説明

スラスタトンネル開閉装置

【課題】燃費効率の改善、開閉駆動機構の小型軽量化、既存就航船への適用、または、スラスタ効果の阻害抑制を意図したスラスタトンネル開閉装置を提供する。
【解決手段】喫水線17下の船体10内に形成され、その前後方向に直交するトンネル11の開口16を閉鎖する扉18を開閉するスラスタトンネル開閉装置において、前記扉18を前記トンネル11の開口16から外開きに開閉するように構成し、且つ、前記扉18の外面形状を船体外板曲面に沿った形状にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用のスラスタを収容するスラスタトンネルの開閉装置に係り、詳しくは、船舶の水面下にあって横方向に移動するための推力を生じさせるサイドスラスタのトンネルの開口部を閉鎖するための蓋を改良したスラスタトンネル開閉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンテナ船やロールオン・ロールオフ貨物船、旅客フェリーなど頻繁に入出港を繰り返す船においては、岸壁への離着岸作業などを容易にするための補助推進装置、すなわち、船舶に対して横方向の推進力を発生するためのサイドスラスタが装備されていることが多い。特に船腹内収容型のスラスタのことを「トンネルスラスタ」という。
【0003】
図6は、トンネルスラスタの構造図である。この図において、船体1の喫水線下に設けられた断面円形状のトンネル2は、船体1の両側面に常時開放する開口3、3を有しており、且つ、そのトンネル2の内部にスラスタ4を設けている。スラスタ4は、モータ5とプロペラ6で構成されており、たとえば、離着岸の際に、モータ5を駆動してプロペラ6を回転させることにより、船体1に対して横方向の推進力(矢印AまたはB参照)を与え、離着岸作業の容易化を図る。
【0004】
ところで、図示のトンネルスラスタは、トンネル2の開口3、3が船体1の両側面に“常時開放”する構造になっている。このため、この開口3、3によって船体抵抗が増加し、燃費効率の悪化を招く結果、運行コストの増加要因になっている。また、燃料消費量の増加はすなわち重油等の燃料油消費の増加となりCO2排出量の増加を招く結果となっている。
【0005】
ここで、開口3、3による燃費効率の悪化を1%と仮定したときの運行コストの増加を概算する。たとえば、燃料価格を500ドル(1ドル=110円)とし、燃料消費量200t/日、航海日数300日/年のコンテナ船を対象とした場合、1%の燃費効率悪化は金額換算で500×200×300×0.01×110=3千3百万円にもなる。このように、高々1%であっても大きな金額になるので、トンネル2の開口3、3の抵抗を軽減できる有効な対策は重要な意味がある。かかる対策としては、たとえば、下記の特許文献1に記載のもの(以下、従来技術という。)が知られている。
【0006】
この従来技術では、開口を閉鎖するための円形状の蓋(同文献ではスラスタカバーと称している)を備えている。このスラスタカバーは、半円状の2枚のパネルを上下に連結して円形状に構成されており、2枚のパネル(以下、上部パネルと下部パネル)は、その連結部分を、船体前後方向を回転軸とするヒンジ機構としてトンネル内部に折り曲げ可能になっている。トンネルの開放は、駆動機構により、上部パネルと下部パネルをトンネル内部に断面略“く”の字状に折り曲げるとともに、その折り曲げ状態のまま、スラスタカバーを船体内部の上方に引き上げることによって行っている。
【0007】
【特許文献1】特開平1−111600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記の従来技術にあっては、以下の問題点がある。
(1)燃費改善効率の限界:
