説明

スルホン化合物及びその製造方法

【課題】カロテノイド製造のための重要中間体であるスルホン化合物を、工業的に有利に製造するための方法を提供する。
【解決手段】式(1)で表されるスルホン化合物の製造方法であって、式(3)で表される化合物と、塩素酸塩又は臭素酸塩とを反応させ、得られた反応液を、HX又はXと反応させ、式(4)で表される化合物を得る工程;式(4)で表される化合物と、ハロゲン化剤又はM(OCOR)nとを反応させ、式(5)又は式(6)で表される化合物を得る工程;又は式(5)又は式(6)で表される化合物と、無機塩基とを反応させ、式(7)で表される化合物を得る工程;によって上記スルホン化合物を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホン化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、β−カロテン、カンタキサンチン、アスタキサンチン等のカロテノイドが飼料添加物、食品着色料等として使用されている。非特許文献1には、β−カロテンの既存の製造方法等が示されている。具体的には、炭素数15のWittig試薬2分子と炭素数10のジアルデヒド1分子から、炭素数40のβ−カロテンを製造する方法が示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Pure & Appl. Chem., Vol.63, No.1, pp.45-58, 1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況下、カロテノイドに簡便に誘導し得る中間体、並びに、原料の価格、製造工程数、精製工程などの観点からさらに優れた該中間体の製造方法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、安価で安全に効率よく目的のスルホン化合物を製造できる方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
本発明の対象およびその好ましい態様は、以下の通りである。
[1]Zが水素原子である以下の式(1):
【化1】

[式中、Aは、水素原子又は式(2):
【化2】

(式中、Arは、1〜3個の置換基を有していてもよいアリール基を表し、波線は、その結合する二重結合の立体がE体、Z体又はE/Zの混合物であることを表す。)
で表される基(*が結合部位を表す)であり、Arは、前記と同じ意味を表す。]
で表される化合物の製造方法であって、式(3):
【化3】

(式中、A及びArは、前記と同じ意味を表す。)
で表される化合物と、塩素酸塩又は臭素酸塩とを反応させる第1工程;並びに
第1工程で得られた反応液を、HX又はX(式中、Xはハロゲン原子を表す。)のいずれかの反応試剤と反応させる第2工程;
を行うことにより、式(4):
【化4】

(式中、A及びArは、前記と同じ意味を表す。)
で表される化合物を得ることを含んでなる方法。
【0007】
[2]第2工程をpH5以下で行うことを特徴とする上記[1]記載の製造方法。
[3]塩素酸塩又は臭素酸塩がアルカリ金属塩であることを特徴とする上記[1]又は[2]記載の製造方法。
[4]塩素酸又は臭素酸のアルカリ金属塩が、塩素酸ナトリウム又は臭素酸ナトリウムであることを特徴とする上記[3]記載の製造方法。
[5]第2工程で用いる反応試剤がHXであり、当該HXにおいて、Xが臭素原子であることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれか記載の製造方法。
[6]第2工程で用いる反応試剤がXであり、当該Xにおいて、Xがヨウ素原子であることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれか記載の製造方法。
[7]Arが4−メチルフェニル基であることを特徴とする上記[1]〜[6]のいずれか記載の製造方法。
【0008】
[8]Zがハロゲン原子である以下の式(1):
【化5】


[式中、Aは、水素原子又は式(2):
【化6】

(式中、Arは、1〜3個の置換基を有していてもよいアリール基を表し、波線は、その結合する二重結合の立体がE体、Z体又はE/Zの混合物であることを表す。)
で表される基(*が結合部位を表す)であり、Arは、前記と同じ意味を表す。]
で表される化合物の製造方法であって、式(4):
【化7】

(式中、A及びArは、前記と同じ意味を表す。)
で表される化合物と、ハロゲン化剤とを反応させて、式(5):
【化8】

(式中、Xは、ハロゲン原子を表し、A及びArは、前記と同じ意味を表す。)
で表される化合物を得ることを含んでなる方法。
【0009】
[9]Xが、臭素原子であり、ハロゲン化剤が臭素、N−ブロモスクシンイミド、又は1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインである上記[8]記載の製造方法。
[10]Arが4−メチルフェニル基であることを特徴とする上記[8]又は[9]記載の製造方法。
【0010】
[11]Zがアルコキシカルボニル基である以下の式(1):
【化9】

[式中、Aは、水素原子又は式(2):
【化10】

(式中、Arは、1〜3個の置換基を有していてもよいアリール基を表し、波線は、その結合する二重結合の立体がE体、Z体又はE/Zの混合物であることを表す。)
で表される基(*が結合部位を表す)であり、Arは、前記と同じ意味を表す。]
で表される化合物の製造方法であって、式(4):
【化11】

(式中、A及びArは、前記と同じ意味を表す。)
で表される化合物と、M(OCOR)n(式中、Mは金属原子、Rは炭素数1〜4のアルキル基、nは2から4の整数を表す。)で表される化合物とを反応させ、式(6):
【化12】

(式中、A、Ar及びRは、前記と同じ意味を表す。)
で表される化合物を得ることを含んでなる方法。
【0011】
[12]Rがメチル基、Mがマンガン、nが3であることを特徴とする上記[11]記載の製造方法。
[13]Arが4−メチルフェニル基であることを特徴とする上記[11]又は[12]記載の製造方法。
【0012】
[14]Zがヒドロキシル基である以下の式(1):
【化13】

[式中、Aは、水素原子又は式(2):
【化14】

(式中、Arは、1〜3個の置換基を有していてもよいアリール基を表し、波線は、その結合する二重結合の立体がE体、Z体又はE/Zの混合物であることを表す。)
で表される基(*が結合部位を表す)であり、Arは、前記と同じ意味を表す。]
で表される化合物の製造方法であって、式(6):
【化15】

(式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を表し、A及びArは、前記と同じ意味を表す。)
で表される化合物と、無機塩基とを反応させ、式(7):
【化16】

(式中、A及びArは、前記と同じ意味を表す。)
で表される化合物を得ることを含んでなる方法。
【0013】
[15]無機塩基がアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩であることを特徴とする上記[14]記載の製造方法。
[16]Arが4−メチルフェニル基であることを特徴とする上記[14]又は[15]記載の製造方法。
【0014】
[17]式(1):
【化17】

[式中、Zは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基又はヒドロキシル基であることを表し、Aは、水素原子又は式(2):
【化18】

