説明

セメント中の高炉水砕スラグ微粉末混合量の推定方法

【課題】セメント中の高炉水砕スラグ微粉末混合量を、簡単な操作で、かつ迅速に推定可能な方法を提供することを課題とする。
【解決手段】高炉水砕スラグ微粉末が混合されたセメントに、常温で不揮発性の酸を添加し、酸の添加によって生成した硫化水素を定量することによって、生成した硫化水素とセメント中の高炉水砕スラグ微粉末量との相関関係に基づき、セメント中の高炉水砕スラグ微粉末量を推定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉セメント中の高炉水砕スラグ微粉末の混合量を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉スラグは、鉄鋼業の銑鉄製造工程において発生するものであり、高炉内に鉄鉱石、コークス、石灰石等の原料を装入し熱風を送ることで鉄鉱石を還元させ、溶銑及び溶融スラグとなって炉底に溜まったものを、密度差(溶銑:約7、溶融スラグ:2.6〜2.7)によって分離、回収したものである。通常は、溶銑1tに対し約300kgの高炉スラグが発生する。
【0003】
高炉スラグは、水で急冷した高炉水砕スラグと除冷した高炉除冷スラグの2種類に分類され、水で急冷した高炉水砕スラグは、水酸化カルシウム等の強アルカリ性物質あるいは石膏等の硫酸塩との共存下で水和反応をする潜在水硬性を有し、またセメントに混合した場合、耐海水性等のセメント硬化体の物性を向上させるため、ブレーン比表面積4000cm2/g程度に微粉砕して、主にポルトランドセメント用の混和材料として利用されている。
【0004】
日本工業規格JIS R 5211「高炉セメント」には、ポルトランドセメントに対する高炉水砕スラグ微粉末の混合量によってA種(5%を超え30%以下)、B種(30%を超え60%以下)、C種(60%を超え70%以下)が規定されており、日本国内ではB種の生産量が最も多い。また、日本工業規格JIS R 5210「ポルトランドセメント」の規定で普通ポルトランドセメントに限っては、5%を上限として品質に影響が及ばない範囲で高炉水砕スラグ微粉末、フライアッシュ、セメント製造用石灰石微粉末のいずれかを混合することが認められている。
【0005】
また日本工業規格JIS R 6206「コンクリート用高炉スラグ微粉末」には、粉末度によって4000cm2/g、6000cm2/g、8000cm2/gの3種が規定されている。高炉スラグ微粉末を混合したセメントを用いたコンクリートの物性は、使用したポルトランドセメント及び高炉スラグ微粉末の物性の影響を受けるばかりでなく、スラグ含有量によっても大きく異なる。したがって、高炉スラグ微粉末を含むセメントの製造における品質管理や、コンクリート打設後のコンクリート構造物中の未反応高炉スラグの含有量を把握しておくことは非常に重要である。
【0006】
セメント中の高炉スラグ微粉末が所定量混合されているかどうかを確認するための定量方法には、溶解法(酢酸法、塩化アンモニウム−アンモニア法、サリチル酸−アセトン−メタノール法、NaOH−Na2HPO4−EDTA−トリエタノールアミン法等)、顕微鏡法、重液分離法、磁気分離法又は機器分析法(XR Emission法、粉末X線回折法、熱分析法、測色法、赤外法)等がある。
【0007】
しかし、顕微鏡法は、試料の分散の程度や測定者の熟練度により、結果に個人差が出やすい方法であり、また、重液分離法は、セメントから純粋なスラグ部を分離することはかなり困難であり、多くの労力と熟練が必要である。また、磁気分離法は、得られたスラグリッチ画分に含まれる粒子は、化学組成的に偏った組成のスラグである可能性が大きく、誤差の原因となり、この方法も、また、高い熟練度を要し、個人差が出やすい測定方法である。
【0008】
そこで、上記のような種々の問題点を解決するために、たとえば下記特許文献1のようなスラグの定量方法に関する特許出願がなされている。この特許文献1に係る発明は、当該特許文献1の請求項1にも記載されているように、「セメント組成物を、サリチル酸アセトンメタノール溶液に溶解し、次いで、不溶残渣分をKOHサッカロース溶液に溶解し、残った不溶残渣分をアンモニウムに溶解する、3種類の選択溶解を順次実施して、得られた不溶残渣分量からスラグ量を求めることを特徴とする、スラグの定量方法。」に関するものであり、当該特許文献1の明細書の段落[0010]には、「高炉スラグ微粉末を混合したセメント組成物中のスラグ含量を、簡単な操作で、かつスラグ含有率を正確に定量できる方法、及び高炉スラグ微粉末を混合したセメント硬化体中における未反応スラグを簡単な操作で、かつスラグ含有率を正確に定量できる方法を提供すること」が課題であることが記載されている。
