説明

スリップ機構

【課題】スリップ機構のスリップ力の経時変化を抑制することのできる技術を提供する。
【解決手段】互いに吸引力が働くように対向して設けられた磁性体5、6と、磁性体5、6が設けられたスリーブ2とを備えている。磁性体6が、吸引力が働く方向に平行する回転軸で、磁性体5に対して摺動して回転するものである。磁性体5には、磁性体6の回転軸方向に貫通する貫通穴が設けられている。磁性体6には、磁性体6の回転軸方向に貫通する貫通穴が設けられている。磁性体5、6のそれぞれの貫通穴に、スリーブ2が通されている。磁性体5とスリーブ2とは固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スリップ機構、特に、光学機器の鏡筒駆動のユニット部、格納式の自動車ミラーの可動部、便座やその蓋の開閉部、ノートパソコンや携帯電話のディスプレイのヒンジ部に用いられるスリップ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平6−133496号公報(特許文献1)には、入力側ディスクをモータの出力軸に固着し、出力側ディスクを負荷側の入力軸に固着し、入力側ディスクと出力側ディスクとの間に摩擦部材を介在させ、スプリングにより摩擦部材に軸方向の圧力を加えて入力側ディスクと出力側ディスクとの間の伝達トルクを発生させる技術が開示されている。
【0003】
また、特許文献1には、モータの回転子を回転軸に対し回転自在に軸支し、回転子の端面にヒステリシス部材を固着し、回転子に永久磁石を固着し、永久磁石とヒステリシス部材とを空隙を介して対向せしめ、回転子と回転軸との間のトルクの伝達を、ヒステリシス部材と永久磁石との間に作用する電磁トルクにより行う技術が開示されている。
【0004】
また、特開2009−287756号公報(特許文献2)には、駆動側回転軸の一端部に設けた第1磁性体と従動側回転軸の一端部に設けた第2磁性体とが軸方向に間隔(空隙)を介して対向するように設けると共に、第1磁性体と第2磁性体との間の磁気力により駆動側回転軸の回転を従動側回転軸に対して一定範囲のトルクで伝達させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−133496号公報
【特許文献2】特開2009−287756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、光学機器の鏡筒駆動のユニット部、格納式の自動車ミラーの可動部、便座やその蓋の開閉部、ノートパソコンや携帯電話のディスプレイのヒンジ部に用いられるスリップ機構には、高信頼性で、かつ小型化が求められている。
【0007】
図1は本発明者が検討しているスリップ機構101を説明するための図であり、スリップ機構101の正面を示している。スリップ機構101は、スリーブ102と、歯車103と、摩擦板104と、スプリング105と、ワッシャー106と、調整ナット107とを備えている。
【0008】
スリーブ102は、筒部102aと、筒部102aの一端に設けられた鍔部102bとを有している。この筒部102aの他端には調整ナット107(めねじ)に対するねじ山(おねじ)が形成されている。スリーブ102の筒部102aの内側には、入力側のシャフト108が嵌め込まれている(内嵌されている)。
【0009】
また、スリーブ102の筒部102aの外側には、スリーブ102の鍔部102bと摩擦するように歯車103が筒部102aの他端から嵌め込まれている(外嵌されている)。また、スリーブ102の筒部102aの外側には、歯車103側から、摩擦板104(例えば座金)、スプリング105、ワッシャー106、および調整ナット107が順に嵌め込まれている。
【0010】
調整ナット107によって、摩擦板104とワッシャー106との間でスプリング105は圧縮され、その応力で鍔部102bと摩擦板104との間の歯車103を付勢している。なお、ワッシャー106は、調整時のスプリング105のよじれ防止用として用いられる。この付勢により、歯車103と、鍔部102bおよび摩擦板104とでは、摩擦面が形成され、スリップ機構101のスリップ力が歯車103に与えられている。
【0011】
このような構造のスリップ機構101は、例えば、入力側の駆動部と、出力側の可動部との間に用いられる。図1では、駆動部のシャフト108がスリップ機構101のスリーブ102に嵌め込まれて固定されており、可動部の歯車109がスリップ機構101の歯車103と噛み合わされている。
