説明

スリーブ印刷版の固定方法、スリーブ印刷版用版胴及び缶の印刷装置

【課題】スリーブ印刷版を強固に固定して印刷中の位置ズレの発生を防止でき、印刷作業を安定して行うことが可能なスリーブ印刷版の固定方法を提供する。
【解決手段】軸線Lに沿って延びる円筒状をなすスリーブ印刷版30を、印刷装置に備えられたスリーブ印刷版用版胴60に固定するスリーブ印刷版の固定方法であって、スリーブ印刷版30には、印刷に使用される画像パターンが配設された画像部T1と、この画像部T1から軸線L方向の少なくとも一方側に延在する延在部T2と、が形成されており、スリーブ印刷版用版胴60には、軸線L方向端部の少なくとも一方に、スリーブ印刷版30を外周面側から押圧する固定部材67が設けられており、固定部材67によって延在部T2を挟持することにより、スリーブ印刷版30をスリーブ印刷版用版胴60に固定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状をなすスリーブ印刷版を、印刷装置に備えられたスリーブ印刷版用版胴に固定するスリーブ印刷版の固定方法、スリーブ印刷版用版胴及びこのスリーブ印刷版用版胴を備えた缶の印刷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スリーブ印刷版は、通常、繊維強化プラスチック(FRP)製のスリーブ支持体と、このスリーブ支持体の外周面に配設され、例えばレーザー光による彫刻が可能な感光性樹脂からなり画像パターンが形成された版本体と、で構成されている。
このようなスリーブ印刷版は、例えば特許文献1に記載されているように、フレキソ印刷、凸版印刷の分野において広く使用されている。また、特許文献2に記載されているように、缶等の円筒物に対するオフセット印刷の分野においても、このスリーブ印刷版が適用されている。
【0003】
このスリーブ印刷版においては、印刷装置の版胴の円筒面に装着されて使用されるが、画像パターンの周方向位置がスリーブ支持体上で予め設定されているので、スリーブ支持体と版胴との位置合わせを行うことで画像パターンの見当合わせを行うことができ、画像パターンの交換作業に掛かる時間と労力を大幅に削減することが可能となる。
【0004】
ここで、前述のスリーブ印刷版においては、その内径が前述の版胴の外径よりも僅かに小さくされており、版胴の円筒面に設けられたエア孔からエアを噴出してスリーブ印刷版を拡径させて版胴の円筒面に嵌着されている。つまり、拡径されたスリーブ印刷版が元の内径に復元しようとする収縮力によって生じるスリーブ印刷版の内面と版胴の外面との間に生じる摩擦力により、スリーブ印刷版と版胴とが強固に固定されているのである。
【0005】
また、前述のスリーブ印刷版においては、スリーブ印刷版と版胴との軸線方向位置及び周方向位置を固定する必要がある。
そこで、特許文献3には、スリーブ印刷版に位置決凸部を形成するとともに版胴に位置決部材を形成し、これら位置決凸部と位置決部材とを係合させることで、スリーブ印刷版と版胴との周方向の相対位置及び軸線方向の相対位置を決定するといった技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献4に示すように、スリーブ印刷版の一部に前記軸線方向端部に向けて開口した切欠部を設けるとともに版胴にガイドピンを設けて、前記切欠部をガイドピンに係合させることによって、スリーブ印刷版と版胴との周方向の相対位置及び軸線方向の相対位置を決定するといった技術も提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−326938号公報
【特許文献2】特開2006−272682号公報
【特許文献3】特開2007−044987号公報
【特許文献4】特開2010−137505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、スリーブ印刷版を実際に印刷に使用すると、スリーブ印刷版と版胴との間にトルクの伝達が生じる場合がある。つまり、版胴からスリーブ印刷版を回転方向へずらす力を生じる場合がある。
