説明

セメント分散剤用重合体組成物およびその製造方法

【課題】少ない添加量でより高度なセメント分散性を発揮し、モルタルやコンクリートなどのセメント組成物に高い流動性を付与すると共に、高い流動性を一定時間安定に保持できる、セメント分散剤用重合体含有組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】特定の構造を有する不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)に由来する繰り返し単位と、特定の構造を有する不飽和カルボン酸系単量体(II)に由来する繰り返し単位とを有する重合体を含む組成物であって、該重合体含有組成物は、特定成分を特定量含む不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物を重合してなるセメント分散剤用重合体含有組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント分散剤用重合体含有組成物およびその製造方法、並びに該重合体含有組成物の原料単量体含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今のコンクリート業界では、コンクリート建造物の耐久性と強度の向上が強く求められ、単位水量の低減が重要な課題である。特に、ポリカルボン酸系のセメント分散剤については、従来のナフタレン系などのセメント分散剤に比べて、高い減水性能を発揮することから、多くの提案がある。
【0003】
従来のポリカルボン酸系のセメント分散剤としては、不飽和カルボン酸系単量体と不飽和アルコール系単量体とを特定の比率で用いて得られた共重合体が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、少ない添加量で高い分散性を示すセメント混和剤用共重合体として、特定鎖長の不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体と不飽和モノカルボン酸系単量体とを重合させて得られる共重合体が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。さらに、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体と不飽和モノカルボン酸系単量体との共重合体をセメント混和剤として用いた際、モルタルやコンクリートなどのセメント組成物に良好な状態を与えるように改善できる共重合体の製造方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平4−68323号公報(第1−2頁)
【特許文献2】特許第3683176号公報(第1−2頁)
【特許文献3】特開2008−106238号公報(第1−4頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、セメント分散剤に用いる共重合体について、高い分散性能が発揮されるように種々の検討が行われている。しかしながら、セメント分散剤に対して、少ない添加量でより高度なセメント分散性を要求する業界ニーズが大きくなってきているのが現状である。すなわち、コンクリート構造物等に対する信頼性や現場における作業性・効率性向上の要望の高まりから、現場作業において高度な分散性を維持できるようにすることが求められていて、これら要求に充分に応えるためにセメント分散剤に対する評価基準が従来よりも厳しいものとなってきている。これに対して、上述したような従来のポリカルボン酸系のセメント分散剤のセメント分散性能は、そのような業界ニーズを満足させるためには必ずしも充分とは言えないものであった。そのため、従来の技術水準においては達成できないような更に優れたセメント分散性能を発揮することができるセメント分散剤が求められるところであった。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、少ない添加量でより高度なセメント分散性を発揮し、モルタルやコンクリートなどのセメント組成物に高い流動性を付与すると共に、高い流動性を一定時間安定に保持できる、セメント分散剤用重合体含有組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、セメント分散剤に好適に用いることができる重合体含有組成物について種々検討し、特定の構造を有する不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体に由来する繰り返し単位と、特定の構造を有する不飽和カルボン酸系単量体に由来する繰り返し単位とを有する重合体を含む組成物に着目した。そして、該重合体含有組成物を得るための重合原料となる不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体を含む組成物において、ポリアルキレングリコール、及び、該不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体における二重結合の位置が転移した異性体の含有量を特定量とすることによって、そのような単量体含有組成物を重合して得られる重合体含有組成物が、優れたセメント分散性能を有し、少ない添加量で高度なセメント分散性を発揮するセメント分散剤として好適に用いることができること、そしてモルタルやコンクリート等のセメント組成物に対して高い流動性を付与すると共に、高い流動性を一定時間後においても安定的に発揮することができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、下記一般式(1);
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、AOは炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表し、mはオキシアルキレン基の平均付加モル数であって、25〜250の数である。)で示される不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)に由来する繰り返し単位と、下記一般式(2);
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子、メチル基または−COOMを表す。ただし、R及びRは、同時に−COOMを表さない。Rは水素原子、メチル基又は−CHCOOMを表す。Rが−CHCOOMのときR及びRは同一若しくは異なって、水素原子又はメチル基を表す。M、M及びMは、水素原子、一価金属、二価金属、アンモニウム又は有機アミンを表す。)で示される不飽和カルボン酸系単量体(II)に由来する繰り返し単位とを有する重合体を含む組成物であって、上記重合体含有組成物は、上記不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)100質量%に対して、ポリアルキレングリコール(A)を1〜5質量%、上記不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)における二重結合の位置が転移した異性体(B)を1〜5質量%含む不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物を重合してなるセメント分散剤用重合体含有組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0013】
本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物は、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)に由来する繰り返し単位と不飽和カルボン酸系単量体(II)に由来する繰り返し単位とを有する共重合体、ポリアルキレングリコール(A)および異性体(B)を含有してなる組成物である。
【0014】
本発明の重合体含有組成物を構成する共重合体としては、上記した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)に由来する繰り返し単位と不飽和カルボン酸系単量体(II)に由来する繰り返し単位の他に、共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位が含まれていてもよく、また、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)における二重結合の位置が転移した異性体(B)に由来する繰り返し単位が含まれていてもよい。
【0015】
本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物は、上記共重合体の他に、ポリアルキレングリコール(A)と、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)における二重結合の位置が転移した異性体(B)を含有してなるが、ポリアルキレングリコール(A)の殆どは、重合原料として用いる不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物中に含まれるポリアルキレングリコール(A)に由来する。一方、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)における二重結合の位置が転移した異性体(B)は、重合性を有した化合物であるため、重合原料として用いる不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物中に含まれる異性体(B)に由来するものであるが、その含有量は、重合原料として用いる不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物中に含まれていた量の3/4程度の量になっていることを見出した。
【0016】
本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物は、ポリアルキレングリコール(A)を不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)100質量%に対して1〜5質量%、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)における二重結合の位置が転移した異性体(B)を不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)100質量%に対して1〜5質量%含む不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物を重合してなるものである。勿論、該不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物には、本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物を構成する上記共重合体におけるもう一方の単量体成分である不飽和カルボン酸系単量体(II)が含まれ、必要により共重合可能な他の単量体が含有される。
