説明

スパイラル型分離膜エレメント

【課題】 透過側流路の圧力損失を低減し、かつ、部品点数の少ないスパイラル型分離膜エレメントを提供する。
【解決手段】 二つ折りにした分離膜の間に供給側流路材を配置した構成の膜リーフと、透過側流路材とを交互に重ねた分離膜ユニット2を少なくとも1つ、有孔の中空状中心管3の周囲に巻回したスパイラル型分離膜エレメント20であって、前記分離膜ユニット20の濃縮側に設けられたテレスコープ防止部材4と、前記分離膜ユニット20の供給側に設けられ、前記テレスコープ防止部材4に嵌合可能な嵌合部材5とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中に浮遊及び溶存している成分を分離する分離膜エレメントに関し、より詳細には、テレスコープ現象を抑制するテレスコープ防止部材、及び圧力容器と該分離膜エレメントとの間の間隙をシールするシール部材を把持する嵌合部材を備えたスパイラル型分離膜エレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
スパイラル型分離膜モジュールに設けられている分離膜エレメントは、その基本構造として、有孔の管である中心管の周囲に、供給側流路材を膜の分離層側に挟み込んだ二つ折りの膜リーフ、及びこれに隣り合う透過側流路材とからなる分離膜ユニットの単数又は複数の積層体を巻き付けたものである。
【0003】
図3は、従来の分離膜モジュールを概略的に示す断面図である。同図に示すように、分離膜ユニット32の両端には、テレスコープ防止部材36,37が設けられている。分離膜ユニット32の外側にはFRP(外装材)31が巻き付けられている。FRP31は、これを硬化することにより分離膜ユニット32及びテレスコープ防止部材36,37と一体となっている。
【0004】
テレスコープ防止部材36、37には、それぞれリブ36a、37aが設けられている。実際に流体分離を行う際には、その供給側と濃縮側の圧力差に基因する力が、分離膜エレメントの供給側から濃縮側の向きに作用する。この力は濃縮側に設けられているテレスコープ防止部材36で支持している。これにより、分離膜ユニット32がテレスコープ現象を起こすのを防止するものである。更に、前記テレスコープ防止部材37には、供給液シール部材38を把持する機能も有する。供給液シール部材38は、圧力容器39とFRP31との間の間隙をシールする。
【0005】
分離膜ユニット32同士を直列に接続する場合、中心管33に内挿可能な接続管としてのカプラー34が中心管33に内挿されて両者は接続される。中心管33の両端付近に於ける内周面には、Oリング35がそれぞれ設けられている。また、カプラー34の両端付近には、前記Oリング35を挿嵌可能な環状の溝40が設けられている。
【0006】
前記構成の分離膜モジュールであると、テレスコープ現象の低減が図れる。しかし、カプラー34の内径rは中心管33の内径Rよりも小さい為、該カプラー34が透過液の流れに対し抵抗になっている。その結果、透過側流路の圧力損失が大きいという問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開平11−267470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、透過側流路の圧力損失を低減し、かつ、部品点数の少ないスパイラル型分離膜エレメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者等は、前記従来の問題点を解決すべく、スパイラル型分離膜エレメントについて検討した。その結果、下記構成を採用することにより、前記目的を達成できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明に係るスパイラル型分離膜エレメントは、前記の課題を解決する為に、二つ折りにした分離膜の間に供給側流路材を配置した構成の膜リーフと、透過側流路材とを交互に重ねた分離膜ユニットを少なくとも1つ、有孔の中空状中心管の周囲に巻回したスパイラル型分離膜エレメントであって、前記分離膜ユニットの濃縮側に設けられたテレスコープ防止部材と、前記分離膜ユニットの供給側に設けられ、前記テレスコープ防止部材に嵌合可能な嵌合部材とを有することを特徴とする。
【0011】
