説明

スパッタ付着防止剤

【課題】鋼材等を溶接する際に飛散するスパッタが、溶接箇所の周辺部に付着するのを防止するための溶接スパッタ付着防止剤を提供する。
【解決手段】無機系被膜形成液、特に、
p+(ORp−q
(式中、MはAl、Zr及びTiからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり;pはMの価数を表わし;Rは炭素数1〜5の炭化水素基、アルコキシアルキル基またはアシル基であり;Rはビニル、アミノ、イミノ、エポキシ、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、フェニル、メルカプト及びアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種の有機基であり;qはOR基の数を表し;p及びqはいずれも整数であり;p≧qである。)
で表わされる化合物の加水分解・重縮合物を含む、スパッタ付着防止剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材等を溶接する際に飛散するスパッタが、溶接箇所の周辺部に付着するのを防止するための溶接スパッタ付着防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接を行う際に発生する溶接スパッタが製品、または治具に付着し、溶接後にスパッタを剥離する作業が必要となる。
特許文献1にはケイ酸のアルカリ金属塩から選択される1種または2種以上の塩;フッ化物イオン、炭酸水素イオン;および不可溶のアルコール類またはその誘導体を水に配合し、適宜その他の添加物を加えた溶接スパッタ付着防止剤が提供されている。
特許文献2には無機物又は無機化合物の微粉末を含む溶接スパッタ付着防止剤で、更に、水;ジカルボン酸;金属水素化物;トリアゾール類、キレート剤、飽和脂肪酸、及び不飽和脂肪酸からなる群より選択される1以上の物質を含んで成る混合液を含む溶接スパッタ付着防止剤が提案されている。
特許文献3には、セラミックス被膜を形成する組成物および金属酸化物フィラーを添加したスパッタ付着防止剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−176680
【特許文献2】特開2005−324217
【特許文献3】特開2010−075990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アーク溶接、スポット溶接、レーザー溶接などを行う際に、スパッタが飛び散り、製品及び周辺部材へ付着し、後工程にて付着したスパッタを取り除かなくてはならない。特に製品に付着しては、製品としての外観が損なわれるだけでなく、その製品を組み込んで最終製品として使用の際に付着したスパッタにより不具合の原因となり安定した製品製造ができない可能性がある。また、周辺部材に付着した際は、特に位置決めをする治具へ付着した場合、溶接の際に正確な位置決めができず、不良品を出す可能性が高くなる。したがって、ある程度溶接を行った後、タガネ等を用いて手作業にてスパッタを取り除く作業が実施されており、その除去作業に費やされる工数は甚大なものとなっているのが現状である。
特許文献1では製品への溶接スパッタの付着防止には効果があるが、周辺部材への付着防止効果には持続性がそれ程無いため、継続的、高頻度でのスパッタ付着防止剤の塗布が必要となる。
特許文献2では特許文献1よりもスパッタの付着防止効果に対してより強化されているものの、周辺部材への付着防止効果には持続性に関しては特に変わらない。
特許文献3ではスパッタ付着防止効果に対して強化されているが、溶接部近傍のより過酷な溶接条件ではその効果は低くなり、持続性はそれに伴い短くなってしまう。また、ケイ素を用いたスパッタ付着防止剤においては、塗装ハジキなどの他工程への悪影響が懸念され、使用現場では敬遠されやすい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題点を解決するため、本発明は、無機系被膜形成液を含む、スパッタ付着防止剤を提供する。
【0006】
本発明において用いられる無機系被膜形成液としては、式(1)で表される化合物の加水分解・重縮合物を含む無機系被膜形成液が含まれる。
p+(ORp−q (1)
(式中、Mは、Al、Zr及びTiからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり;Rは炭素数1〜5個の炭化水素基、アルコキシアルキル基、又はアシル基であり;Rはビニル、アミノ、イミノ、エポキシ、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、フェニル、メルカプト及びアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種の有機基であり;pはMの価数を表し;qはOR基の数を表し;p及びqはいずれも整数であり;p≧qである。)
【0007】
