説明

スプレーマーキングインク

【課題】本発明は、従来品と遜色ない発色性や固着性を有する上に、安全性にも優れるスプレーマーキングインクを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るスプレーマーキングインクは、芳香族炭化水素溶剤;炭素数が1以上、4以下のケトン溶剤またはアルデヒド溶剤;水;可溶性ポリシロキサン;および、酢酸セルロースを含み;且つ、均一溶液であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレーマーキングインクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属材や合成樹脂材の製造においては、傷や不良が生じた部分の明示、品番やロットなどの明示、或いはこれらを管理するために、点、線、文字、数字、図形などを印刷するマーキング工程を実施することが一般的である。通常、かかる工程は自動化されており、エアレスガンでスプレーマーキングインクをスプレーすることにより行われる。
【0003】
かかるスプレーマーキングインクとしては、特許文献1に記載されているものが知られている。このインクは、特定の炭化水素等とアセトンとの混合溶剤にニトロセルロースが溶解したものであり、酸化チタンなどの不溶性顔料を含まず且つ低粘度であることから、インクタンクにおける不溶性顔料の沈降やスプレーノズルの目詰まりといったトラブルが起こり難い。その上、超速乾性であり、顔料を含まなくとも乾燥により白色となる。
【0004】
しかし、上記のマーキング工程は自動化されていることから、スプレーマーキングインクが一定の箇所に飛び散ったり垂れたりし、堆積する場合がある。その結果、マーキング工程で特許文献1のインクを使うと、ニトロセルロースの塊が生じ得る。ニトロセルロースは火薬の原料にもなるとおり、これに引火すると爆発的な燃焼が起こり得る懸念がある。
【特許文献1】特公平7−116396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した様に、従来、スプレー時におけるトラブルが少ないといった優れた特性を有するスプレーマーキングインクは存在したが、ニトロセルロースを含むものであるため安全面で問題が生じるおそれがあった。
【0006】
そこで本発明は、従来品と遜色ない発色性や固着性を有する上に、安全性にも優れるスプレーマーキングインクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、ニトロセルロースの代わりに安全な酢酸セルロースを用いた場合には発色性と固着性が共に低下する傾向にあったが、意外にも水を配合したところ、乾燥後における白色度と固着性が高いレベルで十分に維持されることを見出して、本発明を完成した。
【0008】
本発明に係るスプレーマーキングインクは、芳香族炭化水素溶剤;炭素数が1以上、4以下のケトン溶剤またはアルデヒド溶剤;水;可溶性ポリシロキサン;および、酢酸セルロースを含み;且つ、均一溶液であることを特徴とする。
【0009】
本発明のスプレーマーキングインクにおける水の含有割合は、3質量%以上、15質量%以下が好ましい。水の含有割合が3質量%以上であれば、安全な酢酸セルロースを用いても乾燥後の発色性や固着性はより確実に維持することができる。一方、水の含有割合が15質量%を超えると、インクが二層に分離するおそれがあり得る。
【0010】
また、本発明のスプレーマーキングインクにおいて、酢酸セルロースに対する芳香族炭化水素溶剤の割合としては、1.5質量倍以上、5質量倍以下が好適である。当該割合が1.5質量倍以上であれば、本発明インクの発色性が十分に発揮され、当該割合が5質量倍以下であれば、酢酸セルロースの析出をより確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るスプレーマーキングインクは、十分な発色性や固着性に優れる上に、安全である。また、不溶成分を含んでいないことからインクタンクやスプレーノズルにおけるトラブルも少なく、十分に粘度が低いことからスプレーも良好に行える。よって、本発明に係るスプレーマーキングインクは、従来のインクに取って代わり得るものとして、産業上非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係るスプレーマーキングインクは、芳香族炭化水素溶剤;炭素数が1以上、4以下のケトン溶剤またはアルデヒド溶剤;水;可溶性ポリシロキサン;および、酢酸セルロースを含み;且つ、均一溶液であることを特徴とする。以下、各成分につき説明する。
