説明

セミアクティブ制御用ダンパおよび制御システム

【目的】 鉄道車両やビルディング等のような制振側のマスが極めて大きいものの使用に適したセミアクティブ制御用ダンパを提供する。
【構成】 振動発生側1と制振側2との間に介装した一方向流れのストロークセンシングシリンダとアンロード機能を併せもつ減衰力制御回路とで制御用ダンパ3を構成し、かつ、制振側2に対して横振れ検出用の検知器5を設置する。一方、ストロークセンシングシリンダからのプラス・マイナスのダンパ変位信号W1,W2とそれらから算出したプラス・マイナスのダンパ速度信号V1,V2、および検知器5で検知したプラス・マイナスの制振側の速度信号U1,U2を用いて振動発生側1と制振側2の振動状態をコンピュータ32で判断する。そして、コンピュータ32からの指令信号X,Y,Zで減衰力制御回路の発生減衰力とアンロード切り換えを制御し、制振側2の横振れを効果的に抑える。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、鉄道車両の車体に発生する横振れや地震発生時のビルディングの横振れ等を制振するセミアクティブ制御用ダンパ、および当該ダンパを使用した制御システムに関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、自動車等にあっては、車体に生じる上下振動を単に減衰して吸収するだけでは充分な乗心地を得られないとの理由から、より一層の乗心地の向上を図るために車体の挙動を検出して積極的に正しい姿勢に補正する所謂アクティブ制御の減衰力可変ダンパが用いられるようになってきた。
【0003】しかし、このようなアクティブ制御の減衰力可変ダンパは、パワー源であるポンプや特殊の制御バルブ類を必要とし、しかも、それらを制御するコントローラ自体も複雑となるので高価につくばかりか、パワー源をもっているがために誤動作を起こした場合に却って乗心地を害することになる。
【0004】そこで、昨今にあっては、パワー源を用いることなく車体振動の振幅や周波数に応動して減衰力制御を行う所謂セミアクティブ制御の減衰力可変ダンパが注目されるようになってきた。
【0005】このセミアクティブ制御の減衰力可変ダンパは、ハード面およびソフト面の両面でシンプルなかたちになるので、運行上およびメンテナンスの上で使い易いという利点を有する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、その反面、このようなセミアクティブ制御の減衰力可変ダンパを例えば鉄道車両やビルディング等の横振れ防止用としてそのまま適用しようとした場合には、自動車と相違して制振側のマスが極めて大きいために下記のような問題点を生じる。
【0007】すなわち、振動発生側が制振側と同方向により速い速度で振れ動いたときにもダンパが動作して減衰力を発生することから、振動発生側が制振側を押して当該制振側の横振れを抑えることなく却って増長するように作用する。
【0008】また、そればかりでなく、何等かの理由で減衰力の可変制御が不能になったときに制振側の慣性でダンパがストローク端まで急激に作動し、当該ストローク端で大きな衝撃力を発生することになる。
【0009】したがって、この発明の目的は、鉄道車両やビルディング等のような制振側のマスが極めて大きいものであっても、これを効果的に制振することのできるセミアクティブ制御用ダンパ、および当該ダンパを使用した制御システムを提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】そして、上記した目的は、この発明において、振動発生側と制振側との間に介装されるストロークセンシングシリンダと、このストロークセンシングシリンダのヘッド側室からロッド側室に向う作動流体の流れのみを許容する流路と、サクションバルブを通してヘッド側室に通じるリザーバと、ストロークセンシングシリンダのロッド側室をリザーバに接続する減衰力制御回路とを備え、当該減衰力制御回路に複数の減衰力発生要素と緊急時用の減衰力発生要素およびアンロードバルブをそれぞれ並列に配置し、かつ、上記複数の減衰力発生要素のうちの所定の減衰力発生要素に開閉バルブを直列に介装し、当該開閉バルブのオン・オフ制御により上記複数の減衰力発生要素の使用を選択すると共に、緊急時用の減衰力発生要素とアンロードバルブの上流側には切換バルブを介装して、当該切換バルブのオン・オフ制御により緊急時用の減衰力発生要素とアンロードバルブの使用を選択するようにしたセミアクティブ制御用ダンパを用い、制御系の電源オン或いはスタンバイ信号によって減衰力制御回路の切換バルブをアンロードバルブの選択位置に切り換える一方、ストロークセンシングシリンダで検出したダンパ信号と制振側の振動状態を検知する検知手段からの制振側の速度信号に基づいて、コンピュータにより減衰力制御回路の開閉バルブとアンロードバルブをそれぞれオン・オフ制御することによって達成される。
【0011】
【作 用】すなわち、上記した構成をとったことにより、ダンパ本体を構成するストロークセンシングシリンダは、ヘッド側室からロッド側室に向う作動流体の流れのみを許容する流路とサクションバルブの働きによって、伸長および圧縮動作の何れにあっても、ロッド側室の作動流体を減衰力制御回路からリザーバを通して循環させる一方向流れのダンパとして作用する。
【0012】これにより、ストロークセンシングシリンダのピストンとピストンロッドの断面積比を2:1にとることにより、当該ストロークセンシングシリンダの伸縮動作に伴って減衰力制御回路に押し出されてくる作動流体の流量は、伸長側と圧縮側とで同じとなる一方、セミアクティブ制御用ダンパにおける減衰力制御回路の切換バルブは、使用開始と同時に電源オン或いは制御スタンバイ信号でアンロードバルブを選択するオンの位置に切り換えられる。
【0013】また、制振側の振れ方向に対応してストロークセンシングシリンダが伸縮動作する通常の横振れ発生時にあっては、当該ストロークセンシングシリンダからのダンパ信号と検知手段からの制振側の速度信号に基づいて、コンピュータがアンロードバルブをオフの位置に保つ。
【0014】かくして、コンピュータは、上記ストロークセンシングシリンダからのダンパ信号と検知手段からの制振側の速度信号に基づいて開閉バルブのオン・オフ操作の可否を判断し、減衰力発生要素の一部をオン・オフ制御することで減衰力制御回路の発生減衰力を制御して制振側の横振れを効果的に制振する。
【0015】しかも、上記において、ストロークセンシングシリンダが作動端に達するような事態が生じると、当該ストロークセンシングシリンダからのダンパ信号によってこれをコンピュータが判断し、開閉バルブをオン・オフ制御して減衰力制御回路の発生減衰力を最大の状態にすることにより、ストロークセンシングシリンダの作動端での衝撃を緩和する。
【0016】それに対して、上記の制振作用時に振動発生側が制振側と同方向により速い速度で振れたとすると、ストロークセンシングシリンダの動作方向が逆転して振動発生側の振れが制振側の振れを増長するように作用する。
【0017】しかし、この場合には、コンピュータが、上記ストロークセンシングシリンダからのダンパ信号と検知手段からの制振側の速度信号によりこれを判断してアンロードバルブをオンの位置に切り換え、減衰力制御回路をバイパス状態にして振動発生側の振れにより制振側の横振れがさらに増長されるのを防止する。
【0018】また、異常事態の発生や電源のオフによる制御不能時にあっては、切換バルブが減衰力発生要素の一部を選択するオフの位置に自動的に復帰し、そのような事態の発生に際しても、緊急用の減衰力発生要素を働かせて所定の減衰力の発生を確保し、制振側の横振れを制振することになるのである。
【0019】
【実施例】以下、添付図面に基づいてこの発明の実施例を説明するに当り、ここでは説明の便宜上から、当該発明を鉄道車両の横振れ制振用に適用した場合を例にとって説明することにする。
【0020】図1において、振動発生側である台車1と制振側である車体2の間には、この発明によるセミアクティブ制御用ダンパ3と通常のダンパ4(これも、この発明によるセミアクティブ制御用ダンパで構成してもよい)が互いに対向して水平に配置してある。
【0021】また、制振側の車体2には、当該車体2の振動状態を検知する加速度計或いは速度計等からなる検知器5が設けてある。
