説明

ステップモータ

【目的】 磁石を用いることなく、高いトルクを発生できるステップモータを提供する。
【構成】 筒状のステータ10は、周方向に間隔をおいて配置されて半径方向内側に突出した8個のステータ歯12をもつステータコア11と、ステータ歯12の各々に巻回されたステータコイル13とを有する。このステータ10内に回転軸の回りに回転可能に収容されたロータ20は、周方向に間隔をおいて配置されて半径方向外側に突出した6個のロータ歯22をもつロータコア21と、ロータ歯22の各々に巻回されたロータコイル23とを有する。ロータ29の回転角度に応じてロータコイル電流を制御することにより、高トルクを得る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ステップモータに関し、特に、ハイブリッド(HB)形ステップモータの構造に関する。
【0002】
【従来の技術】周知のように、ステップモータは電気パルスを入力としてパルス数に対応した機械角度を出力とするモータである。このステップモータには種々のものがあるが、その1つにハイブリッド形ステップモータがある。
【0003】図2(a)、(b),および(c)に従来のハイブリッド形ステップモータの構造を示す。ハイブリッド形ステップモータは、筒状のステータ10と、このステータ10内に回転軸RAの回りに回転可能に収容されたロータ20´とからなる。ステータ10はステータコア11を含む。ステータコア11は、周方向に間隔をおいて配置されて半径方向内側に突出した8個のステータ歯12を有する。各ステータ歯12にはステータコイル13が巻回されている。
【0004】ステータコイル13には、図2(b)および(c)に示すように、A相コイルとB相コイルとの2種類のコイルがある。A相コイルとB相コイルとは8個のステータ歯12に周方向に沿って交互に巻回されている。互いに対向する2個のステータ歯12に巻回されたA相コイルは同相に巻回されている(図2(b)および(c)のAまたはAバー(Aの上にバーが付いている))が、互いに歯の位相が90°ずれた2個のステータ歯12に巻回されたA相コイルは逆相に巻回されている(図2(b)および(c)でAとAバーの関係)。同様に、互いに対向する2個のステータ歯12に巻回されたB相コイルは同相に巻回されている(図2(b)および(c)のBまたはBバー)が、互いに歯の位相が90°ずれた2個のステータ歯12に巻回されたB相コイルは逆相に巻回されている(図2(b)および(c)でBとBバーの関係)。
【0005】一方、ロータ20´は、間に環状の磁石23´を介して配置された一対のロータコア21´aおよび21´bを含む。ロータコア21´aおよび21´bはステータコア11と対向している。ロータコア21´aは、周方向に間隔をおいて配置されて半径方向外側に突出した6個のロータ歯22´aを有する。同様に、ロータコア21´bは、周方向に間隔をおいて配置されて半径方向外側に突出した6個のロータ歯22´bを有する。図2(b)および(c)から明らかなように、ロータ歯22´aとロータ歯22´bとは互いに位相がπラジアンずれている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】上述した従来のハイブリッド形ステップモータでは、以下に詳細に説明するように、高トルクを得るためには強力な磁石を必要とする欠点がある。
【0007】その事情を以下に発生トルク式を用いて説明する。図2に示したような、ステータ10とロータ20´とが共に歯12および22´aと22´bを持ち、ロータ20´に磁石23´を配したハイブリッド形ステップモータにおいて、ロータ20´の持つ歯数をZr とすると、ステップモータは極対数Zr の二相多極電動機と考えられる。そのうちの一極対だけを取り出して考えれば、図3に示す二相電動機モデルが得られる。
【0008】図3において、2つのステータコイルをαおよびβで示し、2つのロータコイルをaおよびbで示す。ステータコイルαおよびβには、それぞれ電流iαおよびiβが流れ、それぞれに電圧vαおよびvβが誘起されるとする。同様に、ロータコイルaおよびbには、それぞれ電流iおよびiが流れ、それぞれに電圧vおよびvが誘起されるとする。また、図4に示すように、ロータ20´の互いに隣接するロータ歯22´a(22´b)とロータ歯22´a(22´bとの間を一周期2πラジアンとして基準にした場合、ステータ10の互いに隣接するステータ歯12とステータ歯12との間の周期はθラジアンだけ短くなっている。
【0009】次に、一般化二相電動機モデルの電圧方程式について説明する。図3に示す一般的な二相電動機モデルで以下の条件を仮定する。
【0010】(a1 )2つのステータコイルαおよびβは同一、2つのロータコイルaおよびbも同一。
【0011】(b1 )ギャップ中の磁束密度は正弦波分布である。
【0012】上記(a1 )の条件より、2つのステータコイルαおよびβの自己インダクタンスLαおよびLβは互いに等しく、2つのロータコイルaおよびbの自己インダクタンスLおよびLも互いに等しい。すなわち、ステータ自己インダクタンスおよびロータ自己インダクタンスをそれぞれLsおよびLrとすると、下記の数式1が成り立つ。
【0013】
【数1】


