説明

スロッシング防止装置及び液体貯蔵用タンク

【課題】液体貯蔵用タンクの内部で地震時の長周期の揺れによる激しいスロッシングが発生するような状況においても、タンク屋根の損傷あるいは内部液体のタンク外への流出等を防止する。
【解決手段】タンク屋根101とタンク側部102とタンク底部103からなる液体貯蔵用タンク100のスロッシング防止装置1において、前記タンク側部102とタンク屋根101の接合部よりも下部でタンク100内の内部液体10の液面よりも上部のタンク側部102の内周面に環状の多孔体取り付け板2を取り付けるとともに、前記多孔体取り付け板2の下面に外径が前記タンク側部102の内径に略等しい環状の多孔体3を設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地震等の揺れによってタンク内の液体が揺動するスロッシング現象を抑制するスロッシング防止装置及び液体貯蔵用タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
内部に液体を貯蔵するタンクにおいては、地震時の長周期の揺れによりスロッシング現象が発生し、タンク内の液体が揺動し、波高の大幅な増幅により液体がタンク屋根へ到達する可能性がある。固定屋根式のタンクにおいては、スロッシングの発生により、タンク屋根が破損したり、あるいは内部液体がタンク外へ流出する可能性がある。
【0003】
従来のスロッシング対策に関する技術は、液体貯蔵物として「タンク」と「プール」を対象とした発明に大別される。タンク内に貯蔵される液体のスロッシングを抑制するための技術として、例えば、特許文献1には、液体の液面上に浮かべられる浮きに棹と錘が取り付けられたスロッシング抑制装置が開示されている。
【0004】
また、プールに貯蔵される液体のスロッシングを抑制するための技術として、「スロッシングの揺動自体を低減させる装置」と「スロッシングによる揺動水がプールから溢水することを防止する装置」の2つに大別され開示されている。
【0005】
「スロッシングの揺動自体を低減させる装置」としては、例えば、特許文献2には、原子力発電所内に設置される水が入ったプール水面付近に配置され、プール開口部の少なくとも外周部にわたって帯状をなす格子板と空気の流通路を形成した弁体を有する弁体付き蓋体によるスロッシング抑制装置が開示されている。
【0006】
一方、「スロッシングによる揺動水がプールから溢水することを防止する装置」として、例えば、特許文献3には、原子力発電所内に設置されるプール内の液面に浮かばせるフロートと、フロートの片面に設けられた緩衝材と、前記緩衝材が設けられた面とは反対側に設けられる消波プレートによるスロッシング溢水防止装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−189045号公報
【特許文献2】特開2009−257996号公報
【特許文献3】特開2010−190870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、原子力発電所などに用いられる液体貯蔵タンクでは、耐震設計審査指針の改定に伴い基準地震動の長周期成分が従来指針の基準地震動を上回ることより、スロッシングの波高が大幅に増加する。また、兵庫県南部地震や中越沖地震などの近年の地震被害の知見から、発電用原子炉施設には更なる耐震高度化への要求が高まっている。このため、今後新規に設置する液体貯蔵タンクだけでなく、既設の液体貯蔵タンクに関しても、従来の設計用地震動を大幅に超えた地震動レベルでの耐震裕度が求められる。
【0009】
また、日本海中部地震や十勝沖地震に代表されるように、原子力発電所などに用いられる液体貯蔵タンク以外にも、スロッシングによる液体貯蔵用タンクの地震被害は、今まで多くの地震で発生している。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、新設だけでなく既設の液体貯蔵タンクに対し、地震時の長周期の揺れによる激しいスロッシングが発生するような状況においても、タンク屋根の損傷あるいは内部液体のタンク外への流出等を防止することができる液体貯蔵用タンクのスロッシング防止装置及び液体貯蔵用タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係るスロッシング防止装置は、タンク屋根とタンク側部とタンク底部からなる液体貯蔵用タンクのスロッシング防止装置において、前記タンク側部とタンク屋根の接合部よりも下部でタンク内の内部液体の液面よりも上部のタンク側部の内周面に環状の多孔体取り付け板を取り付けるとともに、前記多孔体取り付け板の下面に外径が前記タンク側部の内径に略等しい環