説明

スポット溶接方法

【課題】被溶接部材の冷却を緩やかにして、クラックを抑制するスポット溶接方法を提供すること。
【解決手段】スポット溶接方法は、ワークW1,W2に溶接電流を流すスポット溶接方法において、ワークW1,W2の被溶接部Wに当てて、ワークW1,W2に電流を流す電極チップ22,32と、被溶接部Wから一定距離はなれた位置において、ワークW1,W2の被溶接部Wが互いに離れないように保持する補助クランプ23及び補助クランプ33とを備えた電動式スポット溶接装置1を用いて、電極チップ22,32並びに補助クランプ23,33をワークW1,W2に当てて加圧し、電極チップ22,32からワークW1,W2に溶接電流を通電後、被溶接部Wの硬度を得るための冷却時間経過後に、電極チップ22,32をワークW1,W2から離し、所定時間経過後に、補助クランプ23,33をワークW1,W2から離す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接方法に関し、詳しくは、2枚以上重ねた被溶接部材に電極を当て、溶接電流を電極から被溶接部材に流すスポット溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、板材を重ね合わせ溶接する際には、スポット溶接が用いられている。このスポット溶接では、2枚以上重ねた被溶接部材に電極を加圧して当て、この電極から被溶接部材に溶接電流を通電することで、被溶接部材間に溶融凝固した部分であるナゲットを生成し、通電後も被溶接部材に電極を加圧して当て続ける。電極は、熱伝導率が高い素材で形成されているので、通電しない状態で被溶接部材に当てておくことで、被溶接部材及びナゲットの熱を急冷する。そして、スポット溶接では、被溶接部材及びナゲットの熱を急冷後、被溶接部材から電極を離し、被溶接部材及びナゲットを自然冷却することで、被溶接部材同士が溶接される。
【0003】
このように、スポット溶接では、2枚以上重ねた被溶接部材に電極を加圧して当てるが、この加圧する力が大きすぎると被溶接部材が変形してしまい、この加圧する力が小さすぎると被溶接部材間に隙間が生じてしまう。
【0004】
そこで、特許文献1には、溶接部位に当ててワークに溶接電流を流す主電極と、溶接部位及び/又は溶接部位近傍に当ててワークに予備電流を流す予備電極と、を備えたスポット溶接装置において、主電極をワークに当てるときの主加圧力、予備電極をワークに当てるときの予備加圧力、溶接電流及び予備電流を制御するスポット溶接方法が記載されている。
このスポット溶接方法によれば、溶接電流を流す主電極をワークに当てる前に、予備電極を予備加圧力でワークに当てて予備電流を流すと、ワークの温度が高くなってワークが軟化する。これにより、ワーク間の隙間が無くなるので、ワーク間の接触状態が良好となり、溶接時の主電極の主加圧力が小さくて済む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−14968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、スポット溶接では、溶接電流を流した後も被溶接部材が変形する場合がある。スポット溶接では、溶接電流を流した後、被溶接部材を急冷すると、被溶接部材間に生成されたナゲット及びこのナゲット周辺部とその他の部分とでは、急冷による凝固収縮の大きさが異なる為、被溶接部材に反りが発生する場合がある。
また、自動車の車体構造においては、剛性を高めるため高張力鋼材が用いられる。この高張力鋼材は硬度が高い反面、伸び性能が低い。
このような高張力鋼材は、スポット溶接すると、急冷する時間が長くなると、伸び性能が低い為、反りよりナゲット及びナゲット周辺部にクラックが発生することがあった。
【0007】
