説明

セパレータおよびこのセパレータを用いたキャパシタ

【課題】キャパシタの抵抗を低減させ、さらに、耐ショート性にも優れたキャパシタを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のセパレータ1は、直線状の貫通孔10を有し、前記貫通孔10の表面と裏面の開口部の面積が略同程度の構成とした。この構成により、貫通孔10を電解質が通過し易くなり、電極間の電解質の移動性が向上する。そして、この結果としてキャパシタの抵抗を低減させることができる。また、本発明の貫通孔10の形状によるとセパレータ1の実質的な厚みを減少させることがなく、陽極電極と陰極電極の接触の可能性を低減することができ、本発明のセパレータを用いたキャパシタは優れた耐ショート性も有したものとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種電子機器、電気機器、産業機器等に用いられるキャパシタのセパレータとこのセパレータを用いたキャパシタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車の多機能化や電子化に伴いECU(電子制御ユニット)が増加、また設置場所確保(車室内空間の確保)を背景にECUの統合化(小型化)による省スペース化が求められており、このECUに実装されるキャパシタに関しても必然的に小型化が要求されている。キャパシタとしての性能を落とさずに小型化するためには、更なる低抵抗化を実現することが不可欠であり、各社からキャパシタの低抵抗化技術に関して様々な提案がなされている。
【0003】
このようなキャパシタの低抵抗化を実現するための提案の一つとしては、多孔質のセパレータを用いる方法が挙げられる。
【0004】
例えば特許文献1では、厚さを100μm未満かつ空隙率を55%以内とし、さらに薄肉化処理として延伸処理を含んでいない多孔質のセパレータが提案されていた。
【0005】
つまり特許文献1に記載の技術では、セパレータの厚さや空隙率、あるいは処理方法を規定し、セパレータに設けられた孔の構造を良好に保つことでキャパシタの低抵抗化を図るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−109244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
確かに、特許文献1に記載の技術によってキャパシタの抵抗を低くすることは可能であった。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術ではセパレータに設けられた孔の形状および大きさに関しては考慮されておらず、セパレータに設けられた孔が電解質の通過に困難な形状、例えば、らせん状や曲線状であった場合、陽極箔から陰極箔(あるいは陰極箔から陽極箔)への電解質の移動性が悪くなってしまい、抵抗が上昇してしまうことがあった。さらに、ラッパ状の孔のように裏面と表面の開口部の面積が大幅に異なる場合、実質的なセパレータの厚みが大きく減少してしまい、ショートすることがあった。
【0009】
そこで、本願発明ではこのセパレータの孔の形状に着目し、電解質の通過及び耐ショート性に適した形状の貫通孔を有するセパレータを提供することで、キャパシタの抵抗を低減させ、さらに、耐ショート性にも優れたキャパシタを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために本発明のセパレータは、直線状の貫通孔を有し、前記貫通孔の表面と裏面の開口部の面積が略同程度の構成とした。
【発明の効果】
【0011】
まず、本発明のセパレータをキャパシタに使用することで、抵抗を低減することができる。
【0012】
これはセパレータに直線状の貫通孔を設け、この貫通孔の表面と裏面の開口部の面積を略同等の大きさとしたことによる。
【0013】
この構成により、貫通孔を電解質が通過し易くなり電極間の電解質の移動性が向上し、結果として抵抗を低減させることができる。
【0014】
また、本発明の貫通孔の形状によると、貫通孔の形成にともなう実質的なセパレータの厚みの減少を抑制することができるので、耐ショート性も向上させることができる。
【0015】
