説明

セメント凝結促進剤およびそれを用いた吹付け材料、吹付け工法

【課題】アルミニウムイオンや硫酸イオンの溶出がなく環境にやさしく、さらに、優れた凝集特性が得られ、初期の強度発現性に優れたセメント凝結促進剤およびそれを用いた吹付け材料、吹付け工法を提供する。
【解決手段】
(1)ポリシリカ鉄を含有するセメント凝結促進剤であり、(2)ポリシリカ鉄のSiO/Feモル比が0.2〜3.0である(1)のセメント凝結促進剤であり、(3)セメントと(1)または(2)のセメント凝結促進剤を含有する吹付け材料であり、(4)さらに、カルシウムアルミネート類を含有する(3)の吹付け材料であり、(5)(3)又は(4)の吹付け材料を用いることを特徴とする吹付け工法、である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木・建築業界で使用されるセメント組成物に関するもので、特に、吹き付けて施工するコンクリート構造物の補修用途および建設用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリシリカ鉄(化学式:〔SiO・〔Fe〕)は、近年、水処理用に開発された凝集剤であり、従来の水処理用途で使用しているPACや硫酸アルミニウムなどのアルミニウム系凝集剤よりも、アルミニウムによる人体への影響がなく、農地を還元する際のリン欠乏症を引き起こすといった問題点もない。
【0003】
硫酸アルミニウムを含む急結剤は、モルタルやコンクリートを瞬時に凝集させる作用があるためトンネルの吹付けコンクリート(特許文献1、4参照)、コンクリート構造物の吹付け断面修復材(特許文献2、3、5参照)などに利用されている。しかし、硫酸アルミニウムは、モルタルやコンクリートを瞬時に凝集させる能力は高いが、その直後からの強度発現の伸びは、カルシウムアルミネートを基材とする粉体急結剤に比べ小さいため、厚く吹き付けすぎると吹付け直後にコンクリートがはく落する場合があった。また、水溶性であるため排水中へのアルミニウムイオンや硫酸イオンの溶出量が増加し生態系への影響も懸念されている。硫酸アルミニウムを含む急結剤は、急結力をより高めるためにさらに高い固形分濃度にする場合が多く、気温の変化によって貯蔵安定性が低下し析出物が発生し、圧送配管内の閉塞等のトラブルの危険性を招く確率が高いなどの課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−55021号公報
【特許文献2】特開2005−104826号公報
【特許文献3】特開2006−327865号公報
【特許文献4】特開2007−55831号公報
【特許文献5】特開2009−256121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、液状でアルミニウム塩を含まないセメント凝結促進剤を適用することで、アルミニウムイオンや硫酸イオンの溶出がなく環境にやさしく、さらに、優れた凝集特性が得られ、初期の強度発現性に優れたセメント凝結促進剤およびそれを用いた吹付け材料、吹付け工法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、(1)ポリシリカ鉄を含有するセメント凝結促進剤であり、(2)ポリシリカ鉄のSiO/Feモル比が0.2〜3.0である(1)のセメント凝結促進剤であり、(3)セメントと(1)または(2)のセメント凝結促進剤を含有する吹付け材料であり、(4)さらに、カルシウムアルミネート類を含有する(3)の吹付け材料であり、(5)(3)又は(4)の吹付け材料を用いることを特徴とする吹付け工法、である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のセメント凝結促進剤および吹付け材料を用いることで、低粉じんで、アルミニウムイオンや硫酸イオンの溶出がなく、環境にやさしい吹付け施工を実現でき、優れた凝集特性が得られ、初期の強度発現性に優れた吹付け施工ができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
なお、本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【0009】
本発明のポリシリカ鉄を含有するセメント凝結促進剤とは、ポリシリカ鉄単体からなる水溶液(製造過程で生成した未反応物を含む)あるいはポリシリカ鉄以外に添加剤を含む水溶液のことであり、セメント組成物に瞬時に凝集作用を示すものである。