【0012】
通常状態では、シャフト108からの入力(駆動力)が歯車109に出力(伝達)される。一方、必要以上の入力がされた状態では、スリップ機能が働くことによって、スリーブ102(シャフト108)と、歯車103(歯車109)とが別個に回転し、歯車109に必要以上に出力しないようにすることができる。
【0013】
スリップ機構101は、スプリング105で摩擦面を有する部材(摩擦板104)を歯車103に押し付け、その応力でスリップ力を得て構成されている。しかしながら、スリップ機構101を使用し続けると、例えば、スプリング105の劣化、摩擦板104(摩擦面)の摺動劣化、歯車103(鍔部102b側および摩擦板104側の摩擦面)の摺動劣化によってスリップ力に変化が生じてしまい、スリップ機構101としての本来の機能を失ってしまう場合がある。
【0014】
また、本発明者は、スリップ機構を小型化する検討を行っている。そこで、スリップ機構101において、スプリング105の代わりに、それよりも薄いスプリング性を持った金属板を用いて検討したところ、同様に、摺動劣化によってスリップ力に変化が生じてしまうことを見出した。
【0015】
本発明の目的は、スリップ機構において、スリップ力の経時変化を抑制することのできる技術を提供することにある。また、本発明の他の目的は、スリップ機構の小型化を図ることのできる技術を提供することにある。本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。本発明の一実施形態におけるスリップ機構は、互いに吸引力が働くように対向して設けられた第1および第2磁性体を備えており、前記第2磁性体が、吸引力が働く方向に平行する回転軸で、前記第1磁性体に対して摺動して回転するものである。
【発明の効果】
【0017】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。この一実施形態によれば、スリップ機構におけるスリップ力の経時変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明者が検討しているスリップ機構を説明するための図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるスリップ機構を説明するための図であり、(a)は正面側からみた半断面図、(b)は側面側からみた、一部を透過して示す平面図である。
【図3】図2に示すスリップ機構のスリーブを説明するための図であり、(a)は正面側からみた半断面図、(b)は側面側からみた平面図である。
【図4】図2に示すスリップ機構の磁性体を説明するための図であり、(a)は正面側からみた半断面図、(b)は側面側からみた平面図である。
【図5】図2に示すスリップ機構の摺動板を説明するための図であり、(a)は正面側からみた半断面図、(b)は側面側からみた平面図である。
【図6】図2に示すスリップ機構の歯車を説明するための図であり、(a)は正面側からみた半断面図、(b)は側面側からみた、一部を透過して示す平面図である。
【図7】図3に示すスリップ機構のストッパを説明するための図であり、(a)は正面側からみた半断面図、(b)は側面側からみた平面図である。
【図8】図1に示すスリップ機構と、図2に示すスリップ機構を比較するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0020】
本実施形態におけるスリップ機構1は、図2に示すように、スリーブ2と、歯車3と、摺動板4と、固定用の磁性体5と、可動用の磁性体6と、ストッパ7とを備えている。スリップ機構1は、例えば、図1を参照して説明したように、入力側の駆動部(シャフト108)と、出力側の可動部(歯車109)との間で用いることができる。
【0021】
スリーブ2は、図3に示すように、円筒形状の筒部2aと、筒部2aの一端の外側に設けられた鍔部2bと、筒部2aの他端の外側に環状の溝部2cとを有している。筒部2aには貫通穴2dが形成されており、筒部2aの一端の内側では、凹部2eが形成されている。これにより、筒部2aの一端側からシャフト108を嵌め込み、スリーブ2とシャフト108を固定することができる。
【0022】
スリーブ2の大きさは、例えば、筒部2aの外径が3mm程度、内径(貫通穴2dの径)が2mm程度、鍔部2bの外径が8mm程度であり、貫通穴2dの貫通方向の長さが5.2mm程度である。
【0023】