【0022】上記セミアクティブ制御用ダンパ3は、図2R>2に示すように、ストロークセンシングシリンダ6とリザーバ7および減衰力制御回路8とからなっている。
【0023】ストロークセンシングシリンダ6は、シリンダ9の内部を摺動自在のピストン10でヘッド側室11とロッド側室12とに区画し、かつ、ピストン10からは外部に向ってピストンロッド13が延びている。
【0024】ピスドンロッド13には、多数のスケールメモリ14が等間隔で一列に埋め込んであり、これらスケールメモリ14と対向してシリンダ9に変位センサ15を取り付けてある。
【0025】ヘッド側室11は、サクションバルブ16をもつ吸込流路17を通してリザーバ7に通じており、また、ヘッド側室11とロッド側室12は、ピストン10に設けたチェックバルブ18をもつ流路19で連通している。
【0026】上記チェックバルブ18は、ヘッド側室11からロッド側室12に向う作動流体の流れのみを許容するように配設してあり、かつ、ロッド側室12がフィルタ20から減衰力制御回路8を通してリザーバ7に通じている。
【0027】減衰力制御回路8は、並列に接続した減衰力発生要素である高圧リリーフバルブ21と絞り22、開閉バルブ23でオン・オフ制御される絞り24、緊急時用の減衰力発生要素である低圧リリーフバルブ27と絞り28、および常閉のアンロードバルブ29を備えている。
【0028】また、減衰力制御回路8には、上記低圧リリーフバルブ27と絞り28、およびアンロードバルブ29の流路を選択的に断続する切換バルブ30が直列に配置してあり、この切換バルブ30を通して低圧リリーフバルブ27と絞り28およびアンロードバルブ29を選択的に並列接続するようになっていると共に、当該切換バルブ30は、使用開始と同時にオンの位置に切り換えられてアンロードバルブ29を選択するように構成してある。
【0029】以上により、台車1の横振れによって車体2に横方向への振れが生じ、これら台車1と車体2の間に相対変位が生じたとすると、当該台車1と車体2の振れ方向に対応してこれら台車1と車体2との間に介装したストロークセンシングシリンダ6が伸縮動作する。
【0030】ストロークセンシングシリンダ6が伸長動作すると、リザーバ7内の作動流体をサクションバルブ16から吸込流路17を通してヘッド側室11に吸い込みつつ、ピストン10に設けたチェックバルブ18を閉じてロッド側室12内の作動流体を減衰力制御回路8に向いフィルタ20を通して押し出す。
【0031】反対に、ストロークセンシングシリンダ6が圧縮動作した場合には、サクションバルブ16が閉じてヘッド側室11内の作動流体をピストン10に設けた流路19からチェックバルブ18を開いてロッド側室12に流し、ロッド側室12からピストンロッド13の侵入体積分に相当する量の作動流体をフィルタ20を通して減衰力制御回路8に押し出す。
【0032】それ故に、減衰力制御回路8に向って押し出される作動流体の流量は、シリンダ9の断面積をA,ピストンロッド13の断面積をa,ストロークセンシングシリンダ6のストロークをLとすると、伸長動作時には「(A−a)×L」また圧縮動作時には「a×L」となる。
【0033】このことから、シリンダ9の断面積Aとピストンロッド13の断面積aとの比を「A:a=2:1」に選ぶことによって、伸長動作時と圧縮動作時に減衰力制御回路8に向って押し出される作動流体の流量を同じにもできるし、また、上記の比を変えることによって流量比を任意に選定することもできる。
【0034】上記と並行して、減衰力制御回路8におけるの切換バルブ30は、使用開始と同時に電源オン或いは制御スタンバイ信号でコンピュータ32からバルブドライバ回路34を通して出力される切換信号Zでアンロードバルブ29を選択するオンの位置に切り換えられる。
【0035】一方、ストロークセンシングシリンダ6に設けた変位センサ15は、ピストンロッド13のスケールメモリ14と協同してシリンダ9とピストンロッド13の相対変位をディジタルのダンパ信号Sとして検出する。