従来技術のスラスタカバーは2枚のパネルを連結したものであるが、パネル連結部のヒンジ機構の動きを阻害しないために、その連結部分(つまり、ヒンジの回転軸)は直線でなければならず、結局、スラスタカバーは、そのヒンジの回転軸に沿って平坦な面になっているものと考えられる。トンネルの開口が設けられる船体部分の形状は実際には平坦ではなく、とりわけ船首付近の形状は、水流に対する抵抗を綿密に計算した複雑な形状(三次元曲面)になっている。したがって、従来技術のように、ヒンジの回転軸に沿って平坦な面になっているスラスタカバーを当該船体部分に設けた場合は、そのスラスタカバーによって三次元曲面が部分的に損なわれることとなり、結局、ある程度の推進抵抗の増加を招くことに変わりなく、速力低下もしくは推進エネルギーのロスの改善という観点からは十分効果を得ることは難しいという問題点がある。
(2)スラスタ効果の阻害:
従来技術のスラスタカバーは、カバーを開とした状態においてもトンネル周辺にカバーの一部が残存するので、スラスタにより発生する横方向の水流の障害となり、スラスタ本来の設備目的である横方向の移動能力を阻害させる原因となっている。
(3)開閉駆動機構の大型化:
鋼板で作られたスラスタカバーは当然ながら重く、とりわけ大型船にあっては船体外板と同等の厚板が使用され、且つ、スラスタカバーの面積も大きくなるので、より重量が増すことになるため、従来技術にあっては、スラスタカバーの開閉には十分な強度を有する機構と強力な駆動装置を必要とし、結局、駆動機構の大型化を招くという問題点がある。
(4)既存就航船への適用困難性:
既存就航船へ新たにスラスタカバーを設置しようと考えた場合、上記の(3)により、スラスタカバーそのものとともに駆動機構と駆動装置の設置には大がかりな改修工事が必要なため、定期ドック程度の短い工事期間しか確保できない既存就航船への適用が難しいという問題があった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、燃費効率の改善、開閉駆動機構の小型軽量化、既存就航船への適用、または、スラスタ効果の阻害抑制を意図したスラスタトンネル開閉装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、喫水線下の船体内に形成され、その前後方向に直交するトンネルの開口を閉鎖する扉を開閉するスラスタトンネル開閉装置において、前記扉を前記トンネルの開口から外開きに開閉するように構成し、且つ、前記扉の外面形状を船体外板曲面に沿った形状にしたことを特徴とするスラスタトンネル開閉装置である。
請求項2記載の発明は、前記扉は、回転駆動源の出力軸周りを所定半径の円弧を描きながら開閉することを特徴とする請求項1に記載のスラスタトンネル開閉装置である。
請求項3記載の発明は、前記トンネルの外側であって且つ前記船体の内部に小部屋を設け、該小部屋に前記扉の開閉機構を収容したことを特徴とする請求項1に記載のスラスタトンネル開閉装置である。
請求項4記載の発明は、前記開閉機構は、回転駆動源と、前記扉の裏面に取り付けられた鎌形状ロッドとを含み、該回転駆動源の出力軸周りに前記鎌形状ロッドを回転させることにより、前記扉を前記トンネルの開口から外開きに開閉することを特徴とする請求項3に記載のスラスタトンネル開閉装置である。
請求項5記載の発明は、前記扉を外殻と、その外殻に包囲された空間とにより構成したことを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のスラスタトンネル開閉装置である。
請求項6記載の発明は、前記扉を外殻と、その外殻に包囲された浮力部材とにより構成したことを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のスラスタトンネル開閉装置である。
請求項7記載の発明は、前記外殻は、強化プラスチック、ケブラー樹脂またはその他の樹脂素材若しくはその他の軽量素材で形成されていることを特徴とする請求項5または6いずれかに記載のスラスタトンネル開閉装置である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明では、喫水線下の船体内に形成され、その前後方向に直交するトンネルの開口を閉鎖する扉を開閉するスラスタトンネル開閉装置において、前記扉を前記トンネルの開口から外開きに開閉するように構成し、且つ、前記扉の外面形状を船体外板曲面に沿った形状にしたので、トンネル開口の閉鎖によって水流の流れを阻害することがなくなり、推進抵抗を抑えることができ、燃費効率の改善とCO2排出の抑制を図ることができる。
