説明

スポット溶接評価方法及びスポット溶接評価システム

【課題】 非破壊検査によりスポット溶接の評価が行なえるスポット溶接評価方法
【解決手段】 本発明に係るスポット溶接評価方法は、複数の金属体を重ね合わせ、第1電極と第2電極とからなる一対の電極で挟持し、加圧通電して接合するスポット溶接を非破壊で検査するスポット溶接評価方法において、第1電極と第2電極の何れか一方の電極の表面に凹部が形成された一対の電極を用いてスポット溶接を行ない、凹部が形成された電極により、スポット溶接部に形成される凸部の高さに基づいてスポット溶接の良否を評価するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスポット溶接の評価方法及びスポット溶接評価システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
スポット溶接の評価方法は、ナゲット径でスポット溶接の強度を評価することが知られている。具体的手法としては、スポット溶接された2枚の鋼板の間にタガネを圧入してスポット溶接部を剥がし、ナゲット径を直接計測するいわゆるタガネ検査や、スポット溶接部を切断してナゲット径を直接計測する切断検査などの個別破壊計測が行なわれている。
【0003】
また、スポット溶接に関する非破壊計測技術としては超音波を利用したもの(特開昭62−119453号、特開平4−265854号)、振動を利用したもの(特開平9−171007号)、断続光照射に伴う音波を検出するもの(特開平3−2659号)、溶接電極から発した弾性波の反射波を検出するもの(特開平4−40359号)など各種提案されている。また、特開2001−165911号公報には、ポット溶接部に磁力線を貫通させたときに測定されるスポット溶接部のナゲット周縁での環状高インダクタンス部分の直径と、前記高インダクタンス部分とナゲット中央部における低インダクタンス部分とのインダクタンス高低落差の2つの変数を用いて、ナゲット直径の予測値としての各変数を判別式で表し、ナゲット直径の良否を区別する閾値を設定するものが開示されている。
【特許文献1】特開2001−165911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タガネ検査は、破壊計測したものについて、スポット溶接の強度を評価することができるが、破壊計測していないものはスポット溶接の強度を直接評価することができない。また、近年、自動車のボディー等には軽量化を図るためハイテン(高張力鋼)材が多く用いられつつあるが、ハイテン材をスポット溶接した部位は通常の鋼板を溶接した部位に比べて硬いため、製造ラインで抜き打ちによるタガネ検査を行なうには不向きであった。
【0005】
従って、非破壊検査によるスポット溶接の個別評価を行なえるスポット溶接評価手法を確立することが望まれている。非破壊検査は特開2001−165911号公報などに開示されているが、設備コストや作業性の面を考慮すれば、より簡単な設備でより簡単に検査でき、信頼性が高い検査方法が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るスポット溶接評価方法では、第1電極と第2電極の何れか一方の電極の表面に凹部が形成された一対の電極を用いる。なお、一対の電極は、何れの電極に凹部を形成するか、電極の表面に形成する凹部の形状、大きさは任意である。斯かる一対の電極を用い、図2に示すように、複数の金属体(図示例では、2枚の金属体1、2)を重ね合わせ、斯かる一対の電極3、4で挟持し、加圧通電して接合するスポット溶接を行なうと、上側の電極3の表面に形成した凹部5に対応して、上側の金属体1の上面に凸部6が形成される。
【0007】
本発明者らは、図1に示すように、この凸部6に着目し、ナゲット7の直径(ナゲット径)、引張せん断強度(TSS)との相関関係を調べた。その結果、これらには相関関係が見られ、凸部6の高さからナゲット径及び引張せん断強度(TSS)が推定できるとの知見を得た。
【0008】