本発明は、被溶接部材の冷却を緩やかにして、クラックを抑制するスポット溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のスポット溶接方法は、2枚以上重ねた被溶接部材(例えば、ワークW1及びW2)に溶接電流を流すスポット溶接方法において、前記被溶接部材の被溶接部(例えば、被溶接部W)に当てて、前記被溶接部材に電流を流す電極(例えば、電極チップ22及び電極チップ32)と、前記被溶接部から一定距離はなれた位置において、2枚以上重ねた前記被溶接部材の前記被溶接部が互いに離れないように保持する保持部材(例えば、補助クランプ23及び補助クランプ33)とを備えたスポット溶接装置(例えば、電動式スポット溶接装置1)を用いて、前記電極及び前記保持部材を前記被溶接部材に当てて加圧し、前記電極から前記被溶接部材に溶接電流を通電後、前記被溶接部の硬度を得るための冷却時間経過後に、前記電極を前記被溶接部材から離し、前記電極を前記被溶接部材から離してから所定時間経過後に、前記保持部材を前記被溶接部材から離す。
【0009】
この発明によれば、被溶接部材に溶接電流を流す電極及び被溶接部が互いに離れないように保持する保持部材を被溶接部材に当てて加圧し、電極から被溶接部材に溶接電流を通電後、被溶接部の硬度を得るための冷却時間経過後に、電極を被溶接部材から離してから所定時間経過後に、保持部材を被溶接部材から離す。
【0010】
これにより、被溶接部材に溶接電流を通電後であって、被溶接部の硬度を得るための冷却時間経過後に、電極を被溶接部材から離した後も、保持部材によって被溶接部材を加圧できるので、通電後の電極により被溶接部材を急冷する時間を最小限に抑え、被溶接部材を保持部材によって加圧しつつ自然冷却できる。
したがって、急冷により被溶接部材が反るのを防止しでき、高張力鋼材を溶接した場合であっても、被溶接部材の被溶接部が凝固するまで保持部材によって加圧しつつ自然冷却できるので、被溶接部材の冷却を緩やかにして、クラックを抑制するスポット溶接方法を提供できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被溶接部材の冷却を緩やかにして、クラックを抑制するスポット溶接方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ロボットアームの先端に取り付けられた状態の本発明の一実施の形態に係る電動式スポット溶接装置を示す一部省略側面図である。
【図2】前記実施形態に係る可動電極部及び固定電極部の概略構成を示す図である。
【図3】(a)は、前記実施形態に係る補助クランプの概略構成を示す図である。(b)は、前記実施形態に係る補助クランプの変形例の概略構成を示す図である。
【図4】(a)、(b)は、前記実施形態に係る補助クランプの軸部材の変形例の概略構成を示す図である。
【図5】前記実施形態に係る電動式スポット溶接装置の動作のタイミングを説明する図である。
【図6】急冷時のナゲットの表面温度とナゲットの硬度との関係を示す図である。
【図7】前記実施形態に係る電動式スポット溶接ガンの変形例の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、ロボットアーム80の先端に取り付けられた状態の本発明の一実施の形態に係る電動式スポット溶接装置1を示す一部省略側面図である。
電動式スポット溶接装置1は、ロボットアーム80の先端に設けられた装置支持部90に取付けられた電動式スポット溶接ガン10と、電動式スポット溶接ガン10と電気的に接続された溶接ガン制御装置100と、を備える。
【0014】
装置支持部90は、装置支持ブラケット91を備え、この装置支持ブラケット91は、上面板91aと、この上面板91aと平行して延在する下面板91bとを備えている。上面板91aと下面板91bとの間には、ガイドバー92が橋架されている。
【0015】
ガイドバー92には、このガイドバー92の軸方向に摺動自在で、かつ、上面板91a及び下面板91bに平行な板体93が嵌合している。板体93の上部には、ロボットアーム80に近接した側に筐体状の支持体94が配設され、上面板91aと支持体94との間には、ガイドバー92に巻回された第1のコイルスプリング95が介装されている。同様に、下面板91bと板体93との間には、ガイドバー92に巻回された第2のコイルスプリング96が介装されている。また、板体93は、ロボットアーム80から離間した側で電動式スポット溶接ガン10を固着保持する。
【0016】