【0009】
しかしながら、この特許文献1に記載された技術は、精度は良いが極めて煩雑で多くの時間と熟練操作を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−284313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、セメント中の高炉水砕スラグ微粉末混合量を、簡単な操作で、かつ迅速に推定可能な方法を提供することを課題とする。また、本発明の他の課題は、特別な装置あるいは測定者の熟練を必要とせず、工場あるいは工事現場等における日常的な品質確認に有効なセメント中の高炉水砕スラグ微粉末混合量の推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記のような課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、セメント中の高炉水砕スラグ微粉末混合量と、当該セメントに常温で不揮発性の酸を加えた際に生成する硫化水素のガス濃度の間に相関関係があり、この硫化水素のガス濃度を定量することによって、当該セメント中の高炉水砕スラグ微粉末混合量を簡便かつ迅速に推定することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、高炉水砕スラグ微粉末が混合されたセメントに、常温で不揮発性の酸を添加し、酸の添加によって生成した硫化水素を定量することによって、生成した硫化水素とセメント中の高炉水砕スラグ微粉末量との相関関係に基づき、セメント中の高炉水砕スラグ微粉末量を推定することを特徴とするセメント中の高炉水砕スラグ微粉末混合量の推定方法を提供するものである。
【0014】
常温で不揮発性の酸としては、たとえば硫酸若しくはリン酸、又は硫酸及びリン酸を混合した混酸等を使用することができる。硫化水素の定量方法としては、ガス検知管を用いる方法等を採用することができる。さらに、生成した硫化水素とセメント中の高炉水砕スラグ微粉末量との相関関係は、たとえば高炉水砕スラグ微粉末が混合されていないセメントに、それぞれ異なる量の高炉水砕スラグ微粉末を順次添加し、該異なる量の高炉水砕スラグ微粉末が添加されたセメントに、常温で不揮発性の酸を添加して生成した硫化水素を順次定量することにより検量線を作成し、そのような検量線によって上記生成硫化水素とセメント中の高炉水砕スラグ微粉末量との相関関係を設定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、これまでの方法では多くの時間及び費用が必要であったセメント中の高炉水砕スラグ微粉末量の簡便かつ迅速な推定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】高炉水砕スラグ微粉末の混合率と硫化水素濃度との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、上述のように、高炉水砕スラグ微粉末が混合されたセメントに、常温で不揮発性の酸を添加し、酸の添加によって生成した硫化水素を定量することによって、生成した硫化水素とセメント中の高炉水砕スラグ微粉末量との相関関係に基づき、セメント中の高炉水砕スラグ微粉末量を推定する方法である。
【0018】
常温で不揮発性の酸としては、たとえば硫酸若しくはリン酸、又は硫酸及びリン酸を任意の比率で混合した混酸等を使用することができる。このような酸は、セメントに対して過剰に添加して当該セメント中の高炉水砕スラグ微粉末を完全溶解させることができる。
【0019】
硫化水素の定量方法としては、たとえばガス検知管を用いることができる。さらに、常温で不揮発性の酸を添加して生成させた硫化水素ガスの濃度と、高炉水砕スラグ微粉末が混合されていないセメント、及び該高炉水砕スラグ微粉末に、それぞれ個別に常温で不揮発性の酸を添加して生成させた硫化水素ガスの濃度とを比較することもできる。
【0020】