前記の構成によれば、テレスコープ防止部材及び中心管は相互に嵌合可能な構造を有しているので、分離膜エレメントを直列に接続する場合に、例えば中心管内部に接続管として内挿するカプラー等の接続手段を設ける必要がない。従って、透過側流路としての中心管内部を流動する透過液に、不必要な抵抗が加わることがない。その結果、中心管内部に於ける圧力損失を低減することができる。また、接続手段を設ける必要がないことから、スパイラル型分離膜エレメントを構成する部品の部品点数を減らすことができる。
【0012】
前記の構成は、前記嵌合部材の外周側には、分離膜エレメントを収容する圧力容器と該分離膜エレメントとの間の間隙をシールする環状のシール部材が設けられており、前記シール部材は前記嵌合部材に把持されていることが好ましい。
【0013】
前記の構成によれば、シール部材はスパイラル型分離膜エレメントと圧力容器との間の隙間を塞ぎ、供給液がスパイラル型分離膜エレメントと圧力容器との間をバイパスするのを防止することができる。
【0014】
前記前記テレスコープ防止部材には、前記中心管を貫通可能な貫通孔が設けられており、前記貫通孔には、供給液と透過液との混合を防止する為のOリングと、該Oリングの径方向環状溝が設けられていることが好ましい。
【0015】
前記の構成によれば、中心管と貫通孔とが密着する様にして該貫通孔をテレスコープ防止部材に貫通させることができる。その結果、透過液と供給液とが混合するのを防止し、スパイラル型分離膜エレメントの分離性能を向上させることができる。
【0016】
前記嵌合部材には、前記シール部材を把持するための環状溝が設けられていることが好ましい。これにより、シール部材を嵌合部材に確実に固定することができる。
【0017】
前記テレスコープ防止部材及び嵌合部材には、それぞれリブが設けられており、前記中心管の軸方向に於けるテレスコープ防止部材のリブの厚さが、嵌合部材のリブの厚さの1.2倍〜7倍であることが好ましい。
【0018】
供給液の流動による圧力損失により、テレスコープ防止部材と嵌合部材との間には圧力差が生じる。この圧力差に起因して生じる力は、嵌合部材よりもテレスコープ防止部材側に作用する。しかし、前記構成とすることにより、テレスコープ防止部材の機械的強度の向上を図ることができると共に、当該力があまり作用しない嵌合部材のリブの厚さを薄くすることができる。これにより、テレスコープ防止部材及び嵌合部材の双方の機械的強度バランスを適正化すると共に、省スペースが図れ、より大きな分離膜エレメントを収容できる。その結果、スパイラル型分離膜エレメントの性能の向上が可能になる。
【0019】
前記貫通孔に、前記テレスコープ防止部材と前記中心管との間をシールする為の他のOリングを設けることが好ましい。これにより、透過液と供給液とが混合するのを防止し、スパイラル型分離膜エレメントの分離性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、前記に説明した手段により、以下に述べるような効果を奏する。
即ち、本発明によれば、テレスコープ防止部材と中心管とは相互に嵌合可能な構造を有しているので、分離膜エレメントを直列に接続する場合に、例えば中心管内部に接続管として内挿するカプラー等の接続手段を設けることなく行うことができる。これにより、透過側流路に於いて圧力損失が発生するのを防止し、透過側での圧力を低下させる。その結果、膜前後での有効圧を増大させ、分離膜の性能を十分発揮させることができる。また、有効圧を増大させることで、供給液を供給する供給ポンプの吐出圧を低下させことができ、供給ポンプの消費電力を抑制してエネルギーコストの節減を図ることができる。また、前記の接続手段を不要とするので、スパイラル型分離膜エレメントの部品点数を減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施の形態について、図1及び2を参照しながら以下に説明する。図1は、本実施の形態に係る分離膜エレメントを概略的に示す要部断面図である。図2は、本実施の形態に係るスパイラル型分離膜モジュールを概略的に示す断面図である。尚、説明に不要な部分は省略し、また説明を容易にする為に拡大または縮小等して図示した部分がある。
【0022】
