説明

ステムドメインにおける欠失および挿入された異種配列を有する黄色ブドウ球菌の組換えα溶血素ポリペプチド

本発明は、溶血活性を除去するためのステムドメインにおける欠失を有する、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドであって、少なくとも1つの異種配列が、配列番号1の野生型配列に対して、アミノ酸第108位〜第151位、アミノ酸第1位〜第5位、アミノ酸第288位〜第293位、アミノ酸第43位〜第48位、アミノ酸第235位〜第240位、アミノ酸第92位〜第97位、アミノ酸第31位〜第36位、アミノ酸第156位〜第161位で定義される領域からなる群から選択される領域に挿入されている、ただし、異種配列が5以上の連続したヒスチジン残基を含有する場合、前記5以上の連続したヒスチジン残基によって表される部分以外の異種配列の部分は11アミノ酸残基の最小長を有する、上記組換え一本鎖α溶血素ポリペプチド;又はその変異体であって、ステムドメインにおける前記欠失および異種配列の前記挿入に加えて、配列番号1の野生型配列に対して1〜50のアミノ酸残基が付加、置換または欠失されており、かつオリゴマーを形成し、かつ脂質二重層または細胞膜に結合する活性を有する、上記変異体に関する。本発明は、また、前記組換えポリペプチドを含む薬剤又はワクチンを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子工学的形態の細菌性α溶血素(alpha-hemolysin)の開発に関する。特に、本発明は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドであって、ステムドメインに欠失を有し、かつ前記組換えα溶血素ポリペプチドの許容部位に挿入された少なくとも1つの付加異種配列を含むα溶血素ポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
1970年代後半の組換えDNA技術の開発以来、遺伝子融合技術は、広範な用途の多機能タンパク質の製造に使用されてきた。融合タンパク質は、多様な用途のタンパク質科学研究に利用される。このような融合タンパク質を構築するために、2つのタイプの結合が可能である。1つは、1つのドメインのN末端が他のドメインのC末端と連結する「エンド・ツー・エンド」("end to end")の融合である。2つ目は、1つのドメインが他の親ドメイン(parent domain)の内部にイン・フレーム挿入される「挿入」融合である。
【0003】
タンパク質またはその断片は能動免疫法に使用される。能動免疫法は、抗原を投与することにより、体液性および細胞性免疫応答を刺激しようとすることを含む。これらの抗原は、死滅または弱化形態の病原体、感染性因子のサブニット、および天然タンパク質またはポリエピトープに対応する組換えタンパク質であり得る。受動免疫法は、疾病に感染した患者にガンマグロブリンと呼ばれる抗体を投与することを含む。
【0004】
ワクチン開発における主要な障害は、病原体の変動性、複雑性および適応性である。例えば、黄色ブドウ球菌の変動性は、莢膜多糖類組成に関連する、その12の血清型に関係している。この微生物の複雑性は、黄色ブドウ球菌が40を超える毒性因子(virulence factor)を産生することが可能であることから、その表現型に起因している。適応性は、細菌が変異を蓄積し、抗生物質治療に抵抗性になるか、さらに免疫系を免れる能力に関連する。このことから、いくつかの製薬グループが、同じワクチン製剤においていくつかの抗原を組み合わせることにより多価ワクチンを開発する傾向があることが説明される。このような状況において、単一のタンパク質からなるワクチンは製造コストがより低くなるであろうし、実用的な製造方法の利点を有し、かつ、いくつかの組換えタンパク質からなるワクチンよりも品質管理試験がより簡単である。
【0005】
エピトープの特性評価は、ワクチン接種および抗体開発等の用途において医学的に重要である。エピトープのみを用いて免疫化する場合、微生物全体または単離した抗原を用いる場合よりも、安全性、純粋な抗原を得る難しさ、いくつかのエピトープの免疫優勢の問題、または、タンパク質の生物活性に非常に重要なタンパク質領域に免疫応答が集中する可能性等の、多数の利点がある。
【0006】
種々のエピトープのマッピング技術により、抗体/抗原相互作用を解明することが可能であった場合、これらの小B細胞エピトープを免疫系に送達する可能性は欠如している。文献によれば、単にエピトープを融合することからなる古典的なアプローチでは、抗原性が乏しいポリペプチドが生じる。エピトープワクチンの代替のアプローチは、抗体産生B細胞への効率的なT細胞の介助を誘発する能力がある担体への接合である。結果として、これは、遺伝子融合によって得られたエピトープワクチンの使用を著しく制限するという特徴がある。このように、ウイルス様粒子は、B細胞エピトープの好適な分子足場(molecular scaffold)であることが示されている。しかし、このアプローチは、しばしば、エピトープ融合または挿入が、ウイルス様粒子を形成するコアタンパク質の集合を妨害する場合に生じる「集合の問題」("assembly problem")に直面する。
【0007】
ブドウ球菌α溶血素(HA)は、黄色ブドウ球菌の殆どの株から293残基ポリペプチドの水溶性モノマーとして分泌される。この毒素は、血小板、赤血球、末梢血単球、マクロファージ、ケラチノサイト、線維芽細胞および内皮細胞等の感受性細胞の膜に七量体の細孔を形成する。HAには、動物の場合と同様にヒトにおいても、溶血性、細胞毒性、壊死性および致命的特性がある。黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成、より正確には細胞間相互作用におけるこの毒素の役割も報告された。洗浄剤中の七量体HAの結晶構造は、ステムの下半分(K110〜Y148)である14ストランドβバレルがポリペプチド鎖の7個の中心がグリシンに富む領域由来の残基でなる膜透過チャネルを形成する、キノコ形状物を示す(図1)。ポリペプチドのNおよびC末端の1/3は、標的細胞の外側に位置するキノコ形状物の頭部の形成に加わる、βサンドイッチ構造に編成される。
【0008】
黄色ブドウ球菌は、地域感染型疾患および院内疾患の両者の原因になることが多い、頑強なグラム陽性菌である。一過性で無症状の定着は日常的であり、小児および成人の40%以下で起きている。少数の症例で、黄色ブドウ球菌感染は、菌血症、骨髄炎、心内膜炎、髄膜炎および膿瘍形成等の重症疾患と関係がある。黄色ブドウ球菌感染は、比較的治療が難しく、侵襲性疾患であり、抗生物質治療の後、再発することがある。
【0009】
黄色ブドウ球菌によって引き起こされる感染症は、動物においても問題である。ウシの乳房炎は世界的に酪農業界で最も多大な損害をもたらす疾病であり、損害額は米国だけで年間20億ドルと見積もられている。乳房炎は殺処分の一番の理由であり、例えば、米国ではウシの処分理由の15%が乳房炎であることが報告された。黄色ブドウ球菌は、ウシの乳房炎の最大の原因の1つであり、この病原菌を防除することを目的とした数十年の研究にもかかわらず、牛乳生産者にとっては依然として世界的に相当な経済的問題となっている。
【0010】
メチシリンを含む複数の抗生物質に耐性の菌株数の増加により、治療はより困難になる。近年、抗生物質の最後の砦であるバンコマイシンに対する耐性も発生した。従って、ヒトにおいても動物でも、疾病の予防がこの微生物による疾病率および死亡率を制限する最善の方法である。全細胞の生ワクチンまたは死菌ワクチンの大部分は防御免疫反応を起こすことができないため、代替の免疫法が試験されている:例えば、
【0011】
能動免疫法:
【0012】
− 莢膜多糖類は、宿主の多形核好中球が細菌をオプソニン化する能力を減じることにより、毒性因子として働く。12の黄色ブドウ球菌の莢膜多糖類が同定されているが、歴史的に5型および8型が黄色ブドウ球菌疾病の大多数を占めている。5型および8型多糖類を含有するワクチンが既に開発されている(スタフ・バックス(StaphVAX)、ナビ・バイオファルマシューティカルズ(Nabi Biopharmaceuticals))。その防御能は、マウスモデルにおいて実証されている。また、ヒトにおける安全性および免疫原性も示されている。これは今まで第三相臨床試験で試験された唯一のブドウ球菌ワクチンであるが、この第三相臨床試験の目的を達成できなかった。
【0013】
− icaABCプロダクト(icaABC products)によって合成された黄色ブドウ球菌表面の糖質であるポリ-N-アセチルグルコサミンで免疫したところ、ブドウ球菌疾患に対してマウスを守れることが示された。
【0014】
− 個々の表面タンパク質、例えばクランピング因子A(ClfA)、クランピング因子B(ClfB)、鉄制御型表面決定因子B(iron-regulated surface determinant B;IsdB)、またはフィブロネクチン結合タンパク質(fibronectin-binding protein;FnBP)等からなるサブユニットワクチンによる免疫反応では、実験動物の黄色ブドウ球菌抗原投与に対して部分的な免疫しか得られない。
【0015】
− 受動免疫法:
【0016】
モノクローナル抗体については、これまでのところ、ブドウ球菌感染を妨げる能力を試験していた。黄色ブドウ球菌の莢膜多糖類5型および8型に対する高レベルのオプソニン化抗体を含有する製剤(AltastaphTM、ナビ・バイオファルマシューティカルズ(Nabi Biopharmaceuticals))が現在臨床試験中である。
【0017】
テイコ酸は、黄色ブドウ球菌の表面に発現するポリマーであり、ブドウ球菌細胞壁の主成分であるウォールテイコ酸(wallteichoic acid;WTA)と、細胞膜に結合するリポテイコ酸(lipoteichoic acid;LTA)の2つの形態が存在する。モノクローナル抗LTA抗体は、現在、コアグラーゼ(coagulase)陰性ブドウ球菌種の抑制能力を試験中である。抗LTAモノクローナル抗体の第一/二相二重盲検プラセボ対照試験により、抗体が早産児において安全で許容されることが実証されたが、これは線形薬物動態を示す。有効性試験は報告されていない。
【0018】
インヒビテックス(Inhibitex)により開発された受動免疫療法であるベロネート(Veronate)は、黄色ブドウ球菌のClfAタンパク質および表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)のSdrGを認識するヒト化モノクローナル抗体を基にしている。これらのモノクローナル抗体は、黄色ブドウ球菌感染の動物モデルにおいてある程度の予防効果を示す。
【0019】
WO2007/145689 A1号国際公開公報には、黄色ブドウ球菌α毒素および薬学的に許容可能な担体を含むワクチンが示され、ここで黄色ブドウ球菌α毒素抗原は、その毒性を減じ、および/または、他の細菌性抗原に結合するか、或いは他の細菌性抗原と共投与してもよい少なくとも2つの変化を含有し得る。このワクチンは、1以上の他の細菌性抗原を含有してもよい。WO2007/145689号では、α溶血素タンパク質は単独で抗原として使用され、および/または、他の黄色ブドウ球菌抗原と化学的に結合される。しかしながら、結合したタンパク質の不利な点は、架橋結合により構造、活性、免疫原性および抗原性に障害を来たすことである。さらに、一緒に混合されるか又は結合される各タンパク質成分は、物理化学的性質が異なるため、精製過程が異なり、精製度が異なり、場合によっては異なる不純物を有する。加えて、異なるタンパク質の間で化学的結合の化学量論を制御することは困難であるため、タンパク質溶液において不均質になる問題が生じる。従って、異なる電荷の同一の品質を維持することは困難である。加えて、タンパク質の結合は、正確に規定することが出来ない、異なる生成物の混合物が生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、以下を可能にする、用途の広いツールを開発することであった:
【0021】
(i) 発現が困難なポリペプチドを過剰生産すること、
【0022】
(ii) 唯一のタンパク質において1〜数種の異種ポリペプチドを同時に提示すること、
【0023】
(iii) 特にブドウ球菌が引き起こす疾病の予防および/または治療のためのワクチン製剤に使用し得る、新規な多価抗原を設計すること、
【0024】
(iv) 抗体開発のための抗原性ソースとして使用し得る新規な多価抗原を設計すること、
【0025】
(v) 天然エピトープおよび/またはミモトープ(mimotope)に対応する異種ポリペプチドに対する抗体産生を誘発すること、
【0026】
(vi) エライザ(ELISA)、ビアコア(Biacore)、バイオセンサー等の種々の技術を使用してタンパク質相互作用を研究するため、リポソーム表面またはあらゆるタイプの脂質層におけるタンパク質の配向固定化システムを提供すること、
【0027】
(vii) 本質的に同じ純度および品質で製造し得る、例えば薬剤またはワクチンとして用いるための、規定したタンパク質を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の課題は、溶血活性を除去するためのステムドメインにおける欠失を有する、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドであって、少なくとも1つの異種配列が、配列番号1の野生型配列に対してアミノ酸第108位〜第151位(部位1)、アミノ酸第1位〜第5位(部位2)、アミノ酸第288位〜第293位(部位3)、アミノ酸第43位〜第48位(部位4)、アミノ酸第235位〜第240位(部位5)、アミノ酸第92位〜第97位(部位6)、アミノ酸第31位〜第36位(部位7)、アミノ酸第156位〜第161位(部位8)で定義される領域からなる群から選択される領域に挿入されている、ただし、異種配列が5以上の連続したヒスチジン残基を含有する場合、前記5以上の連続したヒスチジン残基によって表される部分以外の異種配列の部分は11アミノ酸残基の最小長を有する、上記組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドによって解決される。
【0029】
また、本発明は、前記組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドの変異体であって、ステムドメインにおける前記欠失および異種配列の前記挿入に加えて、配列番号1の野生型配列に対して1〜50のアミノ酸残基が付加、置換または欠失されており、かつオリゴマーを形成し、かつ脂質単分子層および脂質二重層を含む脂質二重層または細胞膜に結合する活性を有する、上記変異体によって解決される。
【0030】
ステムドメインにおける欠失または上記挿入部位への異種配列の挿入は、オリゴマーを形成するか、或いは脂質単分子層及び脂質二重層を含む脂質層または細胞膜に結合する活性を消失させない。
【0031】
異種配列が5以上の連続したヒスチジン残基を含有する場合、前記5以上の連続したヒスチジン残基によって表される部分以外の異種配列の部分は、好ましくは15、さらに好ましくは20、より好ましくは25アミノ酸残基の最小長を有する。
【0032】
さらに好ましい態様では、ステムドメインにおける前記欠失および異種配列の前記挿入に加えて、配列番号1の野生型配列に対して、1〜40のアミノ酸残基、好ましくは1〜25のアミノ酸残基、さらに好ましくは1〜20のアミノ酸残基、さらに好ましくは1〜15のアミノ酸残基、なおさらに好ましくは1〜10のアミノ酸残基、最も好ましくは1〜5のアミノ酸残基が、付加、置換または欠失されており、かつオリゴマーを形成し、かつ脂質単分子層および脂質二重層を含む脂質層または細胞膜に結合する活性を有する、前記組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドの変異体が好ましくは提供される。
【0033】
本発明のさらに好ましい態様では、α溶血素ポリペプチドは、配列番号1の野生型配列に対して、アミノ酸第108位〜第151位(部位1)、アミノ酸第43位〜第48位(部位4)、アミノ酸第235位〜第240位(部位5)、アミノ酸第92位〜第97位(部位6)、アミノ酸第31位〜第36位(部位7)、アミノ酸第156位〜第161位(部位8)で定義される領域からなる群から選択される領域に挿入される、少なくとも1つの異種配列を含む。前記挿入に加えて、組換えα溶血素ポリペプチドは、配列番号1の野生型配列に対して、アミノ酸第1位〜第5位(部位2)および/またはアミノ酸第288位〜第293位(部位3)で定義される領域に挿入された、少なくとも1つのさらなる異種配列を有してもよい。
【0034】
さらにより好ましい態様において、α溶血素ポリペプチドは、配列番号1の野生型配列に対して、アミノ酸第108位〜第151位(部位1)で定義される領域に挿入された、少なくとも1つの異種配列を含む。前記挿入に加えて、組換えα溶血素ポリペプチドは、配列番号1の野生型配列に対して、アミノ酸第1位〜第5位(部位2)、アミノ酸第288位〜第293位(部位3)、アミノ酸第43位〜第48位(部位4)、アミノ酸第235位〜第240位(部位5)、アミノ酸第92位〜第97位(部位6)、アミノ酸第31位〜第36位(部位7)、アミノ酸第156位〜第161位(部位8)で定義される領域からなる群から選択される領域に挿入された、少なくとも1つのさらなる異種配列を有してもよい。
【0035】
上記した通り、本発明による組換えα溶血素ポリペプチドは、ステムドメインに欠失を有し:ステムドメインにおけるこの欠失は、α溶血素の毒性を消失する目的に適い、ポリペプチドが細胞膜において孔をもはや形成しないことによって達成される。ステムドメインは、配列番号1の野生型配列に対して、Thr109からGln150までのアミノ酸配列内に存在する。好ましい態様において、配列番号1の野生型配列に対して、Thr109からGln150までのアミノ酸配列は、部分的または完全に除去される。さらに好ましくは、配列番号1の野生型配列に対して、Thr109からGln150までのアミノ酸配列は、完全に除去される。