ポリシリカ鉄水溶液の製造方法は、例えば、ケイ酸ソーダと硫酸を反応させ、さらに塩化第二鉄を加え反応させる方法が挙げられる。固形分濃度としては鉄と酸化ケイ素の含有割合によってことなるが4〜12質量%に調整される。ポリシリカ鉄固形分以外の成分は水が基本であるが、ポリシリカ鉄水溶液の安定性に支障がない範囲および凝結性状や強度発現性などに影響がない範囲で、各種添加物が混入されていてもよい。
【0010】
添加剤としては、特に限定されるものではないが、セメントの凝結促進作用を助長させたり強度発現を促進する添加剤、水溶液の粘度を調整したり安定性を向上させる添加剤などが挙げられる。具体的には、セメントの凝結を促進するものや、強度発現性を促進するものであり、アルカリ金属の硫酸塩、硝酸塩、フッ化物や、カルボン酸やオキシカルボン酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩、アルカリ土類金属の硝酸塩、アミン類、コロイダルシリカなどが挙げられ、これらを2種以上併用して使用してもよい。
水溶液の粘度を調整し安定性を向上させる添加剤としては、メチルセルロースやヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロースエーテル類、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール類、アクリルアミド類、アルギン酸塩類、カルボン酸やオキシカルボン酸などが挙げられ、これらを2種以上併用して使用してもよい。
【0011】
本発明のポリシリカ鉄を含有するセメント凝結促進剤の水溶液のpHは、本発明のポリシリカ鉄1%水溶液としたとき、1〜5が好ましく、凝結性能上2〜3がより好ましい。1未満では強度発現を阻害する場合があり、5を越えると溶液の安定性が低下する場合がある。
本発明のポリシリカ鉄を含有する凝結促進剤の水溶液の粘度は、特に限定するものではないが、1〜10mPa・Sであればよい。あまり粘度が高すぎると安定性が低下する場合がある。
本発明のポリシリカ鉄を含有する凝結促進剤の水溶液のSiO/Feモル比は、溶液の安定性や凝結特性の点で0.2〜3.0が好ましく、0.25〜2.0がより好ましい。0.2未満では、初期の強度発現性が小さくなる場合があり、3.0を越えると、凝集力が低下する場合がある。また、水溶液のFe濃度は0.7%〜4.3%、SiO濃度は0.9%〜2.3%が好ましい。
【0012】
本発明で使用するセメントとは、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱などの各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、またはシリカを混合した各種混合セメント、ブレーン比表面積で2000cm/g以上の石灰石粉末や高炉徐冷スラグ微粉末などを混合したフィラーセメント、ならびに、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰を原料として製造された環境調和型セメント(エコセメント)などのポルトランドセメントが挙げられる。これらのうちの1種又は2種以上が使用可能である。
また、これらセメント類に、通常市販されているものが使用できる。たとえば、アルミナセメント1号、アルミナセメント2号(特徴として1号より鉄分が多い)、フォンデュ(特徴として2号よりさらに鉄分が多い)を1種又は2種以上併用してもよい。
【0013】
本発明の凝結促進剤を含む吹付け材料は、骨材を含まないペーストとして使用してもよく、骨材を含むモルタルやコンクリートとして使用できる。
本発明の凝結促進剤の使用量は、セメント100部に対して、溶液として0.5〜15部が好ましく、2〜10部がより好ましい。0.5未満では十分な凝結作用を付与することができない場合があり、15部を越えると、凝結促進剤に含有する水が水/セメント比を増加させることで長期強度発現性が大きく低下する場合がある。
【0014】
本発明のカルシウムアルミネート類とは、CaO原料やAl原料を混合したものをキルンで焼成したり、電気炉等で溶融したり等の熱処理をして得られるカルシウムアルミネート、また、その他の成分として、ナトリウム、カリウム、及びリチウム等のアルカリ金属塩が一部固溶したカルシウムアルミネート、SiOを含有するカルシウムアルミネート、SOを含有するカルシウムアルミネートなどが挙げられる。これらの中では、反応活性の点で非晶質のカルシウムアルミネートが好ましい。
カルシウムアルミネートの粒度はブレーン値で3000cm/g以上が好ましい。3000cm/g未満だと急結力が低下する場合がある。
