説明

ストレプトアビジンを自己組織化膜上に固定する方法

【課題】自己組織化膜上に固定されるストレプトアビジンの量を増加させる方法、及び当該方法により固定されたストレプトアビジンを有するセンサを提供することを目的とする。
【解決手段】自己組織化膜上に、下記式(II)で示される構造を介してストレプトアビジンを固定することが、上記課題を解決する。
【化2】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はストレプトアビジンを自己組織化膜上に固定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含有される標的物質を検出または定量するために、バイオセンサが用いられる。ストレプトアビジンとビオチンとの間の高い親和性がバイオセンサにおいて利用され得る。具体的には、ストレプトアビジンが当該バイオセンサに固定されている。標的物質はビオチン分子により修飾されている。当該標的物質が当該バイオセンサに供給されると、ストレプトアビジンとビオチンとの間の高い親和性のために、標的物質がバイオセンサに固定される。
【0003】
特許文献1は、ストレプトアビジンとビオチンとの間の高い親和性を利用した従来のバイオセンサを開示している。図2は、特許文献1の図7に開示されたバイオセンサを示す。
【0004】
特許文献1の図7に関する記述によれば、当該バイオセンサは、生体分子の活性をスクリーニングするために用いられる。当該バイオセンサは、単層7、親和性タグ8、アダプター分子9、およびタンパク質10を具備している。単層7は、化学式X−R−Yによって表される自己組織化膜から構成される(段落番号0080、0082、0084、0085を参照)。X、R、およびYの一例は、それぞれ、HS−、アルカン、およびカルボキシル基である(0084、0085、および0109、0119)。
親和性タグ8およびアダプター分子9は、それぞれストレプトアビジンおよびビオチンから構成され得る(段落番号0118を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第WO00/04382号公報(特開2002−520618号公報に相当)(段落0080、0082、0084、0085、0095、および0109、0119参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
標的物質の検出感度または定量精度を向上させるためには、当該バイオセンサに固定されるストレプトアビジンの量を増やすことが必要とされる。
【0007】
本発明者は、自己組織化膜に1分子のアミノ酸を結合させ、そしてストレプトアビジンを固定することによって、単位面積あたりのストレプトアビジンの固定量が著しく増加されるという知見を見いだした。本発明はこの知見を元に完成された。
【0008】
本発明の目的は、自己組織化膜上に固定されるストレプトアビジンの量を増加させる方法、及び当該方法により固定されたストレプトアビジンを有するセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下の項目[1]〜[22]は、上記課題を解決する。
[1]ストレプトアビジンを自己組織化膜上に固定する方法であって、以下の工程(a)および(b)をこの順に含有する。
1分子のアミノ酸および自己組織化膜を具備する基材を用意する工程(a)、
ここで、前記1分子のアミノ酸は、以下の化学式(I)により表されるペプチド結合により前記自己組織化膜に結合しており、
【化1】

(式中、Rは前記一分子のアミノ酸の側鎖を示す)
前記1分子のアミノ酸は、システイン、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、グリシン、アスパラギン、メチオニン、セリン、トリプトファン、ロイシン、グルタミン、アラニン、イソロイシン、スレオニン、プロリン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニン、およびバリンからなる20種類のアミノ酸から選択され、
前記基材上にストレプトアビジンを供給し、前記1分子のアミノ酸のカルボキシル基と前記ストレプトアビジンのアミノ基との間の反応により、以下の化学式(II)よって表されるペプチド結合を形成する工程(b)
【化2】

