説明

ステンレス部材の腐食抑制方法

【課題】硫酸含有溶液によるステンレス部材の腐食を、設備費やランニングコストを増加させることなく抑制する。
【解決手段】硫酸含有溶液によるステンレス部材の腐食を抑制する方法であって、硫酸含有溶液がステンレス部材に接触する際に、硫酸含有溶液中に銅イオンを200〜100000質量ppm存在させる。硫酸含有溶液によるステンレス部材の腐食を、銅を使用して、設備費やランニングコストを増加させることなく抑制できる。さらに、硫酸含有溶液の蒸発による減容化処理においても腐食を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス部材が硫酸含有溶液によって腐食されることを抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業設備などで発生する産業廃液は、減溶化、安定化、無害化、資源化等の中間処理を経て、埋立や海洋投入といった最終処分に付される。産業廃液に対する中間処理の一つの方法として、濃縮、乾燥、脱水等による減容化処理が行われている。そして、硫酸を含有する産業廃液(硫酸含有溶液)については、消石灰、苛性ソーダなどのアルカリ剤を添加してpH5〜10程度に中和調整し、発生する塩分をろ過して除去する減容化処理が行われるのが一般的である。
【0003】
ここで、産業廃液の処理設備などでは、ステンレス製の部材(ステンレス部材)が多用されている。ところが、硫酸含有溶液の濃度や温度条件により、ステンレス部材に著しい腐食が発生する。そこで、ステンレス部材に白金、金、銀などの貴金属を接触させて、ステンレス部材の腐食を抑制する方法が開示されている(特許文献1参照)。また、硫酸濃度を所定濃度の希硫酸にすることでステンレス部材の腐食を抑制する方法も開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−316859号公報
【特許文献2】特開2005−60823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ステンレス部材の腐食を抑制するために高価で特殊な貴金属を用いると、設備費の高騰を招く。また、硫酸含有溶液を所定濃度の希硫酸にするためには、濃度管理が煩雑であり、また処理量の増加によるランニングコストの高騰を招く可能性がある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、硫酸含有溶液によるステンレス部材の腐食を、設備費やランニングコストを増加させることなく抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、本発明によれば、硫酸含有溶液によるステンレス部材の腐食を抑制する方法であって、硫酸含有溶液がステンレス部材に接触する際に、硫酸含有溶液中に銅イオンを200〜100000質量ppm存在させることを特徴とする、ステンレス部材の腐食抑制方法が提供される。
【0008】
硫酸含有溶液がステンレス部材に接触する際に、硫酸含有溶液中に銅イオンを200〜100000質量ppm存在させるために、例えば、硫酸含有溶液がステンレス部材に接触する以前に、硫酸銅を投入する方法が容易であるが、硫酸含有溶液中に銅を投入しても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、硫酸含有溶液によるステンレス部材の腐食を、銅を使用して、設備費やランニングコストを増加させることなく抑制できる。また、銅イオンの効果で、強酸の硫酸含有溶液を中和等のpH調整せずに蒸発濃縮させ、或いは減圧濃縮させることによる減容化処理も可能となる。よって、硫酸含有溶液を廃棄する場合に、その廃液処理費用を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例4〜11と比較例1〜3の重量変化率(%)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明において、硫酸含有溶液とは、種々多様の製造設備や処理設備で使用され、また各種産業設備などで発生した硫酸を含有する廃液などが該当する。硫酸含有溶液としては、Sn,Ni,Fe,Cu等の硫酸塩および硫酸を含有した電気めっき液、その水洗水、精錬工程における浸出液、鍛造品やプレス加工品等の酸洗液、その水洗水、金属溶解に用いる溶解液、その水洗水等が挙げられる。
【0012】
かかる硫酸含有溶液を処理する処理設備などでは、タンクや配管などにステンレス製の部材(ステンレス部材)が多用されている。ステンレス部材に用いられる鋼種として、例えばSUS304、SUS316が例示される。SUS304に比べてSUS316は耐食性が高いとされている。しかしながら、硫酸含有溶液の濃度や温度条件、さらには長期間の使用などにより、ステンレス部材に著しい腐食が発生してしまう場合がある。
【0013】
そこで本発明では、厳しい腐食条件下においても優れた耐食性を発現するステンレス部材の使用方法として、硫酸含有溶液がステンレス部材に接触する際に、硫酸含有溶液中に銅イオンを200〜100000質量ppm存在させる。硫酸含有溶液中の銅イオン濃度が200質量ppm未満では、銅イオンが存在しない場合に比べて、腐食を抑制する効果を発揮できない。硫酸含有溶液中の銅イオン濃度が100000質量ppmを超えると、銅イオン添加のためのランニングコストが上昇する。好ましくは銅イオン濃度が300質量ppm以上50000質量ppm以下の範囲に存在、維持することである。
【0014】
硫酸含有溶液がステンレス部材に接触する際に、硫酸含有溶液中に銅イオンを200〜100000質量ppm存在させるために、例えば、硫酸含有溶液がステンレス部材に接触する以前に、硫酸含有溶液中に銅を投入しても良い。この場合、例えば硫酸含有溶液中に銅板材を投入しても良い。また、硫酸含有溶液中に、硫酸銅などの銅塩を投入して硫酸含有溶液中の所定の銅イオン濃度に調整しても良い。
【0015】
硫酸含有溶液がステンレス部材に接触する際に、硫酸含有溶液中に銅イオンを200〜100000質量ppm存在させることにより、硫酸濃度や温度によらずに、硫酸含有溶液によるステンレス部材の腐食を抑制できる。本発明によれば、高価で特殊な貴金属を用いる必要がなく、比較的低廉で入手しやすい銅を用いれば足りるので、設備費の高騰を回避できる。また、硫酸含有溶液の硫酸の濃度管理やpH管理も不要であり、処理量の増加も無いので、ランニングコストを低減できる。更に、この銅イオンの効果で、硫酸含有溶液をpH調整(中和)せずに蒸発濃縮し、或いは減圧した状態で蒸発濃縮することによる減溶化処理も可能となる。
なお、Snイオン、Niイオン、Naイオンなどが10質量%以下程度、硫酸含有溶液中に前記元素の溶解などにより含有されても前記Cuイオンのステンレス部材の腐食の抑制効果は変わらないことがわかった。
【実施例1】
【0016】
表1に記載の硫酸含有量(濃度)の水溶液(処理液)を用いてステンレスの腐食性確認(100℃以上)を行った。下記表1の各処理液(比較例1〜3、実施例4〜11)の硫酸濃度は硫酸の添加量、銅イオン濃度は硫酸銅の添加量により調整した。(ただし比較例1は硫酸含有溶液で銅イオンは含まない。)また、実施例9の処理液には硫酸錫(SnSO)、硫酸ニッケル(NiSO)を添加し、表1に示す錫イオンとニッケルイオンの濃度に調整した。実施例10の処理液には水酸化ナトリウム(NaOH)と油を添加し、表1に示す濃度に調整した。なお、油は金属の切断、切削に用いる切削油である。実施例11の処理液には硫酸錫を添加し、表1に示す錫イオンの濃度に調整した。
このようにして作製した各処理液500ml中に、ステンレス部材であるSUS304とSUS316の2種類の板材(SUS材サイズ(シャーにて切断)、長さ×幅×厚さ:50mm×25mm×1.5mm)を、4時間100℃沸騰溶液中に浸漬させ、重量変化を確認した。
【0017】
【表1】