このトルクが小さければ、スリーブ印刷版の内面と版胴の外面との間の摩擦力により、回転方向へずらす力に耐えることができる。しかし、印刷速度が高速化したり、印刷品質を上げるために印圧を上げたりすると、前記トルクが過大となり、前記摩擦力だけではスリーブ印刷版を固定することができず、滑り始めてしまう。
【0009】
スリーブ印刷版と版胴との位置決めを、前述のようにガイドピンを用いて行う場合には、前記トルクが過大となってスリーブ印刷版が滑ると、回転トルクは版胴のガイドピンを介してスリーブ印刷版の切欠部を押圧することによって、スリーブ印刷版に伝達されることになる。すると、切欠部に過度の荷重が負荷されることになり、切欠部が早期に塑性変形してしまうおそれがあった。切欠部が塑性変形した場合には、スリーブ印刷版の位置決めを精度良く行うことができず、印刷品位が低下してしまうことになる。すると、スリーブ印刷版の版本体等が健全な場合でもスリーブ印刷版を廃棄することになり、スリーブ印刷版の使用寿命が大幅に短くなってしまうといった問題があった。
【0010】
ここで、特許文献4では、切欠部の塑性変形を抑制するために、切欠部を補強する技術が開示されている。しかしながら、位置決めのための切欠部を用いてトルクを伝達することから、位置決めの精度が劣化するおそれがあり、好ましくない。また、スリーブ印刷版の製造コストが増加するといった問題があった。
【0011】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、スリーブ印刷版を強固に固定して印刷中の位置ズレの発生を防止でき、印刷作業を安定して行うことが可能なスリーブ印刷版の固定方法、スリーブ印刷版用版胴及びこのスリーブ印刷版用版胴を備えた缶の印刷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。すなわち、本発明のスリーブ印刷版の固定方法は、軸線に沿って延びる円筒状をなすスリーブ印刷版を、印刷装置に備えられたスリーブ印刷版用版胴に固定するスリーブ印刷版の固定方法であって、前記スリーブ印刷版には、印刷に使用される画像パターンが配設された画像部と、この画像部から前記軸線方向の少なくとも一方側に延在する延在部と、が形成されており、前記スリーブ印刷版用版胴には、前記軸線方向端部の少なくとも一方に、前記スリーブ印刷版を外周面側から押圧する固定部材が設けられており、前記固定部材によって前記延在部を挟持することにより、前記スリーブ印刷版を前記スリーブ印刷版用版胴に固定することを特徴としている。
【0013】
このような構成とされたスリーブ印刷版の固定方法によれば、スリーブ印刷版が強固に固定され、印刷中の位置ズレの発生が防止される。よって、印刷作業を安定して行うことができる。
また、回転トルクが固定部材によってスリーブ印刷版に伝達されることから、スリーブ印刷版の切欠部等に過度の負荷が作用することがなくなることで、スリーブ印刷版の切欠部の変形が抑えられ、スリーブ印刷版の早期劣化が抑制されるとともに、見当精度の良い印刷が可能となる。
さらに、画像部から軸線方向の少なくとも一方側に向けて延在する延在部を固定部材によって挟持することから、印刷に使用される画像部が変形せず、印刷作業を安定して行うことができる。
【0014】
ここで、前記固定部材は、前記スリーブ印刷版を装着した状態で、前記スリーブ印刷版の画像部に設けられた版本体よりも径方向内方に後退していることが好ましい。
この場合、固定部材が版本体よりも径方向内方に後退しているので、固定部材が印刷時にスリーブ印刷版用版胴の周辺部材と干渉することが抑制され、印刷作業を安定して行うことができる。
【0015】
本発明のスリーブ印刷版用版胴は、軸線に沿って延びる円筒面を有し、この円筒面に円筒状をなすスリーブ印刷版が着脱可能に取り付けられるスリーブ印刷版用版胴であって、前記軸線方向端部の少なくとも一方には、前記スリーブ印刷版を外周面側から前記円筒面に向けて押圧して挟持する固定部材が設けられていることを特徴としている。
【0016】
このような構成とされた本発明のスリーブ印刷版用版胴においては、前記軸線方向端部の少なくとも一方に、前記スリーブ印刷版を外周面側から前記円筒面に向けて押圧して挟持する固定部材が設けられているので、この固定部材によってスリーブ印刷版を強固に固定することができる。
【0017】