(式中、Rは前記一分子のアミノ酸の側鎖を示す。)
[2]項目1の方法であって、前記工程(a)は、以下の工程(a1)および(a2)を具備する:
自己組織化膜を表面に具備する基材を用意する工程(a1)、ここで、前記自己組織化膜は一端にカルボキシル基を有し、
前記1分子のアミノ酸を前記基材に供給し、前記化学式(I)により表される前記自己組織化膜の一端の前記カルボキシル基と前記1分子のアミノ酸のアミノ基との間でペプチド結合を形成する工程(a2)
[3]項目1の方法であって、前記工程(a)および前記工程(b)との間にさらに以下の工程(ab)を具備する:
前記1分子のアミノ酸のカルボキシル基を、N−ヒドロキシスクシンイミド(N-Hydroxysuccinimide)および1-エチル-3-(3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide hydrochloride)混合液により活性化する工程(ab)。
[4]項目2の方法であって、前記工程(a1)および前記工程(a2)との間にさらに以下の工程(a1a)を具備する:
前記自己組織化膜のカルボキシル基を、N−ヒドロキシスクシンイミド(N-Hydroxysuccinimide)および1-エチル-3-(3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide hydrochloride)混合液により活性化
する工程(a1a)。
[5]前記化学式(II)が以下の化学式(III)により表される、項目1の方法。
【化3】

(式中、Rは前記一分子のアミノ酸の側鎖を示す。)
[6]項目1の方法であって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン、ロイシン、トリプトファン、スレオニン、イソロイシン、およびバリンからなる群から選択される。
[7]項目1の方法であって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン、ロイシン、およびトリプトファンからなる群から選択される。
[8]項目1の方法であって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、およびアスパラギンからなる群から選択される。
[9]項目1の方法であって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、およびセリンからなる群から選択される。
[10]自己組織化膜、1分子のアミノ酸、およびストレプトアビジンを備えたセンサであって、
前記自己組織化膜および前記ストレプトアビジンの間には前記1分子のアミノ酸が挟まれており、
前記ストレプトアビジンが、以下の化学式(II)によって表される2つのペプチド結合により自己組織化膜に結合しており、
【化2】

(式中、Rは前記一分子のアミノ酸の側鎖を示す。)
前記1分子のアミノ酸は、システイン、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、グリシン、アスパラギン、メチオニン、セリン、トリプトファン、ロイシン、グルタミン、アラニン、イソロイシン、スレオニン、プロリン、グルタミン酸、アスパラギン
酸、アルギニン、およびバリンからなる20種類のアミノ酸から選択される、センサ。
[11]前記化学式(II)が以下の化学式(III)により表される、項目10のセンサ。
【化3】

(式中、Rは前記一分子のアミノ酸の側鎖を示す。)
[12]項目10のセンサであって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン、ロイシン、トリプトファン、スレオニン、イソロイシン、およびバリンからなる群から選択される。
[13]項目10のセンサであって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン、ロイシン、およびトリプトファンからなる群から選択される。
[14]項目10のセンサであって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、およびアスパラギンからなる群から選択される。
[15]項目10のセンサであって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、およびセリンからなる群から選択される。
[16]センサを用いて試料に含まれる標的物質を検出または定量する方法であって、以下の工程(a)〜(c)をこの順で具備する:
自己組織化膜、1分子のアミノ酸、およびストレプトアビジンを備えたセンサを用意する工程(a)、ここで
前記自己組織化膜および前記ストレプトアビジンの間には前記1分子のアミノ酸が挟まれており、
前記ストレプトアビジンが、以下の化学式(II)によって表される2つのペプチド結合により自己組織化膜に結合しており、
【化2】

(式中、Rは前記1分子のアミノ酸の側鎖を示す。)
前記1分子のアミノ酸は、システイン、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、グリシン、アスパラギン、メチオニン、セリン、トリプトファン、ロイシン、グルタミン、アラニン、イソロイシン、スレオニン、プロリン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニン、およびバリンからなる20種類のアミノ酸から選択され、
前記センサに前記試料を供給し、前記ストレプトアビジンに前記標的物質を結合させる工程(b)、および
前記結合された標的物質またはその量から試料に含まれる標的物質を検出または定量する工程(c)。
[17]項目16の方法であって、
前記工程(b)は、以下の工程(b1)および工程(b2)を具備する:
前記ストレプトアビジンに抗体を結合させる工程(b1)、ここで、
前記抗体は、ビオチンにより修飾されており、
前記抗体に、前記標的物質を結合させる工程(b2)
[18]前記化学式(II)が以下の化学式(III)により表される、項目16の方法。
【化3】