(式中、Arは、1〜3個の置換基を有していてもよいアリール基を表し、波線は、その結合する二重結合の立体がE体、Z体又はE/Zの混合物であることを表す。)
で表される基(*が結合部位を表す)であり、Arは、前記と同じ意味を表す。但し、Aが水素原子である場合には、Zはハロゲン原子及びヒドロキシル基ではない。]
で表される化合物。
【0015】
[18]Arが4−メチルフェニル基であることを特徴とする上記[17]記載の化合物。
[19]Zがメトキシカルボニル基であることを特徴とする上記[17]又は[18]記載の化合物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によれば、カロテノイド製造のための重要中間体であるスルホン化合物を工業的に有利な方法で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
上記式(1)において示されるZは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基又はヒドロキシル基である。
ハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素等の原子が挙げられ、臭素原子が特に好ましい。また、好ましいアルコキシカルボニル基は、メトキシカルボニル基である。
【0018】
上記式(1)及び(3)〜(7)において示されるAは、水素原子又は上記式(2)で表される基である。
【0019】
上記式(1)〜(7)において示されるArは、1〜3個の置換基を有していてもよいアリール基である。アリール基としてはフェニル基、ナフチル基などが挙げられ、置換基としては、炭素数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基、炭素数1〜5の直鎖又は分枝状のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基などが挙げられる。好ましいアリール基はフェニル基であり、好ましい置換基は炭素数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基である。
【0020】
Arの具体例は、フェニル、ナフチル、2−メチルフェニル、3−メチルフェニル、4−メチルフェニル、4−エチルフェニル、4−プロピルフェニル、4−ブチルフェニル、4−ペンチルフェニル、2−メトキシフェニル、3−メトキシフェニル、4−メトキシフェニル、2−フルオロフェニル、3−フルオロフェニル、4−フルオロフェニル、2−クロロフェニル、3−クロロフェニル、4−クロロフェニル、2−ブロモフェニル、3−ブロモフェニル、4−ブロモフェニル、2−ヨードフェニル、3−ヨードフェニル、4−ヨードフェニル、2−ニトロフェニル、3−ニトロフェニル、4−ニトロフェニル、2,4−ジメチルフェニル、2,4−ジメトキシフェニル、2,4−ジクロロフェニル、2,4,6−トリメチルフェニル、2,4,6−トリクロロフェニルなどである。好ましいArは、無置換フェニル又は炭素数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基で置換されたフェニルである。より好ましいArは、4位が炭素数1〜5の直鎖アルキル基で置換されたフェニルであり、特に好ましいArは4−メチルフェニルである。
【0021】
上記式(5)において示されるXは、ハロゲン原子である。ハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素等の原子が挙げられ、臭素原子が特に好ましい。
【0022】
以下、本発明の各工程について詳細に説明する。
下記に示す反応工程[以下、工程(A)と称する]は、酸化工程である。
【化19】

本発明の出発物質である上記式(3)で示される化合物[以下、化合物(3)と略す]において、Aが水素原子である化合物は、例えば、特開2001−139542号公報に記載の方法によって合成することができる。また、化合物(3)において、Aが式(2)で表される基である化合物は、例えば、特開2002−193917号公報に記載の方法によって合成することができる。合成した化合物はいずれも単離・精製することなく次の反応に使用してもよい。
【0023】
工程(A)の第1工程で使用する塩素酸塩又は臭素酸塩としては、アルカリ土類金属塩、アルカリ金属塩又はアンモニウム塩、或いは遊離の酸が用いられる。工業品として入手し易さの観点から、アルカリ金属塩(例えば、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム)、アルカリ土類金属塩(例えば、塩素酸バリウム)等が好ましく、反応性、経済性の観点から、アルカリ金属塩(塩素酸ナトリウム、臭素酸ナトリウム)が特に好ましい。
【0024】
塩素酸塩又は臭素酸塩は、溶媒に溶解させた後に添加するのが好ましく、使用する溶媒として水等の溶媒が挙げられる。なかでも塩素酸塩又は臭素酸塩に対して触媒活性を示す可能性のある金属類を含まない溶媒が好ましく、塩素酸塩又は臭素酸塩の溶解性、及び経済性の観点から、脱イオン水が好ましい。
【0025】
塩素酸塩又は臭素酸塩の使用量は、化合物(3)1モルに対して、通常は0.1モル〜10モル、好ましくは0.2モル〜7モル、より好ましくは0.5モル〜6モルである。
【0026】
反応溶媒としては、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(以下、THFと略す)、メチル−t−ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン(以下、DMEと略す)、アニソール、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエーテル系溶媒、イソプロパノール、t-ブタノール等のアルコール系溶媒が挙げられる。エーテル系溶媒が好ましく、反応性及び経済性の観点からDME、THFが好ましく、操作性の観点からTHFが特に好ましい。これら溶媒は、単一であっても2種以上を混合して使用してもよい。
【0027】
溶媒の使用量は、化合物(3)1gに対して、通常は0.5ml〜500ml、好ましくは0.7ml〜200ml、より好ましくは1ml〜150mlである。
【0028】
反応温度は、通常は−15℃〜40℃、好ましくは−5℃〜35℃、より好ましくは0℃〜35℃である。
【0029】
反応時間は、用いる試薬、反応温度によって異なるが、通常は0.5時間〜100時間、好ましくは3時間〜100時間、より好ましくは5時間〜100時間である。
反応の進行の程度を、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)によって確認することができる。
【0030】
反応終了後、反応混合物を単離・精製することなく、次工程に使用してもよい。また、通常の後処理により、単離・精製をしてもよい。精製は、通常の方法により、例えばカラムクロマトグラフィー又は結晶化などにより行ってよい。
【0031】
工程(A)の第2工程で反応に用いる反応試剤はHX又はX(式中、Xはハロゲン原子を表す。)のいずれかであり、当該反応試剤において、Xは臭素原子、ヨウ素原子であるのが好ましい。具体的には、HX又はXは、反応性の観点から臭化水素、臭素、ヨウ素であるのが好ましい。取扱いの観点から、臭化水素、ヨウ素が特に好ましい。ヨウ素、臭素を用いる場合、希釈せずに固体や液体の状態で添加してもよいし、反応に使用する溶媒で溶解又は希釈した後に滴下して加えてもよい。
【0032】
臭化水素を用いる場合、臭化水素が含まれておれば、特に限定されないが、入手し易さの観点から臭化水素の水溶液又は酢酸溶液が好ましい。経済性及び取扱い易さの観点から水溶液が特に好ましい。臭化水素は、通常20%〜60%、好ましくは45%〜50%濃度のものを使用する。45%〜50%濃度の臭化水素は、水溶液として一般に市販されており、しかも安価であることから特に好ましい。
【0033】
HX又はXの使用量は、化合物(3)1モルに対して、通常は0.01モル〜10モル、好ましくは0.05モル〜5モルである。
第2工程で使用する溶媒及びその量、反応温度、反応時間は、第1工程のものと同様であってよい。
【0034】
第2工程はpH5以下で行うのが好ましい。特に、Xを反応に用いる場合には、反応中の反応系のpHは1〜4の範囲であるのが好ましい。このpH価に調整するには、硫酸、硝酸、酢酸又は緩衝剤混合物が用いられる。工業品として入手し易さの観点から硫酸、硝酸、酢酸が好ましく、反応性、経済性の観点から硫酸が特に好ましい。
反応終了後、反応混合物を単離・精製することなく、次工程に使用してもよい。また、通常の後処理(例えばカラムクロマトグラフィー又は結晶化など)により、単離・精製をしてもよい。
【0035】
通常、反応容器に溶媒、化合物(3)、塩素酸塩又は臭素酸塩の水溶液を添加して第1工程を進行させ、次いで、HX又はX(反応系を適当なpHに調整した後)の溶液を滴下して第2工程を進行させる。塩素酸塩又は臭素酸塩の水溶液及びHX又はXの溶液を滴下する際には、一度に必要当量数を加えてもよいし、何回かに分割して加えてもよい。
【0036】
下記に示す反応工程[以下、工程(B)と称する]は、ハロゲン化工程である。
【化20】