図1及び2に示すように、分離膜エレメント20は、分離膜ユニット2が有孔の中空状中心管3の周囲に巻回した構造を有する。分離膜ユニット2は、二つ折りにした分離膜の間に供給側流路材を配置した構成の膜リーフと、透過側流路材とを交互に重ねた構造を有する。かかる分離膜エレメント20は、従来公知の分離膜、透過側流路材、供給側流路材、中空状中心管3などを何れも採用できる。例えば、供給側流路材と透過側流路材が複数用いられる場合には、複数の膜リーフが中空状中心管3の周りに巻きつけられた構造となる。分離膜エレメント20の外側には、外装材としてのFRP1が形成されている。また、分離膜エレメント20は、図2に示すように、複数個接続されて圧力容器21内に収容されている。
【0023】
分離膜ユニット2の濃縮側には、テレスコープ防止部材4が設けられている。テレスコープ防止部材4は、分離膜モジュールがテレスコープ状に変形することを防止する。テレスコープ防止部材4には中心管3の貫通が可能な貫通孔4eが設けられており、中心管3の濃縮側の端部がその貫通孔4eに貫通しない状態で嵌挿されている。また、テレスコープ防止部材4にはその貫通孔4eを中心にしてリブ4aが設けられている。
【0024】
テレスコープ防止部材4の貫通孔4eに於ける内周面には、中心管3との水密保持のためにOリング(他のOリング)7が設けられている。Oリング7を設けることにより供給液と透過液との混合の防止が図れ、分離性能が向上する。また、貫通孔4eに於ける内周面には、Oリング7の径方向環状溝4cが設けられている。尚、テレスコープ防止部材4と中心管3の水密保持には、接着、超音波溶着又は摩擦溶着なども適用することができる。
【0025】
また、分離膜ユニット2の供給側には、テレスコープ防止部材4に嵌合可能な嵌合部材5が設けられている。嵌合部材5はテレスコープ防止部材4と嵌合することにより、分離膜エレメントの直列接続を可能にする。嵌合部材5には中心管3が貫通可能な貫通孔5eが設けられており、中心管3の供給側の端部がその貫通孔5eを貫通し、一部突出した状態で嵌挿されている。また、嵌合部材5にはその貫通孔5eを中心にしてリブ5aが設けられている。
【0026】
嵌合部材5の外周側には、環状溝5cが設けられている。環状溝5cには、圧力容器21と分離膜エレメント20との間の間隙をシールする環状のシール部材6が把持されている。シール部材6は、径方向に突出し周方向に延びる環状であり、圧力容器21の内周面に密着した状態にある。シール部材6の材質としては、高剛性の部材、弾性体を用いることができる。圧力容器21にシール部材6を確実に密着させるためには弾性体であることが好ましい。
【0027】
テレスコープ防止部材4及び嵌合部材5には、それぞれラップ部4b及び又はラップ部5bが設けられており、当該部分をFRP1で巻き付けることにより、分離膜エレメント20に固定されている。これにより、分離膜ユニット2とテレスコープ防止部材4及び嵌合部材5とを一体化させている。
【0028】
テレスコープ防止部材4は嵌合部材5と嵌合可能にすべく、その周縁部を欠いた凸状の嵌挿部4dを有する。その一方、嵌合部材5には、嵌挿部4dを収容する凹状の被嵌挿部5dが設けられている。嵌挿部4dの高さd1と被嵌挿部5dの深さd2とはほぼ等しく、テレスコープ防止部材4と嵌合部材5とが嵌合した場合に互いに密着する様に寸法設計されている(図2参照)。これにより、テレスコープ防止部材4と嵌合部材5、及び中心管3同士が各々密着した状態になり、軸方向荷重を各部材で伝達する。但し、前記の嵌合は中心管3部分の水密保持に影響しない様に緩い嵌合とする。また、嵌合の際には、中心管3が嵌合部材5から供給側に突出している分だけ、テレスコープ防止部材4の貫通孔4eに嵌挿される。貫通孔4eには、Oリング8と、これを挿嵌することが可能な径方向環状溝4cとが設けられている。Oリング8を設けることにより、中心管3との水密保持が可能になる。テレスコープ防止部材4と嵌合部材5との嵌合により、カプラー等の接続手段が不要となるので、部品数・材料費の削減が図れる。また、両者に必要な部材強度の適正化とスペースの有効活用が図れる。尚、テレスコープ防止部材4と中心管3の水密保持には、前述と同様に、接着、超音波溶着又は摩擦溶着などを適用することができる。
【0029】