【0013】
本発明に係るスプレーマーキングインクの溶剤の一つとして、芳香族炭化水素溶剤を用いる。この芳香族炭化水素溶剤は、酢酸セルロースに対する溶解性が比較的低く且つ他の溶剤よりも蒸散し難いことから、スプレー後において酢酸セルロースの結晶化を促すことによりインクの発色を促進する作用効果を示すものである。
【0014】
当該芳香族炭化水素溶剤は、常温常圧で液体のものであれば特に制限されないが、常圧での沸点が95℃以上、300℃以下のものが好ましい。当該沸点が95℃未満であると、インクの発色性が十分でなくなるおそれがあり得る。一方、当該沸点が300℃超であると、インクの速乾性が低下したり、また、インクが硬化し難くなる。好適には、発色性や速乾性などを考慮して、沸点が110℃以上、170℃以下の芳香族炭化水素溶剤を用いる。
【0015】
本発明で用いる芳香族炭化水素溶剤としては、トルエン(111℃)、キシレン(138〜144℃)、エチルベンゼン(136℃)、キュメン(152℃)、プソイドキュメン(170℃)、メシチレン(164℃)、スチレン(145℃)などを例示することができる。上記の例示において、かっこ内は沸点を示す。上記芳香族炭化水素溶剤は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
上記芳香族炭化水素溶剤の使用量は適宜調整すればよいが、酢酸セルロースに対して1.5質量倍以上、5質量倍以下とすることが好ましい。当該割合が1.5質量倍未満であると、本発明インクのスプレー後において酢酸セルロースの結晶化が進行せずに発色性が十分に発揮されないおそれがあり得る。一方、当該割合が5質量倍を超えると、本発明インクの保存中に酢酸セルロースが析出するなど安定性が低下するおそれがあり得る。当該割合としては、2質量倍以上、4質量倍以下がより好ましい。
【0017】
本発明に係るスプレーマーキングインクには、炭素数が1以上、4以下のケトン溶剤またはアルデヒド溶剤を配合する。かかるケトン溶剤またはアルデヒド溶剤は、酢酸セルロースの溶解性を高めると共に、水が分離しないようにする作用を有する。なお、当該ケトン溶剤またはアルデヒド溶剤の炭素数を4以下とするのは、炭素数が4以下であれば水との相溶性に優れ、水の分離を一層抑制できるからである。
【0018】
上記ケトン溶剤としては、アセトンとメチルエチルケトンを挙げることができる。また、上記アルデヒド溶剤としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロパナール、ブタナールを挙げることができる。
【0019】
上記ケトン溶剤またはアルデヒド溶剤は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。例えば、上記ケトン溶剤とアルデヒド溶剤の両方を組合わせて用いることも可能である。
【0020】
上記ケトン溶剤またはアルデヒド溶剤の使用量は適宜調整すればよいが、酢酸セルロースに対して10質量倍以上、30質量倍以下、水に対して5質量倍以上、30質量倍以下用いることが好ましい。より好ましくは、酢酸セルロースに対して15質量倍以上、25質量倍以下、水に対して5質量倍以上、20質量倍以下である。
【0021】
本発明において、水は、主にスプレーマーキングインクの乾燥後における発色性を高めるために用いる。
【0022】
水の種類は特に制限されず、例えば、蒸留水、純水、超純水、イオン交換水、水道水、井戸水などを用いることができる。
【0023】
水の使用量は適宜調整すればよいが、スプレーマーキングインク全体に対して2質量%以上、20質量%以下程度とすることが好ましい。水の量が2質量%以上であれば、インクの発色性をより確実に高めることができる。一方、水の量が20質量%を超えると、インクが分離するおそれがあり得る。水の量としては、3質量%以上、15質量%以下がより好ましい。