本発明に係るスポット溶接評価方法は、ここで得られた知見を基に考案されたものである。すなわち、複数の金属体を重ね合わせ、第1電極と第2電極とからなる一対の電極で挟持し、加圧通電して接合するスポット溶接を非破壊で検査するスポット溶接評価方法において、第1電極と第2電極の何れか一方の電極の表面に凹部が形成された一対の電極を用いてスポット溶接を行ない、凹部が形成された電極により、スポット溶接部に形成された凸部の高さに基づいてスポット溶接の良否を評価するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るスポット溶接評価方法によれば、凹部が形成された電極により、スポット溶接部に形成される凸部の高さに基づいてスポット溶接の良否を評価するので、非破壊検査によりスポット溶接の評価が行なえる。また、ハイテン材を接合した部位に対しても、スポット溶接部に形成される凸部の高さを計測するだけでスポット溶接の良否を評価することができるので、スポット溶接評価作業が容易になる。また、スポット溶接評価作業が容易であるから、抜き打ち検査によらず、全ての製品のスポット溶接を個別に評価しても作業効率を阻害せず、製品の品質をより高精度に管理することが可能になる。また、このスポット溶接評価方法を利用するには、第1電極と第2電極の何れか一方の電極の表面に凹部が形成された一対の電極を用いることになるが、斯かる電極によれば、スパッタが発生するのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態に係るスポット溶接評価方法を図面に基づいて説明する。
【0011】
このスポット溶接評価方法では、図2に示すように、第1電極と第2電極の何れか一方の電極の表面に凹部5が形成された一対の電極3、4を用いる。斯かる一対の電極3、4で挟持し、加圧通電して接合するスポット溶接を行なうと、図2に示すように、上側の電極3の表面に形成した凹部5内に金属体1が隆起して、金属体1の上面に凸部6が形成される。
【0012】
このスポット溶接評価方法は、斯かるスポット溶接により形成される凸部6の高さと、ナゲット径と、引張せん断強度(TSS)との相関関係に基づいて、スポット溶接の良否を判断するものである。この実施形態では、スポット溶接の良否判定のため、予め凸部6の高さと、ナゲット径と、引張せん断強度(TSS)との相関関係に関する基礎データを用意している。基礎データは、実際の製造ラインに応用するために、実際の製造ラインで行なわれるスポット溶接に合わせて、実際の製造ラインで用いる電極と同じものを用意し、実際の製造ラインで使うスポット溶接機と同じか又はこれと同じ機能を備えたスポット溶接機を用い、実際に製造する製品と同じ材質で同じ厚さの金属板を重ねてスポット溶接した試料に基づいて作成した。
【0013】
基礎データの作成は、まず条件(電流、通電時間、加圧力)を変えて、それぞれ複数個ずつ試料を作成する。次に、各試料についてそれぞれ、図1に示すように、金属体の表面に形成された凸部6の高さを測る。そして、同じ条件で作成した試料のうちいくつかは溶接した金属体を互いに反対方向に引っ張りせん断強度を調べて引張せん断強度(TSS)を測り、他のいくつかはタガネ検査又は切断検査によりナゲット径を測る。これにより、同じ条件で作成した試料間で、凸部の高さと引張せん断強度(TSS)との相関関係、凸部の高さとナゲット径との相関関係、及び、引張せん断強度(TSS)とナゲット径の相関関係をそれぞれ得る。
【0014】
図3は、凸部の高さとナゲット径との相関関係を示すデータの一例を、図4は凸部の高さと引張せん断強度(TSS)との相関関係を示すデータの一例を、図5はナゲット径と引張せん断強度(TSS)との相関関係を示すデータの一例をそれぞれ示している。
【0015】
この実施形態では、図2に示すように、上下一対の電極3,4のうち、上側の電極3の表面に凹部5として、所定直径(3mmと5mm)の円筒形状の窪みを形成した電極を用いている。図3〜図5の相関関係図は、電極3の表面に凹部5として形成した円筒形状の窪みの直径が3mmのものと、5mmのもので2種類の電極でデータを取った。それぞれ加圧力は250kgf(約2.45kN)と150kgf(約1.47kN)の2通り、また電流値は5kA〜13kAの間で変え、通電時間は4cycle〜10cycleの間で変えてスポット溶接のエネルギーを変え、凸部の高さやナゲット径、引張せん断強度(TSS)が異なる試料を作成した。また異なる条件毎に複数個ずつ試料を作成した。なお、この実施形態では、周波数60Hzの交流でスポット溶接を行なっており、cycleは通電時間を設定する単位であり、1cycleは1/60secである。
【0016】
次に、各試料についてそれぞれ金属体の表面に形成された凸部6の高さを測り、同じ条件で作成した試料のうちいくつかは引張せん断強度(TSS)を測り、他のいくつかはタガネ検査又は切断検査によりナゲット径を測ることにより、同じ条件で作成した試料間で、凸部の高さと引張せん断強度(TSS)との相関関係、凸部の高さとナゲット径との相関関係、及び、引張せん断強度(TSS)とナゲット径の相関関係をそれぞれ得たものである。図3〜図5の相関関係図は、同じ条件で作成した試料間で、凸部の高さと引張せん断強度(TSS)との相関関係、凸部の高さとナゲット径との相関関係、及び、引張せん断強度(TSS)とナゲット径の相関関係を算出し、それぞれの座標に示したものである。
