説明

スルホランの製造工程管理方法

【課題】石油精製時のベンゼン、トルエンおよびキシレン(BTXという)等の抽出溶剤用途、剥離剤用途、医薬品製造用の溶媒等、種々の用途に適した多様な品質を有する製品スルホランを、効率よく製造するための工程管理方法を提供する。
【解決手段】スルホラン製造における工程管理方法として、粗製スルホランの熱安定性試験に代わる管理方法。即ち、イオンクロマトグラフ法等により粗製スルホラン中の溶存二酸化硫黄量を測定するスルホランの製造工程管理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホランの製造時における工程管理の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スルホランは、石油精製時のベンゼン、トルエンおよびキシレン等(以下、BTXという)の抽出溶剤用途、剥離剤用途、医薬品製造用の溶媒等、様々な用途に用いられている。スルホランの製造方法としては、例えば、1,3−ブタジエンと二酸化硫黄を反応させ、得られたスルホレンを水素化することによりスルホランを得る方法が挙げられる(特許文献1)。
【0003】
スルホランの種々の用途のうち、BTX抽出用途の場合、一般に品質規格として熱安定性試験が必須とされており、その試験方法としては、例えば、所定量のスルホランを約180℃に加熱した後、二酸化硫黄を測定する方法(UOP 599−68T等)が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−321936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記熱安定性試験は、試験結果が出るまでに長時間を要すること、作業手順が煩雑であること等の理由から、簡便性に劣る評価手段であり、スルホランの製造に係る各工程において当該試験を実施することは製造効率を向上させる妨げとなっていた。
一方、スルホランの製造条件は、各用途に対応した多様な品質を確保するために、原料品質や中間原料純度だけでなく、共存不純物種や共存不純物量等の影響を受け種々変更設定する必要がある。また、例えば、種々の製造条件で製造された粗製スルホランを製造ロット単位で選別し混合して製品化する際にも目的に応じた混合条件を設定する必要がある。従って、用途に応じた製品スルホラン、特に熱安定性を求められる製品スルホランを効率よく製造するためには、当該製造条件や混合条件を決定するための、熱安定性試験等の工程試験が不可欠となる。
【0006】
本発明の目的は、種々の用途に適した多様な品質を有する製品スルホランを、効率よく製造するための工程管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記熱安定性試験で測定される二酸化硫黄は、当該試験液中に溶存している二酸化硫黄とスルホランの熱分解等により発生する二酸化硫黄との総量であることに着目した。更に、試験液中に存在する不純物種と不純物の存在量に大差なければ、すなわち、粗製スルホランの製造条件に大きな変化がなければ、製品スルホランと粗製スルホランとの熱分解特性は大差ないことを見出し、本発明に到達した。
【0008】
本発明は、スルホランの製造における工程管理方法として、粗製スルホランの熱安定性試験に代わる管理方法に関するものである。即ち、本発明は粗製スルホラン中の溶存二酸化硫黄量を測定するスルホランの製造工程管理方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るスルホランの製造工程管理方法によれば、種々の用途に適した多様な品質を有する製品スルホランを効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、粗製スルホランとしては、例えば、スルホランを製造するために二酸化硫黄を用いる工程を経たスルホラン組成物、製品スルホランとするために溶媒や未反応原料等を除去する蒸留工程に供するスルホラン水溶液、溶媒や未反応原料等を蒸留除去したスルホラン組成物、および蒸留工程等の精製工程を経た後の、混合工程に供するスルホラン等を挙げることができる。これらの中でも、より最終工程に近い前記混合工程に供するスルホランであることが好ましい。
【0011】
本発明において、粗製スルホラン中の溶存二酸化硫黄を測定する方法としては、特に限定されないが、簡便であり少量での分析が可能であることからイオンクロマトグラフ法等を挙げることが出来る。
【0012】
本発明で用いられる前記イオンクロマトグラフ法は、市販のイオンクロマトグラフ装置を用いればよく、用いるカラム等は特に制約を受けない。また、その測定温度や溶離条件等の測定条件は目的が達成される条件を適宜設定すればよい。
