説明

セメントの製造方法

【課題】廃クーラント液水の有効利用を促進するために、廃クーラント液水を容易な処理によってセメントの強度低下、凝結遅延等を生じることのない性状のものとし、該廃クーラント液水をセメントの仕上げ粉砕工程における粉砕助剤として使用する新たなセメントの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係るセメントの製造方法は、セメントクリンカ、石膏等を微粉砕するセメントの仕上げ粉砕工程において、活性炭との接触処理を行った廃クーラント液水を、上記セメントの仕上げ粉砕工程における粉砕助剤として使用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントの製造方法に関し、特に廃クーラント液水を資源として有効に利用でき、しかも廃クーラント液水の大量消費が望めるセメントの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃クーラント液水の大半は、自動車の車検時に販売会社の整備工場等において発生する。この発生した廃クーラント液水は、環境問題への関心が高まった現代では、下水や河川などの環境水へそのまま廃棄することはできず、各整備工場において専用の回収容器に一時保管し、一定量貯まった時点で廃油収集業者にその処分を委託している。
【0003】
廃油収集業者は、処分を委託された廃クーラント液水を、産業廃棄物として焼却処理を行うか、または濃縮した後に燃料としてリサイクルしている。しかし、廃クーラント液水を濃縮するためには大掛かりな蒸留装置が必要となるにもかかわらず、エチレングリコール等のグリコール類の発熱量が小さいために燃料としての利用価値が低く、燃料化にたいする取り組みは消極的なものにとどまっており、多くの廃油収集業者が、焼却処理によって廃クーラント液水の処分を行なっている。
そのため、エチレングリコール等を多量に含む廃クーラント液水が、資源として何ら活用されておらず、資源として有効に利用でき、且つ大量に消費できる新たな再資源化技術の出現が強く望まれていた。
【0004】
上記要望に鑑み、本件出願人等は先に、廃クーラント液水に資源としての価値を見出し、セメントの仕上げ工程等における粉砕助剤として該廃クーラント液水を使用する技術を創案し、特許出願を行ない、特許を取得した(特許文献1)。
この特許を取得した技術は、自動車等から取り出された使用済みの廃クーランント液水中の有効成分であるグリコール類の濃度を所定値(5〜20重量%)に調整すると共に、該廃クーラント液水中の有効成分であるエチレングリコールをジエチレングリコールとした後、該廃クーラント液水を窯業粉体原料或いは窯業粉体製品の粉砕工程における粉砕助剤として使用するものである。
また、この特許文献1には、上記グリコール類の濃度調整等を行なった廃クーラント液水を窯業粉体原料或いは窯業粉体製品の粉砕工程における粉砕助剤として使用する際に、該廃クーラント液水中の汚染物質を除去することも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4257104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1に開示された技術は、従来においては焼却処理等によって処分されていた廃クーラント液水を、資源として有効に利用でき、且つ大量に消費できる新たな再資源化技術と期待されるものであったが、廃クーラント液水中の汚染物質を除去する方法は、廃クーラント液水をフィルタ、逆浸透膜、或いはイオン交換樹脂のいずれか、或いはこれらの2以上の組合せに通すものであり、加えてエチレングリコールをジエチレングリコール(DEG)に転換させるものであったため、この方法で得られる粉砕助剤は、多くの工程と設備が必要であり、莫大なコストを要するものであることから、その利用が進んでいないのが現状であった。
【0007】
