説明

ストレッチベンダー機を用いた湾曲長尺材の製造方法、及びストレッチベンダー機

【課題】形状等のばらつきを解消することができるストレッチベンダー機を用いた車両用湾曲ドアサッシュの製造方法、及びストレッチベンダー機を提供する。
【解決手段】直線ドアサッシュ母材がテンションチャック20に保持された状態で、直線ドアサッシュ母材の軸線方向とテンションシリンダー10の引張方向βとが一致するまで、テンションシリンダーにより引張する。直線ドアサッシュ母材の軸線方向とテンションシリンダーの引張方向βとが一致した状態から直線ドアサッシュ母材の伸びを測定開始し、測定された伸びが予め定められた伸びに達するまで、直線ドアサッシュ母材を軸線方向に伸長加工する。直線ドアサッシュ母材の伸びが予め定められた伸びに達すると、その時の引張力を保持した状態で、曲げ加工用金型に直線ドアサッシュ母材を圧接して曲げ加工し、車両用湾曲ドアサッシュを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレッチベンダー機を用いて曲げ加工された湾曲長尺材の製造方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
長尺状で金属製の直線ドアサッシュ母材X(図7参照)をストレッチベンダー機により曲げ加工して、車両用湾曲ドアサッシュY(図8参照)を製造する技術は、よく知られている。ここで、前記ストレッチベンダー機は、床面に固定される作業台と、作業台の両側部から水平に突設された一対のアーム部と、各アーム部から起立状に配設された一対のシリンダー支持柱と、各シリンダー支持柱によってほぼ水平に支持される一対のテンションシリンダーと、各テンションシリンダーの先端にそれぞれ接続されたテンションチャックと、直線ドアサッシュ母材Xが圧接される曲げ加工用金型とを備えた構成が一般的である(例えば、特許文献1参照。)。かかる構成にあっては、一対のテンションチャックにより直線ドアサッシュ母材Xをほぼ水平に保持し、テンションシリンダーでテンションチャックを一方向に引張しながら直線ドアサッシュ母材Xをその軸線方向に伸長加工し、それから曲げ加工用金型を用いて曲げ加工することにより、車両用湾曲ドアサッシュYが製造される。
【0003】
ところで、加工対象の直線ドアサッシュ母材Xは、同じ規格の材質であっても、製造メーカーの違い、又は製作ロッド等の違いによって、その軸心方向への伸びが個体ごとに変動してしまう場合がある。また、加工後の形状が同じであっても、スプリングバック量の違いで製品にばらつきが発生してしまう場合もある。そこで、これらの問題を解決しようとする構成が、特許文献1で既に提案されている。
【0004】
特許文献1に開示される構成は、加工材料の伸びを測定する伸び測定センサーを備え、伸び測定センサーの測定データが基準値に達した時に、テンションシリンダーの引張力の上昇を停止して前記基準値に達したときの引張力を保持した状態で加工材料の曲げ加工を行うものである。そして、かかる構成とすることにより、加工材料の強弱によるばらつきがあっても、各々の材料の伸びを伸び測定センサーが測定することによって引張力が自動的に設定されることにより、作業者がその都度引張力の調整を行わなくても曲げ形状の精度を維持することができる、ということが上記特許文献1に記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−237825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される構成を用いて製造された車両用湾曲ドアサッシュにあっても、依然、形状等にばらつきが生じる場合があった。そこで、本特許出願に係る発明者は鋭意検討したところ、このばらつきは、伸長加工の初期段階で、直線ドアサッシュ母材の軸線方向とテンションシリンダーの引張方向とにずれが生じていることが原因であることを突き止めた。