【0036】上記したダンパ信号Sは、コンピュータ信号変換用のセンサ信号処理回路31でプラスのダンパ変位信号W1(伸長側)とマイナスのダンパ変位信号W2(圧縮側)、およびこれらダンパ変位信号W1,W2に基づいて算出したプラスのダンパ速度信号V1(伸長側)とナイナスのダンパ速度信号V2(圧縮側)に処理されたのちコンピュータ32に入力される。
【0037】また、車体2に設けた検知器5は、図1に示すように、当該車体2の振れを車体信号Tとして検出し、この車体信号Tもまた、コンピュータ信号変換用の処理回路33でプラスの車体速度信号U1(左方の振れ)とマイナスの車体速度信号U2(右側への振れ)に処理されたのちにコンピュータ32に入力される。
【0038】なお、検知器5が速度計である場合には、上記のようにして処理回路33によりプラスの車体速度信号U1とマイナスの車体速度信号U2に処理されるが、加速度計であった場合には、処理回路33で加速度を一旦速度に変換してからプラスの車体速度信号U1とマイナスの車体速度信号U2に処理される。
【0039】再び図2に戻って、コンピュータ32は、車体2側の検知器5から送られてくる車体速度信号U1,U2と、ストロークセンシングシリンダ6から送られてくるダンパ速度信号V1,V2とダンパ変位信号W1,W2とに基づいて制御論理を演算する。
【0040】この場合、ダンパ速度信号V1,V2と車体速度信号U1,U2は、振動発生側の台車1と制振側の車体2のそれぞれの振れ方向と、併せて、それに伴うストロークセンシングシリンダ6の伸縮速度を表わす信号としてコンピュータ32により判断され、また、ダンパ変位信号W1,W2は、ストロークセンシングシリンダ6の伸縮位置を表わす信号としてコンピュータ32により判断される。
【0041】これにより、コンピュータ32は、上記した各信号に基づいて制御論理を演算し、バルブドライバ回路34を通してその結果を切換信号X,Yとして出力し、これら切換信号X,Yにより開閉バルブ23とアンロードバルブ29をオン・オフ制御する。
【0042】かくして、上記したセミアクティブ制御用のダンパシステムは以下のようにして動作する。
【0043】■[制御動作開始時]電源或いは制御スタンバイのオン操作でコンピュータ32から切換バルブ30に切換信号Zが出力され、当該切換バルブ30をオンの位置にしてアンロードバルブ29を選択する側(図2で下側ポジション)に切り換える。
【0044】そして、この状態は、電源或いは制御スタンバイを切り換えてオフにしない限り、或いは、異常事態の発生によってそれらがオフにならない限りそのままの状態に保たれる。
【0045】■[車体2が左側に振れた時]上記の状態において、走行中に車体2が左側に振れたとすると、検知器5から処理回路33を通してプラスの車体速度信号U1がコンピュータ32に入力される。
【0046】ここで、台車1が車体2よりも遅い速度で左側に振れているか、或いは、車体2とは逆に右側に振れたとすると、ストロークセンシングシリンダ6は伸長側に動作して内部の作動流体を減衰力制御回路8に押し出す。
【0047】そして、変位センサ15からは、センサ信号処理回路31を通してコンピュータ32にプラスのダンパ変位信号W1と同じくプラスのダンパ速度信号V1が入力される。
【0048】これにより、コンピュータ32は、これら検知器5からのプラスの車体速度信号U1と変位センサ15からのプラスのダンパ変位信号W1とに基づいて車体2が左側に振れかつストロークセンシングシリンダ6が伸長側に動作していることを判断し、切換信号Yを発することなくアンロードバルブ25をオフの位置に保つ。
【0049】また、上記と併せて、コンピュータ32は、変位センサ15からのプラスのダンパ速度信号V1と検知器5からのプラスの車体速度信号U1に基づいてそのときのストロークセンシングシリンダ6の伸長速度を判定する。
【0050】そして、この伸長速度から最適値に最も近い減衰力値を演算してこれに合うように開閉バルブ23に対する切換信号Xの出力をオン・オフ制御し、減衰力制御回路8の発生減衰力を制御して車体2の左方への横振れを効果的に抑える。
【0051】すなわち、高減衰力を必要としない場合には、コンピュータ32から開閉バルブ23に切換信号Xを送って当該開閉バルブ23をオンの位置(図2で下側ポジション)に切り換える。
