説明

スリップリング装置

【課題】この発明は、簡易な構成で、スリップリングの清掃を実現し得るようにして、高精度な電気結合を長期間に亘り実現し得るようにすることにある。
【解決手段】ブラシ12が摺接されるスリップリング11のブラシ12の下流側にクリーニング部材13の摺接部14を選択的に摺接させるように構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばレーダー装置等の回転側と固定側との電気的結合を行うのに用いられるスリップリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種のスリップリング装置においては、回転側にスリップリングが設けられ、固定側にブラシがスリップリングに摺接可能に設けられる。そして、回転側のスリップリングが回転駆動されると、固定側のブラシが摺接され、回転側と固定側との間の電気的結合が行われている。このスリップリングには、潤滑用グリースが塗布され、ブラシの摺接にともなう摩擦の低減が図られている。
【0003】
ところで、このようなスリップリング装置は、ブラシとスリップリングとの摺接に伴う磨耗粉がブラシ等に付着すると、電気ノイズの発生や絶縁不良となり、相互間の高精度な電気結合が困難となる。そこで、例えばスリップリング上に貴金属めっきを施して、磨耗粉の発生の軽減を図り、耐用期間を高めるように構成したものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−107925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示されるスリップリング装置では、磨耗粉の低減が可能であるが、磨耗粉が発生すると、その発生した磨耗粉がブラシの根元側に付着して、電気ノイズや絶縁不良を招き易いうえ、その磨耗粉がスリップリングから落ちて周囲に巻き散らかり、絶縁不良を招く、このため、磨耗粉の発生の度に保守点検が必要となるという問題を有する。
【0006】
この発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、簡易な構成で、スリップリングの清掃を実現し得るようにして、高精度な電気結合を長期間に亘り実現し得るようにしたスリップリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、回転体に対して同軸的に設けられたスリップリングと、このスリップリングに摺接されるブラシと、前記スリップリングに摺接される複数の摺接部が所定の間隔に設けられたクリーニング部材とを備えてスリップリング装置を構成した。
【0008】
上記構成によれば、回転体が回転駆動されると、スリップリングが回転され、このスリップリングに対してブラシが摺接されて回転体と固定側との電気結合が行われると共に、該スリップリングに対してクリーニング部材の摺接部が摺接されてブラシの摺接に伴い発生する磨耗粉をスリップリング上から拭取って保持する。
【0009】
これにより、スリップリングとブラシとの摺接により発生した磨耗粉がブラシに取付くのが防止されると共に、下に落下するのが防止されて周囲に巻き散らかるのが防止され、しかも、スリップリングに潤滑油を供給することで、スリップリングとブラシとの摺接に伴う摩擦の軽減が図れる。従って、絶縁不良の軽減が図れて高精度な電気結合を維持することができて、長期間に亘る高品質な運用が可能となり、その保守点検時期の延長を図ることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上述べたように、この発明によれば、簡易な構成で、スリップリングの清掃を実現し得るようにして、高精度な電気結合を長期間に亘り実現し得るようにしたスリップリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の一実施の形態に係るスリップリング装置を上面側から見た状態を示した平面図である。
【図2】図1を側面側から見た状態を示した平面図である。
【図3】図1のクリーニング部材を取出して一部を破断して示した斜視図である。
【図4】図1のクリーニング部材の摺接部を摺接面側から見た状態を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1及び図2は、この発明の一実施の形態に係るスリップリング装置の要部構成を示すもので、図1は、上面側から見た状態を示し、図2は、側面側から見た状態を示した図である。