電動式スポット溶接ガン10は、モータを有する溶接ガン本体11と、溶接ガン本体11の先端側(図1に示す矢印A1側)に設けられた可動電極取付部12に取り付けられた可動電極部20と、溶接ガン本体11の先端側(図1に示す矢印A1側)から突出して設けられた固定電極取付部13に、可動電極部20に対向して(図1に示す矢印A2側に向けて)固定された固定電極部30と、を備える。
電動式スポット溶接ガン10は、溶接ガン本体11のモータにより、固定電極部30に対して可動電極部20を矢印A1又はA2方向に往復移動し、固定電極部30と可動電極部20との間に被溶接部材としてのワークW1及びワークW2を挟んで開閉するC型溶接装置として構成されている。
【0017】
図2は、前記実施形態に係る可動電極部20及び固定電極部30の概略構成を示す図である。
可動電極部20は、溶接ガン本体11の可動電極取付部12に取り付けられる電極基部21と、電極基部21の先端側(図2に示す矢印A1側)の略中央に設けられた略円柱状の電極チップ22と、電極チップ22から電極チップ22の半径方向に一定距離離れた位置であって、電極チップ22の周囲に電極基部21の先端側に取り付けられた複数の補助クランプ23と、を備える。
【0018】
電極チップ22は、可動電極取付部12の矢印A1側への移動に伴い、ワークW1の被溶接部Wに当接して加圧し、所定時間、ワークW1及びW2に溶接電流を流す。電極チップ22は、熱伝導率の高い銅等の素材で形成されている。これにより、電極チップ22は、溶接電流を流した後は被溶接部Wを急冷する。
複数の補助クランプ23は、それぞれ補助クランプ先端23aを有し、可動電極取付部12の矢印A1側への移動に伴い、ワークW1の被溶接部Wから一定距離はなれた位置Pに当接して加圧する。この補助クランプ先端23aは、ワークW1と離間した状態において、電極チップ22の電極チップ先端22aより、固定電極部30側(図2に示す矢印A1側)に突出している。
【0019】
固定電極部30は、固定電極取付部13に取り付けられる電極基部31と、電極基部31の先端側(図2に示す矢印A2側)の略中央に設けられた略円柱状の電極チップ32と、電極チップ32から電極チップ32の半径方向に一定距離離れた位置であって、電極チップ32を挟む様に電極基部31の先端側に取り付けられた複数の補助クランプ33と、を備える。
【0020】
電極チップ32は、ロボットアーム80(図1参照)の矢印A2側への移動に伴い、ワークW2に当接して加圧し、所定時間、ワークW1及びW2に溶接電流を流す。電極チップ32は、熱伝導率の高い銅等の素材で形成されている。これにより、電極チップ32は、溶接電流を流した後は被溶接部Wを急冷する。
【0021】
補助クランプ33は、可動電極取付部12の矢印A1側への移動に伴い、ワークW2の被溶接部Wから一定距離はなれた位置Pに当接して加圧する補助クランプ先端33aを有する。この補助クランプ先端33aは、ワークW2と離間した状態において、電極チップ32の電極チップ先端32aより、可動電極部20側(図2に示す矢印A2側)に突出している。
【0022】
図3(a)は、前記実施形態に係る補助クランプ23の概略構成を示す図である。(b)は、前記実施形態に係る補助クランプ23の変形例の概略構成を示す図である。
図3(a)に示すように、補助クランプ23は、略円筒形状に形成された補助クランプ本体230と、補助クランプ本体230の先端側(図3(a)に示す矢印A1側)から補助クランプ先端23a(図2参照)まで延びてワークW1に当接する軸部材231と、補助クランプ本体230の先端側に設けられ軸部材231を摺動可能に保持する案内部材232と、補助クランプ本体230の内部に収容され、軸部材231を先端側(図3(a)に示す矢印A1側)に付勢する付勢部材233と、を備える。
【0023】
補助クランプ本体230は、その基端(図3(a)に示す矢印A2側端部)に絶縁部230aを備え、補助クランプ23は、電極基部21(図2参照)に絶縁部230aを介して取り付けられている。
【0024】
軸部材231は、その基端(図3(a)に示す矢印A2側端部)に絶縁部231aを備え、付勢部材233に絶縁部231aを介して取り付けられている。軸部材231の先端は、ワークW1と接する面がフラットである補助クランプ先端23aを形成する。