請求項2記載の発明では、前記扉は、回転駆動源の出力軸周りを所定半径の円弧を描きながら開閉するので、扉を開としたときにトンネルの開口を大きく開くことができ、スラスタ水流の乱れを生じない。したがって、スラスタの効果を損なわない。
請求項3記載の発明では、前記トンネルの外側であって且つ前記船体の内部に小部屋を設け、該小部屋に前記扉の開閉機構を収容したので、メンテナンスを容易にでき、長期にわたる信頼性を確保できる。
請求項4記載の発明では、前記開閉機構は、回転駆動源と、前記扉の裏面に取り付けられた鎌形状ロッドとを含み、該回転駆動源の出力軸周りに前記鎌形状ロッドを回転させることにより、前記扉を前記トンネルの開口から外開きに開閉するので、回転駆動源の出力軸は、軸のシールによって水密化するといった簡単な構造にすることができ、メンテナンスの容易化を図り、長期にわたる信頼性を確保することができる。
請求項5記載の発明では、前記扉を外板に面する面と内側の壁面との間に空間有する体積を持つ構造(外殻と内部空間を有する構造)とするため、扉そのものの浮力を利用して蓋の見かけ自重を軽減することができ、開閉機構への荷重を軽くして駆動力の低減を図ることができる。
請求項6記載の発明では、前記扉を外板に面する面とその内側に取りけられた浮力部材とにより構成したので、浮力部材の浮力を利用して扉の見かけ自重を軽減することができ、開閉機構への荷重を軽くして駆動力の低減を図ることができる。
請求項7記載の発明では、前記扉の外板面を含む外殻の材質そのものを、強化プラスチック、ケブラー樹脂またはその他の樹脂素材若しくはその他の軽量素材で形成されているので、扉の見かけ自重を軽減することができ、開閉機構への荷重を軽くして駆動力の低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明における様々な細部の特定ないし実例および数値や文字列その他の記号の例示は、本発明の思想を明瞭にするための、あくまでも参考であって、それらのすべてまたは一部によって本発明の思想が限定されないことは明らかである。また、周知の手法、周知の手順等(以下「周知事項」)についてはその細部にわたる説明を避けるが、これも説明を簡潔にするためであって、これら周知事項のすべてまたは一部を意図的に排除するものではない。かかる周知事項は本発明の出願時点で当業者の知り得るところであるので、以下の説明に当然含まれている。
【0013】
図1は、実施形態のスラスタトンネル開閉装置を示す構成図であり、この図は、船体10の船首部付近を船体10の進行方向に直交して切断したときの断面を示している。
この図において、船体10の左右方向を貫いて形成された断面円形状のトンネル11の内部にはスラスタ12が設けられており、このスラスタ12は、トンネル11の天井部分(ここでは天井部分とするが、これに限らず、トンネル11の内壁であればどこでも構わない。)に取り付けられた基台13と、この基台13に係止されたモータ14と、このモータ14の回転に伴って水流を発生するプロペラ15とを含んで構成されている。
【0014】
トンネル11の開口16は、船体10の左右舷側の各々で開放しており、且つ、その開口16は喫水線17より下に位置している。ここでは、トンネル11の一方端側の開口16しか示していないが、これは図示の都合である。トンネル11の他方端側にも同様の開口が存在する。なお、喫水線17とは、船腹に描かれる水中沈下表示線のことをいい、より正確には、載貨による船体の海中沈下が許される最大限度を示す線(満載喫水線)のことをいうが、本明細書では、満載に限定せず、最も軽い積載状態における船体10の水没レベル(言い換えれば水面レベル)を意味するものとする。その理由は、スラスタは満載や軽積載にかかわらず、水中に没して利用可能な状態になるよう設計されているからであり、最も軽い積載状態のときの水没レベル以下にトンネル11の開口16を位置させておけば、常に(満載の際にも)スラスタが水中に没することになるからである。
【0015】