状の多孔体を設置したことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るスロッシング防止装置は、タンク屋根とタンク側部とタンク底部からなる液体貯蔵用タンクのスロッシング防止装置において、前記タンク屋根の下端内周面に環状の多孔体を設置したことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るスロッシング防止装置は、タンク屋根とタンク側部とタンク底部からなる液体貯蔵用タンクのスロッシング防止装置において、外径が前記タンク側部の内径に略等しい環状の多孔体を前記液体貯蔵用タンクの内部液体に接触するように配置したことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るスロッシング防止装置は、タンク屋根とタンク側部とタンク底部からなる液体貯蔵用タンクのスロッシング防止装置において、円筒状の多孔体を前記ランク側部の内周に取り付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、液体貯蔵用タンクの内部で地震時の長周期の揺れによる激しいスロッシングが発生するような状況においても、タンク屋根の損傷あるいは内部液体のタンク外への流出等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態に係るスロッシング防止装置を備えた液体貯蔵用タンクの全体構成図。
【図2】図1のA−A平面断面図。
【図3】第1の実施形態に係るスロッシング防止装置の一部拡大図。
【図4】第1の実施形態に係るスロッシング防止装置のスロッシング時の挙動を示す模式図。
【図5】第2の実施形態に係るスロッシング防止装置を備えた液体貯蔵用タンクの全体構成図。
【図6】第3の実施形態に係るスロッシング防止装置を備えた液体貯蔵用タンクの全体構成図。
【図7】第3の実施形態に係るスロッシング防止装置のスロッシング時の挙動を示す模式図。
【図8】第3の実施形態に係るスロッシング防止装置の変形例で、スロッシング時の挙動を示す模式図。
【図9】第4の実施形態に係るスロッシング防止装置を備えた液体貯蔵用タンクの全体構成図。
【図10】第4の実施形態に係るスロッシング防止装置のスロッシング時の挙動を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る液体貯蔵用タンクのスロッシング防止装置及び液体貯蔵用タンクの実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係るスロッシング防止装置について、図1乃至図4を用いて説明する。
【0018】
(構成)
図1は、本第1の実施形態に係るスロッシング防止装置1が内部に設けられた固定屋根を有する円筒型の液体貯蔵用タンク(以下「タンク」という。)100の全体構成図であり、図2は図1のスロッシング防止装置1のA−A平面断面図である。図3は、タンク100内部のスロッシング防止装置1を構成する多孔体3と多孔体取り付け板2の設置位置を示す一部拡大図である。図4は、タンク内部液体のスロッシング時におけるスロッシング防止装置の挙動を示す模式図である。
【0019】
なお、多孔体取り付け板2及び多孔体から構成されるスロッシング防止装置1は、液体貯蔵用タンク100が新しく建造される際にタンク100の一部としてタンク100とともに設置してもよいし、既設のタンク100に後から取り付けてもよい。
【0020】
タンク100は、図1に示すように、タンク屋根101とタンク側部102とタンク底部103から構成される。タンク側部102は、例えば、タンク側部102の鉛直方向の中心軸に対し同心状に構成される。タンク屋根101は、タンク側部102の一方側の開口部に接合される。タンク底部103は、タンク側部102の他方側の開口部に接続される。
【0021】
図1〜図3に示すように、固定屋根を有する円筒型のタンク100は、タンク側部102とタンク屋根101とタンク底部103とで囲われる空間に内部液体10を貯蔵し、多孔体取り付け板2と多孔体3とで構成されたスロッシング防止装置1をタンク側部102とタンク屋根101の接合部付近のタンク側部102の内側円周部に設置している。
【0022】
なお、本実施形態では、タンクが円筒型である例を用いて説明するが、これに限定されず他の形状のタンクにも適用可能である。
スロッシング防止装置1は、多孔体取り付け板2と多孔体3とで構成される、鉛直断面が多角形状であり、水平断面が円形状の環状部材である。タンク側部102の内側円周部に内部液体10の自由液面と平行に取り付けられるスロッシング防止装置1は、タンク屋根101とタンク側部102の接合部付近に設置される。