【0024】
本発明に係るスプレーマーキングインクにおいて、可溶性ポリシロキサンは、主にスプレー後におけるインクの固着性を確保するために用いられる。即ち、スプレー後において、溶剤の蒸散に伴ってさらに重合し、酢酸セルロースを基材に固着させる。
【0025】
上記可溶性ポリシロキサンは、ケイ素アルコキシド化合物の重合物であって、本発明インクに係る混合溶剤に可溶であるものをいう。なお、本発明で使用する可溶性ポリシロキサンには、ケイ素アルコキシド化合物のポリマーに限られず、そのオリゴマーといわれるものも含まれるものとする。
【0026】
上記可溶性ポリシロキサンの原料であるケイ素アルコキシド化合物としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシランなどが挙げられる。本発明で用いる可溶性ポリシロキサンは、ケイ素アルコキシド化合物が、その可溶性を失わない程度に重合したものである。また、上記可溶性ポリシロキサンは変性されているものであってもよい。例えば、フェノール変性、ウレタン変性、メラミン変性、アルキッド変性、ポリエステル変性、アクリル変性、エポキシ変性されたものなどを用いることができる。
【0027】
上記可溶性ポリシロキサンの使用量は適宜調整すればよいが、スプレーマーキングインク全体に対して5質量%以上、30質量%以下程度とすることが好ましい。当該量が5質量%以上であれば、インクの固着性を十分に確保することができる。一方、当該量が30質量%を超えると、相対的に酢酸セルロースの量が低下してインクの発色性が十分に発揮されないおそれがあり得る。当該量としては、7質量%以上、15質量%以下がより好ましい。
【0028】
酢酸セルロースは、本発明に係るスプレーマーキングインクが乾燥した後において印字部に残留し、発色性を示す。
【0029】
酢酸セルロースは、無水酢酸を用いてセルロースの水酸基を酢酸エステル化した後、加水分解することにより酢酸エステル化度を調整することにより製造される。使用する酢酸セルロースの平均重合度は、60以上、600以下程度とすることが好ましい。当該平均重合度が60未満であると、発色性が十分でなくなるおそれがあり得る。一方、当該平均重合度が600を超えると、溶剤に対する溶解度が低下して均一溶液状のスプレーマーキングインクが得られ難くなるおそれがあり得る。また、溶剤に対する酢酸セルロースの溶解度は酢酸セルロースにおける酢酸エステル化度に応じて変化するので、使用する溶剤に応じて適宜調整すればよいが、通常は40%以上、60%以下程度とする。なお、酢酸セルロースの平均重合度は、酢酸セルロースを銅−エチレンジアミン溶液に溶解し、当該溶液と銅−エチレンジアミン溶液の粘度を測定して比粘度を求め、Martinの一般式から極限粘度を算出することから間接的に得られる。また、酢酸エステル化度は、原料であるセルロースに存在する水酸基に対する、酢酸エステル基の割合をいうものとする。市販の酢酸セルロースを用いる場合、これら平均重合度と酢酸エステル化度は、カタログ値を参照してもよい。
【0030】
酢酸セルロースの配合量は特に制限されず、適宜調整すればよいが、通常、1質量%以上、10質量%以下程度とする。当該割合が1質量%未満であると、インクの発色性が十分でないおそれがあり得る。一方、当該割合が10質量%を超えると、酢酸セルロースが十分に溶解されずインクが均一溶液状にならないおそれがあり得る。より好適には、当該割合を5質量%以下とする。
【0031】
本発明に係るスプレーマーキングインクには、必要に応じて上記以外の成分を配合してもよい。
【0032】
例えば、上記必須成分からなるスプレーマーキングインクが乾燥されると白に発色するが、色素を添加することにより色を調整することが可能になる。但し、添加すべき色素は本発明に係る溶剤に可溶性のものである必要がある。かかる色素としては、C.I.Basic Red 12などの赤色色素;C.I.Basic Blueなどの青色色素;C.I.Basic Yellowなどの黄色色素;C.I.Basic Greenなどの緑色色素を挙げることができる。
【0033】