加えて、貫通孔をコロナ放電処理にて形成した場合、セパレータに上記形状の貫通孔が形成されると同時にセパレータの表面官能基が変化し、セパレータと電解液との親和性を改善することができ、キャパシタのさらなる低抵抗化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1のセパレータを用いた電解キャパシタの構成を示す図であり、(a)はキャパシタ素子の展開斜視図、(b)は電解キャパシタの断面図
【図2】実施例1のセパレータの形状を示す模式図
【図3】実施例1のセパレータの貫通孔の形状を示す電子顕微鏡写真であり、(a)はセルロースセパレータの貫通孔の電子顕微鏡写真、(b)はポリオレフィンセパレータの貫通孔の電子顕微鏡写真
【図4】実施例1のセパレータを用いたキャパシタ素子の製造装置を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施例1)
以下、本実施例におけるセパレータについて説明する。
【0018】
なお、本実施例では電解キャパシタを例に説明するが、これに限らず本発明は電気二重層キャパシタ、電気化学キャパシタ等のキャパシタにも好適に採用し得る。
【0019】
まず、図1を用いて本実施例のセパレータ1を用いた電解キャパシタ2の一例について説明する。
【0020】
ここで、図1(a)は本実施例のセパレータ1を用いたキャパシタ素子3の展開斜視図であり、図1(b)は本実施例のセパレータ1を用いた電解キャパシタ2の断面図である。
【0021】
図1(a)に示すように、本実施例のセパレータ1を用いたキャパシタ素子3は、表面に酸化アルミニウムからなる誘電体層を形成した陽極アルミニウム箔4と陰極アルミニウム箔5をその間にセパレータ1を介在させて巻回して構成されており、陽極アルミニウム箔4と陰極アルミニウム箔5にはそれぞれ棒状の接合部と半田付可能な外部引出部とからなるリード線6が接合されている。
【0022】
そして、図1(b)に示すように、本実施例の電解キャパシタ2は、このキャパシタ素子3を駆動用電解液(図示せず)に含浸し、さらに有底筒状のアルミニウムケース7に収納した後、このアルミニウムケース7の開口部を封口部材8で封止することで形成されている。なお、封口部材8には2つの挿通孔9が設けられており、2本のリード線6はこれら挿通孔9に挿通されることで、外部に引き出される。そしてリード線6が電解キャパシタ2外部の電極と電気的に接続される。
【0023】
駆動用電解液には、例えば以下のカチオン、アニオン、溶媒が用いられている。
【0024】
カチオンとしては、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム、オキソニウム、セレニウム、アミジニウム及びグアニジニウムなどが挙げられる。
【0025】
アニオンとしては、フタル酸、マレイン酸、安息香酸などのカルボン酸、スクアリン酸などのオキソカーボン酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸などのフッ素系アニオンなどが挙げられる。
【0026】
溶媒としては、γ―ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、エーテル類、エステル類、スルホラン、エチルメチルスルホンなどのスルホン類、エチレングリコールなどのアルコール類などが挙げられる。
【0027】
本発明の駆動用電解液には必要により、種々の添加剤を添加することができる。該添加剤としては、リン酸誘導体(例えば、リン酸、リン酸エステルなど)、ホウ酸誘導体(例えば、ホウ酸、ホウ酸と多糖類〔マンニット、ソルビットなど〕との錯化合物、ホウ酸と多価アルコール〔エチレングリコール、グリセリンなど〕との錯化合物など)、ニトロ化合物(例えば、o−ニトロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、m−ニトロ安息香酸、o−ニトロフェノール、p−ニトロフェノール、p−ニトロアニソールなど)などを挙げることができ、その添加量は、電解液の電気伝導度と電解液溶剤への溶解度の観点から通常電解質の10重量%以内とすることが望ましい。
【0028】
なお、本発明は、電気二重層キャパシタや電気化学キャパシタ等の各種キャパシタに採用し得るものである。本実施例のセパレータ1を用いた電気二重層キャパシタおよび電気化学キャパシタの構成に関して、以下に簡単に記載する。
【0029】