【0017】
上記不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物において、ポリアルキレングリコール(A)の含有量は不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)100質量%に対して1〜5質量%、より好ましくは2〜5質量%、更に好ましくは3〜5質量%の範囲である。1質量%未満の少量では、ポリアルキレングリコール(A)の含有量を安定して制御することが困難になると共に、1質量%未満の少量とした時のコストに見合ったセメント分散性の向上効果も期待できない。一方、ポリアルキレングリコール(A)の含有量が5質量%を超える多量の場合には、重合で得られる重合体含有組成物のセメント分散性能が低下する。
【0018】
上記不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物において、異性体(B)の含有量は不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)100質量%に対して1〜5質量%、より好ましくは1〜4質量%、更に好ましくは1〜3.5質量%の範囲である。1質量%未満の少量では、異性体(B)の含有量を安定して制御することが困難になると共に、1質量%未満の少量とした時のコストに見合ったセメント分散性の向上効果も期待できない。さらに、セメント組成物における良好な状態を一定時間安定に保持することができなくなる。この異性体(B)は、前述したように重合性化合物であるため、異性体(B)が重合で得られる上記共重合体中に繰り返し単位として組み込まれることから、共重合体自体のセメント分散特性を改善する作用をするものと推定される。一方、異性体(B)の含有量が5質量%を超える多量の場合には、重合で得られる重合体含有組成物のセメント分散性能が低下する。
【0019】
本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物は、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)100質量%に対するポリアルキレングリコール(A)の含有量をα質量%、異性体(B)の含有量をβ質量%とした時、それらの含有量が、次の式(3)および式(4)を満足する不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物を重合してなることが好ましい。
【0020】
3≦α+0.75×β≦8 (3)
1≦β≦4 (4)
【0021】
異性体(B)の含有量であるβを規制する上記式(4)の意味は、上述したように、重合性化合物である異性体(B)が重合で得られる上記共重合体中に繰り返し単位として組み込まれることによる作用に基づいて、この数値範囲とすることがセメント分散特性の維持から好ましい、というものである。すなわち、βが1未満では、セメント組成物における良好な状態を安定に保持することができなくなり。4を超える多量では、重合で得られる重合体組成物のセメント分散性能が低下することがある。異性体(B)の含有量であるβの好ましい範囲は、1以上で3.5以下である。
【0022】
ポリアルキレングリコール(A)の含有量であるαと異性体(B)の含有量であるβとから算出されるパラメータ値を規制する上記式(3)の意味は、上述したように、重合性化合物である異性体(B)の重合性が低くて、重合原料として用いる不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物中に含まれていた異性体(B)のうち3/4程度の量が未反応のまま残存し、ポリアルキレングリコール(A)と同様に、重合後に得られるセメント分散剤用重合体含有組成物において、未反応で残存した異性体(B)が、積極的にはセメント分散性能に寄与しないことに基づくものである。すなわち、残存する異性体(B)の量である0.75×βとポリアルキレングリコール(A)の量であるαとの合計量は3以上で8以下とすることが好ましいのである。この式(3)で示されたパラメータ値が3未満では、このパラメータ値を安定して達成することが困難になると共に、達成時のコストに見合ったセメント分散性の向上効果も期待できない。一方、この式(3)で示されたパラメータ値が8を超える場合には、重合で得られる重合体含有組成物のセメント分散性能が低下することがある。
上記式(3)におけるパラメータ値の下限値は4とすることが好ましく、また上限値は7とすることが好ましい。
【0023】
上記重合原料の不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物に含まれるポリアルキレングリコール(A)としては、特に限定なく、例えばポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコールを挙げることができ、その重合度は2〜250の物が一般的である。
【0024】
上記重合原料の不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物に含まれる異性体(B)としては、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)における二重結合の位置が転移したものであれば特に制限なく、例えば下記一般式(4);
【0025】
【化3】

【0026】
(式中、nは25〜250の数である。)に示される化合物を挙げることができる。
【0027】
本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物における共重合体を得るために用いられる不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)としては、例えば、3−メチル−3−ブテン−1−オールなどの炭素数5の不飽和アルコールにアルキレンオキシドを25〜250モル付加した化合物などが挙げられる。これらの化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの化合物のうち、3−メチル−3−ブテン−1−オール(イソプレノール)にアルキレンオキシドを25〜250モル付加した化合物が特に好適である。
上記アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどを挙げることができ、2種類以上のアルキレンオキシドを付加させてもよく、その場合、ランダム付加、ブロック付加、交互付加などのいずれでもよい。
【0028】
上述のように、不飽和アルコールにアルキレンオキシドを付加して得られるオキシアルキレン基の平均付加モル数は、25〜250である。平均付加モル数が25未満では、得られる共重合体のセメント分散性やその保持性が低下し、逆に、平均付加モル数が250を超えるものは、重合反応性が低下するだけでなく、アルキレンオキシドの付加反応による合成も難しくなる。それゆえ、オキシアルキレン基の平均付加モル数は、好ましくは30〜200、より好ましくは40〜100、さらに好ましくは50〜75である。
【0029】
上記オキシアルキレン基の炭素数は、2〜18の範囲内であり、好ましくは2〜8の範囲内、より好ましくは2〜4の範囲内である。なお、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)を1種類で用いる場合には、親水性と疎水性とのバランス確保のため、オキシアルキレン基中にオキシエチレン基を必須成分として含むことが好ましく、さらに50モル%以上はオキシエチレン基であることが好ましい。不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)を2種類以上で用いる場合は、いずれか1種類の単量体のオキシアルキレン基中にオキシエチレン基を必須成分として含むことが好ましい。
【0030】
上記不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)の具体例には、ポリエチレングリコールモノ(3−メチル−3−ブテニル)エーテル、ポリエチレンポリプロピレングリコールモノ(3−メチル−3−ブテニル)エーテルなどが挙げられる。
【0031】
本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物における共重合体を得るために用いられる不飽和カルボン酸系単量体(II)としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸などの不飽和ジカルボン酸、およびこれらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩を挙げることができ、これらは単独で用いても2種類以上を併用してもよい。これらの不飽和カルボン酸系単量体(II)のうち、重合性の点から、アクリル酸、マレイン酸、およびこれらの一価金属塩がより好ましい。
【0032】
本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物における共重合体を得るため、必要に応じて用いられる共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸系単量体(II)の例として上述した不飽和ジカルボン酸系単量体と炭素数1〜30のアルコールとのハーフエステルまたはジエステル類;不飽和ジカルボン酸系単量体と炭素数1〜30のアミンとのハーフアミドまたはジアミド類;アルキル(ポリ)アルキレングリコールと不飽和ジカルボン酸とのハーフエステルまたはジエステル類;不飽和ジカルボン酸と炭素数2〜18のグリコールもしくはこれらのグリコールの付加モル数2〜500のポリアルキレングリコールとのハーフエステルまたはジエステル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルクロトネート、エチルクロトネート、プロピルクロトネートなどの不飽和モノカルボン酸と炭素数1〜30のアルコールとのエステル類;炭素数1〜30のアルコールに炭素数2〜18のアルキレンオキシドを1〜500モル付加させたアルコキシ(ポリ)アルキレングリコールと(メタ)アクリル酸などの不飽和モノカルボン酸とのエステル類;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有(メタ)アクリレート類;(ポリ)エチレングリコールモノメタクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノメタクリレート、(ポリ)ブチレングリコールモノメタクリレートなどの不飽和モノカルボン酸への炭素数2〜18のアルキレンオキシドの1〜500モル付加物類;などが挙げられる。これらの共重合可能な単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。中でも、メチル(メタ)アクリレートなどの不飽和モノカルボン酸と炭素数1〜30のアルコールとのエステル類あるいはヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有(メタ)アクリレート類が好ましい。
