スリップリング及びその製造方法並びにロータリジョイント
【課題】電極間における短絡の発生を可及的に抑制すると共に、簡単な方法による高精度な電極の形成や、装置全体の小型化を可能にする。
【解決手段】スリップリング31は、固定体と、固定体に回転可能に支持された回転体との間で、複数の異なる電気信号を授受する。スリップリング31は、所定の間隔で同心円状に並んで形成された複数の溝部37を有する絶縁性基板32を備え、溝部37の内部表面の少なくとも一部には、ブラシにより摺接される電極33が、絶縁性基板32の表面よりも内側に位置するように形成されている。
【解決手段】スリップリング31は、固定体と、固定体に回転可能に支持された回転体との間で、複数の異なる電気信号を授受する。スリップリング31は、所定の間隔で同心円状に並んで形成された複数の溝部37を有する絶縁性基板32を備え、溝部37の内部表面の少なくとも一部には、ブラシにより摺接される電極33が、絶縁性基板32の表面よりも内側に位置するように形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転側と固定側との間で電気信号を授受するためのスリップリング、及びそのスリップリングの製造方法、並びにそのスリップリングを備えたロータリジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
スリップリング(以降、電気信号スリップリングとも称する)は、例えば、ロボットのアームの先端に装着されるロータリジョイント等に設けられ、電気信号を固定体及び回転体の間で授受するように構成されている。ここで、ロータリジョイントは、ロボットのアームの先端に取付固定される固定体と、ロボットのハンド側に取付固定され、固定体に回転可能に連結支持された回転体とを備えている。そして、回転体が固定体に対し回転しても、ロボットのアーム側とハンド側との間で電気や流体が授受できるようになっている。
【0003】
電気信号スリップリングは、例えば、回転体に固定して設けられた円板状の絶縁性基板と、その絶縁性基板の表面に同心円状に形成された複数の電極と、固定体に装着されて上記電極に摺接するブラシユニットとを有している。ブラシユニットは、各電極にそれぞれ対応して配置された複数のブラシを有している。こうして、ブラシユニットの各ブラシは、絶縁性基板の回転に伴って対応する各電極に摺接し、回転体と固定体との間で複数の電気信号を授受するようになっている。
【0004】
ここで、上記複数の電極をフォトリソグラフィにより形成することで、これらの電極を絶縁性基板上で効率よく配置させることが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1のスリップリングは、拡大断面図である図23に示すように、絶縁性基板101と、その絶縁性基板101の一方の表面に設けられた複数の電極102とを有している。
【0005】
絶縁性基板101の一方の表面には、同心円状に並ぶ複数の銅層103が形成されている。各銅層103及び絶縁性基板101には、これらを貫通する孔104が形成され、各孔104には銅105が充填されている。一方、上記各銅層103の表面には、銅からなる電極102がそれぞれ形成されている。こうして、上記各電極102は、絶縁性基板101の上で同心円状に配置される。
【0006】
また、電極の製造方法の一例として、絶縁性基板の表面にプレス加工した銅箔を接着することも知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2のスリップリングは、拡大断面図である図24に示すように、電極202が、絶縁性基板201の表面に接着剤203を介して接着固定されている。電極202及び絶縁性基板201には、これらを貫通する孔204が形成され、各孔204内には銅205が設けられている。
【0007】
各電極202を形成する場合には、まず、1枚の銅箔を同心状にV字溝が並んだ波形に型押ししたものを、接着剤203を介して絶縁性基板201に接着する。その後、上記波形の銅箔における山の部分をそれぞれ除去することによって、複数の電極202を形成する。
【特許文献1】特開2000−228265号公報
【特許文献2】特開2001−186725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上記従来のスリップリングは、電極と絶縁性基板との関係では、電極が凸部となって絶縁性基板上に設置された構造となっているのが一般的である。また、隣り合う各電極同士の間は、絶縁性基板の上方で間隙が設けられることによって絶縁されている。このような構造を形成するゆえ、隣り合う電極同士の間に塵埃が溜まると、その電極間で容易に短絡が生じる虞れがある。その結果、回転体側と固定体側との間で、電気信号を確実に授受することが困難になる。
【0009】
加えて、上記従来のスリップリングでは、電極が絶縁性基板の表面から突出して形成されているので、隣り合う電極同士の間で絶縁性を確保するために、各電極間の間隙を比較的広く設ける必要がある。すなわち、各電極間の間隙は、流される電流電圧と距離との関係で決まり、装置のコンパクト化を困難にしている。
【0010】
さらに、上記特許文献1のスリップリングには、製造に非常に手間がかかるという問題がある。すなわち、特許文献1では、複数の層からなる積層体をパターン形成するために、レジストの形成や、露光、現像、及び銅膜の形成を含むフォトリソグラフィ工程を複数回繰り返す必要があるため、その工程が極めて多くなり、製造コストが嵩むことが避けられない。一方、特許文献2では、波形形状の銅箔を絶縁性基板に貼り付けた後に、波形の銅箔における複数の山の部分を、それぞれ精密に除去しなければならいが、このような銅の薄膜の精密加工は、実際には極めて困難である。つまり、特許文献2には、電極を高精度に形成することが難しいという問題がある。
【0011】
本発明は、斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、スリップリングの隣り合う電極間における短絡の発生を可及的に抑制すると共に、簡単な方法による高精度な電極の形成や、装置全体の小型化を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、この発明では、円板状の絶縁性基板に複数の溝部を同心円状に形成し、その溝部の内部表面に対して、電極を絶縁性基板の表面よりも内側に位置するように形成した。
【0013】
具体的に、本発明に係るスリップリングは、固定体と、該固定体に回転可能に支持された回転体との間で、複数の異なる電気信号を授受するスリップリングであって、上記固定体及び回転体の一方に設けられ、所定の間隔で同心円状に並んで形成された複数の溝部を有する円板状の絶縁性基板を備え、上記絶縁性基板の溝部の内部表面の少なくとも一部には、上記絶縁性基板の表面よりも内側に位置するように電極が形成され、上記電極は、上記固定体及び回転体の他方に設けられたブラシにより摺接される。
【0014】
上記溝部は、該溝部の開口側端部に上記電極が設けられていない側壁を有していることが好ましい。
【0015】
上記電極は、導電性のメッキ膜、フォトリソグラフィにより形成された導電性膜、及び導電性の印刷膜の何れか1つにより構成されていることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係るロータリジョイントは、固定体と、該固定体に回転可能に支持された回転体と、上記固定体及び固定体の間で複数の異なる電気信号を授受するスリップリングとを備えたロータリジョイントであって、上記スリップリングは、上記固定体及び回転体の一方に設けられ、所定の間隔で同心円状に並んで形成された複数の溝部を有する円板状の絶縁性基板を備え、上記絶縁性基板の溝部の内部表面の少なくとも一部には、上記絶縁性基板の表面よりも内側に位置するように電極が形成され、上記電極は、上記固定体及び回転体の他方に設けられたブラシにより摺接されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るスリップリングの製造方法は、固定体と、該固定体に回転可能に支持された回転体との間で、複数の異なる電気信号を授受するスリップリングを製造する方法であって、上記固定体及び回転体の一方に設けられる円板状の絶縁性基板に、複数の溝部を所定の間隔で同心円状に並んで形成する第1の工程と、上記絶縁性基板の溝部の内部表面の少なくとも一部に対し、上記固定体及び回転体の他方に設けられるブラシによって摺接される電極を、上記絶縁性基板の表面よりも内側に位置するように形成する第2の工程とを備える。
【0018】
上記第2の工程は、上記溝部を含む上記絶縁性基板の表面全体に導電性のメッキ膜を形成するメッキ工程と、上記メッキ膜が形成された上記絶縁性基板の表面を切削して、上記溝部の外部のメッキ膜を除去することにより、上記複数の溝部の内面に残されたメッキ膜によって複数の電極を形成する切削工程とを有することが好ましい。
【0019】
−作用−
次に、本発明の作用について説明する。回転体が固定体に対して回転すると、絶縁性基板における複数の溝部に形成された各電極は、その各電極毎にブラシにそれぞれ摺接しながら、上記ブラシに対して相対的に回転する。このことにより、スリップリングにおいて、固定体と回転体との間で複数の異なる電気信号が授受される。
【0020】
電極は、絶縁性基板の溝部の内部表面の少なくとも一部に、その絶縁性基板の表面よりも内側に位置するように形成されているため、溝部からのブラシの脱落が未然に防止される。また、隣り合う電極同士の間(つまり、隣り合う溝部同士の間)には絶縁性基板の一部が介在することとなる。すなわち、仮に、隣り合う溝部同士の間に塵埃が溜まったとしても、電極同士の間に塵埃が介在することがないので、隣り合う電極間における短絡を抑制することが可能となる。
【0021】
さらに、隣り合う電極同士の間が絶縁性基板の一部によって確実に絶縁されているため、各電極間の絶縁性を維持しつつ、各電極同士の間隔を狭くすることができる。つまり、電極の数を減らさずにスリップリングを半径方向に小型化することが可能となる。
【0022】
また、スリップリングを製造する場合には、溝部を形成する第1の工程と、電極を形成する第2の工程とを行う。すなわち、第1の工程では、円板状の絶縁性基板に、複数の溝部を所定の間隔で同心円状に並ぶように形成する。その後、第2の工程では、第1の工程で形成した溝部における内部表面の少なくとも一部に対し、電極を絶縁性基板の表面よりも内側に位置するように形成する。
【0023】
第2の工程では、例えば、メッキ工程と切削工程とを行うことが可能である。すなわち、メッキ工程では、溝部を含む絶縁性基板の表面背体に導電性のメッキ膜を形成する。続いて、切削工程では、メッキ膜が形成された絶縁性基板の表面を切削して、溝部の外部のメッキ膜を除去する。そうして、溝部の内面に残されたメッキ膜によって、電極を複数形成する。このことにより、スリップリングの電極を簡単な方法で高精度に形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、まず、電極が絶縁性基板の溝部の内部表面の少なくとも一部に、その絶縁性基板の表面よりも内側に位置するように形成されているため、溝部からのブラシの脱落を抑制できる。その結果、回転体側と固定体側との間の電気信号の授受を確実に維持することができる。
【0025】
