説明

スパッタ付着防止剤

【課題】溶接時の高温環境においても良好なスパッタ付着防止効果を維持しつつ、溶接後の乾燥塗膜を水で洗い流すだけで容易に除去することができるスパッタ付着防止剤を提供する。
【解決手段】スパッタ付着防止剤は、水を主成分とし、パラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系及び芳香族系の炭化水素であって、沸点が200乃至350℃で常温で液体のものを、単独で又は複数種類混合して得た炭化水素油を、非イオン系界面活性剤で乳化させたものである。前記炭化水素油を総量で全質量あたり1乃至20質量%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料をアーク溶接する際に発生するスパッタが溶接部周辺に付着することを防止するスパッタ付着防止剤に関し、特に溶接対象金属に塗布して使用されるスパッタ付着防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料をアーク溶接する際には、溶融スラグ及び溶融金属からなるスパッタが粒状に発生して、溶接部周辺に飛散する場合がある。発生したスパッタが溶接部周辺に付着すると、溶接部の外観が低下する。また、スパッタがねじ穴等の内部に付着した場合には、製品としての正常な機能が損なわれてしまう虞もある。
【0003】
このように、金属材料をアーク溶接する際に発生するスパッタが溶接部周辺に付着することを防止するために、スパッタ付着防止剤が使用されている。スパッタ付着防止剤は、用途及び溶接対象金属の材質により2種類に大別される。即ち、溶接後において、塗膜を残したまま更にその上からスパッタ付着防止剤を塗り重ねていくことができるタイプと、塗膜を水、酸、アルカリ又は溶剤で洗浄することによって塗膜を除去することができるタイプとがある。一般に、溶接対象金属が軟鋼、高張力鋼等である場合は前者のタイプを使用し、溶接対象金属がステンレス鋼、アルミニウム等であるか、又はメッキ処理を施す必要がある場合には後者のタイプを使用する。
【0004】
スパッタ付着防止剤の成分としては、炭酸カルシウム等の無機粉末類、又は界面活性剤等の有機物が挙げられる。これらの無機粉末類又は有機物は、水又は溶剤に分散若しくは溶解されて、スパッタ付着防止剤として使用されている。そして、無機粉末類及び有機物等が、金属表面に薄膜を形成することにより、アーク溶接時に発生する高温のスパッタが金属表面に直接付着することが防止される。具体的に無機粉末類としては、炭酸カルシウム、ケイ酸及びケイ酸塩、アルミニウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、炭化珪素等が使用され、有機物としては、樹脂類、界面活性剤、高沸点グリコール、水溶性高分子類、油脂類等が使用されている。
【0005】
そして、無機粉末類又は有機物を分散若しくは溶解する水及び溶剤は、スパッタ付着防止剤を刷毛又はスプレー等によって塗布しやすくすると共に、金属表面に形成する薄膜の厚さを均一にする作用がある。また、スパッタ付着防止剤は溶接時に溶接時の高温環境の下で使用されるため、溶剤としては不燃性のものが好適である。従って、溶剤としては、乾燥性が高い不燃性溶剤が使用されている。
【0006】
上記スパッタ付着防止剤として、例えば特許文献1には、非イオン系界面活性剤、水溶性樹脂、及び陰イオン系界面活性剤を配合したスパッタ付着防止剤が開示されている。また、特許文献2には、ガスシールドアーク溶接に使用されるトーチノズル、チップにおけるスパッタ付着防止を行う水溶性の溶接スパッタ付着防止剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−37381号公報
【特許文献2】特開昭63−93497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述の従来技術には以下のような問題点がある。溶接部周辺及び溶接対象金属の表面に塗布されたスパッタ付着防止剤は、溶接作業終了後、乾燥した塗膜の状態で水洗等によって除去される。溶接後のこの乾燥塗膜の除去作業は、溶接対象金属がステンレス鋼及びアルミニウム等であるか、又はメッキ処理を施す必要がある場合には必ず必要となる。このとき、溶接作業後の後処理に要する時間を長期化させないためには、乾燥塗膜を水洗だけによって容易に除去する必要がある。特許文献1に開示されたスパッタ付着防止剤は、水溶性樹脂を含有するため、溶接後の乾燥塗膜は、水で洗い流すだけで除去することが難しく、洗剤又は酸若しくはアルカリ等の洗浄剤で洗浄除去する必要があり、乾燥塗膜の除去に要する時間が長くなってしまう。