【0023】
なお、設置個所は、上記位置に限定されず、タンク100の内部液体10の自由液面よりも上方で、タンク屋根101とタンク側部102の接合部高さよりも下方のタンク側部102の内側円周部であればいずれの場所でも設置することが可能である。
【0024】
しかしながら、スロッシング防止装置1の設置位置は、内部液体10の自由液面高さ、想定されるスロッシング波高及びタンク屋根101への衝撃荷重を考慮して決定されることが望ましい。
【0025】
ここで、スロッシング防止装置1の水平断面形状は、スロッシング波高はタンク側部102に近いほど大きくなること、スロッシング防止装置1はできるだけ高強度で軽量化された構造であるほうが望ましいこと、タンク100内部の下方からのタンク屋根101の点検性を阻害しないことから、環状であることが望ましい。一方、多孔体は単一で環状に形成してもよいし、例えば中空円を周方向に分割した形状や直方体に形成し、多孔体取り付け板2の下面に環状に配置してもよい。この場合、多孔体の製作性が向上する。
【0026】
次に、多孔体取り付け板2の構造について説明する。
図1〜図3に示すように、多孔体取り付け板2は、外径がタンク側部102の内径に略等しい所定幅の環状の板状部材であり、タンク側部102とタンク屋根101の接合部付近にタンク内部液体10の自由液面と平行にタンク側部102の内側表面に取り付けられる。この多孔体取り付け板2の内径は、設置される液体貯蔵用タンク100におけるスロッシング波高の増幅及びタンク屋根101へのスロッシング波の衝撃荷重等を考慮して設計される。
【0027】
また、多孔体取り付け板2の厚さは、同様にスロッシングにおける波高の増幅及びスロッシング波のタンク屋根101への衝撃荷重を考慮して設計されるとともに、多孔体取り付け板2の鉛直下面に取り付けられる多孔体3の重量及び多孔体3が吸収するタンク内部液体10の重量を考慮して設計される。
【0028】
次に、多孔体3の構造について説明する。
図1〜図3に示すように、多孔体3は、多孔体取り付け板2の鉛直下面に沿って設置される鉛直断面が多角形状の環状部材である。多孔体3の鉛直断面形状は、例えば、三角形あるいは四角形である。この環状の多孔体3は、例えば、外径がタンク100の内径と略等しく、内径が多孔体取り付け板2の内径に等しいか、あるいは、内径よりも大きく又は小さく設計される。すなわち、多孔体3の内径は、設置される液体貯蔵用タンク100におけるスロッシング波高の増幅とタンク屋根101へのスロッシング波の衝撃荷重を考慮して設計される。また、多孔体3の厚さに関しても、同様に設計される。
【0029】
ここで、多孔体3の材料は大きく独立気泡体と連続気泡体に分類される。独立気泡体は、内部に気泡が存在するが気泡同士が壁で仕切られている構造であるため、液体吸収性は極めて小さい。一方、連続気泡体は、内部に気泡が存在するが、気泡同士が繋がっている構造のため、液体を吸収、気体を通過させることが可能である。本実施形態のスロッシング防止装置1に用いる多孔体3は、独立気泡体又は連続気泡体のいずれでも用いることができる。
【0030】
(作用)
上記のように構成された本実施形態のスロッシング防止装置の作用を、図4を用いて説明する。
タンク100に水平方向の地震力が作用すると、図4に示すように、タンク側部102に沿ってスロッシング波高が増幅する。
【0031】
スロッシング波がスロッシング防止装置1に到達した場合、スロッシング防止装置1を構成する多孔体取り付け板2及び多孔体3は、スロッシング波のタンク屋根101への到達を防止するとともに、スロッシング波の鉛直方向の衝撃荷重を吸収する。多孔体3として上記の独立気泡体を用いた場合、液体吸収性は極めて小さいが衝撃吸収性に優れるため、スロッシング波における鉛直方向の衝撃荷重を低減することが可能である。
【0032】
一方、多孔体3として連続気泡体を用いた場合、連続気泡体は衝撃吸収性に加え液体吸収性に優れるため、スロッシング波の鉛直方向の衝撃荷重を低減するとともに、スロッシングによりスロッシング防止装置1に衝突した内部液体10を吸収、一次貯蔵、排出する。これにより、内部液体10のスロッシング波を破砕することが可能となるため、スロッシングの早期収束効果を高めることが可能となる。
【0033】
(効果)
以上説明したように、本第1の実施形態によれば、地震時の長周期の揺れによる激しいスロッシングが発生するような状況においても、タンク屋根の損傷あるいは内部液体のタンク外への流出等を確実に防止することができる。
【0034】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係るスロッシング防止装置について図5用いて説明する。なお、上記の実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0035】