【0014】
即ち、円板状の回転体10には、例えば図1中時計及び反時計方向に回転駆動され、その側壁に例えば金めっき等によりスリップリング11が設けられる。このスリップリング11には、固定側に支持された例えば金ワイヤ製のブラシ12が摺接され、その摺接により、回転駆動される回転体10と固定側との間の電気結合が行われる。
【0015】
また、上記回転体10のスリップリング11には、クリーニング部材13の摺接部14が上記ブラシ12に対向されて摺接可能に接触される。このクリーニング部材13は、図3に示すように摺接部14が例えば熱膨張係数の異なる2種類の金属材料を重ねた周知のバイメタルで形成された支持部15の先端部に支持されており、この支持部15が周囲温度に応じて温度変形されて摺接部を、例えば電気結合特性に影響を及ぼさない程度の所定の接触圧力で上記スリップリング11に接触させる。
【0016】
なお、このクリーニング部材13の摺接部14は、支持部15の設定温度を可変設定することにより、所望の温度に到達した状態でのみスリップリング11に対して選択的に接触されて摺接するように構成したり、あるいは周囲温度の変化に対応して、その接触圧力を可変するように構成したりすることが可能である。
【0017】
上記クリーニング部材13の摺接部14は、例えば樹脂繊維を圧縮した圧縮材を含むフェルト材で、3個、第1乃至第3の分離摺接部141〜143が回転方向に所定の間隔Bを有した溝144を挟んで突設されて凹凸形状に配列され(図4参照)、例えば回転体10を挟んでブラシ12と対向させて設置される。この第1乃至第3の分離摺接部141〜143には、潤滑油が含浸されてスリップリング11に摺接されると、潤滑油をスリップリング11に供給して、ブラシ12との間の摩擦の軽減を図る。
【0018】
そして、この第1乃至第3の分離摺接部141〜143は、そのうち回転体10の回転方向に応じて一方がブラシ12の下流側となり、他方が上流側となる第1及び第3の分離摺接部141,143の各外側辺が凹状をした湾曲形状に形成されている。これにより、第1乃至第3の分離摺接部141〜143は、回転体10の回転方向(図1中時計あるいは反時計方向)に応じて最初に第1あるいは第3の分離摺接部141,143の湾曲形状側よりブラシ12との摺接に伴いスリップリング11に発生した磨耗粉を外に漏れないようにかき集めて第2の分離摺接部142と協働して掴み込んで、いわゆる表面張力により下に落としたりすることなく保持する。
【0019】
この際、第1乃至第3の分離摺接部141〜143を潜りぬけたスリップリング11上の磨耗粉は、相互間に設けてある溝144により集められて同様に掴み込まれて、その表面張力により、下に落下させることなく保持する。
【0020】
なお、上記第1及び第3の分離摺接部141,143の双方に形成した湾曲形状としては、例えば回転体10が一方に回転する回転構成の場合、回転体の回転方向に対して上流側となる一方のみに形成するだけでよい。
【0021】
上記構成において、回転体10が回転駆動されると、スリップリング11が回転され、このスリップリング11に対してブラシ12が摺接されて回転体10と固定側との電気結合が行われる。
【0022】
そして、回転体10が回転駆動されて一定期間経過し、その周囲温度が上昇されると、クリーニング部材13の支持部15が温度変形されて、その第1乃至第3の分離摺接部141〜143がスリップリング11のブラシ12の下流側に摺接される。ここで、クリーニング部材13は、その第1乃至第3の分離摺接部141〜143でスリップリング11上に潤滑油を塗布して供給する。
【0023】
このクリーニング部材13の第1乃至第3の分離摺接部141〜143は、例えば回転体10が図1中反時計方向に回転された状態、第1の分離摺接部141から第2及び第3の分離摺接部142,143の順でスリップリング11に摺接され、図中時計方向に回転された状態で第3の分離摺接部143から第2及び第1の分離摺接部142,141の順でスリップリング11に摺接される。
【0024】
この際、クリーニング部材13は、その第1乃至第3の分離摺接部141〜143でブラシ12の摺接に伴い発生する磨耗粉を上述したようにスリップリング11上から拭取って下に落ちないように保持する。これにより、スリップリング11とブラシ12との摺接により発生した磨耗粉がブラシ12に取付くのが防止されると共に、下に落下するのが防止されて周囲に巻き散らかるのが防止される。
【0025】