本発明のカルシウムアルミネートとセメント凝結促進剤を併用してセメントコンクリートに適用すると、硫酸アルミニウムを主成分とする凝結促進剤を併用したときと異なり、瞬間的な凝集作用が適度に弱まり、配管内への付着物が付着しにくく、脈動も少ない吹付けが可能となる。従って、閉塞等のトラブルも減少する。また、凝集作用が適度に弱まることから、コンクリートとの混合距離を長くすることができるため、混合性の良い急結性吹付けコンクリートを施工することが可能となる。
本発明のカルシウムアルミネート類の使用量は、特に限定するものではないが、セメント100部に対して0.5〜15部が好ましい。
【0015】
本発明の吹付け材料の吹付け工法は、特に限定するものではないが、水を加えて練り混ぜたセメントモルタルやコンクリートをポンプ圧送し、ノズルの手前で本発明の凝結促進剤を合流させて吹き付ける湿式吹付け工法や、ドライな状態でモルタルやコンクリートを圧縮空気で搬送し、ノズル手前で本発明の凝結促進剤を合流させて吹き付ける乾式吹付け工法が可能である。
【0016】
本発明では、施工および硬化体の性能に支障をきたさない範囲で、セメントに、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、セルロースエーテル類、ポリエチレンオキサイド類、多糖類などの増粘剤、消泡剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、セメントの遅延剤、セメントの促進剤、高分子凝集剤、短繊維、ベントナイトなどの粘土鉱物やハイドロタルサイトなどのアニオン交換体などの各種添加剤、ポリマーエマルジョン、γ型ケイ酸ニカルシウムなどを添加することが可能である。また、セメントに予め混和されたものとは別に、高炉スラグ、シリカフューム、フライアッシュなどの水和活性のある無機粉末、無水セッコウ、ニ水セッコウ、半水セッコウなどのセッコウ類、からなる群のうちの1種又は2種以上を併用することが可能である。
【0017】
本発明のセメント凝結促進剤は、吹付け用途以外に使用可能であり、例えば、地盤へ注入あるいは地盤と攪拌し固化させる地盤改良用途、空洞などの隙間を充填する用途などへも適用できる。
【実施例】
【0018】
「実験例1」
セメント100部に対して、砂300部、水50部を加えモルタルを練り混ぜた。練り混ぜたモルタル中のセメント100部に対して、表1に示すポリシリカ鉄を含有するセメント凝結促進剤を3部加え、10秒間モルタルミキサーで練り混ぜ、こわばり状態と圧縮強度を測定した。結果を表1に示す。
【0019】
(使用材料)
セメントa:普通ポルトランドセメント、市販品
砂:ISO規格標準砂、セメント協会品
セメント凝結促進剤(1):SiO/Feモル比0.2、Fe:4.3%、SiO:0.9%の水溶液(pH1.5、粘度1.2mPa・S)
セメント凝結促進剤(2):SiO/Feモル比0.25、Fe:4.0%、SiO:1.1%の水溶液(pH2.2、粘度1.6mPa・S)
セメント凝結促進剤(3):SiO/Feモル比0.5、Fe:2.5%、SiO:1.4%の水溶液(pH2.4、粘度2.8mPa・S)
セメント凝結促進剤(4):SiO/Feモル比0.75、Fe:2.2%、SiO:1.8%の水溶液(pH2.5、粘度4.6mPa・S)
セメント凝結促進剤(5):SiO/Feモル比1.0、Fe:2.0%、SiO:2.2%の水溶液(pH2.7、粘度6.9mPa・S)
セメント凝結促進剤(6):SiO/Feモル比2.0、Fe:1.0%、SiO:2.2%の水溶液(pH3.3、粘度7.2mPa・S)
セメント凝結促進剤(7):SiO/Feモル比3.0、Fe:0.7%、SiO:2.3%の水溶液(pH4.5、粘度7.4mPa・S)
セメント凝結促進剤(8):SiO/Feモル比1.0、Fe:2.0%、SiO:2.2%の水溶液100部に対し硝酸カルシウムを3%溶解させた溶液(pH2.9、粘度7.0mPa・S)
セメント凝結促進剤(9):SiO/Feモル比1.0、Fe:2.0%、SiO:2.2%の水溶液100部に対しポリエチレングリコール(分子量5万)を0.2%溶解させた溶液(pH2.8、粘度120mPa・S)
セメント凝結促進剤(10):SiO/Feモル比0.15、Fe:5.0%、SiO:0.8%の水溶液(pH0.8、粘度1.1mPa・S)
セメント凝結促進剤(11):SiO/Feモル比3.2、Fe:0.6%、SiO:2.1%の水溶液(pH5.1、粘度10.5mPa・S)
セメント凝結促進剤(12):硫酸アルミニウム水溶液、固形分27%、市販品
【0020】
(測定方法)
こわばり状態:凝結促進剤を加える前の練り混ぜたモルタルのJIS R 5201に規定されたフロー値、凝結促進剤を加えた後のモルタルのフロー値を測定し、下記のようにフロー低減率を求めた。
フロー低減率(%)=(1−凝結促進剤を加えた後のモルタルフロー/凝結促進剤を加える前のフロー)×100