本発明は、上述した背景技術が有する課題に鑑みなされたものであって、その目的は、廃クーラント液水の有効利用を促進するために、廃クーラント液水を容易な処理によってセメントの強度低下、凝結遅延等を生じることのない性状のものとし、該廃クーラント液水をセメントの仕上げ粉砕工程における粉砕助剤として利用する新たなセメントの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上述した目的を達成すべく鋭意研究を進めた結果、廃クーラント液水中に含まれるいかなる成分がセメントの強度低下、凝結遅延等のセメント物性に悪影響を及ぼすかについては不明であったが、驚くべきことに、廃クーラント液水に活性炭を接触させることによって、少なくともセメント物性に悪影響を及ぼす何らかの成分を廃クーラント液水中から除去することができ、該処理を行った廃クーラント液水は、セメントの仕上げ粉砕工程、即ち、セメントクリンカ、石膏等の微粉砕工程における粉砕助剤として使用しても、何らセメント物性に悪影響を及ぼすことなく有効に利用できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、セメントクリンカ、石膏等を微粉砕するセメントの仕上げ粉砕工程において、活性炭との接触処理を行った廃クーラント液水を、上記セメントの仕上げ粉砕工程における粉砕助剤として使用することを特徴とする、セメントの製造方法である。
【0010】
ここで、上記本発明において、上記廃クーラント液水の活性炭との接触処理は、粒状活性炭の充填層に廃クーラント液水を通液すること、或いは、粉末状活性炭を廃クーラント液水に添加し、その後固液分離することにより行なうことができる。
また、上記廃クーラント液水を活性炭に接触させる前に、廃クーラント液水中のグリコール類の濃度を15〜55重量%に調整することは好ましく、特に、上記廃クーラント液水中のグリコール類の濃度を25〜40重量%に調整し、該グリコール類の濃度を調整した廃クーラント液水を粒状活性炭の充填層に空塔速度0.1〜4hr-1で通液すること、或いは、上記廃クーラント液水中のグリコール類の濃度を25〜40重量%に調整し、該グリコール類の濃度を調整した廃クーラント液水に粉末状活性炭を0.5〜4重量%添加することは、いずれも好ましい廃クーラント液水と活性炭との接触処理の実施の形態である。
更に、上記活性炭と接触させた廃クーラント液水をジエチレングリコールに50重量%以下の割合で代替し、それをセメントの仕上げ粉砕工程における粉砕助剤として使用することは、好ましい実施の形態である。
【発明の効果】
【0011】
上記した本発明に係るセメントの製造方法によれば、廃クーラント液水を、セメントの強度低下、凝結遅延等を防止することができる性状のものに安価に且つ容易に処理できるため、セメントの仕上げ粉砕工程において粉砕助剤として大量に消費することが可能となり、従来においては廃棄されていた廃クーラント液水を、有効に且つ大量に資源として利用でき、環境保護に寄与することができるものとなる。
また、上記した本発明に係るセメントの製造方法によれば、従来セメントの仕上げ粉砕工程において粉砕助剤として用いていた高価なジエチレングリコール、エチレングリコール、トリイソプロパノールアミン等の代替物として廃棄物であった廃クーラント液水に安価且つ容易な処理を施したものを使用するため、セメントの製造コストを削減することができるものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、上記した本発明に係るセメントの製造方法の実施の形態を、詳細に説明する。
【0013】
廃クーラント液水は、エチレングリコール,ジエチレングリコールなどのグリコール類、油類、防錆剤、染料、水との混合液に種々の汚染物質が混在したものである。汚染物質としては、通常、エチレングリコールなどの酸化成分,防錆剤の劣化成分,溶解した金属成分,溶解しない固形物(錆び,土壌,塵など),油などである。
【0014】
先ず、前処理として、上記廃クーラント液水中の油及び固形物を除去することが好ましい。廃クーラント液水中の油の除去方法は限定されないが、例えば、一定時間静置し、浮上した油類をオイル吸着材により除去する方法が挙げられる。また、廃クーラント液水中の固形物の除去方法も限定されないが、例えば、沈殿除去、或いはろ過装置を用いることにより容易に除去することができる。
