説明

スポット溶接装置

【課題】溶接対象となるワークを位置決めする位置決め治具の数を減らすことの可能なスポット溶接装置を提供する。
【解決手段】複数の板材を重ねたワーク18を、一対の溶接電極12,17で両側から把持して加圧するとともに、一対の溶接電極12,17に電流を流してナゲットを形成することにより、板材同士を相互に接合するスポット溶接装置10であって、一対の溶接電極12,17により把持される前にワーク18を両側から把持して当該ワーク18を位置決めし、かつ、一対の溶接電極12,17の加圧力により板材が変形することを防止する把持機構21を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接対象となるワークを両側から把持する一対の溶接電極と、一対の溶接電極と共にワークを両側から把持する把持機構とを有するスポット溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数枚の鋼板等の板材を重ね合わせたワークを溶接するためにスポット溶接装置が使用されている。スポット溶接装置においては、複数枚の板材を重ね合わせて接合対象部を形成し、その接合対象部を一対の溶接電極で両側から把持して加圧する。そして、一対の溶接電極間に電流を流し、ジュール熱によりナゲットを形成して複数枚の板材を相互に接合するものである。
【0003】
このようなスポット溶接装置の一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載されたスポット溶接装置においては、一対の溶接ロボットにアームがそれぞれ設けられており、各アームには、それぞれリスト部を介してスポット溶接ガンが取り付けられている。また、各リスト部には、それぞれ位置決めゲージが個別に設けられている。各位置決めゲージは、各リスト部に連結されたステーの先端にリング状の押さえプレート(加圧部材)を一体に形成したものである。さらに、特許文献1に記載されたスポット溶接装置は、溶接対象となるワークを位置決めする位置決め治具を有している。
【0004】
この特許文献1に記載されたスポット溶接装置においては、まず、ワークが位置決め治具によって位置決めされてクランプされる。次いで、上下のスポット溶接ガンを溶接位置まで移動させて相互に対向させる。さらに、スポット溶接ガンの電極によりワークが加圧挟持される。そして、双方の溶接電極によるワークの加圧動作に続いて通電が行われることで、スポット溶接が施される。この時、各溶接電極がワークに接触して設定加圧力に達するまでの間に、双方の位置決めゲージが正対してワークのうち溶接電極に対応する部分の周辺部を加圧挟持する。
【0005】
一方、溶接後には溶接電極の加圧力が解除される途中で位置決めゲージの加圧力が解除されるように設定されている。特許文献1に記載されたスポット溶接装置においては、このような工程を行うことにより、スポット溶接ガンの溶接電極の加圧力によってワークが変形してしまうことを防止できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−155039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたスポット溶接装置においては、ワークを位置決めする位置決め治具を設けなければならず、位置決め治具の数が増加する問題があった。
【0008】
本発明の目的は、ワークを位置決めする位置決め治具の数を減らすことの可能なスポット溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスポット溶接装置は、複数の板材を重ねたワークを、一対の溶接電極で両側から把持して加圧するとともに、前記一対の溶接電極に電流を流してナゲットを形成することにより、前記板材同士を相互に接合するスポット溶接装置であって、前記一対の溶接電極により把持される前に前記ワークを両側から把持して当該ワークを位置決めし、かつ、前記一対の溶接電極の加圧力により前記板材が変形することを防止する把持機構を備えていることを特徴とする。
【0010】
本発明のスポット溶接装置は、前記複数の板材には厚さが異なる板材が含まれており、重ね方向の一端側に位置する板材の厚さが、重ね方向の他端側に位置する板材の厚さよりも薄くなるように複数の板材が重ねられており、前記把持機構は、前記一端側に位置する板材を加圧する第1把持部と、前記他端側に位置する板材を加圧する第2把持部とを有していることを特徴とする。
【0011】