磁性体5、6は、図4に示すように、円形状の貫通穴5a、6aが設けられたリング状に形成されている(図4参照)。磁性体5、6としては、例えば、永久磁石(マグネット)やヒステリシス部材を用いることができる。着磁方向は、例えば、貫通穴5a、6aの径と交差(直交)する方向、すなわち貫通穴5a、6aの貫通方向となる。磁性体5、6の大きさは、例えば、外径が8mm程度、内径が3mm程度であり、貫通穴5a、6aの貫通方向の長さが0.8mm程度である。
【0024】
なお、磁性体5、6の材料には、フェライト系、ネオジウム系、コバルト系などを用いることができる。これらの材料は、使用状態や、必要とされるスリップ力(トルク)により選択すればよい。例えば、スリップ力が低いものにはフェライト系、スリップ力が高いものには希土類(ネオジウム系)などのように使い分けることもできる。形成方法には、例えば、材料粉末を圧粉して作る方法と、樹脂成形同様にインジェクション成形する方法があり、いずれの方法でも良い。
【0025】
摺動板4は、図5に示すように、円形状の貫通穴4aが設けられたリング状に形成されている。摺動板4としては、摺動性の高い樹脂(例えばポリイミド系樹脂)を用いることができる。摺動板4の大きさは、例えば、外径が6mm程度、内径が3.05mm程度であり、貫通穴4aの貫通方向の長さが0.13mm程度である。
【0026】
歯車3は、図6に示すように、円形状の貫通穴3aが設けられたリング状に形成されており、このリング状の外周に複数の歯3b(略して示している)が設けられている。また、歯車3の一面には、貫通穴3aに連通するような凹部3cが設けられている。また、歯車3の他面は、凸面となるように形成されている。歯車3としては、硬さを有する摺動性の高い樹脂(例えばポリイミド系樹脂)を用いることができる。なお、歯車3の他面は凸面ではなく平坦面でも良いが、この凸部で寸法調整をすることができる。
【0027】
歯車3の大きさは、例えば、外径が12mm程度、凸面の外径が6mm程度、貫通穴3aの径が3mm程度、凹部3cの径が8mm程度であり、貫通穴3aの貫通方向の長さが2.4mm程度である。
【0028】
ストッパ7は、図7に示すように、Eリング状に形成されている。ストッパ7としては、例えば、ステンレス鋼を用いることができる。ストッパ7の大きさは、例えば、外径が6mm程度、厚さが0.4mm程度である。
【0029】
これらの部品を用いてスリップ機構1を製造する(組立する)方法について説明する。図2に示すように、まず、筒部2aの他端側(鍔部2bが設けられている側とは反対側)からリング状の磁性体5を鍔部2bに接触するまで、円筒状の筒部2aに嵌め込み、鍔部2aを有するスリーブ2と磁性体5とを固定する。この固定には、接着剤を用いることができる。
【0030】
続いて、筒部2aの他端側からリング状の摺動板4を磁性体5に接触するまで、円筒状の筒部2aに嵌め込む。続いて、筒部2aの他端側からリング状の磁性体6を歯車3と共に摺動板4に接触するまで、円筒状の筒部2aに嵌め込む。この磁性体6は、磁性体5と互いに吸引力が働くように対向して設けられる。これに先立ち、磁性体6を歯車3の凹部3cに嵌め込み、固定する。この固定には接着剤を用いることができる。
【0031】
続いて、筒部2aの環状の溝部2cに、ストッパ7を嵌め込むことによって、スリップ機構1を製造することができる。このストッパ7は、歯車3を鍔部2b側へ押圧するために用いるのではなく、歯車3がスリーブ2から外れないようにするために用いるものである。
【0032】
このようにして製造されたスリップ機構1は、図2に示すように、互いに吸引力が働くように対向して設けられた磁性体5、6を備えている。吸引力は、対向して設けられた磁性体5、6が、それぞれ着磁方向を同じ向きとすれば発生する。ここで、本実施形態では、磁性体6が、吸引力が働く方向に平行する回転軸で、磁性体5に対して摺動して回転するものとしている。このため、磁性体5と磁性体6とが摺動性を持つようにそれらの表面が改善されている。あるいは、摺動性を持つような磁性体材料を用いても良い。
【0033】
スリップ機構1では、磁性体5、6による吸引力により、磁性体5と磁性体6との間で摺動面が形成されるが、この摺動面の摩擦でスリップ力を発生するものではない。すなわち、磁性体5、6による吸引力によって、スリップ力を発生させている。なお、スリップ力(トルク)としては、例えば、10〜75mN・m程度を得ることができる。
【0034】