ここで、前記固定部材は、前記スリーブ印刷版の端部が挿入される環状溝部を備えており、この環状溝部は、挿入方向前方側に向かうにしたがい環状溝部の溝幅が狭くなっていることが好ましい。
この場合、環状溝部に前記スリーブ印刷版の端部を挿入することで、スリーブ印刷版の軸線方向端部が挟持されて固定される。また、環状溝部が挿入方向前方側に向かうにしたがい環状溝部の溝幅が狭くなっているので、スリーブ印刷版の挿入深さを深くすることで、さらに強固にスリーブ印刷版が固定されることになる。
【0018】
また、前記固定部材は、前記スリーブ印刷版端部の外周面に当接されるリング状部材であることが好ましい。
この場合、リング状部材によって前記スリーブ印刷版の軸線方向端部を締め付けることができ、スリーブ印刷版を強固に固定することができる。
【0019】
さらに、前記固定部材は、前記スリーブ印刷版用版胴の端面に装着される本体部と、この本体部から延在して前記スリーブ印刷版端部の外周面に係止する係止部と、を備えており、前記係止部が周方向に複数配設されていることが好ましい。
この場合、周方向に複数配設された係止部によって前記スリーブ印刷版端部を挟持して固定することから、スリーブ印刷版の周方向の一部が押圧されることになる。このため、スリーブ印刷版を強固に固定することができる。なお、係止部は、周方向に等間隔で配置されていることが好ましい。この場合、回転トルクがスリーブ印刷版の周方向で均等に作用することになり、スリーブ印刷版の変形を抑制することができるとともに、スリーブ印刷版の印刷中の位置ズレをさらに確実に防止することができる。
【0020】
本発明の缶の印刷装置は、円筒状をなすスリーブ印刷版の外周面に形成された画像パターンを、缶胴に印刷する缶の印刷装置であって、前記スリーブ印刷版が前述のスリーブ印刷版用版胴に装着されていることを特徴としている。
このような構成とされた缶の印刷装置によれば、スリーブ印刷版と版胴とが強固に固定されており、スリーブ印刷版の印刷中の位置ズレが防止され、安定した印刷作業を行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、スリーブ印刷版を強固に固定して印刷中の位置ズレの発生を防止でき、印刷作業を安定して行うことが可能なスリーブ印刷版の固定方法、スリーブ印刷版用版胴及びこのスリーブ印刷版用版胴を備えた缶の印刷装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第一の実施形態であるスリーブ印刷版用版胴とスリーブ印刷版を示す斜視説明図である。
【図2】本発明の第一の実施形態であるスリーブ印刷版用版胴にスリーブ印刷版が装着された状態を示す断面説明図である。
【図3】本発明の第一の実施形態である缶の印刷装置の概略説明図である。
【図4】図3に示す缶の印刷装置の部分拡大説明図である。
【図5】図4の正面図である。
【図6】本発明の第二の実施形態であるスリーブ印刷版用版胴にスリーブ印刷版が装着された状態を示す説明図である。
【図7】図6に示すスリーブ印刷版用版及びスリーブ印刷版の軸線Lに沿った断面図である。
【図8】本発明の第三の実施形態であるスリーブ印刷版用版胴にスリーブ印刷版が装着された状態を示す説明図である。
【図9】図8に示すスリーブ印刷版用版及びスリーブ印刷版の軸線Lに沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態について添付した図面を参照して説明する。
まず、本実施形態において使用されるスリーブ印刷版30及び第一の実施形態である版胴60について説明する。
スリーブ印刷版30は、図1に示すように、軸線Lに沿って延びる円筒状をなすスリーブ支持体31と、このスリーブ支持体31の外周面に配設され、缶に印刷される画像パターンが形成された版本体33と、を備えている。
【0024】
スリーブ支持体31は、繊維強化プラスチック(FRP)若しくはポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂で形成されている。
版本体33は、例えばレーザー光による彫刻が可能な感光性樹脂からなる版材にエッチングやレーザー加工によって画像パターンを形成したものであり、いわゆる凸版とされている。
本実施形態では、2つの版本体33,33が軸線Lを挟んで対向する位置に配設されている。