【0052】これにより、ストロークセンシングシリンダ6から減衰力制御回路8に押し出された作動流体は絞り22,24を通してリザーバ7に流れ、減衰力制御回路8は低減衰力を発生して車体2の横振れを抑える。
【0053】それに対して、高減衰力を必要とする場合には、コンピュータ32から切換信号Xを出力することなく開閉バルブ23をオフの位置(図2で上側ポジション)に保つ。
【0054】したがって、この場合には、ストロークセンシングシリンダ6から減衰力制御回路8に押し出された作動流体が、高圧リリーフバルブ21の制御下で絞り22のみを通してリザーバ7に流れ、減衰力制御回路8は高減衰力を発生して車体2の横振れを抑える。
【0055】しかも、上記において、ストロークセンシングシリンダ6が伸長端に達するような事態が生じた場合には、変位センサ15からのプラスのダンパ変位信号W1に基づいてこれをコンピュータ32が判断する。
【0056】そして、伸長端近傍に達した時点から切換信号Xを出力することなく或いはそれを断って開閉バルブを23をオフの位置にし、減衰力制御回路8の発生減衰力を最大値に保って伸長端での衝撃を緩和する。
【0057】このようにして、減衰力制御回路8は、ストロークセンシングシリンダ6の伸長速度の大小に応じて低減衰力と高減衰力を発生しつつ車体2の振れを効果的に抑えて少なくするのである。
【0058】また、車体2が左側に振れているときに、例えば、台車1がレールの狂い等によって車体2の左方への横振れ速度よりも速い速度で左方に振れたとすると、ストロークセンシングシリンダ6が圧縮動作して当該ストロークセンシングシリンダ6のヘッド側室11にも減衰力制御回路8の発生減衰力に応じた流体圧力が発生する。
【0059】このヘッド側室11に発生した流体圧力は、ピストンロッド13の存在によって生じるヘッド側室11とロッド側室12の受圧面積差によりストロークセンシングシリンダ6を伸長方向に押す力として作用し、車体2をさらに大きく左方に振ることになるので当該流体圧力を生じないようにする必要がある。
【0060】そこで、この場合には、検知器5からコンピュータ32に送られてくるプラスの車体速度信号U1とストロークセンシングシリンダ6の圧縮動作によって変位センサ15から送られてくるマイナスのダンパ速度信号V2に基づき、これをコンピュータ32が判断してアンロードバルブ29に切換信号Yを出力する。
【0061】これにより、アンロードバルブ29がオンの位置(図2で下側ポジション)に切り換えられて減衰力制御回路8がアンロード状態となり、ヘッド側室11の作動流体がピストン10のチェックバルブ18からロッド側室12およびアンロード状態となった減衰力制御回路8を通してリザーバ7に逃げる。
【0062】したがって、ストロークセンシングシリンダ6のヘッド側室11には流体圧力が発生しないことになるので、当該ストロークセンシングシリンダ6が車体2をさらに大きく左方に振るのを阻止する。
【0063】■[車体2が右側に振れた時]上記とは反対に車体2が右側に振れたとすると、検知器5からマイナスの車体速度信号U2がコンピュータ32に入力される。
【0064】ここで、台車1が車体2よりも遅い速度で左側に振れているか、或いは、車体2とは逆に左側に振れたとすると、ストロークセンシングシリンダ6は吸込流路17のチェックバルブ16を閉じつつ圧縮側に動作して、ヘッド側室11内の作動流体を流路19からロッド側室12を通して減衰力制御回路8に押し出す。
【0065】そして、変位センサ15からは、マイナスのダンパ速度信号V2とマイナスのダンパ変位信号W2がコンピュータ32に入力される。
【0066】コンピュータ32は、検知器5から送られてくるマイナスの車体速度信号U2と変位センサ15からのマイナスのダンパ速度信号V2とに基づき、車体2が右側に振れ、かつ、ストロークセンシングシリンダ6が圧縮側に動作していることを判断し、切換信号Yを発することなくアンロードバルブ25をオフの位置に保つ。