【0015】
次いで、廃クーラント液水の活性炭との接触処理を行う。
この廃クーラント液水の活性炭との接触処理の方法としては、粒状活性炭の充填層に廃クーラント液水を通液する方法(以下、「活性炭ろ過法」と言う場合がある。)、或いは、粉末状活性炭を廃クーラント液水に添加する方法(以下、「活性炭添加法」と言う場合がある。)が挙げられる。
これらの方法に使用される粒状或いは粉末状の活性炭の種類に特に限定はないが、水蒸気賦活化処理された水処理用途に製造された活性炭を用いると効果的である。これは、かかる賦活化処理された活性炭は、各種物質の吸着特性に優れるために好適に用いられる。
【0016】
<活性炭ろ過法>
廃クーラント液水を通液する充填層を形成する粒状活性炭の粒径としては、JIS K1474「活性炭試験方法」に準拠した方法により50%粒径として求められる平均粒径で0.5〜5mmのものであることが好ましく、より好ましくは1〜3mmである。これは平均粒径が0.5mm未満では、該活性炭充填層を通過する抵抗が大きく、処理量が少なくなる、または処理液中に微粒の活性炭が混入する虞がある。逆に平均粒径が5mmを超えると、単位体積当りの活性炭の表面積が小さくなり、セメント物性に悪影響を及ぼす成分の除去効率が低下するので好ましくない。
【0017】
粒状活性炭の充填層に廃クーラント液水を通液する場合には、不純物の含有量がグリコール濃度に比例するために廃クーラント液水のグリコール濃度に応じた最適排出速度がある。したがって、排出速度は、グリコール濃度に応じて決定するか、或いはグリコール類の濃度を所定値に調整した後に定率で排出する。
ただし、グリコール類の濃度が高い場合には、液体の粘性が高くなるために通液時の負荷が大きくなり、処理効率が低下する。グリコール類の濃度が低い場合、即ち水分量が多い場合には、セメントの仕上げ粉砕工程において、セメントクリンカ、石膏等の一部と水和反応してしまう憂いがあり、また粉砕助剤としての作用を果たし得ないことも生じ得る。このような観点から、廃クーラント液水中のグリコール類の濃度は、粒状活性炭の充填層に通液する前に調整することが好ましい。
【0018】
グリコール類の濃度を調整する場合には、その濃度は15〜55重量%の範囲となるように調整することが好ましく、更には25〜40重量%の範囲になるように調整することがより好ましい。
廃クーラント液水中のグリコール類の濃度を所定値に調整する方法としては、先ず廃クーラント液水中のグリコール類の濃度を測定する。廃クーラント液水中に含まれるグリコール類の濃度は、クーラントの銘柄、搭載車両等により異なる。グリコール類の濃度は、受け入れ時にポータブルのエチレングリコール濃度計等により容易に測定することができ、また受け入れタンクや処理工程に供給する所に濃度測定器を設置することにより測定が可能である。
次いで、このグリコール類の濃度の測定値に応じて、廃クーラント液水中の水分量を調整する。この廃クーラント液水中の水分量を調整する方法としては、廃クーラント液水に水分を添加し、混合する方法、或いは、廃クーラント液水中に含まれる水分を分離し、除去する方法があり、前記廃クーラント液水中に含まれる水分を分離する方法としては、廃クーラント液水の加熱による水の蒸発分離、廃クーラント液水の減圧による水の蒸発分離、または廃クーラント液水の冷却による固液分離のいずれか、或いはこれらの2以上の組合せによる方法などを用いて行なうことができる。また、グリコール類の濃度が異なる複数の廃クーラント液水を混合することによっても、その濃度を調整することができる。
なお、廃クーラント液水中のグリコール類の濃度が、上記範囲にある廃クーラント液水については、当然、何ら濃度調整することなく粒状活性炭の充填層に該廃クーラント液水を通液することができる。
【0019】
粒状活性炭の充填層に廃クーラント液水を通液する装置の形式は特に限定されないが、例えば、粒状活性炭の充填層の上部より通液し、層の下部に設置した排出口より滲出した処理水を別の容器に回収する方法の装置が容易であり、また、排出速度を調節できるように工夫されたものであることが好ましい。
