説明

ステレオコンプレックス構造を有するポリ乳酸繊維およびその製造方法

【課題】
簡便に、ステレオコンプレックス構造を高い割合で有するポリ乳酸繊維を製造する方法およびこの方法により製造されるポリ乳酸繊維を提供することを課題とする。
【解決手段】
ポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)の混合溶液を紡糸液として静電紡糸を行い、得られた繊維を熱処理することにより得られる、ステレオコンプレックス構造を有するポリ乳酸繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸を原料とする繊維およびその製造方法に関し、詳しくは、ポリ乳酸を原料とするステレオコンプレックス構造を有する繊維およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生分解性脂肪族ポリエステルの一つであるポリ乳酸は、生体組織適合性を有することから、手術用縫合糸等の医用材料としての応用が広く検討されてきた。特に近年では、ナノファイバー化による再生医療のための細胞培養基材としての利用が提案されている(特許文献1、2、非特許文献1)。しかしながら、ポリ乳酸は医用材料として用いるためには耐熱性や力学特性の面でなお改善の余地が残されており、改善のための方法の一つとしてステレオコンプレックス化が検討されてきた(特許文献3)。
【0003】
ステレオコンプレックスとは、光学異性体であるポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)から形成される複合体であり、例えば、ポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)とを混合してキャスト成形ないしは溶融成形を行うことで形成される。この複合体形成により融点の著しい上昇(例えば、ホモポリマー160〜180℃に対してステレオコンプレックス220〜240℃)が起こることが知られている。しかしながら、ステレオコンプレックスは高分子量のポリ乳酸では形成されにくく、またキャスト成形や溶融成形においても多くの場合ホモポリマー結晶の形成が同時に起こり、ホモポリマー結晶を含まない完全なステレオコンプレックス成型体の作製は極めて限られた条件でしか行うことができない(特許文献4)。また完全にステレオコンプレックス化が可能な条件においても、ポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)の溶液を混合した後、再沈殿および乾燥を行い、その後に成形加工を行うという、煩雑な手順が必要であるという欠点がある(特許文献5)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−290133号公報
【特許文献2】特開2004−321484号公報
【特許文献3】特開昭63−264913号公報
【特許文献4】特開2003−293220号公報
【特許文献5】特表平4−501109号公報
【非特許文献1】X. Zong, K. Kim, D. Fang, S. Ran, B. S. Hsiao, B. Chu, "Structure and process relationship of electrospun bioabsorbable nanofiber menbranes", Polymer 43, 4403 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、簡便に、ステレオコンプレックス構造を高い割合で有するポリ乳酸繊維を製造する方法およびこの方法により製造されるポリ乳酸繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)を含む溶
液を作製し、該溶液を紡糸原液として静電紡糸法によりポリ乳酸繊維を作製し、該繊維を熱処理することにより、ステレオコンプレックス構造を高い割合で有するポリ乳酸繊維を製造することができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
すなわち本発明は、以下の通りである。
(1) ポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)の混合溶液を紡糸液として静電紡糸を行い、得られた繊維を熱処理することにより得られる、ステレオコンプレックス構造を有するポリ乳酸繊維。