酢酸セルロースの溶解性を高めるために、酢酸セルロースと相溶性のある可塑剤を添加してもよい。かかる可塑剤としては、クエン酸トリエチルやクエン酸アセチル・トリエチルなどのクエン酸エステル可塑剤;フタル酸ジブチルやフタル酸ジアリールなどのフタル酸エステル可塑剤;酒石酸ジブチルなどの酒石酸エステル可塑剤;O−ベンゾイル安息香酸エチルなどの安息香酸エステル可塑剤などを挙げることができる。
【0034】
配合すべき可塑剤の量は、インクが均一溶液状となるように適宜調整すればよいが、例えば、酢酸セルロースに対して1質量倍以上、20質量倍以下程度とすることができる。1質量倍以上とすれば、酢酸セルロースの溶解性を十分に向上させることができる。一方、20質量倍を超えると、酢酸セルロースの溶解性が過剰に高まることによりかえって発色性が低下するおそれがあり得る。
【0035】
本発明に係るスプレーマーキングインクには、必要に応じて上記以外の溶剤を添加してもよい。例えば、酢酸セルロースの溶解性を高めるために、蟻酸メチルや乳酸エチルなどのエステル類;N−メチルピロリドンやジメチルホルムアミドなどのアミド類;メチルフリコールアセテートなどのグリコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソランなどのエーテル類などを配合してもよい。その他、発色性の調整のために、n−オクタン(126℃)などの鎖状脂肪族炭化水素;ジシクロペンタジエン(170℃)、α−ピネン(168〜170℃)、テレビン油(168〜175℃)などの環状脂肪族炭化水素;ゴム揮発油(80〜140℃)、日本石油製クレンゾル(150〜175℃)、ドライソルベント(155〜190℃)、Aソルベント(150〜170℃)、Kソルベント(150〜190℃)、ミネラルスピリット(150〜190℃)、LAソルベント(160〜195℃)、ノンサルファーソルベント(200〜260℃)、3号ソルベント(250〜290℃)、4号ソルベント(180〜220℃)、灯油(150〜250℃)、日石アイソベール(100〜155℃、170〜190℃)などの混合油を使用することもできる。上記の例示において、かっこ内は沸点を示す。
【0036】
本発明に係るスプレーマーキングインクは均一溶液であることから、エアレススプレーガンなどの噴霧機を用いた場合であってもトラブルが少ない。
【0037】
本発明に係るスプレーマーキングインクを均一溶液とするためには、酢酸セルロースに対する溶剤の種類や量を調整したり、可塑剤やその他の溶剤を添加したりすればよい。
【0038】
本発明に係るスプレーマーキングインクの製法は特に制限されず、上記各成分を混合して均一溶液とすればよい。但し、互いに不溶の成分があるので、均一化が効率的に進行するように、混合の順番を工夫するとよい。
【0039】
例えば、ケトン溶剤とアルデヒド溶剤の溶解性は高いので、酢酸セルロースと可溶性ポリシロキサンをそれぞれケトン溶剤等に溶解しておき、さらに酢酸セルロース溶液に芳香族炭化水素溶剤を加える。これら溶剤を十分に混合してから水を加え、均一溶液にする。可溶性色素を用いる場合には、酢酸セルロースをケトン溶剤等に溶解する際に添加すればよい。
【0040】
本発明に係るスプレーマーキングインクは、不溶成分を含まず均一溶液であり且つ低粘度である上に、安全性に優れることから、特に自動化されたマーキング工程に有用である。例えば、鉄、銅、アルミニウムなどからなる金属材や、ポリオレフィンなどからなる合成樹脂材などの不浸透性基材にマーキングを施すためのインクとして利用することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0042】
製造例1 本発明に係るスプレーマーキングインクの調製
表1の配合に従って、本発明に係るスプレーマーキングインクを調製した。具体的には、酢酸セルロースをアセトンに溶解し、さらにトルエンを十分に混合した。当該溶液へ可溶性ポリシロキサンの20%アセトン溶液を加え、十分に攪拌した。当該溶液へイオン交換水を加えて十分に攪拌し、本発明に係るスプレーマーキングインク(実施例1〜5)とした。
【0043】
