説明

セミクローラ型作業車両

【課題】前側の従動輪の沈み込みを防止しつつ、トラックフレームのスムーズな揺動を可能にするセミクローラ型作業車両を提供する。
【解決手段】セミクローラ型トラクタのクローラ部15は、出力軸71と、リアアクスルハウジングと、トラックフレーム46と、揺動フレーム45と、引張バネ95と、を備える。揺動フレーム45は、トラックフレーム46に固定されるとともに、リアアクスルハウジングに対して回転可能に取り付けられることで、当該トラックフレーム46を揺動可能に支持する。引張バネ95は、一端が揺動フレーム45に接続されるとともに、他端が機体側に接続されており、当該トラックフレーム46の前側を上方に移動させる力を作用させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセミクローラ型作業車両に関するものであり、詳細には、揺動可能なトラックフレームに関するものである。
【背景技術】
【0002】
前側に車輪を配置し、後側にクローラ部を配置するセミクローラ型作業車両において、前記クローラ部を側面視で上方に凸となるような略三角形状に形成する構成が従来から知られている。このようなクローラ部は、以下のように構成されることがある。当該クローラ部を駆動する駆動輪を前記三角形の上側の頂点に配置するとともに、2つの従動輪を残りの下側の頂点に配置する。そして、揺動可能なトラックフレームに2つの従動輪を支持させる。この種のクローラ部を開示するものとして特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−239968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クローラ部を有する車両においては、牽引力の向上及びクローラ部の沈下防止の観点から、クローラ部の接地面積はできるだけ大きくすることが好ましい。トラクタ等のセミクローラ型作業車両では、後部に連結される作業機との干渉を避けるため、トラックフレームを前方に延長して接地面積を大きくすることが行われている。
【0005】
しかし、トラックフレームを前側に延長した場合、揺動中心から前側の従動輪までの距離が長くなり、クローラ部の自重が前側の従動輪に偏って作用することになる。そのため、特に湿地等の軟弱な地盤では、クローラ部の底部前側が沈み込んでしまうおそれがあった。
【0006】
この点、特許文献1に示すような従来の構成では、トラックフレームの中途部に配置される転輪とクローラベルトとの接触位置よりも、前側の従動輪とクローラベルトとの接触位置の方が上方になるように当該従動輪を配置することで、クローラ部の底部前側の沈み込みを防止していた。しかし、この構成では、クローラ部の底部前側の部分のクローラベルトが地面から浮き上がった状態となるので、その分だけ接地面積が減少してしまっていた。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、前側の従動輪の沈み込みを防止しつつ、トラックフレームのスムーズな揺動を可能にするセミクローラ型作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の観点によれば、機体の前側に配置される車輪と、後側に配置されるクローラ部と、を備えるセミクローラ型作業車両において、以下の構成が提供される。即ち、セミクローラ型作業車両は、駆動輪と、前側従動輪と、後側従動輪と、クローラベルトと、出力軸と、ハウジングと、トラックフレームと、揺動フレームと、弾性部材と、を備える。前記駆動輪は、エンジンの駆動力によって回転する。前記前側従動輪は、前記駆動輪の下方であって、前記駆動輪の前側に配置される。後側従動輪は、前記駆動輪の下方であって、前記駆動輪の後側に配置される。前記クローラベルトは、前記駆動輪と前側従動輪と後側従動輪とに巻き掛けられる。前記出力軸は、前記駆動輪に接続される。前記ハウジングは、前記駆動輪より機体中央側で前記出力軸の少なくとも一部を覆っている。前記トラックフレームは、前記前側従動輪と前記後側従動輪を支持する。前記揺動フレームは、前記トラックフレームに固定されるとともに、前記ハウジングに対して回転可能に取り付けられることで、当該トラックフレームを揺動可能に支持する。前記弾性部材は、一端が前記揺動フレーム又は前記トラックフレームに接続されるとともに、他端が前記機体側に接続されており、当該トラックフレームの前側を上方に移動させる力を作用させることができる。
【0010】