(式中、Rは前記1分子のアミノ酸の側鎖を示す。)
[19]項目16の方法であって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン、ロイシン、トリプトファン、スレオニン、イソロイシン、およびバリンからなる群から選択される。
[20]項目16の方法であって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン、ロイシン、およびトリプトファンからなる群から選択される。
[21]項目16の方法であって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、およびアスパラギンからなる群から選択される。
[22」項目16の方法であって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、およびセリンからなる群から選択される。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、単位面積あたりに固定されるストレプトアビジンの量の著しい増加を達成する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明による方法の概略図を示す。
【図2】図2は、特許文献1の図7である。
【図3】図3は、従来技術による方法の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を参照しながら、本発明の実施の形態が、以下、説明される。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、ストレプトアビジンを自己組織化膜に固定するための本発明による方法を示す。
【0014】
基材1は、好ましくは金基板である。金基板の一例は、表面に金を具備する基板である。具体的には、金基板は、ガラス、プラスチック、または二酸化ケイ素(SiO2)の表面に金をスパッタすることにより形成された基板であり得る。
【0015】
まず、アルカンチオールを含有する溶液に基材1は浸漬される。好ましくは、浸漬前に基材1は洗浄される。当該アルカンチオールは、末端にカルボキシル基を有する。当該アルカンチオールとしては、炭素数6〜18の第1級アルカンチオールを好ましく使用できる。このようにして、基材1上に自己組織化膜2が形成される。
【0016】
アルカンチオールの好ましい濃度はおよそ1〜10mMである。アルカンチオールを溶解する限り、溶媒は限定されない。好ましい溶媒の一例は、エタノール、DMSO(ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide))、およびジオキサン(dioxane)である。好ましい浸漬時間はおよそ12〜48時間である。
【0017】
次に、自己組織化膜2にアミノ酸3が供給される。自己組織化膜2の上端に位置するカルボキシル基(-COOH)とアミノ酸3のアミノ基(-NH2)とが反応して、以下の化学式(I)によって表されるペプチド結合を形成する。
【0018】
【化1】

(式中、Rは前記一分子のアミノ酸の側鎖を示す。)
【0019】
化学式(I)においては、1分子のアミノ酸3が自己組織化膜2と結合する。
【0020】
アミノ酸3は、システイン、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、グリシン、アスパラギン、メチオニン、セリン、トリプトファン、ロイシン、グルタミン、アラニン、イソロイシン、スレオニン、プロリン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニン、およびバリンからなる20種類のアミノ酸から選択される。すなわち、化学式(I)において、Rはこれら20種類のアミノ酸の側鎖である。
自己組織化膜2にアミノ酸3が供給される際に、2種類以上のアミノ酸が同時に供給さ
れ得る。すなわち、自己組織化膜2にアミノ酸3を含有する溶液が供給される際に、当該溶液は2種類以上のアミノ酸3を含有し得る。後述するストレプトアビジンのアミノ酸3への均一な結合を考慮すれば、当該溶液は1種類のみのアミノ酸を含有することが好ましい。
【0021】
続いて、ストレプトアビジン4が供給される。ストレプトアビジン4の5’末端のアミノ基が、アミノ酸3のカルボキシル基と反応する。ストレプトアビジン4に含有されるリシンのアミノ基も、アミノ酸3のカルボキシル基と反応する。このようにして、以下の化学式(II)中に示される2つのペプチド結合が形成され、センサを得る。
【0022】
【化2】

(式中、Rは前記1分子のアミノ酸の側鎖を示す。)
【0023】
1分子のストレプトアビジン4は、1つの5’末端のみを有する一方、1分子のストレプトアビジン4は、多数のリシン基を有する。従って、ほとんど全ての化学式(II)は、詳細には、以下の化学式(III)によって表される。
【0024】
【化3】