さらに、電極が絶縁性基板の表面よりも内側に位置するように形成されているため、仮に、隣り合う溝部同士の間に塵埃が溜まったとしても、電極同士の間に塵埃が介在することがないので、隣り合う電極間における短絡を抑制することができる。その結果、絶縁性を維持しながら電極同士の間隔を小さくして、装置の小型化を図ることができる。
【0026】
そのことに加え、溝部を形成した後に、例えば、絶縁性基板の全体をメッキした後にその絶縁性基板の表面を切削する方法によって、複数の電極を簡単且つ高精度に形成することができ、製造コストの低下及び信頼性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0028】
《発明の実施形態1》
図7〜図10は本発明の実施形態に係るスリップリング31を備えるロータリジョイントAを示し、このロータリジョイントAは、図17に示すように、例えばスポット溶接を行う溶接ロボットRのアーム先端部に装着されるものである。
【0029】
ここで、図7はロータリジョイントAの外観を示す平面図であり、図8は、ロータリジョイントAの外観を示す底面図である。図9は、図7及び図8におけるIX−IX線断面図であり、図10は、図7及び図8におけるX−X線断面図である。また、図17は、溶接ロボットRの外観を示す側面図である。
【0030】
溶接ロボットRは、床面に固定された支持部91と、支持部の上端部に回動可能に支持されたアーム92と、アーム92の先端部にロータリジョイントAを介して回動可能に装着された溶接ガン93とを備えている。
【0031】
溶接ロボットRは、溶接のための大電流が通る大電流ケーブル61と、溶接ガン93自体を駆動するサーボモータ(図示省略)のための中電力が通る中電力ケーブル62と、溶接ガン93を駆動するための電気信号が通る電気信号ケーブル63とを有している。
【0032】
上記大電流ケーブル61は、アーム92に係止固定された第1の大電流ケーブル61aと、先端が溶接ガン93に接続された第2の大電流ケーブル61bとにより構成されている。第1の大電流ケーブル61aの先端は、ロータリジョイントAの固定側大電力コネクタ64に接続されている。一方、第2の大電流ケーブル61bの後端は、ロータリジョイントAの回転側大電力ターミナル65に接続されている。
【0033】
上記中電力ケーブル62は、アーム92に係止固定された第1の中電流ケーブル62aと、先端が溶接ガン93に接続された第2の中電流ケーブル62bとにより構成されている。第1の中電流ケーブル62aの先端は、ロータリジョイントAの固定側中電力コネクタ66に接続されている。一方、第2の中電流ケーブル62bの後端は、ロータリジョイントAの回転側中電力コネクタ67に接続されている。
【0034】
また、上記電気信号ケーブル63は、アーム92に係止固定された第1の電気信号ケーブル63aと、溶接ガン93に接続された第2の電気信号ケーブル63bとにより構成されている。第1の電気信号ケーブル63aの先端は、ロータリジョイントAの固定側電気信号コネクタ68に接続されている。一方、第2の電気信号ケーブル63bの後端は、ロータリジョイントAの回転側電気信号コネクタ69に接続されている。
【0035】
こうして、溶接ロボットRのアーム92側の上記各ケーブル61,62,63は、ロータリジョイントAを介して溶接ガン93にそれぞれ接続され、溶接ガン93に対して必要な電力や電気信号が供給されるようになっている。
【0036】
ロータリジョイントAは、溶接ロボットRのアーム92側に取り付けられる略円筒状の固定体1と、溶接ガン93側(ハンド側)に取り付けられる略円筒状の回転体6とを備えている。回転体6は固定体1に360°以上の角度に回動可能に連結支持されている。
【0037】
図9及び図10に拡大して示すように、上記固定体1は、図9及び図10で上下方向に延びる円筒状のボス部3と、このボス部3の上下方向の略中央部分に一体的に固定されて外向きに延びる固定側フランジ2と、この固定側フランジ2に対して所定の間隔で対向配置された電力スリップリング21とを有している。
【0038】
一方、回転体6は上記固定体1のボス部3の内側に相対回転可能に嵌挿された円柱状の軸部7と、この軸部7の上端に一体的に固定された取付プレートである上側フランジ8と、軸部7の下端に一体的に固定された下側フランジ9と、この下側フランジ9の外側部分に一体的に固定されて外向きに延びる回転側フランジ5と、この回転側フランジ5に対して所定の間隔で対向配置された電気信号スリップリング31とを備えている。上記軸部7と、上側フランジ8と、下側フランジ9とは、図10に示すように、軸部7の軸方向に延びるボルト96によって連結固定されている。
【0039】
上側フランジ8は、上記固定体1のボス部3の上側に配置される一方、下側フランジ9は、上記ボス部3の下側に配置されている。上側フランジ8は、図10に示すように、アーム92の先端部における取付面94にボルト95により取付固定されるようになっている。
【0040】
上記電力スリップリング21は、回転側フランジ5と電気信号スリップリング31との間の隙間に配置されている。一方、電気信号スリップリング31は、固定側フランジ2と電力スリップリング21との間の隙間に配置されている。
【0041】
固定体1のボス部3と回転体6の軸部7との間には固定体1及び回転体6の間で、冷却水や空気等の流体を授受するためのスイベルジョイント11が設けられている。また、固定体1及び回転体6には、上記スイベルジョイント11を含む流体通路12が形成されている。
【0042】
スイベルジョイント11は、図9に示すように、固定体1のボス部3に形成されると共にボス部3の内周方向に延びる複数の環状溝15により構成されている。すなわち、ボス部3の内周面には、例えば6つの環状溝15が上下方向(軸方向)に所定の間隔で形成されている。上記各環状溝15の上下方向(軸方向)両側には、ボス部3の内周方向に延びるシール溝18が形成されている。各シール溝18には、ゴム製のシールリング19が嵌挿され、シールリング19の内周面を、回転体6における軸部7の外周面に摺接させてシールするようになっている。そして、回転体6における軸部7の外周面により閉塞された環状溝15は、上記流体通路12の一部を構成している。
【0043】
流体通路12は、上記スイベルジョイント11の環状溝15と、固定体1に形成された複数の横穴71と、回転体6に形成された複数の縦孔17及び横穴74,75とにより構成されている。
【0044】
上記横穴71は、ボス部3の内部においてボス部3の半径方向に延びるように形成され、内側の一端が上記環状溝15の底部に連通している。横穴71は、各環状溝15毎にそれぞれ設けられている。各横穴71の外側の他端には、固定側流体ポート73がそれぞれ設けられている。
【0045】
上記縦孔17は、軸部7の内部において軸部7の軸方向(図9で上下方向)に延びるように形成されている。各縦孔17は、軸部7の周方向に例えば6つ並んで配置されている。上記横穴74は、一端が縦孔17の上部に連通する一方、他端が上記スイベルジョイント11の環状溝15に連通するように、軸部7に形成されている。各横穴74は、互いに異なる環状溝15に連通している。また、上記横穴75は下側フランジ9に形成され、一端が縦孔17の下部に連通する一方、他端には回転側流体ポート76が設けられている。
【0046】
こうして、流体通路12を流れる流体は、固定側流体ポート73、横穴71、スイベルジョイント11の環状溝15、横穴74、縦孔17、横穴75、及び回転側流体ポート76を介して、固定体1と回転体6との間で授受されるようになっている。
【0047】
上記固定側フランジ2には、図7及び図9に示すように、固定側電気信号コネクタ68が設けられると共に、図8及び図10に示すように、固定側大電力コネクタ64及び固定側中電力コネクタ66が設けられている。一方、回転側フランジ5には、図8及び図9に示すように、回転側電気信号コネクタ69が設けられると共に、図8及び図10に示すように、回転側大電力ターミナル65及び回転側中電力コネクタ67が設けられている。
【0048】
上記電力スリップリング21は、図9及び図10に示すように、リング円板状の絶縁性基板22と、絶縁性基板22の下面に同心円状に配置された大電力用の集電リング23及び中電力用の集電リング24とを有している。絶縁性基板22の外側部分は、固定側フランジ2に対してボルト25により固定されている。
【0049】
絶縁性基板22の下面には、同心円状に複数の溝部26が形成されている。そして、断面図である図15に一部拡大して示すように、例えば、内側の3つの溝部26における底部には、大電力用の集電リング23がろう付けされると共にボルト27等により取付固定されている。一方、例えば外側の6つの溝部26における底部には、中電力用の集電リング24が、同様にろう付けされると共にボルト27等により取付固定されている。
【0050】
回転側フランジ5には、図10に示すように、回転側大電力ターミナル65に接続された大電力用のブラシアッセンブリ28が設けられている。大電力用のブラシアッセンブリ28には、断面図である図16に拡大して示すように、例えば6つのブラシ41が設けられている。各ブラシ41は、回転側フランジ5に対して基端部が固定された板バネ42と、この板バネ42の先端部に設けられた接点43とにより構成されている。上記ブラシアッセンブリ28には、例えば、板バネ42の長さ方向に並ぶ2つのブラシ41が、板バネ42の幅方向に3列に並んで配置されている。そして、各列の2つのブラシ41は、その板バネ42の長さ方向が大電力用の集電リング23の接線方向に向けられた状態で、各大電力用の集電リング23にそれぞれ摺接するようになっている。
【0051】
一方、図10に示すように、絶縁性基板22の上面側には、その絶縁性基板22の半径方向に延びる3つのターミナル51が設けられている。各ターミナル51は、その内側端部が各大電力用の集電リング23にそれぞれ接続される一方、外側端部が固定側大電力コネクタ64に接続されている。つまり、大電力用の集電リング23は、ターミナル51を介して固定側大電力コネクタ64に接続されている。
【0052】
こうして、アーム92側から固定側大電力コネクタ64に供給される溶接用の大電力は、ターミナル51、大電力用の集電リング23、大電力用のブラシアッセンブリ28、及び回転側大電力ターミナル65を介して、溶接ガン93側へ送られるようになっている。
【0053】
また、回転側フランジ5には、図10に示すように、回転側中電力コネクタ67に接続された中電力用のブラシアッセンブリ29が設けられている。中電力用のブラシアッセンブリ29は、図示を省略するが、上記大電力用のブラシアッセンブリ28と同様に板バネと接点とにより構成されたブラシを例えば6つ備えている。この中電力用のブラシアッセンブリ29の各ブラシは、その板バネの長さ方向が中電力用の集電リング24の接線方向に向けられた状態で、各中電力用の集電リング24にそれぞれ摺接するようになっている。
【0054】
一方、絶縁性基板22の上面側には、例えば6本の配線52が設けられている。各配線52は、一端が各中電力用の集電リング24にそれぞれ接続される一方、他端が固定側中電力コネクタ66にそれぞれ接続されている。
【0055】
こうして、アーム92側から固定側中電力コネクタ66に供給されるサーボモータ用の中電力は、配線52、中電力用の集電リング24、中電力用のブラシアッセンブリ29、及び回転側中電力コネクタ67を介して、溶接ガン93側へ送られるようになっている。
