説明

スパイラル型膜エレメント

【課題】中心管からの接合部の剥離を防止することができるスクロール型膜エレメントを提供する。
【解決手段】スパイラル型膜エレメント1Aは、分離膜を含む巻回体3と、巻回体3の中心軸に沿って巻回体3を貫通する中心管2と、巻回体3を少なくとも一方の端面3aで中心管2と接合する接合部4とを備えている。接合部4は、巻回体3の端面3aよりも内側に位置する保持部41、および保持部41と一体的に形成された延在部42を有している。さらに、スパイラル型膜エレメント1Aは、中心管2に対して延在部42を固縛する拘束部材5Aを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜を用いたスパイラル型膜エレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体や気体などの原流体を濃縮したり原流体から特定成分を分離したりするために、管状型、中空糸型、スパイラル型、プリーツ型などの種々の膜エレメントが用いられている。例えば、特許文献1には、分離膜、供給側流路材および透過側流路材を中心管の回りに巻き回した巻回体を有するスパイラル型膜エレメントが記載されている。
【0003】
スパイラル型膜エレメントでは、一般的に、巻回体が軸方向の両端で中心管に接合される。例えば、特許文献2には、透過側流路材を挟む2枚の矩形の分離膜同士を接着剤によって3辺で接着して中心管に巻き回されるエンベロープを形成するとともに、そのうちの向かい合う2辺の接着剤を使って分離膜を巻回体の端面で中心管に接着することが記載されている。
【0004】
スパイラル型膜エレメントを使用する際には、筒状の圧力容器内にスパイラル型膜エレメントを装填し、圧力容器内に原流体を流入させながら分離膜を挟んだ供給側と透過側とに圧力差を与える。これにより、分離膜による濃縮または分離が行われる。
【0005】
ところで、用途によっては、スパイラル型膜エレメントが高温環境下に曝されることがある。例えば、食品、医薬およびファインケミカルにおけるプロセス処理やこれらのプロセス後の排液処理に用いられるスパイラル型膜エレメントでは、高温または蒸気となった処理液がスパイラル型膜エレメントに供給される。また、パーベーパレーション(PV)法やベーパーパーミエーション(VP)法を利用したアルコールなどの抽出に用いられるスパイラル型膜エレメント(例えば、特許文献3参照)では、高温の水溶液から発生した高温の蒸気が分離膜を透過する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−354742号公報
【特許文献2】特表2009−518181号公報
【特許文献3】特開平4−187220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように高温環境下でスパイラル型膜エレメントが使用されると、分離膜と中心管の材質の違いによりそれらを接合する接合部に熱応力がかかる。すなわち、運転の開始および停止による温度変化に伴い分離膜が膨張および収縮を繰り返し、これにより接合部に応力がかかる。その結果、巻回体を端面で中心管に接合しただけでは、接合部が中心管から剥離することがある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑み、中心管からの接合部の剥離を防止することができるスクロール型膜エレメントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、分離膜を含む巻回体と、前記巻回体の中心軸に沿って前記巻回体を貫通する中心管と、前記巻回体を少なくとも一方の端面で前記中心管と接合する接合部であって、前記巻回体の端面よりも内側に位置する保持部、および前記保持部と一体的に形成された、前記中心管の外周面に沿って前記保持部から前記巻回体の端面が面する方向に延びる延在部を含む接合部と、前記中心管に対して前記延在部を固縛する拘束部材と、を備える、スパイラル型膜エレメントを提供する。
【発明の効果】
【0010】
上記の構成によれば、拘束部材によって接合部の径方向外側への広がりが拘束される。従って、中心管からの接合部の剥離を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係るスパイラル型膜エレメントの断面図
【図2】第1実施形態における拘束部材が接合部の延在部を固縛した状態を示す側面断面図
【図3】巻回体の構成図