(式中、Rは一分子のアミノ酸の側鎖を示す。)
【0025】
得られたセンサは、試料に含有される標的物質を検出または定量するために用いられる。
【0026】
具体的には、当該標的物質を特異的に結合し得る抗体がセンサ上に供給され、ストレプトアビジン4に当該抗体を結合させる。すなわち、抗体はストレプトアビジン4に補足される。当該抗体は、ビオチンにより修飾されていることが好ましい。なぜなら、ストレプトアビジンは、ビオチンに対して高い親和性を有するからである。次に、試料をセンサに供給し、試料に含有される標的物質、すなわち抗原を、当該抗体に結合させる。
【0027】
最後に、表面プラズモン共鳴(SPR)分析法のような一般的な分析法を使用して、標的物質が検出または定量される。QCM(水晶発振子マイクロバランス測定法:Quarts Crystal Microbalance)のような他の分析法も用いられ得る。
【実施例】
【0028】
以下の実施例および比較例は、本発明をさらに詳細に説明する。
【0029】
(比較例)
図3に示されるように、金表面上に形成された自己組織化されたアルカンチオールの上端に位置するカルボキシル基に、直接、ストレプトアビジンがアミドカップリング反応により結合され、ストレプトアビジンを固定した。手順及び結果が以下に記述される。
【0030】
[試料溶液の調製]
10mMの最終濃度を有する16−メルカプトヘキサデカン酸(16-Mercaptohexadecanoic acid)の試料溶液が調製された。溶媒はエタノールであった。
【0031】
[自己組織化膜の形成]
基材1として、ガラス上に金が蒸着された金基板(GEヘルスケア社製;BR−1004−05)が用いられた。当該基材1は、濃硫酸および30%過酸化水素水を含有するピラニア溶液で10分間洗浄した。さらに純水を用いて洗浄して乾燥した。当該ピラニア溶液を構成する濃硫酸と30%過酸化水素水との体積比は3:1であった。
続いて、金基板は試料溶液中に18時間浸漬され、金基板の表面に自己組織化膜を形成した。最後に、純水により基材1は洗浄され、乾燥された。
【0032】
[ストレプトアビジンの固定]
自己組織化膜を形成する16−メルカプトヘキサデカン酸の上端に位置するカルボキシル基にストレプトアビジンが結合され、ストレプトアビジンが固定された。
具体的には、0.1M NHS(N-Hydroxysuccinimide)および0.4M EDC(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide hydrochloride)の35μlの混合液により、16−メルカプトヘキサデカン酸の上端に位置するカルボキシル基が活性化された。その後、35μlのストレプトアビジン(250ug/ml)が5μl/分の流速で添加された。このようにして、16−メルカプトヘキサデカン酸のカルボキシル基はストレプトアビジンのアミノ基にカップリングされた。
【0033】
(実施例1)
自己組織化膜の形成とストレプトアビジンの固定との間に、一分子のアミノ酸としてグリシンが供給されたこと以外は、比較例と同様に、実験が行なわれた。手順及び結果は以下に記述される。
【0034】
[アミノ酸(グリシン)の固定化]
自己組織化膜2を形成する16−メルカプトヘキサデカン酸(16-Mercaptohexadecanoic
acid)の上端に位置するカルボキシル基にグリシンが結合され、グリシンを固定した。
具体的には、比較例と同様にカルボキシル基が活性化された後に、35μlの0.1Mグリシン(pH8.9)が5μL/分の流速で添加された。このようにして、16−メルカプトヘキサデカン酸のカルボキシル基がグリシンのアミノ基にカップリングされた。
【0035】
[ストレプトアビジンの固定]
続いて、グリシンのカルボキシル基にストレプトアビジンが結合され、ストレプトアビジンを固定した。具体的には、上記と同様にグリシンのカルボキシル基が活性化された後に、35μlのストレプトアビジン(濃度:250μg/ml)が5μL/分の流速で添
加された。このようにして、グリシンのカルボキシル基は、ストレプトアビジンの5’末端のアミノ基またはストレプトアビジンに含有されるリシンのアミノ基にカップリングされた。
【0036】
[固定量の比較]
SPR装置Biacore3000(GEヘルスケア社製)により、実施例1および比較例におけるストレプトアビジンの固定量が測定された。
本明細書において用いられる用語「固定量」とは、単位面積あたりに固定されたストレプトアビジンの量を意味する。
比較例で測定された固定量と実施例1で測定された固定量の比は、25.6:1であった。
【0037】
(実施例2〜20)
グリシンに代え、それぞれ、スレオニン、メチオニン、イソロイシン、プロリン、セリン、グルタミン、アスパラギン、フェニルアラニン、トロプトファン、システイン、ヒスチジン、アラニン、リシン、ロイシン、グルタミン酸、バリン、アスパラギン酸、アルギニン、およびチロシンが供給された。実施例1と同様に各固定量を測定した。これらのアミノ酸は、20種類の天然アミノ酸である。表1は、測定された固定量を示す。
【0038】
【表1】

