説明

スライド式つる下げ構造、つる下げ誘引システム、つる下げ誘引方法およびつる下げ部材

【課題】 つる下げ方式にて行う果菜類等の施設栽培において、作業労力の軽減、省力化を実現することのできる、つる下げ方法を提供すること。
【解決手段】 スライド式つる下げ構造は、栽培植物体をつる下げ誘引する誘引紐4と、誘引紐4の下垂する長さを自在に調節する円筒状等のスライド部材1と、栽培植物体上方に略水平方向に設けられたスライド部材1が摺動可能なレール3とを備え、誘引紐4は、その固定用端部4Fが該レール3等に固定され、レール3に摺設されたスライド部材1の中空部5を通って下垂され、下垂領域4Dにおいて栽培植物体が誘引紐4上に支持されるように設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスライド式つる下げ構造、つる下げ誘引システム、つる下げ誘引方法およびつる下げ部材に係り、特に、つるの誘引を誘引紐によるつる下げ方式にて行うトマト等の施設栽培において、作業労力の軽減、省力化を実現することのできる、スライド式つる下げ構造、つる下げ誘引システム、つる下げ誘引方法およびつる下げ部材に関する。
【背景技術】
【0002】
トマト等果菜類のつる下げ誘引は、たとえばトマトであれば、誘引紐とトマトの茎を保持クリップ等で結合させて行っている。そして、トマトの成長に従い、必要な都度、つる下げする際につるをいったん持ち上げて、クリップを外し、つる下げしてから再度クリップを取り付けるという作業が必要である。
【0003】
クリップを外さずにつる下げできる器具(誘引紐用結束具)も従来存在するが、フック等で誘引紐を掛けているワイヤーを一定間隔で上部から固定している部分は、いったんフックを外してトマトのつるを持ち上げて移動させる必要がある。また、特開2001−231373号公報(特許文献1)には固定桁と可動桁とガイドローラの組合せにより一斉につる下げできる装置が開示されているなど、つる下げ作業を装置的に補助・支援するための提案も、従来なされている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−231373号公報「植物の栽培方法及びその装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1などの装置は、重装備かつ高価であり、導入は容易ではない。果実のついているトマトのつるは重みがあり、つる下げ作業は重労働であるから、これらの作業労力の軽減・省力化を、より簡易な構造、安価、かつ導入容易な方法で図ることができれば便宜であり、作業効率向上、生産コスト削減にもつながる。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点を除き、つるの誘引を誘引紐によるつる下げ方式にて行う果菜類等の施設栽培において、作業労力の軽減、省力化を実現することのできる、スライド式つる下げ構造、つる下げ誘引システム、つる下げ誘引方法およびつる下げ部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は上記課題について検討した結果、円筒状もしくは円環状のスライド部材とこれが摺動可能なレールを備えた構成によって上記課題の解決が可能であることを見出し、本発明に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される、もしくは少なくとも開示される発明は、以下のとおりである。
【0008】
(1) 施設栽培におけるつる下げ誘引を行うためのスライド式つるさげ構造であって、該構造は、栽培植物体をつる下げ誘引するための誘引紐と、該誘引紐の下垂する長さを自在に調節するための円筒状もしくは円環状のスライド部材と、および栽培植物体上方に略水平方向に設けられた該スライド部材が摺動可能なレールとを備えてなり、該誘引紐は、その一方端部である固定用端部が該レールまたはその他の固定物に固定され、該レールに摺設された該スライド部材の中空部を通って下垂され、その下垂する領域において栽培植物体が該誘引紐上に支持されるように設けられており、かかる構成により、該スライド部材を該レール上で摺動させることで該誘引紐が該スライド部材から下垂する部分の長さを調節可能であることを特徴とする、スライド式つる下げ構造。