【0009】
また、特許文献2に開示された溶接スパッタ付着防止剤も、特許文献1と同様に、乾燥塗膜を洗剤又は酸若しくはアルカリ等の洗浄剤を使用して洗浄除去する必要があり、乾燥塗膜を水で洗い流すだけで除去することは容易ではない。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、溶接時の高温環境においても良好なスパッタ付着防止効果を維持しつつ、溶接後の乾燥塗膜を水で洗い流すだけで容易に除去することができるスパッタ付着防止剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るスパッタ付着防止剤は、水を主成分とし、パラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系及び芳香族系の炭化水素であって、沸点が200乃至350℃で常温で液体のものを、単独で又は複数種類混合して得た炭化水素油を、非イオン系界面活性剤で乳化させたものであり、前記炭化水素油を総量で全質量あたり1乃至20質量%含有することを特徴とする。
【0012】
また、上述のスパッタ付着防止剤は、前記非イオン系界面活性剤を全質量あたり3乃至10質量%含有することが好ましい。
【0013】
更に、上述の非イオン系界面活性剤は、HLB値が9以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスパッタ付着防止剤は、水を主成分とし、沸点の範囲が適正である炭化水素油を単独で又は複数種類混合して得た炭化水素油を、非イオン系界面活性剤で乳化したものであり、適度に親水化した状態で水に溶解して製造されている。従って、溶接時の高温環境においても金属表面の薄膜が乾燥して失われることがない範囲において、適度な濡れ性を維持して良好なスパッタ付着防止効果を維持することができる。また、親水化したスパッタ付着防止剤は、溶接後の乾燥塗膜として水で洗い流すだけで容易に除去することができる。
【0015】
更に、炭化水素油の沸点及び含有量が適正な範囲であるため、炭化水素油が金属表面でベタ付いて溶接作業性を低下させることがない範囲において、スパッタ付着防止剤の濡れ性が維持され、金属表面に均一に塗布することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。本発明のスパッタ付着防止剤において、含有させる炭化水素油は、化学式C2n+2で示されるパラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系及び芳香族系の炭化水素を主体とするものである。具体的には、例えば炭素数が10乃至20である炭化水素を主体とするものである。そして、これらの炭化水素油は、夫々、単独で沸点が200乃至350℃であり、常温で液体である。本発明においては、これらの炭化水素油を単独で又は2種類以上を混合したものを、非イオン系界面活性剤で乳化した後、水に溶解させてスパッタ付着防止剤を製造する。
【0017】
本願発明者等は、上述の従来のスパッタ付着防止剤の問題点を解決すべく、鋭意実験検討を重ねた。そして、化学式C2n+2で示されるパラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系及び芳香族系の炭化水素を主体とする炭化水素油のうち、沸点が200乃至350℃のものを単独で又は2種類以上を混合し、更に非イオン系の界面活性剤で乳化して水に溶解させれば、溶接時の高温環境においても金属表面の薄膜が乾燥して失われることがなく、適度な濡れ性を維持して良好なスパッタ付着抑制性を維持しつつ、親水化したスパッタ付着防止剤は、溶接後の乾燥塗膜として、水で洗い流すだけで容易に除去することができることを見出した。そして、炭化水素油の含有量を適正な範囲に設定することにより、炭化水素油が金属表面でベタ付いて溶接作業性を低下させることがない範囲において、スパッタ付着防止剤の濡れ性が維持され、金属表面に均一に塗布することができることを見出した。
