説明

スチレン系樹脂及びそれからなる光学用樹脂成形体

【課題】 吸水性が低く、異物の少ないスチレン系樹脂及びそれからなる光学用樹脂成形体を提供すること。
【解決の手段】 スチレン系単量体5〜100質量%と(メタ)アクリル酸エステル系単量体95〜0質量%とを重合して得られるスチレン系樹脂であり、該スチレン系樹脂中のメチルエチルケトンに不溶である粒子径100μm以上の異物が1個/g以下、粒子径10μm以上の異物が1000個/g以下であるスチレン系樹脂を構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異物の少ないスチレン系樹脂及びそれからなる光学用樹脂成形体に関する。詳しくは、吸水性が低く、異物の少ないスチレン系樹脂及びそれからなる光学用樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
PMMAは透明性等の光学性能に優れることから、光学製品に使用されてきた。しかし、PMMAは吸湿による寸法変化、反りが発生しやすいという課題があることから、MS樹脂やGPPS等のスチレン系樹脂が検討されている。
一方、スチレン系樹脂は耐吸水性や成形加工性に優れる反面、光学用PMMA樹脂に比べ異物が多く、光学用途に制限があった。これに対し、特許文献1では完全混合型反応槽を用い、気相部分のない満液状体で、断熱状態で塊状重合することにより異物を低減させる提案があるが、十分なものではなかった。
【特許文献1】特開2001−342263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者らは、耐吸水性に優れ、特定粒子径の異物が除去されたスチレン系樹脂及びそれからなる光学用樹脂成形体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
即ち、本発明は、(1)スチレン系単量体5〜100質量%と(メタ)アクリル酸エステル系単量体95〜0質量%とを重合して得られるスチレン系樹脂であり、該スチレン系樹脂中のメチルエチルケトンに不溶である粒子径100μm以上の異物が1個/g以下、粒子径10μm以上の異物が1000個/g以下であるスチレン系樹脂、(2)スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体の合計100質量部に対して、20質量部未満の溶剤を含んだ塊状連続重合により得られる(1)記載のスチレン系樹脂、(3)下記1)、2)及び3)から選ばれた1種以上の方法により得られる請求項1又は2記載のスチレン系樹脂。
1)重合後、残存単量体や溶剤を除去する工程を経て、ダイから溶融状態でストランド状に押し出し、冷却水で冷却した後或いは冷却しながらストランドをカッティングし、樹脂ペレットとする時、使用する冷却水を目開き5μm以下のフィルターを用いて濾過した水を使用する。
2)カッティングした樹脂ペレットは、HEPA(High−Efficiency Particulate Air)フィルターを通したクリーン度クラス1万以下のクリーンエアーを用いて乾燥する。
3)樹脂ペレットは、クリーン度クラス1万以下のクリーンルーム内で包装し、クラス1万を超える外気との接触を避ける。
(4)(1)〜(3)の何れか1項記載のスチレン系樹脂からなる光学用樹脂成形体である。
【発明の効果】
【0005】
本発明のスチレン系樹脂及びそれからなる光学用樹脂成形体は、耐吸水性に優れ、異物が少なく、光学用途に適しており有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下に本発明を詳細に説明する。
スチレン系樹脂は、スチレン系単量体及び/又は(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合して得られる。
【0007】
スチレン系単量体とは、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン等をあげるが、好ましくはスチレンである。これらのスチレン系単量体は、それぞれ単独で用いてもよいが、2種類以上を併用してもよい。
【0008】
使用する(メタ)アクリル酸エステル系単量体とは、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−メチルヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−メチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート等があげられるが、好ましくはメチルメタクリレート、n−ブチルアクリレートである。これらの(メタ)アクリル酸エステル系単量体は、それぞれ単独で用いてもよいが、2種類以上を併用してもよい。
【0009】
スチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体の割合は、スチレン系単量体:(メタ)アクリル酸エステル系単量体=5〜100質量%:95〜0質量%であり、好ましくは31〜100質量%:69〜0質量%であり、さらに好ましくは51〜100質量%:49〜0質量%である。(メタ)アクリル酸エステル系単量体の割合が多くなると、吸水性や成型加工性が低下し、好ましくない場合がある。
【0010】
重合時、必要に応じてスチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合可能なその他の単量体、例えばアクリロニトリル、メタクリル酸、無水マレイン酸等を使用することもできる。スチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合可能なその他の単量体の添加割合は、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体の合計100質量部に対して、50質量部未満である。