(2) 前記スライド部材はその側面に欠切部が設けられて断面が略C字状をなしており、かかる構成により、前記レールを栽培施設内に固設するための結合用部材が該レール上に設けられている場合であっても、該スライド部材は、その欠切部位置を該結合用部材位置に合わせることによって、これを通り抜けることが可能であることを特徴とする、(1)に記載のスライド式つる下げ構造。
【0009】
(3) 前記スライド部材は、前記誘引紐が下垂するための縁部が面取りされているかまたは丸みを有する形状に形成されていることを特徴とする、(1)または(2)に記載のスライド式つる下げ構造。
(4) 前記スライド部材は、前記結合用部材を通り抜けるための欠切部の縁部が、該欠切部の左右両側において面取りされているかまたは丸みを有する形状に形成されていることを特徴とする、(1)ないし(3)のいずれかに記載のスライド式つる下げ構造。
【0010】
(5) (1)ないし(4)のいずれかに記載のスライド式つる下げ構造を用いてなるつる下げ誘引システムであって、適用される栽培植物体の各株に共通した仕様で、かつ株ごとに、用いられる前記誘引紐ならびに前記スライド部材が準備されており、一の株用の該スライド部材であって紐下垂用の末端をなすスライド部材を摺動させることにより、隣接する株用のスライド部材を摺動させることができるよう、各スライド部材が前記レール上に連続的に摺設されていることを特徴とする、つる下げ誘引システム。
(6) (1)ないし(4)のいずれかに記載のスライド式つる下げ構造を用いて行うつる下げ誘引方法であって、栽培植物体は支持用部材によって前記スライド部材から下垂された前記誘引紐上に初期的に支持され、つる下げ必要時においては前記レール上にて該スライド部材の摺動がなされることによって該誘引紐の下垂長が長くされてつる下げがなされ、この際必要に応じて、栽培植物体上の前記初期的支持位置よりも先端部よりの位置が、新たに該支持用部材によって該誘引紐上に支持されることを特徴とする、つる下げ誘引方法。
【0011】
(7) 略水平方向に設けられるレール状構造に摺設可能なスライド部材であって、(1)ないし(4)のいずれかに記載のスライド式つる下げ構造に用いることのできる、スライド部材。
(8) 塩化ビニール等プラスチック材料によりなることを特徴とする、(7)に記載のスライド部材。
【発明の効果】
【0012】
本発明のスライド式つる下げ構造、つる下げ誘引システム、つる下げ誘引方法およびつる下げ部材は上述のように構成されるため、これによれば、作業の労力軽減、省力化を実現することができる。つまり、ハウス等の施設でつる下げ誘引を必要とするトマト等の果菜類の栽培において、つる下げ作業を必要とするときにつるを持ち上げることなく、本発明に係るスライド部材を移動させるだけで簡単に誘引紐が下がり、つる下げすることができる。しかも、植物の成長に応じて任意にどこまでもつる下げすることができる。
【0013】
また、構成は単純であり、市販のハウス部品等を利用することによっても本発明を安価かつ容易に構成することも可能で、経営規模に関わらず導入が容易であり、作業効率向上、生産コスト削減にも寄与することができる。
【0014】
なおまた、本発明のスライド部材とレールの組み合わせを用いることによって、物品の移動運搬を低労力かつ迅速に行うことができる。たとえばこれを施設の通路に設置し、収穫かご等を取り付ければ、軽量収穫物等運搬手段として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を図面により詳細に説明する。
図1は、本発明のスライド式つる下げ構造の基本的構成を示す説明図である。図において本スライド式つる下げ構造は、施設栽培におけるつる下げ誘引を行うためのスライド式つるさげ構造であって、該構造は、栽培植物体をつる下げ誘引するための誘引紐4と、該誘引紐4の下垂する長さを自在に調節するための円筒状もしくは円環状のスライド部材1と、および栽培植物体上方に略水平方向に設けられた、該スライド部材1が摺動可能なレール3とを備えてなり、該誘引紐4は、その一方端部である固定用端部4Fが該レール3またはその他の固定物に固定され、該レール3に摺設された該スライド部材1の中空部5を通って下垂され、その下垂する領域4Dにおいて栽培植物体が該誘引紐4上に支持されるように設けられていることを、主たる構成とする(上記(1)の発明)。