【0018】
以下、本発明のスパッタ付着防止剤における数値限定の理由について説明する。
【0019】
「炭化水素油の沸点:200乃至350℃」
本発明において、炭化水素油は最も重要な組成であり、炭化水素油の沸点は、特に、溶接時の高温環境下における薄膜の濡れ性に影響する。炭化水素油の沸点が低く高温環境下で乾燥しやすいと、金属表面に形成された薄膜が溶接時の高温によって乾燥・蒸発し、失われやすくなる。そして、スパッタ付着抑制性を維持することができなくなる。逆に、炭化水素油の沸点が高すぎると、炭化水素油の大きな粘性によって塗膜がベタ付き、溶接作業を阻害しやすくなる。また、例えば、溶接作業に与えられた時間が少ない等の理由により、液体のスパッタ付着防止剤を金属表面に塗布後、乾燥塗膜を形成する時間が十分に得られない場合においては、液体のスパッタ付着防止剤が溶融金属内に混入し、溶接金属の健全性が低下しやすくなる。更に、溶接開先部にスパッタ付着防止剤が混入した場合には、ブローホール及び割れ等の溶接欠陥が発生しやすくなる。本発明においては、炭化水素油の沸点が200℃未満であると、金属表面の薄膜が溶接時に乾燥しやすくなり、スパッタ付着抑制性が低下する。一方、炭化水素油の沸点が350℃を超えると、溶接作業性が低下し、溶接金属の健全性が低下し、溶接欠陥が発生しやすくなる。従って、本発明の炭化水素油の沸点は200乃至350℃と規定する。
【0020】
「炭化水素油の含有量:総量で全質量あたり1乃至20質量%」
本発明において、炭化水素油は、良好なスパッタ付着抑制性を維持すると共に、スパッタ付着防止剤の濡れ性にも影響する。スパッタ付着防止剤中の炭化水素油の含有量が小さいと、スパッタ付着抑制性を維持することができなくなる。逆に、炭化水素油の含有量が大きいと、沸点が高い炭化水素油がスパッタ付着防止剤において大きな割合を占めることになり、金属表面において濡れ性が高くなって、溶接作業性が低下しやすくなる。また、溶接金属の健全性が低下しやすくなり、ブローホール及び割れ等の溶接欠陥も発生しやすくなる。本発明においては、炭化水素油の含有量が総量で全質量あたり1質量%未満であると、良好なスパッタ付着抑制性を得られない。一方、炭化水素が総量で全質量あたり20質量%を超えると、溶接作業性が低下すると共に、溶接金属の健全性が低下し、溶接欠陥も発生しやすくなる。従って、本発明の炭化水素油の含有量は総量で全質量あたり1乃至20質量%である。また、炭化水素油の含有量は総量で全質量あたり5乃至15質量%であることが好ましい。なお、上記炭化水素油は、炭素数が10乃至20である炭化水素を主体とすることが好ましい。炭化水素油の炭素数が10未満であると、金属表面に形成された薄膜が溶接時の高温によって乾燥・蒸発して失われ、スパッタ付着抑制性が低下しやすくなる。一方、炭化水素油の炭素数が20を超えると、炭化水素油成分が溶接開先に混入した場合に、溶接時の高温によっても速やかに分解されないか、又は蒸発しにくくなるため、ブローホール等の溶接欠陥が発生して、溶接金属の健全性が低下しやすくなる。従って、炭化水素油は、炭素数が10乃至20である炭化水素を主体とすることが好ましい。
【0021】
「非イオン系界面活性剤の含有量:全質量あたり3乃至10質量%」
本発明において、炭化水素油の乳化に使用する界面活性剤は、非イオン系のものであり、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等である。本発明の界面活性剤は、スパッタ付着防止剤の主成分である水に対して自ら安定して分散又は溶解すると共に、炭化水素油を乳化して水に対して安定に分散又は溶解させる乳化剤として作用する。本発明のスパッタ付着防止剤において、非イオン系界面活性剤の含有量は、全質量あたり3乃至10質量%であることが好ましい。非イオン系界面活性剤の含有量が全質量あたり3質量%未満であると、炭化水素油を乳化して水に対して安定に分散又は溶解させる作用が小さくなり、炭化水素油が油膜面で水をはじいて、水と炭化水素油とが2層分離しやすくなる。また、溶接対象の金属表面において、塗膜の親水性が小さくなるため、溶接後の乾燥塗膜が水をはじいて、水洗除去性が低下する。一方、非イオン系界面活性剤の含有量が全質量あたり10質量%を超えると、界面活性剤が炭化水素油を乳化した状態でスパッタ付着防止剤において大きな割合を占めることになり、金属表面において濡れ性が高くなって、溶接作業性が低下しやすくなる。また、溶接金属の健全性が低下しやすくなり、ブローホール及び割れ等の溶接欠陥も発生しやすくなる。従って、本発明の非イオン系界面活性剤の含有量は全質量あたり3乃至10質量%であることが好ましい。