本発明のスポット溶接装置は、前記ワークを両側から把持するように前記把持機構を動作させるアクチュエータが設けられていることを特徴とする。
【0012】
本発明のスポット溶接装置は、前記把持機構を、前記一対の溶接電極が前記ワークを加圧する方向に沿って移動させる移動機構と、前記把持機構の移動方向における動作力を、前記把持機構が前記ワークを把持する際の把持力に変換する動作力変換機構とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のスポット溶接装置によれば、把持機構が、一対の溶接電極により把持される前のワークを両側から把持する機能と、一対の溶接電極の加圧力によりワークの板材が変形することを防止する機能とを兼備している。したがって、ワークを位置決めする位置決め治具の数を減らすことが可能である。
【0014】
本発明のスポット溶接装置によれば、相対的に薄い板材を第1把持部が加圧し、相対的に厚い板材を第2把持部により加圧することにより、ワークが把持機構により位置決めされる。
【0015】
本発明のスポット溶接装置によれば、アクチュエータにより把持機構が動作してワークを両側から把持することができる。
【0016】
本発明のスポット溶接装置によれば、把持機構の移動力が、把持機構によりワークを把持する際の把持力に変換される。したがって、把持機構で把持力を生じさせるために専用のアクチュエータを設ける必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明におけるスポット溶接装置の第1実施形態を示す模式的な側面図である。
【図2】本発明のスポット溶接装置における一対の電極でワークを把持し、かつ、第1および第2加圧プレートで把持した状態の断面図である。
【図3】本発明におけるスポット溶接装置の第2実施形態を示す模式的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1はスポット溶接装置の第1実施形態であり、スポット溶接装置10は、C型のヨーク部材により形成される溶接ガン本体11を有している。この溶接ガン本体11は、図示しない溶接ロボットのアームに取り付けられており、溶接ロボットのアームの動作により、溶接ガン本体11が水平方向または上下方向の何れにも移動することが可能に構成されている。溶接ガン本体11の図1における下側の端部には、水平方向に延ばされた張り出し部11aが形成されており、張り出し部11aの先端には円柱形状の溶接電極(電極チップ)12が取り付けられている。本実施形態においては、溶接電極12が溶接ガン本体11に対して上下方向にも水平方向にも移動しないように取り付けられているものとして説明する。溶接ガン本体11を上下動作させると、溶接電極12を上下動させることができる。溶接電極12は垂直な軸線Aを中心として設けられており、溶接電極12の先端が上に向けられている。溶接電極12の先端は半球状に構成されている。
【0019】
一方、溶接ガン本体11の上側の端部には、溶接電極17を動作させるための電極駆動用アクチュエータ13が取り付けられている。この電極駆動用アクチュエータ13の動力により、軸線Bに沿った方向(つまり上下方向)に往復動される電極駆動ロッド14が設けられている。軸線Aと軸線Bとは相互に平行であり、同軸上には配置されていない。この電極駆動ロッド14の先端、具体的には下端には、連結部15を介在させてロッド16が取り付けられている。そして、ロッド16の先端、具体的には下端に溶接電極(電極チップ)17が取り付けられている。このため、溶接ガン本体11が停止している状態で、電極駆動ロッド14が上下方向に動作すると、溶接電極17が軸線Aに沿って上下方向に移動することが可能である。溶接電極17は円柱形状に構成されており、溶接電極17は軸線Aを中心として配置されている。溶接電極17の先端は下に向けられており、溶接電極17の先端は半球状に構成されている。このようにして、電極駆動用アクチュエータ13の動力により溶接電極17が軸線Aに沿って上下方向に動作すると、溶接電極12と溶接電極17との距離が変化する。
【0020】
本実施形態のスポット溶接装置10は、図2に示すように、一対の溶接電極12,17によりワーク18を厚さ方向、具体的には上下方向から把持(挟むようにクランプ)して加圧するものである。すなわち、一対の溶接電極12,17がスポット溶接装置10における主加圧部材を構成している。また、ワーク18は、複数枚の板材、例えば、3枚の板材18a,18b,18cが厚さ方向に重ね合わされて溶接対象部18dが形成されている。3枚の板材18a,18b,18cは上下に重ね合わされている。この溶接対象部18dがスポット溶接装置10により溶接される。また、板材18a,18b,18cは厚さが異なっている。具体的には、板材18aの厚さは板材18b,18cの単独の厚さよりも薄く、板材18b,18cの厚さは同じである。