また、ポリブタジエンやスチレンブタジエン共重合ゴム等をスチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体に溶解し、重合することもできる。ポリブタジエンやスチレンブタジエン共重合ゴム等の添加割合は、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体の合計100質量部に対して、50質量部未満である。
【0011】
重合は、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体の合計100質量部に対して、20質量部未満の溶剤を含んだ塊状連続重合であることが好ましい。溶剤としては、公知のものが使用できるが、好ましくはエチルベンゼン、トルエン、シクロヘキサンである。また、懸濁重合や乳化重合は、スチレン系樹脂中に懸濁分散剤や乳化分散剤が残存して異物が増加したり、透明性が低下するため、光学用途には適さない。
さらに、スチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、スチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合可能なその他の単量体、及び溶剤は、目開き5μm以下のフィルターで濾過した後、使用することが好ましい。
【0012】
重合時、公知の重合開始剤や連鎖移動剤を添加することができる。また、重合温度や重合時間は特に制限は無く、公知の条件で実施することが可能である。
【0013】
重合は、好ましくは樹脂率70〜95質量%、さらに好ましくは樹脂率75〜85質量%まで行ない、その後、残存単量体や溶剤を除去する工程に導くことが好ましい。樹脂率が70%未満の場合は生産効率が悪く、95%以上の場合は重合溶液の粘度が高く、輸送が困難である。
【0014】
重合後、残存単量体や溶剤を除去する工程を経て、ダイから溶融状態でストランド状に押し出し、冷却水で冷却した後或いは冷却しながらストランドをカッティングし、樹脂ペレットとすることが好ましい。更に、ここで使用する冷却水は目開き5μm以下のフィルターを用いて濾過した水であることが好ましい。
【0015】
また、カッティングした樹脂ペレットは、HEPA(High−Efficiency Particulate Air)フィルター等を通したクリーン度クラス1万以下のクリーンエアーを用いて乾燥することが好ましい。更にクリーン度クラス1万以下のクリーンルーム内で包装し、クラス1万を超える外気との接触を避けることが好ましい。
【0016】
スチレン系樹脂は、メチルエチルケトンに不溶である粒子径100μm以上の異物が1個/g以下、粒子径10μm以上の異物が1000個/g以下である。粒子径100μm以上の異物が1個/gを越えたり、粒子径10μm以上の異物が1000個/gを越えると、光学用途に用いることが困難となる。異物の低減は、フィルターの目開き、クリーンエアーのクリーン化度等により制御することができる。
なお、異物の測定は、樹脂を予め0.5μmのフィルターで濾過したメチルエチルケトンに溶解させ、この試料をレーザー光を利用した光散乱/光遮断方式による液体微粒子カウンター(HIAC,ROYCO社製)に通液し、樹脂中に含まれる異物の個数を測定した。
また、クリーン度の測定は、JIS B 9920に準じて、光散乱式粒子計数器 KC−03(リオン株式会社製)を用いて測定した。
【0017】
スチレン系樹脂は、飽和吸水率が好ましくは1.5%未満であり、さらに好ましくは1%未満である。飽和吸水率が1%以上であると、寸法変化、反りが大きくなり、光学用途への使用が困難になる場合がある。
【0018】
スチレン系樹脂は、JIS K7210に基づき、温度200℃、荷重49Nで測定されたメルトマスフローレイト(MFR)が、好ましくは1g/10分以上であり、さらに好ましくは2g/10分以上である。MFRが1g/10分未満であると成型加工性が劣り、大型成形品が得られなかったり、成形時間がかかる等の課題が発生する場合がある。
【0019】
スチレン系樹脂には、必要に応じて酸化防止剤、耐候剤、滑剤、可塑剤、着色剤、帯電防止剤、鉱油、難燃剤等の添加剤を添加することができ、製造時任意の段階で配合することができる。
【0020】
異物の少ないスチレン系樹脂は、射出成形、押出成形、圧縮成形、真空成形等の公知の方法により各種成形体に加工される。加工された光学用樹脂成形体は、導光板、光ディスク、スクリーンレンズ、反射防止フィルムや拡散フィルム等の光学フィルム用ベースフィルム等の光学用途に供される。
【実施例】
【0021】
次に、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0022】
実施例1
容積約20Lの完全混合型攪拌槽である第一反応器と容積約40Lの攪拌機付塔式プラグフロー型反応器である第二反応器を直列に接続し、さらに予熱器を付した脱揮槽を2基直列に接続して構成した。スチレン52質量%、メタクリル酸メチル(以下MMAと略す)48質量%で構成する単量体溶液85質量部に対し、エチルベンゼン15質量部、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.01質量部、n−ドデシルメルカプタン(以下n−DDMと略す)0.01質量部、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート0.05質量部を混合し原料溶液とした。
この原料溶液を目開き5μmのフィルターで濾過した後、毎時6.2kgで127℃に制御した第1反応器に供給した。第一反応器出口での転化率は34質量%であった。第一反応器から出た反応液を、入り口から流れの方向に向かって127℃から155℃の勾配がつくように調整した第二反応器に導入した。第二反応器出口での転化率は85質量%であった。次に予熱器で160℃に加温した後67kPaに減圧した第一脱揮槽に導入し、さらに予熱器で230℃に加温した後1.3kPaに減圧した第二脱揮槽に導入し単量体と溶剤を除去した。これをダイから溶融状態でストランド状に押し出し、目開き5μmのフィルターを用いて濾過した冷却水で冷却した後ストランドをカッティングし、樹脂ペレットとした。カッティングした樹脂ペレットは、HEPAフィルターを通したクリーン度クラス1万以下のクリーンエアーを用いて乾燥し、異物の少ないスチレン系樹脂を得た。得られた樹脂はクリーン度クラス1万以下のクリーンルーム内で試験を行い、得られた結果を表1に示した。