【0056】
上記電気信号スリップリング31は、平面図である図4、底面図である図5、及び側面図である図6に示すように、固定体1と回転体6との間で、複数の異なる電気信号を授受するスリップリングであって、絶縁性基板32と、複数の電極33とを備えている。
【0057】
絶縁性基板32は、例えば、ABS、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ベークライト等の樹脂又は、これらにガラス繊維、合成繊維及びカーボン繊維等の繊維が混入された樹脂(いわゆるFRP)により構成することが可能である。そして、図10に示すように、その内縁部において回転側フランジ5にボルト53によって取付固定されている。
【0058】
絶縁性基板32は、図4に示すように、リング円板状に形成されると共に、一方の表面(図9及び図10で上面)に上記複数の電極33が、同心円状に並んで形成されている。一方、絶縁性基板32は、図5に示すように、他方の表面(図9及び図10で下面)に絶縁性基板32の半径方向に延びる配線部34が形成されている。
【0059】
拡大断面図である図1、及び図5に示すように、絶縁性基板32の下面には、絶縁性基板32の半径方向に延びる複数の配線溝35が形成されている。各配線溝35の内側端部35aは、絶縁性基板32の内縁部にそれぞれ形成されている。一方、配線溝35の外側端部35bは、上記各電極33毎にそれぞれ対応して形成されている。すなわち、各配線溝35の内側端部35aから外側端部35bまでの長さは互いに異なっている。また、配線溝35の外側端部35bは、他の部分よりも深い穴に形成されている。
【0060】
配線部34は、図1に示すように、上記配線溝35の内面のみを覆う導電性のメッキ膜36により構成されている。すなわち、絶縁性基板32の下面は、配線溝35の内面がメッキ膜36により覆われているが、その他の部分はメッキ膜36により覆われずに露出している。
【0061】
一方、絶縁性基板32には、図1及び図4に示すように、複数の溝部37が所定の間隔で同心円状に並んで形成されている。各溝部37は、例えば断面U字状の溝に形成され、それぞれ同じ溝幅を有している。
【0062】
電極33は、図1に示すように、複数の溝部37の各内部表面の少なくとも一部に、絶縁性基板32の表面よりも内側に位置するように形成されている。すなわち、電極33は、溝部37の内部表面のみを覆う導電性のメッキ膜38により構成され、後述のブラシ48により摺接されるようになっている。絶縁性基板32の上面は、溝部37の内部表面がメッキ膜38により覆われているが、その他の部分はメッキ膜38により覆われずに露出している。メッキ膜38は、溝部37の内面に沿って形成され薄膜であるため、その表面は溝部37と同じU字状の溝を構成している。こうして、電極33は、絶縁性基板32の表面の外側に突出しておらず、隣り合う電極33同士の間は、絶縁性基板32が介在することによって絶縁されている。
【0063】
尚、溝部37の断面形状は、特にU字状に限られるものではなく、例えば断面V字状や断面凹状等の他の形状であってもよい。また、電極33は、溝部37の内部表面の全体に亘って形成する必要はなく、例えば溝部37の底側部分にのみ形成し、溝部37が、その開口側端部に電極33が設けられていない側壁を有するようにしてもよい。
【0064】
また、図1に示すように、上記配線溝35における外側端部35bの底には、溝部37側へ貫通する貫通孔45が形成されている。貫通孔45の内部表面は、メッキ膜46により覆われている。メッキ膜46は、上記電極33のメッキ膜38と、配線部34のメッキ膜36との双方に連続して一体に形成されている。こうして、電極33及び配線部34は、溝部37の底部を貫通して設けられた接続部47であるメッキ膜46を介して電気的に接続されている。上記接続部47は、各溝部37毎に複数設けられており、図3に示すように、例えば3つの接続部47を、溝部37の長さ方向に所定間隔で並んで配置させることが好ましい。
【0065】
固定側フランジ2には、図9に示すように、固定側電気信号コネクタ68に接続された電気信号用のブラシアッセンブリ30が設けられている。電気信号用のブラシアッセンブリ30には、拡大底面図である図11に示すように、複数のブラシ48が設けられている。各ブラシ48は、側面図である図13に拡大して示すように、電極33との摺接部が凸状に湾曲したモノフィラメントブラシにより構成されている。上記ブラシアッセンブリ30には、図11及び図12に示すように、上記各ブラシ48が、そのブラシ48の幅方向(長さ方向に直交する方向)に2列に並んで配置されると共に、各ブラシ48の摺接部が近接している。そして、各列の2つのブラシ48は、その長さ方向が電極33の接線方向に向けられた状態で、各電極33にそれぞれ摺接するようになっている。
【0066】
一方、図9及び拡大断面図である図14に示すように、絶縁性基板32の下面側には、配線部34に接続される複数の接触端子49が設けられている。各接触端子49は、いわゆるスプリングプローブにより構成されており、バネの付勢力により各配線部34にそれぞれ接触するようになっている。各接触端子49は、配線50を介して回転側電気信号コネクタ69に接続されている。
【0067】
こうして、アーム92側から固定側電気信号コネクタ68に供給される電気信号は、電気信号用のブラシアッセンブリ30、電極33、接続部47、配線部34、接触端子49、配線50、及び回転側電気信号コネクタ69を介して、溶接ガン93側へ送られるようになっている。
【0068】
以上の構成により、ロータリジョイントAは、固定体1に対する回転体6の回転状態でも、電気信号スリップリング31において複数の電気信号を授受されると共に、電力スリップリング21において複数の中電力及び大電力を授受され、さらに、スイベルジョイント11において冷却水等の流体を授受するようになっている。
【0069】
−製造方法−
次に、上記電気信号スリップリング31の製造方法について説明する。
【0070】
本実施形態の製造方法には、溝部37及び配線溝35を形成する第1の工程と、第1の工程の後に行われ、電極33、配線部34及び接続部47を形成する第2の工程とが含まれる。さらに、第1の工程には、溝部形成工程と、配線溝形成工程と、貫通孔形成工程とが含まれる。一方、第2の工程には、例えば、メッキ工程と、切削工程とが含まれる。
【0071】
まず、溝部形成工程では、円板状の絶縁性基板32の一方の表面(上面)に対し、所定の間隔で同心円状に並ぶ複数の溝部37を切削して形成する。また、配線溝形成工程において、絶縁性基板32の他方の表面(下面)に対し、絶縁性基板32の半径方向に延びる複数の配線溝35を形成する。これら溝部形成工程及び配線溝形成工程は、どちらを先に行ってもよい。続いて、貫通孔形成工程において、溝部37の底部を貫通する貫通孔45を、各溝部37毎に3つずつ形成する。
【0072】
次に、メッキ工程では、拡大断面図である図2に示すように、絶縁性基板32における溝部37を含む表面全体に導電性のメッキ膜40を形成する。そのことにより、溝部37及び配線溝35の内面と、貫通孔45の内部とを含む絶縁性基板32の表面には、メッキ膜40が形成される。
【0073】
その後、切削工程において、メッキ膜40が形成された絶縁性基板32の表面を、図2における1点鎖線に沿って切削し、溝部37、配線溝35及び貫通孔45の外部のメッキ膜40を除去する。そのことにより、図1に示すように、複数の溝部37の内面に残されたメッキ膜38によって複数の電極33を形成し、配線溝35の内面に残されたメッキ膜36によって複数の配線部34を形成し、さらに、貫通孔45の内部に残されたメッキ膜46によって複数の接続部47を形成する。こうして、電極33が、溝部37の内部表面に絶縁性基板32の表面よりも内側に位置するように形成される。以上の各工程により、電気信号スリップリング31は製造される。
【0074】
また、ロータリジョイントAは、上記各工程により製造された電気信号スリップリング31と、絶縁性基板22に集電リング23,24が取り付けられて製造された電力スリップリング21と、固定体1と、回転体6とを互いに組み付けることによって、製造される。
【0075】
−実施形態1の効果−
したがって、この実施形態1によると、まず、メッキ膜38によって形成された電極33が溝部37の内部表面に形成されているため、この溝部37からのブラシ48の脱落を防止できる。その結果、固定体1側と回転体6側との間の電気信号の授受を確実に維持することができる。
【0076】
さらに、メッキ膜38である各電極33を、溝部37の内部表面のみに絶縁性基板32の表面よりも内側に位置するように形成したので、隣り合う電極33同士の間に絶縁性基板32の一部を介在させることができる。言い換えれば、絶縁性基板32の一部によって、隣り合う電極33同士の間を絶縁することができる。したがって、仮に、隣り合う溝部37同士の間に塵埃が溜まったとしても、電極33同士の間に塵埃が介在することがないので、隣り合う電極33同士の間における短絡を防止することができる。
【0077】
さらに、隣り合う電極33同士の間が絶縁性基板32の一部によって確実に絶縁されているため、各電極33間の絶縁性を維持しつつ、各電極33同士の間隔を狭くすることができる。つまり、電極33の数を減らさずに電気信号スリップリング31及びロータリジョイントAを半径方向に小型化することができる。
【0078】
そのことに加え、溝部37を形成した絶縁性基板32に対し、その全体をメッキ膜により被覆した後に、絶縁性基板32の表面を切削する方法によって、膜状の電極33を溝部37の内部表面に簡単且つ高精度に形成することができる。その結果、製造コストの低下及び信頼性の向上を図ることができる。
【0079】
《発明の実施形態2》
図18及び図19は、本発明の実施形態2を示している。尚、以降の各実施形態では、図1〜図17と同じ部分については同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0080】
図19に示すように、本実施形態の電気信号スリップリング31は、溝部37の内部表面の一部に電極33が形成されている。電極33は溝部37の内部表面を覆うメッキ膜38により構成されている。また、溝部37は、溝部37の開口側の端部に電極33が設けられていない側壁60を有している。側壁60は、絶縁性基板32の表面に対して垂直な平面によって構成されている。こうして、電極33は溝部37の底側の表面にのみ形成されている。また、この構造の見方を変えると、隣り合う各電極33同士の間には、断面矩形状の凸条に形成された突出部39が設けられているとも言える。
【0081】
この電気信号スリップリング31を製造する場合には、上記実施形態1と同様に、溝部形成工程と、配線溝形成工程と、貫通孔形成工程と、メッキ工程とを行う。そのことにより、拡大断面図である図18に示すように、絶縁性基板32の表面はメッキ膜40により覆われる。
【0082】
その後、切削工程において、図18に矩形波状の1点鎖線で示すように、溝部37における開口側の内部表面を、絶縁性基板32の表面と共に切削除去する。そのことにより、側壁60を有する溝部37が形成される。
【0083】
この実施形態2によると、上記実施形態1と同様の効果を得ることができることに加え、溝部37に電極33が形成されない側壁60を設けるようにしたので、隣り合う電極33同士の間の絶縁性をさらに高めることができる。そのことに加え、側壁60を絶縁性基板32の表面に対して垂直な平面によって構成したので、溝部37からのブラシ48の脱落をさらに確実に抑制することができる。