【0016】
かかる構成の本発明スライド式つる下げ構造により、該固定用端部4Fが該レール3等に固定された該誘引紐4は、該レール3に摺設された該スライド部材1の中空部5を通って下垂され、その下垂する領域(下垂領域)4Dにおいて栽培植物体が該誘引紐4上に支持される。このようにして栽培植物体は該誘引紐4によってつる下げ誘引がなされる。該スライド部材1は該レール3上において略水平方向に自在に摺動でき、それに従い該誘引紐4の下垂領域4Dとその他の予備的領域との境界は、該スライド部材1の紐下垂用端部1Eによって決められ、該スライド部材1が固定用端部4Fに近い位置にあるほど下垂領域4Dは長くなり、逆に該スライド部材1が固定用端部4Fから離れた位置にあるほど下垂領域4Dは短くなる。このようにして該誘引紐4は、その下垂領域4Dの長さが、該スライド部材1の該レール3上での摺動によって自在に調節される。
【0017】
該下垂領域4Dの長さが自在に調節されることにより、該誘引紐4の自由端部4Gは、その鉛直方向上位置が自在に調節される。つまり、該誘引紐4によって支持された栽培植物体の被支持位置は、その鉛直方向上位置が自在に調節される。そのことはすなわち、誘引対象である栽培植物体の被支持位置を自在に上下できるということであり、かかる作用により、必要に応じた栽培植物体全体の鉛直方向上位置を変更する調節ができる。
【0018】
かかる作用について、図1の(a)、(b)間の変化を例に、改めて説明する。まず(a)では、固定用端部4Fにおいてレール3等に固定された誘引紐4は、該レール3に摺設されたスライド部材1の中空部5を通って該スライド部材1の紐下垂用端部1Eから下方に下垂され、該紐下垂用端部1Eに掛かる位置から自由端部4Gまでの間が、下垂領域4Dとなる。該スライド部材1は固定用端部4Fから離れたレール3上位置にあり、これにより該下垂領域4Dは短くなっている。この状態は、図示しない栽培植物体上の特定の鉛直方向上位置を、ある程度高い位置にて支持する状態である。
【0019】
(a)でのスライド部材1の位置を、(b)のように固定用端部4F側に近づけるに従い、該スライド部材1の紐下垂用端部1Eも当然、該固定用端部4Fに近づくため、該下垂領域4Dの長さは長くなる。これにより、該自由端部4Gの鉛直方向上位置は下がり、この状態は、栽培植物体上の特定の鉛直方向上位置を、低い位置に下げることができる状態である。つまり、該特定位置とそれより下方の植物体部分は、下方に下げられ、該特定位置よりも上方に成長した植物体部分が、上部空間を占めることができ、該誘引紐4に新たに支持され得るということである。
【0020】
このような作用によって、該スライド部材1を水平方向に摺動させることで、つる下げ誘引における上下方向位置を自在に調節でき、栽培植物体をその都度持ち上げたり、保持することなしに、当初の支持位置を下げて、その上方にある新たな支持位置を該誘引紐4上に支持することができる。
【0021】
図2は、栽培植物体の成長に応じた本発明スライド式つる下げ構造の作動状況を示した説明図である。図では、一の栽培植物体30が初期的に誘引された時期の状態を(I)とし、その後成長した時期の状態を、右方向への時間の流れで、順に(II)、(III)として、一の図に同時に示している。栽培植物体30は、説明の便宜のためその幹(主たる茎)部分だけで表示している。
【0022】
まず(I)で、植物体30は位置30Aにて誘引紐4により初期的に支持されている。ここでは、その位置を自由端部4Gとしている。該誘引紐4による下垂領域の長さは、スライド部材1−Iのレール3上位置にて決められている。
【0023】