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、加工対象である直線母材の伸びに基づいて、精度良く曲げ加工することができるストレッチベンダー機を用いた湾曲長尺材の製造方法、及びストレッチベンダー機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、加工対象である直線母材の両端を保持する一対のチャックと、少なくともいずれかのチャックに接続されて、当該チャックを一方向に引張するテンションシリンダーと、少なくともいずれかのチャック、及び/又は前記テンションシリンダーを回動可能に支持する軸支部と、チャックに保持された直線母材が湾曲しながら圧接される曲げ加工用金型とを備えたストレッチベンダー機を用いた、直線母材を曲げ加工して湾曲長尺材を得る湾曲長尺材の製造方法であって、直線母材がチャックに保持された状態で、当該直線母材の軸線方向とテンションシリンダーの引張方向とが一致するまで、テンションシリンダーによりチャックを引張し、直線母材の軸線方向とテンションシリンダーの引張方向とが一致した状態から当該直線母材の伸びを測定開始し、かつ、測定された伸びが予め定められた伸びに達するまで、当該直線母材を軸線方向に伸長加工し、前記直線母材の伸びが予め定められた伸びに達すると、直線母材の伸びが予め定められた伸びに達したときの引張力を保持した状態で、曲げ加工用金型に当該直線母材を圧接して曲げ加工し、湾曲長尺材を得ることを特徴とするストレッチベンダー機を用いた湾曲長尺材の製造方法である。
【0009】
すなわち、本発明は、直線母材をその軸線方向への伸びに基づいて伸長加工する前に、テンションシリンダーによりチャックを予め所定引張力で引張して、直線母材の軸線方向とテンションシリンダーの引張方向とを一致させ、それから、直線母材の伸びを測定しながら軸線方向へ伸長加工することを特徴としている。さらに詳述すると、ストレッチベンダー機は、ヒンジ部材等により構成される軸支部が単数又は複数設けられており、可動部分を備えている。例えば、床面に固定される作業台から突設し、起立状に取り付けられたシリンダー支持柱を支持するアーム部は、この作業台をほぼ中心として左右方向に回動可能である。また、シリンダー支持柱に水平に取り付けられたテンションシリンダーは、このシリンダー支持柱に対して上下左右方向に回動可能である。また、テンションシリンダーに接続されたチャックも、テンションシリンダーに対して上下方向に回動可能である。このように、軸支部を備えたストレッチベンダー機は、可動部分の体勢が変化しやすく、作業者が単に直線母材をチャックに保持させた状態にあっては、人手が加わるという理由、又は、直線母材若しくはテンションシリンダーの自重が作用するなどの理由から、直線母材の軸線方向とテンションシリンダーの引張方向とが一直線とならない場合があった。そして、このような初期状態から、伸び測定センサー等で伸びを測定しつつ、伸長加工を行っても、測定された伸びが伸長加工に適正に反映されず、製造後のばらつきの問題を生じさせていた。そこで、直線母材をチャックに保持してから、テンションシリンダーを働かせて当該直線母材に引張力を付与していくと、少なくともいずれかのチャック、及び/又は前記テンションシリンダーが、軸支部を中心に徐々に回動して、当該直線母材の軸線方向とテンションシリンダーの引張方向とが一致する体勢に収束していくこととなる。そして、当該直線母材の軸線方向とテンションシリンダーの引張方向とが一致したところで、かかる状態を直線母材の伸びがゼロである伸び測定基準状態とし、前記伸びの測定開始点とすることにより、直線母材の軸線方向への伸びを正確に測定できると共に、測定した伸びを適正に伸長加工に反映させることができる。
【0010】
また、上記構成にあっては、直線母材が、ほぼ一直線状の直線ドアサッシュ母材であり、湾曲長尺材が、曲げ加工用金型に前記直線ドアサッシュ母材を圧接して曲げ加工して得られる車両用湾曲ドアサッシュである構成が提案される。
【0011】
かかる構成とすることにより、直線ドアサッシュ母材が、その軸線方向への正確な伸びに基づいて加工され、形状等のばらつきが飛躍的に低減された車両用湾曲ドアサッシュが得られる。
【0012】