トンネル11の両端の開口16には、この開口16を閉鎖するための扉18が設けられており、この扉18は開口16と同様の略円形状で、且つ、この開口16の内側に丁度収まる適切な外形をなしている。なお、本実施形態では「扉」と称するが、その他の呼称、たとえば、「蓋」や「カバー」または「トンネルカバー」等であってもよい。
【0016】
扉18の上端部には円弧状アーム19の一端が取り付けられており、この円弧状アーム19の他端は、直線状腕木20を介して回転駆動源(典型的にはモータ21)の出力軸(シャフト22)に取り付けられている。これらの円弧状アーム19と直線状腕木20は、その直線状腕木20が「棒状の持ち手」の形をなすと共に、その円弧状アーム19が持ち手の先に取り付けられた「円弧状の刃」の形をなすので、一体となって鎌形状ロッド23を構成する。
【0017】
モータ21のシャフト22の一部と直線状腕木20及び円弧状アーム19は、トンネル11の外側であって且つ前記船体の内部(ここではトンネル11の天井裏)に設けられた小部屋24に収容されており、この小部屋24と船体10の内部とは隔壁25によって仕切られている。小部屋24はトンネル11と連通しており、この小部屋24はトンネル11と同様に船外から入り込む水(海水等)で満たされるが、防水対策はモータ21のシャフト22の部分(詳しくはシャフト22が貫通する隔壁25の部分)にのみ行えばよく、軸の防水シールで可能となる。
【0018】
モータ21の回転は、シャフト22を介して直線状腕木20及び円弧状アーム19並びに扉18に伝えられる。具体的には、モータ21を回転させると、直線状腕木20と円弧状アーム19の結合点P1がシャフト22の中心点P0の周り、すなわち、回転駆動源(モータ21)の出力軸(シャフト22)の周りを半径Rの円弧26を描きながら移動し、この移動に伴って扉18が開閉する。ここで、円弧状アーム19は上記の「半径Rの円弧26」に沿った形状を有しており、したがって、扉18の開閉は、上記の「半径Rの円弧26」に沿って行われる。
【0019】
扉18の外面は船体と同等の材料で外板の三次曲面に沿った形状となっているが内部は中空で体積を有する蓋である。従って水中にて蓋(扉18)そのものに浮力が生じるため円弧状アーム19や直線状腕木20への重量負担の軽減が見込める。浮力を利用する方策としては、船体10の材料よりも薄く軽い素材(強化プラスチック、ケブラー樹脂またはその他の樹脂素材若しくはその他の軽量素材など)からなる外殻18aと、その外殻18aに包囲された浮力部材18bとからなり、この浮力部材18bには、少なくとも水よりも比重が軽いもの、たとえば、発泡スチロールやハニカム構造体などの軽量素材を使用することもできる。なお、この浮力部材18bは、必ずしも形のある“部材”である必要はない。空気や窒素などの気体であってもよい。かかる気体も水より比重が軽いためである。気体とする場合は、扉18を、外殻18aと、その外殻18aに包囲された空間(ただし、水の侵入を阻止する構造を有する空間)とにより構成すればよい。
【0020】
図2(a)は、モータ21、シャフト22、直線状腕木20、円弧状アーム19及び扉18の外観図である。これらの部材(モータ21、シャフト22、直線状腕木20、円弧状アーム19及び扉18)は、図示の通り、一体化されており、モータ21のシャフト22の回転に伴い、円弧状アーム19の円弧に沿って移動する。なお、この図では、扉18の外殻18aを一部破断して、内部の浮力部材18bを露出させているが、これは説明の便宜であり、実際には浮力部材18bは、外殻18aに隠れて見えない。
また、モータ21は隔壁25の裏側(船体内)に設けられており、モータ21のシャフト22は隔壁25に形成された防水加工(例:防水シール)が施された穴25aに挿通されている。
さらに、ここでは扉18の表面(船体外側になる面)を平坦に描いているが、これは図示の都合である。実際にはスラスタ取り付け部分の船体形状に合わせた曲面(三次元曲面)になっている。
図2(b)及び(c)は、扉18の断面図である。(b)に示すように、扉18は、外殻18aと、その外殻18aに包囲された浮力部材18bとから構成されているが、この構成に限定されない。たとえば、(c)に示すように、浮力部材18bを使用せずに、外殻18aの内側を空間18cとしてもよい。この場合、空間18cは空気等の気体で満たされている必要があり、且つ、周囲の外殻18aによってその気密性が保たれている必要がある。