このため、スリップ機構1は、摺動劣化によってスリップ力に変化を生じさせるものではなく、磁性体5、6の磁力が持続するかぎり、スリップ力の経時変化を抑制することができる。
【0035】
また、スリップ機構1は、磁性体5、6が設けられたスリーブ2を備えている。磁性体5には、磁性体6の回転軸方向(図2の左右方向)に貫通する貫通穴5aが設けられている。また、磁性体6には、磁性体6の回転軸方向に貫通する貫通穴6aが設けられている。また、磁性体5、6のそれぞれの貫通穴5a、6aに、スリーブ2が通されている。さらに、磁性体5とスリーブ2とは固定されている。このため、固定された磁性体5に対して、磁性体6が摺動して回転する。
【0036】
スリップ機構1では、磁性体5、6による吸引力により、固定された磁性体5と可動できる磁性体6との間で摺動面が形成されるが、この摺動面の摩擦でスリップ力を発生するものではない。すなわち、磁性体5、6による吸引力によって、スリップ力を発生させている。このため、スリップ機構1は、摺動劣化によってスリップ力に変化を生じさせるものではなく、磁性体5、6の磁力が持続するかぎり(例えば、永久磁石を用いた場合)、スリップ力の経時変化を抑制することができる。
【0037】
図1で説明したスリップ機構101は、スプリング105で摩擦面を有する部材(摩擦板104)を歯車103に押し付け、その応力でスリップ力を得て構成されるものである。このため、スリップ機構101を使用し続けると、スプリング105の劣化、摩擦板4の摺動劣化、歯車103の摩擦面での摺動劣化によってスリップ力に変化が生じてしまう場合がある。これはスリップ力を得るために、摩擦を生じさせる構造のためである。
【0038】
これに対して、スリップ機構1では、スプリング105や、摩擦板104を用いる構造ではなく、また、歯車103に摩擦面を形成するものではないので、スリップ力の経時変化を抑制することができる。スリップ機構1では、スリップ力を磁性体5、6に働く吸引力から発生させているため、例えば摩擦板104で発生するような摺動劣化を排除している。したがって、スリップ機構1では、スリップ力の経時変化を抑制することができる。
【0039】
また、スリップ機構1では、スリップ力を得るために、スプリング105、摩擦板104、ワッシャー106、調整ナット107を設けるものではない。このため、図8に示すように、スリップ機構1とスリップ機構101とを、歯車3、103の回転軸方向の長さで比較した場合、スリップ機構1の長さが短くなるため、小型化することができる。
【0040】
本実施形態におけるスリップ機構1は、磁性体5と磁性体6との間に設けられた摺動板4を備えている。この摺動板4には、磁性体6の回転軸方向に貫通する貫通穴4aが設けられており、この貫通穴4aにスリーブ2が通されている。この摺動板4は、固定された磁性体5と可動できる磁性体6とを滑らかに摺動させるものである。言い換えると、摩擦を発生させないようにするものである。
【0041】
この点、スリップ機構101の摩擦板104とは異なる。スリップ機構101の摩擦板104は、摩擦板104自体が摩擦されることによってスリップ力を発生させるものである。しかしながら、スリップ機構1では、磁性体5、6が互いに吸引力が働くように対向して設けられることによってスリップ力を発生させているので、磁性体5と磁性体6との間に、摩擦板を設ける必要がない。
【0042】
スリップ機構1を使用し続けた場合、仮に、摺動板4が摺動劣化したとしても、スリップ力の経時劣化に影響を及ぼすことは排除することができる。したがって、スリップ機構1では、スリップ力の経時変化を抑制することができる。なお、本実施形態では、摺動板4を設けた場合について説明しているが、磁性体5と磁性体6とが摺動するのであれば、摺動板4を設けなくとも良い。
【0043】
本実施形態におけるスリップ機構1は、スリーブ2に設けられ、磁性体6の回転軸と同一の回転軸の歯車3を備えている。この歯車3には、磁性体6の回転軸方向に貫通する貫通穴3aが設けられている。この歯車3の貫通穴3aに、スリーブ2が通されている。また、磁性体6と歯車3とは固定されている。なお、本実施形態では、歯車3の内側に磁性体6を埋め込んでいるが、磁性体5、6が互いに吸引力が働くように対向して設けられていれば、歯車3の外側に磁性体6を接着して固定しても良い。
【0044】
この点、スリップ機構101のように、スプリング105によって歯車103を付勢するものとは異なる。スリップ機構101では、歯車103が付勢されることによって、歯車103に摩擦面を形成し、スリップ力を発生させるものである。しかしながら、スリップ機構1では、磁性体5、6が互いに吸引力が働くように対向して設けられることによってスリップ力を発生させ、その磁性体6に歯車3を固定している。