【0084】
《発明の実施形態3》
図20〜図22は、本発明の実施形態3を示している。
【0085】
上記実施形態1では、接続部47が貫通孔45の内部に形成したメッキ膜46により構成されていたのに対し、拡大断面図である図22に示すように、本実施形態の接続部47はピン55により構成されている。
【0086】
すなわち、絶縁性基板32の貫通孔45には、図22に示すように、例えば銅等の導電性のピン55が嵌挿されている。そして、ピン55の上端は、溝部37の内面と共にメッキ膜38により覆われる一方、ピン55の下端は、配線溝35の内面と共にメッキ膜36により覆われている。そのことにより、電極33(つまり、メッキ膜38)は、接続部47であるピン55を介して、配線部34(つまり、メッキ膜36)に導通されている。
【0087】
この電気信号スリップリング31を製造する場合には、上記実施形態1と同様に、溝部形成工程と、配線溝形成工程と、貫通孔形成工程とを行う。その後、図20に示すように、接続部形成工程を行い、上記貫通孔45にピン55を嵌挿することにより、配線部34と電極33とを接続するための接続部47を形成する。このとき、ピン55の下端部を、配線溝35の表面から僅かに下方へ突出させるようにしてもよい。
【0088】
続いて、図21に示すように、メッキ工程を行い、絶縁性基板32の表面全体に導電性のメッキ膜40を形成する。このことにより、溝部37及び配線溝35の内面と、ピン55の上端及び下端とが、他の絶縁性基板32の表面と共にメッキ膜40により被覆される。
【0089】
その後、上記実施形態1と同様に、切削工程を行い、メッキ膜40が形成された絶縁性基板32の表面を、図21における1点鎖線に沿って切削し、溝部37及び配線溝35の外部のメッキ膜40を除去する。そのことにより、図22に示すように、電極33がピン55を介して配線部34に接続された電気信号スリップリング31が製造される。
【0090】
したがって、この実施形態3によると、貫通孔45の内部をピン55により充填させるようにしたので、そのピン55により電極33と配線部34とを確実に導通させることができる。
【0091】
《発明の実施形態4》
上記実施形態1では、絶縁性基板32の表面をメッキすることにより、電極33や配線部34を形成したが、本実施形態は、これら電極33等を印刷法によって形成したものである。
【0092】
すなわち、本実施形態の電気信号スリップリング31は、絶縁性基板32に対して直接に導電性膜を印刷することにより、図1に示すような導電性膜のパターンを形成する。そして、各パターンによって、電極33、配線部34及び接続部47がそれぞれ形成されている。
【0093】
この電気信号スリップリング31を製造する場合には、まず、上記実施形態1と同様に、溝部形成工程と、配線溝形成工程と、貫通孔形成工程とを行う。その後に、印刷法による電極形成工程と配線部形成工程とを行う。
【0094】
すなわち、電極形成工程では、複数の溝部37の内部表面にのみ、導電性膜38を例えばインクジェット方式で印刷することによって複数の電極33を膜状に形成する。このとき、溝部37の外側における絶縁性基板32の表面には導電性膜が印刷されない。また、配線部形成工程では、上記電極形成工程と同様に、配線溝35の内部表面にのみ、導電性膜36をインクジェット方式で印刷することにより配線部34を膜状に形成する。すなわち、配線溝35の外部における絶縁性基板32の表面には導電性膜が印刷されない。
【0095】
電極形成工程及び配線部形成工程は、何れを先に行ってもよく、同時に行うようにしてもよい。また、上記電極形成工程又は配線部形成工程では、貫通孔45の内部に導電性膜46を印刷して形成することにより、配線部34と電極33とを接続する接続部47を形成する。つまり、接続部47は、電極33又は配線部34と同時に印刷されて形成される。
【0096】
したがって、この実施形態4によると、電極33、配線部34及び接続部47をインクジェット方式等の印刷法によってパターン形成するようにしたので、上記各実施形態における切削工程を行う必要がない。すなわち、工程数を低減して、さらに簡単な方法により電気信号スリップリング31を製造することができる。また、製造コストを低減することが可能となる。
【0097】
尚、本実施形態において、接続部47を印刷法により形成する代わりに、上記実施形態3で説明したようなピン55を貫通孔45に嵌挿することによって形成することが可能である。この場合、ピン55の上端は、溝部37の内面と共に、印刷された導電性膜38により被覆される。一方、ピン55の下端は、配線溝35の内面と共に、印刷された導電性膜36によって被覆される。このようにすれば、印刷によって形成された電極33及び配線部34の間をさらに確実に導通させることができる。
【0098】
《その他の実施形態》
上記実施形態では、電極33を導電性のメッキ膜により形成すること、及び導電性の印刷膜により形成することについて説明したが、その他に、フォトリソグラフィにより電極33を形成することが可能である。
【0099】
すなわち、上記実施形態1と同様に、溝部形成工程と、配線溝形成工程と、貫通孔形成工程とを行う。その後に、溝部37及び配線溝35に対し、フォトリソグラフィによって導電性膜をパターン形成する。そのことにより、溝部37の内部表面に膜状の電極33を形成すると共に、配線溝35の内部表面に膜状の配線部34を形成する。感光性膜の露光や現像を行う工程が必要となるが、特許文献1のように何層にも亘ってフォトリソグラフィを複数回繰り返す必要がなく、また、切削工程を省略することができる。
【0100】
また、上記各実施形態では、スリップリング31を回転体6に設けた例について説明したが、本発明はこれに限らず、固定体1にスリップリング31を設けるようにしてもよい。また、膜状の電極33の構成及びその製造方法は、上記実施形態に限定されるものではない。ブラシの構成についても、特に上記実施形態に限定されない。
【0101】
また、本発明のスリップリング31は、ロータリジョイントAに限らず、その他にも、固定体及び回転体の間で電気信号を授受する構造に対して同様に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上説明したように、本発明は、回転側と固定側との間で電気信号を授受するためのスリップリング、及びそのスリップリングの製造方法について有用であり、特に、スリップリングの隣り合う電極間における短絡の発生を可及的に抑制すると共に、簡単な方法による高精度な電極の形成や、装置全体の小型化を可能にする場合に適している。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】実施形態1の電気信号スリップリングを示す拡大断面図である。
【図2】表面全体がメッキ膜により被覆された絶縁性基板を示す断面図である。
【図3】配線部を拡大して示す底面図である。
【図4】電気信号スリップリングの外観を示す平面図である。
【図5】電気信号スリップリングの外観を示す底面図である。
【図6】電気信号スリップリング31の側断面を示す断面図である。
【図7】ロータリジョイントの外観を示す平面図である。
【図8】ロータリジョイントの外観を示す底面図である。
【図9】図7及び図8におけるIX−IX線断面図である。
【図10】図7及び図8におけるX−X線断面図である。
【図11】電気信号用のブラシアッセンブリを示す底面図である。
【図12】電気信号用のブラシアッセンブリを示す側面図である。
【図13】電気信号用のブラシアッセンブリのブラシを示す側面図である。
【図14】配線部に接触する接触端子を示す側面図である。
【図15】電力スリップリングの要部を拡大して示す断面図である。
【図16】大電力用のブラシアッセンブリを示す側断面図である。
【図17】溶接ロボットの外観を示す側面図である。
【図18】実施形態2における表面全体がメッキ膜により被覆された絶縁性基板を示す断面図である。
【図19】実施形態2の電気信号スリップリングを示す拡大断面図である。
【図20】実施形態3における貫通孔にピンが嵌挿された絶縁性基板を示す断面図である。
【図21】実施形態3における表面全体がメッキ膜により被覆された絶縁性基板を示す断面図である。
【図22】実施形態3の電気信号スリップリングを示す拡大断面図である。
【図23】従来の電気信号スリップリングを示す断面図である。
【図24】従来の電気信号スリップリングを示す断面図である。
【符号の説明】
【0104】
A ロータリジョイント
1 固定体
6 回転体
31 電気信号スリップリング(スリップリング)
32 絶縁性基板
33 電極
34 配線部
35 配線溝
36 メッキ膜、導電性膜
37 溝部
38 メッキ膜、導電性膜
39 突出部
45 貫通孔
46 メッキ膜、導電性膜
47 接続部
48 ブラシ
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転側と固定側との間で電気信号を授受するためのスリップリング、及びそのスリップリングの製造方法、並びにそのスリップリングを備えたロータリジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
スリップリング(以降、電気信号スリップリングとも称する)は、例えば、ロボットのアームの先端に装着されるロータリジョイント等に設けられ、電気信号を固定体及び回転体の間で授受するように構成されている。ここで、ロータリジョイントは、ロボットのアームの先端に取付固定される固定体と、ロボットのハンド側に取付固定され、固定体に回転可能に連結支持された回転体とを備えている。そして、回転体が固定体に対し回転しても、ロボットのアーム側とハンド側との間で電気や流体が授受できるようになっている。
【0003】
電気信号スリップリングは、例えば、回転体に固定して設けられた円板状の絶縁性基板と、その絶縁性基板の表面に同心円状に形成された複数の電極と、固定体に装着されて上記電極に摺接するブラシユニットとを有している。ブラシユニットは、各電極にそれぞれ対応して配置された複数のブラシを有している。こうして、ブラシユニットの各ブラシは、絶縁性基板の回転に伴って対応する各電極に摺接し、回転体と固定体との間で複数の電気信号を授受するようになっている。
【0004】
ここで、上記複数の電極をフォトリソグラフィにより形成することで、これらの電極を絶縁性基板上で効率よく配置させることが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1のスリップリングは、拡大断面図である図23に示すように、絶縁性基板101と、その絶縁性基板101の一方の表面に設けられた複数の電極102とを有している。
【0005】
絶縁性基板101の一方の表面には、同心円状に並ぶ複数の銅層103が形成されている。各銅層103及び絶縁性基板101には、これらを貫通する孔104が形成され、各孔104には銅105が充填されている。一方、上記各銅層103の表面には、銅からなる電極102がそれぞれ形成されている。こうして、上記各電極102は、絶縁性基板101の上で同心円状に配置される。
【0006】
