説明

スパイラル型流体分離素子の製造方法

【課題】集水管3の外径寸法とテレスコープ防止板8の内接径との隙間にバラツキがある場合でも容易に集水管3の中心にテレスコープ防止板8を挿入することができ、しかも集水管3にテレスコープ防止板8を固着するまでの時間を大幅に短縮でき、更に集水管3を傷つけることなくテレスコープ防止板8を挿入することを可能とするスパイラル型流体分離素子1の製造方法を提供する。
【解決手段】集水孔2を有する集水管3の周りにスパイラル状に複数の分離膜ユニット7を巻囲してなる巻囲体の両端にそれぞれテレスコープ防止板8を設けてなるスパイラル型流体分離素子1の製造方法において、テレスコープ防止板8を集水管3に挿入して分離膜ユニット7と接合するに際し、樹脂11を、集水管3におけるテレスコープ防止板8との接合部に、配置される樹脂11の間に樹脂11が配置されない部分を有するようにしてあらかじめ配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力容器内に複数本を装填して使用される流体分離素子であって、逆浸透装置、限外濾過装置、精密濾過装置に用いられ、更には気体分離装置に用いられるスパイラル型流体分離素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、海水淡水化や、半導体分野における超純水用途、さらには、一般かん水用途や有機物分離、廃水再利用などをはじめとする種々の用途において、膜による流体分離処理を行い、透過液を利用することが行われている。この膜による分離処理では、分離膜を用いたスパイラル型流体分離素子が使用され、その使用が急速に増加している。
【0003】
スパイラル型流体分離素子は、一般的に、集水孔を有する集水管の周りにスパイラル状に複数の分離膜ユニットを巻囲してなる巻囲体の両端にそれぞれテレスコープ防止板を設け、該分離膜ユニットの外周に繊維強化樹脂からなる外装体を取り付けられた構造体となっている。
【0004】
スパイラル型流体分離素子を用いて実際に流体分離を行う際には、複数本のスパイラル型流体分離素子を直列に接続し、圧力容器内に装填して分離膜モジュールとして使用される。供給した原液を効率良くスパイラル型流体素子に流入させるため、圧力容器とテレスコープ防止板の隙間をUシールなどの原液混入防止部材によって遮断した構造となっている。
【0005】
供給した原液がテレスコープ防止板から分離膜ユニットに漏れなく流入されるために、テレスコープ防止板と分離膜ユニットが密着した状態で使用される。従来技術としてテレスコープ防止板と分離膜ユニットを密着させるため、テレスコープ防止板の内周面と集水管外周部とに接着剤を塗布して接合することが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
また集水管の外径寸法は、テレスコープ防止板を挿入しやすいよう、テレスコープ防止板の内接径よりも若干小さく設計されており、この隙間は、製造過程でバラツキが生じる場合がある。このようなバラツキを考慮して集水管の中心に偏心なくテレスコープ防止板を挿入するため、テレスコープ防止板の内周面の3箇所以上の位置に、集水管の挿入側に傾斜面を有し、内接径より外径の大きい集水管を挿入する際に変形可能な突起を形成する方法が知られている。(例えば特許文献2参照)
しかしながら、接着剤を使用する従来の方法では接着剤が固着するために30分〜120分程度の乾燥時間が必要であり、その間、次の工程に移行できない問題があった。またテレスコープ防止板の内周面に変形可能な突起を形成する方法では、テレスコープ防止板を成型するために、新たに金型を製作する費用がかかることと、硬度の等しい、または硬度の近い突起部によってテレスコープ防止板を挿入する際に集水管を傷つける恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−165048号公報
【特許文献2】特開2007−289830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、集水管の外径寸法とテレスコープ防止板の内接径との隙間にバラツキがある場合でも、容易に集水管の中心にテレスコープ防止板を挿入することができ、しかも集水管にテレスコープ防止板を固着するまでの時間を大幅に短縮でき、更に集水管を傷つけることなくテレスコープ防止板を挿入することを可能とするスパイラル型流体分離素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決するために、本発明は、集水孔を有する集水管の周りにスパイラル状に複数の分離膜ユニットを巻囲してなる巻囲体の両端にそれぞれテレスコープ防止板を設けてなるスパイラル型流体分離素子の製造方法において、該テレスコープ防止板を該集水管に挿入して該分離膜ユニットと接合するに際し、樹脂を、集水管におけるテレスコープ防止板との接合部に、配置される樹脂の間に樹脂が配置されない部分を有するようにしてあらかじめ配置することを特徴とする。本発明では、配置される樹脂の間に空間を設けることにより、テレスコープ防止板の挿入時に、樹脂が押し潰される際に発生する圧力が空間によって遮断されて近隣の樹脂に伝播せず、樹脂を一面に塗布したときに発生しやすい樹脂剥がれを抑制することができる。
【0010】