【0020】
粒状活性炭の充填層への通液速度は、上記したようにグリコール類の濃度により異なるが、グリコール類の濃度が25〜40重量%であるような廃クーラント液水の場合、廃クーラント液水を粒状活性炭の充填層に空塔速度0.1〜4hr-1、好ましくは0.2〜2hr-1、より好ましくは0.1〜1hr-1となるように通液することが望ましい。空塔速度が4hr-1を超える場合には、セメント物性に悪影響を及ぼす成分の除去が十分ではなく、セメントの品質低下を生じる虞があり、0.1hr-1に満たない速度である場合には、時間あたりの廃クーラント液水の処理量が少なくなり、有効利用を図ることができない。なお空塔速度とは、排出量を活性炭充填層の容量で除したものである。
【0021】
粒状活性炭の充填層より滲出した処理水を回収することで、セメントの仕上げ粉砕工程、即ち、セメントクリンカ、石膏等の微粉砕工程における粉砕助剤として使用することができる廃クーラント液水が得られる。一方、除去性能が低下した粒状活性炭は交換、回収され、セメント製造用の燃料、即ち、セメントクリンカを焼成するキルンに燃料として用いることができる。
【0022】
<活性炭添加法>
廃クーラント液水に添加する粉末状活性炭の粒径としては、JIS K 1474「活性炭試験方法」に準拠した方法により50%粒径として求められる平均粒径で10〜300μmのものであることが好ましく、より好ましくは25〜100μmである。これは平均粒径が10μmに満たないものである場合には、廃クーラント液水に混合することが困難になる、或いは後段の固液分離の工程においてろ過効率が低下するために好ましくない。逆に平均粒径が300μmを超えると、単位体積当りの活性炭の表面積が小さくなり、処理能力、即ち、セメント物性に悪影響を及ぼす成分の除去能力が低下するので好ましくない。
【0023】
廃クーラント液水に粉末状活性炭を添加する場合には、不純物の含有量がグリコール濃度に比例するために廃クーラント液水のグリコール濃度に応じた最適添加率がある。したがって、粉末状活性炭の添加率は、グリコール濃度に応じて決定するか、或いはグリコール類の濃度を所定値に調整した後に定率で粉末状活性炭を添加することが推奨される。
ただし、グリコール類の濃度が高い場合には、後段の固液分離の工程において、粉末状活性炭を含む処理液の粘性が高くなるために装置への負荷が大きくなり、固液分離の効率が低下する。一方、グリコール類の濃度が低い場合、即ち水分量が多い場合には、セメントの粉砕工程において、セメントクリンカ、石膏等の一部と水和反応してしまう憂いがあり、また粉砕助剤としての作用を果たし得ないことも生じ得る。このような観点から、廃クーラント液水中のグリコール類の濃度は、粉末状活性炭を添加する前に調整することが好ましく、その場合の廃クーラント液水中のグリコール類の濃度は、15〜55重量%の範囲となるように調整することが好ましく、更には25〜40重量%の範囲となるように調整することが好ましい。
なお、廃クーラント液水中のグリコール類の濃度を所定値に調整する方法としては、上記「活性炭ろ過法」の項において記載したと同様の方法で行なうことができる。
【0024】
粉末状活性炭の添加率は、上記したようにグリコール類の濃度により異なるが、グリコール類の濃度が25〜40重量%であるような廃クーラント液水の場合、廃クーラント液水の重量に対して0.5〜4重量%、より好ましくは1〜3重量%添加することが望ましい。
【0025】
粉末状活性炭を添加した廃クーラント液水は、撹拌することにより十分に粉末状活性炭と廃クーラント液水とを接触させる。廃クーラント液水と粉末状活性炭との接触時間は、10分〜5時間であればよく、好ましくは15分〜2.5時間、より好ましくは30分〜1時間である。接触時間が10分に満たない場合には、セメント物性に悪影響を及ぼす成分の除去が十分ではなく、セメントの品質低下を生じる虞がある。逆に5時間を超えて接触させることとすると、時間あたりの廃クーラント液水の処理量が少なくなり、有効利用を図ることができない。