【0037】
工程(B)で用いるハロゲン化剤としては、臭素、N−ブロモスクシンイミド、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン、臭化銅(II)等が挙げられ、操作性の観点から臭素、N−ブロモスクシンイミド、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインが好ましく、経済性の観点から、臭素がより好ましい。
【0038】
ハロゲン化剤の使用量は、式(4)で表される化合物[以下、化合物(4)と略す]1モルに対して、通常0.48モル〜2モル、好ましくは0.5モル〜1.5モル、より好ましくは0.55モル〜1.2モルである。ハロゲン化剤が固体の場合、そのまま固体の形、又は反応で用いる溶媒で溶解させた後に溶液として加えてもよい。ハロゲン化剤が液体の場合、反応に使用する溶媒で希釈後、滴下してもよい。
【0039】
工程(B)で用いる反応溶媒としては、トルエン、クロロベンゼン等の炭化水素系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール系溶媒が挙げられる。反応性及び経済性の観点からクロロベンゼン、酢酸エチル、メタノール等が挙げられ、操作性の観点から特に酢酸エチル、クロロベンゼンが好ましい。
【0040】
使用する溶媒は、化合物(4)1gに対して、通常、0.5ml〜500ml、好ましくは0.7ml〜200ml、より好ましくは1ml〜150mlである。
【0041】
反応温度は、通常、0℃〜100℃、好ましくは0℃〜30℃、より好ましくは0℃〜20℃である。
反応終了後、反応混合物を単離・精製することなく、次工程に使用してもよい。また、得られた式(5)で示される化合物[以下、化合物(5)と略す]を、通常の後処理(例えばカラムクロマトグラフィー又は結晶化など)により、単離・精製をしてもよい。
【0042】
下記に示す反応工程[以下、工程(C)と称する]は、エステル化工程である。
【化21】

【0043】
工程(C)で用いる試剤は、M(OCOR)n(式中、Mは金属原子、Rは炭素数1〜4のアルキル基、nは2から4の整数を表す)で表される。金属原子としては、マンガン、鉛などが挙げられる。好ましい金属原子はマンガンであり、好ましいアルキル基は炭素数1〜2のアルキル基である。
【0044】
用いる試剤の具体例は、3酢酸マンガン、4酢酸鉛などである。水和物の場合、有機溶媒との共沸などにより脱水した後に反応に供することが好ましい。試剤の使用量は、化合物(4)1モルに対して、通常は0.1モル〜20モル、好ましくは0.5モル〜10モル、より好ましくは1モル〜7モルである。
【0045】
工程(C)で用いる反応溶媒としては、酢酸、又は有機溶媒と酢酸の混合溶媒が用いられる。有機溶媒としては炭化水素系溶媒が好ましく、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンなどが挙げられる。
【0046】
反応温度は、通常、50℃から使用する溶媒の沸点までの範囲であり、好ましくは80℃〜120℃の範囲である。
反応時間は、通常、1時間から48時間の範囲で任意に選ばれるが、用いる試剤の種類及び使用量によって異なる。
【0047】
反応後、反応試剤を濾別するだけで、反応混合物を単離・精製することなく、次工程に使用してもよい。また、得られた式(6)で示される化合物[以下、化合物(6)と略す]を、通常の後処理により単離・精製してもよい。精製は、通常の方法、例えばカラムクロマトグラフィー又は結晶化などにより行ってよい。
【0048】
下記に示す反応工程[以下、工程(D)と称する]は、加水分解工程である。
【化22】