案内部材232は、筒状に形成された内周壁232aを備える。軸部材231は、この内周壁232aに摺接して案内部材232を貫通する。
【0025】
絶縁部230a、絶縁部231a及び内周壁232aは、ゴム素材等の絶縁素材で形成されている。
補助クランプ23は、ワークW1に当接する軸部材231の基端に絶縁部231aを備え、補助クランプ本体230に絶縁部230aを備え、電極基部21(図2参照)に絶縁部230aを介して、電極基部21(図2参照)に取り付けられる。これにより、補助クランプ23及び電極チップ22(図2参照)をともにワークW1(図2参照)に当接した状態で、電極チップ22からワークW1及びW2に溶接電流を流しても、補助クランプ23から漏電することを防止できる。
【0026】
付勢部材233は、スプリングバネが補助クランプ本体230の内部で伸縮するバネ機構で構成されている。付勢部材233は、所定の圧力で軸部材231を矢印A1側に付勢する。
【0027】
図2に示すように、補助クランプ23の補助クランプ先端23aは、電極チップ22の電極チップ先端22aより突出しているので、電極チップ22がワークW1に当接していない状態でも、ワークW1及びW2を加圧できる。補助クランプ23は、可動電極取付部12の矢印A1側への移動に伴い、軸部材231の先端である補助クランプ先端23aがワークW1に当接後、付勢部材233(図3(a)参照)に付勢される軸部材231が可動電極取付部12の移動に追随し矢印A2側へ移動しつつ所定の圧力でワークW1及びW2を加圧する。
【0028】
図3(b)に示すように、補助クランプ23の変形例である補助クランプ25は、主に付勢部材の構成が補助クランプ23と異なる。
補助クランプ25は、略円筒形状に形成された補助クランプ本体250と、補助クランプ本体250の先端側(図3(b)に示す矢印A1側)から補助クランプ先端23a(図2参照)まで延びてワークW1に当接する軸部材251と、補助クランプ本体250の先端側に設けられ軸部材251を摺動可能に保持する案内部材252と、補助クランプ本体250の内部に収容され、軸部材251を先端側(図3(b)に示す矢印A1側)に付勢する付勢部材253と、を備える。
【0029】
補助クランプ本体250は、その基端(図3(b)に示す矢印A2側端部)に絶縁部250aを備え、補助クランプ25は、電極基部21(図2参照)に絶縁部250aを介して取り付けられる。
軸部材251には、その基端(図3(b)に示す矢印A2側端部)に絶縁部251aを備え、付勢部材253に絶縁部251aを介して取り付けられる。軸部材251の先端は、ワークW1と接する面がフラットである補助クランプ先端25aを形成する。
案内部材252は、筒状に形成された内周壁252aを備える。軸部材251は、この内周壁252aに摺接して案内部材252を貫通する。
【0030】
絶縁部250a、絶縁部251a及び内周壁252aは、ゴム素材等の絶縁素材で形成されている。よって、補助クランプ25は、補助クランプ23と同様に漏電を防止できる。
【0031】
付勢部材253は、補助クランプ本体250の内部に充填された気体を圧縮する板材253aを備えるシリンダ機構で構成されている。板材253aは、その外周にシール部材を備え、補助クランプ本体250の内壁とシール部材を介して摺動する。これにより、補助クランプ本体250の内壁と板材253aとによる空間は、気密性が保たれる。
【0032】
本変形例では、補助クランプ本体250の内部に気体を充填しているが、オイル等の液体を充填することもできる。この場合、補助クランプ25は、以下の構成を備えることができる。補助クランプ25は、補助クランプ本体250の内壁と板材253aとによる空間に連通され、液体を貯留するタンクと、このタンクに貯留された液体を流出入するポンプとを備える。これにより、補助クランプ25は、補助クランプ本体250の内壁と板材253aとによる空間に充填する液体の容積を調整し、板材253aを矢印A1側に所定の圧力で付勢できる。
【0033】