(II)は、植物体30がある程度成長した時期であり、該スライド部材1−IIが固定用端部4F寄りに摺動されていることにより、該誘引紐4の下垂領域は長くなり、それにつれて初期的に支持された位置30Aはやや下がった位置に来る。該位置30Aよりも上方の位置30Bが新たに支持されることで、時期(II)におけるつる下げがなされる。
【0024】
同様に、(III)は、植物体30がさらに成長した時期であり、該スライド部材1−IIIが固定用端部4F寄りにさらに摺動されていることにより、該誘引紐4の下垂領域はさらに長くなり、それにつれて(I)の時期に初期的に支持された位置30Aはさらに下がった位置に来る。位置30Bも下がった位置に来る。該位置30Bよりも上方の位置30Cが新たに支持されることで、時期(III)におけるつる下げがなされる。
【0025】
図において、該スライド部材1の摺動は、操作や運転によるものも、あるいはまた、変化する栽培植物体30の重力によりなされるものも含む。また、図中、該誘引紐4の固定用端部は該レール3以外の構造に固定されているように図示されているが、これは固定用端部が該レール3またはその他の固定物に固定されていればよいことを示し、特に図示されるような固定方法に限定するものではない。
【0026】
図3は、本発明のスライド式つる下げ構造の構成例につき、その一部断面を示す説明図である。また、
図4は、図3に示す例に係るスライド部材の構成を示す説明図である。図中51−Bは、51−Aが後述する加工を施されたものを示す。これらの図に示すように、前記スライド部材51は、その側面に欠切部52が設けられて断面が略C字状をなして形成されているものとすることができる(上記(2)の発明)。
【0027】
かかる構成により本例のスライド式つる下げ構造では、前記レール53を栽培施設内に固設するための結合用部材56が該レール53上に設けられている場合であっても、該スライド部材51は、その欠切部52位置を該結合用部材56位置に合わせることによって、これを通り抜けることができる。
【0028】
図4の51−Bに示すように前記スライド部材51は、前記誘引紐54が下垂するための縁部つまり紐下垂用端部51Eが面取りされているか、または丸みを有する形状に形成されたものとすることができる(上記(3)の発明)。かかる構成により、該誘引紐54が該紐下垂用端部51E位置を擦過する際の抵抗、摩擦が軽減され、該誘引紐54の劣化を抑制することができる。
【0029】
図4−2は、図4の51−Bに示す丸み形状の形成部分を示す、図4に係るスライド部材の一部断面図である。紐下垂用端部は丸み形状を有する状態(51ER)に形成されている。
【0030】
図4の51−Bに示すように前記スライド部材51は、前記結合用部材56を通り抜けるための欠切部52の縁部が、該欠切部52の左右両側において面取りされているかまたは丸みを有する形状に形成されている構成とすることができる(上記(4)の発明)。これにより、該結合用部材56を有するレール53上での該スライド部材51が、摺動方向左右に傾斜した姿勢で摺動するような場合であっても、その摺動の円滑が維持されやすくなる。
【0031】
図5は、本発明つる下げ誘引システムに用いる基本構成の例を示した説明図である。図の上下各段は、上段図中に示されたスライド部材の一つを下段図に示すように上下反転させたことを示している。また、
図6−1、図6−2は、図5に示した基本構成の例を用いた本発明つる下げ誘引システムの実施例を示す説明図であり、図6−2は図6−1の植物体の成長によりつる下げをした状態の図である。なお図6−1、6−2では、スライド部材を破線により示している。
【0032】
これらの図に例示されるように、本発明のつる下げ誘引システムは、上述したいずれかのスライド式つる下げ構造を用いて構成されるが、適用される栽培植物体の各株に共通した仕様で、かつ株ごとに、用いられる前記誘引紐54ならびに前記スライド部材51が準備されており、一の株用の該スライド部材51であって紐下垂用の末端をなすスライド部材51を摺動させることにより、隣接する株用のスライド部材51を摺動させることができるよう、各スライド部材51が前記レール53上に連続的に摺設されていることを、主たる構成とする(上記(5)の発明)。
【0033】