工程(D)で用いる無機塩基は、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩などであるのが好ましい。無機塩基の具体例は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウムなどである。
【0049】
使用する塩基は、溶媒に溶解させた後に添加するのが好ましい。使用する溶媒として、経済性の観点から水などの溶媒が挙げられる。通常、使用される水であれば、特に限定されない。塩基の使用量は、化合物(5)又は(6)1モルに対して、通常は0.1モル〜100モル、好ましくは0.5モル〜30モルである。
【0050】
本反応は、必ずしも相間移動触媒を必要としないが、当該触媒の添加により反応が促進される場合がある。
かかる相間移動触媒としては、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、スルホニウム塩などが挙げられ、好ましくは、第4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0051】
第4級アンモニウム塩としては、例えば、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラプロピルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラペンチルアンモニウム、塩化テトラヘキシルアンモニウム、塩化テトラヘプチルアンモニウム、塩化テトラオクチルアンモニウム、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化テトラデシルアンモニウム、塩化トリデシルメチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化テトラドデシルアンモニウム、塩化トリドデシルメチルアンモニウム、塩化ジドデシルジメチルアンモニウム、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、塩化ドデシルトリエチルアンモニウム、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラヘキサデシルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルジメチルエチルアンモニウム、塩化テトラオクタデシルアンモニウム、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム、塩化オクタデシルトリエチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、塩化ベンジルトリブチルアンモニウム、塩化1−メチルピリジニウム、塩化1−ヘキサデシルピリジニウム、塩化1,4―ジメチルピリジニウム、塩化トリメチルシクロプロピルアンモニウム、あるいはこれらの塩化物塩が、それぞれ対応する臭化物塩、ヨウ化物塩、硫酸水素塩となった化合物が挙げられる。
【0052】
第4級ホスホニウム塩としては、例えば、塩化トリブチルメチルホスホニウム、塩化トリエチルメチルホスホニウム、塩化メチルトリフェノキシホスホニウム、塩化ブチルトリフェニルホスホニウム、塩化テトラブチルホスホニウム、塩化ベンジルトリフェニルホスホニウム、塩化テトラオクチルホスホニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルホスホニウム、塩化ヘキサデシルトリブチルホスホニウム、塩化ヘキサデシルジメチルエチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウム、あるいはこれらの塩化物塩が、それぞれ対応する臭化物塩、ヨウ化物塩となった化合物が挙げられる。
【0053】
スルホニウム塩としては、例えば、塩化ベンジルメチルエチルスルホニウム、塩化ベンジルジメチルスルホニウム、塩化ベンジルジエチルスルホニウム、塩化ジブチルメチルスルホニウム、塩化トリメチルスルホニウム、塩化トリエチルスルホニウム、塩化トリブチルスルホニウム、あるいはこれらの塩化物塩が、それぞれ対応する臭化物塩、ヨウ化物塩となった化合物が挙げられる。
【0054】
かかる相間移動触媒の使用量は、化合物(5)又は(6)1モルに対して、通常は0.005〜2モル倍程度であり、好ましくは0.01〜0.5モル倍程度である。
【0055】
工程(D)で用いる溶媒としては、メタノール、エタノール、2−プロパノール、t−ブタノールなどの低級アルコール類、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン、メチル−t−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジグライム、トリグライムなどのエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン、ヘプタン、ペンタン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの炭化水素系溶媒などが挙げられる。
【0056】
溶媒の使用量は、化合物(5)又は(6)1gに対して、通常は0.5ml〜500ml、好ましくは0.7ml〜200ml、より好ましくは1ml〜150mlである。
【0057】
反応温度は、通常、塩基の滴下時は、−5℃〜20℃、好ましくは0℃〜15℃、より好ましくは0℃〜10℃である。塩基の滴下終了後は、0℃〜60℃、好ましくは0℃〜50℃、より好ましくは0℃〜40℃である。
【0058】
工程(D)における仕込み方法は特に限定されないが、安全性、操作性の観点から、反応容器に溶媒、化合物(5)又は(6)を仕込んだ後に、無機塩基の溶液を滴下するのが好ましい。
反応時間は、用いる試薬、反応温度によって異なるが、通常は0.5時間〜200時間、好ましくは1時間〜50時間である。
反応の進行の程度を、HPLC(液体クロマトグラフィー)によって確認することができる。
【0059】
反応が完結した後、通常の後処理により、式(7)で示される化合物[以下、化合物(7)と略す]を単離・精製してもよい。精製は、通常の方法により、例えばカラムクロマトグラフィー又は結晶化などにより行ってよい。
【0060】
本発明に係る化合物(4)及び(7)は、カロテノイド(カンタキサンチン、アスタキサンチン)の重要中間体となり得る。すなわち、炭素数10のアリルハライド類と塩基性条件下に反応させることにより、カロテノイド(カンタキサンチン、アスタキサンチン)を合成することができる。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例に用いた化合物の化学式を以下に示す。
【化23】