また、電極の製造方法の一例として、絶縁性基板の表面にプレス加工した銅箔を接着することも知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2のスリップリングは、拡大断面図である図24に示すように、電極202が、絶縁性基板201の表面に接着剤203を介して接着固定されている。電極202及び絶縁性基板201には、これらを貫通する孔204が形成され、各孔204内には銅205が設けられている。
【0007】
各電極202を形成する場合には、まず、1枚の銅箔を同心状にV字溝が並んだ波形に型押ししたものを、接着剤203を介して絶縁性基板201に接着する。その後、上記波形の銅箔における山の部分をそれぞれ除去することによって、複数の電極202を形成する。
【特許文献1】特開2000−228265号公報
【特許文献2】特開2001−186725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上記従来のスリップリングは、電極と絶縁性基板との関係では、電極が凸部となって絶縁性基板上に設置された構造となっているのが一般的である。また、隣り合う各電極同士の間は、絶縁性基板の上方で間隙が設けられることによって絶縁されている。このような構造を形成するゆえ、隣り合う電極同士の間に塵埃が溜まると、その電極間で容易に短絡が生じる虞れがある。その結果、回転体側と固定体側との間で、電気信号を確実に授受することが困難になる。
【0009】
加えて、上記従来のスリップリングでは、電極が絶縁性基板の表面から突出して形成されているので、隣り合う電極同士の間で絶縁性を確保するために、各電極間の間隙を比較的広く設ける必要がある。すなわち、各電極間の間隙は、流される電流電圧と距離との関係で決まり、装置のコンパクト化を困難にしている。
【0010】
さらに、上記特許文献1のスリップリングには、製造に非常に手間がかかるという問題がある。すなわち、特許文献1では、複数の層からなる積層体をパターン形成するために、レジストの形成や、露光、現像、及び銅膜の形成を含むフォトリソグラフィ工程を複数回繰り返す必要があるため、その工程が極めて多くなり、製造コストが嵩むことが避けられない。一方、特許文献2では、波形形状の銅箔を絶縁性基板に貼り付けた後に、波形の銅箔における複数の山の部分を、それぞれ精密に除去しなければならいが、このような銅の薄膜の精密加工は、実際には極めて困難である。つまり、特許文献2には、電極を高精度に形成することが難しいという問題がある。
【0011】
本発明は、斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、スリップリングの隣り合う電極間における短絡の発生を可及的に抑制すると共に、簡単な方法による高精度な電極の形成や、装置全体の小型化を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、この発明では、円板状の絶縁性基板に複数の溝部を同心円状に形成し、その溝部の内部表面に対して、電極を絶縁性基板の表面よりも内側に位置するように形成した。
【0013】
具体的に、本発明に係るスリップリングは、固定体と、該固定体に回転可能に支持された回転体との間で、複数の異なる電気信号を授受するスリップリングであって、上記固定体及び回転体の一方に設けられ、所定の間隔で同心円状に並んで形成された複数の溝部を有する円板状の絶縁性基板を備え、上記絶縁性基板の溝部の内部表面の少なくとも一部には、上記絶縁性基板の表面よりも内側に位置するように電極が形成され、上記電極は、上記固定体及び回転体の他方に設けられたブラシにより摺接される。
【0014】
上記溝部は、該溝部の開口側端部に上記電極が設けられていない側壁を有していることが好ましい。
【0015】
上記電極は、導電性のメッキ膜、フォトリソグラフィにより形成された導電性膜、及び導電性の印刷膜の何れか1つにより構成されていることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係るロータリジョイントは、固定体と、該固定体に回転可能に支持された回転体と、上記固定体及び固定体の間で複数の異なる電気信号を授受するスリップリングとを備えたロータリジョイントであって、上記スリップリングは、上記固定体及び回転体の一方に設けられ、所定の間隔で同心円状に並んで形成された複数の溝部を有する円板状の絶縁性基板を備え、上記絶縁性基板の溝部の内部表面の少なくとも一部には、上記絶縁性基板の表面よりも内側に位置するように電極が形成され、上記電極は、上記固定体及び回転体の他方に設けられたブラシにより摺接されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るスリップリングの製造方法は、固定体と、該固定体に回転可能に支持された回転体との間で、複数の異なる電気信号を授受するスリップリングを製造する方法であって、上記固定体及び回転体の一方に設けられる円板状の絶縁性基板に、複数の溝部を所定の間隔で同心円状に並んで形成する第1の工程と、上記絶縁性基板の溝部の内部表面の少なくとも一部に対し、上記固定体及び回転体の他方に設けられるブラシによって摺接される電極を、上記絶縁性基板の表面よりも内側に位置するように形成する第2の工程とを備える。
【0018】
上記第2の工程は、上記溝部を含む上記絶縁性基板の表面全体に導電性のメッキ膜を形成するメッキ工程と、上記メッキ膜が形成された上記絶縁性基板の表面を切削して、上記溝部の外部のメッキ膜を除去することにより、上記複数の溝部の内面に残されたメッキ膜によって複数の電極を形成する切削工程とを有することが好ましい。
【0019】
−作用−
次に、本発明の作用について説明する。回転体が固定体に対して回転すると、絶縁性基板における複数の溝部に形成された各電極は、その各電極毎にブラシにそれぞれ摺接しながら、上記ブラシに対して相対的に回転する。このことにより、スリップリングにおいて、固定体と回転体との間で複数の異なる電気信号が授受される。
【0020】
電極は、絶縁性基板の溝部の内部表面の少なくとも一部に、その絶縁性基板の表面よりも内側に位置するように形成されているため、溝部からのブラシの脱落が未然に防止される。また、隣り合う電極同士の間(つまり、隣り合う溝部同士の間)には絶縁性基板の一部が介在することとなる。すなわち、仮に、隣り合う溝部同士の間に塵埃が溜まったとしても、電極同士の間に塵埃が介在することがないので、隣り合う電極間における短絡を抑制することが可能となる。
【0021】
さらに、隣り合う電極同士の間が絶縁性基板の一部によって確実に絶縁されているため、各電極間の絶縁性を維持しつつ、各電極同士の間隔を狭くすることができる。つまり、電極の数を減らさずにスリップリングを半径方向に小型化することが可能となる。
【0022】
また、スリップリングを製造する場合には、溝部を形成する第1の工程と、電極を形成する第2の工程とを行う。すなわち、第1の工程では、円板状の絶縁性基板に、複数の溝部を所定の間隔で同心円状に並ぶように形成する。その後、第2の工程では、第1の工程で形成した溝部における内部表面の少なくとも一部に対し、電極を絶縁性基板の表面よりも内側に位置するように形成する。
【0023】
第2の工程では、例えば、メッキ工程と切削工程とを行うことが可能である。すなわち、メッキ工程では、溝部を含む絶縁性基板の表面背体に導電性のメッキ膜を形成する。続いて、切削工程では、メッキ膜が形成された絶縁性基板の表面を切削して、溝部の外部のメッキ膜を除去する。そうして、溝部の内面に残されたメッキ膜によって、電極を複数形成する。このことにより、スリップリングの電極を簡単な方法で高精度に形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、まず、電極が絶縁性基板の溝部の内部表面の少なくとも一部に、その絶縁性基板の表面よりも内側に位置するように形成されているため、溝部からのブラシの脱落を抑制できる。その結果、回転体側と固定体側との間の電気信号の授受を確実に維持することができる。
【0025】
さらに、電極が絶縁性基板の表面よりも内側に位置するように形成されているため、仮に、隣り合う溝部同士の間に塵埃が溜まったとしても、電極同士の間に塵埃が介在することがないので、隣り合う電極間における短絡を抑制することができる。その結果、絶縁性を維持しながら電極同士の間隔を小さくして、装置の小型化を図ることができる。
【0026】
そのことに加え、溝部を形成した後に、例えば、絶縁性基板の全体をメッキした後にその絶縁性基板の表面を切削する方法によって、複数の電極を簡単且つ高精度に形成することができ、製造コストの低下及び信頼性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0028】
《発明の実施形態1》
図7〜図10は本発明の実施形態に係るスリップリング31を備えるロータリジョイントAを示し、このロータリジョイントAは、図17に示すように、例えばスポット溶接を行う溶接ロボットRのアーム先端部に装着されるものである。
【0029】
ここで、図7はロータリジョイントAの外観を示す平面図であり、図8は、ロータリジョイントAの外観を示す底面図である。図9は、図7及び図8におけるIX−IX線断面図であり、図10は、図7及び図8におけるX−X線断面図である。また、図17は、溶接ロボットRの外観を示す側面図である。
【0030】
溶接ロボットRは、床面に固定された支持部91と、支持部の上端部に回動可能に支持されたアーム92と、アーム92の先端部にロータリジョイントAを介して回動可能に装着された溶接ガン93とを備えている。
【0031】
溶接ロボットRは、溶接のための大電流が通る大電流ケーブル61と、溶接ガン93自体を駆動するサーボモータ(図示省略)のための中電力が通る中電力ケーブル62と、溶接ガン93を駆動するための電気信号が通る電気信号ケーブル63とを有している。
【0032】
上記大電流ケーブル61は、アーム92に係止固定された第1の大電流ケーブル61aと、先端が溶接ガン93に接続された第2の大電流ケーブル61bとにより構成されている。第1の大電流ケーブル61aの先端は、ロータリジョイントAの固定側大電力コネクタ64に接続されている。一方、第2の大電流ケーブル61bの後端は、ロータリジョイントAの回転側大電力ターミナル65に接続されている。
【0033】
上記中電力ケーブル62は、アーム92に係止固定された第1の中電流ケーブル62aと、先端が溶接ガン93に接続された第2の中電流ケーブル62bとにより構成されている。第1の中電流ケーブル62aの先端は、ロータリジョイントAの固定側中電力コネクタ66に接続されている。一方、第2の中電流ケーブル62bの後端は、ロータリジョイントAの回転側中電力コネクタ67に接続されている。
【0034】
また、上記電気信号ケーブル63は、アーム92に係止固定された第1の電気信号ケーブル63aと、溶接ガン93に接続された第2の電気信号ケーブル63bとにより構成されている。第1の電気信号ケーブル63aの先端は、ロータリジョイントAの固定側電気信号コネクタ68に接続されている。一方、第2の電気信号ケーブル63bの後端は、ロータリジョイントAの回転側電気信号コネクタ69に接続されている。
【0035】
こうして、溶接ロボットRのアーム92側の上記各ケーブル61,62,63は、ロータリジョイントAを介して溶接ガン93にそれぞれ接続され、溶接ガン93に対して必要な電力や電気信号が供給されるようになっている。
【0036】