【0036】
さらに好ましくは、ステム領域(K110〜Y148)および三角形領域(triangle region)のいくつかのアミノ酸を含む領域(Thr109〜Gln150)が、トリペプチドPGNで置換されている(表1参照)。このトリペプチドのヌクレオチド配列を使用して、α溶血素コード遺伝子のヌクレオチド配列に異種ポリペプチドの挿入部位を作り出す。結果として、タンパク質はその溶血活性を失う。α溶血素の領域Thr109〜Gln150は、大きなポリペプチドの挿入および提示に非常に好適である。これは、この領域の置換がタンパク質の他の生物学的活性(正確なフォールディング(folding)、脂質層への結合、オリゴマー形成)を損傷しないためである。3D構造に関して、本発明者らは、ステムドメイン及びしたがって挿入部位が、三角形領域(triangle region)に対応する天然のリンカーと隣接することを発見した。この領域はタンパク質のコアにステムドメインへの間隔を空け、その結果、他のものと独立した折りたたみ(folding)を有する。このことから、ステムドメインより大きいサイズのポリペプチドの挿入がなお許容される理由が説明される(例えば、PBP2a[配列番号10]およびClfA[配列番号14]による結果を参照)。この特徴を記載する過去のデータは存在しない。
【0037】
本発明の好ましい態様において、異種配列は、5アミノ酸残基、好ましくは少なくとも8、少なくとも10、少なくとも12、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも50、少なくとも75、少なくとも100、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも300アミノ酸残基の最小長を有する。
【0038】
本発明のさらに好ましい態様において、異種配列は、3000アミノ酸残基の最大長、好ましくは2000の最大長、さらに好ましくは1500の最大長、さらにより好ましくは1000の最大長、なおさらに好ましくは500の最大長、さらに好ましくは250の最大長、および最も好ましくは100アミノ酸残基の最大長を有する。
【0039】
本発明のさらに好ましい態様では、組換えα溶血素ポリペプチドは、前記挿入部位の同一箇所に挿入されるか、前記挿入部位の異なる箇所に挿入された、少なくとも2つの異種配列を含む。このことは、2以上の異種配列のそれぞれが、提供された挿入部位に別々に挿入されることを意味する。別の方法として、2以上の異種配列は、連続して配置され、提供された挿入部位に挿入されてもよい。同一または異なる挿入部位に挿入された2以上の異種配列は、同一の配列であっても異なっていてもよい。好ましくは、互いに異なる2以上の異種配列はそれぞれ、提供された挿入部位に別々に挿入される。別の方法として、互いに異なる2以上の異種配列は、連続して配置され、提供された挿入部位に挿入されてもよい。
【0040】
本明細書において、「異種配列」という用語は、α溶血素配列以外のあらゆるアミノ酸配列を言う。「異種配列」または「複数の異種配列」は、ウイルス、細菌、植物、菌類、寄生生物、動物またはヒトを含むあらゆる起源のものであってもよく、さらにまた任意の人工配列であってもよい。異種配列は、B細胞またはT細胞エピトープに対応することもある。また、エピトープの構造を模倣したペプチドである、ミモトープも含む。この特性のため、天然エピトープによって誘発されるものと同じ抗体反応を引き起こす。この場合、天然エピトープは、ペプチドグリカン、テイコ酸、莢膜多糖類等のタンパク質に関係しない高分子に対応することもある。
【0041】
特に好ましい態様において、異種配列または複数の異種配列はブドウ球菌種(Staphylococcus species)、好ましくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のみに由来する。
【0042】
黄色ブドウ球菌ゲノムは、分泌タンパク質、ペプチドグリカンおよび膜に固定されるタンパク質ならびに細胞質タンパク質をコードする、コアおよび補助遺伝子から成る。コアゲノムを含む大多数の遺伝子は、DNA複製、タンパク質合成、および糖質代謝等の、細菌の植物的生活(vegetative life)の中央代謝および他のハウスキーピング機能に関連するものである。これらを補うものは、毒性遺伝子を含む、成長および生存に必須ではない補助遺伝子である。大部分の毒性遺伝子は、以下のものである:
【0043】
(i) 表面結合タンパク質であり、これらの関連タンパク質のいくつかは細胞外基質分子に結合し、接着性基質分子を認識する微生物表面成分(例えばクランピング因子、フィブロネクチン結合タンパク質、コラーゲン結合タンパク質、および骨シアロタンパク質)のMSCRAMMに指定されている。
(ii) ロイコシジン(例えばPVLおよびγ毒素)、莢膜多糖類(例えば、5型および8型)、プロテインA、細胞外接着タンパク質(Eap)等の、宿主防御の回避および/または破壊に関係する毒性因子。
(iii) プロテアーゼ、リパーゼ、ヌクレアーゼ、ヒアルロン酸リアーゼ、ホスホリパーゼC、およびメタロプロテアーゼ等の、組織浸潤および/または侵入に関係する毒性因子。
(iv) エンテロトキシン、毒素性ショック症候群毒素1型、表皮剥脱性毒素AおよびB、α毒素等の毒素媒介性疾患および/または敗血症に関係する毒性因子。
(v) バイオフィルム蓄積、小コロニー変種等の、持続性に関係する毒性因子。
(vi) βラクタマーゼ、耐性ペニシリン結合タンパク質PBP2a等の、抗生物質耐性メカニズムに関係する毒性因子。
(vii) ペプチドグリカン、テイコ酸、リポテイコ酸および莢膜多糖類を含む、種々のブドウ球菌抗原に対応するミモトープ。
【0044】
ミモトープは、抗原エピトープの構造を模倣した、しばしばペプチドである高分子である。免疫化に適用した場合、それらはもっぱら分子擬態の原理に基づく所望の抗体特異性を誘発する。ミモトープの概念は、抗原エピトープを分析する手掛かりを提供するだけでなく、ワクチン開発の新規な方法も提供する。ミモトープは、通常、抗原エピトープを模倣し得るポリペプチド構造を示し、天然の抗原と類似した反応原性を有する。ミモトープが好適な担体と結合した場合、類似の免疫原性を示すことがある(天然の抗原は同一または類似の配列または空間的構造を含まないことがある)。獲得および同定が困難ないくつかの抗原の研究は、それらの抗原エピトープがほぼ決定し得ないことから、実施することは殆どできないが、この問題はそれらのミモトープを得ることで解決することがある。ミモトープは抗原エピトープ分析の手掛かりを提供し、ワクチン開発の新規な方法を与えるが、さらに、立体構造エピトープおよび非タンパク抗原エピトープの研究を促進する。
【0045】
さらに好ましい異種配列または複数の異種配列は、SEB(黄色ブドウ球菌エンテロトキシンB)、TSST(毒素性ショック症候群毒素)、FnBP(フィブロネクチン結合タンパク質)、BlaZ(βラクタマーゼ)、ClfA(クランピング因子A;Clumping Factor A)、PBP2a(ペニシリン結合タンパク質2a)、プロテインA、ブドウ球菌種、好ましくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の全由来物からなる群から選択される。
【0046】
さらに別の特に好ましい態様において、異種配列または複数の異種配列は、配列番号7〜18(表2参照)の配列から選択される。
【0047】
加えて、本発明は、表3による組換えα溶血素ポリペプチドを提供する。
【0048】
さらに特に好ましい態様において、異種配列は、ブドウ球菌種、好ましくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片を含み、前記プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片は、5アミノ酸残基の最小長を有し、かつ完全長のプロテインAと比較して免疫グロブリンGのFcまたはFabドメインに対する結合活性を有さないか、又は低下した結合活性を有する。本発明の好ましい態様において、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片は、5アミノ酸残基、好ましくは少なくとも8、少なくとも10、少なくとも12、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30アミノ酸残基の最小長を有する。
【0049】
本発明のさらに好ましい態様において、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片は、5〜35アミノ酸残基、好ましくは5〜30アミノ酸残基、さらに好ましくは10〜30アミノ酸残基、なおさらに好ましくは10〜25アミノ酸残基の長さを有する。
【0050】
さらに好ましくは、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片は、2以下の完全なαへリックスを含む。
【0051】
本発明のさらに好ましい態様において、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの前記断片は、完全長のプロテインAと比較して、免疫グロブリンGのFcドメインに対する結合活性を有さないか、又は低下した結合活性を有し、かつ免疫グロブリンGのFabドメインに対する結合活性を有さないか、又は低下した結合活性を有する。本発明の特に好ましい態様において、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの前記断片は、免疫グロブリンGのFcドメインに対する有意な結合活性を有さず、かつ免疫グロブリンGのFabドメインに対する有意な結合活性を有さない。
【0052】
プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片をある制限された大きさに選択することにより、断片が有意なFabまたはFc結合活性を有しないことが確実になる。上記した通り、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの結合活性は、3つのαへリックス(ヘリックス1、へリックス2およびヘリックス3)の存在を必要とする。ブドウ球菌に対するワクチン開発のため、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片は、有意なFabまたはFc結合活性を有しない。当業者は、例えば、3つのへリックス束の折畳み(ヘリックス1、へリックス2およびヘリックス3)のうちの1または2以下の完全なヘリックスを含む断片を選択することにより、タンパク質Aの免疫グロブリンG結合ドメインの断片が有意なFabまたはFc結合活性を有さないように、無毒化したHA分子中に挿入される該断片を選択することができるであろう。
【0053】
さらに好ましい態様において、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片は、免疫グロブリンG(IgG)結合ドメインE、D、A、B、およびCのへリックス1、へリックス2およびヘリックス3より選択される、1以下の完全なヘリックスを含む。
【0054】
さらに別の特に好ましい態様において、プロテインAの断片は、配列番号16〜18(表2参照)の配列から選択される。
【0055】
好ましい態様では、本発明の組換えポリペプチドのα溶血素部分は、配列番号3または配列番号5の配列(ICHA I、ICHA II)を有している。加えて、前記組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドの変異体が含まれるが、ここで、α溶血素部分は、配列番号3または配列番号5の配列に対して80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%、最も好ましくは95%以上のアミノ酸同一性を有する。
【0056】
また、本発明は、本発明による上述した組換えα溶血素ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも提供する。さらに、上述した組換えα溶血素ポリペプチドをコードする前記ポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。また、上述した組換えα溶血素ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または上述した組換えα溶血素ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを含む、形質転換体も提供する。
【0057】
組換えポリペプチドは、特に、ブドウ球菌種、特に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)によって引き起こされる疾病の予防および/または治療に使用し得る。上記したポリヌクレオチドまたはベクターは、DNAワクチン接種において使用し得る。
【0058】
また、本発明の課題は、溶血活性を除去するためのステムドメインにおける欠失を有する、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドを含む薬剤またはワクチンであって、少なくとも1つの異種配列がα溶血素ポリペプチドの溶媒曝露ループ(sovent-exposed loop)に挿入されており、異種配列または複数の異種配列はブドウ球菌種、好ましくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)から選択される、上記薬剤またはワクチンによって解決される。異種配列または複数の異種配列は、ハウスキーピングタンパク質、毒性因子(細胞質膜またはペプチドグリカンに対する細胞質性、分泌性及び固定されたタンパク質)、およびペプチドグリカン、テイコ酸、リポテイコ酸および莢膜多糖類を含む、種々のブドウ球菌抗原に対応するミモトープから選択される。
【0059】
本明細書において、「溶媒曝露ループ」("solvent-exposed loop")という用語は、ループを形成しているα溶血素ポリペプチドのアミノ酸配列の各部分が、水性媒体または血液等の体液にさらされ、かつ隣接することを意味する。
【0060】
薬剤またはワクチンの好ましい態様において、異種配列または複数の異種配列は、SEB(黄色ブドウ球菌エンテロトキシンB)、TSST(毒素性ショック症候群毒素)、FnBP(フィブロネクチン結合タンパク質)、BlaZ(βラクタマーゼ)、ClfA(クランピング因子A)、PBP2a(ペニシリン結合タンパク質2a)、プロテインA、ブドウ球菌種、好ましくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の全由来物からなる群から選択される。
【0061】
薬剤またはワクチンの好ましい態様において、異種配列は、配列番号1の野生型配列に対して、アミノ酸第108位〜第151位(部位1)、アミノ酸第1位〜第5位(部位2)、アミノ酸第288位〜第293位(部位3)、アミノ酸第43位〜第48位(部位4)、アミノ酸第235位〜第240位(部位5)、アミノ酸第92位〜第97位(部位6)、アミノ酸第31位〜第36位(部位7)、アミノ酸第156位〜第161位(部位8)で定義される領域からなる群から選択される領域に挿入され、好ましくはアミノ酸第108位〜第151位で定義される領域に挿入される。
【0062】
薬剤またはワクチンのさらに別の特に好ましい態様において、異種配列または複数の異種配列は、配列番号7〜18の配列(表2参照)から選択される。少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つ、さらに好ましくは少なくとも4つの異なる異種配列が配列番号7〜18の配列から選択されることが好ましい。
【0063】
加えて、さらに特に好ましい態様において、薬剤またはワクチンは、表3に示す群から選択される組換えα溶血素ポリペプチドを含む。
【0064】
上記の通り、薬剤またはワクチンに含まれる、本発明による組換えα溶血素ポリペプチドは、ステムドメイン中、即ち、配列番号1の野生型配列に対して、Thr109からGln150までのアミノ酸配列の中に欠失を有する。好ましい態様において、配列番号1の野生型配列に対して、Thr109からGln150までのアミノ酸配列は、部分的または完全に除去される。さらに好ましくは、配列番号1の野生型配列に対して、Thr109からGln150までのアミノ酸配列は、完全に除去される。
【0065】
薬剤またはワクチンの好ましい形態では、本発明の組換えペプチドのα溶血素部分は、配列番号3または配列番号5の配列(ICHA I、ICHA II)を有している。加えて、前記組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドの変異体が含まれるが、ここで、α溶血素部分は、配列番号3または配列番号5の配列に対して80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%、最も好ましくは95%以上のアミノ酸同一性を有する。
【0066】
薬剤またはワクチンの好ましい態様には以下の条件があり、異種配列が5以上の連続したヒスチジン残基を含有する場合、前記5以上の連続したヒスチジン残基によって表される部分以外の異種配列の部分は、11アミノ酸残基の最小長を有する。
【0067】
異種配列が5以上の連続したヒスチジン残基を含有する場合、前記5以上の連続したヒスチジン残基によって表される部分以外の異種配列の部分は、好ましくは15、さらに好ましくは20、より好ましくは25アミノ酸残基の最小長を有する。
【0068】
本発明による薬剤またはワクチンに含まれる組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドは、組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドについての上述の特徴のいずれか1つ以上を含んでもよい。
【0069】