【0067】一方、コンピュータ32は、先の車体2が左側に振れた場合と同様に、変位センサ15からのマイナスのダンパ速度信号V2と検知器5からのマイナスの車体速度信号U2に基づいて最適値に最も近い減衰力値を演算し、これに合うように開閉バルブ23に対する切換信号Xの出力をオン・オフ制御して減衰力制御回路8の発生減衰力を制御し、車体2の右方への横振れを効果的に抑える。
【0068】すなわち、高減衰力を必要としない場合には、コンピュータ32から開閉バルブ23に切換信号Xを送って当該開閉バルブ23をオンの位置に切り換え、減衰力制御回路8に押し出されてきた作動流体を絞り22,24からリザーバ7に流し、低減衰力を発生して車体2の横振れを抑える。
【0069】それに対して、高減衰力を必要とする場合には、コンピュータ32から切換信号Xを出力することなく開閉バルブ23をオフの位置に保ち、減衰力制御回路8に押し出されてきた作動流体を高圧リリーフバルブ21の制御下で絞り22のみを通してリザーバ7に流し、高減衰力を発生して車体2の横振れを抑える。
【0070】しかも、上記にあっても、ストロークセンシングシリンダ6が圧縮端に達するような事態が生じると、変位センサ15からのナイナスのダンパ変位信号W2に基づいてこれをコンピュータ32が判断し、圧縮端近傍に達した時点から開閉バルブを23をオフの位置にして減衰力制御回路8の発生減衰力を最大値に保ち、ストロークセンシングシリンダ6の圧縮端での衝撃を緩和する。
【0071】このようにして、減衰力制御回路8は、ストロークセンシングシリンダ6の圧縮速度の大小に応じて低減衰力と高減衰力を発生しつつ車体2の振れを効果的に抑えて少なくする。
【0072】また、上記においても、台車1がレールの狂い等により車体2の右方への横振れ速度よりも速い速度で右方に振れたとすると、ストロークセンシングシリンダ6は伸長動作してロッド側室12に減衰力制御回路8の発生減衰力に応じた流体圧力が発生する。
【0073】このロッド側室12に発生した流体圧力は、ストロークセンシングシリンダ6を圧縮方向に押す力として作用し、車体2の右方への振れを増長することになるので当該流体圧力を生じないようにする必要がある。
【0074】しかし、この場合にあっても、車体2は右方に振れ動いているために、検知器5からコンピュータ32に送られてくるマイナスの車体速度信号U2とストロークセンシングシリンダ6の伸長動作により変位センサ15から送られてくるプラスのダンパ速度信号V1に基づき、コンピュータ32がアンロードバルブ29に切換信号Yを出力する。
【0075】そして、この切換信号Yによりアンロードバルブ29をオンの位置に切り換えて減衰力制御回路8をアンロード状態にし、ロッド側室12の作動流体をリザーバ7に逃がして車体2がさらに大きく右方に振られるのを阻止する。
【0076】■[電源のオフや異常事態の発生による制御不能時]この場合にあっても、車体2の左右方向への振れに伴ってストロークセンシングシリンダ6が伸縮動作を繰り返すことになるので、当該ストロークセンシングシリンダ6から減衰力制御回路8に向って作動流体が押し出される。
【0077】しかし、電源のオフ時にあっては、それと同時にコンピュータ32からの切換信号X,Y,Zも断たれることになるので、開閉バルブ23とアンロードバルブ29および切換バルブ30が自動的に図2のオフの位置に切り換わる。
【0078】これにより、ストロークセンシングシリンダ6から減衰力制御回路8に押し出されてきた作動流体は絞り22,28を通してリザーバ7に流れ、絞り28と低圧リリーフバルブ27の働きによって所定の減衰力を発生しつつ通常のダンパとして動作し、車体2の左右方向への振れを制振する。
【0079】また、制御時において、例えば、制御系に異常事態が発生してアンロードバルブ29がオンの状態に切り換わったり、或いはアンロードバルブ29がオンの位置からオフの位置に復帰できなくなったとする。
【0080】しかし、この場合にあっても、アンロードバルブ29は切換バルブ30と直列状態を保って減衰力制御回路8に介装されおり、しかも、制御系の異常時には自動的に切換バルブ30がオフの位置状態に戻る。
【0081】したがって、切換バルブ30が低圧リリーフバルブ27と絞り28を選択することになるので、減衰力制御回路8がアンロード状態になることなく低圧リリーフバルブ27と絞り28で減衰力を確保する。