(構成)
図5に示すように、本第2の実施形態では、タンク側部102とタンク屋根101の接合部に沿ってタンク屋根101の内側表面に多孔体3で構成されるスロッシング防止装置4を設置している。
【0036】
スロッシング防止装置4は、第1の実施形態と同様に、鉛直断面が多角形型であり、水平断面の外径がタンク側部102の内径に略等しい環状の多孔体3で構成される。スロッシング防止装置4を構成する多孔体3の形状は、スロッシング波高の増幅及びタンク屋根への衝撃荷重を考慮して、幅及び厚さを決定する。
【0037】
(作用)
このような構成されたスロッシング防止装置4の作用について説明する。
内部液体10を貯蔵するタンク100に水平方向の地震力が作用すると、図5に示すように、タンク側部に沿ってスロッシング波高が増幅する。
【0038】
スロッシング波高が多孔体3に到達した場合、スロッシング防止装置4は、タンク屋根101へのスロッシング波の衝撃荷重を吸収する。本実施形態においては、スロッシング防止装置4によりタンク屋根101への衝撃荷重を低減しているが、スロッシング波高はタンク屋根101へ到達する構造であるため、スロッシング防止装置4により低減後のタンク屋根101へのスロッシング波の衝撃荷重を考慮に入れたスロッシング防止装置4の設計が必要である。
【0039】
また、本実施形態においても、多孔体3として独立気泡体と連続気泡体のいずれでも用いることができる。独立気泡体を多孔体3として用いた場合、スロッシング波によるタンク屋根101への鉛直方向の衝撃荷重を低減することが可能であり、連続気泡体を用いた場合は、第1の実施形態と同様に、連続気泡体の液体吸収性がスロッシング波を破砕することにより、スロッシングの早期収束効果を高めることが可能となる。
【0040】
(効果)
本第2の実施形態によれば、タンク屋根の内側表面にスロッシング防止装置を設置したことにより、地震時の長周期の揺れによる激しいスロッシングが発生するような状況においても、タンク屋根の損傷あるいは内部液体のタンク外への流出等を確実に防止することができるとともに、タンクの高さを低くすることができるためタンクの小型化、低コスト化を実現することができる。
【0041】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態に係るスロッシング防止装置について図6乃至図8用いて説明する。なお、上記の実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0042】
(構成)
本第3の実施形態では、多孔体3で構成されるスロッシング防止装置5が内部液体10の液面に浮かぶように設けられている。
【0043】
図6及び図7に示すように、多孔体3で構成されるスロッシング防止装置5は、内部液体10の液面に接触し、かつ、浮かぶように設けられ、これにより、スロッシング防止装置5は内部液体10がスロッシングすると、内部液体10のスロッシングに合わせて揺動する。
【0044】
ここで、スロッシング防止装置5は全てが内部液体10の液面上に浮かぶ構造に限定されず、内部液体10に一部又は全て漬かる構成でもよい。ただし、一般的に液体のスロッシングはタンク底部103側よりも液面に近いほど振幅が大きくなることより、スロッシング防止装置5は、液面に近いほう、特に、液面に浮いた構造であることが望ましい。
【0045】
スロッシング防止装置5を構成する多孔体3は、上記実施形態と同様に、鉛直断面が多角形型であり、水平断面の外径がタンク側部102の内径に等しいか又は小さい環状部材である。
【0046】
また、図8に本第3の実施形態の変形例に係るスロッシング防止装置6を示す。
本変形例に係るスロッシング防止装置6は、多孔体3の下面の断面形状が外周から内周に向けて湾曲又は傾斜した構造である。
【0047】
なお、スロッシング防止装置の水平断面形状は、前記の環状形状に限定されず、円盤型の形状でもよいが、スロッシング波高はタンク側部102に近いほど大きくなること、加えて、前記のようにスロッシング防止装置5及びスロッシング防止装置6は液面に浮いた構造であることが望ましいことより、軽量化された前記の構造であることが望ましい。
【0048】
また、本実施形態のスロッシング防止装置5及びスロッシング防止装置6に用いる多孔体3は、独立気泡体と連続器包帯のどちらの構造の多孔体とするかは限定されないが、前記のとおり、スロッシング防止装置5及びスロッシング防止装置6は液面に浮いた構造であることが望ましいことより、液体吸収性が極めて小さいことから種々の内部液体10に浮きやすい独立気泡体の構造を持つ多孔体3を用いることが望ましく、スロッシング防止装置5及びスロッシング防止装置6のタンク屋根101への衝突を考え、衝撃吸収力が高いものを用いることが望ましい。
