びイソプロピルアルコールからなる群の少なくとも1種を主成分とすることを特徴とする請求項1または2に記載のスチレン系エラストマー樹脂ペレットの製造方法。
【請求項4】
前記凝集体の平均径が1μm以上、100μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のスチレン系エラストマー樹脂ペレットの製造方法。
【請求項5】
前記スチレン系エラストマー樹脂が、(A)イソブチレンを主体として構成される重合体ブロックと(B)芳香族ビニル系単量体を主体として構成される重合体ブロックからなる重合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のスチレン系エラストマー樹脂ペレットの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−195968(P2010−195968A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43919(P2009−43919)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】