(2) 平均繊維径が1μm以下である、(1)に記載のポリ乳酸繊維。
(3) 熱処理温度がポリ乳酸繊維のガラス転移点以上融点以下の温度である、(1)または(2)に記載のポリ乳酸繊維。
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載のポリ乳酸繊維からなる繊維構造体。
(5) ポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)の混合溶液を紡糸液として静電紡糸を行う工程と、得られた繊維を熱処理する工程とを含む、ステレオコンプレックス構造を有するポリ乳酸繊維の製造方法。
(6) 熱処理温度がポリ乳酸繊維のガラス転移点以上融点以下の温度である、(5)に記載の製造方法。
(7) ポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)の混合溶液を紡糸液として静電紡糸を行うことにより得られる、ポリ乳酸繊維。
(8) 平均繊維径が1μm以下である、(7)に記載のポリ乳酸繊維。
(9) (7)または(8)に記載のポリ乳酸繊維からなる繊維構造体。
(10) ポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)の混合溶液を紡糸液として静電紡糸を行う工程を含む、ポリ乳酸繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリ乳酸繊維の製造方法を用いれば、簡便に、ステレオコンプレックス構造を高い割合で有するポリ乳酸繊維を製造することができる。また、本発明のポリ乳酸繊維の製造方法により、サブミクロンオーダーの直径を有するポリ乳酸繊維を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(1)本発明のポリ乳酸繊維の製造方法
本発明のポリ乳酸繊維の製造方法は、ポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)の混合溶液を紡糸液として静電紡糸を行う工程と、得られた繊維を熱処理する工程とを含む、ステレオコンプレックス構造を有するポリ乳酸繊維の製造方法である。本発明の製造方法は、静電紡糸によりポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)からなる非結晶性ポリ乳酸繊維を作製し、この非結晶性ポリ乳酸繊維を熱処理により結晶化させることを特徴とする。このような本発明の製造方法により、簡便に、サブミクロンオーダーの直径を有しかつポリ乳酸繊維の結晶構造中におけるステレオコンプレックス結晶の比率の高いポリ乳酸繊維が得られる。
【0010】
(i)本発明の製造方法に用いるポリ乳酸
本明細書において「ポリ乳酸」とは、乳酸のモノマーないしは二量体ないしはオリゴマーを重合したものである。ポリ乳酸は、市販のもの(例えば、Polysciences,Inc.製)または常法により重合したものを用いることができ、重合の方法については、次に述べる範囲の分子量の重合体を得られるものであれば、特に制限はない。静電紡糸を行う上で好ましい重量平均分子量は通常1万以上、より好ましくは10万以上である。分子量の上限は特にないが、入手の容易さを考慮すれば通常100万以下、好ましくは50万以下である。ポリ乳酸の重量平均分子量は、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ
ィー)によりポリスチレン換算値として求める事ができる。
【0011】
ポリ(L−乳酸)(以下「PLLA」ともいう)およびポリ(D−乳酸)(以下「PDLA」ともいう)においては、比旋光度がそれぞれ−120°以下、および120°以上であることが好ましい。PLLAおよびPDLAの比旋光度が上記の値の範囲外にある場合、ステレオコンプレックス構造の形成が不可能になる場合がある。ポリ乳酸の比旋光度は、例えば、ポリ乳酸1gを100mLのクロロホルムに溶かした溶液を作製し、この溶液の旋光角を20℃で測定する事により求める事ができる。
なお、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、他の化合物と共重合しているか、または他の化合物を含むポリ乳酸を使用することができる。
【0012】