また、本発明は、加工対象である直線母材の両端を保持する一対のチャックと、少なくともいずれかのチャックに接続されて、当該チャックを一方向に引張するテンションシリンダーと、少なくともいずれかのチャック、及び/又は前記テンションシリンダーを回動可能に支持する軸支部と、チャックに保持された直線母材の軸線方向の伸びを測定する伸び測定手段と、チャックに保持された直線母材が湾曲しながら圧接される曲げ加工用金型とを備えた、直線母材を曲げ加工して湾曲長尺材を得るストレッチベンダー機にあって、直線母材がチャックに保持された状態で、当該直線母材の軸線方向とテンションシリンダーの引張方向とが一致するまで、テンションシリンダーにチャックを引張させる加工準備制御内容と、直線母材の軸線方向とテンションシリンダーの引張方向とが一致した状態から、当該直線母材の伸びを伸び測定手段に測定開始させ、かつ、測定された伸びが予め定められた伸びに達するまで、テンションシリンダーに当該直線母材を軸線方向に伸長させる伸長加工制御内容と、前記直線母材の伸びが予め定められた伸びに達すると、直線母材の伸びが予め定められた伸びに達したときの引張力を保持した状態で、曲げ加工用金型に当該直線母材を圧接して曲げ加工し、湾曲長尺材を得る曲げ加工制御内容とを具備する加工制御手段を備えたことを特徴とするストレッチベンダー機である。
【0013】
すなわち、本発明は、直線母材をその軸線方向への伸びに基づいて伸長加工する前に、テンションシリンダーによりチャックを予め所定引張力で引張して、直線母材の軸線方向とテンションシリンダーの引張方向とを一致させ、それから、直線母材の伸びを測定しながら伸長加工を実行するストレッチベンダー機である。このように、直線母材をチャックに保持してから、テンションシリンダーを働かせて当該直線母材に引張力を付与していくと、少なくともいずれかのチャック、及び/又は前記テンションシリンダーが、軸支部を中心に徐々に回動して、当該直線母材の軸線方向とテンションシリンダーの引張方向とが一致する体勢に収束していくこととなる。そして、当該直線母材の軸線方向とテンションシリンダーの引張方向とが一致したところを、直線母材の伸びがゼロである伸び測定基準状態とすると共に、伸びの測定開始点とすることにより、直線母材の軸線方向への伸びを正確に測定できることとなる。さらに、本発明は、測定した伸びを適正に伸長加工に反映させることができる。
【0014】
また、かかる構成にあって、直線母材が、ほぼ一直線状の直線ドアサッシュ母材であり、湾曲長尺材が、曲げ加工制御内容を実行することにより得られる車両用湾曲ドアサッシュである構成が提案される。
【0015】
かかる構成とすることにより、直線ドアサッシュ母材が、その軸線方向への正確な伸びに基づいて加工されることとなり、形状等のばらつきが飛躍的に低減された車両用湾曲ドアサッシュを製造するストレッチベンダー機が得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のストレッチベンダー機を用いた湾曲長尺材の製造方法は、テンションシリンダーによりチャックを予め所定引張力で引張して、直線母材の軸線方向とテンションシリンダーの引張方向とを一致させ、それから、直線母材の伸びを測定しながら軸線方向へ伸長加工する構成としたため、直線母材の軸線方向への伸びを正確に測定できることとなって、測定した伸びを伸長加工に適正に反映させることができる優れた効果がある。これにより、形状等のばらつきが飛躍的に低減された湾曲長尺材が得られる。
【0017】
また、上記構成にあって、直線母材が、ほぼ一直線状の直線ドアサッシュ母材であり、湾曲長尺材が、車両用湾曲ドアサッシュである構成とした場合は、直線ドアサッシュ母材が、その軸線方向への正確な伸びに基づいて加工されることとなり、形状等のばらつきが飛躍的に低減された車両用湾曲ドアサッシュが得られる利点がある。
【0018】
また、本発明のストレッチベンダー機は、テンションシリンダーによりチャックを予め所定引張力で引張して、直線母材の軸線方向とテンションシリンダーの引張方向とを一致させ、それから、直線母材の伸びを測定しながら軸線方向へ伸長加工を実行する構成としたため、直線母材の軸線方向への伸びを正確に測定し、かつ測定した伸びを適正に伸長加工に反映させることが可能となり、形状等のばらつきが飛躍的に低減された湾曲長尺材を得ることができる優れた効果を奏する。
【0019】
また、かかる構成にあって、直線母材が、ほぼ一直線状の直線ドアサッシュ母材であり、湾曲長尺材が、車両用湾曲ドアサッシュである構成とした場合は、直線ドアサッシュ母材が、その軸線方向への正確な伸びに基づいて加工されることとなり、形状等のばらつきが飛躍的に低減された車両用湾曲ドアサッシュが得られる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施例を図1〜図8に従って説明する。
まず、加工対象について説明する。