【0017】
この結果、スポット溶接部に形成される凸部の高さ、ナゲット径、及び、引張せん断強度(TSS)は、溶接の条件を変えることにより異なること、および、凸部の高さ、ナゲット径、及び、引張せん断強度(TSS)にそれぞれ相関関係があることがわかった。
【0018】
実際の製造ラインでは、製品のスポット溶接部に形成される凸部の高さを測定して、測定結果を上記の相関関係に照らし合わせることより、凸部の高さからナゲット径及び引張せん断強度(TSS)を推定し、スポット溶接の良否を評価することができる。
【0019】
このスポット溶接評価方法によれば、実際の製造ラインで、第1電極3と第2電極4の何れか一方の電極3の表面に凹部5が形成された一対の電極3、4を用い、凹部5が形成された電極により、スポット溶接部に形成される凸部6の高さに基づいてスポット溶接の良否を評価するので、非破壊検査によるスポット溶接の個別評価が行なえる。また、ハイテン材を接合した部位に対しても、スポット溶接部に形成される凸部6の高さを計測するだけで、スポット溶接の良否を評価することができるので、スポット溶接評価作業が容易になる。また、このスポット溶接評価方法を利用するには、第1電極3と第2電極4の何れか一方の電極3の表面に凹部5が形成された一対の電極3、4を用いることになるが、斯かる電極によれば、スパッタが発生するのを防止できる。
【0020】
以上、本発明の一実施形態に係るスポット溶接評価方法を説明したが、本発明に係るスポット溶接評価方法は上記に限定されるものではない。
【0021】
上述した凸部6の高さとナゲット径との相関関係、凸部6の高さと引張せん断強度(TSS)との相関関係、及び、ナゲット径と引張せん断強度(TSS)との相関関係を示す基礎データの取り方、そのデータの表示方法は、上記の例に限定されるものではない。
【0022】
また、製品に用いる金属体の材質や厚さなどが異なれば、それに対応した上記の相関関係に関する基礎データを取り、斯かる基礎データに基づいてスポット溶接の良否を判定するとよい。
【0023】
また、ナゲット径と引張せん断強度(TSS)との相関関係は一般的に知られているので、スポット溶接の良否判定に用いる基礎データは、凸部の高さとナゲット径との相関関係を示すデータだけを用いてもよいし、凸部の高さとスポット溶接部の引張せん断強度(TSS)との相関関係を示すデータだけを用いてもよい。
【0024】
また、上記のスポット溶接評価方法は、コンピュータを利用したスポット溶接評価システムとして具現化することができる。例えば、斯かるスポット溶接評価システムは、第1電極と第2電極の何れか一方の電極の表面に凹部が形成された一対の電極を用いてスポット溶接を行って作成した試料において、凹部が形成された電極によりスポット溶接部に形成された凸部の高さとナゲット径との相関関係を示すデータ、又は、試料のスポット溶接部に形成された凸部の高さとスポット溶接部の引張せん断強度との相関関係を示すデータの少なくとも一方を記憶した記憶部と、一対の電極を用いてスポット溶接を行なって製品のスポット溶接部に形成された凸部の高さ情報を入力する入力部と、入力部に入力された凸部の高さ情報を、記憶部に記憶した凸部の高さとナゲット径との相関関係を示すデータ、又は、凸部の高さとスポット溶接部の引張せん断強度との相関関係を示すデータに基づいて、スポット溶接の良否を判定する判定部とを備えたものにすることができる。
【0025】
斯かるスポット溶接評価システムによれば、一対の電極を用いてスポット溶接を行なって製品のスポット溶接部に形成された凸部の高さを測定し、その測定結果を入力するだけで、スポット溶接の良否を判定でき、判定作業を簡易化できる。
【0026】
スポット溶接部に形成された凸部の高さを測定する方法としては、ノギスで測定するとよいが、例えば、図6に示すような、専用の測定器10を用いて測定してもよい。この測定器10を示す図6中、11は溶接した金属体の表面に当接し、測定器10の基準位置を設定する位置決め部、12は位置決め部11に対して相対的に進退する接触式の変位センサ部、13は位置決め部11により定まる基準位置と変位センサ部12の先端の位置との相対変位量を測定する測定部をそれぞれ示している。この測定器10は、図6に示すように、位置決め部11を金属体の表面に当接させ、変位センサ部12をスポット溶接部に形成された凸部6の頂部に当てることにより、測定部13で凸部6の高さが測定されるようになっている。
【0027】