これにより、トラックフレームの前側が上方へ移動するように弾性部材が力を作用させるので、クローラ部の底部前側の沈み込みを効果的に防止できる。このように、クローラ部の底部前側の過剰な沈み込みを防止できるので、セミクローラ型作業車両の安定した走行を実現できる。
【0011】
前記のセミクローラ型作業車両においては、前記弾性部材は引張バネであることが好ましい。
【0012】
これにより、引張バネを用いることで、トラックフレームの前側を上方に移動させる力を作用させるための構成を簡素化できる。
【0013】
前記のセミクローラ型作業車両においては、以下のように構成されることが好ましい。前記弾性部材の一端を前記揺動フレーム又は前記トラックフレームに取り付けるためのフレーム側保持具を備える。前記フレーム側保持具は、前記弾性部材の取付位置を変更可能に構成されている。
【0014】
これにより、取付位置を変更することで、弾性部材によってトラックフレーム又は揺動フレームに作用する力を変更することができる。従って、セミクローラ型作業車両が走行する環境及び作業の種類に応じた力をトラックフレームに作用させることができ、セミクローラ型作業車両を用いた作業をより効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るセミクローラ型トラクタを示した側面図。
【図2】クローラ部を駆動するための構成を概略的に示した背面一部断面図。
【図3】トラックフレームの揺動フレームの要部を示したクローラ部の側面一部断面図。
【図4】前側規制ボルトが規制プレートに接触しているときの様子を示した側面一部断面図。
【図5】変形例において、バネを保持するフレーム側保持具の構成を示した拡大側面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るセミクローラ型トラクタ10を示した側面図である。なお、以下の説明では、単に「左側」「右側」等というときは、セミクローラ型トラクタ10が前進する方向に向かって左側及び右側を意味するものとする。
【0017】
図1に示す農作業用のセミクローラ型作業車両としてのセミクローラ型トラクタ10は、プラウ、ハロー、ローダ等の各種装置を必要に応じて装着し、様々な種類の作業を行うことが可能に構成されている。このセミクローラ型トラクタ10の前部には前車輪14が配置されており、後部にはクローラ部15が配置されている。また、セミクローラ型トラクタ10の前部であって前車輪14の上方には、開閉可能なボンネット20が配置されている。
【0018】
ボンネット20内にはエンジン19が収容されている。このエンジン19は、セミクローラ型トラクタ10が備える図略のフレームに直接又は防振部材等を介して支持されている。
【0019】
ボンネット20の後方には、運転のための空間を構成するキャビン16が配置されており、このキャビン16の内部には各種の操作を行うための図略の操作部及び座席部が備えられている。セミクローラ型トラクタ10のオペレータは、前記操作部を介して、セミクローラ型トラクタ10の走行操作等を行うことができる。
【0020】
エンジン19は、前後方向に延びるクランク軸を有している。このクランク軸の後端には図略のフライホイールが固定されており、このフライホイールの回転がクラッチ及びシャフト等を介して図略のミッションケースに伝達される。エンジン19の動力はミッションケースにおいて適宜変速された後、リアアクスル装置70に伝達され、クローラ部15を駆動する。
【0021】
また、本実施形態のセミクローラ型トラクタ10においては、機体の後部に連結装置90が配置されており、この連結装置90に前述したプラウ、ハロー等の各種の作業機を連結可能に構成されている。
【0022】
次に、クローラ部15及びその近傍の構成について説明する。図2は、クローラ部15を駆動するための構成を概略的に示した背面一部断面図である。図3は、トラックフレーム46の揺動フレーム45の要部を示したクローラ部15の側面一部断面図である。図4は、前側規制ボルト92が規制プレート91に接触しているときの様子を示した側面一部断面図である。なお、図2から図4においては、図面の内容が繁雑になることを避けるため、一部の構成の図示を省略している。
【0023】
リアアクスル装置70においては、左右一対の出力軸(リアアクスル)71が機体左右方向に延びるように配置されている。この出力軸71は、ハウジングとしてのリアアクスルハウジング72内にベアリングを介して支持されており、その外側端部にはクローラ部15が接続されている。
【0024】