(ii)ポリ乳酸溶液の作製
静電紡糸を行うための紡糸液としてPLLAおよびPDLAを共に含む溶液を作製する。溶媒としては、静電紡糸に使用される通常の溶媒であって、PLLAおよびPDLAを溶解することができる溶媒を用いることができるが、次に述べる要件を満たすものであることが好ましい。第一に、常温で安定にPLLAおよびPDLAの両者を溶解させることが可能であること。特に、PLLAとPDLAを混合した際に、溶液中で両者が沈殿を形成しないことが望ましい。第二に、適当な揮発性を有すること。このような要件を満たす溶媒として、例えば、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)を用いることができる。
【0013】
紡糸液中におけるPLLAとPDLAを合わせた合計のポリ乳酸濃度は、通常0.1重量%以上10重量%以下、好ましくは1重量%以上5重量%以下である。過度にポリ乳酸濃度が低いと噴射されたポリ乳酸が繊維状の形態を取ることができず、逆に過度にポリ乳酸濃度が高いと紡糸口金から溶液を押し出すことが困難となる。溶解温度は特に制限はないが、加熱による分子量低下を防ぐ観点からは、常温で溶解させることが好ましい。
【0014】
紡糸液中におけるPLLAとPDLAの配合比(重量比)は、通常40:60以上60:40以下、好ましくは45:55以上55:45以下である。過度にPLLAとPDLAの配合量に差がある場合には、ステレオコンプレックス構造が形成されない場合がある。
【0015】
(iii)静電紡糸による繊維の作製
静電紡糸(電気紡糸ないしは電界紡糸ないしはエレクトロスピニングとも呼ばれるが同義である)は、種々の高分子を用いて数十ナノメートルから数マイクロメートル程度の直径の繊維を作製する方法である。静電紡糸法では、高電圧を印加しながら高分子溶液を口金から押し出し、接地した導電性の基板に向けて溶液を射出する。紡糸のための装置は自作も可能であるが、市販品(例えば、(株)フューエンス製)を入手することもできる。
【0016】
紡糸のための条件として、印加電圧、口金直径、溶液の押出速度、雰囲気条件(温度および湿度)、口金先端と基板間の距離などは通常の静電紡糸法における条件を使用することができるが、より効率よく本発明のポリ乳酸繊維を作製するためには、これらの条件を適切に設定する必要がある。適切な条件を具体的に例示する。
印加電圧は通常1kV以上50kV以下、好ましくは5kV以上30kV以下である。
口金直径は通常1mm以下、好ましくは0.5mm以下である。
溶液の押出速度は口金直径および印加電圧とのバランスで適度に設定すればよいが、通常1mL/h以上3mL/h以下である。
また、紡糸温度はポリ乳酸が溶媒に溶解する温度の範囲内であれば特に制限はないが、本発明の紡糸法が高電圧を取り扱うものであることを考慮すれば、装置の安定した動作のためには室温付近で行うことが好ましい。すなわち、通常5℃以上40℃以下、好ましく
は15℃以上35℃以下である。
紡糸雰囲気湿度については通常70%RH以下、好ましくは40%RH以下に調湿することが求められる。
口金先端と基板間の距離は通常5cm以上、好ましくは10cm以上に設定する。
【0017】
(iv)紡糸後の熱処理
静電紡糸により作製したポリ乳酸繊維は、紡糸したままの状態においては通常非結晶性であり、結晶化させるために熱処理を行う。非結晶性ポリ乳酸繊維を熱処理により結晶化させることにより、ステレオコンプレックス構造を有するポリ乳酸繊維が得られる。熱処理を行うための温度は、下限はステレオコンプレックス構造を有するポリ乳酸のガラス転移点であり、好ましくはステレオコンプレックス構造を有するポリ乳酸のガラス転移点+5℃以上、より好ましくはステレオコンプレックス構造を有するポリ乳酸のガラス転移点+10℃以上である。上限は特に制限はないが、ステレオコンプレックス構造を有するポリ乳酸の融点以上での熱処理においては、ポリ乳酸繊維の融解が起こって作製したポリ乳酸繊維の形態が失われるため、通常ステレオコンプレックス構造を有するポリ乳酸の融点以下、好ましくはステレオコンプレックス構造を有するポリ乳酸の融点−5℃以下、より好ましくはステレオコンプレックス構造を有するポリ乳酸の融点−10℃以下である。
ステレオコンプレックス構造を有するポリ乳酸のガラス転移点は例えば60℃〜70℃付近、融点は例えば220℃〜240℃付近である。ポリ乳酸のガラス転移点および融点は、例えば、DSC測定により測定することができる。