【0021】
一方、溶接ガン本体11における電極駆動用アクチュエータ13の側方には、把持機構用アクチュエータ19(以下、アクチュエータ19と略記する)が取り付けられている。このアクチュエータ19には、駆動ロッド20を介在させて把持機構21が設けられている。把持機構21は、ワーク18を位置決めするための装置である。ここで、「ワーク18を位置決めする」には、ワーク18の搬送経路における予め定められた溶接位置付近にワーク18を保持すること、板材18a,18b,18c同士を相互に位置決めすること等が含まれる。駆動ロッド20は軸線Cに沿った方向、つまり上下方向に往復動可能に構成されている。このように、アクチュエータ19により駆動ロッド20を動作させると、把持機構21が上下方向に移動するように構成されている。
【0022】
把持機構21は、駆動ロッド20の下端に固定されたボス部22と、ボス部22から軸線Aに向かって延ばされた第1加圧プレート(個別加圧プレート)23と、ボス部22に対して揺動可能に取り付けられた第2加圧プレート(個別加圧プレート)24とを有している。さらに、第2加圧プレート24を揺動させる力を生じるアクチュエータ25が設けられている。第1加圧プレート23は、ボス部22と一体的に成形されたものであり、第1加圧プレート23の先端は、図2に示すように二股に分岐されて2つの加圧部23a,23bが形成されている。
【0023】
さらに、アクチュエータ19の動力により第1加圧プレート23を上下方向に移動させたときに、溶接電極12,17と第1加圧プレート23とが同じ高さに位置していても、溶接電極12,17と第1加圧プレート23とが接触しないように構成されている。具体的には、第1加圧プレート23を上昇または下降させたときに、軸線Aと垂直な平面内において、2つの加圧部23a,23bの間に軸線Aが位置するように構成されている。
【0024】
上記のように構成された第1加圧プレート23の下方に第2加圧プレート24が設けられている。第2加圧プレート24は、ボス部22に対して支持軸26を中心として揺動可能に取り付けられている。支持軸26はアクチュエータ25と第1加圧プレート23との間に、水平方向に設けられている。具体的に説明すると、第2加圧プレート24は、2つの軸線A,Cを含む垂直な平面内で支持軸26を中心として揺動することができる。第2加圧プレート24の先端は、図2に示すように二股に分岐されて2つの加圧部24a,24bが形成されている。なお、ワーク18の搬送方向に沿い、かつ、垂直方向に沿った平面断面内おいて、記加圧部23a,23b,24a,24bの断面形状は四角形であり、ワーク18に接触する表面が平坦となっている。
【0025】
前記アクチュエータ25はボス部22に固定されており、そのアクチュエータ25は水平方向に往復動するプランジャ25aを有している。このアクチュエータ25としては、例えば、空気圧シリンダまたは油圧シリンダ等を用いることができる。プランジャ25aの先端には、2つのリンク27a,27bの一端が支持軸25bを介してそれぞれ回転可能に連結されている。リンク27aの他端は第2加圧プレート24の後端に支持軸28を介して回転可能に接続され、リンク27bの他端はボス部22に支持軸29を介して揺動可能に取り付けられている。このため、アクチュエータ25のプランジャ25aが往復動すると、プランジャ25aの動作力が第2加圧プレート24に伝達されて、第2加圧プレート24は支持軸26を中心として揺動する。
【0026】
例えば、プランジャ25aが第2加圧プレート24に近づく方向、つまり、図1で左方向に動作すると、第2加圧プレート24は支持軸26を中心として時計方向に所定角度範内で回転する。この第2加圧プレート24の動作により、第1加圧プレート23と第2加圧プレート24との間隔が狭められる。これに対して、プランジャ25aが第2加圧プレート24から離れる方向、つまり、図1で右方向に動作すると、第2加圧プレート24は支持軸26を中心として反時計方向に所定角度範内で回転する。この第2加圧プレート24の動作により、第1加圧プレート23と第2加圧プレート24との間隔が広がる。
【0027】
さらに、アクチュエータ19の動力により第2加圧プレート24を上下方向に移動させたとき、または、アクチュエータ25の動力により第2加圧プレート24を揺動させたときに、溶接電極12,17と第2加圧プレート24とが同じ高さに位置していても、溶接電極12,17と第2加圧プレート24とが接触しないように構成されている。