上記Mp+(ORp−qで表される化合物のうち、MがAlである化合物としては、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムトリt−ブトシキド、アルミニウムトリエトキシドなどが挙げられ、MがZrである化合物としては、ジルコニウムn−プロポキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムi−ブトキシド、ジルコニウムt−ブトキシド、ジルコニウムジメタクリレートジブトキシドなどが挙げられ、MがTiである化合物としては、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn−ブトキシド、チタンテトラi−ブトキシド、チタンメタクリレートトリイソプロポキシド、チタンテトラメトキシプロポキシド、チタンテトラn−プロポキシド、チタンテトラエトキシドなどが挙げられる。これらの化合物のうち1種類だけを用いてよいが、二種類以上を混合してもかまわない。
式(1)の化合物の加水分解・重縮合反応は、例えば特開2001−214093に記載されているような公知の方法によって行うことができる。
加水分解・重縮合反応を行うために添加する水の量は、式(1)の化合物1モルに対して0.1モル以上が好ましい。
式(1)の化合物を加水分解・縮重合する際には、既知の触媒などを添加して加水分解・縮重合を促進しても良い。この場合、添加する触媒としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの有機酸や、硝酸、塩酸、リン酸、硫酸などの無機酸を用いることができる。
【0008】
上記Mp+(ORp−qの加水分解・重縮合物は、好ましくは液状である。しかし、固体状の加水分解・重縮合物でも溶媒添加により液状となるものであれば使用することができる。
【0009】
スパッタ付着防止剤を上記のような組成とすることにより、次のような有利な効果が得られる。すなわち、スパッタ付着防止剤を塗布した際には図1に示すような構造で有機基が残っており、その後の除去する際には有機溶剤類で除去が可能である。また溶接の近傍でスパッタが当たる部分では被膜に熱がかかり、セラミックス被膜が形成されて強度が向上し耐久性が高くなる。
【0010】
また、上記スパッタ付着防止剤へ助剤としてセラミックスフィラーもしくはセラミックスゾルを適宜添加しても良い。セラミックスフィラーとして、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の酸化物や窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の窒化物及び炭化ケイ素、タングステンカーバイト等炭化物などがあり、1種以上組み合わせて添加してもよい。フィラーは単体で添加しても良いし、分散液(スラリー)の状態で添加しても良い。また、セラミックスフィラーの分散性を向上させるため、界面活性剤などの分散剤を添加しても良い。セラミックスゾルとしてはシリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル等があり、1種以上組み合わせて添加してもよい。
【0011】
また、スパッタ付着防止剤の溶媒としては、特に指定されるものではないが、塗布後の乾燥性を考慮し、エタノール、イソプロパノール、1−プロパノール等のアルコール類、アルコキシエタノール類、エチレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコール類、等が好ましい。
【0012】
さらに、スパッタ付着防止剤の塗布性・作業性の向上のため、粘度を調整してもよい。粘度調整の方法としては、フィラー濃度で調整してもよいし、溶媒種類で調整してもよい。また増粘剤を適量添加してもよい。
【0013】
スパッタ付着防止剤の塗布方法は特に指定されるものではないが、必要な箇所へ刷毛塗り、スプレー塗布等が好ましい。また、このスパッタ付着防止剤はエアゾール化も可能であり、前もってエアゾール化することにより溶接機の設置環境によらず塗布が可能となる。
【0014】
また上記スパッタ付着防止剤に着色を施してもよい。溶接現場での注意喚起や製造工程上の識別等のために、塗布した部分に着色を施し区別する必要がある際にコート被膜に着色してあると識別とスパッタ付着防止の2つの効果を同時に付与することができる。例えば、着色を施す方法として着色剤を添加し所望の色を加える。着色剤として無機顔料、有機顔料及び有機染料などが挙げられる。有機顔料や有機染料ではスパッタにより一部燃焼してしまい色褪せや焦げ付きなどが発生するが、再度塗布するタイミングを計る上での参考となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のスパッタ付着防止剤を用いれば、溶接にて発生するスパッタの製品及び周辺部材へ付着を防止することができる。
【0016】
本発明のスパッタ付着防止剤を製品及び周辺部材へ塗布・乾燥することにより、セラミックス被膜を形成し、溶接スパッタが付着しにくくなる。そのため、セラミックス被膜が破壊され取り除かれない限り、スパッタ付着防止効果が持続する。
【0017】
しかしながら、このセラミックス被膜は乾燥しているが焼き付け工程を通してないため、アルコール類やケトン類、グリコールエーテル類などの有機溶剤により簡単に除去できる。したがって、製品へスパッタ付着防止剤を塗布してもその後に除去が可能となり製品の後工程に影響を与えることがない。
【0018】
したがって、溶接機の周辺部材だけでなく、製品への適用も可能であり、スパッタが飛来する箇所の部材全てに適している。
【0019】
また、本来は透明な被膜を形成するが、無機材料粒子を添加することにより、有色化するため塗布した際に塗布部を認識することができる。有色化を嫌う場合には、添加フィラーを無くしても良いし、ナノサイズのフィラーを添加することにより透明を維持したままのスパッタ付着防止剤が調製できる。