【0018】
なお、ステレオコンプレックス構造を有するポリ乳酸繊維が、ポリ(L−乳酸)およびポリ(D−乳酸)からなるホモポリマー結晶を有する場合がある。この場合、ポリ乳酸繊維の結晶構造中におけるステレオコンプレックス結晶の含有率を向上させるという観点からは、熱処理をポリ(L−乳酸)およびポリ(D−乳酸)の融点以上ステレオコンプレックス構造を有するポリ乳酸の融点以下で行うことが好ましい。
熱処理は、通常の繊維の熱処理法と同様に行うことができ、例えば、空気雰囲気下、所定温度に設定した恒温乾燥器中にポリ乳酸繊維を静置することにより行うことができる。熱処理時間は通常1時間以上、好ましくは2時間以上である。熱処理時間の上限は特にないが、熱処理時間が長すぎてもポリ乳酸が熱分解を起こす恐れがあり好ましくない。
【0019】
非結晶性ポリ乳酸繊維を熱処理することにより、ステレオコンプレックス構造が形成される。ステレオコンプレックス構造の形成を確認するには、例えば、広角X線回折測定でステレオコンプレックス構造に起因するピーク(面間隔0.74nm、CuKα線照射時の回折角2θ=12°)の有無を調べることにより確かめることができる。
【0020】
(2)本発明のポリ乳酸繊維
本発明の製造方法によれば、ポリ乳酸繊維の結晶領域中におけるステレオコンプレックス結晶の比率の高い、耐熱性、力学特性に優れたポリ乳酸繊維を得ることができる。具体的には、本発明のポリ乳酸繊維は、結晶領域中におけるステレオコンプレックス結晶の比率が通常90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは100%である。また、結晶構造中におけるステレオコンプレックス結晶の比率は、例えば、広角X線回折プロファイルにおいて、ホモポリマー結晶に起因する2θ=16.5°の回折ピーク強度IHおよびステレオコンプレックス結晶に起因する2θ=12.1°の回折ピーク強度ISCを測定し、次式から算出することができる。
(ステレオコンプレックス比率(%))=100*ISC/(ISC+IH)
【0021】
また、本発明の製造方法によれば、ステレオコンプレックス構造を有する、サブミクロンオーダーのポリ乳酸繊維を得ることができる。具体的には、本発明のポリ乳酸繊維の平均繊維径(直径)は、通常1nm以上5μm以下、好ましくは10nm以上1μm以下で
ある。ポリ乳酸繊維の平均繊維径は、例えば、走査型電子顕微鏡によって、繊維を観察することによって行うことができる。具体的には、例えば、撮影した画像中の繊維20本を任意に選択し、1本あたり5箇所の繊維直径に相当する部分の長さを測り、それらの平均値を平均繊維径とすることができる。
【0022】
本発明の別の形態は、複数の本発明のポリ乳酸繊維からなるヤーン、単数または複数の本発明のポリ乳酸繊維が積層され、織り、編まれまたはその他の手法により形成された3次元の繊維構造体である。3次元の繊維構造体としては、具体的には、不織布、織布、編布、チューブ、メッシュなどが挙げられる。中でも静電紡糸により容易に形成される不織布が好ましい。
【0023】
本発明のさらに別の形態は、ポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)の混合溶液を紡糸液として静電紡糸により得られる非結晶性ポリ乳酸繊維である。なお、本明細書中では、本発明のステレオコンプレックス構造を有するポリ乳酸繊維および本発明の非結晶性ポリ乳酸繊維を総称して、またはそのいずれかを「本発明のポリ乳酸繊維」ということがある。
【実施例】
【0024】
以下、実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0025】
<実施例1>
以下に示す方法で、本発明のポリ乳酸繊維を製造した。
(製造方法)
[試料]
ポリ(L-乳酸)(PLLA)重量平均分子量30万、比旋光度−170°(Polysciences,Inc.製)
ポリ(D-乳酸)(PDLA)重量平均分子量33万、数平均分子量20万、比旋光度155°(実験室で合成)
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)(溶媒)
【0026】
PLLAおよびPDLAの比旋光度は以下の条件で測定を行った。
装置:日本分光製DIP-370旋光度計
入射光:ナトリウムD線(波長589nm)
測定温度:20℃