図4(a)、(b)は、前記実施形態に係る補助クランプの軸部材の変形例の概略構成を示す図である。
図4(a)に示すように、第1の変形例における軸部材261は、軸部材231(図3(a)参照)とは先端の形状が異なる。軸部材261の先端26aは、ワークW1と接する部分が半球体形状に形成されている。これにより、例えば、ワークの表面が平坦でない場合でも、先端26aを適切にワークW1に当接できる。
図4(b)に示すように、第2の変形例における軸部材271は、軸部材231(図3(a)参照)とは形状が異なる。軸部材271は、スプリング形状に形成されている。これにより、補助クランプがワークW1に当接するときの衝撃を小さくすることができる。
【0034】
固定電極部30の補助クランプ33は、可動電極部20の補助クランプ23と同一の構成であるので、詳細な説明を省略する。
【0035】
次に、図2を参照して、電動式スポット溶接装置1の動作について説明する。
電動式スポット溶接ガン10は、ロボットアーム80(図1参照)及び装置支持部90(図1参照)の動作により被溶接部材であるワークW2に固定電極部30の補助クランプ33が当接される。その後、電動式スポット溶接ガン10は、溶接ガン制御装置100(図1参照)の制御により、溶接ガン本体11のモータを回転させ、固定電極部30に対して可動電極部20を矢印A1側に移動させ、被溶接部材であるワークW1に可動電極部20の補助クランプ23を当接させる。電動式スポット溶接ガン10は、さらに、可動電極部20を矢印A1側に移動させる。すると、可動電極部20の補助クランプ25の軸部材251(図3参照)は、ワークW1を所定の圧力で加圧しつつ、矢印A2側へ後退する。また、固定電極部30の補助クランプ35の軸部材は、ワークW2を所定の圧力で加圧しつつ、矢印A1側へ後退する。その後、電動式スポット溶接ガン10は、さらに、可動電極部20を矢印A1側に移動させ、可動電極部20の電極チップ22をワークW1に当接させ加圧するとともに、固定電極部30の電極チップ32をW2に当接させ加圧する。
そして、電動式スポット溶接ガン10は、溶接ガン制御装置100(図1参照)の制御により、電極チップ22及び電極チップ32からワークW1及びW2に溶接電流を通電する。すると、ワークW1及びW2は、互いの間にナゲットNが生成され、溶接される。
【0036】
可動電極部20の電極チップ22及び固定電極部30の電極チップ32をワークW1及びW2に当接後の電動式スポット溶接装置1の動作について、図5を参照して詳細に説明する。
図5は、電動式スポット溶接装置1の動作のタイミングを説明する図である。
図5中、横軸は電極チップ22をワークW1に当接させ、電極チップ32をワークW2に当接させた時点をT0として時間経過Tを示し、一点鎖線Aは溶接電流の大きさを示し、二点鎖線tはナゲットNの表面温度を示している。また、図5中、ナゲットN内部に示すハッチングは、表面温度の高さを示し、ハッチングの目が細かい程、温度が高いことを示している。
【0037】
溶接ガン制御装置100は、加圧部101により溶接ガン本体11のモータを回転させて、電極チップ22及び補助クランプ23をワークW1に当接させて加圧し、電極チップ32及び補助クランプ33をW2に当接させて加圧する。また、溶接ガン制御装置100は、通電部102により電極チップ22及び電極チップ32からワークW1及びW2に、所定の大きさの溶接電流を通電終了時間T1まで通電する。ナゲットNの表面温度は、この通電終了時間T1の時点で最高温度となる。その後、ナゲットNは、冷却時間T2まで、ワークW1及びW2に当接している電極チップ22及び電極チップ32により熱が奪われ急冷される。
【0038】
その後、溶接ガン制御装置100(図1参照)は、冷却時間T2経過後、電極離間部103により溶接ガン本体11のモータを回転させ、固定電極部30に対して可動電極部20を矢印A2側に移動させ、電極チップ22及び電極チップ32をワークW1及びW2から離間させる。
【0039】
図6を参照して、冷却時間T2について説明する。
図6は、急冷時のナゲットの表面温度とナゲットの硬度との関係を示す図である。
