説明

スピロ化合物、液晶組成物、及びそれを用いた液晶表示素子

【課題】ネマチック液晶との相溶性がよく、ネマチック相を示す温度範囲の拡大に寄与する化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表される化合物、及び該化合物の少なくとも一種を含有する液晶組成物である。


式中、A1及びA2は各々独立に、置換もしくは無置換の、1,4−シクロへキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、1,4−フェニレン、ピリジン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ピラジン−2,5−ジイル又はピリダジン−3,6−ジイルを表わし;環B1及び環B2は、酸素原子又は硫黄原子を含んでいてもよいスピロ環であり;Xは、炭酸エステル基を含む二価基であり;L1、L2及びL3は各々独立に単結合、又は所定の二価基であり;R1及びR2は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜20の置換もしくは無置換アルキル基を表し;n及びmはそれぞれ、0〜2の整数を表わす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピロ骨格を有する化合物、これを含有する液晶組成物、及び該液晶組成物を用いた液晶表示素子に関する。特に、種々の液晶素子に利用されるネマチック液晶組成物の調製に有用な化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、電卓、時計、携帯電話、家庭用電気機器、測定機器、電子手帳、電車内モニター、プリンター、コンピューター、テレビ等に盛んに用いられている。液晶表示方式の代表的なものとしては、TN(twisted nematic)方式、STN(super twisted nematic)方式、GH(guest host)方式、IPS(in−plane switching)方式、VA(vertical alignment)方式、OCB(optically compensated bend)方式などを挙げることができる。
【0003】
これらの表示方式は、すべてネマチック液晶組成物を電圧駆動することによる光の透過、反射、吸収などの変化を利用した表示方式である。そのため、駆動用のネマチック液晶組成物は、液晶相の温度範囲、粘度、複屈折率、誘電率異方性、弾性定数をはじめとする様々な物性の観点から広く研究開発が行われている。
【0004】
通常、ネマチック液晶組成物は多くの化合物を混合して調製される。個々の化合物に求められる条件としては、水や空気に対する化学的安定性、粘度、誘電率異方性、複屈折、広い液晶相の温度範囲など、各々のモードに最適な物性や、他の化合物との相溶性などが挙げられる。中でも相溶性に注目すると、近年では、自動車や屋外などの過酷な状況下で液晶表示素子が用いられるようになったため、低温化での化合物の析出を防ぐために、相溶性の高い化合物が強く求められている。また、一般的に、液晶組成物のネマチック相上限温度を高くするためには、高い透明点(Iso点と呼ぶ)を有する化合物を混合するため、Iso点が高くネマチック液晶組成物への相溶性が高い化合物が求められている。
【0005】
一方、デジタル情報の普及に伴い、デジタル情報を表示するためのディスプレイ(以下、電子ペーパーと呼ぶ)の重要性が増している。電子ペーパーに要求される性能としては、高い視認性と低消費電力が挙げられる。高い視認性とは、紙に近い白地を意味しており、そのためには、紙と同様の散乱白地に基づく表示方式が適している。低消費電力に関しては、反射型表示方式が、自発光型表示方式よりも低消費電力である。これまで、電子ペーパーとして、多くの方式が提案されている。例えば、反射型液晶表示方式、電気泳動表示方式、磁気泳動表示方式、二色球回転方式、エレクトロクロミック表示方式、ロイコサーマル表示方式などである。いずれの方式についても、高い視認性という観点からは、満足できるレベルにはなく、その改善が求められていた。
【0006】
液晶素子(液晶表示素子)については、すでに多くの方式が提案されており、中でもGH(ゲストホスト)方式の液晶素子は、明るい表示が可能であって、反射型に適した液晶素子として期待されている。ゲストホスト方式は、ホストであるネマチック液晶中にゲストとして二色性色素を溶解させた液晶組成物を用いる表示方式である。二色性色素は、1軸の光吸収軸を有し、光吸収軸方向に振動する光のみを吸収することから、電場による液晶の動きに合わせて、二色性色素の配向を変化させ、光吸収軸の向きを制御することにより、セルの吸光状態を変化させることができる。
また、全方位の光を吸収させる方式として、カイラル剤との組み合わせによるカイラルネマチック相を利用した相転移型ゲストホスト方式が提案されている(非特許文献1参照)。この方式では、偏光板を使用しない明るい表示が可能となる(特許文献1参照)。
【0007】
ゲストホスト(GH)方式液晶素子の表示コントラストを左右する一因が、液晶層を構成する液晶組成物中の二色性色素のオーダーパラメーター(S値とも呼ぶ)であることが知られている。従って、GH方式の液晶表示素子の表示特性を改善するためには、二色性色素がより高いオーダーパラメータを示すネマチック液晶組成物を提供することが重要である。また様々な環境化で使用されるという点から、より広い温度範囲でネマチック相を呈する液晶組成物の提供が望まれる。
【非特許文献1】D.L.White;G.N.Taylor;J.Appl.Phys.,Vol.45,4718(1974)
【特許文献1】特開2006−83338号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ネマチック液晶との相溶性がよく、ネマチック相を示す温度範囲の拡大に寄与する化合物を提供することを課題とする。
また、本発明は、ネマチック相を示す温度範囲が広く、且つ二色性色素のオーダーパラメータの向上に寄与する液晶組成物を提供することを課題とする。
さらに、本発明は、該液晶組成物を用いた表示コントラストが高い液晶素子、特に相転移型ゲストホスト方式の液晶素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段は以下の通りである。
[1] 下記一般式(I)で表される化合物:
【化1】

式中、A1及びA2は各々独立に、置換もしくは無置換の、1,4−シクロへキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、1,4−フェニレン、ピリジン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ピラジン−2,5−ジイル又はピリダジン−3,6−ジイルを表わし;
スピロ環を構成する環B1及び環B2は各々独立に、
【化2】