【0026】
固液分離の方法は特に限定されず、凝集沈殿法、フィルタ法、遠心分離法などを採用することができる。
凝集沈殿法により行なう場合の凝集剤は限定されないが、活性炭がマイナスに帯電しているためカチオン系の高分子凝集剤が好適であり、またノニオン系の高分子凝集剤、或いは硫酸バンド、硫酸鉄などを用いることもできる。高分子凝集剤は、廃クーラント液水の重量に対して15〜50ppm(固形分)添加しながら十分撹拌することで、凝集物を形成させることができる。この凝集物の沈殿は比較的短時間で完了するので、静置後の上澄み液を静かに回収する、或いはろ過を実施することで液体を回収し、該回収した廃クーラント液水をセメントの仕上げ粉砕工程、即ち、セメントクリンカ、石膏等の微粉砕工程における粉砕助剤として使用することができる。
一方、凝集沈殿槽内の下部に沈殿した粉末状活性炭のフロック、或いは脱水ケーキは、回収され、セメント製造用の燃料、即ち、セメントクリンカを焼成するキルンに燃料としてとして用いることができる。
【0027】
なお、上記した廃クーラント液水と粉末状活性炭との接触処理は、連続で行ってもよいし、バッチ式で行ってもよい。
【0028】
上記活性炭ろ過法或いは活性炭添加法による廃クーラント液水と活性炭との接触処理により、廃クーラント液水中のセメント物性に悪影響を及ぼす成分を除去することが出来たか否かは、処理した廃クーラント液水の脱色の程度により容易に判断することができる。
脱色の程度は、目視により処理した廃クーラント液が薄い色の透明なものとなっていれば十分である。より具体的には、490nm付近(±10nm)における吸光度が0.02以下、より好ましくは0.01以下となっていればよい。
【0029】
上記活性炭ろ過法或いは活性炭添加法による廃クーラント液水と活性炭との接触処理がなされた廃クーラント液水は、セメントの仕上げ粉砕工程における粉砕助剤として単独で使用することもできるが、他の一般の粉砕助剤と併用することも可能である。また、その投入方法は、上記処理された廃クークラント液水と一般の粉砕助剤等をそれぞれ別々に投入する方法、または予め混合したものを投入する方法のどちらの方法でも適用可能である。粉砕助剤効果のある物質としては、一般にアルコール類、アミン類、有機酸類、芳香族化合物等の極性のある有機化合物が知られているが、セメントの仕上げ粉砕工程における粉砕助剤としては、粉砕効率を高めるとともに、製造されたセメントの凝結や強度発現性等に悪影響をおよぼさないものである必要があり、一般に、高価なジエチレングリコール、エチレングリコール、トリイソプロパノールアミン等が使用されている。
【0030】
一般の粉砕助剤であるジエチレングリコールと併用する場合の処理された廃クーラント液水の添加量は、50重量%以下であることが好ましく、更には30重量%以下であることが好ましく、より更には20重量%以下であることが好ましい。これは、添加量が50重量%を超える場合は、セメントの強度、凝結等の品質に悪影響を与える虞があるためである。
【0031】
上記方法により処理された廃クーラント液水は、単独で粉砕助剤として用いられる場合、或いは他の粉砕助剤と併用して用いられる場合のいずれも、グリコール類の合計の添加量が、セメントクリンカ、石膏等の粉砕原料に対して好ましくは0.01〜0.3重量%、より好ましくは0.015〜0.1重量%、特に好ましくは0.02〜0.05重量%となる量とする。これは、0.01重量%未満の添加量では、十分な粉砕助剤効果が得られず、0.3重量%を超えて添加すると、得られるセメントの強度、凝結等の品質に悪影響を与える虞があるためである。
【0032】
粉砕されるセメントクリンカの種類は特に限定されるものではなく、JIS R 5210「ポルトランドセメント」に規定の普通、早強、超早強、中庸熱、低熱、耐硫酸塩の各ポルトランドセメントのクリンカ、また、それら以外にも白色セメント、アルミナセメント、エコセメント等のセメントクリンカにも適用できる。
【0033】