【0039】
当業者は以下のことを表1から理解するであろう。
20種類のアミノ酸が用いられた場合、比較例と比較して固定量が増加する。さらに、用いられるアミノ酸に応じて、固定量は変化する。
【0040】
リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタ
ミン酸、チロシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン、ロイシン、トリプトファン、スレオニン、イソロイシン、およびバリンが好ましい。なぜなら、これらのアミノ酸のうち一のアミノ酸が供給された際には、測定された固定量はそれぞれ、5以上であるからである。
【0041】
リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン、ロイシン、およびトリプトファンがより好ましい。なぜなら、これらのアミノ酸のうち一のアミノ酸が供給された際には、測定された固定量はそれぞれ、10以上であるからである。
【0042】
リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、およびアスパラギンがさらにより好ましい。なぜなら、これらのアミノ酸のうち一のアミノ酸が供給された際には、測定された固定量はそれぞれ、平均値(17.8%)よりも高いからである。
【0043】
リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、およびセリンが最も好ましい。なぜなら、これらのアミノ酸のうち一のアミノ酸が供給された際には、測定された固定量はそれぞれ、20以上であるからである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、単位面積あたりに固定されるストレプトアビジンの量を著しく増加させ得る。このことにより、バイオセンサの感度を向上させることが可能になる。当該バイオセンサは、臨床現場において患者由来の生体試料に含有される抗原または抗体の検出または定量を必要とする検査および診断に用いられ得る。
【符号の説明】
【0045】
1:金基材
2:アルカンチオール
3:アミノ酸
4:ストレプトアビジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレプトアビジンを自己組織化膜上に固定する方法であって、以下の工程(a)および(b)をこの順に含有する。
1分子のアミノ酸および自己組織化膜を具備する基材を用意する工程(a)、
ここで、前記1分子のアミノ酸は、以下の化学式(I)により表されるペプチド結合により前記自己組織化膜に結合しており、
【化1】

(式中、Rは前記一分子のアミノ酸の側鎖を示す)
前記1分子のアミノ酸は、システイン、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、グリシン、アスパラギン、メチオニン、セリン、トリプトファン、ロイシン、グルタミン、アラニン、イソロイシン、スレオニン、プロリン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニン、およびバリンからなる20種類のアミノ酸から選択され、
前記基材上にストレプトアビジンを供給し、前記1分子のアミノ酸のカルボキシル基と前記ストレプトアビジンのアミノ基との間の反応により、以下の化学式(II)よって表されるペプチド結合を形成する工程(b)
【化2】

(式中、Rは前記一分子のアミノ酸の側鎖を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記工程(a)は、以下の工程(a1)および(a2)を具備する:
自己組織化膜を表面に具備する基材を用意する工程(a1)、ここで、前記自己組織化膜は一端にカルボキシル基を有し、
前記1分子のアミノ酸を前記基材に供給し、前記化学式(I)により表される前記自己組織化膜の一端の前記カルボキシル基と前記1分子のアミノ酸のアミノ基との間でペプチド結合を形成する工程(a2)
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記工程(a)および前記工程(b)との間にさらに以下の工程(ab)を具備する:
前記1分子のアミノ酸のカルボキシル基を、N−ヒドロキシスクシンイミド(N-Hydroxysuccinimide)および1-エチル-3-(3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide hydrochloride)混合液により活性化する工程(ab)。
【請求項4】
請求項2に記載の方法であって、前記工程(a1)および前記工程(a2)との間にさらに以下の工程(a1a)を具備する:
前記自己組織化膜のカルボキシル基を、N−ヒドロキシスクシンイミド(N-Hydroxysuccinimide)および1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide hydrochloride)混合液により活性化する工程(a1a)。
【請求項5】
前記化学式(II)が以下の化学式(III)により表される、請求項1に記載の方法。
【化3】