この結果、スリップリング11とブラシ12との摺接に伴う摩擦の軽減を図ったうえで、絶縁不良の軽減が図れて高精度な電気結合が維持され、長期に亘る高品質な運用が可能となる。この運用の長期化により、保守点検時期の延長が図れ、その取扱い作業性の向上を図ることが可能となる。
【0026】
このように、上記スリップリング装置は、ブラシ12が摺接されるスリップリング11のブラシ12の下流側にクリーニング部材13の摺接部14を選択的に摺接させるように構成した。
【0027】
これによれば、回転体10が回転駆動されてスリップリング11が回転され、このスリップリング11に対してブラシ12が摺接されてスリップリング11とブラシ12との電気結合が行われると共に、該スリップリング11に対してクリーニング部材13の摺接部14が摺接されて、ブラシ12の摺接に伴い発生する磨耗粉を、スリップリング11上から拭取って保持して、その磨耗粉がブラシ12に取付くのを防止し、しかも、その摺接部14でスリップリング11に潤滑油を供給することで、スリップリング11とブラシ12との摺接に伴う摩擦の軽減を図ることが可能となる。これにより、スリップリング11とブラシ12との摺接に伴う摩擦の軽減を図ったうえで、磨耗粉が下に落下するのが防止されて、周囲に巻き散らかるのを防止することができて、絶縁不良の軽減が図れて高精度な電気結合を維持することが可能となり、長期間に亘る高品質な運用が実現される。この結果、その保守点検時期の延長を図ることができて、その保守点検作業を含む取扱い作業性の向上を図ることが可能となる。
【0028】
なお、上記実施の形態では、第1乃至第3の分離摺接部141〜143の3個に分離配置した摺接部14を支持部15の先端に配したクリーニング部材13を用いて構成した場合について説明したが、この配置数に限ることなく、摺接部14を構成することが可能で、同様に有効な効果が期待される。
【0029】
よって、この発明は、上記実施の形態に限ることなく、その他、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を実施し得ることが可能である。さらに、上記実施の形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合せにより種々の発明が抽出され得る。
【0030】
例えば実施の形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0031】
10…回転体、11…スリップリング、12…ブラシ、13…クリーニング部材、14…摺接部、141…第1の分離摺接部、142…第2の分離摺接部、143…第3の分離摺接部、144…溝、15…支持部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体に対して同軸的に設けられたスリップリングと、
このスリップリングに摺接されるブラシと、
前記スリップリングに摺接される複数の摺接部が所定の間隔に設けられたクリーニング部材と、
を具備することを特徴とするスリップリング装置。
【請求項2】
前記クリーニング部材は、前記複数の摺接部が前記ブラシの下流側で前記スリップリングに摺接されることを特徴とする請求項1記載のスリップリング装置。
【請求項3】
前記クリーニング部材は、前記摺接部を潤滑油が含浸された繊維材で形成されることを特徴とする請求項1又は2記載のスリップリング装置。
【請求項4】
前記潤滑油が含浸された繊維材は、フェルト材であることを特徴とする請求項3記載のスリップリング装置。
【請求項5】
前記クリーニング部材は、前記摺接部が少なくとも2個、回転方向に所定の間隔を有して設けられ、上流側の一方のブラシ側辺が湾曲状に形成されていることを特徴とする請求項2乃至4記載のいずれか記載のスリップリング装置。
【請求項6】
前記クリーニング部材は、前記摺接部がバイメタル製の支持部で支持され、周囲温度に応じて前記支持部が変形して前記摺接部の前記スリップリングへの接触圧力が可変設定されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか記載のスリップリング装置。
【請求項7】
前記クリーニング部材は、所定の温度に到達すると、前記支持部により前記摺接部が前記スリップリングに接触されることを特徴とする請求項6記載のスリップリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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