また、比較のために、従来のスプレーマーキングインクを調製した。詳しくは、アセトン(550g)にニトロセルロース(150g)を溶解し、さらにトルエン(300g)を加えて均一溶液(比較例1)とした。
【0044】
さらに、表1の配合に従って、水を含まないスプレーマーキングインク(比較例2)を調製した。
【0045】
【表1】

【0046】
試験例1 発色性試験
上記製造例1で調製したスプレーマーキングインクを、JIS K5400(1990年)の3.3に記載の方法に準拠して基材に塗装した。具体的には、上記製造例1で調製したスプレーマーキングインクをエアレスガン(グラコ社製,製品名:コントラクターII)に挿入し、150×70×0.8mmの冷間圧延鋼板(JIS G−3141)の一面に満遍なく塗装し、数秒間自然乾燥させた。
【0047】
得られた塗膜の白色度を、ニトロセルロースを含むスプレーマーキングインク(比較例1)を5とし、酢酸セルロースをアセトンのみに溶解した溶液による塗膜を1とする5段階で目視により評価した。
【0048】
また、各塗膜の明度(L*)を色差計により測定した。以上の結果を表2に示す。なお、明度は、0に近いほど黒色を示し、100に近いほど白色を示す。
【0049】
【表2】

【0050】
比較例2の結果のとおり、ニトロセルロースの代わりに酢酸セルロースを配合すると、スプレーマーキングインクの発色性が低下することが分かる。しかし、実施例1〜5の結果のとおり、酢酸セルロースを配合した場合であっても、水を添加すれば塗膜の発色性はニトロセルロースを配合したインクと遜色無い程度に維持される。これは、おそらく塗布後においてアセトンが蒸散した後に互いに相溶しない水と芳香族炭化水素溶剤が残留することと、酢酸セルロースの結晶化がより一層促進されることにより、塗膜の透明性が顕著に低下して発色性が高まると考えられる。
【0051】
試験例2 固着性試験
JIS K5400の8.5.1に記載の碁盤目法に準拠して、上記試験例1で作製した塗膜の固着性を試験した。具体的には、上記試験例1の各塗膜上に、間隔1mmで縦横に10本ずつカッターガイドを用いて切り傷を付け、100個のます目を形成した。このます目を形成する際に剥離したます目の数を計測した。試験は3回行った。得られた測定値の平均を表3に示す。
【0052】
試験例3 粘度の測定
JIS K5400の4.5.3に記載の回転粘度計法に準拠して、上記製造例1で調製したスプレーマーキングインクの粘度を測定した。具体的には、SB型粘度計を用い、容器に入れた各スプレーマーキングインクを恒温槽にて25℃に保ちつつ粘度を測定した。結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
比較例2の結果のとおり、ニトロセルロースの代わりに酢酸セルロースを配合すると、スプレーマーキングインクの固着性が低下することが分かる。しかし、実施例1〜5の結果のとおり、酢酸セルロースを配合した場合であっても水を添加した場合、塗膜の固着性は十分に高い。これは、可溶性ポリシロキサンの重合は加水分解を伴いつつ進行するが、水が存在しない場合にはかかる重合が進まず固着性は向上しないのに対して、水の配合により重合が進行して固着性が向上することによると考えられる。
【0055】
また、本発明に係るスプレーマーキングインクの粘度は十分に低いので、マーキング工程を自動で行う場合であってもスプレーガンにおけるトラブルは少ないと考えられる。
【0056】
以上のとおり、本発明に係るスプレーマーキングインクは、自動化されたマーキング工程においてもトラブルが少なく、且つ乾燥後における固着性も十分であることが証明された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族炭化水素溶剤;
炭素数が1以上、4以下のケトン溶剤またはアルデヒド溶剤;
水;
可溶性ポリシロキサン;および
酢酸セルロースを含み;且つ
均一溶液であることを特徴とするスプレーマーキングインク。
【請求項2】
水の含有割合が3質量%以上、15質量%以下である請求項1に記載のスプレーマーキングインク。
【請求項3】
酢酸セルロースに対する芳香族炭化水素溶剤の割合が1.5質量倍以上、5質量倍以下である請求項1または2に記載のスプレーマーキングインク。