まず電気二重層キャパシタでは、陽極電極と陰極電極をその間に本実施例のセパレータ1を介在させた状態で巻回、あるいは複数層積層することで形成されたキャパシタ素子と、キャパシタ素子を電解液とともに収納するケースと、ケースの開口部を封止する封口部材とを備え、陽極電極および陰極電極の集電体がともにアルミニウムで形成され、かつ分極性電極層がともに活性炭を含む構成となる。
【0030】
一方、電気化学キャパシタの場合、陽極電極と陰極電極をその間に本実施例のセパレータ1を介在させた状態で巻回、あるいは複数層積層することで形成されたキャパシタ素子と、キャパシタ素子を電解液とともに収納するケースと、ケースの開口部を封止する封口部材とを備え、陽極電極の集電体がアルミニウムで形成され、陰極電極の集電体が銅またはニッケルで形成され、陽極電極の前記分極性電極層が活性炭を含み、陰極電極の分極性電極層が黒鉛またはソフトカーボンを含み、電解液がリチウムイオンを含む構成となる。
【0031】
次に本発明のポイントであるセパレータ1に関して図2を用いて詳しく説明する。図2はセパレータ1の形状を示す模式図である。
【0032】
図2に示すように、セパレータ1は多数の貫通孔10を有しており、これらの貫通孔10は直線状の形状を有している。つまり、図2に示すように、本実施例のセパレータ1に設けられた貫通孔10は、セパレータ1の対向する2つの開口部、すなわちセパレータ1の表面側の開口部と裏面側の開口部にかけて最短距離で(すなわち一直線に)貫通している。
【0033】
さらに貫通孔10は、セパレータ1の表面と裏面における開口部の面積が略同程度の構成となっている。より具体的には、本実施例の貫通孔10は、セパレータ1の表面の開口部の面積が裏面の開口部の面積に対して±20%以内の大きさであり、かつ表面の開口部と裏面の開口部は共に真円に近い形状である。すなわち、表面の開口部と裏面の開口部は略相似形状であり、かつ同程度の大きさに形成されている。
【0034】
貫通孔10の形状を上記のような形状としたことにより、本実施例のセパレータ1を用いたキャパシタでは抵抗が低減されたものとなっている。例えばセパレータの貫通孔がらせん状や曲線状のような形状である場合、電解質がセパレータの表面側から裏面側に移動する際に不必要にその移動距離が長くなってしまい、抵抗が高くなってしまうことが考えられる。これに対し、本実施例の貫通孔10はセパレータ1の表面側から裏面側にかけて直線状に設けられているため、電解質はセパレータ1の表面側から裏面側に最短距離で到達することができる。この結果、電解質の電極間の移動はスムーズになり、抵抗を低減させることができる。
【0035】
この電解質の移動に関して検証した結果について、以下に述べる。
【0036】
まず、図3(a)および図3(b)に本実施例におけるセパレータ1に設けた貫通孔10の写真を示す。ここで、図3(a)はセルロースを材料として用いたセルロースセパレータ1aに設けた貫通孔10aを示す写真であり、図3(b)はポリオレフィン樹脂を材料として用いたポリオレフィンセパレータ1bに設けた貫通孔10bを示す写真である。
【0037】
なお、これら貫通孔10aおよび貫通孔10bの形状観察は、走査型電子顕微鏡(HITACHI製 S−3400N)を用いて行った。また、貫通孔10aおよび貫通孔10bの形成はコロナ放電処理を用いて行った。このコロナ放電処理による貫通孔10aおよび貫通孔10bの形成方法に関しては後ほど詳述する。
【0038】
図3(a)に示されるセルロースセパレータ1aに設けた貫通孔10aの孔径は約4μmであるのに対し、ポリオレフィンセパレータ1bの貫通孔10bの孔径は約10μmであった。これら貫通孔10aと貫通孔10bの孔径を比較すると、貫通孔10aの方が孔径が小さい。これは、ポリオレフィン樹脂よりもセルロースの方が融点が高いため、コロナ放電処理した際に溶解しにくいためであると考えられる。このように孔径が小さいとセパレータ1の両面に設けられた陽極アルミニウム箔4と陰極アルミニウム箔5が貫通孔10を通じて接触してしまう可能性を低減できる。よって耐ショート性の観点からはセルロースの方がセパレータ1の材料としてより好ましいと言える。
【0039】
なお、セルロースセパレータ1aの材料として用いるセルロースとしては、針葉樹木材パルプ、広葉樹木材パルプ、エスパルトパルプ、マニラ麻パルプ、サイザイ麻パルプ、コットンパルプ、ヘンプなどの天然セルロース、レーヨン繊維などが挙げられ、これらを2種類以上混合または共重合したセパレータ材料でもよい。