【0033】
本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物を得るに当たり、重合反応は、溶液重合や塊状重合などの従来公知の方法で行うことができる。溶液重合は、回分式または連続式のいずれでも行うことができる。使用可能な溶媒としては、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどの芳香族もしくは脂肪族炭化水素類;酢酸エチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどの環状エーテル類;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの溶媒のうち、原料の単量体および得られる共重合体の溶解性から、水および炭素数1〜4の低級アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、その中でも水を溶媒に用いるのが、脱溶剤工程を省略できる点でより好ましい。
【0034】
上記重合反応の際に連鎖移動剤を用いると、得られる共重合体の分子量調整が容易となり、セメント分散剤として優れた性能を発揮する共重合体を効果的に得ることができる。特に、全単量体の使用量が、重合時に使用する原料の全量に対して、30質量%以上となる高濃度で重合反応を行う場合、連鎖移動剤を用いることが有効である。
【0035】
上記連鎖移動剤としては、特に限定されるものではないが、具体的には、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸などのチオール系化合物;四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタンなどのハロゲン化物;イソプロパノールなどの第2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸、およびその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウムなど)や、亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸、およびその塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜二チオン酸ナトリウム、亜二チオン酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウムなど)の低級酸化物およびその塩などを用いることができる。
【0036】
上記重合反応を、pH5未満で行うと、共重合性が向上し、得られる共重合体の製造コストを低減でき、従来にない高性能のセメント分散剤を提供しうるポリカルボン酸系共重合体を製造できる。好ましくはpH調整剤を用い重合中のpHを2〜3に制御して行うことである。
上記pH調整剤としては、例えば、リン酸および/またはその塩、有機スルホン酸および/またはその塩、塩酸および/またはその塩、硝酸および/またはその塩、硫酸および/またはその塩が挙げられる。これらの中でも、リン酸および/またはその塩、有機スルホン酸および/またはその塩、から選ばれる少なくとも1種が好ましく、添加量が少なくできる点で、有機スルホン酸および/またはその塩がより好ましい。
上記塩としては、任意の適切な塩を採用し得る。例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩などが挙げられる。pH調整剤は1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
上記有機スルホン酸および/またはその塩としては、具体的には、例えば、パラトルエンスルホン酸および/またはその水和物、メタンスルホン酸および/またはその塩が挙げられる。
【0037】
また、上記重合反応により得られた共重合体の取扱い性の観点から、重合した後に中和剤を用いpHを5〜7に調整することが好ましい。
上記中和剤としては、例えば、一価金属および二価金属の水酸化物および炭酸塩などの無機塩;アンモニア;有機アミンなどのアルカリ性物質を用いることができる。
【0038】
上記重合開始剤としては、通常のラジカル重合開始剤を用いることができる。水溶液重合の場合には、例えば、過酸化物として、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩;過酸化水素;などが使用され、アゾ系開始剤として、2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩などのアゾアミジン化合物、2,2’−アゾビス−2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン塩酸塩などの環状アゾアミジン化合物、2−カルバモイルアゾイソブチロニトリル;などが使用される。また、低級アルコール類、芳香族もしくは脂肪族炭化水素類、エステル類、ケトン類などを溶媒とする溶液重合や塊状重合を行う場合のラジカル重合開始剤としては、例えば、過酸化物として、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、ナトリウムペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどが使用され、アゾ系開始剤として、アゾビスイソブチロニトリルなどが使用される。さらに、水−低級アルコール混合溶媒を用いる場合には、上記のラジカル重合開始剤の中から適宜選択して使用することができる。
【0039】
上記重合反応の際には、上記の過酸化物と還元剤とを併用するレドックス系重合開始剤で重合を開始させることが好ましい。還元剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、モール塩に代表されるような、鉄(II)、スズ(II)、チタン(III)、クロム(II)、V(II)、Cu(II)などの低原子価状態にある金属の塩類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミン塩酸塩、ヒドラジンなどのアミン化合物およびその塩;亜二チオン酸ナトリウム、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水和物などのほか、−SH、−SOH、−NHNH、−COCH(OH)−などの基を含む有機化合物およびその塩;亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メタ二亜硫酸塩などのアルカリ金属亜硫酸塩や、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、ヒドロ亜硫酸ナトリウム、次亜硝酸ナトリウムなどの低級酸化物およびその塩;D−フルクトース、D−グルコースなどの転化糖;チオウレア、二酸化チオウレアなどのチオウレア化合物;L−アスコルビン酸(塩)、L−アスコルビン酸エステル、エリソルビン酸(塩)、エリソルビン酸エステルなどが挙げられる。
【0040】
上記過酸化物の使用量は、単量体成分の合計量に対して、好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.1モル%以上、さらに好ましくは1モル%以上であり、また、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下である。過酸化物の使用量が0.01モル%未満であると、未反応の単量体が多くなることがある。逆に、過酸化物の使用量が30モル%を超えると、オリゴマー部分が多いポリカルボン酸が得られることがある。
【0041】
上記還元剤の使用量は、過酸化物に対して、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは1モル%以上、さらに好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは50モル%以上であり、また、好ましくは500モル%以下、より好ましくは300モル%以下、さらに好ましくは200モル%以下、さらに好ましくは100モル%以下である。還元剤の使用量が0.1モル%未満であると、活性ラジカルが充分に発生せず、未反応単量体が多くなることがある。逆に、還元剤の使用量が500モル%を超えると、過酸化水素と反応せずに残存する還元剤が多くなることがある。
【0042】
上記重合反応の際には、単量体の高い反応性を得るために、ラジカル重合開始剤の半減期が好ましくは0.5〜500時間、より好ましくは1〜300時間、さらに好ましくは3〜150時間となる温度で重合反応を行うことが好ましい。例えば、過硫酸塩を開始剤とした場合、重合反応の温度は、40〜100℃の範囲内、好ましくは45〜90℃の範囲内、より好ましくは50〜80℃の範囲内が適当である。また、過酸化水素とL−アスコルビン酸(塩)とを組合せて開始剤とした場合、重合反応の温度は、30〜100℃の範囲内、好ましくは40〜95℃の範囲内、より好ましくは45〜85℃の範囲内が適当である。また、塊状重合では、50〜200℃の温度範囲内で行うことが好ましい。
【0043】
上記重合反応の時間は、0.5〜10時間の範囲内が適当であるが、好ましくは0.5〜8時間、より好ましくは1〜6時間の範囲内がよい。重合反応の時間が、この範囲より、長すぎたり短すぎたりすると、重合率の低下や生産性の低下をもたらし好ましくない。
また、重合反応は、不活性ガスの雰囲気下に行われることが好ましい。上記不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等が挙げられる。重合反応系を不活性ガス雰囲気下とするためには、反応系を不活性ガス雰囲気下とするために通常行われる方法を採用することができるが、例えば、反応系中に不活性ガスを吹き込む方法が挙げられる。
【0044】
本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物を製造するに当たり、重合原料として用いられる不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物の使用量は、連鎖移動剤や重合開始剤などの重合助剤および溶剤等を含めた原料の全量に対して、20〜95質量%、好ましくは30〜93質量%、より好ましくは40〜90質量%の範囲内とするのが適当である。不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物の使用量が、この範囲より多すぎたり少なすぎたりすると、重合率の低下やセメント分散性の低下をもたらし好ましくない。
【0045】
本発明において重合原料として用いる不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物は、上述したように、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)100質量%に対して、ポリアルキレングリコール(A)および異性体(B)をそれぞれ1〜5質量%ずつ含有してなるが、その他に共重合成分として不飽和カルボン酸系単量体(II)を含有している。