【0062】
(実施例1)
100mlの二つ口フラスコに化合物(3-a)(1.30g、4.45mmol)、酢酸エチル(50ml)を加え、氷冷下、撹拌した。臭素酸ナトリウム(1.34g、8.89mmol)を脱イオン水20mlに溶解させて加えた。次に臭化水素(30%酢酸溶液240mg、0.89mmol)を10℃以下で滴下し、2時間撹拌した。その後バスを取り除き、20〜30℃の範囲で7時間撹拌した。20%食塩水(50ml)で2回洗浄した。有機層を10%重亜硫酸ナトリウム水溶液(50ml)で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。減圧濃縮後、残さをカラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘキサン−酢酸エチル:5:1)で精製し、化合物(4-a)(0.95g)を得た。収率69.7%、純度99.0%。
【0063】
分析データ:
H−NMR (500MHz、CDCl):δ=7.82 (d, J=8.4Hz, 2H), 7.38 (d, J=7.7Hz, 2H), 4.16 (S, 2H), 2.55 (t, J=6.9Hz, 2H), 2.46 (S,3H), 1.89 (t, J=6.9Hz, 2H), 1.78 (S, 3H), 1.25 (S, 6H)。
13C−NMR (100MHz、CDCl3):149.9, 144.8, 138.0, 137.7, 129.9, 127.5, 58.7,37.1, 35.5, 34.0, 27.1, 21.4, 13.2。
【0064】
(実施例2)
500mlの四つ口フラスコに化合物(3-a)(30.0g、0.10mol)、酢酸エチル(300ml)を加え、氷冷下、撹拌した。臭素酸ナトリウム(7.74g、0.05mol)を脱イオン水30mlに溶解させて加えた。次に臭化水素酸(48%水溶液8.65g、0.05mol)を10℃以下で滴下し、2時間撹拌した。その後バスを取り除き、20〜30℃の範囲で7時間撹拌した。20%食塩水(200ml)で2回洗浄した。有機層を10%重亜硫酸ナトリウム水溶液(100ml)で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。減圧濃縮により溶媒を留去して、メタノール50mlを加え、45℃まで加熱して残さを溶解させた。25℃まで徐冷後、脱イオン水10mlを滴下、15〜20℃の範囲で2時間撹拌、ろ過して化合物(4-a)(19.9g)を得た。収率63.2%、純度99.0%。
【0065】
(実施例3)
500mlの四つ口フラスコに化合物(3-a)(30.0g、0.10mol)、酢酸エチル(150ml)を加え、氷冷下、撹拌した。臭素酸ナトリウム(7.74g、0.05mol)を脱イオン水30mlに溶解させて加えた。次に臭化水素酸(48%水溶液5.19g、0.03mol)を10℃以下で滴下し、2時間撹拌した。その後バスを取り除き、20〜30℃の範囲で7時間撹拌した。20%食塩水(150ml)で2回洗浄した。有機層を10%重亜硫酸ナトリウム水溶液(150ml)で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。減圧濃縮により溶媒を留去したのち、次の反応に用いた。
【0066】
(実施例4)
500mlの四つ口フラスコに実施例3で得られた残さに酢酸エチル(150ml)を加え、氷冷下、撹拌した。臭素(14.8g、0.093mol)を10℃以下で滴下した。2時間撹拌した後に、反応マスを10%重亜硫酸ナトリウム水溶液(150ml)中に滴下して、洗浄した。飽和重曹水(120ml)で2回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧濃縮により溶媒を留去した。残さに酢酸エチル80mlを加え、45℃まで加熱して溶解させた。25℃まで徐冷後、ヘキサン120mlを滴下した。その後15℃まで冷却し、2時間撹拌、ろ過して化合物(5-a)(20.6g)を得た。収率52.1%(2段階)、純度99.0%。
【0067】
分析データ:
H−NMR (500MHz、CDCl3):δ=7.82 (d, J=8.4Hz, 2H), 7.40 (d, J=8.4Hz, 2H), 4.93 (dd, J=13.0Hz, 6.2Hz, 1H), 4.18 (d, J=14.5Hz, 1H), 4.09 (d, J=13.8Hz, 1H), 2.47 (S, 3H), 2.46-2.39 (m, 2H) ,1.88 (S, 3H), 1.33 (S, 3H), 1.29 (S, 3H)。
13C−NMR (100MHz、CDCl3) :191.0, 150.2, 145.2, 138.0, 136.6, 130.1, 127.6, 58.8, 49.3, 48.8, 38.6, 28.9, 26.0, 21.6, 14.4。
【0068】
(実施例5)
30mlの二ツ口フラスコに化合物(4-a)(20mg、0.07mmol)、メタノール2mlを仕込み、室温で撹拌した。N−ブロモスクシンイミド(12.8mg、0.07mmol)を添加した。20〜30℃の範囲で12時間撹拌した。反応液をLCで分析した結果、化合物(5-a)がLC面百値で95.9%生成しているのを確認した。
【0069】
LC分析条件:
SUMIPAX ODS A−210EC (3.0mmφ×150mm、5μm)
移動相:A液 0.05% TFA/水 B液 メタノール
流量:0.5mL/min
カラム温度:40℃
B液:50%(15分)→(30分)→80%
【0070】
(実施例6)
30mlの二ツ口フラスコに化合物(4-a)(20mg、0.07mmol)、メタノール2mlを仕込み、室温で撹拌した。1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン(11.8mg、0.04mmol)を添加した。20〜30℃の範囲で12時間撹拌した。反応液をLCで分析した結果、化合物(5-a)がLC面百値で57.9%生成しているのを確認した。(分析条件は実施例5と同様)
【0071】
(実施例7)
500mlの四つ口フラスコに化合物(5-a)(1.05g、2.7mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド(90ml)を加え、氷冷下、撹拌した。炭酸カリウム(3.50g、25.3mmol)を脱イオン水20mlに溶解させ、3時間かけて10℃以下で滴下した。その後バスを取り除き、20〜30℃の範囲で24時間撹拌した。反応マスにトルエン(500ml)を加え、減圧濃縮した。残さに酢酸エチル(300ml)を加え溶解させた後に、20%食塩水(150ml)で3回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。減圧濃縮後、残さをカラムクロマトグラフィー(SiO、ヘキサン−酢酸エチル:4:1)で精製し、化合物(7-a)(244mg)を得た。収率27.9%、純度99.0%。
【0072】
分析データ:
H−NMR (500MHz、CDCl3):δ=7.73 (d, J=8.4Hz, 2H), 7.30 (d, J=8.4Hz, 2H), 4.30 (dd, J=13.8Hz, 6.1Hz, 2H), 4.10 (d, J=13.8Hz, 1H), 4.00 (d, J=13.8Hz, 1H), 3.58 (S, 1H), 2.37 (S, 3H), 2.07 (dd, J=13.0Hz, 5.3Hz, 1H), 1.82 (S, 3H), 1.82-1.74 (m, 1H), 1.23 (S, 3H), 1.14 (S, 6H)。
13C−NMR (100MHz、CDCl3):199.6, 150.7, 145.0, 138.1, 135.2, 129.9, 127.4, 69.2, 58.5, 45.3, 36.8, 29.6, 25.5, 21.4, 13.6。