【0040】
また、同様にポリオレフィンセパレータ1bの材料として用いるポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリメチルペンテンなどが挙げられ、これらを2種類以上混合または共重合したセパレータ材料でもよい。
【0041】
これら、セルロースセパレータ1aとポリオレフィンセパレータ1bに対する電解質の移動性を示す指標として、セルロースセパレータ1aとポリオレフィンセパレータ1bの透気度を測定した。これは、電解質の移動性は一般的に空気の通過し易さと比例するものであるため、透気度を測定することで電解質の移動性についての評価を行ったものである。なお、透気度の測定はガーレー透気度計を用いて行った。
【0042】
これらセルロースセパレータ1aとポリオレフィンセパレータ1bの透気度の測定結果を(表1)に記載する。また、比較例として、直線状の貫通孔を設けないセルロースセパレータ1aおよびポリオレフィンセパレータ1bの透気度の測定結果も同時に記載する。
【0043】
【表1】

【0044】
この表が示すように、コロナ放電処理によりセルロースセパレータ1aおよびポリオレフィンセパレータ1bに直線状の貫通孔10aおよび貫通孔10bを形成した場合、透気度が大きく向上しているのがわかる。すなわち、直線状の貫通孔を設けることによって空気の通過し易さが大きく向上しているのであり、これは電解質の移動性が向上していることを示す。
【0045】
実際に、直線状の貫通孔を設けないセパレータを用いたキャパシタと上記セルロースセパレータ1aおよびポリオレフィンセパレータ1bを用いたキャパシタの抵抗を比較したところ、(表1)に示すように直線状の貫通孔を設けないセパレータを用いたキャパシタの抵抗を1としたときに、セルロースセパレータ1aを用いたキャパシタでは抵抗が0.94、ポリオレフィンセパレータ1bを用いたキャパシタでは抵抗が0.2という結果が得られた。
【0046】
これらの結果からも明らかなように本実施例のセパレータ1では電極間の電解質の移動性を向上させることができ、この結果キャパシタの抵抗を低減させることが可能である。
【0047】
なお、上記の検証においてはセルロースセパレータ1aおよびポリオレフィンセパレータ1bのみについて結果を示したが、セパレータ1の材料としてはこれら以外にもポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等を用いてもよい。あるいはこれらを2種類以上混合または共重合させてセパレータ1を形成してもよい。上記のような材料によるセパレータ1であっても直線状の貫通孔10を設けることで電解質の移動性を向上させることができ、キャパシタの抵抗を低減させることができる。
【0048】
また、本実施例の貫通孔10は、セパレータ1の表面の開口部の面積が裏面の開口部の面積に対して±20%以内の大きさとなっている。この構成によりセパレータ1の実質的な厚みが減少することはない。例えばセパレータに形成された貫通孔がラッパ状の形状であり、表面と裏面に設けられた開口部の面積が大幅に異なる場合、セパレータと電極を巻回した際に、電極がセパレータの貫通孔の面積が大きい方の開口部に圧入され易くなり、結果として電極どうしが接触しやすい状態となってしまう。これはすなわちセパレータの実質的な厚さが薄くなっている(電極どうしが接触し易くなっている)と言える。一方、本実施例のセパレータ1に設けた貫通孔10は図2で示したように、表面の開口部の面積が裏面の開口部の面積に対して±20%以内の大きさを有する直線状の略円筒状となっているため、セパレータ1の実質的な厚みは減少していない。この結果、電極どうしが接触する可能性は低減され、本実施例のセパレータ1は耐ショート性も優れたものとなっている。なお、このような直線状の貫通孔10の形成はセパレータ1の材料および厚みと貫通孔10の形成方法を適宜選択する(例えばセパレータ1の材料として厚みが15μm以上40μm以下のセルロース、形成方法を放電量および放電度を規定したコロナ処理)ことで可能である。
【0049】