【0018】
評価結果を表2、図1に示す。銅10ppm添加(比較例2)は、処理液が硫酸含有溶液のままである比較例1よりもステンレス部材の腐食量(重量変化率)が大きくなり、効果がなかった。銅100ppm添加(比較例3)も、比較例1よりも腐食が大きくなった。これに対して、銅300〜10000ppm添加(実施例4〜11)は、まったく腐食が確認できなかった。
【0019】
【表2】

【実施例2】
【0020】
処理液の濃縮によるステンレス容器(ステンレス部材)の腐食性を調べた。表3の実施例12に示す通り、処理液の硫酸濃度は3質量%、銅イオン濃度は5000質量ppm、錫イオン濃度は5000質量ppmとした。また、表3に示すとおり、実施例13は処理液の硫酸濃度を10質量%、銅イオン濃度は500質量ppmとした。次にステンレス容器(SUS304)に400mlの硫酸含有溶液(処理液)を入れて、加熱して沸騰、蒸発させ80mlまで5倍濃縮した。加熱、蒸発試処理前後のステンレス容器の重量を測定した。その結果、表3に示す通り、濃縮後も重量減はなく、濃縮してもステンレス容器は腐食されないことがわかった。重量がわずかに増加しているが、付着物がみられたのでその影響と考えられる。なお、実施例12の濃縮後の銅イオン濃度は25000質量ppm、錫イオン濃度は25000質量ppm、実施例13の濃縮後の銅イオン濃度は2500質量ppmであった。
以上の結果より、硫酸含有溶液を廃液として廃棄処分等する場合、液を蒸発させて減容化する処理をしても、ステンレス容器の腐食を抑制できる。よって、減容処理する産業廃液の処理設備においても好適に使用することができる。
【0021】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、例えば産業廃液の処理設備などで有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸含有溶液によるステンレス部材の腐食を抑制する方法であって、
硫酸含有溶液がステンレス部材に接触する際に、硫酸含有溶液中に銅イオンを200〜100000質量ppm存在させることを特徴とする、ステンレス部材の腐食抑制方法。
【請求項2】
前記ステンレス部材がステンレス容器であることを特徴とする、請求項1に記載のステンレス部材の腐食抑制方法。
【請求項3】
硫酸含有溶液によるステンレス部材の腐食を抑制する方法であって、前記ステンレス部材がステンレス容器であり、前記ステンレス容器に錫、ニッケル、ナトリウムから選択される少なくとも1つの元素を含有する硫酸含有溶液を入れる際に、前記硫酸含有溶液中に銅イオンを200〜100000質量ppm存在させることを特徴とする、ステンレス部材の腐食抑制方法。
【請求項4】
硫酸含有溶液によるステンレス部材の腐食を抑制する方法であって、前記ステンレス部材がステンレス容器であり、前記ステンレス容器に硫酸含有溶液を入れて、硫酸含有溶液を蒸発させる際に、硫酸含有溶液中に銅イオンを200〜100000質量ppm存在させることを特徴とする、ステンレス部材の腐食抑制方法。
【請求項5】
硫酸含有溶液によるステンレス部材の腐食を抑制する方法であって、前記ステンレス部材がステンレス容器であり、前記ステンレス容器に錫、ニッケル、ナトリウムから選択される少なくとも1つの元素を含有する硫酸含有溶液を入れて、硫酸含有溶液を蒸発させる際に、硫酸含有溶液中に銅イオンを200〜100000質量ppm存在させることを特徴とする、ステンレス部材の腐食抑制方法。
【請求項6】
硫酸含有溶液がステンレス部材に接触する以前に、硫酸含有溶液中に銅または硫酸銅の少なくとも1つを投入することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のステンレス部材の腐食抑制方法。

【図1】
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