【0045】
すなわち、歯車3に摩擦面を形成しているものではなく、歯車3の摺動劣化を排除することができる。したがって、スリップ機構1では、スリップ力の経時変化を抑制することができる。
【0046】
また、本実施形態では、磁性体6が、歯車3に埋め込まれている。すなわち、歯車3の回転軸方向の厚さの範囲内に、磁性体6の厚さを確保することができるので、スリップ機構1を小型化することができる。また、本実施形態では、磁性体6と歯車3とは別部品としているが、磁性体6と歯車3とを一体に形成した磁性体としても良い。磁性体6と歯車3とを一体成形した場合、部品点数を減らすことができる。
【0047】
また、本実施形態では、スリーブ2が、筒部2aと、筒部2aの一端に設けられた鍔部2bとを有している。この鍔部2bに磁性体5が固定されている。このため、スリップ機構1では、磁性体5と磁性体6との間でのみ摺動面を形成することができる。
【0048】
これに対して、スリップ機構101では、鍔部102bと歯車103との摩擦面、および摩擦板104と歯車103との摩擦面が2箇所形成される点で相違する。すなわち、スリップ機構101では、スリップ力を発生させるために歯車103も寄与してしまう。
【0049】
スリップ機構1では、スリーブ2の鍔部2aに磁性体5を固定し、また歯車3に磁性体5を固定し、磁性体5、6が互いに吸引力が働くように対向して設けられることによってスリップ力を発生させている。このため、歯車3の摺動劣化は排除することができ、スリップ機構1におけるスリップ力の経時変化を抑制することができる。
【0050】
本実施形態では、磁性体5と、鍔部2bを有するスリーブ2とは別に形成された部品として説明したが、スリーブ2に磁性体5が固定されていれば、磁性体5とスリーブ2とは、磁性体として一体成形しても良い。これにより、部品点数を減らすことができる。
【0051】
また、このように磁性体5とスリーブ2とを一体成形しても、磁性体5、6が互いに吸引力が働くように対向して設けられることによってスリップ力が発生していれば問題となることはない。すなわち、スリップ機構1におけるスリップ力の経時変化を抑制することができる。
【0052】
本実施形態におけるスリップ機構1は、二つの相対する一対の磁性体で構成され、互いに引き合う磁力でもって必要とするスリップ力を構成するものである。この一対の磁性体との間に摺動板を挟む、あるいは、磁性体の表面を摺動性があるものとすることで、一方の磁性体を摺動して回転させている。
【0053】
このため、スリップ機構1は、機械的に強く圧接する構造ではないため、機械的耐久性に優れ、また磁性体の磁力によるためにスリップ特性も長期間に渡り安定した値を維持できる。また、スプリングなどを使用しないために省スペースが実現でき、更には構成する部品も少なく、組立工数も下げられることからコスト低減も図ることができる。更に、磁性体のグレードの選定、磁性体に対する着磁の方法、着磁量によって、必要とする作動パターン(回転パターン)を形成することができる。
【0054】
また、本実施形態におけるスリップ機構1は、可動用の磁性体6が、固定用の磁性体5に対して摺動して回転することを特徴としている。この点で、特許文献1、2に記載された磁性体と磁性体との間に空隙を設けた構造によって、磁性体同士を摺動させずに、回転させる技術(以下、従来技術という)とは相違する。
【0055】
この従来技術では、空隙を設けることによるトルク損失や、例えば各部材のスラストガタなどによる空隙の広狭でのトルクばらつきが発生してしまうことが考えられる。しかしながら、本実施形態におけるスリップ機構1では、磁性体5と磁性体6とが摺動するようにしており、空隙を設けていないので、このようなトルク損失やトルクばらつきを発生させるものではない。
【0056】
また、従来技術では、空隙の寸法でトルクを制御するものである。これに対して、スリップ機構1では、磁性体5、6の磁力によってスリップ力を制御するものである。この点でスリップ機構1と従来技術は相違する。さらに、スリップ機構1では、スリップ力を発生させるために、磁性体5、6の材料を豊富な希土類(マグネット)の種類から選択でき、また、着磁方法、着磁条件で行うことができるので、従来技術より安定したスリップ力(トルク)を得ることができる。
【0057】