ロータリジョイントAは、溶接ロボットRのアーム92側に取り付けられる略円筒状の固定体1と、溶接ガン93側(ハンド側)に取り付けられる略円筒状の回転体6とを備えている。回転体6は固定体1に360°以上の角度に回動可能に連結支持されている。
【0037】
図9及び図10に拡大して示すように、上記固定体1は、図9及び図10で上下方向に延びる円筒状のボス部3と、このボス部3の上下方向の略中央部分に一体的に固定されて外向きに延びる固定側フランジ2と、この固定側フランジ2に対して所定の間隔で対向配置された電力スリップリング21とを有している。
【0038】
一方、回転体6は上記固定体1のボス部3の内側に相対回転可能に嵌挿された円柱状の軸部7と、この軸部7の上端に一体的に固定された取付プレートである上側フランジ8と、軸部7の下端に一体的に固定された下側フランジ9と、この下側フランジ9の外側部分に一体的に固定されて外向きに延びる回転側フランジ5と、この回転側フランジ5に対して所定の間隔で対向配置された電気信号スリップリング31とを備えている。上記軸部7と、上側フランジ8と、下側フランジ9とは、図10に示すように、軸部7の軸方向に延びるボルト96によって連結固定されている。
【0039】
上側フランジ8は、上記固定体1のボス部3の上側に配置される一方、下側フランジ9は、上記ボス部3の下側に配置されている。上側フランジ8は、図10に示すように、アーム92の先端部における取付面94にボルト95により取付固定されるようになっている。
【0040】
上記電力スリップリング21は、回転側フランジ5と電気信号スリップリング31との間の隙間に配置されている。一方、電気信号スリップリング31は、固定側フランジ2と電力スリップリング21との間の隙間に配置されている。
【0041】
固定体1のボス部3と回転体6の軸部7との間には固定体1及び回転体6の間で、冷却水や空気等の流体を授受するためのスイベルジョイント11が設けられている。また、固定体1及び回転体6には、上記スイベルジョイント11を含む流体通路12が形成されている。
【0042】
スイベルジョイント11は、図9に示すように、固定体1のボス部3に形成されると共にボス部3の内周方向に延びる複数の環状溝15により構成されている。すなわち、ボス部3の内周面には、例えば6つの環状溝15が上下方向(軸方向)に所定の間隔で形成されている。上記各環状溝15の上下方向(軸方向)両側には、ボス部3の内周方向に延びるシール溝18が形成されている。各シール溝18には、ゴム製のシールリング19が嵌挿され、シールリング19の内周面を、回転体6における軸部7の外周面に摺接させてシールするようになっている。そして、回転体6における軸部7の外周面により閉塞された環状溝15は、上記流体通路12の一部を構成している。
【0043】
流体通路12は、上記スイベルジョイント11の環状溝15と、固定体1に形成された複数の横穴71と、回転体6に形成された複数の縦孔17及び横穴74,75とにより構成されている。
【0044】
上記横穴71は、ボス部3の内部においてボス部3の半径方向に延びるように形成され、内側の一端が上記環状溝15の底部に連通している。横穴71は、各環状溝15毎にそれぞれ設けられている。各横穴71の外側の他端には、固定側流体ポート73がそれぞれ設けられている。
【0045】
上記縦孔17は、軸部7の内部において軸部7の軸方向(図9で上下方向)に延びるように形成されている。各縦孔17は、軸部7の周方向に例えば6つ並んで配置されている。上記横穴74は、一端が縦孔17の上部に連通する一方、他端が上記スイベルジョイント11の環状溝15に連通するように、軸部7に形成されている。各横穴74は、互いに異なる環状溝15に連通している。また、上記横穴75は下側フランジ9に形成され、一端が縦孔17の下部に連通する一方、他端には回転側流体ポート76が設けられている。
【0046】
こうして、流体通路12を流れる流体は、固定側流体ポート73、横穴71、スイベルジョイント11の環状溝15、横穴74、縦孔17、横穴75、及び回転側流体ポート76を介して、固定体1と回転体6との間で授受されるようになっている。
【0047】
上記固定側フランジ2には、図7及び図9に示すように、固定側電気信号コネクタ68が設けられると共に、図8及び図10に示すように、固定側大電力コネクタ64及び固定側中電力コネクタ66が設けられている。一方、回転側フランジ5には、図8及び図9に示すように、回転側電気信号コネクタ69が設けられると共に、図8及び図10に示すように、回転側大電力ターミナル65及び回転側中電力コネクタ67が設けられている。
【0048】
上記電力スリップリング21は、図9及び図10に示すように、リング円板状の絶縁性基板22と、絶縁性基板22の下面に同心円状に配置された大電力用の集電リング23及び中電力用の集電リング24とを有している。絶縁性基板22の外側部分は、固定側フランジ2に対してボルト25により固定されている。
【0049】
絶縁性基板22の下面には、同心円状に複数の溝部26が形成されている。そして、断面図である図15に一部拡大して示すように、例えば、内側の3つの溝部26における底部には、大電力用の集電リング23がろう付けされると共にボルト27等により取付固定されている。一方、例えば外側の6つの溝部26における底部には、中電力用の集電リング24が、同様にろう付けされると共にボルト27等により取付固定されている。
【0050】
回転側フランジ5には、図10に示すように、回転側大電力ターミナル65に接続された大電力用のブラシアッセンブリ28が設けられている。大電力用のブラシアッセンブリ28には、断面図である図16に拡大して示すように、例えば6つのブラシ41が設けられている。各ブラシ41は、回転側フランジ5に対して基端部が固定された板バネ42と、この板バネ42の先端部に設けられた接点43とにより構成されている。上記ブラシアッセンブリ28には、例えば、板バネ42の長さ方向に並ぶ2つのブラシ41が、板バネ42の幅方向に3列に並んで配置されている。そして、各列の2つのブラシ41は、その板バネ42の長さ方向が大電力用の集電リング23の接線方向に向けられた状態で、各大電力用の集電リング23にそれぞれ摺接するようになっている。
【0051】
一方、図10に示すように、絶縁性基板22の上面側には、その絶縁性基板22の半径方向に延びる3つのターミナル51が設けられている。各ターミナル51は、その内側端部が各大電力用の集電リング23にそれぞれ接続される一方、外側端部が固定側大電力コネクタ64に接続されている。つまり、大電力用の集電リング23は、ターミナル51を介して固定側大電力コネクタ64に接続されている。
【0052】
こうして、アーム92側から固定側大電力コネクタ64に供給される溶接用の大電力は、ターミナル51、大電力用の集電リング23、大電力用のブラシアッセンブリ28、及び回転側大電力ターミナル65を介して、溶接ガン93側へ送られるようになっている。
【0053】
また、回転側フランジ5には、図10に示すように、回転側中電力コネクタ67に接続された中電力用のブラシアッセンブリ29が設けられている。中電力用のブラシアッセンブリ29は、図示を省略するが、上記大電力用のブラシアッセンブリ28と同様に板バネと接点とにより構成されたブラシを例えば6つ備えている。この中電力用のブラシアッセンブリ29の各ブラシは、その板バネの長さ方向が中電力用の集電リング24の接線方向に向けられた状態で、各中電力用の集電リング24にそれぞれ摺接するようになっている。
【0054】
一方、絶縁性基板22の上面側には、例えば6本の配線52が設けられている。各配線52は、一端が各中電力用の集電リング24にそれぞれ接続される一方、他端が固定側中電力コネクタ66にそれぞれ接続されている。
【0055】
こうして、アーム92側から固定側中電力コネクタ66に供給されるサーボモータ用の中電力は、配線52、中電力用の集電リング24、中電力用のブラシアッセンブリ29、及び回転側中電力コネクタ67を介して、溶接ガン93側へ送られるようになっている。
【0056】
上記電気信号スリップリング31は、平面図である図4、底面図である図5、及び側面図である図6に示すように、固定体1と回転体6との間で、複数の異なる電気信号を授受するスリップリングであって、絶縁性基板32と、複数の電極33とを備えている。
【0057】
絶縁性基板32は、例えば、ABS、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ベークライト等の樹脂又は、これらにガラス繊維、合成繊維及びカーボン繊維等の繊維が混入された樹脂(いわゆるFRP)により構成することが可能である。そして、図10に示すように、その内縁部において回転側フランジ5にボルト53によって取付固定されている。
【0058】
絶縁性基板32は、図4に示すように、リング円板状に形成されると共に、一方の表面(図9及び図10で上面)に上記複数の電極33が、同心円状に並んで形成されている。一方、絶縁性基板32は、図5に示すように、他方の表面(図9及び図10で下面)に絶縁性基板32の半径方向に延びる配線部34が形成されている。
【0059】
拡大断面図である図1、及び図5に示すように、絶縁性基板32の下面には、絶縁性基板32の半径方向に延びる複数の配線溝35が形成されている。各配線溝35の内側端部35aは、絶縁性基板32の内縁部にそれぞれ形成されている。一方、配線溝35の外側端部35bは、上記各電極33毎にそれぞれ対応して形成されている。すなわち、各配線溝35の内側端部35aから外側端部35bまでの長さは互いに異なっている。また、配線溝35の外側端部35bは、他の部分よりも深い穴に形成されている。
【0060】
配線部34は、図1に示すように、上記配線溝35の内面のみを覆う導電性のメッキ膜36により構成されている。すなわち、絶縁性基板32の下面は、配線溝35の内面がメッキ膜36により覆われているが、その他の部分はメッキ膜36により覆われずに露出している。
【0061】
一方、絶縁性基板32には、図1及び図4に示すように、複数の溝部37が所定の間隔で同心円状に並んで形成されている。各溝部37は、例えば断面U字状の溝に形成され、それぞれ同じ溝幅を有している。
【0062】
電極33は、図1に示すように、複数の溝部37の各内部表面の少なくとも一部に、絶縁性基板32の表面よりも内側に位置するように形成されている。すなわち、電極33は、溝部37の内部表面のみを覆う導電性のメッキ膜38により構成され、後述のブラシ48により摺接されるようになっている。絶縁性基板32の上面は、溝部37の内部表面がメッキ膜38により覆われているが、その他の部分はメッキ膜38により覆われずに露出している。メッキ膜38は、溝部37の内面に沿って形成され薄膜であるため、その表面は溝部37と同じU字状の溝を構成している。こうして、電極33は、絶縁性基板32の表面の外側に突出しておらず、隣り合う電極33同士の間は、絶縁性基板32が介在することによって絶縁されている。
【0063】
尚、溝部37の断面形状は、特にU字状に限られるものではなく、例えば断面V字状や断面凹状等の他の形状であってもよい。また、電極33は、溝部37の内部表面の全体に亘って形成する必要はなく、例えば溝部37の底側部分にのみ形成し、溝部37が、その開口側端部に電極33が設けられていない側壁を有するようにしてもよい。
【0064】