【0028】
本実施形態のスポット溶接装置10においては、一対の溶接電極12,17によりワーク18の溶接対象部18dを把持する前に、ワーク18を第1加圧プレート23および第2加圧プレート24により把持することができる。すなわち、スポット溶接装置10において、第1加圧プレート23および第2加圧プレート24は副加圧部材を構成するものである。なお、図1に示された30は、溶接ロボットの電力系統の一部を構成するトランス(変圧器)である。
【0029】
つぎに、第1実施形態のスポット溶接装置10によりワーク18を溶接する工程を説明する。
【0030】
(第1工程)
まず、一対の溶接電極12,17の間隔が、ワーク18の溶接対象部の厚さを超える値に保持され、かつ、第1加圧プレート23と第2加圧プレート24とが開いている状態において、ワーク18を水平方向に搬送して、一対の溶接電極12,17の間であり、かつ、第1加圧プレート23と第2加圧プレート24との間に、ワーク18の溶接対象部を進入させる。
【0031】
(第2工程)
アクチュエータ19の動力により、第1加圧プレート23を下降させて、第1加圧プレート23を板材18aに押し当て、第1加圧プレート23を停止させる。
【0032】
(第3工程)
アクチュエータ25の動力により、プランジャ25aを図1で左方向に動作させて、第2加圧プレート24を支持軸26を中心として時計方向に回転させる。この第2加圧プレート24の動作により、ワーク18の溶接対象部が、図2のように、第1加圧プレート23および第2加圧プレート24により、上下から把持される。ここで、第2加圧プレート24は板材18cに押し当てられる。このように、第1加圧プレート23および第2加圧プレート24により、ワーク18びの溶接対象部が両側から把持されて、ワーク18が位置決めされる。
【0033】
(第4工程)
ワーク18を第1加圧プレート23および第2加圧プレート24により上下方向の両側から把持した状態で、アクチュエータ19により第1加圧プレート23および第2加圧プレート24を下降させる。また、電極駆動用アクチュエータ13の動力により溶接電極17を下降させて、一対の溶接電極12,17によりワーク18の溶接対象部を挟み付けて加圧し、溶接電極17を停止させる。これと同時に、り第1加圧プレート23および第2加圧プレート24を停止させる。さらに、一対の溶接電極12,17間に電流を流し、ジュール熱によりナゲットを形成して複数枚の板材18a,18b,18cを相互に接合する。このようにして、第4工程が終了する。
【0034】
上記の第4工程中において、一番上の板材18aの厚さは、板材18b,18cの単独の厚さよりも薄く剛性が低いので、溶接電極17の加圧により板材18aが上側に撓んで板材18aと板材18bとの間に隙間が生じようとする。これに対して、本実施形態においては、溶接電極17が板材18aを加圧する箇所の両側を、第1加圧プレート23の2つの加圧部23a,23bにより加圧している。このため、溶接電極17の加圧力で薄い板材18aが変形することを防止できる。したがって、薄い板材18aと厚い板材18bとの間における電流密度の低下が抑制され、溶接品質の低下を防止でき、かつスパッタの発生を回避できる。
【0035】
また、把持機構21によりワーク18を把持および加圧した後、溶接電極12,17によりワーク18が把持および加圧される。このため、ワーク18が、板厚比が相対的に大きなもの、剛性が相対的に低い板材を備えたもの、板材の物性にバラツキがあるもの等であっても、溶接品質を安定させることができる。上記の板圧比は、薄い板材の厚さで厚い板材の厚さを除算して求めた値である。
【0036】
なお、本実施形態においては、溶接電極17が板材18aを加圧する位置の両側を、第1加圧プレート23の加圧部23a,23bで加圧することにより、溶接電極17の加圧力で板材18aが変形することを防止している。このため、溶接電極17から板材18aに加えられる加圧力を、溶接電極12から板材18cに加えられる加圧力よりも低くすることができる。
【0037】
上記の第4工程によりワーク18をスポット溶接する処理が終わると、一対の溶接電極12,17の間隔が広げられる。また、第2加圧プレート24が支持軸26を中心として反時計方向に回転されて、ワーク18に対する把持が解除される。そして、スポット溶接が行われたワーク18は次の工程に搬送される。
【0038】