図6中、横軸は通電終了時間T1からの急冷時間の経過を示し、2点鎖線tはナゲットの表面温度を示し、実線hはナゲットの硬度を示している。
図6に示すように、ナゲットは急冷時間の経過とともに表面温度が急激に低下し、これに伴い、ナゲットの硬度hは上昇する。
【0040】
冷却時間T2は、急冷を開始してから、硬度hが硬度目標Hに達するまでの時間である。この冷却時間T2は、硬度目標Fに達する表面温度にいたる時間を少しずつ変える実験を繰り返すことで求める。この実験で求めた冷却時間T2は、溶接ガン制御装置100(図5参照)に設定される。
硬度目標Hは、溶接された部材の引っ張り試験である剥離試験において、所定の溶接強度に必要な硬度である。
【0041】
図5に戻って、冷却時間T2から自然冷却時間T3間では、ワークW1及びW2は、互いに離間しないように、補助クランプ23及び補助クランプ25によって、所定の加圧力によって加圧されている。この所定の加圧力は、ワークW1及びW2が急冷による凝固収縮により互いが反対方向に反ることによって発生するナゲットMが分かれようとする力より大きい力である。
【0042】
その後、溶接ガン制御装置100は、保持部材離間部104により自然冷却時間T3経過後、溶接ガン本体11のモータを回転させ、固定電極部30に対して可動電極部20を矢印A2側に移動させ、補助クランプ23及び補助クランプ25をワークW1及びW2から離間させる。
【0043】
次に、前記実施形態に係る電動式スポット溶接ガン10の変形例について説明する。
図7は、前記実施形態に係る電動式スポット溶接ガンの変形例の概略構成を示す図である。
変形例である電動式スポット溶接ガン10Aは、片側スポット溶接装置である点が異なる。本変形例の説明において、電動式スポット溶接ガン10(図2参照)と同一の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0044】
電動式スポット溶接ガン10Aは、モータを有する溶接ガン本体11と、溶接ガン本体11の先端側(図7に示す矢印A1側)に設けられた可動電極取付部12に取り付けられた可動電極部20と、を備える。
電動式スポット溶接ガン10Aは、溶接ガン本体11のモータにより、支持部41により支持され、アース電極40が設置されたワークW1及びW2に対して可動電極部20を矢印A1又はA2方向に往復移動し、ワークW1及びW2を溶接する片側スポット溶接装置として構成されている。
【0045】
電動式スポット溶接ガン10Aは、溶接ガン制御装置100(図1参照)の制御により、溶接ガン本体11のモータを回転させ、アース電極40が設置された被溶接部材であるワークW1及びW2に対して可動電極部20を矢印A1側に移動させ、ワークW1に可動電極部20の補助クランプ23を当接させる。電動式スポット溶接ガン10は、さらに、可動電極部20を矢印A1側に移動させ、可動電極部20の電極チップ22をワークW1に当接させ加圧し、所定の大きさの溶接電流を通電する。
【0046】
その後、溶接ガン制御装置100(図1参照)は、冷却時間T2(図5参照)経過後、溶接ガン本体11のモータを回転させ、ワークW1及びW2に対して可動電極部20を矢印A2側に移動させ、電極チップ22をワークW1から離間させる。
【0047】
冷却時間T2から自然冷却時間T3(図5参照)間では、支持部41により支持されたワークW1及びW2は、互いに離間しないように、補助クランプ23によって、所定の加圧力によって加圧されている。
【0048】
その後、溶接ガン制御装置100(図1参照)は、自然冷却時間T3経過後、溶接ガン本体11のモータを回転させ、ワークW1及びW2に対して可動電極部20を矢印A2側に移動させ、補助クランプ23をワークW1から離間させる。
【0049】
本実施形態によれば、電動式スポット溶接装置1は、以下の構成を備えた。
