説明

ステレオ再生装置

【課題】人間の音声帯域に影響を与えずに高域の強調を行い、音像の定位を明確にし、フィルタも簡単な構成で済むようにする。
【解決手段】入力するL信号とR信号の差信号を生成する加算器5と、加算器5の出力側に接続されるハイパスフィルタ6と、ハイパスフィルタ6の出力信号を増幅する利得可変増幅器(7,R1,R2)と、その利得可変増幅器の出力信号を元のL信号に対して加算する加算器8と、その利得可変増幅器の出力信号を元のR信号に対して減算する加算器9とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L信号とR信号の2チャネルの信号を入力して高域を強調したL信号とR信号を出力するステレオ再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人間が聴取できる音声周波数分布は、その大半が300Hz〜3.5kHz付近に集中しており、会話での明瞭度に重要とされているのは、1kHz付近と言われている。高域の調整を行う場合、人間のこの音声帯域は影響を受けないことが望ましい。
【0003】
通常、高域強調回路は、図5に示すように、ハイパスフィルタ21,22をL信号ライン、R信号ラインに挿入することで構成されている。図5において、1はL信号入力端子、2はR信号入力端子、3,4,10,11はインピーダンス変換用の電圧ホロワ、12はL信号出力端子、13はR信号出力端子である。この図5に示す回路では、L信号、R信号がハイパスフィルタ21,22を通過することで、高域成分が相対的に強調され、出力端子12,13から出力する。
【0004】
また、図6に示すように、電圧ホロワ3,4の出力信号を加算器23で加算し、その加算信号からハイパスフィルタ24で高域成分を取り出し、演算増幅器7と抵抗R1,R2からなる利得可変増幅器で増幅して、それを加算器25,26によって、L信号とR信号にそれぞれ加算することが行われる。このハイパスフィルタ24には、図7に示すようにカットオフ周波数が10kHz程度のものが使用される。この図6に示した回路では、L信号とR信号の成分の内の高域成分が強調されるので、残響音や反射音も同時に強調されてL信号やR信号に加算され、高域の強調効果を実現していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、図5に示す高域強調回路は、ハイパスフィルタ21,22が信号ラインに直接挿入されており、原信号の周波数特性が直接操作されるので、ハイパスフィルタ21,22の減衰特性によっては、人間の音声帯域にも影響を与え、音像の定位が不明瞭になる場合がある。また、ハイパスフィルタ21,22を構成するためには、一般的に大きな容量が要求されるので、ステレオ再生装置をIC化する場合に外付けとなり、しかも両チャネルで2個必要となるので、ICのピン数が多くなる問題がある。
【0006】
また、図6に示す高域強調回路は、L信号とR信号の加算成分について高域成分を取り出し、これを元のL信号とR信号にそれぞれ共通に加算するので、やはり音像の定位が不明瞭になり、歪感のある音質になってしまう問題がある。
【0007】
本発明の目的は、人間の音声帯域に影響を与えずに高域の強調を行い、音像の定位が明確になり、フィルタも簡単な構成で済むようにしたステレオ再生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、入力するL信号とR信号の差信号を生成する第1の加算器と、該第1の加算器の出力側に接続されるハイパスフィルタと、該ハイパスフィルタの出力信号を前記L信号に対してL成分が強調されるように加算する第2の加算器と、前記ハイパスフィルタの出力信号を前記R信号に対してR成分が強調されるように加算する第3の加算器とを備えたステレオ再生装置において、前記ハイパスフィルタが、カットオフ周波数が2kHz〜4kHzで、且つ−6dB/octの減衰特性をもつようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、L信号とR信号の差成分の内の高域成分を取り出し、元のL信号にはL成分が強調され、元のR信号にはR成分が強調されるように加算するので、ハイパスフィルタのカットオフ周波数と減衰特性を上記のようにすることで、1kHz近辺の人間の音声帯域に影響を与えず、音像の定位を明確にでき、必要なキャパシタの数も少なくて済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は本発明の1つの実施例のステレオ再生装置の構成を示すブロック図である。1はL信号入力端子、2はR信号入力端子、3,4はインピーダンス変換用の電圧ホロワ、5はL信号からR信号を減算する加算器、6は図2に示す特性をもつハイパスフィルタ、7は演算増幅器、R1,R2は演算増幅器7の利得を決める可変抵抗、8は元のL信号に演算増幅器7の出力信号S1を加算する加算器、9は元のR信号から演算増幅器7の出力信号S1を減算する加算器、10,11はインピーダンス変換用の電圧ホロワ、12はL信号出力端子、13はR信号出力端子である。