【0023】
実施例2
実施例1で得られた樹脂を、クリーン度クラス1万以下のクリーンルーム内に1日放置した後、試験を行った以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示した。
【0024】
実施例3
原料溶液を目開き5μmのフィルターで濾過しなかった以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示した。
【0025】
実施例4
HEPAフィルターを通したクリーンエアーを用いず、クリーン度クラス1万を越えるエアーを用いて乾燥した以外は実施例3と同様に実施した。結果を表1に示した。
【0026】
実施例5
単量体溶液を、MMAを使用せず、スチレン100質量%で構成した以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示した。
【0027】
比較例1
実施例1で得られた樹脂を、クリーンルーム内に置かず、クリーン度クラス1万を超える外気中に1日放置した後、試験を行った以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示した。
【0028】
比較例2
冷却水を濾過せずに用いた以外は実施例4と同様に実施した。結果を表1に示した。
【0029】
比較例3
単量体溶液を、スチレンを使用せず、MMA100質量%で構成した以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示した。
【0030】
【表1】

【0031】
なお、評価は下記の方法によった。
(1) 成形体の異物の測定
得られた樹脂ペレットを東芝機械社製射出成形機を用いて、成形温度230℃、金型温度40℃で、縦210mm、横210mm、厚さ3mmのプレートを成形した。成形体について、歪み検査機を用いて目視にて含まれる異物個数を確認し、さらに倍率20倍の光学顕微鏡にて異物の大きさを計測し、「きょう雑物測定図表」(国立印刷局発行)を用いて大きさが0.01mm以上の異物の個数を求めた。成形品体異物の個数は4個未満を合格とした。
(2)飽和吸水率の測定
厚さ3mmのプレートを縦100mm、横50mmに切断して試験片を得た。試験片の重量を測定した後、23℃の純水に浸漬した。水分を飽和させた後、試験片の重量を測定して飽和吸水率を求めた。飽和吸水率が1.5%未満を合格とした。
(3)反り量の測定
(4)メルトマスフローレイト(MFR)の測定
Tダイ形式のシート押出機を用いて、シリンダー温度230℃で厚さ2mmのシートを得た。このシートより18cm×18cmの試験片を切り出し、試験片より大きめの鋼板に挟んで、90℃にて5時間加熱した後、24時間放冷した。試験片を取り出し、30cm×23cmの容器に平置きした後、試験片の片面のみが水に浸るように、容器に純水を注いだ。室温にて24時間放置した後、試験片の4隅の反り上がり量(mm)を測定し、これらの平均値を反り量とした。反り量が0.4mm以下を合格とした。
(4)メルトマスフローレイト(MFR)の測定
JIS K7210に基づき、温度200℃、荷重49Nで樹脂ペレットを用いて測定した(単位:g/10分)。なお、測定機は東洋精機製作所社製メルトインデックサ(F−F01)を使用した。MFRは1g/10分以上を合格とした。
【0032】
本発明のスチレン系樹脂及びそれからなる光学用樹脂成形体に関わる実施例は、成形体中の異物が少なく、吸水性が少ない。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系単量体5〜100質量%と(メタ)アクリル酸エステル系単量体95〜0質量%とを重合して得られるスチレン系樹脂であり、該スチレン系樹脂中のメチルエチルケトンに不溶である粒子径100μm以上の異物が1個/g以下、粒子径10μm以上の異物が1000個/g以下であるスチレン系樹脂。
【請求項2】
スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体の合計100質量部に対して、20質量部未満の溶剤を含んだ塊状連続重合により得られる請求項1記載のスチレン系樹脂。
【請求項3】
下記1)、2)及び3)から選ばれた1種以上の方法により得られる請求項1又は2記載のスチレン系樹脂。
1)重合後、残存単量体や溶剤を除去する工程を経て、ダイから溶融状態でストランド状に押し出し、冷却水で冷却した後或いは冷却しながらストランドをカッティングし、樹脂ペレットとする時、使用する冷却水を目開き5μm以下のフィルターを用いて濾過した水を使用する。
2)カッティングした樹脂ペレットは、HEPA(High−Efficiency Particulate Air)フィルターを通したクリーン度クラス1万以下のクリーンエアーを用いて乾燥する。
3)樹脂ペレットは、クリーン度クラス1万以下のクリーンルーム内で包装し、クラス1万を超える外気との接触を避ける。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項記載のスチレン系樹脂からなる光学用樹脂成形体。

【公開番号】特開2008−208147(P2008−208147A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177546(P2005−177546)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】