【0049】
(作用)
次に、上記のように構成された本第3の実施形態に係るスロッシング防止装置の作用について説明する。
【0050】
内部液体10を貯蔵するタンク100に水平方向の地震力が作用すると、図7に示すように、タンク側部102に沿ってスロッシング波高が増幅する。内部液体10の液面に浮かんだ状態で設けられたスロッシング防止装置5は、内部液体10のスロッシングに合わせて揺動する。
【0051】
スロッシング防止装置5にある程度の重量がある場合、その重量によりスロッシング波高の増幅は低減される。スロッシング波高の増幅に影響を与えるほどスロッシング防止装置5の重量が大きくない場合でも、内部液体10のスロッシングに合わせて揺動したスロッシング防止装置5は、タンク側部102と接触し、摩擦力が働くことにより、スロッシング波の鉛直方向の荷重を低減する。また、スロッシング波高の増幅によりスロッシング防止装置5がタンク屋根101に衝突した場合、多孔体3の衝撃吸収性により、タンク屋根101への衝撃荷重は低減される。
【0052】
次に、図8に示す変形例では、スロッシング防止装置6を構成する多孔体3の下面の断面形状が外周から内周に向けて湾曲又は傾斜した形状であるため、前記のスロッシング防止装置6とタンク側部102の接触による摩擦力と、スロッシング防止装置6とタンク屋根101の衝突による衝撃吸収に加えて、多孔体3の湾曲あるいは傾斜部により、スロッシング波の鉛直方向の成分が他方向に分散される。これにより、鉛直方向の荷重は他方向に分散され、スロッシング波高の低減及びタンク屋根101への衝撃荷重の低減が可能となる。
【0053】
(効果)
本第3の実施形態によれば、スロッシング防止装置をタンク内液面に浮かんで設置したことにより、地震時の長周期の揺れによる激しいスロッシングが発生するような状況においても、タンク屋根の損傷あるいは内部液体のタンク外への流出等を確実に防止することができるとともに、タンクの高さを低くすることができるためタンクの小型化、低コスト化を実現することができる。
また、多孔体を湾曲又は傾斜した形状とすることにより、スロッシング波高及びタンク屋根への衝撃荷重をさらに低減することができる。
【0054】
なお、図8に示すスロッシング防止装置6を構成する多孔体3の形状は、上記第1及び第2実施形態のスロッシング防止装置にも適応可能であり、スロッシング波高及びタンク屋根への衝撃荷重の低減効果を更に高めることが可能となる。
【0055】
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態に係るスロッシング防止装置について図9及び図10を用いて説明する。なお、上記の実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0056】
(構成)
本第4の実施形態におけるスロッシング防止装置7は、タンク側部102の内側表面にタンク100の内径と等しい外径を持つ円筒状の多孔体3を設置した構造である。
【0057】
図9において、スロッシング防止装置7は、上部がタンク100の内部液体10の自由液面よりも上方に突出し、下部が液体中に設置されるが、これに限定されず、スロッシング防止装置7が内部液体10の自由液面よりすべて上方にある構造、あるいはスロッシング防止装置7が内部液体10にすべて漬かっている構造でもよい。また、スロッシング防止装置7は円筒形状に限定されず、設置スペースに合わせてスロッシング防止装置7の円筒の一部が切れている形状、あるいは短冊状にタンク側部102に設置されてもよい。
【0058】
また、本実施形態のスロッシング防止装置7に用いる多孔体3は、独立気泡体と連続気泡体のどちらの構造多孔体とするかは限定されない。但し、スロッシング防止装置7に用いる多孔体3として独立気泡体を用いた場合、液体吸収性が極めて小さいため、タンク100のスロッシング波の水平方向の衝撃荷重を低減させることは可能であるが、タンク屋根101に主として衝撃荷重を与えるスロッシング波の鉛直方向の衝撃荷重に関しては、多孔体3の液体吸収性による鉛直方向荷重の低減はあまり期待できないため、スロッシング波高及びタンク屋根101への衝撃荷重の低減効果は小さくなる。そのため、本実施形態のスロッシング防止装置6には、液体吸収性が高く鉛直方向の衝撃荷重の低減効果が大きくなる連続気泡体を多孔体3として用いることが望ましい。
【0059】
(作用)
次に、上記のように構成された本第4の実施形態のスロッシング防止装置の作用について説明する。
【0060】