ここで、適用される栽培植物体の各株に共通した仕様とは、栽培植物体の草丈や株間等の栽培条件により規定できる仕様であって、該スライド部材51であればたとえばその摺動方向長さや株間の摺設個数、該誘引紐54であればたとえばばその長さ等が該当する。また、株ごとに準備とは、共通仕様のこれら構成要素が各株ごとの単位で設けられることをいう。
【0034】
図5に示すように、該スライド部材51を連続して隣接させて摺設することにより、一の株用の該スライド部材51であって紐下垂用の末端をなすスライド部材51を摺動させれば、隣接する株用のスライド部材51を摺動させることができ、複数の株用のスライド部材51を、同時にまたは連続した作用の中で、同一方向に摺動させることができる。
【0035】
図5において、前出図4に示したような欠切部を有するスライド部材とすることにより、該スライド部材51は該欠切部52を上方に向ければ、レール53の栽培施設内固設用の結合用部材56を通り抜けて自在に左右に摺動することができる。一方、図の下段部に示すように、該スライド部材51’の該欠切部52を反転させ下方に向けることによって、該スライド部材51’を該結合用部材56の位置で停止させ、もしくはこれに連続した複数のスライド部材51の摺動を同時に停止させることができる。このようにして本システムでは、一または複数の該スライド部材51の摺動を自由自在に行えるとともに、たとえば植物体重量によるものなど、不要な摺動をとめるための停止措置を、必要に応じて、また、停止の必要なスライド部材51の数を調節自在な状態で、自由に行うことができる。
【0036】
図6−1、6−2に例示するように、また既に図1、2を用いて基本的に説明したように、本発明スライド式つる下げ構造、つる下げ誘引システムを用いることによって、栽培植物体は適宜の支持用部材510によって前記スライド部材51から下垂された前記誘引紐54上に初期的に支持され、つる下げ必要時においては前記レール53上にて該スライド部材51の摺動がなされることによって該誘引紐54の下垂長が長くされてつる下げがなされ、この際必要に応じて、栽培植物体上の前記初期的支持位置よりも先端部よりの位置が、新たに該支持用部材10によって該誘引紐54上に支持される、というつる下げ誘引方法を行うことができる(上記(6)の発明)。
【0037】
本発明に係るスライド部材としては、実施例に後述するように、塩化ビニール等プラスチック材料製のものを用いることができ(上記(8)の発明)、容易に実施することができる。また、これも実施例に述べるように該スライド部材は、これが摺設されるレール状構造とともに、本発明の課題であるスライド式つる下げ構造以外の施設栽培における用途に用いることもできる(上記(7)の発明)。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
実施例1を、前出図3、4、5、6−1ならびに6−2を適宜実施例用として参照しつつ、および新たに図7、8−1、8−2ならびに8−3も用いて説明する。ここで、
図7は、実施例1に用いた部品の構成を示す説明図、
図8−1は、実施例1に用いたレールの構成を示す上面図、下面図ならびに側面図(上から順に)、
図8−2は、図8−1に示したレールの使用状態における8−II部分の拡大断面図、
図8−3は、図8−1に示したレールの使用状態における8−III部分の拡大断面図である。
【0039】
図3、5および7に示すように、本実施例1では、パイプハウス資材等簡単に入手できる資材を用い、しかも単純な構造で、パイプハウス用の直管をレール 53として利用し、これより一回り大きい水道用の塩化ビニール製パイプを短く切ってこれをスライド部材51(以下、「スライドパイプ」あるいは単に「パイプ」ともいう)としてレール53を通し、これをスライドさせることができるようにした。かかる構成により、により、所定の間隔で配置した誘引紐54が、パイプ51をレール53上でスライドさせるだけで下がるようにした。
【0040】