を表し(*は連結部位を表す)、Y1及びY2は各々独立に、−CH2−、酸素原子、又は硫黄原子を表し;
Xは、下記基
【化3】

を含む二価基を表わし、Z1、Z2及びZ3は各々独立に、酸素原子又は硫黄原子を表わし;
1、L2及びL3は各々独立に単結合、−CH2−、酸素原子、硫黄原子、−NR3−(R3は水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す)、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−CO−NR3−、−NR3−CO−、−CH2CH2−、−CH2O−、−OCH2−、−CH2S−、−SCH2−、−CH=CH−、−C≡C−、−CH2−OCO−、−COO−CH2−、−OCOO−CH2−、−CH2−OCOO−又は−CH2−OCOO−CH2−を表し;
1及びR2は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜20の置換もしくは無置換アルキル基を表し、アルキル基を構成するCH2基のうち1つもしくは隣接していない2つ以上のCH2基は、酸素原子もしくは硫黄原子で置換されていてもよく;
n及びmはそれぞれ、0〜2の整数を表わす。
【0010】
[2] 前記一般式(I)中、スピロ環
【化4】

のいずれかであることを特徴とする[1]の化合物。
[3] 前記一般式(I)中、Xが−OCOO−であること特徴とする[1]又は[2]の化合物。
[4] 前記一般式(I)中、m+nが2以上であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかの化合物。
[5] 液晶化合物であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかの化合物。
[6] [1]〜[5]のいずれかの化合物の少なくとも1種を含有することを特徴とする液晶組成物。
[7] 少なくとも1種のカイラル剤をさらに含有することを特徴とする[6]の液晶組成物。
[8] 少なくとも1種の二色性色素をさらに含有することを特徴とする[6]又は[7]の液晶組成物。
[9] 少なくとも一方が透明電極である一対の電極間に液晶層を有する液晶素子であって、該液晶層が、[6]〜[8]のいずれかの液晶組成物を含有する液晶素子。
[10] 少なくとも一方が透明電極である一対の電極間に高分子媒体層を有する液晶素子であって、該高分子媒体層が、高分子と該高分子中に分散された[6]〜[8]のいずれかの液晶組成物とを含む液晶素子。
[11] 少なくとも一方が透明電極である一対の電極間に液晶層を有する液晶素子であって、該液晶層が、[6]〜[8]のいずれかの液晶組成物を含むマイクロカプセルを含有する液晶素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ネマチック液晶との相溶性がよく、ネマチック相の温度範囲の拡大に寄与する化合物を提供することができる。
また、本発明によれば、ネマチック相の温度範囲が広く、且つ二色性色素のオーダーパラメータの向上に寄与する液晶組成物を提供することができる。
さらに、本発明によれば、該液晶組成物を用いた表示コントラストが高い液晶素子、特に相転移型ゲストホスト方式の液晶素子を提供することができる。
【発明の実施の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」はその前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本発明はスピロ骨格、及び炭酸エステル基(又は炭酸エステル基中の酸素原子の一部又は全部を硫黄原子に置き換えた基)の双方を有する液晶性化合物に関する。本発明の化合物は、その構造的特徴により、単独でネマチック相となる化合物である場合は、Iso点が高く、ネマチック相の上限温度が高いという特徴を有する。また、液晶性の有無に係わらず、ネマチック液晶に対して相溶性がよく、またネマチック液晶に添加することにより、そのネマチック相の温度範囲を拡大することができる。
また、本発明の化合物を含有する液晶組成物に二色性色素を溶解すると、色素のオーダーパラメータ(S値)が向上する。即ち、本発明の化合物を含有する液晶組成物を利用したGHモード、特に相転移型GHモードの液晶素子は、高い表示コントラストを実現できる。
【0013】
以下、本発明に用いられる種々の材料について説明する。
[一般式(I)で表される化合物]
【0014】
【化5】

【0015】
式中、A1及びA2は各々独立に、置換もしくは無置換の、1,4−シクロへキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、1,4−フェニレン、ピリジン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ピラジン−2,5−ジイル又はピリダジン−3,6−ジイルを表わす。
【0016】
スピロ環を構成する環B1及び環B2は各々独立に、下記環を表す。
【0017】
【化6】

【0018】
なお、式中の*は連結部位を表す。また、Y1及びY2は各々独立に、−CH2−、酸素原子、又は硫黄原子を表す。
【0019】
上記式(I)中、Xは下記の基を含む二価基を表す。
【0020】
【化7】

【0021】
上記式中、Z1、Z2及びZ3は各々独立に、酸素原子又は硫黄原子を表わす。
即ち、Xは炭酸エステル基又は炭酸エステル基中の酸素原子の一部もしくは全部が硫黄原子で置換された基(以下、まとめて「炭酸エステル基等」という)を含む二価基である。Xは、炭酸エステル基等とともに、アルキレン基を含んでいてもよい。Xの例としては、下記の基が挙がられる。
【0022】
【化8】

【0023】
Xは炭酸エステル基を含んでいるのが好ましく、具体的には、−OCOO−、−OCOO−CH2−、−CH2−OCOO−又は−CH2−OCOO−CH2−であることが好ましく、特に好ましくは炭酸エステル基、即ち、−OCOO−である。
【0024】
上記式(I)中、L1、L2及びL3は各々独立に単結合、−CH2−、酸素原子、硫黄原子、−NR3−(R3は水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す)、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−CO−NR3−、−NR3−CO−、−CH2CH2−、−CH2O−、−OCH2−、−CH2S−、−SCH2−、−CH=CH−、−C≡C−、−CH2−OCO−、−COO−CH2−、−OCOO−CH2−、−CH2−OCOO−又は−CH2−OCOO−CH2−を表す。
【0025】
前記式(I)中、R1及びR2は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜20の置換もしくは無置換アルキル基を表し、アルキル基を構成するCH2基のうち1つもしくは隣接していない2つ以上のCH2基は、酸素原子もしくは硫黄原子で置換されていてもよい。
前記式(I)中、n及びmはそれぞれ、0〜2の整数を表す。
【0026】
一般式(I)において、A1及びA2は、各々独立に、置換もしくは無置換の1,4−シクロへキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、1,4−フェニレン、ピリジン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ピラジン−2,5−ジイル又はピリダジン−3,6−ジイルを表す。該置換基の例としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(好ましくは炭素数1〜5のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基)、アルコキシ基(好ましくは、炭素数1〜5の置換もしくは無置換のアルコキシ基、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−プロポキシ基、tert−ブトキシ基)、シアノ基が挙げられ、好ましくは、ハロゲン原子、アルキル基又はアルコキシ基であり、さらに好ましくは、ハロゲン原子又はアルキル基である。
【0027】
1及びA2は、好ましくは、各々独立に、置換もしくは無置換の1,4−トランス−シクロへキシレン、又は1,3−ジオキサン−2,5−ジイルを表し、より好ましくは置換もしくは無置換の1,4−トランス−シクロへキシレンである。
1及びA2は、さらに好ましくは、各々独立に、無置換の1,4−トランス−シクロへキシレン、又は1,3−ジオキサン−2,5−ジイルであり、最も好ましくは、無置換の1,4−トランス−シクロへキシレンである。
また、A1及びA2は、各々複数存在する場合は、同じでも異なっていてもよい。
【0028】
一般式(I)において、L1、L2及びL3は、各々独立に、単結合、−CH2−、酸素原子、硫黄原子、−NR3−(R3は水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す)、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−CO−NR3−、−NR3−CO−、−CH2CH2−、−CH2O−、−OCH2−、−CH2S−、−SCH2−、−CH=CH−、−C≡C−、−CH2−OCO−、−COO−CH2−、−OCOO−CH2−、−CH2−OCOO−又は−CH2−OCOO−CH2−を表し、より好ましくは、単結合、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−CO−NR3−、−NR3−CO−、−CH2CH2−、−CH2O−、−OCH2−、−CH2−OCO−又は−COO−CH2−を表し、さらに好ましくは、各々独立に、単結合、−COO−、−OCO−、−CH2CH2−、−CH2O−、−OCH2−、−CH2−OCO−又は−COO−CH2−を表す。また、L1、L2及びL3は、各々複数存在する場合は、同じでも異なっていてもよい。
【0029】
一般式(I)において、R1及びR2は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜20の置換もしくは無置換アルキル基を表し、アルキル基を構成するCH2基のうち1つもしくは隣接していない2つ以上のCH2基は、酸素原子もしくは硫黄原子で置換されていてもよい。該置換基の例には、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(好ましくは炭素数1〜5のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基)、アルコキシ基(好ましくは、炭素数1〜5の置換又は無置換のアルコキシ基、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−プロポキシ基、tert−ブトキシ基)、シアノ基が挙げられ、好ましくは、ハロゲン原子、アルキル基又はアルコキシ基であり、さらに好ましくは、ハロゲン原子又はアルキル基である。
【0030】
1及びR2は、好ましくは、各々独立に、水素原子、又は炭素数1〜20(好ましくは1〜10、より好ましくは1〜8)の置換もしくは無置換アルキル基を表し、アルキル基を構成するCH2基のうち1つもしくは隣接していない2つ以上のCH2基は、酸素原子もしくは硫黄原子で置換されていてもよい。該置換基は、前段落の記述と同様である。
1及びR2は、さらに好ましくは、炭素数1〜20の無置換アルキル基を表し、アルキル基を構成するCH2基のうち1つもしくは隣接していない2つ以上のCH2基は、酸素原子で置換されていてもよい。
1及びR2は、最も好ましくは、炭素数1〜20の無置換アルキル基を表す。
【0031】
一般式(I)中、スピロ環部位
【化9】

【0032】
一般式(I)において、n及びmは各々独立に、0〜2の整数を表し、好ましくはn+m2以上であり、さらに好ましくはn+mは2又は3であり、最も好ましくはn=2で、且つm=0である。
【0033】
以下に、一般式(I)で表される化合物の具体例を示すが、以下の具体例に限定されることはない。下記化合物に関しては、弧( )内の数字にて例示化合物(X)と示す。
【0034】
【化10】