また、薬剤またはワクチンは、前記組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドの変異体であって、ステムドメインにおける前記欠失および異種配列の前記挿入に加えて、配列番号1の野生型配列に対して1〜50のアミノ酸残基が付加、置換または欠失され、かつオリゴマーを形成し、かつ脂質単分子層および脂質二重層を含む脂質層または細胞膜に結合する活性を有する、上記変異体を含む。さらに好ましい態様において、前記組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドの変異体は、好ましくは、ステムドメインにおける前記欠失および異種配列の前記挿入に加えて、配列番号1の野生型配列に対して付加、置換または欠失される、1〜40のアミノ酸残基、さらに好ましくは1〜25のアミノ酸残基、さらになお好ましくは1〜20のアミノ酸残基、さらにまた好ましくは1〜15のアミノ酸残基、特に好ましくは1〜10のアミノ酸残基、および最も好ましくは1〜5のアミノ酸残基を有し、かつオリゴマーを形成し、かつ脂質単分子層および脂質二重層を含む脂質層または細胞膜に結合する活性を有する。
【0070】
担体タンパク質として標的病原体の抗原を使用して、単一タンパク質としての多価ワクチンを合成することは、体液性および/または細胞性免疫応答を誘発することによって、黄色ブドウ球菌等の複雑な感染性因子の発病を予防するのに有利である。
【0071】
本発明では、組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドは、抗体の調製に使用してもよい。抗体の調製に組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドを使用する場合、好ましくは、α溶血素に対する抗体と各異種配列または複数の異種配列に対する抗体とを含む、抗体の混合物が得られる。ブドウ球菌による疾患に対する抗体の混合物による受動免疫化を目的とする場合、異種配列または複数の異種配列は全てブドウ球菌に由来する。
【0072】
別の方法において、種々の抗原に対する抗体は、分離してもよい。さらに、モノクローナル抗体もまた、当業者によく知られている方法で調製してもよい。
【0073】
また、本発明による組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドは、異種配列に結合する物質を検出および/または選択するためのアッセイ、好ましくは異種配列に対する抗体を検出するためのアッセイにも使用してもよい。従って、組換えポリペプチドは、例えばファインケミカル、ペプチドまたはタンパク質等の、異種配列に結合するリガンドのスクリーニングに好適である。また、組換えポリペプチドは、エピトープのマッピングにも好適である。さらなる応用は、例えば血液または血清サンプル等のサンプル中の、異種配列に対する抗体を検出するための、組換えポリペプチドの使用である。このようなアッセイにおいて、本発明による組換えα溶血素ポリペプチドは、固体支持体に結合するリポソームに結合してもよい。リポソームの固体支持体への結合は、好ましくは、アビジン/ストレプトアビジン結合によって達成されてもよい。好適な固体支持体は、マルチウェルプレートのウェル表面であってもよい。
【0074】
本発明による組換えポリペプチドの利点は、以下の点である:
【0075】
(i) 発現が困難なポリペプチドを過剰に製造し得る。
【0076】
(ii) 1つからいくつかの異種ポリペプチドが、単一のタンパク質において同時に提示されてもよく;ここで提示は、融合中、および、担体タンパク質(本発明によるα溶血素)の溶媒曝露ループ中で実施される。
【0077】
(iii) 特にブドウ球菌による疾病の予防および/治療のためのワクチン製剤において使用し得る、多価抗原を設計し得る。
【0078】
(iv) 抗体開発および調製のための抗原のソースとして使用し得る、多価抗原を設計し得る。
【0079】
(v) 天然のエピトープおよび/またはミモトープに対応する異種ポリペプチドに対する抗体産生を誘発し得る。
【0080】
(vi) エライザ(ELISA)、ビアコア(Biacore)、バイオセンサー等の種々の技術を使用してタンパク質相互作用を研究するため、リポソーム表面またはあらゆるタイプの脂質層におけるタンパク質の配向固定化システムが提供される。リポソーム表面でのタンパク質の固定化は、キャリア部分(α溶血素)とリポソーム等の脂質層との相互作用による。また、このシステムは、ワクチン開発および抗体開発においてリポソームアジュバントを使用する際にも有望である。
【0081】
さらに、本発明の組換えポリペプチドは、ランダム化タンパク質断片ライブラリの提示に使用してもよい。親ドメイン(parent domain)(本発明により構築された通りのα溶血素)は、ランダムタンパク質断片ライブラリを提示する骨格として働き得る。異種タンパク質またはポリペプチド断片は、タンパク分解に対して、立体配座的に制限され、安定化され、かつ保護されていることが期待される。ファージディスプレイ、細菌ディスプレイ、リボソームディスプレイおよび酵母ディスプレイを使用することによって、このアプローチは、抗原断片ライブラリの作成および、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体によって認識されるエピトープのマッピングに使用し得る。本発明の組換えポリペプチドは、エピトープのマッピングのためだけではなく、イムノアッセイ開発においても新たなツールを構成する。
【0082】
加えて、一本鎖タンパク質としての組換えα溶血素ポリペプチドは、いくつかの組換えタンパク質から成るワクチンより、製造コストが低く、実用的な製造方法の利点を有し、品質管理試験がより簡単である。従って、組換えα溶血素ポリペプチドは、薬剤およびワクチンとして特に有用である。
【0083】
本発明の代替の態様は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドであって、溶血活性を除去するためのステムドメインにおける欠失を有し、許容部位に挿入されたブドウ球菌種、好ましくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片を含有するものを対象にする。以下に説明する通り、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの前記断片は、5アミノ酸残基の最小長を有し、かつ完全長のプロテインAと比較して免疫グロブリンGのFcまたはFabドメインに対する結合活性を有さないか、または低下した結合活性を有する。
【0084】
ブドウ球菌プロテインA(SpA)は、黄色ブドウ球菌(S. aureus)の病原性において重要な役割を担う。SpAは42 kDaのタンパク質であり、種々の機能を有するいくつかの領域を含む(図14):spaタイピングに使用される反復領域Wr、細菌細胞膜へのアンカリングをもたらすWc領域、N-末端部分のシグナル配列(S領域)、並びに65〜90%のアミノ酸配列同一性を有する、E、D、A、BおよびCと指定される4または5の高相同性を示す免疫グロブリンG(IgG)結合ドメイン(図15)。文献に報告されたSpAのZドメインは、IgG結合ドメインBの遺伝子工学的アナログである。これらのドメインの大きさは比較的小さく;それぞれ〜58アミノ酸残基を含有する。これらのドメインの2つである、BおよびEドメインの溶液構造は、非常に類似したZドメインと同様に、NMR分光法によって決定されている。これらの構造解析により、これらのIgG結合ドメインが古典的な「上下の」("up-down")3つのへリックス束の折畳みを採用していることが示された。結晶学およびNMRの研究により、ヘリックス1とへリックス2はIgのFc部分と相互作用し、一方、へリックス2とヘリックス3はIgのFabドメインに結合することが示された。また、これらの研究により、SpA Ig結合ドメインの結合活性は3つのヘリックスの存在を必要とし、その3D構造に依存することも示された。
【0085】
SpAの結合活性は、細菌細胞をIgGで包み込むように作用するため、好中球上のFc受容体とのあらゆる相互作用をブロックし、食作用を妨げる。IgGのFc領域との結合と同様に、それぞれのSpAドメインもまた多くのIgM、IgA、IgG、およびIgE分子のVH3 Fab断片と重鎖を通して相互作用するが、これは抗体の抗原結合部位を妨げない。Fabと結合するこの能力のため、SpAはB細胞スーパー抗原として働き、B細胞レパートリーの増殖およびそれに続く欠失を誘導する。SpA結合IgGもまた古典的な経路で補体結合を阻害する。
【0086】
黄色ブドウ球菌(S. aureus)感染に対するワクチンの候補として、SpAは過去には全く使用されなかった。ワクチン製剤におけるSpAの使用に関する問題は、SpAが免疫グロブリンのFc部分に結合し、ゆえに免疫系を免れ、B細胞レパートリーの欠失を引き起こす能力に関係する。本発明者らが実施したICHA I 009を使用する免疫化アッセイにより、ICHAへのSpAの機能性Ig結合ドメインの提示は、抗SpA抗体の誘導を引き起こさなかったことが確認された(データは示さず)。
【0087】
ヒトのワクチンにおいて機能性SpA Ig結合ドメインの使用に関連する別の問題は、自己抗体の出現によって特徴付けられる、抗イディオタイプ応答を引き起こすリスクである。これは、抗SpA抗体のパラトープが免疫系を刺激して、抗原の構造的および生物学的特性を模倣したパラトープを提示する二次抗体を産生する場合に起こる。
【0088】
抗イディオタイプ抗体は、特定の抗体の可変領域または一群の関連抗体の可変領域で発現されるイディオタイプ決定基(パラトープ)を認識する。特定の抗原に対する反応を支配する抗体の発現を制御するために、抗イディオタイプ抗体を発現させることが提案されている。これらの優性抗体を発現するB細胞の抑制は、別の可変領域配列を用いた他の抗体の増殖を可能にし、最終的には、抗体反応を多様化するであろう。通常は抗イディオタイプ抗体の発現が、それらが反応している抗体の発現が減少するに連れて下降する一方で、自己IgGのように偏在するものと交差反応する抗イディオタイプ抗体は、継続的に増殖する可能性を有する。
【0089】
従って、本発明のさらなる目的は、最先端技術の欠点を伴わない、プロテインAを基礎とするワクチンを提供することであった。
【0090】
従って、本発明はまた、溶血活性を除去するためのステムドメインにおける欠失を有する、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドであって、少なくとも1つの異種配列が許容部位に挿入され、異種配列は、ブドウ球菌種、好ましくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片を含み;プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの前記断片は5アミノ酸残基の最小長を有し、かつ完全長のプロテインAと比較して免疫グロブリンGのFcまたはFabドメインに対する結合活性を有さないか、または低下した結合活性を有する、上記組換え一本鎖α溶血素ポリペプチド;
または、その変異体であって、ステムドメインにおける前記欠失および異種配列の前記挿入に加えて、配列番号1の野生型配列に対して1〜50のアミノ酸残基が付加、置換または欠失され、かつオリゴマーを形成し、かつ脂質単分子層及び脂質二重層を含む脂質二重層または細胞膜に結合する活性を有する、上記変異体
を提供する。
【0091】
本発明のさらに好ましい態様において、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの前記断片は、完全長のプロテインAと比較して免疫グロブリンGのFcドメインに対する結合活性を有さないか、又は低下した結合活性を有し、かつ免疫グロブリンGのFabドメインに対する結合活性を有さないか、又は低下した結合活性を有する。本発明の特に好ましい態様において、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの前記断片は、免疫グロブリンGのFcドメインに対する有意な結合活性を有さず、かつ免疫グロブリンGのFabドメインに対する有意な結合活性を有さない。
【0092】
免疫グロブリン分子のFcまたはFab領域と相互作用するSpAの能力が、本発明の組換えα溶血素ポリペプチドでは著しく低下するか、或いは消失するため、上記の欠点を克服し、ブドウ球菌抗原、特にブドウ球菌プロテインA抗原に対して抗体を誘起することが可能であり、哺乳動物をブドウ球菌に対して、はるかにより効率的にワクチン接種することが可能である。
【0093】
上記した通り、ステムドメインにおける欠失および異種配列の上記挿入部位への挿入は、オリゴマーを形成する活性、または、脂質単分子層および脂質二重層を含む脂質層または細胞膜に結合する活性を消失しない。
【0094】
本発明の好ましい態様において、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片は、5アミノ酸残基、好ましくは少なくとも8、少なくとも10、少なくとも12、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30アミノ酸残基の最小長を有する。
【0095】
本発明のさらに好ましい態様において、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片は、5〜35アミノ酸残基、好ましくは5〜30アミノ酸残基、さらに好ましくは10〜30アミノ酸残基、さらになお好ましくは10〜25アミノ酸残基の長さを有する。
【0096】
さらに好ましくは、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片は、2以下の完全なαへリックスを含む。
【0097】
プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片をある制限された大きさに選択することにより、断片が有意なFabまたはFc結合活性を有しないことを確実にする。上記した通り、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの結合活性は、3つのαへリックス(ヘリックス1、へリックス2およびヘリックス3)の存在を必要とする。ブドウ球菌に対するワクチン開発のためには、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片は、有意なFabまたはFc結合活性を有してはならない。当業者は、例えば、3つのへリックス束の折畳み(ヘリックス1、へリックス2およびヘリックス3)のうちの1または2以下の完全なヘリックスを含む断片を選択することにより、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片が有意なFabまたはFc結合活性を有しないように、解毒したHA分子中に挿入される該断片を選択することができるであろう。
【0098】
さらに好ましい態様において、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片は、免疫グロブリンG(IgG)結合ドメインE、D、A、BおよびCのへリックス1、へリックス2およびヘリックス3から選択される、1以下の完全なヘリックスの配列を含む。
【0099】
さらに別の特に好ましい態様において、プロテインAの断片は、配列番号16〜18(表2参照)の配列から選択される。
【0100】
別の好ましい態様において、許容部位は、好ましくは、配列番号1の野生型配列に対して、アミノ酸第108位〜第151位、アミノ酸第1位〜第5位、アミノ酸第288位〜第293位、アミノ酸第43位〜第48位、アミノ酸第235位〜第240位、アミノ酸第92位〜第97位、アミノ酸第31位〜第36位、アミノ酸第156位〜第161位で定義される領域からなる群から選択される、溶媒曝露ループ内に位置する。
【0101】
本明細書において、「溶媒曝露ループ」("solvent-exposed loop")という用語は、ループを形成している、α溶血素ポリペプチドのアミノ酸配列の各部分が、水性媒体または血液等の体液にさらされ、かつ隣接することを意味する。
【0102】
本発明のさらに好ましい態様は、α溶血素ポリペプチドの許容部位が、配列番号1の野生型配列に対して、アミノ酸第108位〜第151位(部位1)、アミノ酸第43位〜第48位(部位4)、アミノ酸第235位〜第240位(部位5)、アミノ酸第92位〜第97位(部位6)、アミノ酸第31位〜第36位(部位7)、アミノ酸第156位〜第161位(部位8)で定義される領域からなる群から選択される領域に位置することである。
【0103】
なおさらに好ましい態様において、α溶血素ポリペプチドは、配列番号1の野生型配列に対して、アミノ酸第108位〜第151位(部位1)で定義される領域に挿入された前記異種配列を含む。
【0104】
上記した通り、本発明による組換えα溶血素ポリペプチドは、ステムドメインに欠失を有し:ステムドメインにおけるこの欠失は、α溶血素の毒性を消失する目的に適い、ポリペプチドが細胞膜においてもはや孔を形成しないことによって達成される。ステムドメインは、配列番号1の野生型配列に対して、Thr109からGln150までのアミノ酸配列内に存在する。好ましい態様において、配列番号1の野生型配列に対して、Thr109からGln150までのアミノ酸配列は、部分的または完全に除去される。さらに好ましくは、配列番号1の野生型配列に対して、Thr109からGln150までのアミノ酸配列は、完全に除去される。
【0105】