【0046】
上記不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物における不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)および不飽和カルボン酸系単量体(II)の比率は、特に限定されるものではなく、単量体(I)/単量体(II)=1〜99/1〜99(質量%)、好ましくは単量体(I)/単量体(II)=50〜99/1〜50、さらに好ましくは単量体(I)/単量体(II)=60〜97/3〜40の範囲内が適当である。また、任意の共重合成分として他の単量体を含有する場合、他の単量体の使用比率は、単量体(I)および単量体(II)の合計質量に対して50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましく15質量%以下が適当である。
【0047】
本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物を構成する共重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下「GPC」ということがある)によるポリエチレングリコール換算で、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上、また、好ましくは200,000以下、より好ましくは70,000以下である。これら各単量体の重量比率や重量平均分子量の範囲とを適宜調整することにより、本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物のセメント分散性能を高め、本発明の最適化を達成することができる。
【0048】
本発明はまた、下記一般式(3);
【0049】
【化4】

【0050】
(式中、AOは炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nはオキシアルキレン基の平均付加モル数であって、2〜15の数である。)で示される不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(III)にアルキレンオキシドを付加する工程を含み、上記付加反応工程の温度を80℃以上100℃未満の範囲とし、該付加反応工程に使用するアルカリ触媒の量を不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(III)とアルキレンオキシドとの総量に対して500〜3000ppmの範囲とするセメント分散剤用重合体含有組成物の製造方法でもある。
このように、本発明の重合体含有組成物の製造方法は、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(III)にアルキレンオキシドを付加することによって、セメント分散剤用重合体組成物を製造するための重合原料である不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)の組成物を調製するものである。
【0051】
また、上述したように、セメント分散剤用重合体含有組成物を製造するための重合原料である不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)を含む組成物およびその製造方法もまた、本発明の一つである。すなわち、本発明は、下記一般式(1);
【0052】
【化5】

【0053】
(式中、AOは炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表し、mはオキシアルキレン基の平均付加モル数であって、25〜250の数である。)で示される不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)を含む組成物であって、上記単量体(I)含有組成物は、上記不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)100質量%に対して、ポリアルキレングリコール(A)を1〜5質量%、該不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)における二重結合の位置が転移した異性体(B)を1〜5質量%含む不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物でもある。また、本発明は、下記一般式(3);
【0054】
【化6】

【0055】
(式中、AOは炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nはオキシアルキレン基の平均付加モル数であって、2〜15の数である。)で示される不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(III)にアルキレンオキシドを付加する工程を含み、上記付加反応工程の温度を80℃以上100℃未満の範囲とし、上記付加反応工程に使用するアルカリ触媒の量を不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(III)とアルキレンオキシドとの総量に対して500〜3000ppmの範囲とする不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物の製造方法でもある。
【0056】
以下、本発明の不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物およびその製造方法、並びに本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物の製造方法を詳しく説明する。
【0057】
本発明の不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物は、上述した本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物において重合原料として用いられる不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)を含む組成物でもあり、本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物を製造するための中間原料に相当する。したがって、本発明の不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物は、上述した通りである。すなわち、本発明の不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物は、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)100質量%に対するポリアルキレングリコール(A)の含有量をα質量%、異性体(B)の含有量をβ質量%とした時、それらの含有量が、次の式(3)および式(4)を満足することが好ましい。
【0058】
3≦α+0.75×β≦8 (3)
1≦β≦4 (4)
【0059】
本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物の製造方法は、本発明の不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物を重合する際に、本発明の不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物の製造方法の特徴をそのまま採用するものである。したがって、本発明における不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物の製造方法とセメント分散剤用重合体含有組成物の製造方法とを、次に併せて説明する。
【0060】
本発明の製造方法は、下記一般式(3);
【0061】
【化7】

【0062】
(式中、AOは炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nはオキシアルキレン基の平均付加モル数であって、2〜15の数である。)で示される不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(III)にアルキレンオキシドを付加するに当たり、当該付加反応の温度を80℃以上100℃未満の範囲とし、当該付加反応に使用するアルカリ触媒の量を不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(III)とアルキレンオキシドとの総量に対して500〜3000ppmの範囲とするものである。
【0063】
このような特徴を有する付加反応によって、本発明の不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物を製造でき、また、このような特徴を有する付加反応によって得られた不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物を原料として重合を行うことによって、本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物を製造することができる。
【0064】
本発明の製造方法では、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(III)にアルキレンオキシドを付加する。
上記不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(III)は、不飽和アルコールの3−メチル−3−ブテン−1−オール(イソプレノール)にアルキレンオキシドが平均で2〜15モル付加して得られる化合物である。
【0065】
上記不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(III)の調製には、不飽和アルコールにアルキレンオキシドを付加させる従来公知の反応方法が採用でき、例えば窒素などの不活性ガス雰囲気で、不飽和アルコールとアルキレンオキシドとをアルカリ触媒の存在下に混合攪拌すればよい。なお、炭素数が小さいアルキレンオキシドは、常温・常圧では気体状であるので、オートクレーブなどの耐圧容器を用いて加圧下で付加反応を行う必要がある。また、アルキレンオキシドとしては、炭素数2〜18のアルキレンオキシドであれば、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどが挙げられる。これらのアルキレンオキシドは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0066】
上記アルカリ触媒としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどのアルカリ金属水素化物;n−ブチルリチウムなどの有機リチウム化合物;ナトリウムアミド;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの金属水酸化物などが挙げられる。これらのアルカリ触媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、取り扱いやすさや経済性などの観点から、水素化ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが特に好適である。