【0073】
(実施例8)
フラスコにMn(OAc)3.2H2O (2.5MR、4.6g、17.1 mmol)と脱水トルエン20mlを仕込み、減圧濃縮により水を留去した。続いて酢酸20mlを室温で仕込み、窒素雰囲気下で30分間攪拌した。次いで、化合物(4-a)(1.0MR、2.0g、6.84mmol)を室温で仕込み、80〜85℃に昇温した。内温が80℃に達した時、反応混合物は黒色に変化した。さらに同温度で7時間攪拌したところ、溶液は透明で黄色を呈した。これは反応の進行とともにMn(II)化合物が白色固体として析出することによる。反応後、HPLC又はTLCで観察し、原料である化合物(4-a)がLCで約1%(面積百分率)に達した時に後処理した。反応混合物を室温に冷却し、酢酸エチル20mlで希釈した。固形物を濾別し、溶液を濃縮することにより淡褐色オイル状の化合物(6-a)を得た。HPLCで分析したところ、化合物(6-a)は87.1%、化合物(4-a)は0.9%(LC面積百分率)であった。
【0074】
NMR及びMSにより、化合物(4-a)の構造確認を行った。
分析データ:
1H−NMR (CDCl3、δ): 7.8 (2H, d, j= 7.6), 7.4 (2H d, j= 8.4), 5.5 (1H, dd, j= 5.3, 13.7), 4.1 (2H, dd, j=13.7), 2.5 (3H, s), 2.2 (3H, s), 2.01-2.07-2.15 (2H, m), 1.8 (3H, s), 1.4 (3H, s), 1.3 (3H, s)。
FD−MS: 365 M+H。
【0075】
(実施例9)
フラスコにMn(OAc)3.2H2O (1.25MR、2.3g、8.55 mmol)と脱水トルエン20mlを仕込み、還流条件下でディーンスタークトラップにより脱水した。室温に冷却した後、化合物(4-a)(1.0MR、2.0g、6.84mmol)を室温で仕込み、125℃まで昇温し、7時間攪拌した。反応をTLCで確認し、原料が主成分であったので、Mn(OAc)3.2H2O (0.25MR、0.46g、1.71mmol)を追加仕込みし、同温度で7時間反応させた。その後、反応混合物を室温に冷却し、酢酸エチル20mlで希釈した。次いで、Mn(II)化合物を濾別し、溶液を濃縮することにより淡褐色オイル状の化合物(6-a)を含む粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=3/7〜1/1)で精製し、化合物(6-a)を0.95g(収率38%)得た。
【0076】
(実施例10)
化合物(6-a)(1.0MR、0.1g、0.27mmol)をジメチルホルムアミド10mlに溶解し、0℃に冷却した。次いで、K2CO3 (15.0MR、0.56g、4.05 mmol)を水10mlに溶解した溶液を、同温度でゆっくりと滴下した。その後、反応混合物を、室温に自然昇温させた。室温で3時間攪拌後、HPLCで分析したところ、化合物(7-a)は73%、化合物(6-a)は2%(LC面積百分率)であった。
【0077】
(実施例11)
化合物(6-a)(1.0MR、0.1g、0.27mmol)をテトラヒドロフラン10mlに溶解し、0℃に冷却した。次いで、K2CO3 (50.0MR、1.86g、13.5mmol)を水10mlに溶解した溶液を、同温度でゆっくりと滴下した。その後、反応混合物を、室温に自然昇温させた。室温で7日間攪拌後、HPLCで分析したところ、化合物(7-a)は81%、化合物(6-a)は4%(LC面積百分率)であった。
【0078】
(実施例12)
化合物(6-a)(1.0MR、0.1g、0.27mmol)をエタノール10mlに溶解し、0℃に冷却した。次いで、NaOH (2.0MR、0.22g、0.54mmol)を水1mlに溶解した溶液を、同温度でゆっくりと滴下した。その後、反応混合物を、室温に自然昇温させた。室温で3時間攪拌後、HPLCで分析したところ、原料は消失し、化合物(7-a)は62%(LC面積百分率)であった。
【0079】
(実施例13)
化合物(6-a)(1.0MR、0.1g、0.27mmol)をテトラヒドロフラン10mlに溶解し、0℃に冷却した。NaOH (2.4MR、0.26g、0.65mmol)を水1mlに溶解した溶液を、同温度でゆっくりと滴下した。その後、反応混合物を、室温に自然昇温させた。22時間攪拌後、HPLCで分析したところ、化合物(7-a)は87%(LC面積百分率)、化合物(6-a)は9%であった。
【0080】
(実施例14)
窒素雰囲気下、化合物(3-b)(1.0MR、5g、9.71mmol)をテトラヒドロフラン400mlに溶解して、4℃に冷却した。次いで、臭素酸ナトリウム(NaBrO3、2.0MR、2.93g、19.4mmol)を水60mlに溶解した溶液を、同温度でゆっくりと滴下した。続いて、48%臭化水素水溶液(HBr、0.5MR、0.82g、4.86mmol)を同温度でゆっくりと滴下した。その後、反応混合物を25〜30℃に自然昇温させ、25〜30℃で終夜攪拌した。次に同様の方法で、臭素酸ナトリウム(NaBrO3、0.5MR、733mg、2.43mmol)を水3mlに溶解した溶液と48%臭化水素水溶液(HBr、0.5MR、0.82g、4.86mmol)を加える操作を1日に2回ずつ、3日間に渡って行い攪拌した[合計で臭素酸ナトリウム(NaBrO3、5.0MR、7.30g、48.6mmol)、48%臭化水素水溶液(HBr、3.5MR、5.74g、34.0mmol)]。反応開始から94時間攪拌した後に、HPLC(内部標準法)を用いて反応収率を算出したところ、化合物(4-b)の収率は85%であった。
【0081】
NMR及びMSにより、化合物(4-b)の構造解析を行った。
分析データ:
1H−NMR(500MHz、CDCl3): 7.74 (d, J=8.4Hz, 2H), 7.69 (d, J=8.4Hz, 2H), 7.33-7.36 (m, 4H), 5.16 (dd, J=8.0Hz, 1H), 4.08 (m, 1H), 3.61-3.71 (m, 2H), 3.05 (dd, J=6.9Hz, 1H), 2.65 (dd, J=6.9Hz, 1H), 2.46 (s, 3H), 2.45 (s, 3H), 2.13 (s, 3H), 1.91-1.97 (m, 1H), 1.73-1.81 (m, 1H), 1.25 (s, 3H), 1.21 (s, 3H), 0.96 (s, 3H)。
FD−MS:529 (M+)
【0082】
(実施例15)
窒素雰囲気下、化合物(3-b)(1.0MR、250mg、0.486mmol)をテトラヒドロフラン20mlに溶解して、4℃に冷却した。次いで、臭素酸ナトリウム(NaBrO3、5.0MR、365mg、2.43mmol)を水3mlに溶解した溶液を、同温度でゆっくりと滴下した。続いて、48%臭化水素水溶液(HBr、3.5MR、287mg、1.70mmol)を同温度でゆっくりと滴下した。その後、反応混合物を25〜30℃に自然昇温させ、25〜30℃で24時間攪拌した。HPLC(内部標準法)を用いて化合物(4-b)の反応収率を算出したところ62%であった。
【0083】
(実施例16)