上記のように、本実施形態のスポット溶接装置10によれば、把持機構21が、一対の溶接電極12,17により把持される前のワーク18を両側から把持する機能と、一対の溶接電極17の加圧力によりワーク18の板材が変形することを防止する機能とを兼備している。したがって、溶接対象となるワーク18を位置決めする位置決め治具を専用に設けずに済み、位置決め治具の数を減らすことができる。また、第1加圧プレート23および第2加圧プレート24によりワーク18を把持および加圧した後、溶接電極12,17によりワーク18が把持および加圧されるように構成されている。したがって、溶接電極12,17のうちどちらが先にワーク18に接触したとしても、ワーク18を構成する板材の変形を抑制できる。
【0039】
本実施形態のスポット溶接装置10は、薄い板材が一番下に配置され、2枚の厚い板材が薄い板材の上に配置されているワークをスポット溶接することもできる。この場合は、溶接電極12が薄い板材に押し付けられ、溶接電極17が厚い板材に押し付けられて、ワークが両側から把持される。このため、溶接電極12の加圧力で薄い板材が変形することを防止でき、前述と同様の効果を得ることができる。
【0040】
次に、第2実施形態におけるスポット溶接装置10の構成を、図3を参照して説明する。図3の構成において、図1および図2と同じ構成部分については、図1および図3と同じ符号を付してある。第2実施形態と第1実施形態とを比べると、第2加圧プレート24を動作させる機構が異なる。第2実施形態においては、第2加圧プレート24がカム機構31により動作されるように構成されている。第2実施形態においては、溶接ロボットのアームにフレーム32が取り付けられており、そのフレーム32にカム機構31が取り付けられている。カム機構31は、フレーム32に固定されたカム板33と、カム板33に設けられた溝34と、溝34内を転動可能な転動体35とを有している。
【0041】
溝34は上下方向に沿って延ばされており、溝34のうち最も上部に位置する部分の両側にはカム面34aが設けられている。カム面34aは上下方向に沿って直線状となっている。また、溝34のうち上下方向で中間部分には、カム面34aに対して傾斜したカム面34bが両側に設けられている。カム面34bは、下方であるほどボス部22に近づく向きで傾斜している。さらに、溝34のうち上下方向で最も下側の部分の両側にカム面34cが設けられている。カム面34cは上下方向に沿って直線状に形成されている。溝34の両側に形成された各カム面同士の間隔は同一に設定されており、カム面34aとカム面34bとの接続部分は湾曲され、カム面34bとカム面34cとの接続部分は湾曲されている。さらに、転動体35は球形状または円柱形状を備えている。
【0042】
転動体35が溝34に沿って上下方向に転動すると、転動体35はカム面34a,34b,34cに案内されて水平方向に移動する。具体的には、軸線A,Cを含む垂直方向の平面内において、水平方向に移動する。例えば、転動体35がカム面34aに沿って転動しているときは、転動体35は水平方向には移動しない。
【0043】
また、転動体35がカム面34bに沿って上から下に向けて転動しているときは、転動体35は水平方向に移動する。具体的には、転動体35はボス部22に近づく向きで移動する。これに対して、転動体35がカム面34bに沿って下から上に向けて転動しているときは、転動体35は水平方向に移動する。具体的には、転動体35はボス部22から離れる向きで移動する。さらに、転動体35がカム面34cに沿って転動しているときは、転動体35は水平方向には移動しない。
【0044】
一方、転動体35はシャフト36の一端側に回転可能に取り付けられている。また、ボス部22には円筒形状の滑り軸受け37が取り付けられており、滑り軸受け37によりシャフト36が水平方向に移動可能に支持されている。具体的には、軸線A,Cを含む垂直方向の平面内において、シャフト36が往復動可能である。さらに、アクチュエータ19によりボス部22が上下方向に動作されると、ボス部22と一体的にシャフト36も上下方向に移動する。シャフト36における転動体35が取り付けられた端部とは反対側の端部には、前記リンク27a,27bが支持軸36aを中心として回転可能に連結されている。このため、転動体35が水平方向に移動すると、転動体35の移動力がシャフト36に伝達されて、シャフト36が水平方向に移動する作用が生じる。
【0045】