【0067】
上記不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(III)を調製するための付加反応の温度は、特に制限ないが、アルキレンオキシド同士の付加重合によるポリアルキレングリコールの副生を制御するため、好ましくは80℃〜160℃の範囲、さらに好ましくは100℃〜140℃以下、特に好ましくは100℃〜120℃の範囲である。また、付加反応の圧力は、付加反応が円滑に進行するように適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、通常は1.0MPa以下、好ましくは0.9MPa以下、より好ましくは0.8MPa以下である。付加反応の時間は、不飽和アルコールの仕込み量やアルキレンオキシドの添加量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、通常は0.5〜24時間、好ましくは1〜20時間の範囲内である。
【0068】
本発明の製造方法は、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(III)にアルキレンオキシドを付加する反応工程に特徴を有するが、この付加反応において、付加反応の温度を80℃以上100℃未満の範囲とする。付加反応の温度が80℃未満では、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物を調製するために長時間を要し、また、得られる不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物中の異性体(B)の含有量や上記α、βで表されるパラメータ値を、上述した式(3)および(4)の関係式を満たす範囲内に制御することが困難となるので、好ましくない。一方、付加反応の温度が100℃以上では、得られる不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物中のアルキレングリコール(A)や異性体(B)の含有量または上記α、βで表されるパラメータ値を、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)100質量%に対して各々5質量%以下の少量または上述した式(3)および(4)の関係式を満たす範囲内となるように制御することが困難となり、最終的に得られる重合体含有組成物のセメント分散性能が低下するので、好ましくない。
【0069】
また、本発明の製造方法では、付加反応に使用するアルカリ触媒の量を不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(III)とアルキレンオキシドとの総量に対して500〜3000ppmの範囲とする。アルカリ触媒量が500ppm未満では、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物を調製するために長時間を要し、また、得られる不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物中の異性体(B)の含有量や上記α、βで表されるパラメータ値を、上述した式(3)および(4)の関係式を満たす範囲内に制御することが困難となるので、好ましくない。一方、アルカリ触媒量が3000ppmを超える多量では、得られる不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物中のアルキレングリコール(A)や異性体(B)の含有量または上記α、βで表されるパラメータ値を、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)100質量%に対して各々5質量%以下の少量または上述した式(3)および(4)の関係式を満たす範囲内となるように制御することが困難となり、最終的に得られる重合体含有組成物のセメント分散性能が低下するので、好ましくない。
【0070】
なお、本発明の不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物を調製するためのアルカリ触媒としては、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(III)を調製するための付加反応で用いたのと同様の化合物が好適である。また、本発明の不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物を調製するための付加反応は、上述した付加反応温度とアルカリ触媒量の規定を除いて、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(III)を調製するための付加反応で用いたのと同様の条件を採用できる。
【0071】
本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物は、本発明において用いられる共重合体が2種以上組み合わされたものであっても良い。例えば、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)に由来する繰り返し単位と不飽和カルボン酸系単量体(II)に由来する繰り返し単位との比率が異なる2種以上の共重合体の組み合わせ;不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)に由来する繰り返し単位、不飽和カルボン酸系単量体(II)に由来する繰り返し単位及び共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位のそれぞれの比率が異なる2種以上の共重合体の組み合わせ;不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)に由来する繰り返し単位のオキシアルキレン基の平均付加モル数が異なる2種以上の共重合体の組み合わせ;不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)に由来する繰り返し単位と不飽和カルボン酸系単量体(II)に由来する繰り返し単位とからなる共重合体と、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)に由来する繰り返し単位、不飽和カルボン酸系単量体(II)に由来する繰り返し単位及び共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位からなる共重合体との組み合わせ等が可能である。
【0072】
さらに、本発明において用いられる共重合体が3種組み合わされた形態としては、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)に由来する繰り返し単位と不飽和カルボン酸系単量体(II)に由来する繰り返し単位との比率が異なる2種の共重合体と、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)に由来する繰り返し単位、不飽和カルボン酸系単量体(II)に由来する繰り返し単位及び共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位とを有する共重合体との組み合わせ;不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)に由来する繰り返し単位と不飽和カルボン酸系単量体(II)に由来する繰り返し単位とを有する共重合体と、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)に由来する繰り返し単位、不飽和カルボン酸系単量体(II)に由来する繰り返し単位及び共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位のそれぞれの比率が異なる2種の共重合体との組み合わせ等が可能である。
なお、上述のように共重合体を2種以上組み合わせて用いる場合には、共重合可能な他の単量体として、メチル(メタ)アクリレートなどの不飽和モノカルボン酸と炭素数1〜30のアルコールとのエステル類あるいはヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有(メタ)アクリレート類を用いるのが好ましい。
【0073】
本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物は、セメントと水とを必須成分として含有し、さらに必要に応じて骨材を含むセメント組成物(セメントペースト、モルタル、コンクリート等)に添加して用いることができる。
上記セメント組成物において使用されるセメントとしては、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩及びそれぞれの低アルカリ形)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1 クリンカー速硬性セメント、2 クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、油井セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造されたセメント)が好適であり、更に、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体や石膏を添加してもよい。また、上記骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材が使用可能である。
【0074】
上記セメント組成物における、その1mあたりの単位水量、セメント使用量及び水/セメント比としては、単位水量100〜185kg/m、使用セメント量250〜800kg/m、水/セメント比(質量比)=0.1〜0.7とすることが好ましく、より好ましくは、単位水量120〜175kg/m、使用セメント量270〜800kg/m、水/セメント比(質量比)=0.2〜0.65が推奨され、貧配合から富配合まで幅広く使用可能であり、単位セメント量の多い高強度コンクリート、単位セメント量が300kg/m以下の貧配合コンクリートのいずれにも有効である。
【0075】
本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物をセメント組成物に添加する際の添加量としては、セメントに対する不揮発分換算での質量割合として、好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.02〜10質量%、さらに好ましくは0.05〜5質量%である。上記添加量が0.01質量%未満であると、性能的に劣るおそれがある。上記添加量が10質量%を超えると、経済性に劣るおそれがある。