フロ−低減率が50%以上の場合は○、30〜50%の場合は△、30%未満の場合は×とした。
圧縮強度:JIS R 5201に準拠して測定した。測定材齢は、1時間、28日。
【0021】
【表1】

【0022】
「実験例2」
実験例1と同様に、セメント100部に対して、標準砂300部、水50部を加えモルタルを練り混ぜた。練り混ぜたモルタル中のセメント100部に対して、セメント凝結促進剤(5)を表2に示すように加え、10秒間モルタルミキサーで練り混ぜ、こわばり状態と圧縮強度を測定した。結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
「実験例3」
市販の吹付け用補修モルタルに水を加えて練り混ぜた。練り混ぜたモルタルをスクイズポンプで圧送し、ノズル手前に設置した合流管より圧縮空気と表3に示す、実験例1で使用したセメント凝結促進剤を補修モルタル中のセメント100部に対し1部となるように導入し、ボックスカルバート内の天井面に吹き付けた。なお、ボックカルバートにはエンジン式発電機を載せ、吹付け中は常に吹付け箇所に微振動がかかるようにした。ノズル吐出口と吹付け面の距離は30cm程度に固定し、さらにノズルを動かさないで吹付けを行い、はく落するまでの厚みと圧縮強度を測定した。圧縮強度試験体はJIS R 5201の型枠に直接吹き付けて採取した。結果を表3に示す。
なお、補修モルタルbについては、ノズル内の付着物の有無および脈動状態を確認した。結果を表4に示す。
【0025】
(使用機械および吹付け条件)
スクイズポンプ:岡三機工社製、OKG−05型
ミキサー:岡三機工社製、ダマカットミキサー2.0型
モルタル圧送距離およびホース径:圧送距離3m、ホース径1.5インチ
ノズル:セメント凝結促進剤の導入管を有するテーパノズル(モルタル入り口1.5インチ、モルタル吐出口0.45インチ、ノズル長さ30cm)、セメント凝結促進剤は圧縮空気でミスト化した状態でコンクリートに導入する方式
モルタル吐出量:0.4m/hr
コンプレッサ−:50馬力、エンジン式
セメント凝結促進剤添加ポンプ:プランジャー式ポンプ
【0026】
(使用材料)
吹付け用補修モルタルa:電気化学工業社製、商品名「スプリードエース」、ポリマーセメントモルタル系、練混ぜ配合(スプリードエース25kgに対し水3.4kg)
吹付け用補修モルタルb:普通ポルトランドセメント100部に対して、0.6〜1.2mmのふるいに留まる珪砂120部、0.15〜0.6mmのふるいに留まる珪砂65部、0.15mmのふるいを通過する珪砂15部、CaO42%を含有するブレーン比表面積5500cm/gの非晶質カルシウムアルミネート7部、無水セッコウ7部からなる急硬性モルタル、本発明のセメント凝結促進剤を添加しないときの硬化時間:30分程度、練混ぜ配合(急硬性モルタル25kgに対し水3.2kg)
【0027】
(試験方法)
配管内の付着物:5分間連続的に吹き付けた後、セメント凝結促進剤の導入管とノズルの接続部を取り外し、ノズル側内部の付着物の有無を確認した。
脈動:ノズルからセメント凝結促進剤を含む圧縮空気とともにモルタルが吐出している状態を観察した。
【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のセメント凝結促進剤および吹付け材料を用いることで、優れた凝集特性が得られ、厚付け性が良好な吹付け施工が可能となり、施工スピードの短縮化を図ることができる。また、初期の強度発現性に優れた吹付け施工ができる。さらに、本発明のセメント凝結促進剤はアルミニウムイオンや硫酸イオンを含まないので、環境にやさしい吹付け施工も実現できる。以上のことから、コンクリート構造物の補修分野、トンネルの吹付けコンクリートへ広範な利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリシリカ鉄を含有するセメント凝結促進剤。
【請求項2】
ポリシリカ鉄のSiO/Feモル比が0.2〜3.0である請求項1記載のセメント凝結促進剤。
【請求項3】
セメントと請求項1または2記載のセメント凝結促進剤を含有する吹付け材料。
【請求項4】
さらに、カルシウムアルミネートを含有する請求項3記載の吹付け材料。
【請求項5】
請求項3または4記載の吹付け材料を用いることを特徴とする吹付け工法。

【公開番号】特開2012−46383(P2012−46383A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190598(P2010−190598)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】