高炉スラグ微粉末混合量の推定の対象となるセメントとしては、日本工業規格JIS R 6206に規定された高炉スラグ微粉末が混合された任意のセメント、たとえば日本工業規格JIS R 5210に規定されている普通、中庸熱、低熱、早強、超早強、耐硫酸塩の各種ポルトランドセメント、日本工業規格JIS R 5211に規定されている高炉セメントのA種、B種、C種、日本工業規格JIS R 5212に規定されているシリカセメントのA種、B種、C種、日本工業規格JIS R 5213に規定されているフライアッシュセメントのA種、B種、C種、日本工業規格JIS R 5210に規定されている各種エコセメント、日本工業規格JIS R 2511に規定されているアルミナセメント、あるいは日本工業規格JIS A 6207に規定された「コンクリート用シリカフューム」又は日本工業規格JIS A 6207に適合しないが、ポゾラン活性に富んだシリカ質微粉末(たとえば、電融ジルコニア製造時に副生されるシリカ質微粉末等)を混合した各種シリカフューム混合セメント(JIS規格は制定されていない)、軟弱地盤改良用の各種セメント系固化材(JIS規格は制定されていない。主に普通ポルトランドセメントに高炉水砕スラグ微粉末及び石膏等を混合して製造されている)等に適応することができる。
【0021】
高炉水砕スラグは、製鋼用コークスその他の原料由来の硫黄を三酸化硫黄(SO3)の形態以外に硫化カルシウム(CaS)の形態で一定量含有している。そのため、高炉水砕スラグに酸を加えると、硫化水素(H2S)を生成する。
【0022】
試料セメント溶解用の酸としては、常温(25℃)で不揮発性の硫酸若しくはリン酸、又は硫酸及びリン酸を任意の比率で混合した混酸等を用いることができる。硫酸は一般的な工業用の硫酸を使用することができ、たとえば濃度約97%(約18mol/L)の濃硫酸を蒸留水(純水)で3〜9mol/Lに希釈して使用するのが好ましい。リン酸は一般的な工業用のリン酸が使用でき、たとえば濃度約85%(約15mol/L)の濃リン酸を蒸留水(純水)で3〜9mol/Lに希釈して使用するのが好ましい。あるいは、前述の硫酸及びリン酸を任意の比率で混合した混合酸を蒸留水(純水)で3〜9mol/Lに希釈したものを使用するのが好ましい。これらの酸は、セメント中に混合されている高炉水砕スラグ微粉末を完全に溶解させ、硫化水素ガスを生成させるためセメントに対して過剰となるように添加することが好ましい。
【0023】
なお、硝酸、塩酸、過塩素酸、フッ化水素酸等の常温で揮発性の酸は、揮発成分が人体あるいは周辺環境に有害であり、取り扱い時の危険性が高く、また硫化水素ガス用検知管に封入された薬剤(酢酸鉛、硫酸銅、塩化第二水銀)と反応して、硫化水素を正しく定量できなくなるため使用することができない。また有機酸は、セメント中に含有される高炉水砕スラグ微粉末に対する溶解力が弱く、さらに酢酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等のカルボン酸は、硫化水素と反応してジチオカルボン酸を生成して硫化水素を正しく定量できなくなるため使用することができない。
【0024】
ところで、一般的な硫化水素の定量方法は、メチレンブルー吸光光度法あるいはガスクロマトグラフ法で行われており、特に排ガス中に含まれる硫化水素の定量方法は、日本工業規格JIS K 0108において、硝酸銀電位差滴定法、イオン電極法、メチレンブルー吸光光度法、ガスクロマトグラフ法が規定されている。電位差滴定法では、吸収液に吸収後、硝酸銀メタノール溶液を用いて電位差滴定を行う。イオン電極法では、硫化物イオン電極を用い電位差測定分析法で定量する。吸光光度法では、吸収液に吸収後、p−アミノジメチルアニリンと塩化鉄(III)とを加え、生成したメチレンブルーの吸光度を測定する(定量範囲は5〜1000ppm)。ガスクロマトグラフ法では、炎光光度検出器又は熱伝導度検出器を備えた装置で定量する(定量範囲は前者を用いた場合0.05〜3ppm)。なお、悪臭防止法の規定では、冷媒に液体酸素(沸点−183℃)を用いて低温濃縮を行った後、検出器にFPD(炎光光度検出器)を用いたガスクロマトグラフで分析することとなっている。
【0025】
しかしながら、上記の分析方法は、いずれも高価な分析機器を使用し、また定量操作に専門知識及び熟練が必要となるため。工場あるいは工事現場等において迅速かつ簡便に使用することは極めて困難である。
【0026】
したがって、高価な分析装置及び高度な知識あるいは熟練を必要としないようにする観点からは、極めて安価で簡便なガス検知管を用いて硫化水素を定量することが望ましい。硫化水素用ガス検知管は、市販品を使用でき、ガラス管に封入された薬剤の種類が、酢酸鉛(硫化水素と反応すると硫化鉛が生成する反応を利用:白色→黒褐色)、硫酸銅(硫化水素と反応すると硫化銅を生成する反応を利用:白色又は淡緑色→こげ茶色)、塩化第二水銀(硫化水素と反応すると塩化水素を生成する反応を利用:指示薬が黄色→桃色)のいずれであっても使用できる。検知管の硫化水素の測定範囲は、サンプル量及び使用する容器の内容積(生成する硫化水素ガスが容器からオーバーフローする濃度)に対応する任意のものを使用することができ、測定範囲が数ppmから数百ppmあるいは数ppmから数%のものが好ましい。