また、スリーブ印刷版30の軸線L方向後端側(図1において右側)には、後述する版胴60のガイドピン66に係合し、版胴60との周方向相対位置、軸線L方向相対位置を案内するためのガイド切欠部34が形成されている。
【0025】
そして、スリーブ印刷版30には、図1に示すように、版本体33の画像パターンが形成された画像部T1と、この画像部T1から軸線L方向両端側に向けて延在する延在部T2、T2と、が設けられている。すなわち、版本体33が、スリーブ支持体31の軸線L方向中央部に位置するように配設されているのである。
【0026】
次に、版胴60について説明する。版胴60は、図1に示すように、円筒状をなしており、内周孔61と、外周側を向く円筒面62と、軸線L方向端面63と、を備えている。
版胴60には、一方の軸線L方向端面63に開口するとともに軸線Lに沿って延びるエア供給路64と、このエア供給路64に連通されるとともに円筒面62に開口するエア孔65とを備えており、このエア孔65から噴出したエアによってスリーブ印刷版30を拡径して着脱する構成とされている。
【0027】
内周孔61には、版胴60を回転駆動する駆動軸71の先端が着脱可能に挿入される構成とされている。本実施形態では、内周孔61は軸線L方向先端側(図1において左側)に向かうに従い漸次縮径するテーパ孔とされており、駆動軸71の先端も軸線L方向先端側(図1において左側)に向かうに従い漸次縮径するテーパ軸とされている。ここで、内周孔61と駆動軸71とは、前述のように、テーパ嵌合されており、軸線L方向の相対位置が決定される構成とされている。
【0028】
円筒面62には、軸線L方向後端側(図1において右側)に、版本体33、33を備えたスリーブ印刷版30との周方向相対位置、軸線L方向相対位置とを案内するガイドピン66が突設されている。
【0029】
そして、版胴60の軸線L方向後端側には、環状溝部67が配設されている。この環状溝部67は、図2に示すように、版胴60の軸線L方向後端側端面から径方向外方に向けて延出し、軸線L方向先端側に向けて突出する外面支持部68と、円筒面62の一部とによって画成されている。
ここで、環状溝部67は、図2に示すように、軸線L方向後端側に向かうにしたがい漸次溝幅が狭くなっている。また、外面支持部68は、スリーブ印刷版30の画像部T1に設けられた版本体33よりも径方向内方に後退している。
【0030】
次に、この版胴60にスリーブ印刷版30を装着する方法について説明する。
まず、スリーブ印刷版30の一端を版胴60の外周面に嵌め込む。この状態で、エアポンプ等で版胴60の一方の軸線L方向端面63に開口したエア供給路64に接続してエアを供給する。供給されたエアは、軸線Lに平行に延びるエア供給路64を介して円筒面62に開口するエア孔65から噴出される。このようにして噴出されたエアによってスリーブ印刷版30が拡径され、版胴60にスリーブ印刷版30が装着される。
【0031】
このとき、スリーブ印刷版30の軸線L方向後端側に設けられたガイド切欠部34が、版胴60の円筒面62の軸線L方向後端側に突設されたガイドピン66に係合され、スリーブ印刷版30と版胴60との周方向相対位置、軸線L方向相対位置が決定される。
ここで、スリーブ印刷版30の軸線L方向後端部が、前述の環状溝部67内へと挿入される。環状溝部67は、軸線L方向後端側に向かうにしたがい漸次溝幅が狭くなっていることから、スリーブ印刷版30を挿入することにより、スリーブ印刷版30が、環状溝部67を画成する外面支持部68によって円筒面62側へと押圧されることになり、これら外面支持部68と円筒面62とで挟持されて固定されることになる。
【0032】
すなわち、版本体33が配設された画像部T1の軸線L方向両端側に形成された延在部T2,T2のうち、軸線L方向後端側の延在部T2の一部が環状溝部67へと挿入され、スリーブ印刷版30が版胴60に固定されているのである。
【0033】
次に、上述のスリーブ印刷版30及び版胴60を用いた本実施形態である缶の印刷装置Aについて説明する。缶の印刷装置Aの概略を図3及び図4に示す。
本実施形態である缶の印刷装置Aは、複数配置されたインク付着機構Bと、缶移動機構Cとで概略構成されている。
【0034】