【0021】
図3は、開放状態の扉18を示す図である。この図に示すように、モータ21のシャフト22を回転させると、円弧26に沿って円弧状アーム19が移動し、その円弧状アーム19に取り付けられた扉18が船体10の外側にせり出し、最終的に、扉18が図示の開放位置に至る。
【0022】
この状態でスラスタ12のプロペラ15を回転させると、トンネル11の軸方向(つまり船体10の進行方向に直交する方向)に水流が発生し、この水流に伴う推進力によって船体10が横移動するので、離着岸作業の容易化が図られる。
【0023】
図4は、実施形態のシステム構成図である。この図において、スラスタトンネル開閉装置は、操舵室27に設けられた操舵室操作部28と、スラスタ動力室29に設けられた動力室操作部30と、コンピュータ(CPU)31aを用いたプログラム制御方式の制御部31と、右舷側スラスタトンネル開閉部32と、左舷側スラスタトンネル開閉部33とを含む。なお、動力室操作部30は必ずしも必要ではない。一般的には操舵室27とスラスタ動力室29が離れている大型船にしか装備されない。
【0024】
操舵室操作部28及び動力室操作部30は共に同一の構成を有しており、乗組員によってスラスタトンネル開閉スイッチ34が操作されたときに、その操作信号を制御部31に出力し、また、制御部31で異常警報が出力されたときに、異常警報ランプ35を点灯表示する。
【0025】
右舷側スラスタトンネル開閉部32と左舷側スラスタトンネル開閉部33も共に同一の構成を有しており、モータ21(右舷側の場合はR、左舷側の場合はLで識別する。以下同様。)と、扉18が閉鎖位置(図1の位置)にあることを検出する閉センサ36と、扉18が開放位置(図3の位置)にあることを検出する開センサ37とを含む。なお、図示の例では、右舷側のモータ21Rと左舷側のモータ21Lを備えているが、これに限定されない。たとえば、一台のモータの回転出力をリンク機構を介して右舷側と左舷側に振り分けるようにしてもよい。
【0026】
制御部31は、後述の制御プログラムをCPU31aで実行することにより、スラスタトンネル開閉スイッチ34の操作に応答して扉18の開閉制御を行うと共に、扉18の開閉異常を判定し、異常があった場合は操舵室操作部28及び動力室操作部30の異常警報ランプ35を点灯表示させてその旨を乗組員に告知する。
【0027】
図5は、制御プログラムの概略フローを示す図である。このフローは、制御部31のCPU31aで所定時間ごとに実行される。このフローを開始すると、まず、左右の扉18の開閉状態が一致しているか否か、つまり、左右両方の扉18が共に開または共に閉であるか否かを判定する(ステップS1)。この判定結果がNOの場合は左右の扉18の状態が不一致(開と閉)であり、これはあり得ない状態であるから、何らかのトラブルが発生していると判断して異常警報を出力し、異常警報ランプ35を点灯表示させて(ステップS2)、フローを終了する。
【0028】
ステップS1の判定結果がYESの場合、すなわち、左右両方の扉18が共に開または共に閉である場合はシステムに異常がないと判断し、次に、操作信号の有無を判定する(ステップS3)。この操作信号は、操舵室操作部28または動力室操作部30から出力される信号であり、いずれも各々の操作部27、29に設けられているスラスタトンネル開閉スイッチ34の操作を示す信号である。
【0029】
そして、操作信号がない場合は、開閉操作が行われていないと判断して、そのままフローを終了するが、操作信号がある場合は、次に、左右の扉18の現在の開閉状態を判定し(ステップ4)、その開閉状態ごとに、以下の処理を実行する。
【0030】
<扉18が開の場合>
まず、左右のモータ21を閉方向に駆動し(ステップS5)、扉18が閉鎖されたか否かの判定を左右の閉センサ36の出力に基づいて行う(ステップS6)。
【0031】
このステップS6で扉18の閉鎖が判定されたときは、そのままフローを終了するが、実際には、扉18が開から閉になるまでには「ある時間Ta」を要するので、このステップS6の判定結果は、少なくとも時間Taを経過するまでYESにならない。