内部液体10を貯蔵するタンク100に水平方向の地震力が作用すると、図10に示すように、タンク側部102に沿ってスロッシング波高が増幅する。このとき、スロッシング波の水平方向の衝撃荷重は、スロッシング防止装置7により衝撃荷重が低減される。
【0061】
また、スロッシング波を鉛直方向の力は、スロッシング防止装置7を構成する多孔体3に内部液体10が吸収されるのと同時に多孔体3を通過する際に内部摩擦により荷重が低減され、鉛直方向のスロッシング波の荷重は低減される。また、内部液体10のスロッシング波がスロッシング防止装置7内を通過する際に破砕効果が得られるため、スロッシングの早期収束効果を高めることが可能となる。
【0062】
(効果)
本第4の実施形態によれば、スロッシング防止装置をタンク内側表面に設置したことにより、地震時の長周期の揺れによる激しいスロッシングが発生するような状況においても、タンク屋根の損傷あるいは内部液体のタンク外への流出等を確実に防止することができる。
また、タンクの高さを低くすることができるため、タンクの小型化、低コスト化を実現することができる。
【0063】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、組み合わせ、置き換え、変更を行うことができる。例えば、実施例2以降の多孔体についても、実施例1で説明したように、中空円を周方向に分割した形状や直方体に形成してタンクの側面に沿って並べるものとしてもよい。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1…スロッシング防止装置、2…多孔体取り付け板、3…多孔体、4…スロッシング防止装置、5…スロッシング防止装置、6…スロッシング防止装置、7…スロッシング防止装置、10…内部液体、100…タンク、101…タンク屋根、102…タンク側部、103…タンク底部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク屋根とタンク側部とタンク底部からなる液体貯蔵用タンクのスロッシング防止装置において、
前記タンク側部とタンク屋根の接合部よりも下部でタンク内の内部液体の液面よりも上部のタンク側部の内周面に環状の多孔体取り付け板を取り付けるとともに、前記多孔体取り付け板の下面に多孔体が前記タンク側部に沿って環状に設置されたことを特徴とするスロッシング防止装置。
【請求項2】
タンク屋根とタンク側部とタンク底部からなる液体貯蔵用タンクのスロッシング防止装置において、
前記タンク屋根の下端内周面に沿って環状の多孔体が設置されたことを特徴とするスロッシング防止装置。
【請求項3】
タンク屋根とタンク側部とタンク底部からなる液体貯蔵用タンクのスロッシング防止装置において、
前記タンク側部に沿って環状に設置された多孔体が、前記液体貯蔵用タンクの内部液体に接触するように配置されたことを特徴とするスロッシング防止装置。
【請求項4】
前記多孔体を前記液体貯蔵用タンクの内部液体に浮かべたことを特徴とする請求項3記載のスロッシング防止装置。
【請求項5】
前記多孔体の断面形状は多角形状であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のスロッシング防止装置。
【請求項6】
前記多孔体は、前記タンク側部の内径に略等しい外径を有する環状に形成されたことを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のスロッシング防止装置。
【請求項7】
前記多孔体の下面の断面形状は、外周から内周に向けて湾曲又は傾斜していることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載のスロッシング防止装置。
【請求項8】
タンク屋根とタンク側部とタンク底部からなる液体貯蔵用タンクのスロッシング防止装置において、
円筒状の多孔体を前記タンク側部の内周に取り付けたことを特徴とするスロッシング防止装置。
【請求項9】
前記多孔体は独立気泡体又は連続気泡体からなることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載のスロッシング防止装置。
【請求項10】
前記請求項1乃至9に記載のスロッシング防止装置が取り付けられたことを特徴とする液体貯蔵用タンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−171672(P2012−171672A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37239(P2011−37239)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】