また、リアアクスルハウジング72は、クローラ部15の近傍において角パイプ65を介して機体側に支持されている。より具体的には、角パイプ65は、防振部材を介してキャビン16に取り付けられている。この角パイプ65には、リアアクスルハウジング72の上面に配置される上プレート66が固定されている。また、リアアクスルハウジング72の下面には下プレート67が配置されており、上プレート66と下プレート67は、上下方向にリアアクスルハウジング72を挟み込んだ状態で、複数の連結ボルト68によって上下方向に接続されている。
【0025】
クローラ部15は、クローラベルト51と、駆動スプロケット(駆動輪)52と、転輪80と、前側アイドラ(前側従動輪)84と、後側アイドラ(後側従動輪)85と、揺動フレーム45と、トラックフレーム46と、バネ(弾性部材)95と、を主要な構成として備えている。
【0026】
クローラベルト51は無端状に構成されており、駆動スプロケット52、前側アイドラ84、後側アイドラ85及び転輪80に巻き掛けられている。この結果、クローラベルト51は図3に示すように、側面視で、駆動スプロケット52、前側アイドラ84、後側アイドラ85を3つの頂点とする略三角形状となっている。駆動スプロケット52は高い位置に配置される一方、前側アイドラ84及び後側アイドラ85は、地面に近い位置に配置されている。また、平面視において前側アイドラ84は駆動スプロケット52よりも前方に、後側アイドラ85は駆動スプロケット52よりも後方に、それぞれ配置される。また、本実施形態のクローラ部15は、トラックフレーム46の揺動中心から後側アイドラ85までの距離よりも、揺動中心から前側アイドラ84までの距離の方が長くなるように前側アイドラ84及び後側アイドラ85が配置されるように構成される。
【0027】
駆動スプロケット52の構成について説明する。駆動スプロケット52は、エンジン19側からミッションケース、リアアクスル装置70を介して伝達される駆動力によってクローラベルト51を駆動するためのものである。本実施形態の駆動スプロケット52はピン駆動型のものであり、ディスク31と、ピン支持板33と、駆動ピン34と、を主要な構成として備えている。
【0028】
ディスク31は、中心部に貫通状の支持孔36が形成された円板状部材として構成されている。ディスク31の外周部には、ピン支持板33を取り付けるためのディスク部筒部37が一体的に形成されている。
【0029】
ピン支持板33,33は一対で形成されており、それぞれがリング板状に形成されている。これらのピン支持板33,33は、前記ディスク部筒部37を軸方向で挟むように一対で配置され、当該ディスク部筒部37の端面にボルト等の適宜の手段で固定されている。
【0030】
前記ディスク部筒部37の径方向外側の空間はピン支持板33,33によって仕切られており、これにより、駆動スプロケット52の外周部分(ピン支持板33,33の間の部分)に環状溝38が形成されている。この環状溝38には、クローラベルト51の内周部に形成された後述の嵌合歯35を外側から差し込むことができる。
【0031】
駆動ピン34は、駆動スプロケット52に形成された前記環状溝38の内部において周方向に等間隔で配置されている。それぞれの駆動ピン34は、2つのピン支持板33,33の間に固定される。
【0032】
一方、無端状に形成されたクローラベルト51の内周面には、凸状に形成された嵌合歯35が、当該クローラベルト51の長手方向に所定の間隔をあけて複数配置されている。この嵌合歯35が駆動ピン34の間に差し込まれることで、駆動スプロケット52とクローラベルト51とが嵌合し、駆動スプロケット52の駆動力をクローラベルト51に伝達することができる。
【0033】
図2に示すように、前記ディスク31は、支持孔36が形成された中心部と、外周のディスク部筒部37と、を繋ぐ部分が若干湾曲した形状となっている。従って、駆動スプロケット52において前記環状溝38(駆動ピン34)は、支持孔36の位置から外側(軸方向一側)に所定距離だけオフセットされた位置に配置されている。
【0034】
出力軸71の先端はリアアクスルハウジング72から突出しており、その端部にはディスク固定部73が一体的に形成されている。このディスク固定部73は小径部と大径部とを有する段付き状のフランジとして構成されており、小径部は、駆動スプロケット52のディスク31に形成された支持孔36に差し込まれる。一方、大径部は、前記ディスク31の軸方向一側の面に、複数のボルト41を介して固定される。
【0035】
ディスク31において出力軸71が取り付けられる側と反対側の面には、ディスク固定部材61が固定されている。このディスク固定部材61は、ディスク31に対して固定されるフランジ部62と、このフランジ部62の中央部から突出するように形成された支持軸64と、を備えている。