【図4】分離膜の構成図
【図5】(a)は本発明の第2実施形態に係るスパイラル型膜エレメントの断面図、(b)は第2実施形態における拘束部材が接合部の延在部を固縛した状態を示す側面断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明は本発明の一例に関するものであり、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0013】
(第1実施形態)
図1に、本発明の第1実施形態に係るスパイラル型膜エレメント1A(以下、単に「膜エレメント1A」という。)を示す。この膜エレメント1Aは、分離膜31(図3参照)を含む巻回体3と、巻回体3の中心軸に沿って巻回体3を貫通する中心管2と、巻回体3を両端面3aで中心管2と接合する一対の接合部4とを備えている。また、本実施形態では、巻回体3を保護するために、巻回体3を取り巻く外装材6が用いられている。なお、巻回体3の軸方向の両側には、巻回体3の端面を保護するため、および巻回体3がテレスコピック状に伸張することを防止するために、端部材が配置されていることが好ましい。
【0014】
膜エレメント1Aには、巻回体3の一方の端面3aから内部に原流体が供給され、この原流体が分離膜31によって透過流体と濃縮流体とに分離される。透過流体は、中心管2を通じて外部に導かれ、濃縮流体は、巻回体3の他方の端面3aから排出される。例えば、膜エレメント1Aが海水淡水化に用いられる場合には、原流体、透過流体および濃縮流体は全て液体である。また、膜エレメント1AがPV法やVP法を利用した例えばアルコール溶液の濃縮またはアルコール溶液からのアルコールの分離に用いられる場合には、少なくとも透過流体は蒸気であり、原流体および濃縮流体は全体のシステム構成に応じて液体または蒸気となる。
【0015】
中心管2は、透過流体を集める集流体管として機能するものである。中心管2には、内部に透過流体を流入させる複数の導入孔21が形成されている。
【0016】
中心管2の構成材料には、公知の集流体管の構成材料を使用できる。例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂)、ポリサルフォン樹脂(PSF樹脂)などの樹脂材、あるいはステンレス鋼、チタンなどの金属材を使用できる。特に、高温で運転する場合には、金属材で構成された中心管2が好ましく用いられる。
【0017】
中心管2の内径は、使用される巻回体3の大きさに応じて異なるが、例えば20〜100mm程度である。中心管2の肉厚は、用途に応じて異なるが、例えば1〜7mm程度である。
【0018】
巻回体3は、図3に示すように、透過側流路材32の両面に分離膜31が重ね合わされた袋状の膜リーフが、供給側流路材33と共に中心管2の回りに巻き回されることにより形成されている。なお、膜リーフおよび供給側流路材33の枚数は、1枚である必要はなく、複数枚であってもよい。
【0019】
膜リーフを構成する一対の分離膜31および透過側流路材32、ならびに供給側流路材33は、巻き回される方向が一方の対辺方向となる矩形状をなしている。分離膜31同士は、膜リーフが一方向に開口する袋状となるように3辺で接着剤により接着されており、その開口が中心管2の導入孔21と連通している。透過側流路材32は、互いに接着される分離膜31同士の間に透過流体を流すための流路を形成する。供給側流路材33は、巻き回される膜リーフの周回部分同士の間に原流体を流すための流路を形成する。
【0020】
分離膜31としては、用途によって種々の構成のものを使用することができる。例えば、PV法やVP法では、図4に示すような構成の分離膜31を用いることができる。この分離膜31は、供給側流路材33と対向するスキン層31aと、スキン層31aを支持する支持層31bと、支持層31bに接合された不織布31cとを含む。
【0021】
スキン層31aは、孔のない均質膜である。スキン層31aとしては、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)やセルロース系樹脂などの公知の材料からなる平膜、またはこれらの複合膜を用いることができる。中でも、高温処理に用いる場合の耐熱性の観点から、スキン層31aはフッ素含有樹脂やセルロース系樹脂で構成されていることが好ましい。
【0022】
支持層31bを構成する材料としては、例えばPVDFが挙げられ、不織布31cを構成する材料としては、例えばPPSが挙げられる。