これらの図に示すように、スライドパイプ51は、レール53を障害がなく両端まで移動できるように構成した。レール53は上部から一定間隔で、タイピン等の結合用部材56(以下、「金具」とする)で固定されているため、スライドパイプ51として単に円形断面のパイプをそのまま用いるのでは、金具56の部分が障害となり、スライドパイプの移動は制限される。そこで、図4に示すように、スライドパイプ51の側面に両端面と連続する幅1cm程度の欠切部52を設けた。
【0041】
図4、7に示すように、欠切部52の幅はスライドパイプ51に植物体の重量がある程度加わってもレール53から外れず、かつ、レール53を固定している金具510を通過する際、障害とならないような幅とした。また、スライドパイプ51が移動する際、移動方向の左右に傾きが生じた場合であっても、スームズにレール53の固定金具510部分を通過できるように、スライドパイプ51の両端は丸みを持たせた形状とした。
【0042】
図3に示すように、スライドパイプ51内側とレール53との間には、トマト等栽培植物体を誘引するための誘引紐54が、5〜6本程度は通過できる空間55を設けた。
【0043】
図4に示すように、スライドパイプ51の両端の下部には溝状構造を設け、スライドさせて誘引紐54が下がるときに、誘引紐54に擦過による傷付き、劣化が生じないよう、滑らかさを持たせた形状とした。
【0044】
スライドパイプ51の長さは、トマト等栽培植物体の栽培条件、たとえば株間によって任意に決めることができる。
【0045】
図5に示すように、スライドパイプ51は反転させた際に、その欠切部52を通して誘引紐54を外すことができる。それによって栽培植物体のつる下げの長さを調整できるため、スライドパイプ51は短いほど、微調整が可能であるといえる。また、スライドパイプ51はレール53を上部から固定している金具56部分の直前で反転させるとストッパーの役割も果たすことは、上述の通りである。
【0046】
<実施例2>
実施例1を基本として構成されるトマト栽培用のつる下げ誘引システムについて説明する。本例についても、前出各図を実施例用として参照しつつ説明する。
【0047】
スライドパイプ51としては、25mm水道用塩化ビニール製パイプを利用し、欠切部52を設けた。欠切部52の幅は1cm程度とした。この幅は、スライドパイプ51がトマトを誘引する誘引紐54の重さでレール53から外れず、かつ、レール53を固定している金具56を通過する際、障害とならない幅である。外径19mmのレール53と内径25mmのスライドパイプ51の間には、空間55が存在しており、誘引紐54が数本存在してもスライドパイプ51の移動になんら支障がないように構成した。なお、レール53は22mm程度のものでも使用に支障はない(図3、7)。
【0048】
スライドパイプ51の両端に丸味を持たせる点は、実施例1と同様である(図4)。スライドパイプ51の長さは任意に決められるが、本例ではトマトの株間45cmの半分の22.5cmとした。これは、スライドパイプ51を反転させることにより、誘引紐54を自由に外すことが可能になり、誘引紐54を下げる際22.5cm分の微調整を可能とできるからである。また、レール53を固定している金具56を通過する直前で反転させることにより、ストッパーの役割も果たすことも、実施例1と同様である(図4、5)。
【0049】
図3に示すとおりレール53が設置される限り、スライドパイプ51はどこまでも移動可能である。レール53は取り付けしている金具56を、ハウス用の支持パイプ57にフック部分を掛けることにより吊り下げることができる(図5、7)。
【0050】
レール53には固定用金具56を取り付ける穴58と、誘引紐54を取り付ける穴59を設けた。固定用金具56はレール53の下側から金具56のナットを入れて取り付けた。誘引紐54はレール53の上側から結び目511を作って取り付けることができる(図8−1、8−2、8−3)。なお、固定用金具としては前述の通り、タイピンを用いることができる。
【0051】
図6−1、6−2を用いてトマトのつる下げ誘引への利用例を示す。トマトは、長期栽培では10数段以上の果房を収穫するが、その場合のつる長は3m以上にもなる。誘引紐54は目標のつる長に合わせて任意に決められるが、つる下げする方向に誘引紐54を取り付けて、スライドパイプ51の中を通し、トマトの株の位置から垂れ下げて、トマトの茎を保持クリップ510で保持する。