例えば、シャフト36が第2加圧プレート24に近づく向きで動作すると、シャフト36の動作力が第2加圧プレート24に伝達される。その結果、第2加圧プレート24は支持軸26を中心として時計方向に所定角度回転し、第1加圧プレート23と第2加圧プレート24との間隔が狭められる。これに対して、シャフト36が第2加圧プレート24から離れる向きで動作すると、シャフト36の動作力が第2加圧プレート24に伝達される。その結果、第2加圧プレート24は支持軸26を中心として反時計方向に所定角度回転し、第1加圧プレート23と第2加圧プレート24との間隔が広げられる。
【0046】
このように、第2実施形態におけるスポット溶接装置10においては、ボス部22の上下方向における動作力が、第1加圧プレート23と第2加圧プレート24との開閉させる動作力に変換されるように構成されている。具体的には、溝34に沿って転動する転動体35の水平方向の動作力を、第2加圧プレート24を動作させる動作力に変換させる動作力変換機構38を有している。すなわち、カム面を有する溝34、転動体35、シャフト36、滑り軸受け37等の要素により、動作力変換機構38が構成されている。
【0047】
次に、第2実施形態のスポット溶接装置10によりワーク18を溶接する工程を説明する。
【0048】
(第1工程)
第2実施形態のスポット溶接装置10において、第1工程で行われる動作は、第1実施形態のスポット溶接装置10の第1工程の動作と同じである。
【0049】
(第2工程)
アクチュエータ19の動力により、第1加圧プレート23およびシャフト36を下降させる。シャフト36の下降中、転動体35がカム面34aに沿って転動している間は、シャフト36は水平方向には移動しない。このため、第1加圧プレート23と第2加圧プレート2との間の間隔は変わらない。つまり、この時点では、第1加圧プレート23および第2加圧プレート24によるワーク18の把持は行われない。
【0050】
(第3工程)
シャフト36の下降が継続されて、転動体35がカム面34bに沿って転動すると、シャフト36は第2加圧プレート24に近づく向きで水平移動する。その結果、第2加圧プレート24が支持軸26を中心として時計方向に回転し、第1加圧プレート23と第2加圧プレート24とにより、ワーク18が上下方向の両側から把持される。すなわち、第1加圧プレート23および第2加圧プレート24により、溶接対象部18dが両側から把持されて、ワーク18が溶接位置に位置決めされる。
【0051】
(第4工程)
電極駆動用アクチュエータ13の動力により溶接電極17を下降させて、一対の溶接電極12,17によりワーク18の溶接対象部18dを挟み付けて加圧し、溶接電極17を停止する。溶接電極17の下降中、アクチュエータ19の動力でシャフト36の下降が継続されているが、転動体35はカム面34cに沿って転動する。したがって、シャフト36は水平方向には移動せず、ワーク18を第1加圧プレート23および第2加圧プレート24により把持した状態が維持される。また、溶接電極17が停止するとボス部22も停止され、ワーク18が溶接電極12,17により把持および加圧され、かつ、ワーク18が第1加圧プレート23および第2加圧プレート24により把持加圧された状態に維持される。そして、一対の溶接電極12,17間に電流を流してワーク18をスポット溶接し、第4工程が終了する。
【0052】
上記の第4工程によりワーク18をスポット溶接する処理が終わると、一対の溶接電極12,17の間隔が広げられて、溶接電極12,17によるワーク18の把持が解除される。また、アクチュエータ19によりボス部22が上昇されて、転動体35がカム面34bに沿って転動しながら上昇すると、シャフト36が第2加圧プレート24から離れる向きに水平移動する。その結果、第2加圧プレート24が支持軸26を中心として反時計方向に回転されて、ワーク18に対する把持が解除される。そして、スポット溶接が行われたワーク18は次の工程に搬送される。
【0053】
上記のように、第2実施形態におけるスポット溶接装置10において、第1実施形態のスポット溶接装置10と同じ構成部分については、第1実施形態のスポット溶接装置10と同様の作用効果を得ることができる。
【0054】
また、第2実施形態のスポット溶接装置10によれば、把持機構21の上下方向の動作力が、第1加圧プレート23および第2加圧プレート24によりワーク18を把持する把持力に変換される。したがって、把持機構21で把持力を発生させるために専用のアクチュエータを設ける必要がない。
【0055】