インク付着機構Bは、インクを供給するインカーユニット1と、このインカーユニット1に接触してインクを写し取った後、缶胴20の外周面に接触して該インクを印刷する(付着させる)ブランケット9と、このブランケット9を複数枚備えるブランケットホイール8と、から構成されている。
【0035】
缶移動機構Cは、缶胴20を取り入れる缶シュータ10と、この缶シュータ10から供給された缶胴20を回転自在に保持するマンドレル11と、このマンドレル11に装着された缶胴20を、順次、インク付着機構B方向に回転移動させるマンドレルターレット12とで構成されている。
【0036】
インカーユニット1は、図3に示すように、インク源2と、インク源2に接触してインクを受けるダクティングロール3と、このダクティングロール3に接触して付着されたインクを練る中間ロール4と、この中間ロール4に接触するインク付着ロール5と、このインク付着ロール5に接触する版胴60とからなり、版胴60の外周面(円筒面62)には、缶胴20に転写する画像パターンを有する版本体33を備えたスリーブ印刷版30が配設されている。
【0037】
ブランケットホイール8の外周面には、ブランケット9が複数枚備えられており、このブランケット9は、版胴60の外周面に配設されたスリーブ印刷版30の版本体33に接触するとともに、缶胴20に接触する構成とされている。
【0038】
ここで、図4に示すように、インク付着ロール5の外周面と版胴60に装着されたスリーブ印刷版30の版本体33とが接触する構成とされており、インク付着ロール5から版本体33にインクが付着される。
また、版本体33は、ブランケットホイール8に備えられたブランケット9に接触する構成とされており、版本体33に付着されたインクがブランケット9に転写されることになる。
【0039】
そして、本実施形態では、図5に示すように、版胴60及びスリーブ印刷版30の軸線L方向長さが、インク付着ロール5の軸線L´方向長さよりも長く設定されており、インク付着ロール5は、版胴60の軸線L方向中央部に位置している。すなわち、インク付着ロール5が、版胴60に装着されたスリーブ印刷版30の画像部T1に対向するように配設されているのである。
【0040】
このような構成とされた缶の印刷装置Aにおいては、各々のインカーユニット1のインク源2から各々異なった色のインクが、ダクティングロール3、中間ロール4、インク付着ロール5を介して、版胴60の外周面(円筒面62)に配設された版本体33に付着させられ、これら各色のインクが、回転するブランケットホイール8上のブランケット9にパターンとして乗せられ、このパターンがマンドレル11に保持された缶胴20に接触しながら印刷される。
【0041】
以上のような構成とされた本実施形態によれば、環状溝部67にスリーブ印刷版30の一端が挿入され、この環状溝部67によってスリーブ印刷版30が強固に固定されているので、印刷中の位置ズレの発生が防止され、印刷作業を安定して行うことができる。
また、回転トルクが環状溝部67を介してスリーブ印刷版30に伝達されることから、スリーブ印刷版30のガイド切欠部34に過度の負荷が作用することがない。よって、スリーブ印刷版30の早期劣化が抑制されるとともに、見当精度の良い印刷が可能となる。
さらに、スリーブ印刷版30のうち版本体33が配設された画像部T1から軸線L方向後端側に向けて延在する延在部T2を環状溝部67に挿入しているので、印刷に使用される画像部T1が変形せず、印刷作業を安定して行うことができる。
【0042】
また、環状溝部67を画成する外面支持部68が、スリーブ印刷版30の画像部T1に設けられた版本体33よりも径方向内方に後退しているので、外面支持部68がインク付着ロール5と干渉することがなく、印刷作業を安定して行うことができる。また、インク付着ロール5から画像部T1にのみインクを付着させることができ、高品質な印刷を行うことができる。
【0043】
さらに、本実施形態では、環状溝部67の溝幅が軸線L方向後端側に向かうにしたがい漸次狭くなるように構成されているので、スリーブ印刷版30の挿入深さを深くすることで、さらに強固にスリーブ印刷版30を固定することができる。
【0044】
また、本実施形態である缶の印刷装置Aによれば、スリーブ印刷版30と版胴60とが強固に固定されることになり、スリーブ印刷版30の印刷中の位置ズレが防止され、印刷作業を安定して行うことができる。