【0052】
トマトがスライドパイプ51付近まで生育したら、順次つる下げしたい分スライドパイプ51を移動することによって、つる下げが可能となる。つる下げ後は、別の保持クリップ510をつるが垂れ下がらないように上部に取付け、株の下部に取り付けた前回の保持クリップ510は、順次となりの株の上部に取り付けていけばよい(図6−1、6−2)。
【0053】
以上説明したように本発明のスライド式つる下げ構造等は、スライド部材を摺動させることで誘引紐を適宜の長さに垂下させ、それによってつる下げができるが、スライド部材の摺動が容易になされる状態に構成される限り、栽培植物体の重量でもって自然にスライド部材が摺動して誘引紐が垂下し、自然に良好なつる下げが行われる作用を得ることも、もちろんできる。
【0054】
また、以上の説明では、スライド部材の摺動が停止、固定される方法としては、栽培施設内に固設するための結合用部材を挙げたが、これに限定されず、適宜の摺動停止用手段を用いることができる。たとえば、スライド部材ごとに、レールに対するネジ止めを可能とする構造、洗濯ばさみのような、レール上の適宜の位置に取り付けることでスライド部材のストッパーとなり得るような構造、等である。
【0055】
<実施例3>
図9は、本発明のスライド部材とレールの組み合わせを、収穫物の運搬に利用する場合についての説明図である。図示されるように、スライドパイプ51とレール53の組み合わせをハウス内通路に設置し、スライドパイプ51に収穫かご吊り用のロープ512を取り付け、ロープ512に収穫かご513を吊り下げることによって、低労力かつ迅速な収穫物の運搬に利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のスライド式つる下げ構造、つる下げ誘引システム、つる下げ誘引方法およびつる下げ部材は上述のように構成されるため、これによれば、作業の労力軽減、省力化を実現することができる。また、構成は単純であり、市販のハウス部品等を利用することによっても本発明を安価かつ容易に構成することも可能で、経営規模に関わらず導入が容易であり、作業効率向上、生産コスト削減にも寄与することができる。したがって、産業上利用価値が高い発明である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のスライド式つる下げ構造の基本的構成を示す説明図である。
【図2】栽培植物体の成長に応じた本発明スライド式つる下げ構造の作動状況を示した説明図である。
【図3】本発明のスライド式つる下げ構造の構成例につき、その一部断面を示す説明図である。
【図4】図3に示す例に係るスライド部材の構成を示す説明図である。
【図4−2】図4の51−Bに示す丸み形状の形成部分を示す、図4に係るスライド部材の一部断面図である。
【図5】本発明つる下げ誘引システムに用いる基本構成の例を示した説明図である。
【図6−1】図5に示した基本構成の例を用いた本発明つる下げ誘引システムの実施例を示す説明図である。
【図6−2】図6−1とともに、図5に示した基本構成の例を用いた本発明つる下げ誘引システムの実施例を示す説明図である。
【図7】実施例1用いた部品の構成を示す説明図である。
【図8−1】実施例1に用いたレールの構成を示す上面図、下面図ならびに側面図(上から順に)である。
【図8−2】図8−1に示したレールの使用状態における8−II部分の拡大断面図である。
【図8−3】図8−1に示したレールの使用状態における8−III部分の拡大断面図である。
【図9】本発明のスライド部材とレールの組み合わせを、収穫物の運搬に利用する場合についての説明図である。
【符号の説明】
【0058】
1…スライド部材
1E…紐下垂用端部(スライド部材の縁部)
1−I、1−II、1−III…植物体の各成長時期におけるスライド部材
3…レール
4…誘引紐
4D…下垂領域
4F…固定用端部
4G…自由端部
5…スライド部材の中空部
30…栽培植物体
30A、30B、30C…植物体上の支持位置
51、51’…スライド部材
51−A…スライド部材