また、さらに一対の電極を用いてスポット溶接を行なって製品のスポット溶接部に形成された凸部の高さ測定し、その測定結果を入力する作業に、コンピュータを利用した公知の形状認識手段を組み合わせ、一対の電極を用いてスポット溶接を行なって製品のスポット溶接部に形成された凸部の高さが自動的に測定され、その測定結果が自動入力されるように構成することにより、スポット溶接の良否判定作業をさらに簡易化することができる。
【0028】
例えば、図6に示す測定器10において、測定器10により測定された測定結果が自動的に凸部6の高さ情報として測定部13からコンピュータの入力部14に自動的に入力されるように構成するとよい。なお、公知の形状認識手段としては、レーザー変位センサを利用したものや、画像処理測定などを利用したものが知られている。レーザー変位センサは、例えば、スポット溶接部に形成された凸部を横断又は縦断するようにレーザー光を照射し、スポット溶接部及び金属体の表面から反射した反射光を受信するものである。レーザー変位センサにより受信した反射光を解析して、スポット溶接部に形成された凸部の高さ(金属体表面の変位)を測定する変位測定装置を組み合わせることにより、スポット溶接部に形成された凸部の高さ情報を得るようにしてもよい。また、画像処理測定は、スポット溶接部に形成された凸部を撮影した画像を基に、凸部の高さ情報を得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】スポット溶接部の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るスポット溶接評価方法におけるスポット溶接の工程を示す縦断側面図である。
【図3】スポット溶接により形成される凸部の高さとナゲット径との相関関係の一例を示す図である。
【図4】スポット溶接により形成される凸部の高さと引張せん断強度(TSS)との相関関係の一例を示す図である。
【図5】ナゲット径と引張せん断強度(TSS)との相関関係の一例を示す図である。
【図6】スポット溶接部に形成された凸部の高さを測定する測定器の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1、2 金属体
3、4 電極
5 凹部
6 凸部
7 ナゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属体を重ね合わせ、第1電極と第2電極とからなる一対の電極で挟持し、加圧通電して接合するスポット溶接の良否を非破壊で検査するスポット溶接評価方法において、
第1電極と第2電極の何れか一方の電極の表面に凹部が形成された一対の電極を用いてスポット溶接を行ない、前記凹部が形成された電極により、スポット溶接部に形成された凸部の高さに基づいてスポット溶接の良否を評価するスポット溶接評価方法。
【請求項2】
前記スポット溶接の良否の評価は、前記一対の電極を用いて予めスポット溶接を行なって作成した試料のスポット溶接部に形成された凸部の高さとナゲット径との相関関係を示すデータ、又は、前記試料のスポット溶接部に形成された凸部の高さとスポット溶接部の引張せん断強度との相関関係を示すデータに基づいて判定するものであることを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接評価方法。
【請求項3】
コンピュータを利用したスポット溶接評価システムであって、
第1電極と第2電極の何れか一方の電極の表面に凹部が形成された一対の電極を用いてスポット溶接を行なって作成した試料において、前記凹部が形成された電極によりスポット溶接部に形成された凸部の高さとナゲット径との相関関係を示すデータ、又は、前記試料のスポット溶接部に形成された凸部の高さとスポット溶接部の引張せん断強度との相関関係を示すデータの少なくとも一方を記憶した記憶部と、
前記一対の電極を用いてスポット溶接を行なって製品のスポット溶接部に形成された凸部の高さ情報を入力する入力部と、
前記入力部に入力された凸部の高さ情報を、前記記憶部に記憶した凸部の高さとナゲット径との相関関係を示すデータ、又は、凸部の高さとスポット溶接部の引張せん断強度との相関関係を示すデータに基づいて、スポット溶接の良否を判定する判定部とを備えていることを特徴とするスポット溶接評価システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−35237(P2006−35237A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−214592(P2004−214592)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)