【0027】
本発明による推定方法は、上記のように、生成した硫化水素とセメント中の高炉水砕スラグ微粉末量との相関関係に基づき、セメント中の高炉水砕スラグ微粉末量を推定する方法であり、たとえば高炉水砕スラグ微粉末が混合されていないセメントに、それぞれ異なる量の高炉水砕スラグ微粉末を順次添加し、該異なる量の高炉水砕スラグ微粉末が添加されたセメントに、常温で不揮発性の酸を添加して生成した硫化水素を順次定量することにより検量線を作成し、そのような検量線によって上記生成硫化水素とセメント中の高炉水砕スラグ微粉末量との相関関係を設定することができる。
【0028】
より詳細には、推定したい高炉水砕スラグ微粉末の混合されたセメントの原料であるセメント及び高炉水砕スラグ微粉末をそれぞれ単体で酸で溶解して、生成する硫化水素濃度を測定する。次にセメントに対して5%乃至10%ずつ高炉水砕スラグ微粉末を混合した試料を数点調製し、それぞれ同一条件で酸で溶解して、生成する硫化水素濃度を測定する。こうして高炉水砕スラグ微粉末の混合量をX軸に、硫化水素濃度をY軸にプロットしたX軸−Y軸のグラフを作成し、高炉水砕スラグ微粉末の混合量と硫化水素濃度の関係式(検量線)を求めることで、未知のセメント中の高炉水砕スラグ微粉末量をその硫化水素濃度から推定することが可能となる。
【0029】
このように高炉水砕スラグ微粉末の混合率が未知の高炉セメントであっても、あらかじめセメントに使用した高炉水砕スラグ微粉末のサンプルが残っていれば、不揮発性の酸で溶解した時に発生する硫化水素濃度を測定することによって、混合量を推定することが可能となる。
【0030】
セメントを酸で溶解させる容器は、硫化水素ガスを吸着しない材質であれば、硬質ガラス(ホウケイ酸ガラス)、石英(シリカ)ガラス、テフロン(ポリテトラフルオロエチレン)等の任意のものを使用できるが、安価で入手の容易な硬質ガラス製のものが好ましく、例えば三角フラスコのように栓(蓋)を用いて密閉しやすい形状の容器が良い。容器の容量は任意であるが、使用する酸の消費量を抑えるため100mL程度が好ましい。前記のセメントを酸で溶解させる容器の蓋(栓)の材質も、硫化水素ガスを吸着しない材質であれば任意のものを使用できるが、ガラス検知管挿入用の孔を開け易く、かつ気密性の高いシリコンゴム製の蓋(栓)が好ましい。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
本実施例では、試製高炉セメント中の高炉水砕スラグ微粉末混合量を推定した。
【0032】
先ず、試料として、混合材無添加の普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社製:ブレーン比表面積=3400cm2/g)を準備した。また、高炉水砕スラグ微粉末としては、愛知県産、ブレーン比表面積=4500cm2/gのものを準備した。
【0033】
さらに、硫酸としては、関東化学株式会社製の特級試薬硫酸(濃度97%、18mol/L)に蒸留水を加えて6mol/Lに調整したものを用い、リン酸としては、関東化学株式会社の特級試薬リン酸(濃度85%、14.8mol/Lに蒸留水を加えて6mol/Lに調整したもの)を用いた。また、水には蒸留水を用いた。
【0034】
硫化水素の定量を行うに際しては、100mL三角フラスコ、シリコンゴム栓、硫化水素用ガス検知管を用いた。100mL三角フラスコには、ホウケイ酸ガラス製のものを用いた。またシリコンゴム栓は、中心部に直径4mmの孔を開け、ガス検知管を貫通挿入できるように加工して100mL三角フラスコ用としたものを用い、ガス検知管のガス入口側をシリコンゴム栓側になるように挿入した。硫化水素用ガス検知管としては、光明理化学工業株式会社製の北川式ガス検知器用120SB(測定範囲=1〜150ppm)を用いた。
【0035】
100gの上記混合材無添加の普通ポルトランドセメントに対して、混合率(置換率)が0%、5%、10%、20%、40%、60%、80%、100%になるように高炉水砕スラグ微粉末を加えて、空気を入れて膨らませて口を閉じた内容量約1リットルの清浄なビニール袋の中で十分に攪拌混合した検量線作成用の試料を8種準備した。この検量線用試料1gを正確に量りとって100mL三角フラスコに入れ、蒸留水40mLを加えて十分に攪拌して懸濁液とした。
【0036】