【0036】
フランジ部62は、ディスク31の中心部分に前記ボルト41によって固定されている。この構成で、ディスク固定部材61のフランジ部62と、ディスク31と、出力軸71のディスク固定部73とが、複数本の前記ボルト41によって固定される。これにより、駆動スプロケット52及びディスク固定部材61が、出力軸71と一体的に回転するように取り付けられる。ディスク固定部材61の支持軸64、ディスク31(駆動スプロケット52)、及び出力軸71は、互いに軸線を一致させて配置される。また、支持軸64は、後述する揺動フレーム45を支持するための支持機構として機能している。
【0037】
次に、揺動フレーム45について説明する。揺動フレーム45は、トラックフレーム46を揺動可能に支持するためのものであり、外側フレーム75と、機体側フレーム76と、2つの連結棒77と、を主要な構成として備えている。
【0038】
図1及び図2に示すように、外側フレーム75は、アーム部79と取付部78とを有している。アーム部79は、側面視においてU字を上下逆さにしたような湾曲形状に構成されている。図2及び図3に示すように、アーム部79の下部に位置する2つの端部には、連結棒77の外側端部がそれぞれ固定されている。取付部78は、アーム部79の上部に取り付けられるとともに、支持軸64に取り付けられている。支持軸64は、取付部78に内蔵される図略のベアリングを介して取付部78に接続されており、支持軸64に対して取付部78が回転可能に支持される形になっている。このように、外側フレーム75は支持軸64によって吊下げ状に支持される形になっている。
【0039】
機体側フレーム76は、回動部81と、連結棒接続フレーム82と、連結プレート83と、を有している。
【0040】
図2及び図3に示すように、回動部81は筒部55と平板部56とを有しており、筒部55がリアアクスルハウジング72の外側端部に固定されているリング部材86に回転可能に取り付けられることで、当該回動部81が回転可能になっている。回動部81をリング部材86に取り付けた状態では、回動部81(筒部55)とリング部材86との間に僅かな隙間が形成されており、この隙間に塗布されるグリスによって、リング部材86に対する当該回動部81の回転が円滑なものになっている。
【0041】
連結プレート83は、矩形状の板状部材として構成されており、回動部81の平板部56に固定されている。この連結プレート83の機体側の面には、2つの突出壁94が形成されている。この突出壁94には、トラックフレーム46の揺動角度範囲を規制するための前側規制ボルト92及び後側規制ボルト93(詳細は後述)が保持されている。連結棒接続フレーム82は、細長状の板状部材で形成されており、その長手方向を前後方向に向けた状態で連結プレート83に固定されている。また、連結棒接続フレーム82は、2箇所で連結棒77に接続されている。
【0042】
トラックフレーム46は、前後方向に延びる角棒状に形成されており、前側アイドラ84、後側アイドラ85及び複数の転輪80を支持している。前側アイドラ84は、トラックフレーム46の前部に取り付けられており、クローラベルト51の前部の内側に配置されている。一方、後側アイドラ85は、トラックフレーム46の後端に取り付けられている。そして、複数の転輪80が、前側アイドラ84と後側アイドラ85との間であって、トラックフレーム46の下部に並列配置されている。
【0043】
トラックフレーム46は、2つの連結棒77を介して揺動フレーム45に固定されている。このように、本実施形態の揺動フレーム45は、駆動スプロケット52を挟んで軸方向の両側(支持軸64及びリアアクスルハウジング72の2点)で支持されており、出力軸71の軸線を中心として回転可能に構成されている。即ち、揺動フレーム45は、トラックフレーム46に固定されるとともに、支持軸64及びリアアクスルハウジング72に対して回転可能にそれぞれ取り付けられることで、当該トラックフレーム46を揺動可能に支持している。これにより、トラックフレーム46が、支持軸64とリアアクスルハウジング72との2箇所で取り付けられている揺動フレーム45に支持されているので、例えば機体の自重によって揺動フレーム45に加わる荷重を分散することができる。また、揺動フレーム45が2箇所で回転可能に支持されているので、軸ズレの発生を抑制でき、トラックフレーム46の揺動をスムーズにすることができる。
【0044】
また、トラックフレーム46の揺動中心が出力軸71の軸線にあるので、リアアクスルハウジング72の下部に揺動中心を配置するような構成に比べて、揺動する幅を大きく確保することも可能となっている。