【0045】
次に、本発明の第二の実施形態である版胴160について、図6及び図7を参照して説明する。
本実施形態である版胴160は、円筒状をなしており、内周孔161と、外周側を向く円筒面162と、を備えている。
版胴160の軸線L方向後端側(図7において右側)には、図7に示すように、環状溝部167が配設されている。この環状溝部167は、図7に示すように、版胴160の軸線L方向後端側端面から径方向外方に向けて延出し、軸線L方向先端側(図7において左側)に向けて突出する外面支持部168と、円筒面162の一部とによって画成されている。また、環状溝部167は、軸線L方向後端側に向かうにしたがい漸次溝幅が狭くなっている。
【0046】
また、版胴160の軸線L方向先端側には、スリーブ印刷版30を外周面側から締め付けるリング状部材180が配設されている。
このリング状部材180は、半円弧状をなす2つの部材がフランジ部181においてボルト182で接合されることで構成とされている。なお、ボルト182の締め込み量を調整することで、スリーブ印刷版30に対する押圧力が制御されることになる。
【0047】
次に、この版胴160にスリーブ印刷版30を装着する方法について説明する。
まず、スリーブ印刷版30の一端を版胴160の外周面に嵌め込む。この状態で、エアポンプ等で版胴160の一方の軸線L方向端面に開口したエア供給路164からエアを供給する。供給されたエアは、軸線Lに平行に延びるエア供給路164を介して円筒面162に開口するエア孔から噴出される。このようにして噴出されたエアによってスリーブ印刷版30が拡径され、版胴160にスリーブ印刷版30が装着される。
【0048】
ここで、スリーブ印刷版30の軸線L方向端部が、環状溝部167内へと挿入される。環状溝部167は、軸線L方向後端側に向かうにしたがい漸次溝幅が狭くなっていることから、スリーブ印刷版30を挿入することにより、スリーブ印刷版30が環状溝部167を画成する外面支持部168によって円筒面162側へと押圧されることになり、外面支持部168と円筒面162とで挟持されて固定されることになる。
【0049】
また、リング状部材180を、スリーブ印刷版30の画像部T1から軸線L方向先端側に向けて延在する延在部T2に配置し、フランジ部181のボルト182を締めこむ。これにより、リング状部材180によってスリーブ印刷版30を外周側から押圧し、スリーブ印刷版30を固定する。
ここで、環状溝部167を画成する外面支持部168、リング状部材180は、スリーブ印刷版30の画像部T1に設けられた版本体33よりも径方向内方に後退させられている。
【0050】
このような構成とされた本実施形態である版胴160によれば、第一の実施形態と同様に、環状溝部167にスリーブ印刷版30が挿入され、この環状溝部167によってスリーブ印刷版30が強固に固定されているので、印刷中の位置ズレの発生が防止され、印刷作業を安定して行うことができる。
さらに、本実施形態においては、版胴160の軸線L方向先端側にリング状部材180が配設されているので、このリング状部材180によってスリーブ印刷版30の延在部T2を締め付けることができ、スリーブ印刷版30をさらに強固に固定することができる。
【0051】
次に、本発明の第三の実施形態である版胴260について、図8及び図9を参照して説明する。
本実施形態である版胴260は、円筒状をなしており、内周孔261と、外周側を向く円筒面262と、を備えている。
この版胴260の軸線L方向先端側(図9において左側)を向く端面には、スリーブ印刷版30を固定する固定部材280が着脱可能に装着される構成とされている。
【0052】
固定部材280は、版胴260の軸線L方向先端側を向く端面に装着される本体部281と、この本体部281から径方向外方に向けて延在し、スリーブ印刷版30の外周面に係止する係止部282と、を備えている。
本体部281には、版胴260の軸線L方向先端側を向く端面に開口する内周孔261に挿入される挿入軸283が突設されている。
【0053】
係止部282は、周方向に複数設けられており、本実施形態では、図8に示すように、周方向に4つの係止部282が設けられている。また、これらの4つの係止部282は、周方向に等間隔(90°間隔)に配設されている。