窒素雰囲気下、化合物(3-b)(1.0MR、250mg、0.486mmol)をテトラヒドロフラン20mlに溶解して、4℃に冷却した。次いで、臭素酸ナトリウム(NaBrO3、2.0MR、146mg、0.972mmol)を水1mlに溶解した溶液を、同温度でゆっくりと滴下した。続いて、48%臭化水素水溶液(HBr、0.5MR、41mg、0.243mmol)を同温度でゆっくりと滴下した。その後、反応混合物を25〜30℃に自然昇温させ、25〜30℃で1時間攪拌した。続いて、同様の方法により、250μlの水に溶解させた臭素酸ナトリウム(NaBrO3、0.5MR、36.5mg、0.243mmol)と48%臭化水素水溶液(HBr、0.5MR、41mg、0.243mmol)を追加する操作を1時間ごとに6回繰り返して攪拌した[合計で臭素酸ナトリウム(NaBrO3、5.0MR、365mg、2.43mmol)、48%臭化水素水溶液(HBr、3.5MR、287mg、1.7mmol)]。反応開始から48時間攪拌した後に、HPLC(内部標準法)を用いて化合物(4-b)の反応収率を算出したところ51%であった。
【0084】
(実施例17)
実施例14において、テトラヒドロフランに代えてジメトキシエタンを使用したこと以外は、実施例14と同様の操作を行った。反応開始から94時間攪拌した後に、HPLC(内部標準法)を用いて化合物(4-b)の反応収率を算出したところ44%であった。
【0085】
(実施例18)
窒素雰囲気下、25〜30℃で化合物(3-b)(1.0MR、3g、5.83mmol)をテトラヒドロフラン18mlに溶解した。次いで、臭素酸ナトリウム(2.0MR、1.76g、11.7mmol)を水5mlに溶解した溶液を、同温度でゆっくりと滴下した。続いて、硫酸を加えて反応系をpH1〜2とした。さらに、ヨウ素(0.02MR、30mg、11.7μmol)を2mlのTHFに溶解した溶液を同温度で滴下し、25〜30℃で終夜攪拌した。次に同様の方法で、臭素酸ナトリウム(1.0MR、880mg、5.83mmol)を水2mlに溶解した溶液を加え、続けて硫酸を加えて反応系をpH1〜2とし、さらにヨウ素(0.02MR、30mg、11.7μmol)を10mlのTHFに溶解した溶液を加え、25〜30℃で8時間攪拌した。さらに同様の方法で、臭素酸ナトリウム(0.5MR、440mg、2.92mmol)を水2mlに溶解した溶液を加え、続けて硫酸を加えて反応系をpH1〜2とし、さらにヨウ素(0.02MR、30mg、11.7μmol)を10mlのTHFに溶解した溶液を加え、25〜30℃で終夜攪拌した。最後に同様の方法で、臭素酸ナトリウム(0.5MR、440mg、2.92mmol)を水2mlに溶解した溶液を加え、続けて硫酸を加えて反応系をpH1〜2とし、さらにヨウ素(0.02MR、30mg、11.7μmol)を10mlのTHFに溶解した溶液を加え、25〜30℃で攪拌した[合計で臭素酸ナトリウム(4.0MR、3.52g、23.3mmol)、ヨウ素(0.08MR、120mg、466μmol)]。反応開始から51時間攪拌した後に、HPLC(内部標準法)を用いて化合物(4-b)の反応収率を算出したところ68%であった。
【0086】
(実施例19)
Mn(OAc)3.2H2O (2.5MR、1.27g、4.73mmol)とトルエン20mlをフラスコに仕込み、減圧濃縮により水和物を留去して、そのまま反応に使用した。脱水したMn(OAc)3に酢酸20mlを室温で仕込み、窒素雰囲気下で30分間撹拌した。次いで、化合物(4-b)(1.0MR、1.0g、1.89mmol)を室温で仕込み、80〜85℃に昇温した。内温が80℃に達した時、反応混合物は黒色に変化した。さらに同温度で10時間撹拌したところ、溶液の色は透明で黄色を呈した。これは反応の進行とともにMn(II)化合物が白色固体として析出することによる。反応後、HPLC又はTLCで観察し、原料である化合物(4-b)がLCで約6%(面積百分率)に達した時に後処理した。反応混合物を室温に冷却し、酢酸エチル20mlで希釈した。固形物を濾別し、溶液を濃縮することにより白色の化合物(6-b)を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより、原料化合物(4-b)を6%、化合物(6-b)を70%(異性体混合物)の収率で単離した。
【0087】
NMR及びMSにより、化合物(6-b)の構造確認を行った。
分析データ:
1H-NMR (CDCl3、δ): 7.69-7.74 (4H, m), 7.34-7.36 (4H, m), 5.42-5.51 (1H, m), 5.17-5.23 (1H, m), 4.02-4.05 (1H, m), 3.61-3.73 (2H, m), 2.57-3.17 (2H, m), 2.45 (3H, s), 2.46 (3H, s), 2.14-2.18 (6H, m), 1.93-2.12 (2H, m), 1.24-1.32 (6H, 2xs), 1.01-1.09 (3H, 2xs)。
FD-MS: 587 (M+H)。
【0088】
(実施例20)
Mn(OAc)3.2H2O (2.5MR、3.8g、14.2mmol)とトルエン40mlをフラスコに仕込み、減圧濃縮により水和物を留去して、そのまま反応に使用した。脱水したMn(OAc)3に酢酸30mlを室温で仕込み、窒素雰囲気下で30分間撹拌した。次いで、化合物(4-b)(1.0MR、3.0g、5.67mmol)を室温で仕込み、80〜85℃に昇温した。内温が80℃に達した時、反応混合物は黒色に変化した。さらに同温度で9時間撹拌したところ、溶液の色は透明で黄色を呈した。これは反応の進行とともにMn(II)化合物が白色固体として析出することによる。反応後、HPLC又はTLCで観察し、原料である化合物(4-b)がLCで約5-6%(面積百分率)に達した時に後処理した。反応混合物を室温に冷却し、酢酸エチル200mlで希釈した。水(50ml)、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50ml*2回)で順次洗浄した後、飽和食塩水(50ml)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。固形物を濾別し、溶液を濃縮することにより淡黄色状の化合物(6-b)を得た。粗生成物をn−ヘキサン/酢酸エチル(3/7)で再結晶することにより、化合物(6-b)を白色固体として収率76%(異性体混合物)で単離した。
【0089】
(実施例21)
化合物(6-b)(1.0MR、1.0g、1.70mmol)をテトラヒドロフラン50mlに溶解し、0℃に冷却した。次いで、水酸化ナトリウム(2.4MR、0.163g、4.10mmol)を水5mlに溶解した溶液を、同温度でゆっくりと滴下した。反応混合物を、室温に自然昇温させ、20時間撹拌した。この時点で反応の進行をHPLCで確認して、反応を停止し、後処理を行った。HPLCで分析したところ、目的化合物(7-b)は83%(面積百分率)であり、原料化合物(6-b)は3.5%(面積百分率)であった。
【0090】
分析データ:
1H-NMR (500MHz, CDCl3、δ): 7.70-7.74 (4H, m), 7.33-7.36 (4H, m), 5.21-5.26 (1H, m), 4.25-4.38 (1H, dd, J:5.7, 14.1Hz), 4.02-4.05 (1H, dd, J:6.8Hz), 3.61-3.73 (2H, m), 3.57 (1H, br s), 3.11-3.17 (1H, m), 2.63-2.67 (1H, m), 2.46 (3H, s), 2.45 (3H, s), 2.21 (3H, sx2), 2.08-2.16 (1H, m), 1.68-1.91 (1H, m), 1.31 (3H, sx2), 1.23 (3H, s x2), 1.06-0.99 (3H, sx2)。
FD-MS: 546 (M+H)。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の方法によって、カロテノイド製造のための重要中間体であるスルホン化合物を、工業的に有利に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zが水素原子である以下の式(1):
【化1】