さらに好ましくは、ステム領域(K110〜Y148)および三角形領域のいくつかのアミノ酸を含む領域(Thr109〜Gln150)が、トリペプチドPGNで置換されている(表1参照)。このトリペプチドのヌクレオチド配列を使用して、α溶血素コード遺伝子のヌクレオチド配列に異種ポリペプチドの挿入部位を作り出す。結果として、タンパク質はその溶血活性を失う。α溶血素の領域Thr109〜Gln150は、大きなポリペプチドの挿入および提示に非常に好適である。これは、この領域の置換がタンパク質の他の生物学的活性(正確なフォールディング、脂質層への結合、オリゴマー形成)を損傷しないためである。3D構造に関して、本発明者らは、ステムドメイン、及びしたがって挿入部位が、三角形領域(triangle region)に対応する天然のリンカーと隣接することを発見した。この領域はタンパク質のコアにステムドメインへの間隔を空け、その結果、他のものと独立した折りたたみ(folding)を有する。
【0106】
さらに別の好ましい態様において、α溶血素部分は、配列番号3の配列(ICHA I)または配列番号5の配列(ICHA II)、またはそれらの変異体であって、α溶血素部分が配列番号3または配列番号5の配列に対して85%、好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上のアミノ酸同一性を有する、該変異体を有する。
【0107】
また、本発明は、溶血活性を除去するためのステムドメインにおける欠失を有する、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドであって、少なくとも1つの異種配列が許容部位に挿入され、異種配列は、ブドウ球菌種、好ましくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片を含み;プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの前記断片は、5アミノ酸残基の最小長を有し、かつ完全長のプロテインAと比較して免疫グロブリンGのFcまたはFabドメインに対する結合活性を有さないか、又は低下した結合活性を有する、上記組換え一本鎖α溶血素ポリペプチド;又はその変異体であって、ステムドメインにおける前記欠失および異種配列の前記挿入に加えて、配列番号1の野生型配列に対して1〜50のアミノ酸残基が付加、置換または欠失され、かつオリゴマーを形成し、かつ脂質単分子層及び脂質二重層を含む脂質二重層または細胞膜に結合する活性を有する、上記変異体
をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0108】
また、本発明は、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、および前記ポリヌクレオチドまたは前記ベクターを含む形質転換体にも言及する。
【0109】
組換えポリペプチドは、ブドウ球菌種、特に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)による予防および/または治療に使用し得る。上記ポリヌクレオチドまたはベクターは、DNAワクチン接種に使用し得る。
【0110】
さらに、本発明は、溶血活性を除去するためのステムドメインにおける欠失を有する、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドであって、少なくとも1つの異種配列が許容部位に挿入され、異種配列はブドウ球菌種、好ましくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片を含み;プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの前記断片は、5アミノ酸残基の最小長を有し、かつ完全長のプロテインAと比較して免疫グロブリンGのFcまたはFabドメインに対する結合活性を有さないか、又は低下した結合活性を有する、上記組換え一本鎖α溶血素ポリペプチド;
または、その変異体であって、ステムドメインにおける前記欠失および異種配列の前記挿入に加えて、配列番号1の野生型配列に対して1〜50のアミノ酸残基が付加、置換または欠失され、かつオリゴマーを形成し、かつ脂質単分子層及び脂質二重層を含む脂質二重層または細胞膜に結合する活性を有する、上記変異体
を含む薬剤又はワクチンを提供する。
【0111】
本発明の薬剤のさらに好ましい態様において、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの前記断片は、完全長のプロテインAと比較して免疫グロブリンGのFcドメインに対する結合活性を有さないか、又は低下した結合活性を有し、かつ免疫グロブリンGのFabドメインに対する結合活性を有さないか、又は低下した結合活性を有する。本発明の特に好ましい態様において、プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの前記断片は、免疫グロブリンGのFcドメインに対する有意な結合活性を有さず、かつ免疫グロブリンGのFabドメインに対する有意な結合活性を有さない。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1−1】図1は、7量体形態のα溶血素の3次元構造を示す(パネルA)。パネルBは、マルチマーにおける、モノマー構造を示す。パネルCは、三角領域の拡大図を示す。Asp103〜Thr109およびVal149〜Asp152の残基によって形成される三角領域は、βサンドイッチコア(β-sandwich core)にステムドメイン(stem domain)(残基Lys110〜Tyr148)を結合する。
【図1−2】図1は、7量体形態のα溶血素の3次元構造を示す(パネルA)。パネルBは、マルチマーにおける、モノマー構造を示す。パネルCは、三角領域の拡大図を示す。Asp103〜Thr109およびVal149〜Asp152の残基によって形成される三角領域は、βサンドイッチコア(β-sandwich core)にステムドメイン(stem domain)(残基Lys110〜Tyr148)を結合する。
【図2】図2は、ICHA、ICHA IおよびICHA IIの構造を示す。1〜8の数字は、挿入部位が作られた種々のタンパク質領域に対応する。
【図3】図3は、変性条件下でのHAおよびICHA Iの製造および精製を示す。パネルAは、HAの精製の間に調製したサンプルの、クマシー(coomassie)染色したSDS-PAGEを示す。レーンM、示したタンパク質の大きさの分子量マーカー;レーンTE、過剰発現させたHAを含有する不溶性画分より形成した上澄;レーンIB、封入体;レーンP、IMACクロマトグラフィーによって精製したHAタンパク質。パネルBは、ICHAの精製の間に調製したサンプルの、クマシー(coomassie)染色したSDS-PAGEを示す。レーンM:示したタンパク質の大きさの分子量マーカー;レーンS:37℃で1 mM IPTGで組換えタンパク質発現誘導を4時間行った後、pET28b-ICHAで形質転換した大腸菌BL21(DE3)から単離した可溶性画分;レーンIB:封入体;レーンP:IMACクロマトグラフィーによって精製したICHA Iタンパク質。
【図4】図4は、ICHA I、ICHA IIの溶血活性がないことを示す、溶血アッセイを示す。
【図5】図5は、ウサギ赤血球の存在下での、HA、ICHA IおよびICHA I 008の結合およびオリゴマー形成を示す。
【図6】図6は、HAおよびICHA Iのウサギ赤血球への結合を示す。
【図7】図7は、190〜250nmの波長領域にわたって実施した、遠紫外円偏光二色性スペクトルを示す。
【図8】図8は、280nmの励起波長を用いた、HA、ICHA IおよびICHA IIの内在蛍光を示し、発光スペクトルを300から400 nmまで記録した。
【図9−1】図9は、ClfA(501-559)およびICHA I 008を用いた免疫化に対する応答における、ClfA(501-559)に対する抗体産生に関する結果を示す。免疫化はBALB/cマウスで実施した。パネルAは、全IgG抗ClfAの血清タイトレーション(serotitration)曲線に対応する。パネルBは、全IgG抗ClfAの誘導動態に対応する。パネルCは、陽性のIgG抗ClfA応答を発現する免疫化BALB/cマウスのパーセンテージを示す。
【図9−2】図9は、ClfA(501-559)およびICHA I 008を用いた免疫化に対する応答における、ClfA(501-559)に対する抗体産生に関する結果を示す。免疫化はBALB/cマウスで実施した。パネルAは、全IgG抗ClfAの血清タイトレーション(serotitration)曲線に対応する。パネルBは、全IgG抗ClfAの誘導動態に対応する。パネルCは、陽性のIgG抗ClfA応答を発現する免疫化BALB/cマウスのパーセンテージを示す。
【図10−1】図10は、ICHA I 014を用いた免疫化に対する応答における、プロテインA(224-248)に対する抗体産生に関する結果を示す。免疫化はBALB/cマウスで実施した。パネルAは、全IgG抗HAの血清タイトレーション(serotitration)曲線に対応する。パネルBは、全IgG抗プロテインA(224-248)の誘導動態に対応する。パネルCは、70日目で陽性のIgG抗HAおよび抗プロテインA(224-248)応答を発現する、免疫化BALB/cマウスのパーセンテージを示す。
【図10−2】図10は、ICHA I 014を用いた免疫化に対する応答における、プロテインA(224-248)に対する抗体産生に関する結果を示す。免疫化はBALB/cマウスで実施した。パネルAは、全IgG抗HAの血清タイトレーション(serotitration)曲線に対応する。パネルBは、全IgG抗プロテインA(224-248)の誘導動態に対応する。パネルCは、70日目で陽性のIgG抗HAおよび抗プロテインA(224-248)応答を発現する、免疫化BALB/cマウスのパーセンテージを示す。
【図11】図11は、ICHA I 014を用いた免疫化に対する応答における、全プロテインAに対する抗体産生に関する結果を示す。免疫化はBALB/cマウスで実施した。パネルAは、血清タイトレーション(serotitration)の実施に使用した手法を説明する。パネルBは、0日目および70日目における、全IgG抗プロテインAの血清タイトレーション(serotitration)に対応する。
【図12】図12は、ICHA I 003を用いた免疫化の後に得られた、ウサギポリクローナル血清の血清タイトレーション(serotitration)を示す。PreおよびImmは、それぞれ、免疫化前の血清および3回の注射後に得た(72日目)血清に対応する。血清タイトレーション(serotitration)は、HA、およびエピトープSEBまたはエピトープTSST-1のいずれかを含有する2つの異なるMBP融合タンパク質に対して行った。
【図13】図13は、HAに対する抗体の中和を誘導する、ICHA I 003でのウサギの免疫化に関する結果を示す。PreおよびImmは、それぞれ、免疫化前の血清および3回の注射後に得た血清に対応する。図4で説明した手順に従って、溶血アッセイを実施した。
【図14】図14は、ブドウ球菌のプロテインAの構造的構成を示す。「S」はシグナル配列を表し;「W」は壁貫通領域(wall-spanning region)を表し;「Wr」はオクタペプチドの反復からなり、「Wc」は非反復領域である。「A、B、C、D、E」は細胞外領域を表す。
【図15】図15は、5つの自然発生ブドウ球菌プロテインAドメインのアミノ酸配列のアラインメントを示す。3つのαヘリックスは、矢印で区切られている。
【図16】図16は、マウス抗ClfAモノクローナル抗体に対する、SpA(ブドウ球菌プロテインA)誘導体であるICHAポリトープのエライザ(ELISA)反応性を示す。全免疫グロブリン結合ドメイン(ICHA I 009)およびSpAドメインの3つのαヘリックスを、マイクロタイターELISAプレート中にコートした。タンパク質ICHA I 000を対照とした。ELISA試験において、マウスIgG抗体の認識について、5つのポリエピトープを試験した。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)で標識したヤギ抗マウスIgGを用いて、結合した抗体を検出した。反応は、TMB基質を用いて10分間行い、1M H2SO4を添加して酵素反応を停止させ、450nmの吸光度を測定した。
【発明を実施するための形態】
【0113】
詳細な説明および定義
本発明は、不活化担体溶血素α(Inactivated Carrier Hemolysin Alpha)、ICHAと称する、遺伝子工学的形態のブドウ球菌α溶血素(HA)の開発に関する。ICHAコード遺伝子は、溶血素α(HA)のコード配列に多数の制限酵素認識部位を挿入すること、および、HA断片Thr109-Glu150をコードするヌクレオチド配列をさらなる制限酵素認識部位で置換することによって得られた。得られたタンパク質は、その溶血活性を失うが、なおも、脂質層と相互作用し、オリゴマーを形成し、かつHAに対する中和抗体を誘導する能力がある。ICHAコード遺伝子において作られる制限酵素認識部位は、担体タンパク質の表面で少なくとも1つの異種ポリペプチドを提示するために使用される許容挿入部位に対応する。異種ポリペプチドは、ICHAとの融合またはICHA中への融合において提示され得る。提示されたポリペプチドは、ペプチド、タンパク質断片またはタンパク質であり得る。
【0114】
本明細書において、「異種配列」という用語は、α溶血素配列以外のあらゆるアミノ酸配列を言う。「異種配列」または「複数の異種配列」は、ウイルス、細菌、植物、菌類、寄生生物、動物またはヒトを含むあらゆる起源のものであってもよく、又はさらに任意の人工的配列であってもよい。特に好ましい態様において、異種配列または複数の異種配列は、ブドウ球菌種、好ましくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のみに由来する。異種配列は、B細胞またはT細胞エピトープに対応することもある。また、エピトープの構造を模倣したペプチドである、ミモトープも含む。この特性のため、天然エピトープによって誘発されるものと同じ抗体反応を引き起こす。この場合、この天然エピトープは、ペプチドグリカン、テイコ酸、リポテイコ酸、莢膜多糖類等のタンパク質に関係しない高分子に対応することもある。
【0115】
本明細書において、「許容部位」という用語は、このような許容部位における配列の挿入が、本発明において定義されるα溶血素ポリペプチド構築物(溶血活性が除去されている)の特徴および活性を有意に変化させないことを意味する。ここで許容部位は、好ましくは溶媒曝露ループ(solvent-exposed loop)内部に位置し、さらに好ましくは、配列番号1の野生型配列に対して、アミノ酸第108位〜第151位、アミノ酸第1位〜第5位、アミノ酸第288位〜第293位、アミノ酸第43位〜第48位、アミノ酸第235位〜第240位、アミノ酸第92位〜第97位、アミノ酸第31位〜第36位、アミノ酸第156位〜第161位で定義される領域からなる群から選択される、溶媒曝露ループ内に位置する。
【0116】
本明細書において、「溶媒曝露ループ」("solvent-exposed loop")という用語は、ループを形成している、α溶血素ポリペプチドのアミノ酸配列の各部分が、水性媒体または血液等の体液にさらされ、かつ隣接することを意味する。
【0117】
本発明のポリペプチドの製造
本発明のポリペプチドは、例えば、当該分野で知られている組換え方法および技術を使用して製造し得る。本明細書にはそれらの製造の具体的な技術が記載されているが、これらのポリペプチドの製造に好適な全ての適切な技術は本発明の範囲内であると意図されることを理解すべきである。
【0118】
一般に、これらの技術としては、DNAおよびタンパク質のシークエンシング、クローニング、発現、および、本発明のペプチドをそれぞれコードおよび発現する原核生物および真核生物ベクターの構築を可能にする、他の組換え工学技術が挙げられる。
【0119】
本発明のポリペプチドは、目的となるポリペプチドをコードする核酸(ポリヌクレオチド)の発現によって製造してもよい。コードされるポリペプチドの発現は、当該分野でよく知られている技術によって、細菌、酵母、植物、昆虫または哺乳類宿主において行ってもよい。また、ポリペプチドは、化学合成、または転写/翻訳機構の細胞抽出物または精製タンパク質を用いるイン・ビトロ転写/翻訳によっても得ることができる。
【0120】
1つの態様において、本発明の目的となるポリペプチドは、DNA配列をベクター中にクローニングすることによって得られる。宿主細胞を改変核酸で形質転換し、コードされるポリペプチドを発現させる。
【0121】
DNAをベクター中にクローニングし、ポリヌクレオチドを挿入、削除および改変し、並びに部位指定変異導入を行う方法は、例えば、上記参照のプロメガ・プロトコルズ・アンド・アプリケーションズ・ガイド(Promega Protocols and Applications Guide)に記載されている。細胞または細菌は、特に熱ショック、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿およびリポフェクション等を含む公知の技術により、それに結合される所望のDNA配列を有するベクター、好ましくは発現ベクターでトランスフェクトしてもよい。その後、末端ペプチドまたは他のアナログまたは断片は、例えば高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、イオン交換クロマトグラフィーまたはゲル浸透クロマトグラフィーによって抽出および精製してもよい。しかしながら、本発明のペプチドを得るために必要な種々の工程またはこれらの工程の組合せ、または同等の工程を実施する、当該分野で知られている他の方法および技術は、本発明の範囲内にあると考えられる。
【0122】
以下の用語は、2以上の核酸またはポリヌクレオチドの間の配列関係を記述するために使用される:「参照配列」、「比較ウインドウ」、「配列同一性」、「配列同一性のパーセンテージ」および「実質的同一性」。「参照配列」は、配列比較の基準として使用される定義された配列であり;参照配列は、例えば完全長cDNAまたは配列表に与えられる遺伝子配列の断片としての、より大きい配列のサブセットであってもよく、または、完全なcDNAまたは遺伝子配列を含んでもよい。
【0123】