供給液が流れることで生じる圧力損失により、分離膜ユニット2の入口2aと出口2bの間には圧力差が生じる。この圧力差に起因して生じる力は、分離膜ユニット2に於ける入口2aから出口2bの方向に作用する。当該力は、濃縮側に設けられているテレスコープ防止部材4で支持している。この為、本発明に於いては、強度が必要な濃縮側のテレスコープ防止部材4を厚くし、供給側の嵌合部材5を該テレスコープ防止部材4と比べて比較的薄くして構成されるのが好ましい。より具体的には、テレスコープ防止部材4に於けるリブ4aの軸方向に於ける厚さt1が、嵌合部材5に於けるリブ5aの軸方向に於ける厚さt2の1.2〜7倍とするのが好ましく、2〜5倍とするのがより好ましい。前記数値範囲内にすることにより、テレスコープ防止部材4の機械的強度の向上を図ることができる。また、荷重の支持を担わない嵌合部材5を薄くすることができ、膜エレメント内部に分離膜を収容するスペースを一層確保することができる。即ち、前記構成とすることにより、分離膜の収納スペースを確保した上で、テレスコープ防止部材4及び嵌合部材5の双方の機械的強度バランスを適正化することができる。
【0030】
テレスコープ防止部材4及び嵌合部材5の材質は、供給液流路を十分に大きく確保し、かつ、十分な強度を得ることが可能なものであればよい。具体的には、例えば、変性PPE樹脂、ABS樹脂、硬質塩化ビニル樹脂などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の一形態に係る分離膜エレメントを概略的に示す要部断面図である。
【図2】前記分離膜エレメントを備えたスパイラル型分離膜モジュールを概略的に示す断面図である。
【図3】従来の分離膜モジュールを概略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 FRP
2 分離膜ユニット
2a 入口
2b 出口
3 中心管
4 テレスコープ防止部材
4a リブ
4b ラップ部
4c 径方向環状溝
4d 嵌挿部
4e 貫通孔
5 嵌合部材
5a リブ
5b ラップ部
5c 環状溝
5d 被嵌挿部
5e 貫通孔
6 シール部材
7 Oリング
8 Oリング
20 分離膜エレメント
21 圧力容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つ折りにした分離膜の間に供給側流路材を配置した構成の膜リーフと、透過側流路材とを交互に重ねた分離膜ユニットを少なくとも1つ、有孔の中空状中心管の周囲に巻回したスパイラル型分離膜エレメントであって、
前記分離膜ユニットの濃縮側に設けられたテレスコープ防止部材と、
前記分離膜ユニットの供給側に設けられ、前記テレスコープ防止部材に嵌合可能な嵌合部材とを有することを特徴とするスパイラル型分離膜エレメント。
【請求項2】
前記嵌合部材の外周側には、分離膜エレメントを収容する圧力容器と該分離膜エレメントとの間の間隙をシールする環状のシール部材が設けられており、
前記シール部材は前記嵌合部材に把持されていることを特徴とする請求項1に記載のスパイラル型分離膜エレメント。
【請求項3】
前記前記テレスコープ防止部材には、前記中心管を貫通可能な貫通孔が設けられており、
前記貫通孔には、供給液と透過液との混合を防止する為のOリングと、該Oリングの径方向環状溝が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のスパイラル型分離膜エレメント。
【請求項4】
前記嵌合部材には、前記シール部材を把持するための環状溝が設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のスパイラル型分離膜エレメント。
【請求項5】
前記テレスコープ防止部材及び嵌合部材には、それぞれリブが設けられており、
前記中心管の軸方向に於けるテレスコープ防止部材のリブの厚さが、嵌合部材のリブの厚さの1.2倍〜7倍であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のスパイラル型分離膜エレメント。
【請求項6】
前記貫通孔に、前記テレスコープ防止部材と前記中心管との間をシールする為の他のOリングを設けることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のスパイラル型分離膜エレメント。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate