説明

スピーカ

【課題】本発明は音響機器をはじめとして、広く低音再生用スピーカとして用いられるスピーカの改良に関するものであり、小型で、なおかつ安定した低域再生能力を有するスピーカの提供を可能とするものである。
【解決手段】本発明のスピーカは、振動板3とダンパー5にて支持されているボイスコイル4の内側の略中心に、振動系重量調整ウエイト6を配置することにより、振動系のバランスを崩すことなく安定した低域再生を実現できるスピーカを提供できるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種音響機器に使用されるスピーカに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車室内音響において、ANC(アクティブ ノイズ コントロール)のように、車外のエンジンノイズ、ロードノイズ等をコントロールして車室内を快適空間にするシステムが増加している。簡単にANCについて説明すると、エンジンノイズやロードノイズの逆相になる音をスピーカにて発生させてノイズをキャンセルさせるシステムである。ノイズの主な周波数帯域である低域周波数が安定して再生のできるスピーカが、ANC開発メーカーより要望されている。しかも、小型軽量で低域再生可能な矛盾する性能を要望されている。具体的なサイズでは口径Φ60mm、全高35mm以内を開発メーカーからは要望されている。このような用途に用いられる従来のスピーカを図6のスピーカの側断面図により説明する。
【0003】
同図によると、11はセンターポールを有する下部プレート11aとこの下部プレート11aに接着結合されたリング状のマグネット11bとこのリング状のマグネット11b上に接着結合された上部プレート11cとで構成された磁気回路であり、下部プレート11aのセンターポールと上部プレート11cの内周面間には磁気ギャップ11dが形成されている。
【0004】
12は前記上部プレート11cに接着結合されたフレームであり、13は外周がエッジ部を介して前記フレーム12に接着結合され、内周が下端側を前記磁気ギャップ11d中に磁気回路11に接触しないように配置されるボイスコイル14に接着結合された振動板である。
【0005】
また、15は内周が前記ボイスコイル14に接着結合され、外周を前記フレーム12の底面に接着結合されたダンパーである。
【0006】
16は前記ボイスコイル14の上端部に装着された重量調整用ウエイトであり、振動系であるボイスコイル14に重量調整用ウエイト16を装着することで振動系を重くし、低域再生を行なうものである。
【0007】
なお、振動板13を2枚使用する特殊形状にして振動板自体の重量を重くするものもあるが、振動板の形状が特殊であるためコストが高くつくという課題を有していた。
【0008】
なお、重量調整用ウエイト16を使用するスピーカについての先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】実公平6−49038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述の従来のスピーカでは別部品の重量調整用ウエイト16を装着するのみであるため、比較的コストも安く広く使用されているものではあるものの、重量調整用ウエイト16の取り付け位置がボイスコイル14の上端部分となるため振動板13の振幅時にローリングが発生する可能性があり、安定した低域再生を維持するための調整が難しいという課題を有し、最悪の場合は異常音が発生する可能性を有するものであった。
【0010】
本発明は上記課題を解決して性能的に優れた低域再生用スピーカを、製造工程を変化させることなく、安価に提供することを可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明のスピーカは、ボイスコイルの内側空間に振動系重量調整ウエイトを配置したものであり、振動系の周方向および垂直方向両方の略中心、またはボイスコイルの支持の略中心に振動系重量調整ウエイトを配することで、ボイスコイルのローリングを抑制し、安定した低域再生を図ることができるスピーカの提供を可能とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のスピーカは、重量調整ウエイトをボイスコイルの内周側空隙に配することにより、振動系の周方向および垂直方向両方の略中心、またはボイスコイルの支持の略中心にウエイトの重心を置くことにより、重量バランスを良好とし、振動板の振幅時に発生するローリングを抑え、安定した低域再生を図るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態のスピーカを図1〜図5により説明する。