【0035】
【化11】

【0036】
【化12】

【0037】
【化13】

【0038】
【化14】

【0039】
【化15】

【0040】
前記一般式(I)で表される化合物は、公知の方法を組み合せることで合成することができる。例えば、"Tetrahedron " (1989);45(3);p.687-694.、"Liebigs. Ann." (1995), p1319-1326に記載の方法を参照して、合成することができる。
【0041】
前記一般式(I)で表される化合物は、液晶性を有していても、液晶性を有していなくてもよい。
【0042】
[液晶組成物]
本発明は、前記一般式(I)で表される化合物の少なくとも一種を含有する液晶組成物に関する。本発明の液晶組成物は、液晶素子、特にゲストホスト方式の液晶表示素子、の作製に有用である。本発明の液晶組成物は、前記一般式(I)で表される化合物を含有することによって、広い温度範囲でネマチック相となり得る。二色性色素を溶解することで、二色性色素のオーダーパラメータを向上させることができ、GH方式の液晶表示素子の作製に用いた場合に、表示コントラストの向上に寄与し得る。
【0043】
本発明の液晶組成物中には、前記一般式(I)で表される化合物を一種のみ含有させてもよいし、複数種を含有させてもよい。前記液晶組成物中における、前記一般式(I)で表される化合物の含有量については特に制限されず、該化合物の組成物中における役割、機能等によって、その好ましい範囲も異なる。調製したホスト液晶の屈折率異方性Δn、色素溶解度、色素のオーダーパラメータを測定することで、所望の表示コントラストに必要なホスト液晶の組成を決定してもよい。
【0044】
(二色性色素)
本発明の液晶組成物は、二色性色素の少なくとも一種をさらに含有していてもよい。二色性色素は、ホスト液晶中に溶解し、光を吸収する機能を有する化合物と定義される。二色性色素は、二色比(R)及びオーダーパラメーター(S)が大きく、ホスト液晶に対して良好な相溶性を示すことが好ましい。二色性色素としては、吸収極大ならびに吸収帯に関しては、いかなるものであってもよいが、イエロー域(Y)、マゼンタ域(M)、あるいはシアン域(C)に吸収極大を有する場合が好ましい。また、本発明の液晶素子に用いられる二色性色素は、単独で使用してもよいが、複数を混合したものであってもよい。複数の色素を混合する場合には、Y、M、Cに吸収極大を有する二色性色素の混合物を用いるのが好ましい。公知の二色性色素としては、たとえば、A.V.Ivashchenko著,Diachronic Dyes for Liquid Crystal Display,CRC社,1994年に記載のものが挙げられる。イエロー色素、マゼンタ色素ならびにシアン色素を混合することによるフルカラー化表示を行う方法については、「カラーケミストリー」(時田澄男著、丸善、1982年)に詳しい。ここでいう、イエロー域とは430〜490nmの範囲、マゼンタ域とは500〜580nmの範囲、シアン域とは600〜700nmの範囲である。
【0045】
前記二色性色素の発色団はいかなるものであってもよいが、例えば、アゾ色素、アントラキノン色素、ペリレン色素、メロシアニン色素、アゾメチン色素、フタロペリレン色素、インジゴ色素、アズレン色素、ジオキサジン色素、ポリチオフェン色素、フェノキサジン色素などが挙げられる。好ましくはアゾ色素、アントラキノン色素、フェノキサジン色素であり、特に好ましくはアントラキノン色素、フェノキサゾン色素(フェノキサジン−3−オン)である。
【0046】
アゾ色素はモノアゾ色素、ビスアゾ色素、トリスアゾ色素、テトラキスアゾ色素、ペンタキスアゾ色素などいかなるものであってもよいが、好ましくはモノアゾ色素、ビスアゾ色素、トリスアゾ色素である。
アゾ色素に含まれる環構造としては芳香族基(ベンゼン環、ナフタレン環など)のほかにも複素環(キノリン環、ピリジン環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリミジン環など)であってもよい。
【0047】
アントラキノン色素の置換基としては、酸素原子、硫黄原子又は窒素原子を含むものが好ましく、例えば、アルコキシ、アリールオキシ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルアミノ、アリールアミノ基である。該置換基の置換数はいかなる数であってもよいが、ジ置換、トリ置換、テトラキス置換が好ましく、特に好ましくはジ置換、トリ置換である。該置換基の置換位置はいかなる場所であってもよいが、好ましくは1,4位ジ置換、1,5位ジ置換、1,4,5位トリ置換、1,2,4位トリ置換、1,2,5位トリ置換、1,2,4,5位テトラ置換、1,2,5,6位テトラ置換構造である。
【0048】
フェノキサゾン色素(フェノキサジン−3−オン)の置換基としては、酸素原子、硫黄原子又は窒素原子を含むものが好ましく、例えば、アルコキシ、アリールオキシ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルアミノ、アリールアミノ基である。
【0049】
以下に、本発明に使用可能な二色性色素の具体例を示すが、本発明は以下の具体例によってなんら限定されるものではない。
【0050】
【化16】

【0051】
【化17】

【0052】
【化18】

【0053】
【化19】

【0054】
以下に、本発明に使用可能なアゾ系二色性色素の具体例を示すが、本発明は以下の具体例によってなんら限定されるものではない。
【0055】
【化20】

【0056】
以下に本発明に使用可能なジオキサジン系二色性色素ならびにメロシアニン系二色性色素の具体例を示すが、本発明は以下の具体例によってなんら限定されるものではない。
【0057】
【化21】