【0045】
引張バネ(弾性部材)95は、クローラ部15の底部前側が地面に沈み込むことを防止するためのものである。引張バネ95の両端は、それぞれフック状に構成されている。図3に示すように、引張バネ95の一端は下プレート67にブラケットを介して固定される機体側保持具96に係止されており、他端が連結棒接続フレーム82の前側に配置されるフレーム側保持具97に係止されている。
【0046】
次に、トラックフレーム46の揺動範囲を規制するための規制機構について説明する。この規制機構は、規制プレート91と、前側規制ボルト92と、後側規制ボルト93と、を主要な構成として備えている。
【0047】
規制プレート91は下プレート67に固定されている。図3に示すように、規制プレート91は側面視において、下側に向かうに従ってその幅が狭くなっている。なお、詳細は図示しないが、この規制プレート91は板状部材を折り曲げて形成されており、水平面で切断したときの断面形状がC型鋼の断面と同様となっている。
【0048】
前記連結プレート83の機体側の面には、上下方向に細長い2つの突出壁94が、前後方向に所定の間隔をあけて上下方向に形成されている。前側の突出壁94には、前側規制ボルト92を支持するための図略のネジ孔が形成されており、後側の突出壁94には、後側規制ボルト93を支持するためのネジ孔が形成されている。前側規制ボルト92及び後側規制ボルト93は、このネジ孔にネジ止めされることによって機体側フレーム76(揺動フレーム45)に固定されている。
【0049】
図3に示すように、前側規制ボルト92は規制プレート91の前側に配置されており、後側規制ボルト93は規制プレート91の後側に配置されている。図4に示すように、トラックフレーム46が後側に大きく移動しようとする場合は、前側規制ボルト92の頭部が規制プレート91の前面側に接触し、トラックフレーム46の移動が規制される。逆に、トラックフレーム46が前側に大きく移動しようとする場合は、後側規制ボルト93の頭部が規制プレート91の後面側に接触し、トラックフレーム46の移動が規制される。
【0050】
また、前側規制ボルト92及び後側規制ボルト93をネジ移動させることで、突出壁94に対する前側規制ボルト92又は後側規制ボルト93の位置を変更することができる。このように、本実施形態の規制機構は、前側規制ボルト92及び後側規制ボルト93の揺動フレーム45に対する位置を調節することで、トラックフレーム46の揺動角(揺動範囲)の調整を行う機能を有している。
【0051】
更に、本実施形態の構成では、前記引張バネ95が、トラックフレーム46を支持する揺動フレーム45の前部を上方に引っ張ることで、前側に偏っているクローラ部15の重量の少なくとも一部をキャンセルするように作用する。従って、湿地等の軟弱な地盤であっても、前側アイドラ84に接している部分のクローラベルト51(クローラ部15の底部前側)の沈み込みを効果的に防止することができる。
【0052】
以上に示したように、本実施形態のセミクローラ型トラクタ10は以下のように構成される。即ち、セミクローラ型トラクタ10は、駆動スプロケット52と、前側アイドラ84と、後側アイドラ85と、クローラベルト51と、出力軸71と、リアアクスルハウジング72と、トラックフレーム46と、揺動フレーム45と、引張バネ95と、を備える。駆動スプロケット52は、エンジン19の駆動力によって回転する。前側アイドラ84は、駆動スプロケット52の下方であって、駆動スプロケット52の前側に配置される。後側アイドラ85は、駆動スプロケット52の下方であって、駆動スプロケット52の後側に配置される。クローラベルト51は、駆動スプロケット52と前側アイドラ84と後側アイドラ85とに巻き掛けられる。出力軸71は、駆動スプロケット52に接続される。リアアクスルハウジング72は、駆動スプロケット52より機体中央側で出力軸71を覆っている。トラックフレーム46は、前側アイドラ84と後側アイドラ85を支持する。揺動フレーム45は、トラックフレーム46に固定されるとともに、リアアクスルハウジング72に対して回転可能に取り付けられることで、当該トラックフレーム46を揺動可能に支持する。引張バネ95は、一端が揺動フレーム45に接続されるとともに、他端が機体側に接続されており、当該トラックフレーム46の前側を上方に移動させる力を作用させることができる。
【0053】