【0022】
「非イオン系界面活性剤のHLB値:9以上」
上述の如く、炭化水素油の乳化に使用する非イオン系界面活性剤は、スパッタ付着防止剤の主成分である水に対して自ら安定して分散又は溶解すると共に、炭化水素油を乳化して水に対して安定に分散又は溶解させる乳化剤として作用する。本発明においては、この非イオン系界面活性剤のHLB(Hydrophile−Lipophile Balance)値は、9以上であることが好ましい。非イオン系界面活性剤のHLB値が9未満であると、水に対する界面活性剤自身の分散又は溶解性が低下し、炭化水素油を乳化した後、水への分散又は溶解が安定しにくくなる。従って、非イオン系界面活性剤のHLB値は9以上であることが好ましい。
【0023】
なお、本発明のスパッタ付着防止剤には、更に防錆剤及び防腐剤等を添加することができ、防錆性及び防腐性を向上させることができる。
【0024】
次に、本発明のスパッタ付着防止剤を使用したアーク溶接について説明する。まず、液体のスパッタ付着防止剤を、溶接対象部位周辺に刷毛等を使用して塗布する。スパッタ付着防止剤の塗布が終了したら、放置する等により乾燥させる。このとき、スパッタ付着防止剤は、塗布された金属表面に乾燥塗膜を形成する。
【0025】
次に、被覆アーク溶接の場合は被覆アーク溶接棒を電極として使用し、ガスシールドアーク溶接の場合はタングステン電極又は溶接ワイヤを電極として使用して、母材と電極との間に電流を印加すると、母材と電極との間にアーク放電が発生する。このとき、溶融スラグ及び溶融金属からなるスパッタが粒状に発生して、溶接部周辺に飛散する。特に、アーク放電の発生が不安定である場合、スパッタの発生は顕著である。発生したスパッタは、溶接部周辺に飛散して、スパッタ付着防止剤の乾燥塗膜上に付着する。本発明のスパッタ付着防止剤は、沸点が200乃至350℃と比較的高温の適正な範囲に規定されているため、溶接時の高温環境下においても、金属表面に良好な乾燥塗膜を維持しつつ、塗膜のベタ付きによって溶接作業性が低下することもない。
【0026】
アーク溶接が終了したら、スパッタが付着した乾燥塗膜の上から水をかけ、溶接部周辺を水で洗う。本発明のスパッタ付着防止剤は、炭化水素油を非イオン系界面活性剤で乳化して適度に親水化した状態で水に溶解して製造されている。そして、スパッタ付着防止剤中の炭化水素の含有量が適正な範囲に規定されている。従って、親水化したスパッタ付着防止剤を、溶接後の乾燥塗膜として水で洗い流すだけで容易に除去することができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明のスパッタ付着防止剤の効果を示す実施例について、その比較例と比較して具体的に説明する。
【0028】
表1に示す種々の炭化水素油を単独で又は混合して非イオン系界面活性剤で乳化し、水に溶解させて、種々の成分を有する実施例及び比較例のフラックス付着防止剤を作製した。表1に、使用した夫々の炭化水素油の主成分及び沸点を示す。なお、非イオン系界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(日本触媒社製、製品名:ソフタノール70(HLB値12.1)、ソフタノール50(HLB値10.0)又はソフタノール30(HLB値8.0))を使用し、防腐剤としては、ハロゲン化窒素硫黄系化合物を使用した。これらの添加量について、表2及び表3に示す。また、作製した実施例及び比較例のスパッタ付着防止剤の組成を、表2及び表3に示す。
【0029】
表2及び表3に示す組成を有する実施例及び比較例のスパッタ付着防止剤を、刷毛で母材に塗布し、3時間放置して乾燥塗膜を形成した後、フラックス入りワイヤを使用してMIG溶接を実施した。溶接対象の母材としては、幅150mm、長さ300mm、厚さ10mmのJIS G 3101に規定されているSS400鋼板を2枚使用し、厚さ方向が垂直となるように水平面に載置した一方の鋼板の中央部に、厚さ方向が水平となるように他方の鋼板を立て、すみ肉部の両側をMIG溶接した。フラックス入りワイヤとしては表4に示す神戸製鋼社製Cr−Mo鋼マグ溶接用フラックス入りワイヤを使用した。