【0058】
本発明の液晶組成物において、二色性色素の含有量については制限はないが、二色性色素の含有量(混合物の場合には、二色性色素の全含有量)は、ホスト液晶の含有量(式(I)で表される化合物がホスト液晶である場合は、該化合物の含有量)に対して0.1〜15質量%であることが好ましく、0.5〜6質量%であることが特に好ましい。また、液晶セルの吸収スペクトルを測定することで、所望の光学濃度に必要な色素濃度を決定することが望ましい。
【0059】
(ホスト液晶)
本発明の液晶組成物は、液晶を含有しているのが好ましい。該液晶は、電界の作用により、その配向状態を変化させ、ゲストとして溶解されている二色性色素の配向状態を制御する機能を有する液晶、即ち、ゲスト液晶として機能する液晶であるのが好ましい。前記一般式(I)で表される化合物が単独でゲスト液晶として機能し得る場合は、別途液晶を添加する必要はない。
【0060】
前記ホスト液晶は、ネマチック相を示す液晶であるのが好ましい。ホスト液晶は、前記一般式(I)で表される化合物の少なくとも1種類と公知の液晶化合物との混合物であるのが好ましい。ホスト液晶の屈折率異方性(Δn)の絶対値は0.25以下のものが好ましい。より好ましくは、|Δn|<0.15であり、さらに好ましくは、|Δn|<0.10であり、よりさらに好ましくは、|Δn|<0.05である。
【0061】
公知の液晶化合物の具体例としては、アゾメチン化合物、シアノビフェニル化合物、シアノフェニルエステル、フッ素置換フェニルエステル、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル、フッ素置換シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル、シアノフェニルシクロヘキサン、フッ素置換フェニルシクロヘキサン、シアノ置換フェニルピリミジン、フッ素置換フェニルピリミジン、アルコキシ置換フェニルピリミジン、フッ素置換アルコキシ置換フェニルピリミジン、フェニルジオキサン、トラン系化合物、フッ素置換トラン系化合物、アルケニルシクロヘキシルベンゾニトリルなどが挙げられる。「液晶デバイスハンドブック」(日本学術振興会第142委員会編、日刊工業新聞社、1989年)の第154〜192頁及び第715〜722頁に記載の液晶化合物を用いることができる。TFT駆動に適したフッ素置換されたホスト液晶を使用することもできる。例えば、Merck社の液晶(ZLI−4692、MLC−6267、6284、6287、6288、6406、6422、6423、6425、6435、6437、7700、7800、9000、9100、9200、9300、10000など、いずれも商品名)、チッソ社の液晶(LIXON5036xx、5037xx、5039xx、5040xx、5041xxなど、いずれも商品名)が挙げられる。
本発明に用いるホスト液晶は、誘電率異方性が正であっても負であってもよい。
【0062】
(カイラル剤)
また、本発明の液晶組成物には、カイラル剤を添加してもよい。カイラル剤を添加することにより、相転移型ゲストホスト方式の液晶素子の材料としてより適する。カイラル剤とは、光学活性物質であって、前記ホスト液晶材料に添加することで、該液晶組成物がカイラルネマチック相を示すようになるもののことを意味する。例えば、日本学術振興会第142委員会編,「液晶デバイスハンドブック」,日刊工業新聞社,1989年,199〜202頁に記載のTN、STN用カイラル剤が挙げられる。
【0063】
本発明の液晶組成物において、カイラル剤の含有量について制限はないが、本発明の液晶素子として用いる液晶セルのセルギャップをd、液晶のヘリカルピッチをPとしたときに、0.1≦d/P≦20となるように含有されることが好ましい。より好ましくは、0.25≦d/P≦5であり、さらに好ましくは、0.4≦d/P≦2であり、よりさらに好ましくは、0.5≦d/P≦1である。
なおヘリカルピッチとは、液晶分子のらせん構造が360°旋回する距離として定義される。
【0064】
(その他の添加剤)
本発明の液晶組成物には、ホスト液晶の物性を所望の範囲に変化させることを目的として(例えば、液晶相の温度範囲を所望の範囲にすることを目的として)、液晶性を示さない化合物を添加してもよい。また、紫外線吸収剤、酸化防止剤などの化合物を含有させてもよい。
【0065】
本発明の液晶組成物の調製方法については特に制限されず、通常用いられる手段で各成分を混合することで調製できる。前記二色性色素は、ホスト液晶中に溶解しいているのが好ましい。ホスト液晶への前記二色性色素の溶解は、機械的攪拌、加熱、超音波、あるいはその組合せなどを利用することができる。
【0066】
[液晶素子]
本発明の液晶素子は、本発明の液晶組成物を含有する液晶層を備えた液晶素子である。本発明の液晶素子は、例えば、一対の電極基板(少なくとも一方は透明電極基板であるのが好ましい)間と、一対の電極基板に挟持される本発明の液晶組成物を含有する液晶層とから構成することができる。前記基板としては、通常ガラスあるいはプラスチック基板が用いられ、プラスチック基板としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。基板については、たとえば、日本学術振興会第142委員会編,「液晶デバイスハンドブック」,日刊工業新聞社,1989年,218〜231頁に詳しい。その基板上には、電極層が形成され、好ましくは透明電極である。その電極層としては、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化スズなどが用いられる。透明電極については、たとえば、日本学術振興会第142委員会編,「液晶デバイスハンドブック」,日刊工業新聞社,1989年,232〜239頁に記載のものが用いられる。
【0067】
本発明の液晶素子は液晶を配向させる目的で、液晶と基板の接する表面に配向処理を施した層を形成することが好ましい。該配向処理としては、たとえば、4級アンモニウム塩を塗布し配向させる方法、ポリイミドを塗布しラビング処理により配向する方法、SiOxを斜め方向から蒸着して配向する方法、さらには、光異性化を利用した光照射による配向方法などが挙げられる。配向膜については、たとえば、日本学術振興会第142委員会編,「液晶デバイスハンドブック」,日刊工業新聞社,1989年,240〜256頁に記載のものが用いられる。
【0068】
本発明の液晶素子は基板同士をスペーサーなどを介して、1〜50μmの間隔を設け、その空間に本発明の液晶組成物を注入して作製することができる。スペーサーについては、例えば、日本学術振興会第142委員会編,「液晶デバイスハンドブック」,日刊工業新聞社,1989年,257〜262頁に記載のものが用いられる。本発明の液晶組成物は、基板上に塗布あるいは印刷することにより基板間の空間に配置することができる。
【0069】
本発明の液晶素子は、単純マトリックス駆動方式あるいは薄膜トランジスタ(TFT)などを用いたアクティブマトリックス駆動方式を用いて駆動することができる。駆動方式については、例えば、「液晶デバイスハンドブック」(日本学術振興会第142委員会編、日刊工業新聞社、1989年)の387〜460頁に詳細が記載され、本発明の液晶素子の駆動方法として利用できる。
【0070】
本発明の液晶素子を用いた液晶ディスプレイは、いかなる方式であってもよい。例えば、日本学術振興会第142委員会編,「液晶デバイスハンドブック」,日刊工業新聞社,1989年,309頁に記載のゲストホスト方式に記載されている(1)ホモジニアス配向、(2)ホメオトロピック配向、White−Taylor型(相転移)として(3)フォーカルコニック配向及び(4)ホメオトロピック配向、(5)Super Twisted Nematic(STN)との組合せ、(6)強誘電性液晶(FLC)との組合せ、また、内田龍男監修,「反射型カラーLCD総合技術」,シーエムシー社,1999年,2−1章(GHモード反射型カラーLCD),15〜16頁に記載されている、(1)Heilmeier型GHモード、(2)1/4波長板型GHモード、(3)2層型GHモード、(4)相転移型GHモード、(5)高分子分散液晶(PDLC)型GHモードなどが挙げられる。
【0071】
さらに、本発明の液晶素子は、特開平10−67990号、同10−239702号、同10−133223号、同10−339881号、同11−52411号、同11−64880号、特開2000−221538号公報などに記載されている積層型GHモードに用いることができる。
また、本発明の液晶素子は、特開平11−24090号公報などに記載されているマイクロカプセルを利用したGHモードに用いることができる。即ち、本発明の液晶素子の一実施形態は、少なくとも一方が透明電極である一対の電極間に液晶層を有し、該液晶層が本発明の液晶組成物を含むマイクロカプセルを含有する、マイクロカプセルを利用したGHモードの液晶素子である。
さらに、本発明の液晶素子は、特開平5−61025号、同5−265053号、同6−3691号、同6−23061号、同5−203940号、同6−242423号、同6−289376号、同8−278490号、同9−813174号公報に記載されている高分子分散液晶型GHモードに用いることができる。即ち、本発明の液晶素子の一態様は、少なくとも一方が透明電極である一対の電極間に高分子媒体層を有し、該高分子媒体層が、高分子と、該高分子中に分散された本発明の液晶組成物とを含む、高分子分散液晶型GHモード液晶素子である。
【0072】
さらに、本発明の液晶素子は、特開平6−235931号、同6−235940号、同6−265859号、同7−56174号、同9−146124号、同9−197388号、同10−20346号、同10−31207号、同10−31216号、同10−31231号、同10−31232号、同10−31233号、同10−31234号、同10−82986号、同10−90674号、同10−111513号、同10−111523号、同10−123509号、同10−123510号、同10−206851号、同10−253993号、同10−268300号、同11−149252号、特開2000−2874号公報などに記載されている反射型液晶ディスプレイに用いることができる。
【0073】
本発明の液晶素子は、複数の二色性色素を含有する液晶組成物を利用したものであってもよい。また、液晶組成物の色についても、いかなるものであってもよい。例えば、複数の二色性色素を混合して用いる等、黒色の液晶組成物を調製した場合には、電圧の印加によって白黒表示用の液晶素子としての利用が挙げられる。また、レッド、グリーン及びブルーに各々着色された液晶組成物を調製し、3種類の組成物を基板上に並置配置することにより、カラー表示用の液晶素子を作製することもできる。また、本発明の液晶素子は、積層構造を有していてもよい。例えば、イエロー、マゼンタ及びシアンに着色した液晶組成物の各々からなる層を3層積層させる構成;及びイエロー、マゼンタ及びシアンに着色した液晶組成物と、補色の関係にあるブルー、グリーン及びレッドに着色した液晶組成物の各々からなる層を並置配置させた層とを2層積層させる構成;及び黒に着色した液晶組成物の層と、レッド、ブルー及びグリーンの液晶組成物の各々からなる層を並置配置させた層とを2層積層させる構成;などが挙げられる。
【実施例】
【0074】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の主旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0075】
[実施例1:一般式(I)の化合物の合成例]
上記例示化合物(1)を、下記スキームに従って合成した。
【0076】
【化22】