(表2)に本実施例のセパレータ1の耐ショート性に関して検証した結果を示す。(表2)は表面の開口部の面積が裏面の開口部の面積に対して±20%以内(10%、15%、20%)の大きさとしたセパレータ1を用いたキャパシタ素子3に、定格電圧を印加しながら105℃の恒温槽中で1000時間試験した場合のショート率を検証したものである。これらの検証は前述のセルロースを材料として用いたセルロースセパレータ1a、ポリオレフィン樹脂を材料として用いたポリオレフィンセパレータ1bを対象として行った。さらに比較例として表面の開口部の面積が裏面の開口部の面積に対して約25%および約30%大きいセパレータを用いたキャパシタ素子の検証結果を同時に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
(表2)にて示すように、表面開口部の面積を裏面開口部の面積の±20%以内としたセルロースセパレータ1a、ポリオレフィンセパレータ1bのいずれのセパレータ1もショートしたキャパシタ素子3はなかった。一方、表面の開口部の面積が裏面の開口部の面積に対して25%の大きさであるセパレータを用いたキャパシタ素子は材料にセルロースを用いた場合、材料にポリオレフィン樹脂を用いた場合、いずれの場合も1つの素子がショートした。表面の開口部の面積が裏面の開口部の面積に対して30%の大きさであるセパレータを用いたキャパシタ素子は材料にセルロースを用いた場合は3つの素子が、材料にポリオレフィン樹脂を用いた場合は4つの素子がショートした。
【0052】
この結果が示すように、本実施例のセパレータ1では電極間のショートを防ぐことができ、信頼性の高いキャパシタを提供することが可能である。
【0053】
なお、耐ショート性をさらに向上させるためには、セパレータ1の貫通孔10がセパレータ1全体に均一に分布していることが好ましい。貫通孔10がセパレータ1全体に均一に分布していることで、電流集中を防止することができるため、耐ショート性をさらに良好な状態に保つことができる。本実施例のセパレータ1においては、セルロースセパレータ1aでは1cm2あたり5〜9個の貫通孔10aが、ポリオレフィンセパレータ1bでは1cm2あたり17〜23個の貫通孔10bが各セパレータ1の全体に渡って均一に分散していた。これら貫通孔10の面積がセパレータ1の面積に対し占める割合は、セルロースセパレータ1aでは約0.3%、ポリオレフィンセパレータ1bでは約1.4%であった。検証の結果、この貫通孔10の面積がセパレータ1の面積に対し占める割合をセルロースセパレータ1a、ポリオレフィンセパレータ1b共に0.05%以上5%以下とし、かつ貫通孔10をセパレータ1に均一に分散させるようにすれば、低抵抗化および耐ショート性の保持を達成できることが確認されている。
【0054】
また、優れた耐ショート性を持たせるためにはセパレータ1の厚みを少なくとも貫通孔10の径以上の大きさとすることが望ましい。実際に(表2)にて示したように、本実施例のセルロースセパレータ1a、ポリオレフィンセパレータ1bではそれぞれ厚みを25μm、28μmとし、貫通孔10aおよび貫通孔10bの大きさはそれぞれ4μm、10μmとしている。このようにセパレータ1の厚みを少なくとも貫通孔10の径以上とすることで耐ショート性を保持することができる。
【0055】
一方、低抵抗化の観点からはセパレータ1を厚くしすぎることは電解質の移動性を低減させてしまうことになるので好ましくない。したがって、セパレータ1の厚みとしては10μm以上100μm以下であることが望ましい。セパレータ1の厚みを10μmよりも小さくした場合、電極間の距離が短くなり過ぎ、また貫通孔10の径の大きさよりもセパレータ10の厚みが薄くなるため、ショートの可能性が高くなる。一方、セパレータ1の厚みを100μmよりも大きくした場合、電極間の距離が長くなりキャパシタ素子3の抵抗が大きくなり過ぎ、実使用面で問題が生じる可能性がある。セパレータ1の厚みに関して、より好ましくは10μm以上50μm以下、さらにより好ましくは15μm以上40μm以下のものを用いるとよい。本発明で使用しているキャパシタにおいて、定格電圧50V以下の低電圧用の場合には、15μm以上40μm以下が好ましい。
【0056】
なお、低抵抗化を実現するためには貫通孔10の径に対し、電解質の径の大きさが小さいことが好ましいが、一般的に各種キャパシタに用いられる電解質の径は、本実施例で示すような形成方法により形成された貫通孔10の径に比べ明らかに小さいためまず影響を及ぼすことはない。少なくとも、貫通孔10の径の大きさが電解質の径の大きさより1000倍以上大きければ、電解質の径が抵抗に及ぼす影響は軽微なものとなる。
【0057】