【0023】
透過側流路材32および供給側流路材33としては、例えばPPSやエチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)からなる樹脂製ネットを用いることができる。ただし、供給側流路材33の網目は、透過側流路材32の網目よりも大きいことが好ましい。
【0024】
巻回体3を取り巻く外装材6は、例えば、ガラス繊維強化プラスチック(FRP)やシリコーン樹脂を巻回体3の外周面にコーティングすることにより形成される。
【0025】
巻回体3の軸方向の両端部に配置された接合部4は、接着剤で構成されている。この接合部4を構成する接着剤は、分離膜31同士を接着する接着剤と同じであってもよいし異なっていてもよい。接合部4を構成する接着剤としては、例えば、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、シリコーン樹脂系などの熱硬化性樹脂接着剤、またはホットメルト接着剤などの従来から公知の何れの接着剤を使用することができる。ただし、作業性の観点からは、加熱により硬化可能な熱硬化性樹脂接着剤を用いることが好ましい。中でも、シリコーン樹脂系接着剤を用いることが、耐熱性に優れ、柔軟性に富む点で好ましい。
【0026】
本実施形態では、それぞれの接合部4が、中心管2の外周面に沿って巻回体3の端面3aから軸方向の両側に延びるような環状の形状に形成されている。具体的には、それぞれの接合部4が、巻回体3の端面3aよりも内側に位置する保持部41と、保持部41と一体的に形成された延在部42とを有している。延在部42は、保持部41から巻回体3の端面3aが面する方向に延びている。そして、延在部42は、拘束部材によって中心管2に対して固縛される。
【0027】
本実施形態では、拘束部材として、中心管2を延在部42の上からクランプ可能なクランプ部材5Aが採用されている。クランプ部材5Aは、図2に示すように、半円の両端から固定部が突出する一対のクランプ片51,52を有している。そして、それらのクランプ片51,52の固定部同士をボルト53で締結することにより、延在部42が周囲からクランプ片51,52に押圧されて中心管2に対して固縛される。ただし、クランプ部材5Aの構成はこれに限られるものではない。例えば、クランプ部材5Aは、円の一部を外向きに開口させた略Ω字状の形状を有しており、その開口形成部がボルトおよびナットによって締結される構造を有していてもよい。
【0028】
クランプ部材5Aは、例えばステンレス鋼など線膨張係数が小さい材料で構成されていることが好ましい。あるいは、クランプ部材5Aを構成する材料としては、プラスチック材でも、接合部4を構成する接着剤よりも線膨張係数が小さいものであれば採用可能である。
【0029】
次に、上述した膜エレメント1Aの製造方法を説明する。
【0030】
まず、中心管21の外周面における互いに離間する2箇所の所定領域に、接合部4を構成する接着剤を塗布する。ついで、膜リーフおよび供給側流路材33を、塗布された接着剤が両側に露出するように位置合わせした状態で中心管2の回りに巻き回し、その状態で接着剤を硬化させる。これにより、保持部41および延在部42からなる接合部4が形成される。その後、延在部42にクランプ部材5Aを取り付ける。
【0031】
以上説明した膜エレメント1Aでは、クランプ部材5Aによって接合部4の径方向外側への広がりが拘束される。従って、膜エレメント1Aが高温環境下に曝されて分離膜31が膨張および収縮を繰り返したとしても、中心管2からの接合部4の剥離を防止することができる。
【0032】
(第2実施形態)
次に、図5(a)および(b)を参照して、本発明の第2実施形態に係るスパイラル型膜エレメント1B(以下、単に「膜エレメント1B」という。)を説明する。なお、本実施形態では、第1実施形態で説明した構成と同一部分には同一符号を付して、その説明を省略する。また、図5(a)では膜エレメント1Bの片側の端部のみを図示するが、反対側の端部も同様の構成である。
【0033】
本実施形態では、中心管2に対して延在部42を固縛する拘束部材として、中心管2の外径よりも内径の大きな筒部材5Bが採用されている。筒部材5Bは巻回体3の端面3aに密着するように中心管2に挿通され、筒部材5Bと中心管2との隙間が延在部42で満たされている。そして、筒部材5Bは、延在部42によって中心管2に固着されている。
【0034】