セル光路長:5cm
溶媒:クロロホルム
溶液のポリマー濃度:10mg/mL
上記の条件で溶液の旋光角α(単位゜)を測定し、次式から比旋光度[α]を求めた。
[α]=10000*α/(c*l)
ここでcはポリマー濃度(単位mg/mL)、lはセル光路長(単位cm)である。
【0027】
[ナノファイバーの作製]
(1)HFIPを溶媒として、PLLAの1重量%濃度溶液(以下「PLLA溶液」)およびPDLAの1重量%濃度溶液(以下「PDLA溶液」)を作製した。
(2)PLLA溶液およびPDLA溶液を体積比1:1で混合し、1重量%PLLA/PDLA混合溶液(以下「PLLA/PDLA溶液」)を作製した。
(3)上記(1)で作製したPLLA溶液、PDLA溶液、上記(2)で作製したPLLA/PDLA溶液のそれぞれを紡糸液として、エレクトロスピニング装置((株)フューエンス製エスプレイヤーES-2000)を用いてポリ乳酸ナノファイバー(マット)を作製した。紡糸パラメータは以下の通りである。
印加電圧:15kV
電極間(口金先端−基板間)距離:15cm
溶液の押出速度:2.4mL/h
紡糸口金サイズ:0.5mmφ×13mm
温度:20〜35℃
相対湿度:20〜40%
(4)上記(3)で作製したPLLAナノファイバー、PDLAナノファイバー、PLLA/PDLAナノファイバーのそれぞれを空気雰囲気下100℃の恒温乾燥器中で8時間加熱した。
【0028】
(解析方法)
以下に示す方法で、本発明のポリ乳酸繊維を解析した。
[X線回折測定]
作製したナノファイバーマットを5mm×15mm大に切り、以下の条件でX線回折測定を行い、ナノファイバーの結晶構造を調べた。
装置:理学電機製RINT2500
照射X線:CuKα線(波長0.1542nm)Niフィルターで単色化
出力:40kV/200mA
光学系:2θ/θゴニオメータ、集中法(Bragg-Brentano型)
3スリット系(1/2度発散スリット、1/6度散乱スリット、0.15mm受光スリット)
検出器:シンチレーションカウンタ
走査速度:0.5°/min
走査間隔:0.05°
走査回数:3回
【0029】
[走査型電子顕微鏡観察]
作製したナノファイバーマットを約2mm角に切り、厚さ約15nmの金蒸着を施した後、以下の条件で走査型電子顕微鏡による繊維形態の観察を行った。
装置:日本電子製JSM-6330F
加速電圧:5.0kV
エミッション電流:12.0μA
作動距離:15mm
拡大倍率:10,000倍
撮影した画像中の繊維直径に相当する部分の長さ(繊維20本を任意に選択、1本あたり5箇所の直径を測り、それらの平均値を平均繊維径とした)を測り、ナノファイバーの平均繊維径を求めた。
【0030】
[熱的特性]
作製したナノファイバーマット約3mgをDSC測定用アルミパンに封入し、以下の条件でDSC測定を行ってナノファイバーの融点およびガラス転移温度を測定した。
装置:Perkin Elmer Pyris 1 DSC
測定温度範囲:-50℃〜250℃
昇温速度:10℃/min
【0031】
(結果)
[走査型電子顕微鏡観察]
作製したPLLA/PDLAナノファイバーマットの熱処理前と熱処理後の走査電子顕微鏡画像をそれぞれ図1と図2に示す。画像より求められたナノファイバーの平均繊維径は約300nmであった。
【0032】
[X線回折測定]
作製したPLLAナノファイバー、PDLAナノファイバー、PLLA/PDLAナノファイバーのそれぞれについて、熱処理を行わずにX線回折測定を行った。得られたX線回折プロファイルを図3に示す。また、100℃で熱処理を行ったPLLAナノファイバー、PDLAナノファイバー、PLLA/PDLAナノファイバーのX線回折プロファイルを図4に示す。
【0033】
熱処理を行っていない場合、PLLAナノファイバー、PDLAナノファイバー、PLLA/PDLAナノファイバーのいずれにおいても、ホモポリマー結晶およびステレオコンプレックス結晶のいずれに起因する回折ピークも観測されなかった。これに対し、100℃で熱処理を行った場合、PLLAナノファイバーおよびPDLAナノファイバーでは、いずれも2θ=15.1°、16.5°、18.8°にホモポリマー結晶由来の回折ピークが観測された。また、100℃で熱処理を行ったPLLA/PDLAナノファイバーではこれらのホモポリマー結晶由来のピークは観測されず、2θ=12.0°、20.8°、24.1°にステレオコンプレックス結晶由来のピークが観測された。このことから、100℃で熱処理を行ったPLLA/PDLAナノファイバーはホモポリマー結晶を含まず、完全にステレオコンプレックス構造のみからなることが示された。