また、本発明の製造方法においては、テレスコープ防止板を挿入する前に、前記樹脂を含めた集水管の外径がテレスコープ防止板の内接径よりも大きくなるように前記樹脂を配置することが好ましい。例えば、該テレスコープ防止板の挿入前に、集水管の外周部に樹脂を集水管の外径がテレスコープ防止板の内接径よりも大きくなるよう塗布する。該テレスコープ防止板が挿入される際は、該樹脂は硬化しており、テレスコープ防止板の内接面と集水管の外周部との間に挟まれて押し潰されることにより両者を固定する。
【0011】
ここで使用できる樹脂としては、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂やポリエステル樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン樹脂、スチレン・ゴム系樹脂、エーテル系セルロース樹脂などの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、シリコーン系樹脂、メラミン系樹脂などの熱硬化性樹脂が好ましく、テレスコープ防止板や集水管に用いられるアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂やポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ノリル樹脂などよりも低硬度のものを使用することで、テレスコープ防止板の挿入時にテレスコープ防止板や集水管を傷つける恐れがなくなる。
【0012】
ここで、樹脂やテレスコープ防止板における集水管との接合部、集水管におけるテレスコープ防止板との接合部の硬度は、ロックウェル試験(JISG 0202)にてロックウェル硬さを測定することで求めることができる。
【0013】
また樹脂の硬化時間の観点から、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂やポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂を用いた加熱融着方式がより好ましい。上記方式を用いると硬化時間が3〜10秒程度と熱硬化性樹脂と比較して短く、使用する材料も、熱硬化性樹脂が通常、主剤と硬化剤の2種類であるのに対し、加熱融着方式は樹脂のみであり、取扱いが容易である。
【0014】
また、これらの樹脂は、塊状、ペレット状、フレーク状、棒状、円筒状、粉状、紐状、フィルム状など種々の形体で供給でき、使用する量だけ加熱溶解させればよく、廃棄量を低減できる。
【0015】
さらに、テレスコープ防止板の挿入時に、摩擦熱によって硬化した樹脂の表面が軟化し、再び接着力を有してテレスコープ防止板と集水管の固定をより強固にすることができる。
【0016】
これら樹脂は、集水管に配置するに際し、ドット状、ストライプ状、波状のいずれかに配置されることが好ましい。
【0017】
この際均一に配置できるよう、集水管側を一定の速度で回転させながら、散布装置を用いて樹脂を塗布することが好ましい。
【0018】
また、別の手段として、集水管に樹脂を配置するに際し、あらかじめ樹脂を塗布した剥離シートと加熱装置を用いて、熱転写してもよい。剥離シートにはドット状、ストライプ状、波状のいずれかに樹脂が配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、スパイラル型流体分離素子を製造する際に、集水管の外径寸法とテレスコープ防止板の内接径との隙間にバラツキがある場合でも、容易に集水管の中心にテレスコープ防止板を挿入することができ、しかも集水管にテレスコープ防止板を固着するまでの時間を大幅に短縮でき、更に集水管を傷つけることなくテレスコープ防止板を挿入することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るスパイラル型流体分離素子の一態様を示す部分解体斜視図である。
【図2】本発明に係るテレスコープ防止板の上面図である。
【図3】本発明に係る集水管の斜視図である。
【図4】本発明のスパイラル型流体分離素子の製造方法において、集水管に配置された樹脂の断面図を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。本発明のスパイラル型流体分離素子1は、図1のスパイラル型流体分離素子の部分解体斜視図に示すように、集水孔2を有する集水管3の周りに、分離膜4、透過液流路材5および原液流路材6を含む複数の分離膜ユニット7がスパイラル状に巻囲され、その巻囲された巻囲体の両端部にそれぞれ、環状部を有するテレスコープ防止板8が配置され、分離膜ユニット7の外周に繊維強化樹脂からなる外装体(図示せず)を取り付けている。
【0022】
図2に示すようにテレスコープ防止板8は、集水管3に挿入するための内接部9を有しており、その内接径は、通常集水管3の外径よりも0.1〜3.3mm大きく製作されている。
【0023】
テレスコープ防止板8および集水管3の成型材料として、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ノリル樹脂などが使用される。
【0024】
樹脂11の塗布範囲は、図3に示すように、テレスコープ防止板8と集水管3の接触面全域であることが好ましい。ただし、本発明においては、配置される樹脂11の間に樹脂11が配置されない部分を有するようにして樹脂11が配置される必要がある。なお、テレスコープ防止板8の挿入側から分離膜ユニット7に向かって樹脂11の高さが次第に高くなるよう樹脂を配置することがより好ましい。
【0025】