(式中、Rは前記一分子のアミノ酸の側鎖を示す。)
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン、ロイシン、トリプトファン、スレオニン、イソロイシン、およびバリンからなる群から選択される。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン、ロイシン、およびトリプトファンからなる群から選択される。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、およびアスパラギンからなる群から選択される。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、およびセリンからなる群から選択される。
【請求項10】
自己組織化膜、1分子のアミノ酸、およびストレプトアビジンを備えたセンサであって、
前記自己組織化膜および前記ストレプトアビジンの間には前記1分子のアミノ酸が挟まれており、
前記ストレプトアビジンが、以下の化学式(II)によって表される2つのペプチド結合により自己組織化膜に結合しており、
【化2】

(式中、Rは前記一分子のアミノ酸の側鎖を示す。)
前記1分子のアミノ酸は、システイン、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、グリシン、アスパラギン、メチオニン、セリン、トリプトファン、ロイシン、グルタミン、アラニン、イソロイシン、スレオニン、プロリン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニン、およびバリンからなる20種類のアミノ酸から選択される、センサ。
【請求項11】
前記化学式(II)が以下の化学式(III)により表される、請求項10に記載のセンサ。
【化3】

(式中、Rは前記一分子のアミノ酸の側鎖を示す。)
【請求項12】
請求項10に記載のセンサであって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン、ロイシン、トリプトファン、スレオニン、イソロイシン、およびバリンからなる群から選択される。
【請求項13】
請求項10に記載のセンサであって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン、ロイシン、およびトリプトファンからなる群から選択される。
【請求項14】
請求項10に記載のセンサであって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、およびアスパラギンからなる群から選択される。
【請求項15】
請求項10に記載のセンサであって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラ
ニン、およびセリンからなる群から選択される。
【請求項16】
センサを用いて試料に含まれる標的物質を検出または定量する方法であって、以下の工程(a)〜(c)をこの順で具備する:
自己組織化膜、1分子のアミノ酸、およびストレプトアビジンを備えたセンサを用意する工程(a)、ここで
前記自己組織化膜および前記ストレプトアビジンの間には前記1分子のアミノ酸が挟まれており、
前記ストレプトアビジンが、以下の化学式(II)によって表される2つのペプチド結合により自己組織化膜に結合しており、
【化2】

(式中、Rは前記1分子のアミノ酸の側鎖を示す。)
前記1分子のアミノ酸は、システイン、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、グリシン、アスパラギン、メチオニン、セリン、トリプトファン、ロイシン、グルタミン、アラニン、イソロイシン、スレオニン、プロリン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニン、およびバリンからなる20種類のアミノ酸から選択され、
前記センサに前記試料を供給し、前記ストレプトアビジンに前記標的物質を結合させる工程(b)、および
前記結合された標的物質またはその量から試料に含まれる標的物質を検出または定量する工程(c)。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、
前記工程(b)は、以下の工程(b1)および工程(b2)を具備する:
前記ストレプトアビジンに抗体を結合させる工程(b1)、ここで、
前記抗体は、ビオチンにより修飾されており、
前記抗体に、前記標的物質を結合させる工程(b2)
【請求項18】
前記化学式(II)が以下の化学式(III)により表される、請求項16に記載の方法。
【化3】

(式中、Rは前記1分子のアミノ酸の側鎖を示す。)
【請求項19】
請求項16に記載の方法であって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン、ロイシン、トリプトファン、スレオニン、イソロイシン、およびバリンからなる群から選択される。
【請求項20】
請求項16に記載の方法であって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン、ロイシン、およびトリプトファンからなる群から選択される。
【請求項21】
請求項16に記載の方法であって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、およびアスパラギンからなる群から選択される。
【請求項22】
請求項16に記載の方法であって、前記1分子のアミノ酸が、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、システイン、グリシン、メチオニン、グルタミン酸、チロシン、アラニン、およびセリンからなる群から選択される。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−526725(P2012−526725A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517140(P2011−517140)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【国際出願番号】PCT/JP2011/001185
【国際公開番号】WO2012/029202
【国際公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】