筒部材5Bは、第1実施形態のクランプ部材5Aと同様に、線膨張係数の小さい材料で構成されていることが好ましい。
【0035】
次に、上述した膜エレメント1Bの製造方法を説明する。
【0036】
まず、膜リーフおよび供給側流路材33を中心管2の回りに巻き回して巻回体3を形成した後に、その両側から筒部材5Bを中心管2に刺し通して巻回体3の両端面3aに密着させる。ついで、筒部材5Bと中心管21の隙間に接合部5を構成する接着剤を流し込み、その接着剤を筒部材5Bと中心管2の隙間に充填する。その後、接着剤を硬化させる。これにより、保持部41および延在部42からなる接合部4が形成され、延在部42によって筒部材5Bが中心管2に固着される。
【0037】
以上説明した膜エレメント1Bでは、筒部材5Bによって接合部4の径方向外側への広がりが拘束される。従って、膜エレメント1Bが高温環境下に曝されて分離膜31が膨張および収縮を繰り返したとしても、中心管2からの接合部4の剥離を防止することができる。
【0038】
(その他の実施形態)
前記第1および第2実施形態では、一対の接合部4の双方が延在部42を有していたが、どちらか一方の接合部4は延在部42を有していなくてもよい。この場合、延在部42を有する方の接合部4のみが本発明の接合部に相当する。すなわち、本発明の接合部は、回転体3を少なくとも一方の端面3aで中心管2と接合するものであればよい。
【0039】
また、拘束部材としてクランプ部材5Aを採用する場合は、延在部42は、必ずしも環状である必要はない。例えば、延在部42は、等角度間隔で配置された、保持部41から中心管2の軸方向に延びる複数の短冊片で構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1A,1B スパイラル型膜エレメント
2 中心管
3 巻回体
3a 端面
31 分離膜
31a スキン層
31b 支持層
31c 不織布
32 透過側流路材
33 供給側流路材
4 接合部
41 保持部
42 延在部
5A クランプ部材(拘束部材)
5B 筒部材(拘束部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離膜を含む巻回体と、
前記巻回体の中心軸に沿って前記巻回体を貫通する中心管と、
前記巻回体を少なくとも一方の端面で前記中心管と接合する接合部であって、前記巻回体の端面よりも内側に位置する保持部、および前記保持部と一体的に形成された、前記中心管の外周面に沿って前記保持部から前記巻回体の端面が面する方向に延びる延在部を含む接合部と、
前記中心管に対して前記延在部を固縛する拘束部材と、
を備える、スパイラル型膜エレメント。
【請求項2】
前記拘束部材は、前記中心管を前記延在部の上からクランプ可能なクランプ部材である、請求項1に記載のスパイラル型膜エレメント。
【請求項3】
前記拘束部材は、前記巻回体の端面に密着するように前記中心管に挿通され、前記中心管との隙間が前記延在部で満たされた筒部材である、請求項1に記載のスパイラル型膜エレメント。
【請求項4】
前記中心管は、金属製である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパイラル型膜エレメント。
【請求項5】
前記接合部は、熱硬化性樹脂接着剤で構成されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載のスパイラル型膜エレメント。
【請求項6】
前記巻回体は、透過側流路材の両面に前記分離膜が重ね合わされた袋状の膜リーフが、供給側流路材と共に前記中心管の回りに巻き回されることにより形成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載のスパイラル型膜エレメント。
【請求項7】
前記分離膜は、前記供給側流路材と対向するスキン層と、前記スキン層を支持する支持層と、前記支持層に積層された不織布とを含み、
前記スキン層は、フッ素含有樹脂またはセルロース系樹脂で構成された、孔のない均質膜である、請求項6に記載のスパイラル型膜エレメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−135720(P2012−135720A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289481(P2010−289481)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】