【0034】
[熱的特性]
100℃で熱処理を行ったPLLAナノファイバー、PDLAナノファイバー、およびPLLA/PDLAナノファイバーのガラス転移点および融点は、以下のとおりであった。
(ガラス転移点、融点)
PLLA 65℃、180℃
PDLA 65℃、180℃
PLLA/PDLA 60℃、230℃
【0035】
<比較例1>
実施例1の(3)で作製したPLLAナノファイバー、PDLAナノファイバー、PLLA/PDLAナノファイバーのそれぞれを、実施例1の(4)と同様の方法で、温度を50℃に変更し8時間熱処理を行った。これらのナノファイバーのX線回折測定を行ったところ、ホモポリマー結晶およびステレオコンプレックス結晶のいずれに起因する回折ピークも観測されなかった。
【0036】
<比較例2>
実施例1の(1)および(2)で作製したPLLA/PDLA溶液をガラス製シャーレに展開し、常温下で約1週間風乾させてキャストフィルムを作製した。さらにこのキャストフィルムを実施例1の(4)と同様の方法で100℃で8時間熱処理を行った。熱処理前後のキャストフィルムについて共にX線回折測定を行ったところ、ホモポリマー結晶に帰属される回折ピークは観測されたが、ステレオコンプレックス結晶に帰属される回折ピークは観測されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のポリ乳酸繊維は、各種用途に広く用いることができる。具体的には、手術用縫合糸、釣り糸、魚網、繊維製品、不織布、ロープなどに好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、PLLA/PDLAナノファイバー(熱処理前)の走査型電子顕微鏡画像(倍率10,000倍)(写真)を示す。
【図2】図2は、PLLA/PDLAナノファイバー(熱処理後)の走査型電子顕微鏡画像(倍率10,000倍)(写真)を示す。
【図3】図3は、熱処理前のポリ乳酸(PLLA、PDLA、PLLA/PDLA混合物)ナノファイバーの広角X線回折プロファイルを示す。
【図4】図4は、熱処理後のポリ乳酸(PLLA、PDLA、PLLA/PDLAステレオコンプレックス)ナノファイバーの広角X線回折プロファイルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)の混合溶液を紡糸液として静電紡糸を行い、得られた繊維を熱処理することにより得られる、ステレオコンプレックス構造を有するポリ乳酸繊維。
【請求項2】
平均繊維径が1μm以下である、請求項1に記載のポリ乳酸繊維。
【請求項3】
熱処理温度がポリ乳酸繊維のガラス転移点以上融点以下の温度である、請求項1または2に記載のポリ乳酸繊維。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリ乳酸繊維からなる繊維構造体。
【請求項5】
ポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)の混合溶液を紡糸液として静電紡糸を行う工程と、
得られた繊維を熱処理する工程と
を含む、ステレオコンプレックス構造を有するポリ乳酸繊維の製造方法。
【請求項6】
熱処理温度がポリ乳酸繊維のガラス転移点以上融点以下の温度である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
ポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)の混合溶液を紡糸液として静電紡糸を行うことにより得られる、ポリ乳酸繊維。
【請求項8】
平均繊維径が1μm以下である、請求項7に記載のポリ乳酸繊維。
【請求項9】
請求項7または8に記載のポリ乳酸繊維からなる繊維構造体。
【請求項10】
ポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)の混合溶液を紡糸液として静電紡糸を行う工程
を含む、ポリ乳酸繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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