係止部282は、図8及び図9に示すように、調整ボルト284によってその径方向位置が調整される構成とされている。
【0054】
次に、この版胴260にスリーブ印刷版30を装着する方法について説明する。
まず、スリーブ印刷版30の一端を版胴260の外周面に嵌め込む。この状態で、エアポンプ等で版胴260の一方の軸線L方向端面に開口したエア供給路からエアを供給する。供給されたエアは、軸線Lに平行に延びるエア供給路を介して円筒面262に開口するエア孔から噴出される。このようにして噴出されたエアによってスリーブ印刷版30が拡径され、版胴260にスリーブ印刷版30が装着される。
【0055】
ここで、版胴260の軸線L方向先端側に固定部材280を配置し、本体部281の挿入軸283を版胴260の内周孔261に挿入して固定する。このとき、係止部282をスリーブ印刷版30の軸線L方向先端側の延在部T2の外周側に配置する。そして、調整ボルト284をねじ込むことで係止部282を径方向内方に向けて移動させ、スリーブ印刷版30の延在部T2を外周側から押圧して固定する。
なお、固定部材280の係止部282は、スリーブ印刷版30の画像部T1に設けられた版本体33よりも径方向内方に後退している。
【0056】
このような構成とされた本実施形態である版胴260によれば、周方向に複数配設された係止部282で外周側から押圧することによって、スリーブ印刷版30が強固に固定されているので、印刷中の位置ズレの発生が防止され、印刷作業を安定して行うことができる。また、画像部T1から延在する延在部T2を固定部材280によって押圧しているので、画像部T1の変形を防止でき、高品質な印刷を行うことができる。
【0057】
さらに、本実施形態では、4つの係止部282が周方向に等間隔に配設されているので、回転トルクがスリーブ印刷版30の周方向で均等に作用することになり、スリーブ印刷版30の変形を抑制することができるとともに、スリーブ印刷版30の印刷中の位置ズレをさらに確実に防止することができる。
また、固定部材280が、版胴260の端面に装着される本体部281を備えているので、固定部材280を着脱可能に使用することができ、円筒面262に特別な加工を行う必要がなく、この版胴260を低コストで製作することができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、版本体が2つ配設されたスリーブ印刷版を用いたもので説明したが、これに限定されることはなく、版本体が1つ配設されたものでもよいし、3つ以上の版本体が配設されたものであってもよい。
【0059】
また、第二の実施形態において、リング状部材が2つの部材で構成されたものとして説明したが、これに限定されることはなくスリーブ印刷版を外周側から締めこむ構造のものであればよい。
さらに、第三の実施形態において、係止部を4つ設けたものとして説明したが、これに限定されることはなく、2以上の係止部を有していればよい。
また、環状溝部、リング状部材、第三の実施形態における固定部材、を組み合わせてもよいし、これらを単独で使用してもよい。
さらに、スリーブ印刷版が画像部T1と、この画像部T1から軸線L方向両端側に延在する延在部T2、T2を設けたもので説明したが、これに限定されることはなく、画像部の軸線L方向一方側にのみ延在部T2を設けてもよい。
【実施例】
【0060】
本発明の有効性を確認するために行った比較実験について説明する。
外径が226mm、軸線L方向長さが187mmの版胴に、内径225.5mmのスリーブ印刷版を装着して回転させ、スリーブ印刷版が円筒面に沿って移動を開始する回転トルク値を測定した。
なお、スリーブ印刷版は、スリーブ支持体がFRPで構成され、版材が感光性樹脂で構成されており、スリーブ支持体の厚さt1が0.7mmとされ,版材の厚さt2が0.6mmとされたものを使用した。
【0061】
従来例として、固定部材を有していない版胴を使用した。
本発明例1は、第一の実施形態に示すように、版胴の軸線L方向後端側に環状溝部を設けたものを使用した。なお、環状溝部の深さ(軸線L方向長さ)を10mmとし、環状溝部の開口部の溝幅(径方向長さ)を2mm、環状溝部の底部の溝幅を0.6mmとした。
【0062】