【0077】
化合物(A)の合成は“Liebigs Ann.”(1995);p.1319−1326.に記載の方法で行った。
【0078】
トリホスゲン25.1g(84.7mmol)のテトラヒドロフラン(THF)20mL溶液に、氷冷下にて化合物(B)(Yantai valiant Fine Chem.製)45.6g(203mmol)とトリエチルアミン31.0mL(223mmol)のテトラヒドロフラン(THF)400mL溶液をゆっくりと滴下した。氷冷下にて1時間攪拌した後、室温まで昇温し、6時間攪拌した。ヘキサン及び水を加えて分液し、有機層を飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去することで、化合物(C)58.0g(202mmol)を得た(収率99%)。
【0079】
化合物(A)1.49g(6.25mmol)のテトラヒドロフラン(THF)10mL溶液に、氷冷下にて、ピリジン1.0mL(12mmol)を添加後、化合物(C)2.68g(9.34mmol)のテトラヒドロフラン(THF)50mL溶液をゆっくりと滴下した。氷冷下にて1時間攪拌した後、室温まで昇温し、5時間攪拌した。ヘキサン及び水を加えて分液し、有機層を水洗した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=40/1)で精製することによって、例示化合物(1)2.97g(6.08mmol)を得た(収率97%)。
以下に生成物のNMR測定結果及び転移温度測定結果を示す。
H−NMR(CDCl3):0.75−1.90(m、52H)、2.08(d、2H)、4.40−4.62(m、2H)。
Sm → Ne → Iso。
138℃ 195℃
Sm:スメクチック相、Ne:ネマチック相、及びIso:等方性液体を示し、矢印の下の数字は左の相から右の相に転移した転移温度である。以下同様である。
【0080】
例示化合物(2)の合成は、例示化合物(1)と同様の方法で行った。
以下に生成物のNMR測定結果及び転移温度測定結果を示す。
H−NMR(CDCl3):0.75−1.90(m、56H)、2.08(d、2H)、4.40−4.62(m、2H)。
Sm → N → Iso。
157℃ 185℃
【0081】
例示化合物(13)の合成は、例示化合物(1)と同様の方法で行った。
以下に生成物のNMR測定結果及び転移温度測定結果を示す。
H−NMR(CDCl3):0.75−1.90(m、56H)、2.10(d、2H)、4.40−4.65(m、2H)。
N → Iso。
48.5℃
【0082】
[実施例2:相転移点測定]
以下の[表1−1]、[表1−2]に、下記の例示化合物(一般式(1)で表わされる本発明の化合物)、下記の比較例用化合物、及び参考例用化合物の相転移点とネマチック相温度領域を示す。なお、表中の略表記は、SmG:スメクチックG相、SmB:スメクチックB相、Ne:ネマチック相、Iso:等方性液体、を示し、数字は相転移点(℃)を示す。
【0083】
【化23】