比較ウインドウを並べるための配列の最適なアラインメントは、例えば、スミス(Smith)およびウォーターマン(Waterman)の部分的相同性アルゴリズム、Adv. Appl. Math. 2:482 (1981)、ニードルマン(Needleman)およびブンシュ(Wunsch)の相同性アラインメントアルゴリズム、J. Mol. Biol. 48:443 (1970)、ペアソン(Pearson)およびリプマン(Lipman)の類似法の探索、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:2444 (1988)、またはこれらのアルゴリズムのコンピューター処理の実行(ウィスコンシン・ジェネティクス・ソフトウェア・パッケージ・リリース(Wisconsin Genetics Software Package Release)7.0におけるGAP、BESTFIT、FASTA、および TFASTA、ジェネティクス・コンピュータ・グループ(Genetics Computer Group)、米国ウィスコンシン州、マディソン575、サイエンス・ドクター(Science Dr.))により実施してもよい。
【0124】
ポリペプチドに適用される場合、「実質的同一性」または「実質的配列同一性」という用語は、2つのペプチド配列が、デフォルトギャップ重量(default gap weights)を用いたプログラムであるGAPまたはBESTFITになどによって最適に並べた場合に、少なくとも80%の配列同一性、好ましくは少なくとも90%以上の配列相同性を共有することを意味する。「パーセンテージアミノ酸同一性」("percentage amino acid identity")または「パーセンテージアミノ酸配列同一性」("percentage amino acid sequence identity")は、最適に並べた場合に、およそ指定されたパーセンテージの同一のアミノ酸を有する、2つのポリペプチドのアミノ酸の比較を指す。例えば、「95%のアミノ酸同一性」とは、最適に並べた場合に、95%のアミノ酸同一性を有する2つのポリペプチドのアミノ酸の比較を言う。好ましくは、同一ではない残基の位置は、保存アミノ酸の置換により異なる。例えば、電荷または極性等の類似した化学的特性を有するアミノ酸の置換は、タンパク質の特性に影響しないようである。例えば、アスパラギンに対するグルタミンまたはアスパラギン酸に対するグルタミン酸が挙げられる。
【0125】
「実質的に精製された」または「単離された」という用語は、ペプチドまたはタンパク質に言及する場合、他の細胞成分を実質的に含まない化学組成物を意味する。好ましくは均一状態であるが、乾燥または水溶液中のいずれかであり得る。純度および均一性は、一般的には、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィー等の分析化学技術を用いて測定する。調製物中に存在する主たる種であるタンパク質は、実質的に精製される。一般に、実質的に精製または単離されたタンパク質は、調製物中に存在する全ての高分子種の80%超を含むであろう。好ましくは、タンパク質は、存在する全ての高分子種の90%超相当に精製される。より好ましくは、タンパク質は95%を超えるまで精製され、最も好ましくは、タンパク質は実質的に均一に精製されるが、ここで他の高分子種は従来技術で検出されない。
【0126】
本発明の核酸
また本明細書では、本発明のペプチドをコードするDNAまたはRNA配列(ポリヌクレオチド)を含む、単離した核酸も提供される。本発明の核酸は、本発明のペプチドの発現のためのベクターをさらに含んでもよい。当業者には、遺伝コードの縮重(degeneracy)のため、コードされるアミノ酸配列において変化を起こさない、ヌクレオチド配列における置換を行ってもよいことが理解される。さらに、当業者には、本明細書に記載されたあらゆるDNA分子の両相補鎖が本発明の範囲に含まれることが理解される。
【0127】
本明細書において、「ベクター」という用語は、ポリヌクレオチドでできた媒介体(ビヒクル;vehicle)、または目的とするポリヌクレオチド配列若しくは遺伝子を標的細胞に運び得るポリヌクレオチドを含む媒介体(ビヒクル;vehicle)を言う。ベクターは「ウイルスベクター」または「プラスミドベクター」であってもよく、または、1つの構築物において両方の特性を組合せてもよい。ベクターの例としては、自己複製の能力があるか、又は宿主細胞(例えば、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物全体、および植物全体)内のクロモゾーム中に取り込まれる能力があり、かつポリヌクレオチドまたは遺伝子の転写に好適な部位にプロモーターを含有するベクターが挙げられる。
【0128】
本明細書において、「発現ベクター」という用語は、構造遺伝子、およびその発現を調節するプロモーター、並びに加えて宿主細胞内部でそれらが機能することができる状態の種々の調節エレメントを含む、核酸配列を言う。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子(例えば、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子など)等の選択マーカー、およびエンハンサーを含んでもよい。生物、発現ベクターの種類および調節エレメントの種類が宿主細胞に応じて変わってもよいことは、当業者には周知である。
【0129】
本明細書において、「プロモーター」という用語は、遺伝子の転写の開始部位を決定し、転写頻度を直接調節するDNA領域である、塩基配列を言う。転写はプロモーターに結合しているRNAポリメラーゼによって開始される。
【0130】
本明細書では、「形質転換」("transformation")、「形質導入」("transduction")および「トランスフェクション」("transfection")という用語は、特に明記しない限り同じ意味で使用され、核酸の宿主細胞への導入を言う。形質転換法としては、DNAを宿主細胞に導入するあらゆる技術を使用し得るが、例えば、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(particle gun)法(遺伝子銃)、リン酸カルシウム法などの、種々のよく知られた技術が挙げられる。
【0131】
本明細書では、「形質転換体」("transformant")という用語は、細胞等の、形質転換によって産生される生物の全体または一部を言う。形質転換体の例としては、細菌(例えば大腸菌(Escherichia coli))などの原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞などが挙げられる。形質転換体は、対象に応じて、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などと言われることがある。本明細書では、全ての形態が包含されるが、特別の形態は特別な文脈において特定してもよい。
【0132】
ワクチン
本発明のワクチンは、薬学的に許容される担体を含んでいてもよい。薬学的に許容される担体は、抗原の賦形剤として使用し得る物質であるが、これは、ワクチン投与との関連で、この物質が不活性であるかまたは医学的に許容され、活性薬剤と適合可能であるためである。好適な賦形剤(excipient)に加えて、薬学的に許容される担体は、希釈剤、アジュバントおよび他の免疫刺激剤、抗酸化剤、保存料および可溶化剤のような慣用のワクチン添加剤を含有し得る。例えば、凝集を最小にし、かつ安定化剤の機能を果たすために、ポリソルベート80を添加してもよく、pH調整のために緩衝剤を添加してもよい。
【0133】
ワクチンの製造方法は、当該分野で一般的に知られている。加えて、本発明のワクチンは、投与部位における抗原物質の保持を増加させるために、「デポー」("depot")成分を含むように製剤化されてもよい。例として、アジュバント(もし、使用される場合)に加えて、このデポー効果を提供するために、ミョウバン(水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウム)、QS-21、硫酸デキストランまたは鉱油を添加してもよい。
【0134】
また、本発明は、上述のワクチンのいずれかをそれを要する患者に投与することによる、感染症を治療または予防する方法も提供する。本明細書に記載した治療および予防方法の標的対象集団としては、ヒト/ウシ/豚等の哺乳類であって、黄色ブドウ球菌(S. aureus)等の細菌性病原体に感染しているか、感染するリスクがあるものが挙げられる。いくつかの態様では、治療または予防する感染症は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に関連する。特定の態様において、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌は、α毒素を産生する。
【0135】
本発明のワクチンの治療的または予防的有効量は、当該分野で日常的な方法で決定し得る。当業者はその量が、ワクチン組成、特定の対象の特徴、選択した投与経路、および治療または予防される細菌性感染症の性質によって変わってもよいことを認識するであろう。一般的ガイダンスは、例えば、調和国際会議(International Conference on Harmonization)の刊行物およびレミントンズ・ファーマシュウティカル・サイエンシーズ(REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES)(マック・パブリッシング・カンパニー(Mack Publishing Company)、1990年)に見られる。典型的なワクチンの投与量は、抗原が1μg〜400μgの範囲であってもよい。
【0136】
ワクチンは、アジュバントと共に、またはアジュバントを用いずに投与してもよい。アジュバントを使用する場合、アジュバント誘導毒性を回避するように選択する。例えば、本発明によるワクチンは、米国特許第6,355,625号に記載された通りのβグルカン、または顆粒球コロニー刺激因子を含んでもよい。
【0137】
ワクチンは、哺乳類に静脈内、筋肉内、または皮下投与し得る投薬形態を含む、あらゆる所望の投薬形態で投与してもよい。ワクチンは、単回投与で投与してもよく、或いは複数投与プロトコルに従って投与してもよい。投与は、皮下、皮内、および静脈内を含む、あらゆる経路によるものであってもよい。1つの態様において、筋肉内投与が使用される。当業者は、治療または予防する細菌性感染症およびワクチンの組成に応じて、投与経路が変わることを認識するであろう。
【0138】
ワクチンは、併用療法において、抗感染症剤、抗生物質薬剤および/または抗菌剤と併用して投与してもよい。抗感染症剤の例としては、制限されないが、バンコマイシンおよびリソスタフィンが挙げられる。抗生物質製薬剤および抗菌剤の例としては、制限されないが、ペニシリナーゼ耐性ペニシリン類、セファロスポリン類およびカルバペネム類が挙げられ、例えばバンコマイシン、リソスタフィン、ペニシリンG、アンピシリン、オキサシリン、ナフシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、セファロチン、セファゾリン、セファレキシン、セフラジン、セファマンドール、セフォキシチン、イミペネム、メロペネム、ゲンタマイシン、テイコプラニン、リンコマイシンおよびクリンダマイシンを含む。抗感染症剤、抗生物質薬剤および/または抗菌剤は、投与前に混合してもよく、または、ワクチン組成物と同時にまたは連続して投与してもよい。
【0139】
抗体
また、本発明は、抗体の調製にも言及する。本発明はさらに、黄色ブドウ球菌α溶血素抗原に特異的に結合する抗体および異種配列に特異的に結合する抗体を含む組成物を提供する。抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体断片またはそれらのあらゆる組合せであってもよい。抗体は、薬学的に許容される担体を用いて製剤化してもよい。
【0140】
本明細書において、「抗体」という用語は、完全長の(即ち、自然発生または、通常の免疫グロブリン遺伝子断片の組換えプロセスによって形成された)免疫グロブリン分子(例えば、IgG抗体)、または、抗体断片を含む、免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な(即ち、特異的に結合する)部分を言う。本明細書では、「抗体」および「免疫グロブリン」は、同義語として使用される。抗体断片は、F(ab')2、F(ab)2、Fab'、Fab、Fv、sFv、ナノボディ(Nanobodies)などの、抗体の一部分である。ナノボディは、自然発生重鎖抗体の独特な構造的及び機能的特性を含む、抗体由来の治療用タンパク質である。ナノ抗体技術は、元来、ラクダ科(ラクダおよびラマ)が軽鎖を欠いた完全な機能性抗体を持つことを発見したことに続いて、開発された。これらの重鎖抗体は、1つの可変ドメイン(VHH)および2つの定常ドメイン(CH2およびCH3)を含有する。重要なことは、クローン化され、かつ単離されたVHHドメインは、元来の重鎖抗体の完全な抗原結合能力を有する、完全に安定なポリペプチドである。抗体は、ヒトおよび動物(マウス、ウサギ、ラクダ、ラマ、メンドリ、ヤギ)における免疫化を用いて得ることができる。
【0141】
本発明との関連で、構造にかかわらず、抗体断片は、完全長の抗体によって認識される同一の抗原と結合する。抗体断片の製造およびスクリーニング方法は、当該分野でよく知られている。
【0142】
本発明によって得ることができる相同配列に対する抗α溶血素抗体または複数の抗α溶血素抗体は、多数の異なる方法で製造してもよい。例えば、抗体は、本発明による組換えポリペプチドを投与した被験体から得てもよい。また、抗体は、以下により詳細に論じる通り、α毒素抗体および/または細菌性抗原抗体に対してスクリーニングした血漿から得てもよい。いくつかの態様において、抗体は組換え法により製造してもよい。組換えモノクローナル抗体の製造技術は当該分野でよく知られている。組換えポリクローナル抗体は、免疫原として本発明による組換えポリペプチドを使用して、米国特許出願第2002/0009453号に記載された方法と類似の方法によって製造し得る。本発明に従って得た前記抗体は、マウス、ヒトまたはヒト化抗体であってもよい。ヒト化抗体は、1つの種、例えばげっ歯類動物、ウサギ、イヌ、ヤギ、ウマ、ラクダ、ラマ由来の抗体または鶏抗体(またはあらゆる他の好適な動物抗体)のCDRが、げっ歯類抗体の可変の重鎖および軽鎖からヒトの可変の重および軽ドメインに変換した、組換えタンパク質である。抗体分子の定常ドメインは、ヒト抗体のものに由来する。ヒト化抗体の製造方法は、当該分野でよく知られている。最近になって、ヒトB細胞から直接ハイブリドーマを産生することが可能であることが報告された。結果として、本発明による組換えポリペプチドは、ハイブリドーマの産生を開始する前に、ヒトB細胞の増殖を刺激するために使用することもできる。
【0143】
上述の抗体は、従来の方法で得ることができる。例えば、本発明による組換えポリペプチドを被験体に投与し、得られたIgGを、標準的な方法によって被験体から採取した血漿から精製し得る。
【0144】
抗体組成物
また、本発明は、抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物等の、投与に好適な抗体および抗体組成物の製造にも言及する。抗体組成物は、当該分野で知られている方法によって、静脈内、筋肉内、皮下および経皮を含む、あらゆる投与経路用に製剤化してもよい。1つの態様において、抗体組成物は、治療的または予防的有効量の抗体、即ち、治療的または予防的に有益な効果を達成するのに充分な量の抗体を提供する。さらなる態様において、抗体は、感染を中和し、および/または感染に対する保護を提供する、保護抗体組成物である。
【0145】
1つの態様において、抗体組成物は、IVIG組成物である。本明細書において、「IVIG」は静脈内投与に好適な免疫グロブリン組成物を言う。IVIG組成物は、免疫グロブリンに加えて、薬学的に許容される担体を含有してもよい。IVIG組成物は、「特異的IVIG」であってもよく、これはIVIGが、本発明による組換えポリペプチドによって表される抗原に特異的に結合する免疫グロブリンを含有することを意味する。
【0146】
1つの態様において、特異的IVIG組成物は、黄色ブドウ球菌α溶血素抗原に特異的に結合する(および任意にα溶血素抗原を中和する)抗体、および、相同配列によって表される、別の抗原に特異的に結合する(および任意にその別の抗原を中和する)抗体の両者を含む。抗体および抗原は、これまでに記載したもののいずれであってもよい。例えば、別の抗原は、SEB(黄色ブドウ球菌エンテロトキシンB)、TSST(毒素性ショック症候群毒素)、FnBP(フィブロネクチン結合タンパク質)、BlaZ(βラクタマーゼ)、ClfA(クランピング因子A)、PBP2a(ペニシリン結合タンパク質2a)、プロテインA、ブドウ球菌種、好ましくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の全由来物であってもよい。
【0147】
IVIG組成物の製造方法
本発明は、特異的IVIG組成物を含む、IVIG組成物の製造方法も提供する。IVIG組成物は、本発明による組換えポリペプチドを被験体に投与した後、被験体から血漿を採取し、血漿から免疫グロブリンを精製することによって調製する。
【0148】
本発明による組換えポリペプチド等の抗原のチャレンジを受け、または抗原を投与される被検者は、ヒトであってもよく、または、マウス、ウサギ、ラット、鶏、ウマ、イヌ、非ヒト霊長類またはあらゆる他の好適な動物等の他の動物であってもよい。抗原に特異的に結合する抗体は、従来の血漿分画法により、動物の血漿から得てもよい。
【0149】
本発明のペプチドに対して産生された抗体もまた、種々のアッセイにおいて、それらペプチドの存在を検出するために使用してもよい。好ましいアッセイは、酵素免疫法またはラジオイムノアッセイである。また、抗体を用いて、特定のタンパク質または高分子を精製する、アフィニティークロマトグラフィーを開発することもできる。