加工対象となる直線ドアサッシュ母材Xは、図7に示すように、一枚の金属製板材をロール成形して得られる長尺状の部材であって、後述のストレッチベンダー機Aを用いて曲げ加工されて、図8に示す車両用湾曲ドアサッシュYとなる。この直線ドアサッシュ母材Xは、図7に示すように、車外に露出する外装表面100を具備するフランジ部101と、該フランジ部101の裏面から起立する主板部102と、該主板部102と連成した、中空部103を具備する中空幅広部104とを備えている。この中空幅広部104は、主板部102に対して一側に偏位して形成されている。また、主板部102の一方の側面には、ドア側ウェザーストリップ(図示省略)が嵌挿される第一溝部105が長手方向に沿って形成されている。これに対し、反対側の主板部102の側面には、ガラスラン(図示省略)が嵌挿される第二溝部106が長手方向に沿って形成されている。なお、この直線ドアサッシュ母材Xにより、本発明に係る直線母材が構成される。また、車両用湾曲ドアサッシュYにより、本発明に係る湾曲長尺材が構成される。
【0021】
次に、ストレッチベンダー機Aについて説明する。
図1等に示すように、ストレッチベンダー機Aは、中央に、床面に固定された作業台1を備えている。また、この作業台1の上面には、板状の金型台2が配設されている。そして、この金型台2の上面に、曲げ加工用金型3が配設されている。
【0022】
この曲げ加工用金型3は、図2に示すように、直線部分と曲線部分とで構成された、直線ドアサッシュ母材Xが圧接される型面22が形成されている。なお、この曲げ加工用金型3は、公知品が好適に用いられる。
【0023】
また、作業台1の両側部からは、アーム部4,4がそれぞれ水平方向に突設されている。さらに詳述すると、各アーム部4は、軸支部40を中心に、作業台1に対して左右方向(水平方向)に回動可能となっている。なお、軸支部40は、アーム部4の基端に形成された縦断面コ字状の接続部42と、作業台1に設けられた鉛直方向の回動軸41とで構成されている。
【0024】
また、アーム部4のほぼ中央には、シリンダー支持柱6が起立状に配設されている。また、各シリンダー支持柱6には、支持杆8が水平支持されている。この支持杆8は、その軸線方向にスライド可能な構成となっている。
【0025】
さらに、各支持杆8には、長尺状のテンションシリンダー10が、ほぼ水平状に取り付けられている。このテンションシリンダー10は、起立状に設けられた上下動シリンダー11により、シリンダー支持柱6に沿って上下動する構成となっている。また、このテンションシリンダー10は、水平方向に沿って設けられた第一テンションシリンダー用軸支部12(図1参照)でシリンダー支持柱6に軸支されており、前記上下動シリンダー11の働きによって、シリンダー支持柱6に対して上下方向(鉛直方向)に揺動可能となっている。また、テンションシリンダー10は、鉛直方向に沿って設けられた第二テンションシリンダー用軸支部13(図2参照)でシリンダー支持柱6に軸支されており、シリンダー支持柱6に対して左右方向(水平方向)に揺動可能となっている。なお、テンションシリンダー10は、所定引張方向βへ、後述するテンションチャック20を引張する機能を有し、公知品が好適に用いられる。また、前記第一テンションシリンダー用軸支部12と第二テンションシリンダー用軸支部13により、本発明に係るテンションシリンダーを回動可能に支持する軸支部が構成される。
【0026】
また、各テンションシリンダー10の一端には、直線ドアサッシュ母材Xを保持して固定するテンションチャック20がそれぞれ配設されている。そして、テンションシリンダー10がテンションチャック20を引張することにより、テンションチャック20に保持された直線ドアサッシュ母材Xが伸長されることとなる。ここで、テンションチャック20の接続機構についてさらに詳述すると、図3に示すように、テンションチャック20は、テンションチャック用軸支部23により軸支されており、テンションシリンダー10の引張方向βに対して上下方向(鉛直方向)に揺動可能となっている。また、テンションチャック20とテンションシリンダー10との間には、回転機構21が介在しており、テンションチャック20が、テンションシリンダー10の軸線周りに回転可能となっている。なお、テンションチャック20は、公知品が好適に用いられる。また、前記テンションチャック20により、本発明に係るチャックが構成され、前記テンションチャック用軸支部23により、本発明に係るチャックを回動可能に支持する軸支部が構成される。
【0027】