また、図1に示すように、上記配線溝35における外側端部35bの底には、溝部37側へ貫通する貫通孔45が形成されている。貫通孔45の内部表面は、メッキ膜46により覆われている。メッキ膜46は、上記電極33のメッキ膜38と、配線部34のメッキ膜36との双方に連続して一体に形成されている。こうして、電極33及び配線部34は、溝部37の底部を貫通して設けられた接続部47であるメッキ膜46を介して電気的に接続されている。上記接続部47は、各溝部37毎に複数設けられており、図3に示すように、例えば3つの接続部47を、溝部37の長さ方向に所定間隔で並んで配置させることが好ましい。
【0065】
固定側フランジ2には、図9に示すように、固定側電気信号コネクタ68に接続された電気信号用のブラシアッセンブリ30が設けられている。電気信号用のブラシアッセンブリ30には、拡大底面図である図11に示すように、複数のブラシ48が設けられている。各ブラシ48は、側面図である図13に拡大して示すように、電極33との摺接部が凸状に湾曲したモノフィラメントブラシにより構成されている。上記ブラシアッセンブリ30には、図11及び図12に示すように、上記各ブラシ48が、そのブラシ48の幅方向(長さ方向に直交する方向)に2列に並んで配置されると共に、各ブラシ48の摺接部が近接している。そして、各列の2つのブラシ48は、その長さ方向が電極33の接線方向に向けられた状態で、各電極33にそれぞれ摺接するようになっている。
【0066】
一方、図9及び拡大断面図である図14に示すように、絶縁性基板32の下面側には、配線部34に接続される複数の接触端子49が設けられている。各接触端子49は、いわゆるスプリングプローブにより構成されており、バネの付勢力により各配線部34にそれぞれ接触するようになっている。各接触端子49は、配線50を介して回転側電気信号コネクタ69に接続されている。
【0067】
こうして、アーム92側から固定側電気信号コネクタ68に供給される電気信号は、電気信号用のブラシアッセンブリ30、電極33、接続部47、配線部34、接触端子49、配線50、及び回転側電気信号コネクタ69を介して、溶接ガン93側へ送られるようになっている。
【0068】
以上の構成により、ロータリジョイントAは、固定体1に対する回転体6の回転状態でも、電気信号スリップリング31において複数の電気信号を授受されると共に、電力スリップリング21において複数の中電力及び大電力を授受され、さらに、スイベルジョイント11において冷却水等の流体を授受するようになっている。
【0069】
−製造方法−
次に、上記電気信号スリップリング31の製造方法について説明する。
【0070】
本実施形態の製造方法には、溝部37及び配線溝35を形成する第1の工程と、第1の工程の後に行われ、電極33、配線部34及び接続部47を形成する第2の工程とが含まれる。さらに、第1の工程には、溝部形成工程と、配線溝形成工程と、貫通孔形成工程とが含まれる。一方、第2の工程には、例えば、メッキ工程と、切削工程とが含まれる。
【0071】
まず、溝部形成工程では、円板状の絶縁性基板32の一方の表面(上面)に対し、所定の間隔で同心円状に並ぶ複数の溝部37を切削して形成する。また、配線溝形成工程において、絶縁性基板32の他方の表面(下面)に対し、絶縁性基板32の半径方向に延びる複数の配線溝35を形成する。これら溝部形成工程及び配線溝形成工程は、どちらを先に行ってもよい。続いて、貫通孔形成工程において、溝部37の底部を貫通する貫通孔45を、各溝部37毎に3つずつ形成する。
【0072】
次に、メッキ工程では、拡大断面図である図2に示すように、絶縁性基板32における溝部37を含む表面全体に導電性のメッキ膜40を形成する。そのことにより、溝部37及び配線溝35の内面と、貫通孔45の内部とを含む絶縁性基板32の表面には、メッキ膜40が形成される。
【0073】
その後、切削工程において、メッキ膜40が形成された絶縁性基板32の表面を、図2における1点鎖線に沿って切削し、溝部37、配線溝35及び貫通孔45の外部のメッキ膜40を除去する。そのことにより、図1に示すように、複数の溝部37の内面に残されたメッキ膜38によって複数の電極33を形成し、配線溝35の内面に残されたメッキ膜36によって複数の配線部34を形成し、さらに、貫通孔45の内部に残されたメッキ膜46によって複数の接続部47を形成する。こうして、電極33が、溝部37の内部表面に絶縁性基板32の表面よりも内側に位置するように形成される。以上の各工程により、電気信号スリップリング31は製造される。
【0074】
また、ロータリジョイントAは、上記各工程により製造された電気信号スリップリング31と、絶縁性基板22に集電リング23,24が取り付けられて製造された電力スリップリング21と、固定体1と、回転体6とを互いに組み付けることによって、製造される。
【0075】
−実施形態1の効果−
したがって、この実施形態1によると、まず、メッキ膜38によって形成された電極33が溝部37の内部表面に形成されているため、この溝部37からのブラシ48の脱落を防止できる。その結果、固定体1側と回転体6側との間の電気信号の授受を確実に維持することができる。
【0076】
さらに、メッキ膜38である各電極33を、溝部37の内部表面のみに絶縁性基板32の表面よりも内側に位置するように形成したので、隣り合う電極33同士の間に絶縁性基板32の一部を介在させることができる。言い換えれば、絶縁性基板32の一部によって、隣り合う電極33同士の間を絶縁することができる。したがって、仮に、隣り合う溝部37同士の間に塵埃が溜まったとしても、電極33同士の間に塵埃が介在することがないので、隣り合う電極33同士の間における短絡を防止することができる。
【0077】
さらに、隣り合う電極33同士の間が絶縁性基板32の一部によって確実に絶縁されているため、各電極33間の絶縁性を維持しつつ、各電極33同士の間隔を狭くすることができる。つまり、電極33の数を減らさずに電気信号スリップリング31及びロータリジョイントAを半径方向に小型化することができる。
【0078】
そのことに加え、溝部37を形成した絶縁性基板32に対し、その全体をメッキ膜により被覆した後に、絶縁性基板32の表面を切削する方法によって、膜状の電極33を溝部37の内部表面に簡単且つ高精度に形成することができる。その結果、製造コストの低下及び信頼性の向上を図ることができる。
【0079】
《発明の実施形態2》
図18及び図19は、本発明の実施形態2を示している。尚、以降の各実施形態では、図1〜図17と同じ部分については同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0080】
図19に示すように、本実施形態の電気信号スリップリング31は、溝部37の内部表面の一部に電極33が形成されている。電極33は溝部37の内部表面を覆うメッキ膜38により構成されている。また、溝部37は、溝部37の開口側の端部に電極33が設けられていない側壁60を有している。側壁60は、絶縁性基板32の表面に対して垂直な平面によって構成されている。こうして、電極33は溝部37の底側の表面にのみ形成されている。また、この構造の見方を変えると、隣り合う各電極33同士の間には、断面矩形状の凸条に形成された突出部39が設けられているとも言える。
【0081】
この電気信号スリップリング31を製造する場合には、上記実施形態1と同様に、溝部形成工程と、配線溝形成工程と、貫通孔形成工程と、メッキ工程とを行う。そのことにより、拡大断面図である図18に示すように、絶縁性基板32の表面はメッキ膜40により覆われる。
【0082】
その後、切削工程において、図18に矩形波状の1点鎖線で示すように、溝部37における開口側の内部表面を、絶縁性基板32の表面と共に切削除去する。そのことにより、側壁60を有する溝部37が形成される。
【0083】
この実施形態2によると、上記実施形態1と同様の効果を得ることができることに加え、溝部37に電極33が形成されない側壁60を設けるようにしたので、隣り合う電極33同士の間の絶縁性をさらに高めることができる。そのことに加え、側壁60を絶縁性基板32の表面に対して垂直な平面によって構成したので、溝部37からのブラシ48の脱落をさらに確実に抑制することができる。
【0084】
《発明の実施形態3》
図20〜図22は、本発明の実施形態3を示している。
【0085】
上記実施形態1では、接続部47が貫通孔45の内部に形成したメッキ膜46により構成されていたのに対し、拡大断面図である図22に示すように、本実施形態の接続部47はピン55により構成されている。
【0086】
すなわち、絶縁性基板32の貫通孔45には、図22に示すように、例えば銅等の導電性のピン55が嵌挿されている。そして、ピン55の上端は、溝部37の内面と共にメッキ膜38により覆われる一方、ピン55の下端は、配線溝35の内面と共にメッキ膜36により覆われている。そのことにより、電極33(つまり、メッキ膜38)は、接続部47であるピン55を介して、配線部34(つまり、メッキ膜36)に導通されている。
【0087】
この電気信号スリップリング31を製造する場合には、上記実施形態1と同様に、溝部形成工程と、配線溝形成工程と、貫通孔形成工程とを行う。その後、図20に示すように、接続部形成工程を行い、上記貫通孔45にピン55を嵌挿することにより、配線部34と電極33とを接続するための接続部47を形成する。このとき、ピン55の下端部を、配線溝35の表面から僅かに下方へ突出させるようにしてもよい。
【0088】
続いて、図21に示すように、メッキ工程を行い、絶縁性基板32の表面全体に導電性のメッキ膜40を形成する。このことにより、溝部37及び配線溝35の内面と、ピン55の上端及び下端とが、他の絶縁性基板32の表面と共にメッキ膜40により被覆される。
【0089】
その後、上記実施形態1と同様に、切削工程を行い、メッキ膜40が形成された絶縁性基板32の表面を、図21における1点鎖線に沿って切削し、溝部37及び配線溝35の外部のメッキ膜40を除去する。そのことにより、図22に示すように、電極33がピン55を介して配線部34に接続された電気信号スリップリング31が製造される。
【0090】
したがって、この実施形態3によると、貫通孔45の内部をピン55により充填させるようにしたので、そのピン55により電極33と配線部34とを確実に導通させることができる。
【0091】
《発明の実施形態4》
上記実施形態1では、絶縁性基板32の表面をメッキすることにより、電極33や配線部34を形成したが、本実施形態は、これら電極33等を印刷法によって形成したものである。
【0092】
すなわち、本実施形態の電気信号スリップリング31は、絶縁性基板32に対して直接に導電性膜を印刷することにより、図1に示すような導電性膜のパターンを形成する。そして、各パターンによって、電極33、配線部34及び接続部47がそれぞれ形成されている。
【0093】
この電気信号スリップリング31を製造する場合には、まず、上記実施形態1と同様に、溝部形成工程と、配線溝形成工程と、貫通孔形成工程とを行う。その後に、印刷法による電極形成工程と配線部形成工程とを行う。
【0094】
すなわち、電極形成工程では、複数の溝部37の内部表面にのみ、導電性膜38を例えばインクジェット方式で印刷することによって複数の電極33を膜状に形成する。このとき、溝部37の外側における絶縁性基板32の表面には導電性膜が印刷されない。また、配線部形成工程では、上記電極形成工程と同様に、配線溝35の内部表面にのみ、導電性膜36をインクジェット方式で印刷することにより配線部34を膜状に形成する。すなわち、配線溝35の外部における絶縁性基板32の表面には導電性膜が印刷されない。