【0150】
抗体組成物を用いた感染症の治療および予防
本発明は、上述のIVIG組成物等の上述の抗体組成物を、それを要する被験体に投与することによる、感染症を治療または予防する方法にも言及する。感染症の治療および予防のための標的対象集団としては、ヒト等の哺乳類であって、細菌性病原体に感染しているか、又は感染するリスクがあるものが挙げられる。1つの態様では、治療または予防される感染症は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、またはα毒素を産生する黄色ブドウ球菌を含む、黄色ブドウ球菌感染症、または表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)感染症である。
【0151】
1つの態様に従って、本発明は、本発明による組換えポリペプチドによって提供される抗原に対する抗体または複数の抗体、および薬学的に許容される担体を含む組成物を使用して、黄色ブドウ球菌感染症を治療または予防する方法を提供する。さらに別の態様において、抗体はモノクローナル抗体である。
【0152】
抗体組成物の治療的または予防的有効量は、当該分野でルーチンの方法で決定し得る。当業者は、組成物中の特定の抗体、組成物中の抗体濃度、投与頻度、治療または予防する感染症の重篤度、並びに年齢、体重および免疫状態等の被験体の詳細に応じて、量が変わってもよいことを認識するであろうが、いくつかの態様において、投与量は、体重1キログラム当たり(mg/kg)、IVIG組成物が少なくとも50mgであり、少なくとも100mg/kg、少なくとも150mg/kg、少なくとも200mg/kg、少なくとも250mg/kg、少なくとも500mg/kg、少なくとも750mg/kgおよび少なくとも1000mg/kgが挙げられる。モノクローナル抗体組成物の投与量は、典型的にはより少量であってもよく、IVIG組成物の投与量の1/10などであり、少なくとも約5mg/kg、少なくとも約10mg/kg、少なくとも約15mg/kg、少なくとも約20mg/kg、または少なくとも約25mg/kgなどである。投与経路は、受動ワクチンに適当なあらゆる経路であってもよい。従って、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内および他の投与経路が想定される。上記した通り、抗体の治療的または予防的有効量は、治療的または予防的に有益な効果を達成するのに充分な量である。保護抗体組成物は、感染症を中和および/または予防してもよい。保護抗体組成物は、それ自身は保護的ではないが、組合せにおいて保護抗体組成物となる量の、抗α溶血素抗体および/または相同配列に対する抗体を含んでもよい。
【0153】
抗体組成物は、併用療法において、抗感染症剤、抗生物質薬剤、および/または抗菌剤と併用して投与してもよい。抗感染症剤の例としては、制限されないが、バンコマイシンおよびリソスタフィンが挙げられる。抗生物質薬剤および抗菌剤の例としては、制限されないが、ペニシリナーゼ耐性ペニシリン類、セファロスポリン類およびカルバペネム類が挙げられ、例えばバンコマイシン、リソスタフィン、ペニシリンG、アンピシリン、オキサシリン、ナフシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、セファロチン、セファゾリン、セファレキシン、セフラジン、セファマンドール、セフォキシチン、イミペネム、メロペネム、ゲンタマイシン、テイコプラニン、リンコマイシンおよびクリンダマイシンが挙げられる。抗感染症剤、抗生物質薬剤および/または抗菌剤は、投与前に組合せてもよく、または、IVIG組成物と同時にまたは連続して投与してもよい。
【0154】
いくつかの態様では、1回または2回投与等の、比較的少ない投与回数で抗体組成物を投与し、一般に数日または数週間の期間にわたる複数回の投与を含む、従来の抗生物質療法を用いる。従って、抗生物質は、少なくとも5日間、10日間またはさらに14日以上等の期間にわたり、1日に1、2または3回以上服用し得るが、一方抗体組成物は通常、1回または2回のみ投与する。しかしながら、種々の投与量、投与のタイミングおよび抗体組成物および抗生物質の相対量は、当業者が選択および調整し得る。
【0155】
本発明を以下の実施例によりさらに説明するが、多少なりとも本発明の範囲を制限するものとして理解すべきではない。
【実施例】
【0156】
実施例1:不活化担体溶血素α(ICHA IおよびICHA II)の構築
本発明による不活化担体溶血素α(HA)(ICHA IおよびICHA II)を以下の通り構築した:残基Thr109〜Glu150を包含する中央部ドメインの42のアミノ酸を、トリペプチドPro-Gly-Asnで置換することにより、溶血素α(HA)毒性の不活化を実施した(図2、表1)。このペプチドにより、対応するヌクレオチド配列においてSmal制限酵素認識部位が作られ、これにより、ICHAコード遺伝子中に大きな異種ヌクレオチド配列の後続内部クローニングが可能になる。置換された断片は、HAのステムドメインに対応する(図1および2)。このドメインは、三角形領域と、そのN-およびC-末端の先端で隣接する。ステムドメインは、中央のグリシンリッチドメインの2つのアンチパラレルβストランドが特徴であり、14ストランドβバレルにおける自己組織化により、チャネル壁の形成に関与する。
【0157】
この工程の課題は、溶血活性を失った毒素を開発することと、担体の他の生物学的特性に干渉せずに大きな異種ポリペプチドの許容挿入部位を創出することの両者であった。他の生物学的特性とは、天然のタンパク質の構造に関連する特徴、脂質二重層との結合およびオリゴマー形成の能力、およびHA溶血活性の中和抗体を誘導する能力である。これらの条件を維持するため、ステムドメインを置換したが、一方、三角形領域の完全性は本質的に維持された。この領域は、挿入物と担体との間の立体障害を避けるための自然のリンカーとして使用される。
【0158】
遺伝子をコードするICHA中に追加的に制限酵素認識部位を挿入することにより、ICHA IおよびICHA IIが生じる。これらの制限酵素認識部位により、担体タンパク質の表面に小さなポリペプチドを提示する可能性が与えられる。HAの3D構造に関して、構造的改変及び従ってその免疫原性を避けるため、HAのリムドメインにおいて挿入部位は作られなかった。HA-リン脂質複合体の高分解能結晶構造の研究により、リムおよびステムドメインの間の裂け目に、相互作用領域が規定される。その結果、HAの血清中和は、リムドメインへの抗体の結合による、HAモノマーの細胞膜への相互作用を阻止することによって、得ることができる。HA中に導入された全ての改変を表1に列記する。
【0159】
ICHA IおよびICHA IIをコードする組換え遺伝子をpET28b中にクローニングして、pET28b ICHA IおよびpET28b ICHA IIを得た。これらの構造物のそれぞれについて、C末端でポリヒスチジンタグと融合したタンパク質を発現することが可能であった。α溶血素およびその関連する変異形態であるICHA IおよびICHA IIのアミノ酸配列を配列表に示す。配列番号1は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の野生型α溶血素を示し、一方、配列番号3および配列番号5は、表1に示す詳細に従って改変した構築物ICHA IおよびICHA IIを示す。
【0160】
プラスミド構築
溶血素α:
α-HL遺伝子は、NcoIHLプライマーおよびH3HLHisプライマー(表4)を用いた黄色ブドウ球菌(S. aureus)株のゲノムDNAのPCR増殖により得た。NcoIHLプライマーは、成熟ポリペプチドのAlaコドンの直前に、新たな開始コドンとNcoI部位を作出する。H3HLHisは、3’末端に新たなHindIII部位を作出する。
【0161】
26個のアミノ酸の疎水性リーダー配列を削除した。PCR増幅断片をpGEMベクター中に直接挿入した。α-HLコーディング遺伝子を完全に配列決定し、pET28b(+)発現ベクターのNcoIおよびHindIII部位の間に再クローニングした。
【0162】
ICHA:
中央の残基Thr109-Glu150をコードするDNAを、オーバーラップ・エクステンションPCR法によりHA遺伝子から除去した。別々のPCRにおいて、標的遺伝子の2つの断片を増幅した。第一の反応では、溶血素αコード遺伝子の上流にハイブリダイズする隣接NcoIHLプライマーと、欠失部位とハイブリダイズする内部アンチセンスHL108-プライマーを使用した。第二の反応では、溶血素αコード遺伝子の下流にハイブリダイズする隣接アンチセンスH3HLHisプライマーと、欠失部位とハイブリダイズする内部センスHL108+プライマーを使用した。2つの断片をアガロースゲル電気泳動で精製し、その後プライマー伸長反応において、それらを変性およびアニーリングさせることにより融合させた。さらなる隣接プライマーの添加により、778bpの断片をPCRでさらに増幅し、精製して、pGEMベクター中にクローニングした。ICHA遺伝子の全体を配列決定した。HL遺伝子との配列の違いは、ICHA遺伝子においてPro-Gly-Asnによって置換された、削除された残基(Thr109-Glu150)以外は認められなかった。ICHAコーディング遺伝子を、pET28b(+)発現ベクターのNcoIおよびHindIII部位の間に再クローニングした。
【0163】
ICHA II:
オーバーラップ・エクステンションPCR法を用いて、ICHAコーディング遺伝子上に新たな制限エンドヌクレアーゼ部位を導入した。別々のPCRにおいて、標的遺伝子の2つの断片を増幅した。第一の反応では、隣接NcoIHLプライマーと、挿入部位とハイブリダイズする内部制限エンドヌクレアーゼ部位リバースプライマーを使用した。第二の反応では、隣接H3HLHisプライマーと、挿入部位とハイブリダイズする内部制限エンドヌクレアーゼ部位リバースセンスプライマーを使用した。2つの断片をアガロースゲル電気泳動で精製し、その後プライマー伸長反応において、それらを変性およびアニーリングさせることにより融合させた。さらなる隣接プライマーの添加により、ICHA I+新たな制限酵素認識部位断片をPCRでさらに増幅し、精製して、pGEMベクター中にクローニングした。ICHA I+新たな制限酵素認識部位コーディング遺伝子を完全に配列決定し、マトリックスとして使用して、第二の新たな制限エンドヌクレアーゼ部位をICHAコーディング遺伝子に導入した。このストラテジーは、BamHI、Pstl、Sacl、EcoRIおよびNhelの制限エンドヌクレアーゼ部位を作出するために使用されている。
【0164】
【表1】

【0165】
実施例2:ICHA Iに関連するポリエピトープのエンジニアリング
ICHA I中に提示された全ての異種エピトープを表2に列記する。得られたポリエピトープを表3に列記し、説明する。
【0166】
【表2】

【0167】
【表3】

【0168】
異種配列が部位1に挿入された組換えICHA Iポリペプチド
異種配列を、特異的オリゴヌクレオチドプライマー(表4)を用いて、黄色ブドウ球菌(S. sureus)のゲノムDNAよりPCRで増幅した。DNA増幅は、pfx DNAポリメラーゼを用いて実施し;PCR産物をpET28b-ICHAベクター中のSmal部位にクローニングして、組換えペプチドを生成した。
【0169】
異種配列を部位2または3に融合させた組換えICHA Iポリペプチド
大きな異種配列を、特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いて、黄色ブドウ球菌(S. sureus)のゲノムDNAよりPCRで増幅した。使用したプライマーは、隣接NcoIまたはHindIII部位を作出する。DNA増幅は、pfx DNAポリメラーゼを用いて実施し;PCR産物はpET28b-ICHAベクター中のNcoIまたはHindIII部位にクローニングして、組換えペプチドを生成した。
【0170】
小さな異種配列を、2つの相補的オリゴヌクレオチドプライマーのハイブリダイゼーションによって増幅した。使用したオリゴヌクレオチドプライマーは、異種配列に隣接する新たなNcoIまたはHindIII制限部位を作出する。ハイブリダイゼーション産物は、pET28b-ICHAベクター中のNcoIまたはHindIII部位中にクローニングして、組換えペプチドを生成した。
【0171】
【表4】


【0172】
実施例3:HA、ICHA I、ICHA IIおよびICHAポリエピトープの製造、精製および再生
精製およびリフォールディングしたタンパク質の送達に使用される手順は、タンパク質のC-末端のポリヒスチジンタグの存在による。
【0173】
製造
組換えHAタンパク質およびその誘導体を、所望のpET28bプラスミドを保有する大腸菌BL21(DE3)において過剰生産した。50μg/mLのカナマイシンを含有するLBの10 mlの培養物を、新鮮な形質転換プレートの一つのコロニーから開始し、37℃で一晩培養した。50μg/mLのカナマイシンを含有するTB培地1リットルに接種し、37℃で培養した。OD600nmの値が1.2に達した時に、IPTGを最終濃度が1mMになるように添加し、培養物を37℃でさらに4時間培養した。この温度では、タンパク質は主に封入体の形態で製造される。18℃で誘導した場合に、可溶性タンパク質の発現を得ることができる。
【0174】
His-タグタンパク質の精製および再生
細菌を4℃で15分間、3000×gでペレット化した。殆どのタンパク質が封入体の形態で存在していることがわかった。細胞を、バッファーA(50mM Tris-HCl、pH 8.0、1mM EDTA、100mM NaCl)に再懸濁し、穏やかな超音波処理により溶解した。不溶性タンパク質画分を、4℃で30分間、12,000×gで遠心分離することにより回収し、バッファーB(50mM Tris-HCl、pH 8.0、0.5%(v/v) トリトンX-100含有)に再懸濁し、4℃で16時間振とうした。4℃で30分間、30,000×gで遠心分離することによって封入体を続いて回収し、バッファーC(50mMトリス-HCl、pH 8.0、8M尿素)に再懸濁し、振とうしながら4℃で16時間インキュベートした。その後、封入体を30,000×gで30分間遠心分離し、上清を、バッファーCで平衡化した金属キレートアフィニティーカラム(NiNTAアガロース)にロードした。タンパク質を、バッファーC中の直線勾配の500mMのイミダゾールで溶出した。画分を回収し、SDS-PAGEで分析した。ピーク画分をプールし、0.5%のN-ラウロイルサルコシンを含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で10倍に希釈した。タンパク質を、PBSバッファーに対する透析によって再生し、アミコン(Amicon)PM-10膜での限外濾過により濃縮した。図3は、それぞれ、組換えHAの精製および再生工程後の溶血活性の回復を示す。
【0175】
非Hisタグタンパク質の精製および再生
Hisタグタンパク質について、上述の通り封入体を調製し、バッファーD(50mM トリス-HCl、pH 8.5、8M尿素)に再懸濁して、振とうしながら4℃で16時間インキュベートした。その後、封入体を30,000×gで30分間遠心分離し、上清を、5カラム容量のバッファーDで予め平衡化した、ソース(Source)15Q(ジーイー・ヘルスケア(GE Healthcare))カラムの陰イオン交換クロマトグラフィーに供試した。カラムを5カラム容量の平衡バッファーで洗浄した後、結合したタンパク質を、10カラム容量にわたる、バッファーD中の500mM NaClの直線勾配で、流速3mL/分で溶出した。画分を回収し、SDS-PAGEにより純度を98%より高いと評価した。ピーク画分をプールし、0.5%のN-ラウロイルサルコシンを含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で10倍に希釈した。Hisタグタンパク質について、上述した通りタンパク質を再生した。
【0176】
実施例4:ICHA IおよびICHA IIによる溶血活性の欠如
精製タンパク質であるHA、ICHA IおよびICHA IIについて、PBSで1/20で希釈した洗浄脱線維素ウサギ赤血球(rRBC)に対する溶血活性を、最終濃度0.3mg/mLで分析した。これらの赤血球はHAに過敏である。相対的に、ヒトの赤血球を溶解するためには、400倍高い濃度の毒素が必要である。30℃で30分間インキュベートした後、rRBCを遠心分離でペレット化し、540 nmで上清中のヘモグロビンを測定することにより、溶血をモニターする。図4は、大量のICHA IおよびICHA IIを使用する際に、溶血活性が欠如することを証明する。加えて、黄色ブドウ球菌上清から精製した市販のHAを用いた比較分析により、我々の方法によるHAのリフォールディングが有効であることが示される。
【0177】
実施例5:ICHA I、ICHA IIおよびICHAポリエピトープは、脂質二重層に結合し、オリゴマーを形成しHAの光学的特徴を保持する。
【0178】
ウェスタンブロッティングによる分析
40μgのタンパク質(HA、ICHA IおよびICHA I 008)を、300μLの1:20の赤血球細胞希釈液と共に、37℃で15分間インキュベートした。その後、膜画分を13,000gで30分間遠心分離して単離した。ペレットを300μLの冷水中に再懸濁し、変性溶液(0.06M Tris-HCl、pH 6.8、1% SDS、9.5%グリセロール、3.3%メルカプトエタノール、0.002%ブロモフェノールブルー )を添加した。サンプルをSDS10%-PAGEにロードした。結合およびオリゴマー形成を、モノクローナル抗HA抗体およびHRPに結合したモノクローナル抗IgGマウス(アマシャム・ファルマシア(Amarsham Pharmacia))を用いたウェスタンブロッティングによって試験した。ロードした各サンプルは、1.8μgのタンパク質に対応した。結果を図5に表す。結論として、ICHA Iおよびその関連するポリエピトープが、なおも脂質二重層に結合し、HAと同様の方法でオリゴマーを形成することができることが実証される。