これにより、当該トラックフレーム46の前部が引張バネ95の弾性力によって上方に引っ張られているので、クローラ部15の底部前側の沈み込みを効果的に防止できる。このように、トラックフレーム46の揺動をスムーズにしてクローラ部15の地面に対する追従性を高めつつ、クローラ部15の底部前側の沈み込みを防止できるので、セミクローラ型トラクタ10の安定した走行を実現できる。本実施形態のように、後側アイドラ85よりも前側アイドラ84が揺動中心から離れて配置されることによって、トラックフレーム46の前側が下がり易くなる構成では特に有効である。
【0054】
本実施形態のセミクローラ型トラクタ10においては、弾性部材が引張バネ95で構成されている。
【0055】
これにより、引張バネ95を用いることで、トラックフレーム46の前側を上方に移動させる力を作用させるための構成を簡素化できる。
【0056】
また、本実施形態のセミクローラ型トラクタ10においては、以下のようにも構成される。即ち、セミクローラ型トラクタ10は、規制プレート91と、前側規制ボルト92と、後側規制ボルト93と、を備える。規制プレート91は、機体側に取り付けられる。前側規制ボルト92は、揺動フレーム45に取り付けられており、規制プレート91の前側に接触することでトラックフレーム46の後側への移動を規制する。後側規制ボルト93は、揺動フレーム45に取り付けられており、規制プレート91の後側に接触することでトラックフレーム46の前側への移動を規制する。
【0057】
これにより、トラックフレーム46の揺動範囲を規制する簡素な構成を実現することができる。
【0058】
また、本実施形態のセミクローラ型トラクタ10は、前側規制ボルト92及び後側規制ボルト93のうち少なくとも何れか一方の位置を調節できる調節機構を有するようにも構成されている。
【0059】
これにより、セミクローラ型トラクタ10が走行する環境及び作業の種類に応じて、トラックフレーム46の揺動規制範囲を調節機構によって変更することができる。この結果、セミクローラ型トラクタ10による作業の安定化及びオペレータへの負担の軽減を達成することができる。例えば、湿田を走行する場合は、揺動範囲が小さくなるように前側規制ボルト92及び後側規制ボルト93を調整することで、トラックフレーム46が大きく回動して地面に嵌まり込んでしまうような事態を回避できる。また、比較的硬い地面で走行する場合は揺動範囲を大きく設定することで、地面に対するクローラ部の追従性を高めて、安定した走行を実現することができる。
【0060】
上記実施形態の構成に加えて、引張バネ95の下側の端部を接続するフレーム側保持具を複数配置する構成に変更することができる。次に図5を参照して変形例について説明する。図5は、変形例において、引張バネ95を保持するフレーム側保持具197の構成を示した拡大側面図である。なお、本変形例において、引張バネ95の下端部に接続されるフレーム側保持具197以外の構成については上記実施形態と同様であるので、他の構成の説明は省略する。
【0061】
図5に示すように、本変形例においては、引張バネ95の下側を接続するためのフレーム側保持具197が、前後方向に複数並べて配置されている。一方、上側の引張バネ95の取付位置は固定されている。この構成で、状況に応じて複数のフレーム側保持具197の中から適切な位置のフレーム側保持具197を選択して引張バネ95を接続することで、上側の取付位置から下側の取付位置までの距離を変えて、トラックフレーム46の前側を上方に持ち上げる力を変化させることができる。この構成では、引張バネ95の取付位置を前側にすればする程、トラックフレーム46の前側を上方に引っ張り上げる力が強くなり、湿地等の軟弱な地面での作業に適するようになる。
【0062】
以上に示したように、変形例のセミクローラ型トラクタ10においては、以下のように構成される。引張バネ95の一端(下側の端部)を揺動フレーム45に取り付けるためのフレーム側保持具197を有する。フレーム側保持具197は、引張バネ95の取付位置を変更可能に構成されている。
【0063】
これにより、取付位置を変更することで、引張バネ95によって揺動フレーム45に作用する力を変更することができる。従って、セミクローラ型トラクタ10が走行する環境及び作業の種類に応じた力を揺動フレーム45に作用させることができ、セミクローラ型トラクタ10を用いた作業をより効率的に行うことができる。
【0064】
以上に本発明の実施形態を説明したが、上記の構成は更に以下のように変更することができる。
【0065】
また、クローラ部15の沈み込みを防止するための弾性部材は、トラックフレーム46の前側を上方へ移動させるように弾性力を作用させる構成である限り、様々に変更することができる。例えば、引張バネに代えて、圧縮バネによってトラックフレーム46の後側を下方へ押圧することで、トラックフレーム46の前下がりを防止する構成に変更することができる。あるいは、捩りコイルバネ等を用いても、同様の効果を発揮させることができる。