電動式スポット溶接装置1は、2枚以上重ねた被溶接部材(例えば、ワークW1及びW2)に溶接電流を流すスポット溶接装置であって、駆動部(例えば、モータ)を有する溶接ガン本体(例えば、溶接ガン本体11)と、前記溶接ガン本体に取り付けられ、前記被溶接部材の被溶接部(例えば、W)に当てて、前記被溶接部材に電流を流す電極(例えば、電極チップ22及び電極チップ32)と、前記被溶接部から一定距離はなれた位置であって、前記電極を挟む様に前記溶接ガン本体に取り付けられ、2枚以上重ねた前記被溶接部材の前記被溶接部が互いに離れないように保持する保持部材(例えば、補助クランプ23及び補助クランプ33)と、前記溶接ガン本体及び前記電極を制御する溶接ガン制御装置(例えば、溶接ガン制御装置100)と、を備え、前記保持部材の先端は、前記被溶接部材と離間した状態において、前記電極の先端より突出して形成され、前記溶接ガン制御装置は、前記溶接ガン本体の前記駆動部を制御して、前記電極及び前記保持部材を前記被溶接部材に当接させて加圧する加圧部(例えば、加圧部101)と、前記電極から前記被溶接部材に溶接電流を通電する通電部(例えば、通電部102)と、前記駆動部を制御して、前記被溶接部材に当接する前記電極及び前記保持部材のうち、前記電極のみを前記被溶接部材から離間する電極離間部(例えば、電極離間部103)と、前記駆動部を制御して、前記被溶接部材に当接する前記保持部材を前記被溶接部材から離間する保持部材離間部(例えば、保持部材離間部104)と、を有する。
【0050】
上記構成によれば、電動式スポット溶接装置1は、以下の作用効果を奏する。
ワークW1及びW2に溶接電流を流す電極チップ22及び電極チップ32及びワークW1及びW2の被溶接部Wが互いに離れないように保持する補助クランプ23及び補助クランプ33をワークW1及びW2に当てて加圧し、電極チップ22及び電極チップ32からワークW1及びW2に溶接電流を通電後、被溶接部Wの硬度を得るための冷却時間経過後に、電極チップ22及び電極チップ32をワークW1及びW2から離してから所定時間経過後に、補助クランプ23及び補助クランプ33をワークW1及びW2から離す。
【0051】
これにより、ワークW1及びW2に溶接電流を通電後であって、被溶接部Wの硬度を得るための冷却時間経過後に、電極チップ22及び電極チップ32をワークW1及びW2から離した後も、補助クランプ23及び補助クランプ33によってワークW1及びW2を加圧できるので、通電後の電極チップ22及び電極チップ32によりワークW1及びW2を急冷する時間を最小限に抑え、ワークW1及びW2を補助クランプ23及び補助クランプ33によって加圧しつつ自然冷却できる。
【0052】
したがって、急冷により被溶接部材が反るのを防止しでき、硬度が高い反面、伸び性能が低い高張力鋼材を溶接した場合であっても、被溶接部材の被溶接部が凝固するまで保持部材によって加圧しつつ自然冷却できるので、被溶接部材の冷却を緩やかにして、クラックを抑制するスポット溶接方法を提供できる。
【0053】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0054】
1 電動式スポット溶接装置
22,32 電極チップ(電極)
23,33 補助クランプ(保持部材)
W1,W2 ワーク(被溶接部材)
W 被溶接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚以上重ねた被溶接部材に溶接電流を流すスポット溶接方法において、
前記被溶接部材の被溶接部に当てて、前記被溶接部材に電流を流す電極と、
前記被溶接部から一定距離はなれた位置において、2枚以上重ねた前記被溶接部材の前記被溶接部が互いに離れないように保持する保持部材とを備えたスポット溶接装置を用いて、
前記電極及び前記保持部材を前記被溶接部材に当てて加圧し、前記電極から前記被溶接部材に溶接電流を通電後、
前記被溶接部の硬度を得るための冷却時間経過後に、前記電極を前記被溶接部材から離し、
前記電極を前記被溶接部材から離してから所定時間経過後に、前記保持部材を前記被溶接部材から離すスポット溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−55941(P2012−55941A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202808(P2010−202808)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】