【0013】
以下に実施例を挙げ、粗製スルホラン中の溶存二酸化硫黄量と熱安定性試験での二酸化硫黄量とを比較して本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0014】
実施例において使用した、溶存二酸化硫黄量を測定するためのイオンクロマトグラフ法の測定条件は以下の通りである。
【0015】
(イオンクロマトグラフ測定条件)
測定装置:島津HIC−SP
カラム:ガードカラム IonPac AG4A、Dionex
分離カラム IonPac AS4A、Dionex
溶離液:1.8mM炭酸ナトリウム−1.7mM炭酸水素ナトリウム
流速:1.5mL/min
サプレッサー:AMMSアニオンメンブランサプレッサー
再生液:12.5mM硫酸溶液
検出器:電気伝導度検出器
【0016】
(熱安定性試験)
温度計と撹拌機、窒素吹込みノズルを備えた500mLフラスコと、二酸化硫黄捕集用の200mLトラップとをゴムチューブで接続した後、粗製スルホラン300gを500mLフラスコに、30重量%過酸化水素水50gを二酸化硫黄捕集用200mLトラップにそれぞれ仕込んだ。前記500mLフラスコを、オイルバスを用いて180℃まで昇温し、その温度を保持したまま窒素を20mL/minで1時間通気した。その後、二酸化硫黄捕集用の200mLトラップを取り外し、前記過酸化水素水に捕集された二酸化硫黄を0.01N過塩素酸バリウムを用いた滴定法により定量した。この際、二酸化硫黄は過酸化水素により酸化され、SO4として定量されているため、これを二酸化硫黄量に換算して、粗製スルホランの熱安定性試験での二酸化硫黄量(mg/L)とした。
【0017】
(製造例1)
攪拌機、圧力計、温度計および加熱器を備え付けた2L容のステンレス製オートクレーブに、tert−ブチルカテコール0.45gおよび、二酸化硫黄230g(3.6mol)を仕込んだ。次にオートクレーブを100℃に昇温し、1,3−ブタジエン162g(3.0mol)を、ポンプを用いて0.38g/minで注入した後、100℃で1時間攪拌した。この間、オートクレーブ内の圧力は2.7〜0.7MPaであった。
次いで、オートクレーブ内を放圧後、水720gを添加し、60℃に冷却した後、濾紙を用いて内容物を濾過することにより、3−スルホレン水溶液を得た。
得られた3−スルホレン水溶液1000g(3−スルホレン2.70mol)をラネーニッケル触媒(50%含水品)4.80g(ニッケル純分2.40g)と共に、攪拌機、圧力計、温度計および加熱器を備え付けた2L容のステンレス製オートクレーブに仕込んだ。次に、温度を30〜40℃に維持し、オートクレーブ内に水素を導入して1.0MPaまで加圧し、攪拌機により1000rpmで攪拌して反応させた。水素を補充することにより圧力を保ちながら、反応開始後120分から、30分ごとにサンプリングを行い、ガスクロマトグラフィーを用いて、3−スルホレンが消失するまで反応を継続させた。反応終了後、スルホラン水溶液とラネーニッケル触媒を濾過分離した。
【0018】
次に、得られたスルホラン水溶液の全量を、攪拌機、圧力計、温度計、留出ラインを備えたコンデンサーおよび加熱器を備え付けた2L容のステンレス製容器に入れた。120℃まで温度を徐々に上昇させ、水を留出除去し粗製スルホラン315gを得た。
【0019】
(実施例1)
製造例1で得られた粗製スルホラン50マイクロリットルをイオンクロマトグラフ装置に直接導入し、溶存二酸化硫黄量を測定したところ58mg/Lであった。
【0020】
(実施例2)
製造例1と同様にして得られた粗製スルホランの全量を、引き続き、容器の圧力を5kPaまで減圧し、温度を160℃まで徐々に上昇させ、留出物を捕集することにより、粗製スルホラン306gを得た。
前記、粗製スルホラン50マイクロリットルをイオンクロマトグラフ装置に直接導入し、溶存二酸化硫黄量を測定したところ18mg/Lであった。
【0021】
(比較例1)
実施例1で得られた粗製スルホランについて、熱安定性試験を実施したところ二酸化硫黄量は60mg/Lであった。
【0022】
(比較例2)
実施例2で得られた粗製スルホランについて、熱安定性試験を実施したところ二酸化硫黄量は19mg/Lであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗製スルホラン中の溶存二酸化硫黄量を測定するスルホランの製造工程管理方法。

【公開番号】特開2012−1471(P2012−1471A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136885(P2010−136885)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)