【0014】また、上記(b1 )の条件を考慮し、ステータ・ロータ間の相互インダクタンスをMとすると、下記の数式2で表わされる電圧方程式を得る。
【0015】
【数2】


【0016】ここで、pはヘビサイドの演算子(微分演算子d/dt)を表し、Vは電圧ベクトルを表し、Iは電流ベクトルを表し、Rは抵抗行列を表し、L(θ)はインダクタンス行列を表し、Z(θ)はインピーダンス行列を表す。電圧ベクトルV、電流ベクトルI、抵抗行列R、およびインダクタンス行列L(θ)は、それぞれ、下記の数式3〜数式6で表わされる。
【0017】
【数3】


【0018】
【数4】


【0019】
【数5】


【0020】
【数6】


【0021】次に、ステップモータのインダクタンス行列について説明する。一般的に二相電動機モデルでは、次のような性質を持つ。
【0022】(a2 )ステータ、ロータの自己インダクタンスLs、Lrは、θに関係なく一定値である。
【0023】(b2 )θの値によりコイル間の相互インダクタンスが0になるところがある。
【0024】上記数式6のインダクタンス行列L(θ)は上記(a2 )、(b2 )の前提のもとで成立するものであるが、ハイブリッド形ステップモータでは、動作原理上、次の性質をもつ。
【0025】(a3 )ステータ、ロータの自己インダクタンスはθの関数であり、いかなるθの値に対しても0にはならない。
【0026】(b3 )コイル間の相互インダクタンスはいかなるθの値に対しても0にはならない。
【0027】したがって、上記数式6に示す二相電動機モデルのインダクタンス行列L(θ)では、完全にステップモータのインダクタンス行列に対応できない。そこで、ステップモータのインダクタンス行列L(θ)を下記の数式7のように表現する。
【0028】
【数7】


【0029】次に、d−q軸への変換について説明する。上記数式2で表わされる電圧方程式は、たとえ定常状態であっても解くことは出来ない。そこで、ロータ側の諸量を図5に示す空間に固定されたd−q軸への変換を考える。上記数式2を下記の数式8のように表記する。
【0030】
【数8】


【0031】次に行列Cを下記の数式9で定義する。
【0032】
【数9】


【0033】ここで、行列Cs および行列Eは、それぞれ、下記の数式10および数式11で表される。
【0034】
【数10】


【0035】
【数11】


【0036】上記数式9で定義した行列Cで下記の数式12および数式13の変換を行う。
【0037】
【数12】


【0038】
【数13】


【0039】上記の数式8、12および13より、下記の数式14が得られる。
【0040】
【数14】


【0041】したがって、次の数式15が得られる。
【0042】
【数15】


【0043】インピーダンス行列を計算すると、下記の数式16が得られる。
【0044】
【数16】


【0045】ここで、Gはトルクテンソルといわれ、下記の数式17で表される。
【0046】
【数17】


【0047】また、d−q軸モデル上での発生トルクは、次の数式18で得られることが知られている。
【0048】
【数18】


【0049】図5に示す静止系では解析が困難であるので、α−β座標の諸量を、図6に示すように、d−q軸に同期して回転するa−b座標(d軸とa軸、q軸とb軸は常に一致している)に変換すると、下記の数式19が成り立つ。
【0050】
【数19】


【0051】上記数式3〜5で表された電圧ベクトルV、電流ベクトルI、および抵抗行列Rを、それぞれ、下記の数式20〜数式22で示し、
【数20】


【0052】
【数21】


【0053】
【数22】


【0054】インダクタンス行列L(θ)に上記数式7を用い、上記数式10の行列Cs を下記の数式23で示すとする。
【0055】
【数23】


【0056】モータのq軸はd軸に対して電気角で(π/2)ずれたところに存在し、ロータ側にはd軸成分は存在しないことを考慮し、上記数式18で表される発生トルクTを計算すると、下記の数式24を得る。
【0057】
【数24】


【0058】ハイブリッド形ステップモータでは、構造上、N極とS極が独立した極のように考えられる。したがって、N極で発生するトルクTN を上記数式24で表すとすると、S極で発生するトルクTS は下記の数式25で表される。
【0059】
【数25】