また、セパレータ1の繊維径は、低抵抗化かつ耐ショート性の維持の観点から、0.01μm以上3μm以下であることが好ましいが、より好ましくは、0.01μm以上1μm以下である。
【0058】
次に、本実施例の直線状の貫通孔10の開孔方法およびセパレータ1を用いた電解キャパシタ2の製造方法について説明する。なお、以下では上述した電解キャパシタ2の製造方法について説明するが、この製造方法は電解キャパシタ2に限られることなく、電気二重層キャパシタや電気化学キャパシタにも適用可能である。
【0059】
ここで、貫通孔10の形状を直線状とするためには、電子線処理、細針の挿通、コロナ放電処理などが挙げられるが、これらのうちコロナ放電処理は、表面官能基を変化させることで電解液との親和性を最適化でき、キャパシタの特性を向上させることができるため、より適している方法である。ここで言う「表面官能基を変化させる」とは、例えばセルロースセパレータ1aにコロナ放電処理を施した場合では、セルロース中のヒドロキシル基がカルボニル基になり還元反応が進行することを言う。一方、ポリオレフィン樹脂セパレータ1bに同処理を施した場合では酸素が結合し酸化反応が進行することを言う。
【0060】
実際に本実施例のセパレータ1では、コロナ放電処理を施すことで直線状の貫通孔10を形成したものである。
【0061】
具体的にコロナ放電処理を用いた貫通孔10の開孔方法およびセパレータ1を用いた電解キャパシタ2の製造方法について図4を用いて以下に述べる。図4はセパレータ1を用いたキャパシタ素子3の製造装置を示す概略図である。
【0062】
セパレータ1をリール状に巻回した2つの巻き出しロール11は、ガイドローラ12a、ガイドローラ12b、およびガイドローラ12cによって所定の搬送経路13に所定の速度V(m/min)で搬送される。
【0063】
巻き出しロール11から搬送されたセパレータ1はまずコロナ放電処理部14に到達し、ここでセパレータ1の開孔処理がとり行われ、表面官能基が変化する。
【0064】
ここで、コロナ放電処理部14では、2mmほどの間を開けて2つの電極が設けられており、これら2つの電極は電源(図示せず)と接続されることで交流高電圧が印加できるようになっている。この電源によって約1kV程度の電圧を印加すると、電離作用により、2つの電極間に微弱電流が流れてコロナ放電が始まる。本実施例ではこのコロナ放電をセパレータ1にあてることで開孔処理を行っている。
【0065】
特に本実施例ではセパレータ1の両面に放電量20W・min/m2以上240kW・min/m2以下、放電度200W/cm2以上120kW/cm2以下でコロナ放電処理を施している。
【0066】
なお、放電量及び放電度は、搬送経路と垂直な方向の電極幅をL(m)、放電電極の放電面積をS(cm2)、セパレータ1の送り速度をV(m/min)、放電電力をP(W)とすると、次式で表される。
【0067】
放電量 = P/(LV) (W・min/m2
放電度 = P/S(W/cm2
なお、コロナ放電処理部14では2つの電極を備えるものとしたが、一方の電極をロール状とし、これを回転させることでセパレータ1を搬送しながら、コロナ放電処理を行う構成としてもよい。
【0068】
また、本実施例では両面にコロナ放電処理を施しているが、片面についてのみコロナ放電処理を施した場合であってもセパレータ1に貫通孔10を設けることができ、本実施例の効果を得ることができる。
【0069】
セパレータ1をコロナ放電処理した後、セパレータ1はさらに搬送される。そして、巻き取りロール15で2枚のセパレータ1、陽極アルミニウム箔4、および陰極アルミニウム箔5を重ね合わせた状態で巻き取ることによって、陽極アルミニウム箔4と陰極アルミニウム箔5の間にセパレータ1を介在させたキャパシタ素子3を作製する。
【0070】
なお、陽極アルミニウム箔4と陰極アルミニウム箔5には棒状の接合部と半田付可能な外部引出部とからなるリード線6が接合されている。
【0071】
その後、作製されたキャパシタ素子3に駆動用電解液を含浸し、キャパシタ素子3を有底筒状のアルミニウムケース7に収納した後、このアルミニウムケース7の開口部を封口部材8で封止することで電解キャパシタ2が完成する。
【0072】