また、従来技術では、磁性体間に空隙を設けるために、例えば、モータや画像形成装置自体に組み込む必要がある。これに対して、本実施形態におけるスリップ機構1は、単体部品として、例えば、入力側の駆動部と、出力側の可動部との間に用いることができる。このため、スリップ機構1は、モータや画像形成装置としての用途に限らず、回転部位における一定のスリップ力(トルク)の維持が可能なために、広範囲(例えば、電気スタンドなどの間接部、シートベルトリトラクター)に用いることができる。
【0058】
このように、本実施形態におけるスリップ機構1は、従来技術とは、異なるものであり、さらに安定したスリップ力(トルク)を得ることができ、広範囲に適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 スリップ機構
2 スリーブ
2a 筒部
2b 鍔部
2c 溝部
2d 貫通穴
2e 凹部
3 歯車
3a 貫通穴
3b 歯
3c 凹部
4 摺動板
4a 貫通穴
5 磁性体
5a 貫通穴
6 磁性体
6a 貫通穴
7 ストッパ
101 スリップ機構
102 スリーブ
103 歯車
104 摩擦板
105 スプリング
106 ワッシャー
107 調整ナット
108 シャフト
109 歯車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに吸引力が働くように対向して設けられた第1および第2磁性体を備えており、
前記第2磁性体が、吸引力が働く方向に平行する回転軸で、前記第1磁性体に対して摺動して回転することを特徴とするスリップ機構。
【請求項2】
請求項1記載のスリップ機構において、
前記第1および第2磁性体が設けられたスリーブを備えており、
前記第1磁性体には、前記第2磁性体の回転軸方向に貫通する貫通穴が設けられており、
前記第2磁性体には、前記第2磁性体の回転軸方向に貫通する貫通穴が設けられており、
前記第1および第2磁性体のそれぞれの貫通穴に、前記スリーブが通されており、
前記第1磁性体と前記スリーブとは固定されていることを特徴とするスリップ機構。
【請求項3】
請求項2記載のスリップ機構において、
前記スリーブに設けられた摺動板を備えており、
前記摺動板には、前記第2磁性体の回転軸方向に貫通する貫通穴が設けられており、
前記摺動板の貫通穴に、前記スリーブが通されており、
前記摺動板が、前記第1磁性体と前記第2磁性体との間に設けられていることを特徴とするスリップ機構。
【請求項4】
請求項2または3記載のスリップ機構において、
前記スリーブに設けられた歯車を備えており、
前記歯車には、前記第2磁性体の回転軸方向に貫通する貫通穴が設けられており、
前記歯車の貫通穴に、前記スリーブが通されており、
前記第2磁性体と前記歯車とは固定されていることを特徴とするスリップ機構。
【請求項5】
請求項4記載のスリップ機構において、
前記第2磁性体が、前記歯車に埋め込まれていることを特徴とするスリップ機構。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか一項に記載のスリップ機構において、
前記スリーブが、筒部と、前記筒部の一端に設けられた鍔部とを有しており、
前記スリーブの筒部の他端側から通された前記第1磁性体が、前記スリーブの鍔部で固定されていることを特徴とするスリップ機構。
【請求項7】
請求項2記載のスリップ機構において、
前記第1磁性体と前記スリーブとは一体に形成された磁性体であることを特徴とするスリップ機構。
【請求項8】
請求項4記載のスリップ機構において、
前記第2磁性体と前記歯車とは一体に形成された磁性体であることを特徴とするスリップ機構。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のスリップ機構において、
前記第1および第2磁性体は、永久磁石であることを特徴とするスリップ機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−220378(P2011−220378A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87294(P2010−87294)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(506347229)古市製作所株式会社 (2)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)