6mol/Lの硫酸10mLをフラスコ内の懸濁液に加えた後、硫化水素用ガス検知管を挿入したシリコンゴム栓を用いて三角フラスコを閉栓し、試料が酸に十分に溶解するように三角フラスコを軽く攪拌してから、5分間常温で静置し、検知管の薬剤変色量から三角フラスコ上部からオーバーフローした硫化水素の濃度を読み取った。硫化水素の濃度の測定結果を次表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1からも明らかなように、硫化水素濃度は高炉水砕スラグの混合率の増加に伴って上昇した。
【0039】
(実施例2)
上記実施例で用いた硫酸に代えてリン酸を用い、上記実施例1と同様の操作により硫化水素の濃度を測定した。その測定結果を次表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表1からも明らかなように、硫化水素濃度は高炉水砕スラグの混合率の増加に伴って上昇し、また、その濃度測定値は実施例1と同じであった。
【0042】
(実施例3)
上記実施例1及び実施例2の結果に基づいて図1に示すような検量線を作成したところ、以下のような関係式が得られた。xは未知試料を酸溶解した時の硫化水素濃度(ppm)、yは未知試料中の高炉水砕スラグ微粉末混合量(%)である。

y=0.7823x−0.6789 ・・・(1)

【0043】
上記(1)式を変形すると

x=(y+0.6789)/0.7823 ・・・(2)
【0044】
一方、試製高炉セメントB種(ブレーン比表面積=4000cm2/g、混合材無添加の前記普通ポルトランドセメントに対して高炉水砕スラグ微粉末を50%混合したもの)を準備した。これを推定対象試料として、その1gを正確に量りとって100mL三角フラスコに入れ、蒸留水40mLを加えて十分に攪拌して懸濁液とした。6mol/Lの硫酸又はリン酸10mLをフラスコ内の懸濁液に加えた後、硫化水素用ガス検知管を挿入したシリコンゴム栓を用いて三角フラスコに蓋をし、サンプルが酸に十分に溶解するように三角フラスコを軽く攪拌してから、5分間常温で静置し、検知管の薬剤変色量から三角フラスコ上部からオーバーフローした硫化水素の濃度を読み取った結果、硫酸又はリン酸を使用した場合、いずれも40ppmであった。この値を(2)式に代入することで、高炉水砕スラグ混合率の推定値が得られた。その結果を表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
表3からも明らかなように、6mol/L硫酸及び6mol/Lリン酸のいずれの場合も硫化水素濃度は40ppmであり、その硫化水素濃度から高炉スラグ微粉末混合率の推定値が52%であることを求めた。
【0047】
一方、上記推定対象試料の高炉セメントB種は、高炉水砕スラグ微粉末を50%混合したものであり、上記(2)式から求めた推定値である52%が、実際の混合量にほぼ合致していることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉水砕スラグ微粉末が混合されたセメントに、常温で不揮発性の酸を添加し、酸の添加によって生成した硫化水素を定量することによって、生成した硫化水素とセメント中の高炉水砕スラグ微粉末量との相関関係に基づき、セメント中の高炉水砕スラグ微粉末量を推定することを特徴とするセメント中の高炉水砕スラグ微粉末混合量の推定方法。
【請求項2】
酸が硫酸若しくはリン酸、又は硫酸及びリン酸を混合した混酸である請求項1記載のセメント中の高炉水砕スラグ微粉末混合量の推定方法。
【請求項3】
硫化水素の定量を、ガス検知管によって行う請求項1又は請求項2記載のセメント中の高炉水砕スラグ微粉末混合量の推定方法。
【請求項4】
高炉水砕スラグ微粉末が混合されていないセメントに、それぞれ異なる量の高炉水砕スラグ微粉末を順次添加し、該異なる量の高炉水砕スラグ微粉末が添加されたセメントに、常温で不揮発性の酸を添加して生成した硫化水素を順次定量することにより検量線を作製し、該検量線によって、生成した硫化水素とセメント中の高炉水砕スラグ微粉末量との相関関係が設定される請求項1乃至3のいずれかに記載の高炉水砕スラグ微粉末混合量の推定方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−75456(P2011−75456A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228746(P2009−228746)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】