また、金型台2の上面中央には、加工物保持具30が取り付けられている。この加工物保持具30は、図2に示すように、直線ドアサッシュ母材Xが、左右のテンションチャック20に保持されたときに、曲げ加工用金型3の型面22に、当該直線ドアサッシュ母材Xを押し当てて密接させるものである。
【0028】
また、図3に示すように、ストレッチベンダー機Aは、直線ドアサッシュ母材Xの軸線方向αへの伸びを測定する伸び測定装置35が取り付けられている。本実施例では、この伸び測定装置35は、ロータリーエンコーダ38、並びに、ラック36a及びピニオン36bにより構成されている。具体的には、まず、テンションシリンダー10と平行にガイドロッド37が設けられている。このガイドロッド37は、テンションシリンダー10の支持を補強すると共に、テンションシリンダー10がその軸線周り回転してしまうことを防止するものである。そして、このガイドロッド37の長手方向に沿うようにして、長尺状のラック36aが配設されている。そして、このラック36aにピニオン36bが係合し、このピニオン36bにロータリーエンコーダ38が取り付けられている。そして、テンションシリンダー10の働きによりテンションチャック20が引張されると、テンションシリンダー10と連動してピニオン36bが後退し、直線運動が回転運動に変換されて、ロータリーエンコーダー38が伸びを測定する。なお、この伸び測定装置35は、公知品が好適に用いられる。なお、この伸び測定装置35により、本発明に係る伸び測定手段が構成される。
【0029】
また、図4に示すように、ストレッチベンダー機Aは、中央処理装置CPUを具備する加工制御装置60を備えている。この加工制御装置60は、テンションシリンダー10に接続された油圧回路50、伸び測定装置35、軸支部40、及びコントロールパネル70とそれぞれ電気的に接続されている。かかる構成にあっては、コントロールパネル70から、一連の加工を開始させる加工スタート信号を加工制御装置60に入力することができる。また、直線ドアサッシュ母材Xの材質及び単位長さ当たりの断面積から算出される伸びの基準値も、コントロールパネル70から加工制御装置60に入力することができる。また、加工制御装置60には、伸び測定装置35が測定した伸びの測定値が入力される。また、加工制御装置60からは、油圧回路50に信号が送られ、油圧回路50に備えられた圧力調整弁(図示省略)が作動してテンションシリンダー10への油圧が制御される。また、加工制御装置60は、前記軸支部40に動作信号を送信して、アーム部4を作業台1周りに所定角度範囲で回動させる。なお、この加工制御装置60により、本発明に係る加工制御手段が構成される。
【0030】
次に、本発明の要部である加工制御装置60の制御内容について説明する。
本実施例に係る加工制御装置60は、加工準備制御内容と、伸長加工制御内容と、曲げ加工制御内容とを具備している。
まず、加工準備制御内容は、直線ドアサッシュ母材Xの両端が一対のテンションチャック20に保持された状態で、加工スタート信号が入力されると最初に実行される制御である。その制御内容は、直線ドアサッシュ母材Xの軸線方向αと、テンションシリンダー10の引張方向βとが一致するまで、テンションチャック20を引張するという内容である。ここで、ストレッチベンダー機Aは、上述のように軸支部12,13,23,40が設けられているため、アーム部4、テンションシリンダー10、又はテンションチャック20等の可動部分を備えている。したがって、作業者が、直線ドアサッシュ母材Xの両端をテンションチャック20に単に固定させた状態にあっては、当該直線ドアサッシュ母材X、又はテンションシリンダー10の自重、又は、テンションチャック20による直線ドアサッシュ母材Xの掴み具合等の影響により、直線ドアサッシュ母材Xの軸線方向αとテンションシリンダーの引張方向βとが一直線とならない状態となる(図5a、図6a参照)。例えば、図5aに示すように、テンションシリンダー10の高さ位置が不適であると、テンションチャック用軸支部23で屈曲して、直線ドアサッシュ母材Xの軸線方向αに対してテンションシリンダー10の引張方向βが上方傾斜する場合がある。また、図6aに示すように、アーム部4が一側へ所定角度だけ回動し、かつテンションチャック20による直線ドアサッシュ母材Xの掴み具合が最適でないと、直線ドアサッシュ母材Xの端部でわずかな材料変形が生じたままテンションチャック20,20に保持されることとなり、直線ドアサッシュ母材Xの軸線方向αに対してテンションシリンダー10の引張方向βがずれてしまう場合がある。