【0060】したがって、モータ全体で発生するトルクTは下記の数式26で表される。
【0061】
【数26】


【0062】上述から明らかなように、ハイブリッド形ステップモータのトルク式は上記数式26で表され、d軸電流iは磁石の強さによって決定されてしまう。この結果、従来のハイブリッド形ステップモータの構造では、高トルクを得ようとするには、強力な磁石が必要となる。
【0063】したがって、本発明の目的は、磁石を用いることなく、高いトルクを発生できるステップモータを提供することにある。
【0064】
【課題を解決するための手段】本発明によるステップモータは、筒状のステータと、このステータ内に回転軸の回りに回転可能に収容されたロータとからなるステップモータにおいて、ステータは、周方向に間隔をおいて配置されて半径方向内側に突出した第1の個数のステータ歯をもつステータコアと、ステータ歯の各々に巻回されたステータコイルとを有し、ロータは、周方向に間隔をおいて配置されて半径方向外側に突出し、かつ第1の個数より少ない第2の個数のロータ歯をもつロータコアと、ロータ歯の各々に巻回されたロータコイルとを有し、ロータコイルに電流を流すための電流供給手段と、ロータの回転位置を検出する位置検出手段と、この位置検出手段で検出された検出位置に基づいて、高トルクが得られるように電流供給手段を制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0065】
【作用】ロータの回転位置によってロータコイル電流を制御することで、有効にトルク発生を行える。
【0066】
【実施例】次に、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
【0067】図1(a)および(b)に本発明の一実施例によるハイブリッド形ステップモータの構造を示す。図示の如く、本実施例のハイブリッド形ステップモータは、筒状のステータ10と、このステータ10内に回転軸RAの回りに回転可能に収容されたロータ20とからなる。ステータ10の構造は図2に示した従来のものと同様なので、その説明を省略する。
【0068】ロータ20はロータコア21を含む。ロータコア21はステータコア11と対向している。ロータコア21には、周方向に間隔をおいて配置されて半径方向外側に突出した6個のロータ歯22を有する。6個のロータ歯22には、それぞれ、ロータコイル23(図2では時計回りにD1 ,D2 ,D3 ,D4 ,D5 、およびD6 で示す)が巻回されている。
【0069】このようにロータ20側にロータコイル23を持つため、ステップモータは、図示していないが、ロータコイル23に電流を流すためのブラシおよび整流子を有する。さらに、ステップモータは、ロータ20の回転位置を検出するための位置検出器(図示せず)と、この位置検出器で検出された検出位置に基づいてロータコイル電流を制御する制御回路(図示せず)とを備えている。
【0070】上記のように、本発明のハイブリッド形ステップモータでは、ステータ10とロータ20とにそれぞれステータコイル13およびロータコイル23を配しているので、その発生トルクTは下記の数式27で表される。
【0071】
【数27】


【0072】したがって本発明では、上記数式27におけるd軸電流(ロータコイル電流)iの値を自由に変更することができる。また、後述するように、上記数式27の右辺第2項から、ロータ20の回転位置によってロータコイル電流iを制御することで、有効にトルク発生を行える。したがって、従来のハイブリッド形ステップモータのように、コイル13がステータ10のみに配されている場合に比べ、本発明のハイブリッド形ステップモータの方が、最大で約2倍のトルクを発生できる。
【0073】図1(b)を参照して、本発明のロータコイル23の励磁方法について説明する。今、ステータコイルAに通電し、ステータコイルBに励磁を切替えようとする時のロータコイル23の励磁について考える。このとき、ロータコイル23は、θとb軸電流iとの間に下記の表1で表される関係をもつ。
【0074】
【表1】


【0075】上記数式27において、b軸電流iとsinθが、上記表1の値によって決定されるので、ロータコイル電流iを下記の表2に示すように制御することにより、トルクを有効に発生できる。
【0076】
【表2】


【0077】上記のように、ロータ位置によってロータコイル電流iを制御すれば、上記数式27の右辺第2項に基づくトルクを有効に利用できる。
【0078】
【発明の効果】以上説明したように本発明は、ハイブリッド形ステップモータにおいて、コイルをステータのみではなくロータにも配し、ロータの回転角度に応じてロータコイル電流を制御することにより、高トルクが得られるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例によるハイブリッド形ステップモータの構造を示す図で、(a)は径方向から見た断面図、(b)は(a)のI−I´線より軸方向から見た断面図である。
【図2】従来のハイブリッド形ステップモータの構造を示す図で、(a)は径方向から見た断面図、(b)および(c)はそれぞれII−II´線およびIII −III ´線より軸方向から見た断面図である。
【図3】二相電動機モデルを示す回路図である。
【図4】ステータのステータ歯とロータのロータ歯と間の関係をリニアパルスモデルにて示す断面図である。
【図5】ロータ側の諸量をd−q軸へ変換した静止系を示す回路図である。
【図6】α−β座標の諸量をd−q軸に同期して回転するa−b座標に変換した回転系を示す回路図である。
【符号の説明】
10 ステータ
11 ステータコア
12 ステータ歯
13 ステータコイル
20 ロータ
21 ロータコア
22 ロータ歯
23 ロータコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】 筒状のステータと、該ステータ内に回転軸の回りに回転可能に収容されたロータとからなるステップモータにおいて、前記ステータは、周方向に間隔をおいて配置されて半径方向内側に突出した第1の個数のステータ歯をもつステータコアと、前記ステータ歯の各々に巻回されたステータコイルとを有し、前記ロータは、周方向に間隔をおいて配置されて半径方向外側に突出し、かつ前記第1の個数より少ない第2の個数のロータ歯をもつロータコアと、前記ロータ歯の各々に巻回されたロータコイルとを有し、前記ロータコイルに電流を流すための電流供給手段と、前記ロータの回転位置を検出する位置検出手段と、該位置検出手段で検出された検出位置に基づいて、高トルクが得られるように前記電流供給手段を制御する制御手段とを有することを特徴とするステップモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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