【0066】
また、上記実施形態の構成に、揺動フレーム45(トラックフレーム46)の回転に抵抗を付与するためのダンパを追加することもできる。このダンパは、例えば、引張バネ95の隣に並列配置したり、引張バネ95のコイル部の内側に設けることが考えられる。
【0067】
上記実施形態及び変形例のフレーム側保持具97(フレーム側保持具197)は、揺動フレーム45に配置される構成であるが、トラックフレーム46に配置する構成に変更することができる。また、上記変形例では、複数配置されたフレーム側保持具197の中から適宜の位置のフレーム側保持具197を選択して引張バネ95の取付位置を変更する構成であるが、この構成は適宜変更することができる。例えば、フレーム側保持具を移動可能に構成して、引張バネ95の取付位置を変更する構成や、フレーム側保持具に取付位置を変更する取付位置調節機構を設ける構成とすることもできる。
【0068】
また、上記実施形態では、支持軸64とリアアクスルハウジング72の2箇所で揺動フレーム45が支持される構成であるが、この構成は適宜変更することができる。例えば、支持軸64を省略して、リアアクスルハウジング72の1箇所で揺動フレーム45が回転可能に支持される構成に変更することができる。
【0069】
トラックフレーム46の揺動範囲を規制するための規制機構は、前側規制ボルト92及び後側規制ボルト93によるものに限定されない。例えば、前後の突出壁94に接触部材をスペーサを介してそれぞれ固定し、接触部材が規制プレート91に接触することで揺動範囲を規制する構成に変更することができる。この場合、揺動範囲の調整は、スペーサを寸法の異なるものに変更することで行うことができる。
【0070】
上記実施形態において駆動スプロケット52はピン駆動型としているが、これに代えて、例えば外歯を有する形状のスプロケットに変更することができる。
【符号の説明】
【0071】
14 前車輪
15 クローラ部
45 揺動フレーム
46 トラックフレーム
51 クローラベルト
52 駆動スプロケット(駆動輪)
71 出力軸
72 リアアクスルハウジング(ハウジング)
84 前側アイドラ(前側従動輪)
85 後側アイドラ(後側従動輪)
95 引張バネ(弾性部材)
197 フレーム側保持具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体の前側に配置される車輪と、後側に配置されるクローラ部と、を備えるセミクローラ型作業車両において、
エンジンの駆動力によって回転する駆動輪と、
前記駆動輪の下方であって、前記駆動輪の前側に配置される前側従動輪と、
前記駆動輪の下方であって、前記駆動輪の後側に配置される後側従動輪と、
前記駆動輪と前側従動輪と後側従動輪とに巻き掛けられるクローラベルトと、
前記駆動輪に接続される出力軸と、
前記駆動輪より機体中央側で前記出力軸の少なくとも一部を覆うハウジングと、
前記前側従動輪と前記後側従動輪を支持するトラックフレームと、
前記トラックフレームに固定されるとともに、前記ハウジングに対して回転可能に取り付けられることで、当該トラックフレームを揺動可能に支持する揺動フレームと、
一端が前記揺動フレーム又は前記トラックフレームに接続されるとともに、他端が前記機体側に接続されており、当該トラックフレームの前側を上方に移動させる力を作用させることができる弾性部材と、
を備えることを特徴とするセミクローラ型作業車両。
【請求項2】
請求項1に記載のセミクローラ型作業車両であって、
前記弾性部材は引張バネであることを特徴とするセミクローラ型作業車両。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセミクローラ型作業車両であって、
前記弾性部材の一端を前記揺動フレーム又は前記トラックフレームに取り付けるためのフレーム側保持具を備え、
前記フレーム側保持具は、前記弾性部材の取付位置を変更可能に構成されていることを特徴とするセミクローラ型作業車両。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−202057(P2010−202057A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50456(P2009−50456)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)