【0076】
本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物は、セメント分散剤として一般に用いられる他のセメント分散剤と併用することが可能であり、2種以上の他のセメント分散剤の併用も可能である。なお、他のセメント分散剤を用いる場合、本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物と他のセメント分散剤との配合質量比は、使用する他のセメント分散剤の種類、配合及び試験条件等の違いにより一義的には決められないが、不揮発分換算での質量割合(質量%)は、本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物/他のセメント分散剤が、1〜99/99〜1であることが好ましく、より好ましくは5〜95/95〜5、さらに好ましくは10〜90/90〜10である。
【0077】
本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物と併用し得る上記他のセメント分散剤としては、例えば、下記のようなセメント分散剤が挙げられる。
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等の、ポリアルキルアリールスルホン酸塩系;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等の、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系;アミノアリールスルホン酸−フェノール−ホルムアルデヒド縮合物等の、芳香族アミノスルホン酸塩系;リグニンスルホン酸塩、変性リグニンスルホン酸塩等のリグニンスルホン酸塩系;ポリスチレンスルホン酸塩系;等の、分子中にスルホン酸基を有する各種スルホン酸系分散剤。
【0078】
特公昭59−18338号公報、特開平7−223852号公報に記載の、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体、(メタ)アクリル酸系単量体、および、これらの単量体と共重合可能な単量体を重合して得られる共重合体;特公昭58−38380号公報に記載の、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、マレイン酸、および、これらの単量体と共重合可能な単量体を重合して得られる共重合体、もしくは、その塩、又は、そのエステル;特開平7−53645号公報、特開平8−208769号公報、特開平8−208770号公報に記載の、ポリエーテル化合物に不飽和カルボン酸系単量体をグラフト重合した親水性グラフト重合体等の、分子中に(ポリ)オキシアルキレン基とカルボキシル基とを有する各種ポリカルボン酸系分散剤。
【0079】
本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物は、必要に応じ、セメント添加剤(セメント添加材)として一般に用いられるものの中の適切なものと併用してもよい。例えば、水溶性高分子物質、高分子エマルジョン、硬化遅延剤、早強剤・促進剤、消泡剤、AE剤、防水剤、防錆剤、ひび割れ低減剤、膨張材、セメント湿潤剤、増粘剤、分離低減剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、セルフレベリング剤、着色剤、防カビ剤等が挙げられる。上記セメント添加剤(セメント添加材)は、1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0080】
本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物の、特に好適な実施形態としては、下記の(1)〜(7)が挙げられる。
(1)<1>本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物、および、<2>オキシアルキレン系消泡剤の、2成分を必須とする組み合わせ。オキシアルキレン系消泡剤としては、例えば、ポリオキシアルキレン類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアセチレンエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類が挙げられ、好ましくはポリオキシアルキレンアルキルアミン類である。なお、<2>オキシアルキレン系消泡剤の配合質量比は、<1>本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物に対して、0.01〜20質量%の範囲が好ましい。
【0081】
(2)<1>本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物、<2>オキシアルキレン系消泡剤、および、<3>AE剤の、3成分を必須とする組み合わせ。オキシアルキレン系消泡剤としては、例えば、ポリオキシアルキレン類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアセチレンエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類が挙げられ、好ましくはポリオキシアルキレンアルキルアミン類である。なお、<2>オキシアルキレン系消泡剤の配合質量比は、<1>本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物に対して、0.01〜20質量%の範囲が好ましい。また、<3>AE剤の配合質量比は、<1>本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物に対して、0.001〜2質量%の範囲が好ましい。
【0082】
(3)<1>本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物、<2>炭素数2〜18のアルキレンオキシドを平均付加モル数で2〜300付加したポリオキシアルキレン鎖を有するポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体と、(メタ)アクリル酸系単量体、およびこれらの単量体と共重合可能な単量体を重合して得られる共重合体(例えば、特公昭59−18338号公報、特開平7−223852号公報に記載)、および、<3>オキシアルキレン系消泡剤の、3成分を必須とする組み合わせ。オキシアルキレン系消泡剤としては、例えば、ポリオキシアルキレン類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアセチレンエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類が挙げられ、好ましくはポリオキシアルキレンアルキルアミン類である。なお、<1>本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物と<2>共重合体の配合比は、<1>本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物/<2>共重合体の質量比で、好ましくは5/95〜95/5、より好ましくは10/90〜90/10である。また、<3>オキシアルキレン系消泡剤の配合質量比は、<1>本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物と<2>共重合体の合計量に対して、0.01〜20質量%の範囲が好ましい。
【0083】
(4)<1>本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物、および、<2>分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系分散剤の、2成分を必須とする組み合わせ。スルホン酸系分散剤としては、例えば、リグニンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリスチレンスルホン酸塩、アミノアリールスルホン酸−フェノール−ホルムアルデヒド縮合物等のアミノスルホン酸系分散剤が挙げられる。なお、<1>本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物と<2>スルホン酸系分散剤の配合比は、<1>本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物/<2>スルホン酸系分散剤の質量比で、好ましくは5/95〜95/5、より好ましくは10/90〜90/10である。
【0084】
(5)<1>本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物、および、<2>材料分離低減剤の、2成分を必須とする組み合わせ。材料分離低減剤としては、例えば、非イオン性セルロースエーテル類等の各種増粘剤、部分構造として炭素数4〜30の炭化水素鎖からなる疎水性置換基と炭素数2〜18のアルキレンオキシドを平均付加モル数で2〜300付加したポリオキシアルキレン鎖とを有する化合物が挙げられる。なお、<1>本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物と<2>材料分離低減剤の配合比は、<1>本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物/<2>材料分離低減剤の質量比で、好ましくは10/90〜99.99/0.01、より好ましくは50/50〜99.9/0.1である。この組み合わせのセメント混和剤は、高流動コンクリート、自己充填性コンクリート、セルフレベリング剤として好適である。
【0085】
(6)<1>本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物、および、<2>遅延剤の、2成分を必須とする組み合わせ。遅延剤としては、例えば、グルコン酸(塩)、クエン酸(塩)等のオキシカルボン酸類、グルコース等の糖類、ソルビトール等の糖アルコール類、アミノトリ(メチレンホスホン酸)等のホスホン酸類が挙げられ、好ましくはオキシカルボン酸類である。なお、<1>本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物と<2>遅延剤の配合比は、<1>本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物/<2>遅延剤の質量比で、好ましくは50/50〜99.9/0.1、より好ましくは70/30〜99/1である。
【0086】
(7)<1>本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物、および、<2>促進剤の、2成分を必須とする組み合わせ。促進剤としては、例えば、塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム等の可溶性カルシウム塩類、塩化鉄、塩化マグネシウム等の塩化物類、チオ硫酸塩、ギ酸およびギ酸カルシウム等のギ酸塩類等が挙げられる。なお、<1>本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物と<2>促進剤の配合比は、<1>本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物/<2>促進剤の質量比で、好ましくは10/90〜99.9/0.1、より好ましくは20/80〜99/1である。