【0030】
各実施例及び比較例のスパッタ付着防止剤について、刷毛で母材に塗布したときの塗膜の均一性について、目視によって判定した。そして、塗膜の均一性が良好であったものを◎、若干ムラが発生したものを○と判定した。
【0031】
また、MIG溶接後の金属表面の状態を目視確認することによってスパッタ付着抑制性を判定すると共に、ブローホール及び割れ等の溶接欠陥の有無についても確認した。そして、スパッタ付着抑制性が良好であったものを◎、スパッタ付着抑制性が若干低下したが使用しても問題がなかったものを○、良好でなかったものを×と判定した。溶接欠陥については、溶接欠陥が全くなかったものを◎、溶接欠陥が若干発生したが継手強度が低下する程ではなかったものを○、溶接欠陥の発生によって継手強度が低下したものを×と判定した。
【0032】
更に、溶接後の乾燥塗膜上から水をかけて、塗膜上で水はじきがないかを目視確認することによって塗膜の親水性を判定すると共に、水で洗い流したときの乾燥塗膜の除去性を判定した。そして、親水性が良好であったものを◎、親水性が若干低下したが水洗除去性を低下させる程ではなかったものを○、親水性が良好でなかったものを×と判定した。また、水で洗い流すだけで乾燥塗膜を容易に除去することができたものを◎、水で洗い流すだけでは乾燥塗膜が若干残るが軽く擦る程度で除去できたものを○、乾燥塗膜が残り洗浄剤を使用しないと除去できなかったものを×と判定した。
【0033】
各実施例及び比較例における塗膜の均一性、スパッタ付着抑制性、溶接欠陥の有無、親水性及び水洗除去性の判定結果について、表3及び表4に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
表2及び3に示すように、実施例No.1乃至10は、スパッタ付着防止剤中の炭化水素油の沸点が本発明の範囲を満足し、本発明の範囲を満足しない比較例No.3に比して溶接欠陥抑制性が優れており、比較例No.4に比してスパッタ付着抑制性が優れている。
【0039】
比較例No.1は、炭化水素油の沸点の範囲は本発明の範囲を満足するものの、炭化水素油の含有量が少なく、炭化水素油の含有量が本発明の範囲を満足する実施例1乃至10に比して塗膜の水洗除去性、親水性及びスパッタ付着抑制性が劣った。一方、比較例No.2は、炭化水素油の含有量が過剰となり、溶接金属の健全性が低下して、溶接欠陥が発生した。
【0040】
本発明の範囲を満足する実施例No.1乃至10のうち、実施例1及び実施例3乃至8は、非イオン系界面活性剤の含有量が本発明の請求項2の範囲を満足し、非イオン系界面活性剤の含有量が請求項2の範囲を下回る実施例9に比して塗膜の水洗除去性及び親水性が優れており、非イオン系界面活性剤の含有量が請求項2の範囲を超える実施例10に比して溶接欠陥抑制性が優れている。
【0041】
また、実施例2は、非イオン系界面活性剤の含有量が本発明の請求項2の範囲を満足するが、非イオン系界面活性剤のHLB値が請求項3の範囲未満である。従って、実施例2は、非イオン系界面活性剤のHLB値が請求項3の範囲を満足する実施例1及び実施例3乃至8に比して塗膜の親水性が低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を主成分とし、
パラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系及び芳香族系の炭化水素であって、沸点が200乃至350℃で常温で液体のものを、単独で又は複数種類混合して得た炭化水素油を、非イオン系界面活性剤で乳化させたものであり、
前記炭化水素油を総量で全質量あたり1乃至20質量%含有することを特徴とするスパッタ付着防止剤。
【請求項2】
前記非イオン系界面活性剤を全質量あたり3乃至10質量%含有することを特徴とする請求項1に記載のスパッタ付着防止剤。
【請求項3】
前記非イオン系界面活性剤は、HLB値が9以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスパッタ付着防止剤。