本発明で適用可能なセメントクリンカの粉砕用ミルとしては、一般的に用いられているボールミルの他に、チューブミル、ローラーミル等が挙げられる。
【0034】
以上、本発明に係るセメントの製造方法の実施の形態を説明したが、本発明は、何ら既述の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の技術的思想の範囲内において、種々の変形及び変更が可能であることは当然である。
【実施例】
【0035】
次に、本発明の実施例を、比較例と共に記載する。
【0036】
<廃クーラント液水>
使用済みの廃クーラント液水は、廃油収集業者より入手したものであり、廃油収集業者が自動車整備工場の廃クーラント液水の専用回収容器より直接採取したものである。
この廃クーラント液水のポータブルエチレングリコール濃度計によるエチレングリコール濃度は、約30重量%であった。また、その色は緑であった。
<セメントクリンカ>
粉砕原料であるセメントクリンカは、セメント工場より普通ポルトランドセメントクリンカを入手した。このクリンカをジョークラッシャーで粗砕し、さらにトップグラインダーで粉砕した後に篩いを用いて1.2mm全通となるように粒度の調整を行った。
【0037】
<実施例1〜3に用いた廃クーラント液水>
実施例1〜3に用いた廃クーラント液水は、以下の処理を行なったものである。
下部に排出口を設置した内容積30リットルの円筒型の樹脂製容器に、水処理用の粒状活性炭〔栗田工業(株)製のクリコールWG−160、平均粒径1.4mm〕9.5kgを収納し、活性炭充填槽を作製した。この活性炭充填槽の上部より、廃クーラント液水を30リットル/時間(空塔速度1.5hr-1)で定量供給し、下部より滲出した液体を回収し、処理液を得た。
処理液の収率は99容積%以上であった。また、処理液は極薄い黄色で、波長490nmにおける吸光度は0.003(日本分光社製の紫外可視分光光度計V−650−DSにて測定)であった。表1において、この処理を施した廃クーラント液水を、「活性炭ろ過法処理液」として示す。
【0038】
<実施例4〜6に用いた廃クーラント液水>
実施例4〜6に用いた廃クーラント液水は、以下の処理を行なったものである。
上部が開口した内容積300リットルの樹脂製容器に廃クーラント液水200リットルを入れ、水処理用の粉末状活性炭〔栗田工業(株)製のクリコールW−710、平均粒径30μm〕2kg(1重量%)を添加し、15分間撹拌した後、1時間静置した。静置後、再び撹拌しながら強カチオン系高分子凝集剤(MTアクアポリマー社製のアロンフロックC508U、0.2%水溶液)4kgを定量供給機より添加した。粉末状活性炭のフロックが沈殿し始めた時点で撹拌操作を停止し、懸濁液をろ布で固液分離することで処理液を得た。
処理液の収率は88容積%であった。また、処理液は極薄い黄色で、波長490nmにおける吸光度は0.004(日本分光社製の紫外可視分光光度計V−650−DSにて測定)であった。表1において、この処理を施した廃クーラント液水を、「活性炭添加法処理液」として示す。
【0039】
<セメントクリンカの粉砕>
工場より入手し、粒度の調整を行なった上記普通ポルトランドセメントクリンカのSO3濃度が0.93重量%であったことから、石膏を添加して混合粉砕したセメント中のSO3濃度が2重量%となるように、クリンカ5000gに対して石膏120gを添加した粉砕原料とした。なお、石膏には、排煙脱硫二水石膏を使用した。
【0040】
上記粉砕原料を、内径が約400mm、長さが約450mm、粉砕媒体量が約55kgのボールミルに収納し、粉砕後のブレーン比表面積が3300±100cm2/gとなるように下記の種々の粉砕助剤を用いて混合粉砕した。粉砕媒体には、φ20mmの鋼球ボールを使用し、粉砕時間は、表1に示した時間であった。
粉砕助剤は、上記処理を行なった廃クーラント液水を、一般的に使用されているジエチレングリコール(DEG)に表1に示した種々のDEG代替率で混合したものを用いた(実施例1〜6)。なお、DEG代替率は、廃クーラント液水に由来するグリコール類の重量割合をもって示した。