【発明の効果】
【0087】
本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物は、ポリアルキレングリコール(A)および不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)における二重結合の位置が転移した異性体(B)を特定量含有した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物を重合してなるものであるので、ポリアルキレングリコール(A)および異性体(B)が特定量含有される。それゆえ、このような重合体含有組成物をセメント分散剤に用いた場合には、モルタルやコンクリートなどのセメント組成物の流動性を高め、高い流動性を一定時間安定に保持できる。
また、本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物を製造する際、重合原料として用いる不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物が、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(III)にアルキレンオキシドを特定の付加反応温度およびアルカリ触媒量とすることにより製造されているので、上記不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物が工業的に生産性よく安定して製造できる。このような不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(III)へのアルキレンオキシド付加反応を経由することにより、本発明のセメント分散剤用重合体含有組成物が特別な操作など必要としないで容易に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】重合体含有組成物中の共重合体含有量(ポリマー純分)測定用のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)チャートであり、実施例4で得た本発明の重合体含有組成物(1)を試料として取得したGPCチャートである。
【図2】製造例1で得られた反応生成物(1)のNMRチャートである。
【図3】実施例1で得られた反応生成物(I−1)のNMRチャートである。
【図4】比較例1で得られた比較用反応生成物(1)のNMRチャートである。
【図5】比較例2で得られた比較用反応生成物(2)のNMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0089】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、特に断りのない限り、「%」および「ppm」は質量基準である。
【0090】
まず、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物におけるポリアルキレングリコール(A)としてのポリエチレングリコールおよび異性体(B)としての下記一般式(5)で示される化合物の含有量を測定する方法について説明する。
【0091】
【化8】

【0092】
なお、上記一般式(5)で示される化合物は、下記一般式(6)で示される3−メチル−3−ブテン−1−オール(イソプレノール)にエチレンオキシドが平均で50モル付加して得られる化合物において、二重結合の位置が転移した異性体化合物に相当するものである。
【0093】
【化9】

【0094】
<ポリエチレングリコールの含有量測定>
単量体含有組成物に含まれるポリエチレングリコールの含有量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、以下の条件下で測定した。
使用カラム:昭和電工社製GF-1G 7B(ガードカラム)および昭和電工社製GF-310HQ
溶離液:水
流量:1ml/分
打ち込み量:単量体含有組成物を濃度5.0%の溶離液溶液として、100μL
カラム温度:40℃
標準物質:ポリエチレングリコール、ピークトップ分子量(Mp)4020
検出器:日立製作所社製 L−7490 示唆屈折検出器
【0095】
<上記一般式(5)で示される異性体化合物の含有量測定>
単量体含有組成物を重クロロホルムに溶かし、濃度5%となるように溶液を調整し、400MHzのNMRにて測定を行った。
なお、測定で得られたNMRチャートの図面中に示したA、B、CまたはDの位置にある吸収は、上記一般式(5)で示される異性体化合物の化学式において、それぞれA、B、CまたはDの位置に示した化学構造に基づくものである。また、図面中のa、b、c、dまたはeの位置にある吸収は、3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキシドが平均で50モル付加して得られる上記一般式(6)で示される化合物の化学式において、それぞれa、b、c、dまたはeの位置に示した化学構造に基づくものである。
【0096】
次に、重合体含有組成物に含まれる共重合体の含有量(ポリマー純分)および共重合体の重量平均分子量の測定方法を説明する。
【0097】
<共重合体の重量平均分子量測定>
重合体含有組成物に含まれる共重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、以下の条件下で測定した。
使用カラム:東ソー社製TSKguardcolumn SWXL、TSKgel G4000SWXL、G3000SWXLおよびG2000SWXL
溶離液:水10999g、アセトニトリル6001gの混合溶媒に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶かし、更に酢酸でpH6.0に調整した溶離液溶液
打ち込み量:重合体含有組成物を濃度0.5%の溶離液溶液として、100μL
カラム温度:40℃
標準物質:ポリエチレングリコール、ピークトップ分子量(Mp)300000、219300、107000、50000、24000、11840、6450、4020、1470
検量線次数:三次式
検出器:日本Waters社製 410 示唆屈折検出器
解析ソフト:日本Waters社製 Empowerソフトウェア
【0098】
<重合体含有組成物中の共重合体含有量(ポリマー純分)の測定>
重合体含有組成物に含まれるポリマー純分は、図1に示すGPCチャートより、重合体含有組成物における共重合体部分の面積である(I)を、ポリエチレングリコールなどを含めた重合体全体の面積である(I+II)で割った値とした。
【0099】
<不飽和ポリアルキレングリコールエーテルの製造>
(製造例1)
温度計、撹拌機、原料導入管、及び窒素導入管を備えたSUS製オートクレーブ反応容器に3−メチル−3−ブテン−1−オール1000g、アルカリ触媒として水酸化ナトリウム3.0gを仕込み、撹拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で120℃まで加熱した。そして安全圧下で120℃を保持したままエチレンオキシド5050gを8.5時間かけて反応器内に導入し、その後、1時間熟成し反応を終了した。得られた反応生成物は、3−メチル−3−ブテン−1−オールに平均10モルのエチレンオキシドが付加した不飽和ポリアルキレングリコール(1)と、ポリエチレングリコール及び不飽和ポリアルキレングリコール(1)における二重結合の位置が転移した異性体とを含むものであった。この反応生成物を、反応生成物(1)と称する。
【0100】
(製造例2)
温度計、撹拌機、原料導入管、及び窒素導入管を備えたSUS製オートクレーブ反応容器に3−メチル−2−ブテン−1−オール1000g、アルカリ触媒として水酸化ナトリウム3.0gを仕込み、撹拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で120℃まで加熱した。そして安全圧下で120℃を保持したままエチレンオキシド5050gを8.5時間かけて反応器内に導入し、その後、1時間熟成し反応を終了した。得られた反応生成物は、3−メチル−2−ブテン−1−オールに平均10モルのエチレンオキシドが付加した不飽和ポリアルキレングリコール(2)とポリエチレングリコールとを含むものであった。この反応生成物を、反応生成物(2)と称する。
【0101】
<不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体含有組成物の製造>
(実施例1)
温度計、撹拌機、原料導入管、及び窒素導入管を備えたSUS製オートクレーブ反応容器に製造例1で得られた反応生成物(1)210g、アルカリ触媒として49%水酸化ナトリウム水溶液3.52gを仕込み、95℃まで昇温した。次いで撹拌しながら反応容器の上部からガラス製トラップを装着した配管を接続し、真空ポンプを用いて反応容器内を5.32×10Pa(40Torr)に減圧した。2.5時間脱水終了後、反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で95℃まで昇温した。そして安全圧下で95℃を保持したままエチレンオキシド712.5gを7.7時間かけて反応器内に導入し、その後、1時間熟成し反応を終了した。得られた反応生成物は、3−メチル−3−ブテン−1−オールに平均50モルのエチレンオキシドが付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I−1)と、ポリエチレングリコール及び不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I−1)における二重結合の位置が転移した異性体とを含むものであった。この反応生成物を、反応生成物(I−1)と称する。反応生成物(I−1)の分析結果を表1に示す。
【0102】
(実施例2)
温度計、撹拌機、原料導入管、及び窒素導入管を備えたSUS製オートクレーブ反応容器に製造例1で得られた反応生成物(1)191g、アルカリ触媒として、純度85%の水酸化カリウム顆粒品2.58gを仕込み、120℃まで昇温した。次いで撹拌しながら反応容器の上部からガラス製トラップを装着した配管を接続し、真空ポンプを用いて反応容器内を6.67×10Pa(50Torr)に減圧した。1時間脱水終了後、反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃に調整した。そして安全圧下で80℃を保持したままエチレンオキシド639.9gを7.3時間かけて反応器内に導入し、その後、1時間熟成し反応を終了した。得られた反応生成物は、3−メチル−3−ブテン−1−オールに平均50モルのエチレンオキシドが付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I−2)と、ポリエチレングリコール及び不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I−2)における二重結合の位置が転移した異性体とを含むものであった。この反応生成物を、反応生成物(I−2)と称する。反応生成物(I−2)の分析結果を表1に示す。