【0179】
直接蛍光による分析
HAおよびICHA Iタンパク質を、347nmで励起し447nmで発光する、AMCA-Xフルオロフォア(AnaTagTM AMCA-Xプロテインラベリングキット、アナスペック(ANASpec))で標識した。次に、赤血球を、40μgのHA-AMCA-XまたはICHA I-AMCA-Xと共に、25℃で10分間インキュベートした。細胞をPBSで2回洗浄した後、ツァイス・アキシオ・イメイジャー(Zeiss Axio Imager)Z1顕微鏡に装着した冷却したAxioCam MRm(ツァイス;Zeiss)で、蛍光中、イーシー・プラン-ネオフルアー100(EC Plan-NEOFLUAR 100)×1.3オイル浸漬対象を通して、写真撮影した(フィルターセット20(ツァイス;Zeiss)を使用)。画像は、アクシオビジョン・レル4.5(AxioVision Rel 4.5)(ツァイス;Zeiss)を用いて撮影した。結果を図6に表す。これらのデータから、ICHA Iがなおも脂質二重層に結合し、細胞膜の表面にタンパク質ラフト(rafts)を形成することができることが確認される。
【0180】
蛍光および遠UV-CDによる分析
円偏光二色性(CD)
HAタンパク質の部位挿入によって誘導される二次構造の変化を評価するため、JASCO J-810分光偏光計を用いて、遠UV円偏光二色性スペクトルを190-250nmで測定した。スキャン速度は50nm/分であった。サンプル当たり10回のスキャンを実施し、タンパク質濃度は、2つのタンパク質について、PBS緩衝液中4.2μMであった。平均残基楕円率[θ]は、deg.cm2.dmol-1として与えられ:[θ]=[θ]obs(MRW/10 Ic)であり、ここで[θ]obsはミリ度(millidegrees)で測定した楕円率であり、MRWはタンパク質の平均残基分子量であり、cはmg/mLでのサンプルの濃度であり、Iはcmでのセルの光路長である。
【0181】
CDスペクトルにより、ICHA Iタンパク質は高いβシート含量を有することが示唆され、α溶血素のCDスペクトルと類似する(図7)。
【0182】
蛍光分光法
HAタンパク質上の挿入部位によって誘導される構造変化を、励起波長280nmを用いた内在蛍光により試験し、1.5μMのHA、ICHA IおよびICHA IIの発光スペクトルを300-400nmにわたり記録した。全てのスペクトルは、PBSバッファー中、4.2μMのタンパク質濃度で記録した。蛍光測定は、AMINCO SLM 8100蛍光分光計で実施した。
【0183】
HA誘導体の蛍光分光法および遠UV CDスペクトルの両者は、HAタンパク質のものと非常に類似しており、このことは、得られたICHA IおよびICHA IIがその本来の構造を保持することを示唆する(図8)。
【0184】
実施例6:ICHAポリエピトープはマウスモデルにおける挿入物およびHAに対する抗体を免疫強化する。
【0185】
ICHA I 008およびClfA断片に対する免疫化および抗体応答
野生型ClfAのアミノ酸Gly501〜Glu559に対応する177bpのClfA断片を、制限エンドヌクレアーゼの配列であるNcol部位を3’末端に、HindIII部位を5’末端に組み込んだプライマーを用いて、pET28b-ICHA-ClfAプラスミドからPCRにより増幅した。増幅した断片は、NcoIおよびHindIIIで二重消化し、pET28bベクターの同じ部位に連結して、組換えペプチドを製造した。HisタグClfA断片を、金属キレートアフィニティーカラム(NiNTAアガロース)を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。
【0186】
8〜10週齢の雌BALb/cマウスを、ハーラン(Harlan)(オランダ、ホルスト(Horst))より購入した。10匹のマウスの3群に、クイル・エー(Quil A)アジュバント中に乳化した1.33nmolのICHA I 008(50μg)またはClfA断片(10.8μg)またはICHA I(40μg)を皮下免疫した。免疫化は、3週間の間隔で2回行った。もう1群のマウスをPBS中の同容量のQuil Aアジュバントで免疫し、対照とした。血清を、尾からの採血により、0、35および52日目に採取し(図の説明において、それぞれj0、j35およびj52と示す)、使用するまで-20℃で保存した。特異的抗体の反応を、コーティング抗原としてのMBP-ClfA融合タンパク質との反応性について、エライザ(ELISA)でスクリーニングした。
【0187】
個々のマウス(試験群および対照群)から各時点で採取した血清を、ClfA断片の認識についてエライザ(ELISA)で試験した。マイクロタイター・エライザ(ELISA)プレート(ナンク-イミュノ・プレート(Nunc-Immuno Plate)、ロスキレ(Roskilde)、デンマーク)をコーティングバッファー(0.05M炭酸塩-重炭酸塩緩衝液、pH 9.6)中、MBP-ClfA(250ng/ウェル)でコートし、20℃で1時間インキュベートした。プレートを、0.05%ツイーン20を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBST)で3回洗浄し、PSB中の3%カゼイン加水分解物150μlにより20℃で1時間ブロックした。試験血清は、PBST中、1:50から始めて連続的に2倍希釈し、ウェル(50μL/ウェル)中で20℃で1時間インキュベートした。ウェルをPBSTで3回洗浄した。結合した抗体を、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ヤギ抗マウスIgGと共に20℃で30分間インキュベートして検出した。反応はテトラメチルベンジジン(TMB)を用いて10分間行い、1M H2SO4を加えて酵素反応を停止し、450nmでの吸光度を読み取った。
【0188】
総IgGレベルの分析(図9a)により、ICHA I 008中に提示されたClfA断片による免疫化は、ClfA単独を用いた免疫化と比較して、より強力な血清抗ClfA反応を引き起こすことが示され、このことから、キャリアタンパク質がこのポリペプチドに対する免疫反応を誘導することが示唆される。
【0189】
免疫したマウス由来の血清は、エライザ(ELISA)により、1:800に希釈した血清で抗ClfA抗体について、時間(日数)の関数として比較した(図9b参照)。ICHA I 008の場合、高力価の抗ClfAが誘導され、35日目に最大に達し、このことから、この最大値を得るために第二の免疫化は必要ないことが示唆される。ClfA断片単独での免疫化については、抗ClfA抗体のモニタリングにより、ClfAに対する免疫反応を高めるために第二の免疫化が必要であったこと、および、52日目にはプラトーが検出されなかったことが示唆される。これらの結果から、キャリアタンパク質がこのポリペプチドに対する免疫応答を誘導することが示唆される。
【0190】
図9cは、全ての動物において、ICHA I 008を投与した場合に、ClfAに対する抗体が誘導されたことを示す。体液性応答について観察された低い変動性は、これらの群の10匹のマウスはClfA断片に対して類似の応答を有したことが示した。ClfA単独での免疫化の場合、処置したマウスの10匹のうち1匹が、ClfA断片に対して陰性の応答であった。
【0191】
ICHA I 014に対する免疫化及び抗体反応
雌のBALB/cマウスに、50μgのICHA I 014を2週間の間隔で3回注射した。HAおよびプロテインA(224-248)に特異的な抗体をエライザ(ELISA)によって検出した。96穴マイクロタイタープレートを、キャリアICHAに対する抗体の検出にはウェル当たり250ng/50μLのHAでコートし、プロテインA断片に対する抗体の検出にはウェル当たり250ng/50μLのMBP-プロテインA(224-248)断片融合タンパク質でコートした。洗浄後、150μLのブロッキングバッファー(カゼイン加水分解物)を各ウェルに添加し、プレートを20℃で60分間インキュベートした。0.05%ツイーン20を含有するPBSで洗浄した後、ブロッキングバッファー中の血清の連続2倍希釈液(1:50から開始)を添加し、20℃で1時間インキュベートした。
【0192】
結合した抗体を、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ヤギ抗マウスIgGと共に20℃で30分間インキュベートして検出した。反応はテトラメチルベンジジン(TMB)を用いて3分間行い、1M H2SO4を加えて酵素反応を停止し、450nmでの吸光度を読み取った。
【0193】
担体およびプロテインA(224-248)断片挿入物に対するIgG抗体の応答を、図10のグラフAおよびBにプロットした。結果から、ICHA 014による免疫化は抗HAおよび抗プロテインA(224-248)特異的抗体の両者を誘導することが示される。図10のパネルCは、70日目に陽性のIgG抗HAおよび抗プロテインA応答を起こす、免疫化マウスのパーセンテージを示す。
【0194】
陽性の抗HA IgGおよび抗プロテインA(224-248)応答は、初回のタンパク質注射の3週間後(J21)に観察された。抗プロテインA(224-248)IgGのレベルは、担体タンパク質に対する抗体よりも、かなり低かった。それにもかかわらず、我々は、体液性応答が注射回数と共に増加したことに気付いた。初回の注射から6週間後、抗プロテインA(224-248)IgGのレベルは、担体タンパク質に対する抗体のものと同程度の高さであった。
【0195】
ICHA I 014で免疫した9匹のマウスから得た血清の、全プロテインAに対する結合を評価するため、我々は免疫測定法を開発した。プロテインAは、γ-グロブリンの重鎖の定常領域に強く結合し、プロテインAへの抗体の非特異的結合から偽陽性の結果が得られる可能性がある。この問題を克服するため、血清免疫グロブリンの固定化にプロテインGでコートした磁気ビーズを使用した。抗体のFc部分で特異的結合が起こったことから、この結合は配向性を制御し、プロテインAとの反応に完全に利用されるパラトープを形成した。さらに、重鎖の定常領域へのプロテインGの磁気ビーズの結合は、抗体上のプロテインA結合部位を妨害しなかったことから、プロテインA抗体の評価が可能であった。
【0196】
磁気ビーズに結合したプロテインGは、種々の血清と共に20℃で40分間インキュベートした。その後、非結合抗体を除去し得る洗浄工程の後、組換えプロテインA-ビオチン溶液を最終容量50μL中、20℃で60分間結合させた。洗浄工程の後、HRPに結合したストレプトアビジンと共にインキュベーションを実施した。このインキュベーションは20℃で30分間行った。最終洗浄工程の後、TMB基質溶液を各ウェルに加え、反応を20℃で3分間進行させた。100μLの1M H2SO4を加えて反応を停止した。各ウェルの吸光度を、450nmのフィルターを備えたマイクロプレートリーダーを用いて測定した。対照のウェルは、J-1で得た血清、磁気ビーズ-プロテインGおよびプロテインA-ビオチンを含有していた。
【0197】
得られた結果から、ICHA I 014での免疫化から得られた血清は全て、それらのパラトープを介してプロテインAと相互作用する、特異的抗体を含有することが示される(図11)。
【0198】
実施例7:ICHAポリエピトープは、ウサギモデルにおいて挿入物およびHAに対する抗体を生じる。
精製したICHA I 003を使用して、ニュージーランド白ウサギを免疫した。この構造では、2つの線状エピトープがICHA中に提示される。これらのエピトープは、サイズが小さいため、小さいペプチドに対応する形態として直接注射される場合には、免疫原性はない。それぞれ500μLのPBSに含有される、200μgのICHA I 003を、当容量の完全フロインドアジュバント(Freund's adjuvant)と、安定なエマルジョンが得られるまで混合した。1mLのこのエマルジョンを使用して1匹のウサギを免疫した。ウサギを、14、28および56日目に3回のさらなる免疫化でブーストした。最後の採血は72日目に実施した。
【0199】
ICHA I 003での免疫化の後、担体および挿入物に対する抗体の誘導を確認するため、血清(免疫前の血清および72日目の血清)の希釈物を、HAおよび、エピトープSEBまたはTSST-1を提示する2つの異なるMBP融合タンパク質と共にインキュベートすることにより、血清タイトレーション(serotitration)試験を実施した。
【0200】
血清タイトレーション(serotitration) 曲線を図12に表す。データは、ポリエピトープの注射が、天然のブドウ球菌α溶血素HAおよび担体上に提示された2つの異種エピトープ(SEBおよびTSST-1)の両者に対する体液性応答を刺激することを示す。加えて、図13の結果は、ICHA I 003で誘導された抗体が、HAの溶血活性を完全に中和することを示す。
【0201】
実施例8:ICHAポリトープでの能動免疫化による、黄色ブドウ球菌接種に対する保護
8.1 致死試験
強毒性の黄色ブドウ球菌(S. aureus)分離株に対するワクチン接種においてICHAおよびその誘導体の効果を実証するため、9週齢の雌BALB/cマウスをランダムに清潔なケージに入れ、試験開始前の7日間隔離した。各5〜10匹の動物の群を、50μgの精製したICHAポリトープで、皮下経路で免疫化したが、それぞれ230μlのPBS中に含有され、容量20μLのクイル・エー(QuilA)アジュバントと1mg/mLの濃度で混合したものであった。対照のマウスはPBSのみを投与した。マウスは、21日目と42日目に、同量の抗原またはPBSによる2回のさらなる免疫化でブーストした。試験開始前(0日目)および最初の35日目および56日目に、免疫化群および対照群の両者から血液サンプルを採取した。56日目に、マウスを8.107CFU/mLの毒性黄色ブドウ球菌分離株118で腹腔内(IP)に接種した。各群の接種後の罹患率および死亡率を、接種の24および48時間後に記録した(表5において、接種時をT0と記す)。個々の処置群の生存データの概要を表5に示す。表中、第一のカラムにおいて、各群の動物数を括弧内に示す。
【0202】
【表5】

【0203】
8.107 CFUを感染させた対照群のマウスは、接種後24時間以内に全て死亡した。対照的に、ICHA I 000-QuilAを投与したマウスの群(5)では、接種後48時間までは死亡は起こらなかった。加えて、ICHA I 012-QuilAおよびICHA I 013-QuilAで免疫したマウスのそれぞれ6%および13%のみが、接種後24時間以内に死亡した。
【0204】
ポリトープICHA I 012-QuilA、ICHA I 013-QuilAおよびICHA I 014-QuilAを投与したマウスでは、接種後48時間で、それぞれ74%、54%および25%の予防効果が見られた。
【0205】
8.2 臨床的兆候の発生
マウスは、接種の24時間および48時間後に臨床的兆候についてモニターした。疾病重症度を0〜4のスコアで評価した(スコア0:マウスは良好な健康状態であり、正常に動き、正常に飲食し、異常な行動は現れない;スコア1:マウスは元気がなく、動きはゆっくりで、体毛は乾燥し、飲食が困難である;スコア2:マウスは非常に元気がなく、もはや動かず、体毛が非常に乾燥し、もやは飲食しない;スコア3:マウスは臨終である;スコア4:マウスは死亡した)。表6は、各群の全てのマウスについて観察したスコアの平均を示す。表中、第一のカラムにおいて、各群の動物数を括弧内に示す。
【0206】
【表6】

【0207】
結果から、感染に関連して観察される臨床的兆候は、免疫した4群においては重要性が劣ることが示される。これら4群中、3群では、死亡率がより低いことが観察される。従って、接種後24時間では、ポリトープICHA I 000、ICHA I 012-QuilAおよびICHA I 013-QuilAで免疫した群は、他の群より比較的軽度の臨床的兆候を呈した。
【0208】
結論として、黄色ブドウ球菌に感染した対照動物は、ICHAポリトープワクチンで免疫した動物と比較して、非常に感染しやすく、短時間で死亡した。ICHA I 000-QuilA、ICHA I 012-QuilAおよびICHA I 013-QuilAで免疫した動物は、現れる疾病の症状および兆候がさらにより少なく、死亡率もより低かった。
【0209】
8.3 内臓のコロニー形成
ワクチンの効果は、従来、接種後の選択した時間に対照動物と比較して、ワクチン投与した動物の腎臓または脾臓当たりのCFU数の低下として表される。
【0210】
免疫したマウスにおいて観察された低死亡率が、それらの臓器における細菌性負荷の減少に関係したかどうかを決定するために、20匹のBALB/cマウスの4群と5匹のマウスの1群(ICHA I 000-QuilA)をそれぞれ、前述のプロトコルに従って免疫した。対照マウスにはPBSのみを投与した。56日目に、マウスを致死未満量(2.3 107 CFU/mL)の毒性黄色ブドウ球菌分離株118で腹腔内に接種した。
【0211】
接種24時間後に、マウスを安楽死させ、剖検した。次に、各動物の脾臓および腎臓を取り出し、秤量し、ホモジナイザーで均質化した。トリプリケートで、ホモジネートの希釈物をチャップマン寒天プレート(Chapman agar plates)上に播種した。細菌を計測するため、プレートを37℃で24時間インキュベートした。インキュベーションの後、黄色ブドウ球菌のコロニー数を数え、器官当たりのCFUとして表した。表7には、全群のマウスの組織からのCFU回収が要約されている。表中、第一のカラムにおいて、各群の動物数を括弧内に示す。
【0212】
【表7】

【0213】
接種後24時間以内の細菌回収率は、黄色ブドウ球菌を接種した対照マウスの脾臓および腎臓では、ICHA I 000ポリトープで免疫したマウスの臓器より、約2倍高かった。
【0214】
ICHA I 012-QuilAおよびICHA I 014-QuilAで免疫した2群の動物において、細菌数が減少した。ICHA I 013-QuilAで免疫したマウス群では、減少がはるかに大きく、細菌回収率は、黄色ブドウ球菌を接種した対照マウスよりも、ICHA I 013-QuilAポリトープで免疫したマウスでは、脾臓でおよそ17倍低く、腎臓では32倍低かった。