【0032】
このため、その間、ステップS6を単純にループさせてもよいが、ここでは、念のために「所定時間Tb」の経過を判定し(ステップS7)、その判定結果がNOの間だけステップS6に戻すようにする。「所定時間Tb」は、先の「ある時間Ta」に若干のマージン時間を加えたものである。このようにすると、「所定時間Tb」を経過しても、ステップS6の判定結果がYESにならない場合、つまり、扉18が開から閉にならない場合は、何らかのトラブルが発生しているものと判断することができ、異常警報を出力して異常警報ランプ35を点灯表示(ステップS8)させてからフローを終了することができる。
【0033】
<扉18が閉の場合>
まず、左右のモータ21を開方向に駆動し(ステップS9)、扉18が開放されたか否かの判定を左右の開センサ37の出力に基づいて行う(ステップS10)。
【0034】
このステップS10で扉18の開放が判定されたときは、そのままフローを終了するが、実際には、扉18が閉から開になるまでには「ある時間Tc」を要するので、このステップS10の判定結果は、少なくとも時間Tcを経過するまでYESにならない。
【0035】
このため、その間、ステップS10を単純にループさせてもよいが、ここでは、念のために「所定時間Td」の経過を判定し(ステップS11)、その判定結果がNOの間だけステップS10に戻すようにする。「所定時間Td」は、先の「ある時間Tc」に若干のマージン時間を加えたものである。このようにすると、「所定時間Td」を経過しても、ステップS10の判定結果がYESにならない場合、つまり、扉18が閉から開にならない場合は、何らかのトラブルが発生しているものと判断することができ、異常警報を出力して異常警報ランプ35を点灯表示(ステップS8)させてからフローを終了することができる。
【0036】
以上のとおりに構成したので、本実施形態によれば、次の特有の効果を奏することができる。
(1)燃費の改善:
トンネル11の両端の開口16を扉18で閉鎖し、扉18の表面(船体の外側となる面)を、船体形状に沿った曲面(三次元曲面)としたので、扉18を閉鎖したときの船体表面が滑らかとなり、抵抗を少なくして燃費の改善やCO2の削減効果を高めることができる。
(2)スラスタ効果の有効性確保:
扉18を船体10の外側に大きく開くことができるので、スラスタ12の水流(プロペラ15の回転に伴う水流)を乱さない。したがって、スラスタ12の効果を損なわない。

(3)開閉駆動機構の小型化:
トンネル11の開口16を閉鎖する扉18を外開きにしたから、スラスタカバーを収容するための大きなスペースを船体10の内部に確保する必要がない。また、扉18を外殻18aと、その外殻18aに包囲された浮力部材18bとにより構成したから、扉18それ自体の浮力により、水中における扉18の自重を軽くすることができ、扉18の開閉に必要な構造と必要動力を小さくして、それだけ構造をシンプルにしかつ駆動機構(モータ21等)を小型化できる。
(4)長期耐久性の確保:
防水対策は、モータ21のシャフト22の部分(詳しくはシャフト22が貫通する隔壁25の穴25a)に防水シールを施すなどして行えばよく、水中部の可動部が無いため、長期にわたってのメンテナンス性能に優れている。
(5)既存就航船への適用:
実施形態のスラスタトンネル開閉装置は、喫水線下の船体左右に開口16を形成し、その開口16内に、スラスタ12を有するトンネル11を装着すると共に、そのトンネル11の外側であって且つ前記船体の内部(実施形態ではトンネル11の天井裏)に小部屋24を設け、その小部屋24に扉18の開閉機構(モータ21や直線状腕木20及び円弧状アーム19)を収容して構成されるが、かかる構成はさほど複雑ではないので、新造船への搭載は当然のこと、既存の就航船に対しても、たとえば、定期ドックの機会を利用して搭載することが十分可能である。また、スラスタ12を有するトンネル11、扉18及び開閉機構をセットにし、汎用品として市場に投入することも可能であり、大量生産に伴う製品単価の低減効果を期待できる。
【0037】
