説明

スライサー

【課題】本発明は、ガラス、半導体、誘電/金属複合体及び集積回路等に平坦面を形成するのに使用される研磨用材料のスライスにおいて、加工物の厚み精度を向上させる装置を提供せんとするものである。
【解決手段】本発明のスライサーは、枚葉で投入される加工物をバンドナイフでスライスするスライサーであって、スライスされた加工物の端がバンドナイフ通過直後から牽引されることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライサーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
スライサーを使用して加工物をスライスする場合、バンドナイフより上流にあるロールや送り機構によって加工物をバンドナイフに押し出しながら処理する。バンドナイフの下流には、押し出された加工物を支持板等にそって移動させる機構やホッパ等で受ける機構等があることが知られているが、これらは切断中の加工物を支持したり排出方向を規制するものである。このような従来の方法では、スライスされた加工物の厚み精度が悪かった。
具体例をあげると、半導体ウェハを平坦化するための化学機械研磨装置に用いる研磨パッドにおいて、研磨層やクッション層には、発泡ポリウレタン等のシート状加工物が用いられる。このようなポリウレタンシートは、バンドナイフより上流にあるロールにて枚葉のブロックを押し出しながら切断する方法で作製されていたが(特許文献1)、この方法ではバンドナイフより下流の張力を制御できないため加工物の厚みを精度良くスライスすることが難しかった。
【特許文献1】特表平8−500622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑みてスライスされた加工物の厚み精度を向上させるスライサーを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明者らは、切断中に変化するバンドナイフ下流側の張力を制御することができないため、スライスされた加工物の厚み精度が悪くなることを見出した。すなわち、スライス加工中に張力が変化すると加工物の厚みが変わるため、スライス刃面を一定に保っていても厚みの変化量を少なく抑えることができなかったのである。それを解決するために鋭意努力した結果、以下の手段を見出した。
【0005】
本発明のスライサーは、上記課題を解決するためにバンドナイフ下流にスライス中の加工物を牽引する機構を設けてスライス中の張力変動を制御するという手段を採用する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、スライスされた加工物の厚み精度が向上したスライサーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のスライサーとは、ベルト式の刃(バンドナイフ)をスライスする面に沿って移動させながら加工物のスライスを行う装置のことである。バンドナイフは、帯板の短辺を鋭利に加工して加工物に当ててスライスする。スライスする加工物の外側にバンドナイフを移動させる機構があり、加工物をバンドナイフに押し出す機構がバンドナイフの上流側にある。加工物を押し出す機構は、スライスする面と平行のテーブル上に加工物を載せて1対のニップロールによってバンドナイフ側に押し出す方法が知られている。
【0008】
押し出された加工物はバンドナイフにより2分割され始めるが、分割され始めた加工物をスライスする面に対して一定の角度で、すなわち牽引方向が一定になるように牽引する機構がバンドナイフの直ぐ下流にある。牽引は、加工物の幅方向に均一に張力を伝達できるロールやベルトまたはチャック等の機構が好ましく、加工開始から加工終了まで同じ張力となるようにトルクモータ等で制御する。バンドナイフの下流には、分割された加工物を支持するガイドが必要であり、スライス面に対して一定の角度に配置した平板やロールを使うことが一般的である。
【0009】
バンドナイフの刃面はグラインダにより加工されるため、先端形状はグラインダの径とバンドナイフに押し込む量で決まる。グラインダはバンドナイフの周回途中に配置されることが多く、加工物のスライス中にバンドナイフを研磨することもある。最適な先端形状は加工物の硬さによって変化するが、加工物を刃面に押し付けた際に欠損しないように設定する必要がある。刃が欠損すると、加工物の表面に痕が残って厚み精度が悪化する。刃の材質は、工具用炭素鋼材を使用するのが一般的である。
【0010】
バンドナイフの移動速度は一定であることが望ましく、一般的には1.0〜10.0m/分の間に設定する。バンドナイフの移動速度が遅すぎると切れ味が悪くなり、バンドナイフの変形が原因でスライス面を一定に保つことが難しくなる。逆に速度が早すぎるとバンドナイフの振れを抑えることが難しくなり、同様の原因で厚み精度が悪化する。このほか、バンドナイフと加工物の摩擦により熱が発生して加工物への影響がでることがあり、摩擦係数を減らす目的で潤滑をする場合もある。
【0011】
加工物を押し出すニップロールは、加工材の進行方向に対する振れを抑える働きがあるため、強度を重視して径を大きくするほうが望ましい。しかし、径を大きくするとバンドナイフとニップロールの間にできる隙間が小さくなり、分割できる加工材の厚みが制限される。バンドナイフ先端の位置をニップロール最下点より下流側にすることによって分割厚みが大きくなるが、この距離が大きくなると材料が振れて厚み精度が悪くなる。ニップロール径を小さくしつつ逃げを抑えるために、ニップロールの上方に逃げをなくす抑え機構をつけるか、強度の高い材質を選定する必要がある。一般に厚みが15mm程度の加工物をスライスする際のニップロールの径は30〜50mm程度として、ニップロールのたわみを補強するガイドを上方に取り付ける。
【0012】