【0014】
(実施の形態1)
図1は本発明の一実施の形態におけるスピーカの側断面図であり、図2は同音圧−周波数特性図であり、図3は同展開例のスピーカの側断面図であり、図4は同音圧−周波数特性図であり、図5は同他の展開例のスピーカの側断面図である。
【0015】
図1によると、1はセンターポールを有する下部プレート1aと環状のマグネット1bとその上に重畳された上部プレート1cとで構成され、前記センターポールの外周と上部プレート1cの内周間に磁気ギャップ1dを形成した磁気回路であり、2は上部プレート1cに接着結合されたフレームであり、3はコーン形状の振動板であり、この振動板3の外周部はエッジを介して前記フレーム2に接着結合されている。
【0016】
5はダンパーであり、ダンパー5の外周部は前記フレーム2に接着結合されている。
【0017】
前記振動板3の内周部と前記ダンパー5の内周部は、前記磁気ギャップ1dに嵌め込んだボイスコイル4に夫々接着結合され、前記ボイスコイル4は前記振動板3および前記ダンパー5によって支持されている。
【0018】
6は振動系重量調整ウエイトであり、前記ボイスコイル4の内周径と略同一または若干小さい外径として、前記ボイスコイル4の内周側に配置されている。
【0019】
なお、前記振動系重量調整ウエイト6と、前記振動板3と前記ダンパー5間の2箇所で支持されているボイスコイル4との重量バランスであるが、支持部の中心に前記振動系重量調整ウエイト6の中心を周方向、垂直方向ともに位置させるのが好ましい。
【0020】
しかしながら、垂直方向に関してだけで言えば、±20%程度であれば振動板の振幅に対してバランスを崩すことは少なく、ローリングも抑制されて安定した低音再生の行なえることが確認された。
【0021】
図2に音圧−周波数特性aを示す。
【0022】
なお、周方向に関して言えば、前記ボイスコイル4内に振動系重量調整ウエイト6を嵌め込む構成となるため、誤差は無視できる程度である。
【0023】
以上の本実施に形態におけるスピーカにおいては、前記振動系重量調整ウエイト6を前記ボイスコイル4内の支持部の中心に配置するため、その位置決めとして、前記振動系重量調整ウエイト6には外側から上方に延出された複数の足部6aと、その先端には前記ボイスコイルの上端面に引っ掛けるためのL字状の引掛部6bを設けている。
【0024】
なお、前記足部6aは複数あるものとして説明したが、前記振動系重量調整ウエイト6の外側から全周に亘って上方に延出されたものでもよく、それが複数に分割されたものであってもよい。
【0025】
また、前記引掛部6bと前記ボイスコイル4の上端面を接着結合することで、前記振動系重量調整ウエイト6を前記ボイスコイル4内に固定しても良い。
【0026】
また、前記振動系重量調整ウエイト6の材質であるが、非磁性体の材料であればどのような材質のものであってもよいが、小型スピーカに使用されることを前提とすれば、できるだけ比重が重く小型にできるものが望ましい。たとえば金属材料であれば銅やアルミが望ましいが加工に費用がかかる一面がある。また、樹脂材料を使用すると寸法確保と加工費は抑えることができるが、小型化には難点がある。
【0027】
そこで、もう一つ考えられる方法としては、金属材料と樹脂材料との複合材料を用いる方法がある。
【0028】
たとえば、タングステン(比重19.3)にポリアミド樹脂(PA6)を混錬させた成形可能な樹脂材料(比重およそ10)を使用することにより、小型で重量が重く、かつ寸法精度もよい振動系重量調整ウエイトを得ることができる。なお、タングステンは非常に高価な材料であるため、それ以外の金属を使用して同様の効果を得ることもできる。また、ダイカスト品も有用な手段である。
【0029】
図3は本実施の形態の展開例のスピーカの側断面図であり、図1の実施の形態との相違点のみ説明する。相違点は振動系重量調整ウエイトの形状であり、本展開例においては図1の平板の円板状の振動系重量調整ウエイト6に代えて、ドーム状の振動系重量調整ウエイト6cを用いたものである。
【0030】