【0082】図3は、図2の変形例を示すもので、この実施例にあっては絞り22を開閉バルブ23と絞り24の間に結んである。
【0083】このものによっても、開閉バルブ23がオフの位置にあるときには、ストロークセンシングシリンダ6から押し出された作動流体が絞り22から絞り24を通して直列に流れる。
【0084】一方、開閉バルブ23がオンの位置に切り換わると、絞り22を通る流路と並列に開閉バルブ23を通るバイパス流路がかたちづくられ、当該バイパス流路によって絞り22の前後の作動流体圧力が同圧になるために、ストロークセンシングシリンダ6から押し出された作動流体は開閉バルブ23と絞り24を通して流れる。
【0085】その結果、図2の実施例の場合と同様に、開閉バルブ23のオン・オフ制御によって減衰力制御回路8での発生減衰力を高低に切り換えることができる。
【0086】図4は、この発明の他の実施例を示すものであって、当該実施例にあっては、先の図2の実施例における減衰力制御回路8に開閉バルブ23と絞り24と同様の開閉バルブ25と絞り26をさらに付け加えて並列に介装してある。
【0087】これにより、前述の図2の場合と同様にして、車体2側の検知器5からの車体速度信号U1,U2と変位センサ15からのダンパ速度信号V1,V2とに基づいてコンピュータ32により開閉バルブ23,25を選択的に或いは併せて切換制御することにより、減衰力制御回路8での発生減衰力を多段に切り換えてきめ細かい制御を行うことが可能になる。
【0088】なお、上記開閉バルブ25と絞り26は、図示するまでもなく図3の実施例にもそのまま適用し得ることは勿論であり、かつ、このような開閉バルブと絞りを同様にしてさらに多段に設けてやることにより、よりきめ細かい制御を行い得ることは言うまでもない。
【0089】また、上記した各実施例にあっては、ストロークセンシングシリンダ6としてスケールメモリ14をピストンロッド13に直に埋め込んで設け、かつ、チェックバルブ18をもつ流路19をピストン10に内蔵した場合を例にとって説明してきたが、これらは、ストロークセンシングシリンダ6に外装して設けても何等差し支えはない。
【0090】さらに、これまでの実施例にあっては、鉄道車両にこの発明を適用した場合を例にとって説明してきたが、これをビルディングの制振装置に適用して地震や強風により発生する振動を制振することもできるのは勿論である。
【0091】
【発明の効果】以上述べたように、請求項1の発明によれば、制振器であるダンパ本体としてストロークセンシングシリンダを用いたことにより、当該ストロークセンシングシリンダからのダンパ信号を用いて減衰力制御回路の発生減衰力を直接制御することができ、したがって、減衰力制御回路の発生減衰力を常に適切に制御して効果的に制振側の振動を抑えることができる。
【0092】また、減衰力発生要素の一つとアンロードバルブの使用を選択する切換バルブを用い、制御時にこの切換バルブをオンの位置に切り換えてアンロードバルブを選択するようにしてやることにより、振動発生側が制振側と同方向により速い速度で振れて制振側の振れを増長するような事態が生じたとしても、そのときにはアンロードバルブをオンの位置に切り換えて減衰力制御回路をアンロード状態にしてやることにより、振動発生側の振れによって制振側の振れが増長されるのを防止することができる。
【0093】しかも、上記アンロードバルブと切換バルブは減衰力制御回路に対して直列に介装してあるので、制御系の異常事態による電源オフやアンロードバルブのオフ位置への復帰ができなくなったような場合にあっても、上記切換バルブをオフの位置に切り換えて緊急時用の減衰力発生要素を選択してやることにより、減衰力制御回路の発生減衰力を当該緊急時用の減衰力発生要素で確保してフェイルセーフ効果を発揮することができる。