51−B…加工したスライド部材
51E…紐下垂用端部(スライド部材の縁部)
51ER…丸み形状を形成した紐下垂用端部(スライド部材の縁部)
52…欠切部
53…レール
54…誘引紐
55…誘引紐収納空間
56…結合用部材(固定用金具、タイピン)
57…支持パイプ
58…レールの固定用金具用穴
59…レールの誘引紐取付穴
510…保持クリップ
511…誘引紐結び目
512…収穫かご吊り用ロープ
513…収穫かご




【特許請求の範囲】
【請求項1】
施設栽培におけるつる下げ誘引を行うためのスライド式つるさげ構造であって、該構造は、栽培植物体をつる下げ誘引するための誘引紐と、該誘引紐の下垂する長さを自在に調節するための円筒状もしくは円環状のスライド部材と、および栽培植物体上方に略水平方向に設けられた該スライド部材が摺動可能なレールとを備えてなり、該誘引紐は、その一方端部である固定用端部が該レールまたはその他の固定物に固定され、該レールに摺設された該スライド部材の中空部を通って下垂され、その下垂する領域において栽培植物体が該誘引紐上に支持されるように設けられており、かかる構成により、該スライド部材を該レール上で摺動させることで該誘引紐が該スライド部材から下垂する部分の長さを調節可能であることを特徴とする、スライド式つる下げ構造。
【請求項2】
前記スライド部材はその側面に欠切部が設けられて断面が略C字状をなしており、かかる構成により、前記レールを栽培施設内に固設するための結合用部材が該レール上に設けられている場合であっても、該スライド部材は、その欠切部位置を該結合用部材位置に合わせることによって、これを通り抜けることが可能であることを特徴とする、請求項1に記載のスライド式つる下げ構造。
【請求項3】
前記スライド部材は、前記誘引紐が下垂するための縁部が面取りされているかまたは丸みを有する形状に形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のスライド式つる下げ構造。
【請求項4】
前記スライド部材は、前記結合用部材を通り抜けるための欠切部の縁部が、該欠切部の左右両側において面取りされているかまたは丸みを有する形状に形成されていることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載のスライド式つる下げ構造。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のスライド式つる下げ構造を用いてなるつる下げ誘引システムであって、適用される栽培植物体の各株に共通した仕様で、かつ株ごとに、用いられる前記誘引紐ならびに前記スライド部材が準備されており、一の株用の該スライド部材であって紐下垂用の末端をなすスライド部材を摺動させることにより、隣接する株用のスライド部材を摺動させることができるよう、各スライド部材が前記レール上に連続的に摺設されていることを特徴とする、つる下げ誘引システム。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれかに記載のスライド式つる下げ構造を用いて行うつる下げ誘引方法であって、栽培植物体は支持用部材によって前記スライド部材から下垂された前記誘引紐上に初期的に支持され、つる下げ必要時においては前記レール上にて該スライド部材の摺動がなされることによって該誘引紐の下垂長が長くされてつる下げがなされ、この際必要に応じて、栽培植物体上の前記初期的支持位置よりも先端部よりの位置が、新たに該支持用部材によって該誘引紐上に支持されることを特徴とする、つる下げ誘引方法。
【請求項7】
略水平方向に設けられるレール状構造に摺設可能なスライド部材であって、請求項1ないし4のいずれかに記載のスライド式つる下げ構造に用いることのできる、スライド部材。
【請求項8】
塩化ビニール等プラスチック材料によりなることを特徴とする、請求項7に記載のスライド部材。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図9】
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