そして、図5a、又は図6aに示すような保持状態から、テンションシリンダー10を働かせて直線ドアサッシュ母材Xに引張力を付与していくと、アーム部4、テンションチャック20、及びテンションシリンダー10が、各軸支部12,13,23,40を中心に徐々に回動して、又は、テンションチャック20により保持されている直線ドアサッシュ母材Xの端部で塑性変形が生じて、直線ドアサッシュ母材Xの軸線方向αとテンションシリンダー10の引張方向βとが一致する体勢に収束していくこととなる(図5b、図6b参照)。なお、具体的には、直線ドアサッシュ母材Xの軸線方向αと、テンションシリンダー10の引張方向βとが一致する引張力等を予め求めておき、かかる条件となるまで自動にテンションチャック20を引張する構成が提案される。
【0031】
次に、伸長加工制御内容は、加工準備制御内容の実行後に実行される制御であって、まず、伸び測定装置35に、直線ドアサッシュ母材Xの伸びの測定を開始させる。さらに、伸び測定装置35により測定された伸びが、予め入力された伸びの基準値に達するまで、テンションシリンダー10にテンションチャック20を引張させて直線ドアサッシュ母材Xを軸線方向αへ伸長加工させる。
【0032】
さらに、曲げ加工制御内容は、伸長加工制御内容の実行後に実行される制御であって、直線ドアサッシュ母材Xの伸びが基準値に達したときの引張力を保持した状態で、軸支部40に指令信号を送信し、アーム部4等を回動させて、曲げ加工用金型3の型面22に直線ドアサッシュ母材Xを圧接させる内容である。
【0033】
次に、車両用湾曲ドアサッシュYの製造方法を説明する。
まず、作業者は、直線ドアサッシュ母材Xの両端をテンションチャック20で保持し、金型台2上に設置する。具体的には、曲げ加工用金型3の型面22に、直線ドアサッシュ母材Xの第二溝部106側の側面を密着させる。次に、作業者は、コントロールパネル70から、加工対象である直線ドアサッシュ母材X独自に定められた伸びの基準値を入力し、加工をスタートさせる。
【0034】
そして、加工制御装置60に加工スタート信号が入力されると、テンションシリンダー10が、直線ドアサッシュ母材Xの軸線方向αと、テンションシリンダー10の引張方向βとが一致するまで、テンションチャック20を引張する。
【0035】
直線ドアサッシュ母材Xの軸線方向αと、テンションシリンダー10の引張方向βとが一致すると、かかる状態の直線ドアサッシュ母材Xの伸びをゼロとして、軸線方向αへの伸びを測定開始する。そして、同時並行して、伸び測定装置35により測定された伸びが基準値に達するまで直線ドアサッシュ母材Xを軸線方向αに伸長加工する。
【0036】
加工制御装置60が、伸び測定装置35により測定された伸びが基準値に達したと判定すると、テンションシリンダー10にテンションチャック20の引張を中止させ、直線ドアサッシュ母材Xの伸長加工を中止させる。
【0037】
そして、加工制御装置60は、直線ドアサッシュ母材Xの伸びが基準値に達した時の引張力を保持する。さらに、加工制御装置60は、この引張力を保持したまま、アーム部4を左右方向に回動させて、直線ドアサッシュ母材Xを湾曲させながら型溝22に順次密接させていく。このようにして、直線ドアサッシュ母材Xが、型溝22に沿って圧接されると、曲げ加工用金型によって規定される車両用湾曲ドアサッシュYが製造されることとなる。
【0038】
なお、本発明は、両テンションチャック20,20及び両テンションシリンダー10,10にそれぞれ軸支部12,13,23がある構成に限定されず、少なくともいずれかのテンションチャック20、及び/又はテンションシリンダー10に軸支部があるストレッチベンダー機にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】ストレッチベンダー機Aの一部切欠側面図である。
【図2】ストレッチベンダー機Aの平面図である。
【図3】テンションシリンダー10とテンションチャック20の接続機構を示す側面図である。
【図4】ストレッチベンダー機Aのブロック回路図である。
【図5】(a)は、加工準備制御内容実行前のテンションシリンダー10等を側方から示す模式図であり、(b)は、加工準備制御内容実行後のテンションシリンダー10等を側方から示す模式図である。