【0084】
【表1】

【0085】
[表1−1]に示した結果から、一般式(I)で表される本発明の化合物である例示化合物(1)及び(2)は、スピロ骨格を有さないネマチック液晶である比較化合物(1)及び(2)と比較して、ネマチック相の温度範囲が広いネマチック液晶化合物であることが理解できる。
なお、スピロ骨格を有する化合物であるが、一般式(1)の範囲外の参考例用化合物(1)は、ネマチック相とならない液晶化合物であった。
【0086】
【表2】

*:例示化合物(13)は18℃においてネマチック相を示すが、ネマチック相の下限温度が測定できないため、温度範囲を「30℃以上」と表記している。
【0087】
[表1−2]に示した結果から、一般式(I)で表される本発明の化合物である例示化合物(13)は、上記例示化合物(1)及び(2)と比較してIso点が低い液晶化合物であるが、ネマチック相の温度範囲は充分に広いことがわかった。
なお、スピロ骨格を有する化合物であるが、一般式(1)の範囲外の参考例用化合物(2)は、ネマチック相とならない液晶化合物であった。
【0088】
[実施例3:市販の室温ネマチック液晶への溶解度]
以下の[表2]に一般式(1)で表わされる化合物、及び比較化合物の市販の室温ネマチック液晶(商品名ZLI−2806、E.Merck社製、Iso点100℃)に対する最大溶解度を示す。
【0089】
【表3】

【0090】
[表2]に示した結果から、一般式(I)で表される本発明の化合物である例示化合物(1)及び(2)は、ネマチック液晶である「ZLI−2806」(E.Merck社製)に対して相溶性がよく、スピロ骨格を有さない比較例用化合物(1)及び(2)と比較して、溶解度が大きいことが理解できる。
また、ピロ骨格を有する化合物であるが、一般式(1)の範囲外の参考例用化合物(1)と比較しても、高い溶解度を示した。
【0091】
[実施例4:ネマチック液晶組成物の調製]
<液晶組成物(HLC−1)の調製>
商品名ZLI−2806(E.Merck社製)210mg、及び例示化合物(2)90mgを混合し、該混合物を150℃のホットプレート上で1時間加熱して、液晶組成物を調製した。該液晶組成物を室温にまで冷却させ、1晩放置した。調製した室温ネマチック液晶のIso点は123℃であった。
【0092】
<液晶組成物(HLC−2)の調製(比較例)>
商品名ZLI−2806(E.Merck社製)240mg、及び比較化合物(2)60mgを混合し、該混合物を150℃のホットプレート上で1時間加熱して、液晶組成物を調製した。該液晶組成物を室温にまで、冷却させ、1晩放置した。調製した室温ネマチック液晶のIso点は115℃であった。
【0093】
【表4】

【0094】
[表3]に示した結果から、一般式(I)で表される本発明の化合物を添加すると、無添加の比較例と比較して、またスピロ骨格を含まない化合物を添加した比較例と比較して、ネマチック相の上限温度が高い液晶組成物を調製できることがわかった。
【0095】
[実施例5:二色性色素のS値]
<二色性色素の合成>
以下の実験に用いた二色性色素(D−1)は、特開2003−192664号記載に記載の方法に従い合成した。
【0096】
【化24】

【0097】
<液晶組成物(LCM−1)の調製>
二色性色素(D−1)2.5mg、及び、上記で調製したホスト液晶(HLC−1)100mgを混合し、該混合物を150℃のホットプレート上で1時間加熱して、液晶組成物を調製した。該液晶組成物を室温にまで、冷却させ、1晩放置した。
【0098】
<液晶組成物(LCM−2)の調製(比較例)>
前述の<液晶組成物(LCM−1)の調製>において、ホスト液晶(HLC−1)をホスト液晶(HLC−2)に変更した以外は、同じ方法で調製した。
【0099】
<液晶組成物(LCM−3)の調製(比較例)>
前述の<液晶組成物(LCM−1)の調製>において、ホスト液晶(HLC−1)をZLI−2806(E.Merck社製)に変更した以外は、同じ方法で調製した。
【0100】
<オーダーパラメータの評価>
上記で得られた液晶組成物の各々を、市販の液晶セル(KSRP−25、商品名、EHC.CO.,LTD.製)に注入し、液晶素子をそれぞれ作製した。
作製した液晶素子に、ラビング方向と平行な偏光及び垂直な偏光を各々照射し、それぞれの吸収スペクトル(A‖及びA⊥)を(株)島津製作所製の紫外可視分光光度計(UV2400PC)にて測定した。極大吸収波長におけるA‖及びA⊥から、オーダーパラメータ(S)を下式1に従い求めた。結果を[表4]に示す。
(式1)
S = (A‖−A⊥)/(A‖+2・A⊥)
【0101】
【表5】