また、比較のため、一般的に使用されているジエチレングリコール(DEG)のみを粉砕助剤として用いたもの(比較例1)、また、廃クーラント液水を何ら処理することなく、表1に示した種々のDEG代替率で混合したものを用いたもの(比較例2〜4)についても行なった。
粉砕助剤の添加量は、いずれの場合も、グリコール類が同一の質量(0.029重量%)なるように粉砕原料に添加した。
【表1】

【0041】
<セメント製品の品質>
上記実施例及び比較例の粉砕により得られたセメント製品を用い、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に従ってモルタルを作製し、凝結試験、及び強度試験を実施した。表2にその品質試験結果を示す。
【表2】

【0042】
<試験結果>
まず、従来より粉砕助剤として使用されているジエチレングリコール(DEG)を粉砕助剤として用いたセメント製品の性状(比較例1)と、未処理の廃クーラント液水を混合したもの(比較例2〜4)とを比較する。
代替率20%までであれば、凝結特性及び材齢28日圧縮強さともに遜色のないものであった。ところが、材齢3日及び7日の圧縮強さは約5%程度劣るものであった。特に、代替率が50%及び100%になると、凝結の遅延及び初期の強度発現性の低下は明瞭であった。
一方、本発明の活性炭との接触処理を施した廃クーラント液水を用いたものにあっては、代替率50%までであれば(実施例1、2、4及び5)凝結特性及び強度発現性ともに、ジエチレングリコール(DEG)により得られたセメント製品の品質と何ら遜色ないものであった。代替率100%であっても(実施例3及び6)強度発現性がやや低下するものの、未処理の廃クーラント液水よりも凝結の遅延も抑制され、セメント製品の品質は規格を満足するものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカ、石膏等を微粉砕するセメントの仕上げ粉砕工程において、活性炭との接触処理を行った廃クーラント液水を、上記セメントの仕上げ粉砕工程における粉砕助剤として使用することを特徴とする、セメントの製造方法。
【請求項2】
上記廃クーラント液水の活性炭との接触処理が、粒状活性炭の充填層に廃クーラント液水を通液することにより行なわれることを特徴とする、請求項1に記載のセメントの製造方法。
【請求項3】
上記廃クーラント液水の活性炭との接触処理が、粉末状活性炭を廃クーラント液水に添加し、その後固液分離することにより行なわれることを特徴とする、請求項1に記載のセメントの製造方法。
【請求項4】
上記廃クーラント液水を活性炭に接触させる前に、廃クーラント液水中のグリコール類の濃度を15〜55重量%に調整することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のセメントの製造方法。
【請求項5】
上記廃クーラント液水中のグリコール類の濃度を25〜40重量%に調整し、該グリコール類の濃度を調整した廃クーラント液水を粒状活性炭の充填層に空塔速度0.1〜4hr-1で通液することを特徴とする、請求項2に記載のセメントの製造方法。
【請求項6】
上記廃クーラント液水中のグリコール類の濃度を25〜40重量%に調整し、該グリコール類の濃度を調整した廃クーラント液水に粉末状活性炭を0.5〜4重量%添加することを特徴とする、請求項3に記載のセメントの製造方法。
【請求項7】
上記活性炭との接触処理を行った廃クーラント液水をジエチレングリコールに50重量%以下の割合で代替し、それをセメントの仕上げ粉砕工程における粉砕助剤として使用することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のセメントの製造方法。

【公開番号】特開2012−197204(P2012−197204A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63027(P2011−63027)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】