なお、実施形態では、船舶を例にしたが、この“船舶”を狭義に解釈してはならない。船、艇、ボート、舟、艦いずれであってもよい。詳しくは、海や湖、河などの水上(または水中)において、主に人や物を運搬するために用いられる乗り物であればよい。この乗り物には戦闘用艦艇(舟艇)や荷役作業用船舶などの特殊船も含まれる。
【0038】
また、実施形態では、船首部分に設けられたスラスタ(バウスラスタ)を例にしたが、これに限らず、船尾部分に設けられるスラスタ(スターンスラスタ)であってもよい。要は、トンネルスラスタであればよい。
【0039】
また、実施形態では、扉18を開閉するための回転駆動源にモータ21を使用しているが、このモータ21は電動式であっても油圧式であってもよい。
【0040】
また、実施形態では、モータ21のシャフト22の回転をそのまま、直線状腕木20と円弧状アーム19を介して扉18に伝えているが、たとえば、その間に減速機構(例;歯車を組み合わせたもの)を介在させてもよい。このようにすると、その減速比に対応して、モータ21に低出力のものを使用できるようになり、さらに駆動機構の小型化を図ることができるので好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施形態のスラスタトンネル開閉装置を示す構成図である。
【図2】モータ21、シャフト22、直線状腕木20、円弧状アーム19及び扉18の外観図である。
【図3】開放状態の扉18を示す図である。
【図4】実施形態のシステム構成図である。
【図5】制御プログラムの概略フローを示す図である。
【図6】トンネルスラスタの構造図である。
【符号の説明】
【0042】
10 船体
11 トンネル
16 開口
17 喫水線
18 扉
18a 外殻
18b 浮力部材
21 モータ(回転駆動源)
22 シャフト(出力軸)
23 鎌形状ロッド
24 小部屋
26 円弧
P0 中心点
R 半径(所定半径)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の喫水線下の船体内に形成され、その前後方向に直交するトンネルの開口を閉鎖する扉を開閉するスラスタトンネル開閉装置において、前記扉を前記トンネルの開口から外開きに開閉するように構成し、且つ、前記扉の外面形状を船体外板曲面に沿った形状にしたことを特徴とするスラスタトンネル開閉装置。
【請求項2】
前記扉は、回転駆動源の出力軸周りを所定半径の円弧を描きながら開閉することを特徴とする請求項1に記載のスラスタトンネル開閉装置。
【請求項3】
前記トンネルの外側であって且つ前記船体の内部に小部屋を設け、該小部屋に前記扉の開閉機構を収容したことを特徴とする請求項1に記載のスラスタトンネル開閉装置。
【請求項4】
前記開閉機構は、回転駆動源と、前記扉の裏面に取り付けられた鎌形状ロッドとを含み、該回転駆動源の出力軸周りに前記鎌形状ロッドを回転させることにより、前記扉を前記トンネルの開口から外開きに開閉することを特徴とする請求項3に記載のスラスタトンネル開閉装置。
【請求項5】
前記扉を外殻と、その外殻に包囲された空間とにより構成したことを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のスラスタトンネル開閉装置。
【請求項6】
前記扉を外殻と、その外殻に包囲された浮力部材とにより構成したことを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のスラスタトンネル開閉装置。
【請求項7】
前記外殻は、強化プラスチック、ケブラー樹脂またはその他の樹脂素材若しくはその他の軽量素材で形成されていることを特徴とする請求項5または6いずれかに記載のスラスタトンネル開閉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−120396(P2010−120396A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293076(P2008−293076)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000199809)川崎汽船株式会社 (2)