【0020】
以上のように、本発明のスパッタ付着防止剤は上述の従来の問題点をすべて解決するものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】スパッタ付着防止剤を塗布した際の構造を示す図である。
【図2】スパッタ付着性の評価を概略的に示した図である。
【実施例】
【0022】
以下に例を挙げるが、それらは本発明の説明を目的とするものであって、本発明をこれらの態様に限定することを意図するものではない。
【0023】
<スパッタ付着性の評価>
スパッタ付着性の評価は図2に示す概略図のように塗布部から10mm離れた部分をアーク溶接し、溶接スパッタが付着するまで繰り返し実施した。溶接条件としてはわざとスパッタが多く出るように条件設定をした(表1)。被着体としてSPCC鋼材を用いて、一般鋼材としてSS鋼材を用いた。
【0024】
<実施例1>
ジエタノールアミン18.4gに1−プロパノール(以下、nPAという)49.7g加え攪拌した後、ジルコニウムn−プロポキシド/nPA(70%/30%)溶液を49.7g加え更に攪拌した。そこへnPAとイオン交換水を重量比10:1で混合した溶液を22.3g加え、更に予めnPA28.4gに窒化ホウ素フィラー7.1gを添加し、ヒドロキシプロピルセルロース1.8gを溶解した溶液36.1gを加え攪拌した。その後ろ過を行い、スパッタ付着防止剤を得た。このスパッタ付着防止剤を市販の霧吹きノズルにて被着体へ塗布し、常温にて10分間乾燥を行った。
【0025】
<実施例2>
実施例1と同様に調製したスパッタ付着防止剤をスプレー缶へ採取し、同体積のジメチルエーテルを充填し、エアゾール型スパッタ付着防止剤を得た。このエアゾール型スパッタ付着防止剤は噴射ガス(ジメチルエーテル)と混合した際に分離や凝集することなく、スプレーすることができた。このスパッタ付着防止剤を被着体へ塗布し、常温にて10分間乾燥を行った。
【0026】
<実施例3>
チタンテトライソプロポキシド156.3gにジエタノールアミン115.65gを加え、nPAで630mlまでメスアップを行った。その後100℃で3時間攪拌を行い、nPAとイオン交換水を重量比10:1で混合した溶液を200ml添加し更に攪拌を行った。その後、アルミナ粒子(粒径0.2μm)を25g添加し、ボールミル(ジルコニアボール2mmφ)で5時間分散処理を実施し、ろ過を行い、スパッタ付着防止剤を得た。このスパッタ付着防止剤を刷毛で被着体へ塗布し、常温にて10分間乾燥した。
【0027】
<比較例1>
特許文献3に記載の実施例1と同様に、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン9.5gにメチルトリエトキシシラン17.8g及びオルトケイ酸テトラエチル20.8gを加え、その後酸性アルミナゾル(日産化学製)を41.4g加え、ボールミルにて24時間攪拌・分散を実施した。こうして得られたスパッタ付着防止剤を他の実施例と同様に溶接を実施し評価した。また、市販されている霧吹きノズルで塗布を行い、常温にて30分乾燥した。
【0028】
<比較例2>
市販のエアゾールタイプのスパッタ付着防止剤(トラスコ中山製、αスパッタクリン トーチノズル用)を被着体へ塗布し、他の実施例と同様に溶接を実施し評価した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
表2より、実施例1〜3では繰り返し回数は20回以上でも溶接スパッタの付着は見られない。比較例では数回の繰り返しで溶接スパッタが付着しており、従来に比べ格段にスパッタ付着防止性が向上していることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機系被膜形成液を含む、スパッタ付着防止剤。
【請求項2】
前記無機系被膜形成液が、
p+(ORp−q
(式中、MはAl、Zr及びTiからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり;pはMの価数を表わし;Rは炭素数1〜5の炭化水素基、アルコキシアルキル基またはアシル基であり;Rはビニル、アミノ、イミノ、エポキシ、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、フェニル、メルカプト及びアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種の有機基であり;qはOR基の数を表し;p及びqはいずれも整数であり;p≧qである。)
で表わされる化合物の加水分解・重縮合物を含む、請求項1記載のスパッタ付着防止剤
【請求項3】
前記無機系皮膜形成液が無機材料粒子を更に含む、請求項1又は2記載のスパッタ付着防止剤。
【請求項4】
前記無機材料粒子が窒化ホウ素粒子である、請求項3記載のスパッタ付着防止剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−81492(P2012−81492A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228511(P2010−228511)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000150774)株式会社槌屋 (56)
【Fターム(参考)】