【0102】
[表4]に示した結果から明らかなように一般式(I)で表される化合物を添加した液晶組成物、(LCM−1)は、一般式(I)で表される化合物を含有しない液晶組成物(LCM−2、LCM−3)と比較して、高いオーダーパラメータを与えることがわかった。
【0103】
[実施例6:コントラストの測定]
<液晶組成物(CLCM−1)の調製>
二色性色素として二色性色素(D−1)の5mg、ホスト液晶(HLC−4)100mg、及び、カイラル剤としてR−1011(E.Merck社製)0.20mgを混合し、該混合物を130℃のホットプレート上で1時間加熱して、液晶組成物を調製した。該液晶組成物を室温にまで、冷却させ、1晩放置した。
【0104】
<液晶組成物(CLCM−2)の調製>
前述の<液晶組成物(CLCM−1)の調製>において、ホスト液晶(HLC−1)をZLI−2806(E.Merck社製)に変更した以外は、同じ方法で調製した。
【0105】
<液晶素子の作製>
上記で得られた液晶組成物の各々(CLCM−1、CLCM−2)を、ニッポ電機製の液晶セルに注入し、液晶素子を作製した。用いた液晶セル用の基板は、ITO透明電極層が形成されたガラス基板(厚み1.1mm)であり、セルギャップ15μmで、エポキシ樹脂シール付きであり、一対の基板の対向面には、日産化学製ポリイミド配向膜SE−4800(垂直配向)が形成されたものである。
【0106】
<コントラスト比の評価>
作製した液晶素子の画像表示面側において、コントラスト比(透明表示の透過率/色表示の透過率)を、分光光度測定器(島津製作所社製、UV−2400PC)を用いて測定した。なお、色表示側は、100Hz、20Vの電圧を印加した。結果を[表5]に示す。
【0107】
【表6】

【0108】
[表5]に示した結果より、本発明の化合物(例示化合物(2))、二色性色素、市販液晶、及び、カイラル剤を含む液晶組成物(CLCM−1)を用いて作製された本発明の液晶素子は、電圧駆動が可能であった。また、該液晶素子は、本発明の化合物を含有しない液晶組成物(CLCM−2)を用いて作製された液晶素子と比較して、透明表示時の透過率が増加し、表示コントラストが大きくなることがわかった。
【0109】
以上の結果から、一般式(I)で表される化合物はネマチック相の温度範囲が広く、ネマチック液晶組成物への相溶性が高いことが確認された。また、Iso点の高い一般式(I)で表される化合物を用いると、液晶組成物のネマチック相の上限温度を高くできることが確認された。また、一般式(I)で表される化合物を含有する液晶組成物は液晶中の二色性色素のS値を向上させることが確認された。さらに、該液晶組成物を用いて作製した液晶素子は、一般式(I)で表される化合物を含有しない液晶組成物を用いて作製した液晶素子と比較して、電圧無印加時における透過率が大きくなり、表示コントラストが大きくなることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の化合物は、ネマチック液晶組成物と高い相溶性を示すため、ネマチック液晶組成物を調製するのに好適な材料である。特に、本発明の化合物を用いるとネマチック相の上限温度が高い液晶組成物を調製することができる。さらに本発明の化合物を含有する液晶組成物は、広く液晶素子の作製に広く用いることができ、特にゲストホスト方式液晶表示素子では高い表示コントラスト比を与える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物:
【化1】

式中、A1及びA2は各々独立に、置換もしくは無置換の、1,4−シクロへキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、1,4−フェニレン、ピリジン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ピラジン−2,5−ジイル又はピリダジン−3,6−ジイルを表わし;
スピロ環を構成する環B1及び環B2は各々独立に、
【化2】

を表し(*は連結部位を表す)、Y1及びY2は各々独立に、−CH2−、酸素原子、又は硫黄原子を表し;
Xは、下記基
【化3】

を含む二価基を表わし、Z1、Z2及びZ3は各々独立に、酸素原子又は硫黄原子を表わし;
1、L2及びL3は各々独立に単結合、−CH2−、酸素原子、硫黄原子、−NR3−(R3は水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す)、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−CO−NR3−、−NR3−CO−、−CH2CH2−、−CH2O−、−OCH2−、−CH2S−、−SCH2−、−CH=CH−、−C≡C−、−CH2−OCO−、−COO−CH2−、−OCOO−CH2−、−CH2−OCOO−又は−CH2−OCOO−CH2−を表し;
1及びR2は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜20の置換もしくは無置換アルキル基を表し、アルキル基を構成するCH2基のうち1つもしくは隣接していない2つ以上のCH2基は、酸素原子もしくは硫黄原子で置換されていてもよく;
n及びmはそれぞれ、0〜2の整数を表わす。
【請求項2】
前記一般式(I)中、スピロ環
【化4】

のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記一般式(I)中、Xが−OCOO−であること特徴とする請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
前記一般式(I)中、m+nが2以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
液晶化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物の少なくとも1種を含有することを特徴とする液晶組成物。
【請求項7】
少なくとも1種のカイラル剤をさらに含有することを特徴とする請求項6に記載の液晶組成物。
【請求項8】
少なくとも1種の二色性色素をさらに含有することを特徴とする請求項6又は7に記載の液晶組成物。
【請求項9】
少なくとも一方が透明電極である一対の電極間に液晶層を有する液晶素子であって、該液晶層が、請求項6〜8のいずれか1項に記載の液晶組成物を含有する液晶素子。
【請求項10】
少なくとも一方が透明電極である一対の電極間に高分子媒体層を有する液晶素子であって、該高分子媒体層が、高分子と該高分子中に分散された請求項6〜8のいずれか1項に記載の液晶組成物とを含む液晶素子。
【請求項11】
少なくとも一方が透明電極である一対の電極間に液晶層を有する液晶素子であって、該液晶層が、請求項6〜8のいずれか1項に記載の液晶組成物を含むマイクロカプセルを含有する液晶素子。

【公開番号】特開2008−297210(P2008−297210A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141511(P2007−141511)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】