図4に示すように樹脂11は、(a)ドット状、あるいは(b)ストライプ状、あるいは(c)波状のパターンで配置されることが好ましく、例えば(a)ドット状の場合、ドット高さ0.08mm以上1.8mm以下、ドット径0.1mm以上5.0mm以下、ドット間隔0.2mm以上20.0mm以下の千鳥格子状が好ましい。より好ましくは、ドット高さ0.08mm以上0.35mm以下、ドット径2.0mm以上4.0mm以下、ドット間隔5.0mm以上15.0mm以下である。
【0026】
また樹脂11は、上述の通り熱可塑性樹脂が好ましく、特に加工性と費用の点から、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂やポリエステル樹脂がより好ましい。
【0027】
またテレスコープ防止板8の挿入工程の前に、樹脂11を加熱溶融させる加熱溶融装置と散布装置を配し、スパイラル型流体分離素子1の集水管3を中心に一定速度で回転させながら集水管3上にあらかじめ設定した配置パターンにて塗布することができる。
【0028】
なおテレスコープ防止板8の挿入工程においては、樹脂11の配置パターンが破壊される恐れがある点から、テレスコープ防止板8を回転させず、集水管3に押し込むように挿入する方法が好ましい。同じ理由から、テレスコープ防止板8の集水管3との接触部は段差等の抵抗になるものが可能なかぎり無いほうが好ましい。
【0029】
上記のようにテレスコープ防止板8を集水管3に挿入する際、両者に挟まれた樹脂11は、挿入時の摩擦熱と押し潰しにより、テレスコープ防止板8と集水管3を容易に固着することができる。
【0030】
このようにして本発明のスパイラル型流体分離素子1が製造されるが、本発明のスパイラル型流体分離素子1においては、巻囲された分離膜ユニット7の外周を繊維強化樹脂などからなる外装体で覆うことも好ましい態様である。
【0031】
[他の実施形態]
以下、本発明の他の実施形態について説明する。
【0032】
前述の方法では、テレスコープ防止板8の挿入前に、樹脂11の加熱溶融装置と散布装置を配し、スパイラル型流体分離素子1の集水管3を中心に一定速度で回転させながら集水管3上にあらかじめ設定した配置パターンで樹脂11を塗布する方法を示したが、あらかじめ設定した配置パターンを剥離シートに塗布した樹脂11を加熱ロール等で集水管3に熱転写しても良い。ここで、剥離シートとしては、表面にシリコーンコーティングを施した積層樹脂シートが好ましく使用可能である。
【0033】
前述の方法と比較し、樹脂11の加熱溶融装置と散布装置が不要になり、設備の省スペース化が可能となる。
【0034】
また配置パターンは、ドット状、ストライプ状、波状のいずれかでなくても、集水管3に樹脂11を配置できれば、他の形態でも良い。
【符号の説明】
【0035】
1 スパイラル型流体分離素子
2 集水孔
3 集水管
4 分離膜
5 透過液流路材
6 原液流路材
7 分離膜ユニット
8 テレスコープ防止板
9 内接部
11 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集水孔を有する集水管の周りにスパイラル状に複数の分離膜ユニットを巻囲してなる巻囲体の両端にそれぞれテレスコープ防止板を設けてなるスパイラル型流体分離素子の製造方法において、該テレスコープ防止板を該集水管に挿入して該分離膜ユニットと接合するに際し、樹脂を、集水管におけるテレスコープ防止板との接合部に、配置される樹脂の間に樹脂が配置されない部分を有するようにしてあらかじめ配置することを特徴とするスパイラル型流体分離素子の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂を含めた集水管の外径がテレスコープ防止板の内接径よりも大きくなるように前記樹脂を配置することを特徴とする請求項1に記載のスパイラル型流体分離素子の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂の硬度が、前記テレスコープ防止板における前記集水管との接合部の硬度よりも低く、集水管におけるテレスコープ防止板との接合部の硬度よりも低いことを特徴とする請求項1または2に記載のスパイラル型流体分離素子の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂がドット状、ストライプ状、波状のいずれかに配置されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスパイラル型流体分離素子の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂を配置するに際し、加熱溶融装置と散布装置を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のスパイラル型流体分離素子の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂を配置するに際し、あらかじめ樹脂を塗布した剥離シートと加熱装置を用いて、熱転写することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のスパイラル型流体分離素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−152717(P2012−152717A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16274(P2011−16274)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】