ここで、本実施形態で説明した構成と、本発明の構成との対応関係を説明すると、重ね方向で一番上に位置する板材18aが、本発明における「重ね方向の一端側に位置する板材」に相当し、重ね方向で一番下に位置する板材18cが、本発明の「重ね方向の他端側に位置する板材」に相当し、第1加圧プレート23が、本発明の第1把持部に相当し、第2加圧プレート24が、本発明の第2把持部に相当し、アクチュエータ25が、本発明のアクチュエータに相当し、アクチュエータ19が、本発明の移動機構に相当する。
【0056】
本発明は前記第1実施形態および第2実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、第1把持部および第2把持部として、断面形状が円形に構成された加圧部材を用いてもよい。さらに、本発明における一対の溶接電極は、所定方向に沿って相対移動することにより、ワークを把持および加圧する要素である。このため、溶接ガン本体に対して、一対の溶接電極が共に移動できるように構成されていてもよい。
【0057】
さらに、一対の溶接電極同士が水平方向に相対移動し、第1把持部と第2把持部とが水平方向に相対移動するように構成されていてもよい。この場合、板材同士が重ね合わせ方向は水平方向となり、ワークの搬送方向は垂直方向または水平方向のいずれでもよい。
【0058】
さらにまた、スポット溶接されるワークの板材は2枚でもよいし、4枚以上でもよい。さらに、複数の板材の厚さは全て同じでもよいし、異なっていてもよい。さらに、第1把持部および第2把持部におけるワークに接触する部分を、耐熱性を有する樹脂、ゴム等の柔軟性材料により構成することもできる。このように構成すると、溶接対象であるワークの厚さが異なる場合でも、柔軟性材料が弾性変形することで厚さの違いを吸収し、把持機構により確実に把持することができる。
【0059】
さらに、上記実施形態において記載した第1〜第4工程は、複数の板材を重ねたワークを、一対の溶接電極で両側から把持して加圧するとともに、一対の溶接電極に電流を流してナゲットを形成することにより、板材同士を相互に接合するスポット溶接方法であって、一対の溶接電極により把持される前にワークを両側から把持して当該ワークを位置決めすることにより、一対の溶接電極でワークを加圧する際の加圧力により板材が変形することを防止するスポット溶接方法を提供するものである。
【符号の説明】
【0060】
10 スポット溶接装置
12,17 溶接電極
18 ワーク
18a,18b,18c 板材
19,25 アクチュエータ
21 把持機構
23 第1加圧プレート(第1把持部)
24 第2加圧プレート(第2把持部)
38 動作力変換機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の板材を重ねたワークを、一対の溶接電極で両側から把持して加圧するとともに、前記一対の溶接電極に電流を流してナゲットを形成することにより、前記板材同士を相互に接合するスポット溶接装置であって、
前記一対の溶接電極により把持される前に前記ワークを両側から把持して当該ワークを位置決めし、かつ、前記一対の溶接電極の加圧力により前記板材が変形することを防止する把持機構を備えていることを特徴とするスポット溶接装置。
【請求項2】
請求項1記載のスポット溶接装置において、
前記複数の板材には厚さが異なる板材が含まれており、重ね方向の一端側に位置する板材の厚さが、重ね方向の他端側に位置する板材の厚さよりも薄くなるように複数の板材が重ねられており、
前記把持機構は、前記一端側に位置する板材を加圧する第1把持部と、前記他端側に位置する板材を加圧する第2把持部とを有していることを特徴とするスポット溶接装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のスポット溶接装置において、
前記ワークを両側から把持するように前記把持機構を動作させるアクチュエータが設けられていることを特徴とするスポット溶接装置。
【請求項4】
請求項1または2記載のスポット溶接装置において、
前記把持機構を、前記一対の溶接電極が前記ワークを加圧する方向に沿って移動させる移動機構と、
前記把持機構の移動方向における動作力を、前記把持機構が前記ワークを把持する際の把持力に変換する動作力変換機構と
を備えていることを特徴とするスポット溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−71173(P2013−71173A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213830(P2011−213830)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】