加工物を押し出す速度は、一般的には0.5〜5.0m/分に設定する。早すぎるとバンドナイフが変形して加工精度が悪くなる。遅すぎると摩擦熱による加工物への影響が懸念される。
【0013】
牽引機構に用いるベルトの表面は平坦で、加工物の幅方向に広く配置することが望ましい。凹凸のあるベルトや幅の狭いベルトは、加工物を局部的に変形させる恐れがあるため避けるほうが好ましい。加工物がベルト表面で滑ると張力が不均一となるため、摩擦係数をできるだけ大きい材質を選定することが望ましい。幅の狭いベルトを幅方向に並べると、幅の広いベルトと同様の効果を得ることができる。
【0014】
同様にロールの形状は、平坦かつ加工物の幅方向に広くすることが望ましい。材質は、加工物との摩擦係数をできるだけ大きい方が好ましい。
【0015】
牽引機構用のチャックは、把持力が小さいものを幅方向に広く、または数が多く配置することが望ましい。把持力が大きすぎると材料が変形してしまうが、小さすぎると滑って張力を制御できない。
【0016】
牽引速度は、張力をかけるために加工物を押し出す速度より若干速い値に設定される。
【0017】
牽引張力は、幅1000mmx厚み20mm程度の樹脂材料の場合で50kg以下が望ましい。50kg以上では、樹脂の厚み変化が大きく加工精度が悪くなる場合がある。
【0018】
バンドナイフの直ぐ下流とは、サンプルの大きさや剛性に依るが、この距離が短いほど張力を制御しながら切断する加工物の長さが広がるため望ましい。実施例に記載程度のサンプルの大きさであれば、刃先の先端から加工物の流れ方向へ100mm程度までの範囲が好ましい。すなわち、実質的に厚み精度が向上されたサンプルが得られれば特に限定されない。
【実施例】
【0019】
以下に実施例によって、さらに本発明の詳細を説明する。しかし、本実施例により本発明が限定して解釈される訳ではない。スライサーは(株)室田製作所製スライサー(型番5BMHYD−5182)を使用した。
【0020】
図は本発明の好ましい実施様態による概略斜視図(図1)と主要部分の断面図(図2)である。スライサーは、刃を押さえる機構02によって押さえられたバンドナイフ01をスライスする面S1に沿って移動させながら加工物21のスライスを行う。加工物21をテーブル03上に載せて、一対のニップロール10と11によってバンドナイフ01側に押し出す。押し出された加工物21はバンドナイフ01により2分割される。分割された加工物21は、S1面に対して一定のスライスする面と牽引する方向のなす角度αとβで牽引する二対の牽引ベルト04と05および06と07によって牽引される。二対の牽引ベルト04〜07は、バンドナイフ01の下流側にあって、分割された加工物21の加工開始から加工終了まで同じ張力となるように制御する。バンドナイフ01の下流側にはガイド08と09およびロール12と13があって、分かれた加工物21を支持している。
【0021】
バンドナイフは、幅86mmx厚み1.25mmx周長8230mm、材質SK5[JIS G4401 炭素工具鋼鋼材]である。バンドナイフの先端は、径250mm、厚みが19mmのCBN[立方晶窒化ホウ素焼結体]製グラインダ(#170)にて刃先研磨した。ナイフ周速は4.0m/分、加工物を押し出す速度を0.8m/分、牽引速度は1.0m/分、張力は上側が12kg/m、下側が17kg/mとなるように設定した。角度について、α=β=30°である。牽引は、幅1000mmのポリウレタン製ベルトを材料の中央部に配置した。
【0022】
この条件でポリウレタンに対するメチルメタクリレートの含有率60%、発泡倍率1.5倍、大きさが1000mm×1000mm×30mmの発泡体である加工物から、厚み2.3mmのシートを4枚スライスした。厚み測定について、ミツトヨ製マイクロゲージ(型番:ID−C125B、測定子:超硬Carbide(M2.5×0.45)底面球状)圧空圧力:0.1MPaを用いて測定した。また測定点は、加工物の中央部:780mm×780mmの領域について、130mm間隔の格子状に49箇所とした。各枚については49点中の最大値と最小値の差を厚み精度としたが、上記の結果はスライスした4枚の最大値である。結果は、厚み精度が0.18mm、同条件で牽引がないときの厚み精度は0.31mmであった。4枚それぞれのシートの結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の好ましい実施態様による概略斜視図
【図2】本発明の好ましい実施態様による主要部分の断面図
【符号の説明】
【0025】
01:バンドナイフ
02:刃を押さえる機構
03:テーブル
04:牽引ベルト
05:牽引ベルト
06:牽引ベルト
07:牽引ベルト
08:ガイド
09:ガイド
10:ニップロール
11:ニップロール
12:ロール
13:ロール
21:加工物
S1:スライスする面
α:スライスする面と牽引する方向のなす角度
β:スライスする面と牽引する方向のなす角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枚葉で投入される加工物をバンドナイフでスライスするスライサーであって、スライス中の加工物を牽引する機構を有することを特徴とするスライサー。
【請求項2】
牽引方向が加工物の供給方向に対して一定であって、牽引張力を制御する機構を有する請求項1記載のスライサー。
【請求項3】
牽引する機構が、ロールおよび/またはベルトおよび/またはチャックである請求項1または2に記載のスライサー。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のスライサーでスライスされた加工物を研磨層および/またはクッション層に用いた研磨パッド。

【図1】
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【図2】
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