【0094】請求項2の発明によれば、ストロークセンシングシリンダからのダンパ変位信号とダンパ速度信号、および制振側に設けた検知手段からの制振側の速度信号とを用いてコンピュータにより減衰力制御回路の開閉バルブとアンロードバルブとを切換制御するようにしたことにより、上記した効果を適切にかつ自動的に発揮することが可能になるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明によるセミアクティブ制御用ダンパシステムの一実施例を示すブロック図である。
【図2】同上のダンパシステムに使用するセミアクティブ制御用ダンパの構成例を示す回路図である。
【図3】同上の変形例を示す回路図である。
【図4】同じく、他の構成例を示す回路図である。
【符号の説明】
1 振動発生側である台車
2 制振側である車体
3 セミアクティブ制御用ダンパ
5 制振側速度の検出手段である検知器
6 ストロークセンシングシリンダ
7 リザーバ
8 減衰力制御回路
11 ヘッド側室
12 ロッド側室
14 スケールメモリ
15 変位センサ
16 サクションバルブ
17 吸込通路
18 チェックバルブ
19 流路
21 減衰力発生要素である高圧リリーフバルブ
22,24,26,28 減衰力発生要素である絞り
23,25 開閉バルブ
27 減衰力発生要素である低圧リリーフバルブ
29 アンロードバルブ
30 切換バルブ
31 センサ信号処理回路
32 コンピュータ
33 処理回路
34 バルブドライバ回路
S ダンパ信号
T 制振側の横振れ信号
U1,U2 制振側の速度信号
V1,V2 ダンパの速度信号
W1,W2 ダンパの変位信号
X 開閉バルブに対する切換信号
Y アンロードバルブに対する切換信号
Z 切換バルブに対する切換信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】 振動発生側と制振側との間に介装されるストロークセンシングシリンダと、このストロークセンシングシリンダのヘッド側室からロッド側室に向う作動流体の流れのみを許容する流路と、サクションバルブを通してヘッド側室に通じるリザーバと、ストロークセンシングシリンダのロッド側室をリザーバに接続する減衰力制御回路とを備え、当該減衰力制御回路に複数の減衰力発生要素と緊急時用の減衰力発生要素およびアンロードバルブをそれぞれ並列に配置し、かつ、上記複数の減衰力発生要素のうちの所定の減衰力発生要素に開閉バルブを直列に介装し、当該開閉バルブのオン・オフ操作により上記複数の減衰力発生要素の使用を選択すると共に、緊急時用の減衰力発生要素とアンロードバルブの上流側には切換バルブを介装して、当該切換バルブのオン・オフ操作により緊急時用の減衰力発生要素とアンロードバルブの使用を選択することを特徴とするセミアクティブ制御用ダンパ。
【請求項2】 振動発生側と制振側との間に介装されるストロークセンシングシリンダと、このストロークセンシングシリンダのヘッド側室からロッド側室に向う作動流体の流れのみを許容する流路と、サクションバルブを通してヘッド側室に通じるリザーバと、ストロークセンシングシリンダのロッド側室をリザーバに接続する減衰力制御回路とを備え、当該減衰力制御回路に複数の減衰力発生要素と緊急時用の減衰力発生要素およびアンロードバルブをそれぞれ並列に配置し、かつ、上記複数の減衰力発生要素のうちの所定の減衰力発生要素に開閉バルブを直列に介装し、当該開閉バルブのオン・オフ制御により上記複数の減衰力発生要素の使用を選択すると共に、緊急時用の減衰力発生要素とアンロードバルブの上流側には切換バルブを介装して、当該切換バルブのオン・オフ制御により緊急時用の減衰力発生要素とアンロードバルブの使用を選択するようにしたセミアクティブ制御用ダンパを用い、制御系の電源オン或いはスタンバイ信号によって減衰力制御回路の切換バルブをアンロードバルブの選択位置に切り換える一方、ストロークセンシングシリンダで検出したダンパ信号と制振側の振動状態を検知する検知手段からの制振側の速度信号とに基づいて、コンピュータにより減衰力制御回路の開閉バルブとアンロードバルブをそれぞれオン・オフ制御することを特徴とするセミアクティブ制御用ダンパシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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