【0095】
電極形成工程及び配線部形成工程は、何れを先に行ってもよく、同時に行うようにしてもよい。また、上記電極形成工程又は配線部形成工程では、貫通孔45の内部に導電性膜46を印刷して形成することにより、配線部34と電極33とを接続する接続部47を形成する。つまり、接続部47は、電極33又は配線部34と同時に印刷されて形成される。
【0096】
したがって、この実施形態4によると、電極33、配線部34及び接続部47をインクジェット方式等の印刷法によってパターン形成するようにしたので、上記各実施形態における切削工程を行う必要がない。すなわち、工程数を低減して、さらに簡単な方法により電気信号スリップリング31を製造することができる。また、製造コストを低減することが可能となる。
【0097】
尚、本実施形態において、接続部47を印刷法により形成する代わりに、上記実施形態3で説明したようなピン55を貫通孔45に嵌挿することによって形成することが可能である。この場合、ピン55の上端は、溝部37の内面と共に、印刷された導電性膜38により被覆される。一方、ピン55の下端は、配線溝35の内面と共に、印刷された導電性膜36によって被覆される。このようにすれば、印刷によって形成された電極33及び配線部34の間をさらに確実に導通させることができる。
【0098】
《その他の実施形態》
上記実施形態では、電極33を導電性のメッキ膜により形成すること、及び導電性の印刷膜により形成することについて説明したが、その他に、フォトリソグラフィにより電極33を形成することが可能である。
【0099】
すなわち、上記実施形態1と同様に、溝部形成工程と、配線溝形成工程と、貫通孔形成工程とを行う。その後に、溝部37及び配線溝35に対し、フォトリソグラフィによって導電性膜をパターン形成する。そのことにより、溝部37の内部表面に膜状の電極33を形成すると共に、配線溝35の内部表面に膜状の配線部34を形成する。感光性膜の露光や現像を行う工程が必要となるが、特許文献1のように何層にも亘ってフォトリソグラフィを複数回繰り返す必要がなく、また、切削工程を省略することができる。
【0100】
また、上記各実施形態では、スリップリング31を回転体6に設けた例について説明したが、本発明はこれに限らず、固定体1にスリップリング31を設けるようにしてもよい。また、膜状の電極33の構成及びその製造方法は、上記実施形態に限定されるものではない。ブラシの構成についても、特に上記実施形態に限定されない。
【0101】
また、本発明のスリップリング31は、ロータリジョイントAに限らず、その他にも、固定体及び回転体の間で電気信号を授受する構造に対して同様に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上説明したように、本発明は、回転側と固定側との間で電気信号を授受するためのスリップリング、及びそのスリップリングの製造方法について有用であり、特に、スリップリングの隣り合う電極間における短絡の発生を可及的に抑制すると共に、簡単な方法による高精度な電極の形成や、装置全体の小型化を可能にする場合に適している。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】実施形態1の電気信号スリップリングを示す拡大断面図である。
【図2】表面全体がメッキ膜により被覆された絶縁性基板を示す断面図である。
【図3】配線部を拡大して示す底面図である。
【図4】電気信号スリップリングの外観を示す平面図である。
【図5】電気信号スリップリングの外観を示す底面図である。
【図6】電気信号スリップリング31の側断面を示す断面図である。
【図7】ロータリジョイントの外観を示す平面図である。
【図8】ロータリジョイントの外観を示す底面図である。
【図9】図7及び図8におけるIX−IX線断面図である。
【図10】図7及び図8におけるX−X線断面図である。
【図11】電気信号用のブラシアッセンブリを示す底面図である。
【図12】電気信号用のブラシアッセンブリを示す側面図である。
【図13】電気信号用のブラシアッセンブリのブラシを示す側面図である。
【図14】配線部に接触する接触端子を示す側面図である。
【図15】電力スリップリングの要部を拡大して示す断面図である。
【図16】大電力用のブラシアッセンブリを示す側断面図である。
【図17】溶接ロボットの外観を示す側面図である。
【図18】実施形態2における表面全体がメッキ膜により被覆された絶縁性基板を示す断面図である。
【図19】実施形態2の電気信号スリップリングを示す拡大断面図である。
【図20】実施形態3における貫通孔にピンが嵌挿された絶縁性基板を示す断面図である。
【図21】実施形態3における表面全体がメッキ膜により被覆された絶縁性基板を示す断面図である。
【図22】実施形態3の電気信号スリップリングを示す拡大断面図である。
【図23】従来の電気信号スリップリングを示す断面図である。
【図24】従来の電気信号スリップリングを示す断面図である。
【符号の説明】
【0104】
A ロータリジョイント
1 固定体
6 回転体
31 電気信号スリップリング(スリップリング)
32 絶縁性基板
33 電極
34 配線部
35 配線溝
36 メッキ膜、導電性膜
37 溝部
38 メッキ膜、導電性膜
39 突出部
45 貫通孔
46 メッキ膜、導電性膜
47 接続部
48 ブラシ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定体と、該固定体に回転可能に支持された回転体との間で、複数の異なる電気信号を授受するスリップリングであって、
上記固定体及び回転体の一方に設けられ、所定の間隔で同心円状に並んで形成された複数の溝部を有する円板状の絶縁性基板を備え、
上記絶縁性基板の溝部の内部表面の少なくとも一部には、上記絶縁性基板の表面よりも内側に位置するように電極が形成され、
上記電極は、上記固定体及び回転体の他方に設けられたブラシにより摺接されることを特徴とするスリップリング。
【請求項2】
請求項1において、
上記溝部は、該溝部の開口側端部に上記電極が設けられていない側壁を有していることを特徴とするスリップリング。
【請求項3】
請求項1において、
上記電極は、導電性のメッキ膜、フォトリソグラフィにより形成された導電性膜、及び導電性の印刷膜の何れか1つにより構成されていることを特徴とするスリップリング。
【請求項4】
固定体と、該固定体に回転可能に支持された回転体と、上記固定体及び固定体の間で複数の異なる電気信号を授受するスリップリングとを備えたロータリジョイントであって、
上記スリップリングは、上記固定体及び回転体の一方に設けられ、所定の間隔で同心円状に並んで形成された複数の溝部を有する円板状の絶縁性基板を備え、
上記絶縁性基板の溝部の内部表面の少なくとも一部には、上記絶縁性基板の表面よりも内側に位置するように電極が形成され、
上記電極は、上記固定体及び回転体の他方に設けられたブラシにより摺接されることを特徴とするロータリジョイント。
【請求項5】
固定体と、該固定体に回転可能に支持された回転体との間で、複数の異なる電気信号を授受するスリップリングを製造する方法であって、
上記固定体及び回転体の一方に設けられる円板状の絶縁性基板に、複数の溝部を所定の間隔で同心円状に並んで形成する第1の工程と、
上記絶縁性基板の溝部の内部表面の少なくとも一部に対し、上記固定体及び回転体の他方に設けられるブラシによって摺接される電極を、上記絶縁性基板の表面よりも内側に位置するように形成する第2の工程とを備えることを特徴とするスリップリングの製造方法。
【請求項6】
請求項5において、
上記第2の工程は、上記溝部を含む上記絶縁性基板の表面全体に導電性のメッキ膜を形成するメッキ工程と、上記メッキ膜が形成された上記絶縁性基板の表面を切削して、上記溝部の外部のメッキ膜を除去することにより、上記複数の溝部の内面に残されたメッキ膜によって複数の電極を形成する切削工程とを有することを特徴とするスリップリングの製造方法。
【請求項1】
固定体と、該固定体に回転可能に支持された回転体との間で、複数の異なる電気信号を授受するスリップリングであって、
上記固定体及び回転体の一方に設けられ、所定の間隔で同心円状に並んで形成された複数の溝部を有する円板状の絶縁性基板を備え、
上記絶縁性基板の溝部の内部表面の少なくとも一部には、上記絶縁性基板の表面よりも内側に位置するように電極が形成され、
上記電極は、上記固定体及び回転体の他方に設けられたブラシにより摺接されることを特徴とするスリップリング。
【請求項2】
請求項1において、
上記溝部は、該溝部の開口側端部に上記電極が設けられていない側壁を有していることを特徴とするスリップリング。
【請求項3】
請求項1において、
上記電極は、導電性のメッキ膜、フォトリソグラフィにより形成された導電性膜、及び導電性の印刷膜の何れか1つにより構成されていることを特徴とするスリップリング。
【請求項4】
固定体と、該固定体に回転可能に支持された回転体と、上記固定体及び固定体の間で複数の異なる電気信号を授受するスリップリングとを備えたロータリジョイントであって、
上記スリップリングは、上記固定体及び回転体の一方に設けられ、所定の間隔で同心円状に並んで形成された複数の溝部を有する円板状の絶縁性基板を備え、
上記絶縁性基板の溝部の内部表面の少なくとも一部には、上記絶縁性基板の表面よりも内側に位置するように電極が形成され、
上記電極は、上記固定体及び回転体の他方に設けられたブラシにより摺接されることを特徴とするロータリジョイント。
【請求項5】
固定体と、該固定体に回転可能に支持された回転体との間で、複数の異なる電気信号を授受するスリップリングを製造する方法であって、
上記固定体及び回転体の一方に設けられる円板状の絶縁性基板に、複数の溝部を所定の間隔で同心円状に並んで形成する第1の工程と、
上記絶縁性基板の溝部の内部表面の少なくとも一部に対し、上記固定体及び回転体の他方に設けられるブラシによって摺接される電極を、上記絶縁性基板の表面よりも内側に位置するように形成する第2の工程とを備えることを特徴とするスリップリングの製造方法。
【請求項6】
請求項5において、
上記第2の工程は、上記溝部を含む上記絶縁性基板の表面全体に導電性のメッキ膜を形成するメッキ工程と、上記メッキ膜が形成された上記絶縁性基板の表面を切削して、上記溝部の外部のメッキ膜を除去することにより、上記複数の溝部の内面に残されたメッキ膜によって複数の電極を形成する切削工程とを有することを特徴とするスリップリングの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2009−129782(P2009−129782A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304863(P2007−304863)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(591056547)ビー・エル・オートテック株式会社 (20)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(591056547)ビー・エル・オートテック株式会社 (20)
【Fターム(参考)】
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