本発明例2は、第二の実施形態に示すように、環状溝部とリング状部材とを備えたものを使用した。なお、環状溝部の形状、寸法は、本発明例1と同様とした。また、リング状部材は、幅(軸線L方向長さ)を10mmとし、内径を227mmとした。
【0063】
本発明例3は、第三の実施形態に示すように、版胴の軸線L方向先端側に固定部材を配設したものを使用した。ここで、係止部によるスリーブ印刷版の押圧深さを0.5mmとした。
本発明例4は、本発明例3で用いた固定部材を、版胴の軸線L方向先端側及び後端側に配設したものを使用した、ここで、係止部によるスリーブ印刷版の押圧深さを0.5mmとした。
【0064】
【表1】

【0065】
表1によれば、本発明例1―4は、従来例と比較して、スリーブ印刷版が回転移動を開始するトルクが高くなっており、スリーブ印刷版を強固に固定できることが確認された。よって、本発明によれば、スリーブ印刷版の印刷中の位置ズレを防止でき、印刷作業を安定して行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0066】
30 スリーブ印刷版
33 版本体
60、160、260 版胴(スリーブ印刷版用版胴)
62、162、262 円筒面
67、167 環状溝部(固定部材)
180 リング状部材(固定部材)
280 固定部材
281 本体部
282 係止部
A 缶の印刷装置
T1 画像部
T2 延在部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線に沿って延びる円筒状をなすスリーブ印刷版を、印刷装置に備えられたスリーブ印刷版用版胴に固定するスリーブ印刷版の固定方法であって、
前記スリーブ印刷版には、印刷に使用される画像パターンが配設された画像部と、この画像部から前記軸線方向の少なくとも一方側に延在する延在部と、が形成されており、
前記スリーブ印刷版用版胴には、前記軸線方向端部の少なくとも一方に、前記スリーブ印刷版を外周面側から押圧する固定部材が設けられており、
前記固定部材によって前記延在部を挟持することにより、前記スリーブ印刷版を前記スリーブ印刷版用版胴に固定することを特徴とするスリーブ印刷版の固定方法。
【請求項2】
前記固定部材は、前記スリーブ印刷版を装着した状態で、前記スリーブ印刷版の画像部に設けられた版本体よりも径方向内方に後退していることを特徴とする請求項1に記載のスリーブ印刷版の固定方法。
【請求項3】
軸線に沿って延びる円筒面を有し、この円筒面に円筒状をなすスリーブ印刷版が着脱可能に取り付けられるスリーブ印刷版用版胴であって、
前記軸線方向端部の少なくとも一方には、前記スリーブ印刷版を外周面側から前記円筒面に向けて押圧して挟持する固定部材が設けられていることを特徴とするスリーブ印刷版用版胴。
【請求項4】
前記固定部材は、前記スリーブ印刷版の端部が挿入される環状溝部を備えており、この環状溝部は、挿入方向前方側に向かうにしたがい環状溝部の溝幅が狭くなっていることを特徴とする請求項3に記載のスリーブ印刷版用版胴。
【請求項5】
前記固定部材は、前記スリーブ印刷版端部の外周面に当接されるリング状部材であることを特徴とする請求項3に記載のスリーブ印刷版用版胴。
【請求項6】
前記固定部材は、前記スリーブ印刷版用版胴の端面に装着される本体部と、この本体部から延在して前記スリーブ印刷版端部の外周面に係止する係止部と、を備えており、前記係止部が周方向に複数配設されていることを特徴とする請求項3に記載のスリーブ印刷版用版胴。
【請求項7】
円筒状をなすスリーブ印刷版の外周面に形成された画像パターンを、缶胴に印刷する缶の印刷装置であって、
前記スリーブ印刷版が請求項3から請求項6のいずれか一項に記載のスリーブ印刷版用版胴に装着されていることを特徴とする缶の印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−86439(P2012−86439A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234563(P2010−234563)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(305060154)ユニバーサル製缶株式会社 (219)