【0215】
このように、ICHAポリトープを対象にする能動免疫は、動物を黄色ブドウ球菌感染から保護し、この保護は、微生物コロニー形成の減少と相関する。
【0216】
結論
本発明の研究において、ICHAポリトープでの免疫化により、感染のマウスモデルにおいて、黄色ブドウ球菌の接種に対する保護が与えられたことが示された。本実施例は、黄色ブドウ球菌に対する能動保護が、組換えICHAタンパク質由来のポリトープの投与により達成し得たことを実証した。
【0217】
実施例9:免疫グロブリンGのFcおよびFabドメインへの結合を欠損するプロテインAの断片は、ICHAへの好適な挿入物である。
【0218】
ブドウ球菌プロテインA(SpA)は、黄色ブドウ球菌の病原性において重要な役割を果たす。SpAは42kDaのタンパク質であり、種々の機能を有するいくつかの領域を含む(図14):spaタイピングに使用される反復領域Wr、細菌の細胞壁へのアンカリングをもたらすWc領域、N-末端部分のシグナル配列(S領域)、及び65〜90%アミノ酸配列同一性を共有する、E、D、A、BおよびCと指定される4または5の高相同性免疫グロブリンG(IgG)結合ドメイン(図15)。文献に報告されたSpAのZドメインは、IgG結合ドメインBの遺伝子工学的アナログである。これらのドメインの大きさは比較的小さく;それぞれ〜58アミノ酸残基を含有する。これらのドメインの2つである、BおよびEドメインの溶液構造は、非常に類似したZドメインと同様に、NMR分光法によって決定されている。これらの構造解析により、これらのIgG結合ドメインが古典的な「上下の」("up-down")3つのへリックス束の折畳みを採用していることが示された。結晶学およびNMRの研究により、ヘリックス1とへリックス2はIgのFc部分と相互作用し、一方、へリックス2とヘリックス3はIgのFabドメインに結合することが示された。また、これらの研究により、SpA Ig結合ドメインの結合活性は3つのヘリックスの存在を必要とし、その3D構造に依存することも示された。
【0219】
SpAの結合活性は、細菌細胞をIgGで包み込むように作用するため、好中球上のFc受容体とのあらゆる相互作用をブロックし、食作用を妨げる。免疫グロブリンのFc部分と結合するSpAの能力は、免疫系から逃れること、およびB細胞のレパートリーの欠失を引き起こすことを可能にする。
【0220】
さらに、ICHA I 009を用いて本発明者らが実施した免疫化アッセイにより、SpAの機能性Ig結合ドメインのICHA中への提示が、抗SpA抗体の誘導を引き起こさなかったことが確認された(データは示さず)。
【0221】
ICHA Iに関連するSpA誘導体ポリエピトープのエンジニアリング
ICHA I中に提示された異種SpAエピトープを表2に列記する。得られたポリトープを表3に列記し、説明する。ポリエピトープICHA I 009、ICHA I 012、ICHA I 013およびICHA I 014は、それぞれ、SpAの、完全長のEドメイン(アミノ酸第187位〜第248位)、ヘリックス1(アミノ酸第187位〜第205位)、ヘリックス2(アミノ酸第206位〜第223位)およびヘリックス3(アミノ酸第224位〜第248位)に対応する。4つのポリエピトープは、実施例3に記載した通り、製造および精製した。
【0222】
完全な免疫グロブリン結合ドメインおよびSpAドメインの3つのα-ヘリックスのIgG結合特性をさらに分析するため、エライザ(ELISA)試験において、4つのポリエピトープをマウスIgG抗体の認識について試験した。
【0223】
マイクロタイター・エライザ(ELISA)プレート(ナンク-イミュノ・プレート(Nunc-Immuno Plate)、ロスキレ(Roskilde)、デンマーク)をコーティングバッファー(0.05M炭酸塩-重炭酸塩緩衝液、pH 9.6)中、4つのSpA誘導体であるICHAポリトープ(250 ng/ウェル)でコートし、4℃で1晩インキュベートした。タンパク質ICHA I 000を対照として用いた。プレートを、0.05%ツイーン20を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBST)で3回洗浄し、PSB中の3%カゼイン加水分解物150μLにより37℃で1時間ブロックした。PBST中100倍及び1000倍に連続的に希釈したマウスモノクローナル抗体IgG抗ClfAを、ウェル(50μL/ウェル)中で、37℃で1時間インキュベートした。ウェルをPBSTで3回洗浄した。結合した抗体を、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ヤギ抗マウスIgGと共に37℃で1時間インキュベートして検出した。反応はテトラメチルベンジジン(TMB)を用いて10分間行い、1M H2SO4を加えて酵素反応を停止し、450nmでの吸光度を読み取った。
【0224】
SpA誘導体であるICHAポリトープのELISA反応性を図16に示す。これらにより、ICHA(ICHA I 009)中に提示されたSpAのEドメインがなおもIgGと相互作用する能力があったことが示唆される。対照的に、ICHA I 012、ICHA I 013およびICHA I 014は明らかに反応性がなかった。このことから、SpA Ig-結合ドメインの切断は、IgG結合を無効にするのに充分であったことが示唆される。
【0225】
これらの結果から引き出される重要な結論は、免疫グロブリン分子のFc領域と相互作用するSpAの能力は、SpAドメインの個々のα-ヘリックス中には存在しなかったということである。
【0226】
本発明の研究において、ICHA I 009による能動ワクチン接種は、接種アッセイにおいて黄色ブドウ球菌に対する保護を与えなかったことが示された(データは示さず)。対照的に、ICHA I 012、ICHA I 013およびICHA I 014ポリトープによるワクチン接種は、黄色ブドウ球菌感染から動物を保護した(実施例8参照)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶血活性を除去するためのステムドメインにおける欠失を有する、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドであって、少なくとも1つの異種配列が、配列番号1の野生型配列に対してアミノ酸第108位〜第151位、アミノ酸第1位〜第5位、アミノ酸第288位〜第293位、アミノ酸第43位〜第48位、アミノ酸第235位〜第240位、アミノ酸第92位〜第97位、アミノ酸第31位〜第36位、アミノ酸第156位〜第161位で定義される領域からなる群から選択される領域に挿入されている、ただし、異種配列が5以上の連続したヒスチジン残基を含有する場合、前記5以上の連続したヒスチジン残基によって表される部分以外の異種配列の部分は11アミノ酸残基の最小長を有することを特徴とする、上記組換え一本鎖α溶血素ポリペプチド;又は
その変異体であって、ステムドメインにおける前記欠失および異種配列の前記挿入に加えて、配列番号1の野生型配列に対して1〜50のアミノ酸残基が付加、置換または欠失されており、かつオリゴマーを形成し、かつ脂質単分子層および脂質二重層を含む脂質二重層または細胞膜に結合する活性を有する、上記変異体。
【請求項2】
ステムドメインが、配列番号1の野生型配列に対して、Thr109からGln150までのアミノ酸配列内に存在し、かつ部分的または完全に除去されている、請求項1に記載の組換えα溶血素ポリペプチド。
【請求項3】
異種配列が、5アミノ酸残基、好ましくは少なくとも8、10、12、15、20、30、50、75、100、150、200、300アミノ酸残基の最小長を有する、請求項1又は2に記載の組換えα溶血素ポリペプチド。
【請求項4】
挿入部位の同一箇所に挿入されているか、或いは挿入部位の異なる箇所に挿入されている少なくとも2つの異種配列を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の組換えα溶血素ポリペプチド。
【請求項5】
異種配列又は複数の異種配列が、ブドウ球菌種(Staphylococcus species)、好ましくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のみに由来する、請求項1から4のいずれか1項に記載の組換えα溶血素ポリペプチド。
【請求項6】
異種配列または複数の異種配列が、SEB(黄色ブドウ球菌エンテロトキシンB)、TSST(毒素性ショック症候群毒素)、FnBP(フィブロネクチン結合タンパク質)、BlaZ(βラクタマーゼ)、ClfA(クランピング因子A)、PBP2a(ペニシリン結合タンパク質2a)、プロテインA、ブドウ球菌種(Staphylococcus species)、好ましくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の全由来物からなる群から選択される、請求項1から5のいずれか1項に記載の組換えα溶血素ポリペプチド。
【請求項7】
α溶血素部分が、配列番号3(ICHA I)または配列番号5(ICHA II)の配列を有しているか、或いはα溶血素部分が配列番号3または配列番号5の配列に対して85%、好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上のアミノ酸同一性を有するその変異体である、請求項1から6のいずれか1項に記載の組換えα溶血素ポリペプチド。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の組換えα溶血素ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項8に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項10】
請求項8に記載のポリヌクレオチド又は請求項9に記載のベクターを含む、形質転換体。
【請求項11】
溶血活性を除去するためのステムドメインにおける欠失を有する、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドであって、少なくとも1つの異種配列がα溶血素ポリペプチドの溶媒曝露ループに挿入されており、異種配列または複数の異種配列はブドウ球菌種(Staphylococcus species)、好ましくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)から選択される、上記組換え一本鎖α溶血素ポリペプチド;又は
その変異体であって、ステムドメインにおける前記欠失および異種配列の前記挿入に加えて、配列番号1の野生型配列に対して1〜50のアミノ酸残基が付加、置換または欠失され、かつオリゴマーを形成し、かつ脂質単分子層および脂質二重層を含む脂質二重層又は細胞膜に結合する活性を有する、上記変異体
を含む、薬剤又はワクチン。
【請求項12】
少なくとも一つの異種配列が、配列番号1の野生型配列に対して、アミノ酸第108位〜第151位、アミノ酸第1位〜第5位、アミノ酸第288位〜第293位、アミノ酸第43位〜第48位、アミノ酸第235位〜第240位、アミノ酸第92位〜第97位、アミノ酸第31位〜第36位、アミノ酸第156位〜第161位で定義される領域からなる群から選択される領域に挿入されている、好ましくはアミノ酸第108位〜第151位で定義される領域に挿入されている、請求項11に記載の薬剤又はワクチン。
【請求項13】
抗体の調製のための、請求項1から7のいずれか1項に記載の組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドの使用。
【請求項14】
α溶血素に対する抗体、及び各異種配列又は複数の異種配列に対する抗体を含む抗体の混合物が得られる、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
異種配列に結合する物質を検出および/又は選択するためのアッセイ、好ましくは異種配列に対する抗体を検出するためのアッセイにおける、請求項1から7のいずれか1項に記載の組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドの使用。
【請求項16】
溶血活性を除去するためのステムドメインにおける欠失を有する、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドであって、少なくとも1つの異種配列が許容部位に挿入されており、異種配列はブドウ球菌種(Staphylococcus species)、好ましくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片を含み;プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの前記断片は5アミノ酸残基の最小長を有し、かつ完全長のプロテインAと比較して免疫グロブリンGのFcまたはFabドメインに対する結合活性を有さないか、または低下した結合活性を有することを特徴とする、上記組換え一本鎖α溶血素ポリペプチド;又は
その変異体であって、ステムドメインにおける前記欠失および異種配列の前記挿入に加えて、配列番号1の野生型配列に対して1〜50のアミノ酸残基が付加、置換または欠失され、かつオリゴマーを形成し、かつ脂質単分子層及び脂質二重層を含む脂質二重層または細胞膜に結合する活性を有する、上記変異体。
【請求項17】
プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片は、5〜35アミノ酸残基、好ましくは5〜30アミノ酸残基、さらに好ましくは10〜30アミノ酸残基、さらになお好ましくは10〜25アミノ酸残基の長さを有する、請求項16に記載の組換えα溶血素ポリペプチド。
【請求項18】
プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片が2以下の完全なαへリックスを含む、請求項16又は17に記載の組換えα溶血素ポリペプチド。
【請求項19】
許容部位が、配列番号1の野生型配列に対して、アミノ酸第108位〜第151位、アミノ酸第1位〜第5位、アミノ酸第288位〜第293位、アミノ酸第43位〜第48位、アミノ酸第235位〜第240位、アミノ酸第92位〜第97位、アミノ酸第31位〜第36位、アミノ酸第156位〜第161位で定義される領域からなる群から好ましくは選択される、溶媒曝露ループ内に位置する、請求項16から18のいずれか1項に記載の組換えα溶血素ポリペプチド。
【請求項20】
ステムドメインが、配列番号1の野生型配列に対して、Thr109からGln150までのアミノ酸配列内に存在し、かつ部分的又は完全に除去されている、請求項16から19のいずれか1項に記載の組換えα溶血素ポリペプチド。
【請求項21】
α溶血素部分が、配列番号3(ICHA I)または配列番号5(ICHA II)の配列を有しているか、或いはα溶血素部分が配列番号3または配列番号5の配列に対して85%、好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上のアミノ酸同一性を有するその変異体である、請求項16から20のいずれか1項に記載の組換えα溶血素ポリペプチド。
【請求項22】
請求項16から21のいずれか1項に記載の組換えα溶血素ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項23】
請求項22に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項24】
請求項22に記載のポリヌクレオチド又は請求項23に記載のベクターを含む、形質転換体。
【請求項25】
溶血活性を除去するためのステムドメインにおける欠失を有する、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の組換え一本鎖α溶血素ポリペプチドであって、少なくとも1つの異種配列が許容部位に挿入されており、異種配列はブドウ球菌種(Staphylococcus species)、好ましくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの断片を含み;プロテインAの免疫グロブリンG結合ドメインの前記断片は5アミノ酸残基の最小長を有し、かつ完全長のプロテインAと比較して免疫グロブリンGのFcまたはFabドメインに対する結合活性を有さないか、または低下した結合活性を有することを特徴とする、上記組換え一本鎖α溶血素ポリペプチド;又は
その変異体であって、ステムドメインにおける前記欠失および異種配列の前記挿入に加えて、配列番号1の野生型配列に対して1〜50のアミノ酸残基が付加、置換または欠失され、かつオリゴマーを形成し、かつ脂質単分子層及び脂質二重層を含む脂質二重層または細胞膜に結合する活性を有する、上記変異体
を含む、薬剤又はワクチン。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2013−504301(P2013−504301A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545744(P2011−545744)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/050453
【国際公開番号】WO2010/081875
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(507050333)
【出願人】(511173240)
【出願人】(506266687)ユニベルシテ・リーブル・ドゥ・ブリュッセル (2)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE LIBRE DE BRUXELLES
【住所又は居所原語表記】avenue F.D. Roosevelt, 50, 1050 Bruxelles, Belgium
【Fターム(参考)】