なお、振動系重量調整ウエイト6cの形状であるが、垂直方向へのバランスを崩さない範囲であれば、必ずしも平面形状である必要はなく、ドーム形状等にした方が音響特性的には良化する方向である。図4にその音圧−周波数特性bを示すが、図2のものに比べ滑らかな特性となることが確認されるとともに、高域での歪(第1高調波b1および第2高調波b2)も図1の歪(第1高調波a1,第2高調波a2)よりも本展開例のスピーカの方が低く良化していることが確認された。
【0031】
図5もまた、本実施の形態の展開例のスピーカの側断面図であるが、図1の本実施の形態との相違点のみ説明すると、振動系重量調整ウエイト6dの引掛部6eの先端を、ボイスコイル4と振動板3の接着剤塗布部分まで下方に延出したものである。
【0032】
このような構成とすることにより、ボイスコイル4と振動板3と振動系重量調整ウエイト6dの3点を同時に接着することにより、スピーカの組立の工程を簡素化させることができる。
【0033】
なお、ボイスコイル4と振動板3と振動系重量調整ウエイト6dとダンパー5の4点を同時に接着することも可能である。これにより、より一層のスピーカの組立工程の簡素化ができるものである。
【0034】
なお、以上の説明においては、振動系重量調整ウエイト6、6cおよび6dの外径をボイスコイル4の内周形状に合わせ、ボイスコイル4の内周と同じか若干径の小さい円筒状を前提に説明したが、振動系重量調整ウエイトの重心位置の保持固定が可能であれば、周方向の断面が楕円形状や略5角形形状等であってもよいものである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によるスピーカは、振動系重量調整ウエイトをスピーカのボイスコイルの内周側空隙に配し、振動系の周方向および垂直方向両方の略中心、またはボイスコイルの支持の略中心にウエイトの重心を置くことにより、重量バランスが良好となり振動板の振幅時に発生するローリングを抑えることができ、安定した低域再生を図ることができるものであり、低音再生用スピーカや車などのANC(アクティブ ノイズ コントロール)用のスピーカとして使用するのに有益である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施の形態におけるスピーカの側断面図
【図2】同音圧−周波数特性図
【図3】同展開例のスピーカの側断面図
【図4】同音圧−周波数特性図
【図5】同他の展開例のスピーカの側断面図
【図6】従来のスピーカの側断面図
【符号の説明】
【0037】
1 磁気回路
1a 下部プレート
1b 環状マグネット
1c 上部プレート
1d 磁気ギャップ
2 フレーム
3 振動板
4 ボイスコイル
5 ダンパー
6,6c,6d 振動系重量調整ウエイト
6a 足部
6b,6e 引掛部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも磁気空隙を有する磁気回路と、この磁気回路に結合されたフレームと、外周を前記フレームに夫々接着結合した振動板およびダンパーと、この振動板およびダンパーの夫々の内周と接着結合されると共に磁気ギャップ中に一部が配置されたボイスコイルとで構成されるスピーカであって、前記ボイスコイルの内周側空間に振動系重量調整ウエイトを配置したスピーカ。
【請求項2】
振動系重量調整ウエイトは、少なくとも振動板にて支持されているボイスコイルの略中心部の±20%以内の位置に振動系重量調整ウエイトの中心を配置したスピーカ。
【請求項3】
振動系重量調整ウエイトは、金属材料または樹脂材料または金属材料と樹脂材料の複合体から構成した請求項1および請求項2記載のスピーカ。
【請求項4】
振動系重量調整ウエイトに設けられた外側から上方に延出した足部の先端の引掛部を少なくとも振動板の内周とボイスコイルの接着結合のための接着剤塗布範囲または振動板の内周とダンパーの内周とボイスコイルの接着結合のための接着剤塗布範囲まで延出した請求項1に記載のスピーカ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−324644(P2007−324644A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−149190(P2006−149190)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】