【図6】(a)は、加工準備制御内容実行前のテンションシリンダー10等を上方から示す模式図であり、(b)は、加工準備制御内容実行後のテンションシリンダー10等を上方から示す模式図である。
【図7】直線ドアサッシュ母材Xの外観斜視図である。
【図8】車両用湾曲ドアサッシュYの側面図である。
【符号の説明】
【0040】
3 曲げ加工用金型
10 テンションシリンダー
12 第一テンションシリンダー用軸支部
13 第二テンションシリンダー用軸支部
20 テンションチャック
23 テンションチャック用軸支部
35 伸び測定装置
60 加工制御装置
A ストレッチベンダー機
X 直線ドアサッシュ母材
Y 車両用湾曲ドアサッシュ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象である直線母材の両端を保持する一対のチャックと、
少なくともいずれかのチャックに接続されて、当該チャックを一方向に引張するテンションシリンダーと、
少なくともいずれかのチャック、及び/又は前記テンションシリンダーを回動可能に支持する軸支部と、
チャックに保持された直線母材が湾曲しながら圧接される曲げ加工用金型と
を備えたストレッチベンダー機を用いた、直線母材を曲げ加工して湾曲長尺材を得る湾曲長尺材の製造方法であって、
直線母材がチャックに保持された状態で、当該直線母材の軸線方向とテンションシリンダーの引張方向とが一致するまで、テンションシリンダーによりチャックを引張し、
直線母材の軸線方向とテンションシリンダーの引張方向とが一致した状態から当該直線母材の伸びを測定開始し、かつ、測定された伸びが予め定められた伸びに達するまで、当該直線母材を軸線方向に伸長加工し、
前記直線母材の伸びが予め定められた伸びに達すると、直線母材の伸びが予め定められた伸びに達したときの引張力を保持した状態で、曲げ加工用金型に当該直線母材を圧接して曲げ加工し、湾曲長尺材を得ることを特徴とするストレッチベンダー機を用いた湾曲長尺材の製造方法。
【請求項2】
直線母材が、ほぼ一直線状の直線ドアサッシュ母材であり、
湾曲長尺材が、曲げ加工用金型に前記直線ドアサッシュ母材を圧接して曲げ加工して得られる車両用湾曲ドアサッシュであることを特徴とする請求項1記載のストレッチベンダー機を用いた湾曲長尺材の製造方法。
【請求項3】
加工対象である直線母材の両端を保持する一対のチャックと、
少なくともいずれかのチャックに接続されて、当該チャックを一方向に引張するテンションシリンダーと、
少なくともいずれかのチャック、及び/又は前記テンションシリンダーを回動可能に支持する軸支部と、
チャックに保持された直線母材の軸線方向の伸びを測定する伸び測定手段と、
チャックに保持された直線母材が湾曲しながら圧接される曲げ加工用金型と
を備えた、直線母材を曲げ加工して湾曲長尺材を得るストレッチベンダー機にあって、
直線母材がチャックに保持された状態で、当該直線母材の軸線方向とテンションシリンダーの引張方向とが一致するまで、テンションシリンダーにチャックを引張させる加工準備制御内容と、
直線母材の軸線方向とテンションシリンダーの引張方向とが一致した状態から、当該直線母材の伸びを伸び測定手段に測定開始させ、かつ、測定された伸びが予め定められた伸びに達するまで、テンションシリンダーに当該直線母材を軸線方向に伸長させる伸長加工制御内容と、
前記直線母材の伸びが予め定められた伸びに達すると、直線母材の伸びが予め定められた伸びに達したときの引張力を保持した状態で、曲げ加工用金型に当該直線母材を圧接して曲げ加工し、湾曲長尺材を得る曲げ加工制御内容と
を具備する加工制御手段を備えたことを特徴とするストレッチベンダー機。
【請求項4】
直線母材が、ほぼ一直線状の直線ドアサッシュ母材であり、
湾曲長尺材が、曲げ加工制御内容を実行することにより得られる車両用湾曲ドアサッシュであることを特徴とする請求項3記載のストレッチベンダー機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−346683(P2006−346683A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172129(P2005−172129)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(592172699)株式会社東晃製作所 (5)