【0011】
加算器5では、L信号からR信号を減算(L−R)することで、センタに音像を定位させる信号成分を除去して、L側の残響信号成分を抽出するが、そこで得られる差信号成分には、低い周波数成分は少なく、僅かのボーカルの高い周波数の「サシスセソ」の成分と反響音が主である。
【0012】
この差信号成分は、ハイパスフィルタ6に入力することで、3kHz以下の低域成分が除去される。このハイパスフィルタ6は、図2に示すように、カットオフ周波数が3kHzで−6dB/octの緩やかな減衰特性を有するので、ボーカル帯域である1kHz近辺の信号は大きく減衰される。
【0013】
演算増幅器7と抵抗R1,R2からなる利得可変増幅器は、ハイパスフィルタ6から出力する差信号成分の高域成分の利得を調整する。利得調整された差信号成分S1は、元のL信号に対しては加算器8において加算されるので、L信号ラインではL成分が加算され強調される。また、元のR信号に対しては加算器9において減算されるので、R信号ラインではR成分が加算され強調される。よって、前記利得可変増幅器における利得が所定値であれば、L信号、R信号の高域がそれぞれ独立して大きく強調される。このため、人間の音声帯域には大きな影響を与えず、音像の定位が明瞭となる。
【0014】
ハイパスフィルタ6は、図3に示すように、1個のキャパシタC1と1個の抵抗R3で構成できる。この回路構成ではそのキャパシタC1は大きな容量値となるので、本実施例のステレオ再生装置をIC化する際には、外付けとなるが、このときICのピンは1個増加するのみである。ハイパスフィルタ6は、出力インピーダンスの大きなgm増幅器と低容量値のキャパシタを使用して構成することができ、この場合はキャパシタをIC内に作り込むことができるが、このようにキャパシタをIC内に作り込むときは、S/Nの劣化を招く恐れがあるので、外付けとすることが望ましい。
【0015】
図4は本発明の別の実施例のステレオ再生装置の構成を示すブロック図である。ここでは、加算器5AでR信号からL信号を減算(R−L)し、加算器8Aでは元のL信号から利得調整された差信号成分S2を減算し、加算器9Aでは元のR信号に利得調整された差信号成分S2を加算している。利得調整された差信号成分S2は、元のL信号に対しては加算器8において減算されるので、L信号ラインではL成分が加算され強調される。また、元のR信号に対しては加算器9において加算されるので、R信号ラインではR成分が加算され強調される。このように、高域強調の動作は、図1に示したステレオ再生装置と全く同じである。
【0016】
なお、図1および図4で示した実施例では、ハイパスフィルタ6の特性を、被験者への聴感テストの結果、カットオフ周波数が3kHzで−6dB/octの緩やかな減衰特性を有するようにしたが、カットオフ周波数は2kHz〜4kHzの範囲内にあれば、所望の高域強調効果を得ることができることが確認されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の1つの実施例のステレオ再生装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1のステレオ再生装置のハイパスフィルタの周波数特性図である。
【図3】図1のステレオ再生装置のハイパスフィルタの回路図である。
【図4】本発明の別の実施例のステレオ再生装置の構成を示すブロック図である。
【図5】従来の高域強調を行うステレオ再生装置の構成を示すブロック図である。
【図6】従来の別の例の高域強調を行うステレオ再生装置の構成を示すブロック図である。
【図7】図6のステレオ再生装置のハイパスフィルタの周波数特性図である。
【符号の説明】
【0018】
1:L信号入力端子
2:R信号入力端子
3,4,10,11:インピーダンス変換用の電圧ホロワ
5,5A,8,8A,9,9A:加算器
6:ハイパスフィルタ
7:演算増幅器
12:L信号出力端子
13:R信号出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力するL信号とR信号の差信号を生成する第1の加算器と、該第1の加算器の出力側に接続されるハイパスフィルタと、該ハイパスフィルタの出力信号を前記L信号に対してL成分が強調されるように加算する第2の加算器と、前記ハイパスフィルタの出力信号を前記R信号に対してR成分が強調されるように加算する第3の加算器とを備えたステレオ再生装置において、
前記ハイパスフィルタが、カットオフ周波数が2kHz〜4kHzで、且つ−6dB/octの減衰特性をもつようにしたことを特徴とするステレオ再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−65436(P2009−65436A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231364(P2007−231364)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000191238)新日本無線株式会社 (569)
【Fターム(参考)】