なお、セパレータ1にコロナ放電処理を施した後、長時間放置するとコロナ放電処理により変化したセパレータ1の表面官能基が経時劣化し、処理前の状態に戻ってしまう問題がある。このため、駆動用電解液を含浸する工程は、コロナ放電処理後すぐに行うことが好ましい。したがって、駆動用電解液を含浸する工程は、セパレータ1にコロナ放電処理を施した直後か、あるいは巻き取りロールで陽極アルミニウム箔4、陰極アルミニウム箔5、およびセパレータ1を巻き取り、キャパシタ素子3を作製した直後に行うことが望ましい。
【0073】
上記製造方法によって製造された本実施例のセパレータ1は上述したように直線状の貫通孔10を有することにより、低抵抗化されていると同時に優れた耐ショート性を有するものである。
【0074】
また、上述のごとくコロナ放電処理を行う際には放電量20W・min/m2以上240kW・min/m2以下、放電度200w/cm2以上120kW/cm2以下で行うことが好ましい。
【0075】
これは、放電量が20W・min/m2より小さく、また放電度が200W/cm2より小さいとコロナ放電処理によるセパレータ1の表面改質の効果が乏しいためであり、また放電量が240kW・min/m2より大きく、また放電度が120kW/cm2より大きいとコロナ放電処理の際にセパレータ1が熱せられ、強度が低下、あるいはセパレータ1が破損する可能性があるとともに所望の形状の貫通孔10が得られない可能性があるためである。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によると、キャパシタに用いられるセパレータの低抵抗化と耐ショート性の向上を実現することができる。したがって、本発明によるセパレータを用いたキャパシタは自動車をはじめとする各種電子機器、電気機器、産業機器に好適に採用し得る。
【符号の説明】
【0077】
1 セパレータ
1a セルロースセパレータ
1b ポリオレフィンセパレータ
2 電解キャパシタ
3 キャパシタ素子
4 陽極アルミニウム箔
5 陰極アルミニウム箔
6 リード線
7 アルミニウムケース
8 封口部材
9 挿通孔
10 貫通孔
10a 貫通孔
10b 貫通孔
11 巻き出しロール
12a ガイドローラ
12b ガイドローラ
12c ガイドローラ
13 搬送経路
14 コロナ放電処理部
15 巻き取りロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状の貫通孔を有し、前記貫通孔の表面と裏面の開口部の面積が略同程度のセパレータ。
【請求項2】
前記貫通孔の表面の開口部の面積が裏面の開口部の面積の±20%以内である請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
前記貫通孔はコロナ放電処理により形成された請求項1に記載のセパレータ。
【請求項4】
表面に酸化アルミニウムからなる誘電体層を形成した陽極アルミニウム箔と陰極アルミニウム箔をその間にセパレータを介在させて巻回、あるいは複数層積層することで構成されたキャパシタ素子と、前記キャパシタ素子に駆動用電解液を含浸し、前記キャパシタ素子を有底筒状のアルミニウムケースに収納した後、このアルミニウムケースの開口部を封口材で封止した電解キャパシタであって、
前記セパレータが直線状の貫通孔を有し、前記貫通孔の表面と裏面の開口部の面積が略同程度であるキャパシタ。
【請求項5】
金属からなる集電体と前記集電体上に形成された分極性電極層を夫々備えた陽極電極および陰極電極をその間にセパレータを介在させた状態で巻回、あるいは複数層積層することで形成されたキャパシタ素子と、前記キャパシタ素子を電解液とともに収納するケースと、前記ケースの開口部を封止する封口部材とを備えたキャパシタであって、
前記セパレータが直線状の貫通孔を有し、前記貫通孔の表面と裏面の開口部の面積が略同程度であるキャパシタ。
【請求項6】
前記陽極電極および前記陰極電極の前記集電体がともにアルミニウムで形成され、かつ前記分極性電極層がともに活性炭を含む請求項5に記載のキャパシタ。
【請求項7】
前記陽極電極の前記集電体がアルミニウムで形成され、前記陰極電極の前記集電体が銅またはニッケルで形成され、前記陽極電極の前記分極性電極層が活性炭を含み、前記陰極電極の前記分極性電極層が黒鉛またはソフトカーボンを含み、前記電解液がリチウムイオンを含む請求項5に記載のキャパシタ。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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