[式中、Aは、水素原子又は式(2):
【化2】

(式中、Arは、1〜3個の置換基を有していてもよいアリール基を表し、波線は、その結合する二重結合の立体がE体、Z体又はE/Zの混合物であることを表す。)
で表される基(*が結合部位を表す)であり、Arは、前記と同じ意味を表す。]
で表される化合物の製造方法であって、式(3):
【化3】

(式中、A及びArは、前記と同じ意味を表す。)
で表される化合物と、塩素酸塩又は臭素酸塩とを反応させる第1工程;並びに
第1工程で得られた反応液を、HX又はX(式中、Xはハロゲン原子を表す。)のいずれかの反応試剤と反応させる第2工程;
を行うことにより、式(4):
【化4】

(式中、A及びArは、前記と同じ意味を表す。)
で表される化合物を得ることを含んでなる方法。
【請求項2】
第2工程をpH5以下で行うことを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
塩素酸塩又は臭素酸塩がアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
塩素酸又は臭素酸のアルカリ金属塩が、塩素酸ナトリウム又は臭素酸ナトリウムであることを特徴とする請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
第2工程で用いる反応試剤がHXであり、当該HXにおいて、Xが臭素原子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の製造方法。
【請求項6】
第2工程で用いる反応試剤がXであり、当該Xにおいて、Xがヨウ素原子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の製造方法。
【請求項7】
Arが4−メチルフェニル基であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の製造方法。
【請求項8】
Zがハロゲン原子である以下の式(1):
【化5】

[式中、Aは、水素原子又は式(2):
【化6】

(式中、Arは、1〜3個の置換基を有していてもよいアリール基を表し、波線は、その結合する二重結合の立体がE体、Z体又はE/Zの混合物であることを表す。)
で表される基(*が結合部位を表す)であり、Arは、前記と同じ意味を表す。]
で表される化合物の製造方法であって、式(4):
【化7】

(式中、A及びArは、前記と同じ意味を表す。)
で表される化合物と、ハロゲン化剤とを反応させて、式(5):
【化8】

(式中、Xは、ハロゲン原子を表し、A及びArは、前記と同じ意味を表す。)
で表される化合物を得ることを含んでなる方法。
【請求項9】
Xが、臭素原子であり、ハロゲン化剤が臭素、N−ブロモスクシンイミド、又は1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインである請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
Arが4−メチルフェニル基であることを特徴とする請求項8又は9記載の製造方法。
【請求項11】
Zがアルコキシカルボニル基である以下の式(1):
【化9】

[式中、Aは、水素原子又は式(2):
【化10】

(式中、Arは、1〜3個の置換基を有していてもよいアリール基を表し、波線は、その結合する二重結合の立体がE体、Z体又はE/Zの混合物であることを表す。)
で表される基(*が結合部位を表す)であり、Arは、前記と同じ意味を表す。]
で表される化合物の製造方法であって、式(4):
【化11】

(式中、A及びArは、前記と同じ意味を表す。)
で表される化合物と、M(OCOR)n(式中、Mは金属原子、Rは炭素数1〜4のアルキル基、nは2から4の整数を表す。)で表される化合物とを反応させ、式(6):
【化12】

(式中、A、Ar及びRは、前記と同じ意味を表す。)
で表される化合物を得ることを含んでなる方法。
【請求項12】
Rがメチル基、Mがマンガン、nが3であることを特徴とする請求項11記載の製造方法。
【請求項13】
Arが4−メチルフェニル基であることを特徴とする請求項11又は12記載の製造方法。
【請求項14】
Zがヒドロキシル基である以下の式(1):
【化13】

[式中、Aは、水素原子又は式(2):
【化14】

(式中、Arは、1〜3個の置換基を有していてもよいアリール基を表し、波線は、その結合する二重結合の立体がE体、Z体又はE/Zの混合物であることを表す。)
で表される基(*が結合部位を表す)であり、Arは、前記と同じ意味を表す。]
で表される化合物の製造方法であって、式(6):
【化15】

(式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を表し、A及びArは、前記と同じ意味を表す。)
で表される化合物と、無機塩基とを反応させ、式(7):
【化16】

(式中、A及びArは、前記と同じ意味を表す。)
で表される化合物を得ることを含んでなる方法。
【請求項15】
無機塩基がアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩であることを特徴とする請求項14記載の製造方法。
【請求項16】
Arが4−メチルフェニル基であることを特徴とする請求項14又は15記載の製造方法。
【請求項17】
式(1):
【化17】

[式中、Zは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基又はヒドロキシル基であることを表し、Aは、水素原子又は式(2):
【化18】

(式中、Arは、1〜3個の置換基を有していてもよいアリール基を表し、波線は、その結合する二重結合の立体がE体、Z体又はE/Zの混合物であることを表す。)
で表される基(*が結合部位を表す)であり、Arは、前記と同じ意味を表す。但し、Aが水素原子である場合には、Zはハロゲン原子及びヒドロキシル基ではない。]
で表される化合物。
【請求項18】
Arが4−メチルフェニル基であることを特徴とする請求項17記載の化合物。
【請求項19】
Zがメトキシカルボニル基であることを特徴とする請求項17又は18記載の化合物。

【公開番号】特開2010−189371(P2010−189371A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62660(P2009−62660)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】