【0103】
(実施例3)
温度計、撹拌機、原料導入管、及び窒素導入管を備えたSUS製オートクレーブ反応容器に製造例1で得られた反応生成物(1)1039g、アルカリ触媒として49%水酸化ナトリウム水溶液4.1gを仕込み、100℃まで昇温した。次いで撹拌しながら反応容器の上部からガラス製トラップを装着した配管を接続し、真空ポンプを用いて反応容器内を5.32×10Pa(40Torr)に減圧した。1時間脱水終了後、反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で95℃に調整した。そして安全圧下で95℃を保持したままエチレンオキシド3386gを20時間かけて反応器内に導入し、その後、1時間熟成し反応を終了した。得られた反応生成物は、3−メチル−3−ブテン−1−オールに平均50モルのエチレンオキシドが付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I−3)と、ポリエチレングリコール及び不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I−3)における二重結合の位置が転移した異性体とを含むものであった。この反応生成物を、反応生成物(I−3)と称する。反応生成物(I−3)の分析結果を表1に示す。
【0104】
(比較例1)
温度計、撹拌機、原料導入管、及び窒素導入管を備えたSUS製オートクレーブ反応容器に製造例1で得られた反応生成物(1)143.5g、アルカリ触媒として48%水酸化ナトリウム水溶液0.5gを仕込み、105℃まで昇温した。次いで撹拌しながら反応容器の上部からガラス製トラップを装着した配管を接続し、真空ポンプを用いて反応容器内を5.32×10Pa(40Torr)に減圧した。1時間脱水終了後、反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で120℃まで昇温した。そして安全圧下で120℃を保持したままエチレンオキシド475.3gを7.5時間かけて反応器内に導入し、その後、1時間熟成し反応を終了した。得られた反応生成物は、3−メチル−3−ブテン−1−オールに平均50モルのエチレンオキシドが付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I−4)と、ポリエチレングリコール及び不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I−4)における二重結合の位置が転移した異性体を含むものであった。この反応生成物を比較用反応生成物(1)と称する。比較用反応生成物(1)の分析結果を表1に示す。
【0105】
(比較例2)
温度計、撹拌機、原料導入管、及び窒素導入管を備えたSUS製オートクレーブ反応容器に製造例2で得られた反応生成物(2)143.5g、アルカリ触媒として48%水酸化ナトリウム水溶液0.5gを仕込み、105℃まで昇温した。次いで撹拌しながら反応容器の上部からガラス製トラップを装着した配管を接続し、真空ポンプを用いて反応容器内を5.32×10Pa(40Torr)に減圧した。1時間脱水終了後、反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で120℃まで昇温した。そして安全圧下で120℃を保持したままエチレンオキシド475.3gを7.5時間かけて反応器内に導入し、その後、1時間熟成し反応を終了した。得られた反応生成物は、3−メチル−2−ブテン−1−オールに平均50モルのエチレンオキシドが付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体とポリエチレングリコールとを含むものであった。この反応生成物を比較用反応生成物(2)と称する。比較用反応生成物(2)の分析結果を表1に示す。
【0106】
なお、3−メチル−2−ブテン−1−オールに平均50モルのエチレンオキシドが付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体は、実施例1〜3で得られた反応生成物(I−1)〜(I−3)に少量含まれている異性体に相当するものである。
【0107】
【表1】

【0108】
<重合体含有組成物の製造>
(実施例4)
温度計、撹拌機、窒素導入管、及び冷却管を備えた500mlのガラス製反応器に、イオン交換水97.3g、実施例1で得た反応生成物(I−1)187.5g、アクリル酸1.35gを仕込み、液中に窒素を毎分500mlの流量で吹き込みながら攪拌を開始した。60℃に昇温後1時間攪拌し、反応槽内を充分窒素置換した後、過酸化水素の2%水溶液14.7gを投入した。窒素流量を毎分50mlに下げ、アクリル酸75.7%水溶液31.7gを、3時間かけて滴下した。アクリル酸を滴下し始めると同時に、L−アスコルビン酸0.38g及び3−メルカプトプロピオン酸0.97gを46.2gの水で溶かした水溶液を3.5時間かけて滴下した。その後、1時間引き続いて60℃に温度を維持して、重合反応を完結させた。重合反応生成物の温度を50℃以下に降温した後、水酸化ナトリウム30%水溶液でpHが6.5になるように中和し、重量平均分子量32000のポリカルボン酸系共重合体(1)を含有しポリマー純分92.9%の共重合体水溶液からなる本発明の重合体含有組成物(1)を得た。この重合体含有組成物を調製する際の単量体仕込み組成や重合体含有組成物中の共重合体含有量(ポリマー純分)を表2に示す。
【0109】
(実施例5)
温度計、撹拌機、窒素導入管、及び冷却管を備えた反応器に、イオン交換水109.1g、実施例2で得た反応生成物(I−2)191.6g、アクリル酸0.35gを仕込み、60℃に昇温した。そこへ、過酸化水素の6.3%水溶液4.8gを添加し、アクリル酸62%水溶液41.4gを、3時間かけて滴下した。同時に、L−アスコルビン酸0.39g及び3−メルカプトプロピオン酸0.85gを26.9gの水で溶かした水溶液を3.5時間かけて滴下した。その後、1時間引き続いて60℃に温度を維持して、重合反応を完結させた。重合反応生成物の温度を50℃以下に降温した後、水酸化ナトリウム30%水溶液でpHが6.5になるように中和し、重量平均分子量30000のポリカルボン酸系共重合体(2)を含有しポリマー純分91.5%の共重合体水溶液からなる本発明の重合体含有組成物(2)を得た。この重合体含有組成物を調製する際の単量体仕込み組成や重合体含有組成物中の共重合体含有量(ポリマー純分)を表2に示す。
【0110】
(実施例6)
温度計、撹拌機、窒素導入管、及び冷却管を備えた反応器に、イオン交換水76.9g、実施例3で得た反応生成物(I−3)149.3g、アクリル酸0.27g、酢酸0.72gを仕込み、60℃に昇温した。そこへ、過酸化水素の2.0%水溶液11.9gを添加し、アクリル酸80%水溶液24.9gを、3時間かけて滴下した。同時に、L−アスコルビン酸0.3g及び3−メルカプトプロピオン酸1.1gを35.8gの水で溶かした水溶液を3.5時間かけて滴下した。その後、1時間引き続いて60℃に温度を維持して、重合反応を完結させた。重合反応生成物の温度を50℃以下に降温した後、水酸化ナトリウム30%水溶液でpHが6.5になるように中和し、重量平均分子量35000のポリカルボン酸系共重合体(3)を含有しポリマー純分93.4%の共重合体水溶液からなる本発明の重合体含有組成物(3)を得た。この重合体含有組成物を調製する際の単量体仕込み組成や重合体含有組成物中の共重合体含有量(ポリマー純分)を表2に示す。
【0111】
(比較例3)
温度計、撹拌機、窒素導入管、及び冷却管を備えた反応器に、イオン交換水76.9g、比較例1で得た比較用反応生成物(1)149.3g、アクリル酸0.27gを仕込み、60℃に昇温した。そこへ、過酸化水素の2.0%水溶液11.9gを添加し、アクリル酸80%水溶液24.9gを、3時間かけて滴下した。同時に、L−アスコルビン酸0.3g及び3−メルカプトプロピオン酸1.1gを35.8gの水で溶かした水溶液を3.5時間かけて滴下した。その後、1時間引き続いて60℃に温度を維持して、重合反応を完結させた。重合反応生成物の温度を50℃以下に降温した後、水酸化ナトリウム30%水溶液でpHが6.5になるように中和し、重量平均分子量31000のポリカルボン酸系共重合体を含有しポリマー純分88.7%の共重合体水溶液からなる比較重合体含有組成物(1)を得た。この重合体含有組成物を調製する際の単量体仕込み組成や重合体含有組成物中の共重合体含有量(ポリマー純分)を表2に示す。
【0112】
(比較例4)
温度計、撹拌機、窒素導入管、及び冷却管を備えた反応器に、イオン交換水76.9g、比較例2で得た比較用反応生成物(2)149.3g、アクリル酸0.27gを仕込み、60℃に昇温した。そこへ、過酸化水素の2.0%水溶液11.9gを添加し、アクリル酸80%水溶液24.9gを、3時間かけて滴下した。同時に、L−アスコルビン酸0.3g及び3−メルカプトプロピオン酸1.1gを35.8gの水で溶かした水溶液を3.5時間かけて滴下した。その後、1時間引き続いて60℃に温度を維持して、重合反応を完結させた。重合反応生成物の温度を50℃以下に降温した後、水酸化ナトリウム30%水溶液でpHが6.5になるように中和し、重量平均分子量7700のポリカルボン酸系共重合体を含有しポリマー純分24.3%の共重合体水溶液からなる比較重合体含有組成物(2)を得た。この重合体含有組成物を調製する際の単量体仕込み組成や重合体含有組成物中の共重合体含有量(ポリマー純分)を表2に示す。
【0113】
重合に用いた比較用反応生成物(2)に含まれる3−メチル−2−ブテン−1−オールに平均50モルのエチレンオキシドが付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体は、実施例4〜6で用いた反応生成物(I−1)〜(I−3)に含まれる3−メチル−3−ブテン−1−オールに平均50モルのエチレンオキシドが付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I−1)〜(I−3)における二重結合の位置が転移した異性体(B)に相当するものであり、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I−1)〜(I−3)の1/4程度の重合反応性しか有しないことが明らかである。
【0114】
(実施例7〜10、比較例5、6)
実施例4〜6、比較例3〜4の製造方法及び通常用いられる重合方法により、本発明の重合体含有組成物(4)〜(7)及び比較重合体含有組成物(3)〜(4)を製造した。
なお、ヒドロキシエチルアクリレートは、アクリル酸水溶液に混合し、3.5時間かけて滴下した。重合体含有組成物を調製する際の単量体仕込み組成や重合体含有組成物中の共重合体含有量(ポリマー純分)、重量平均分子量を表2に示す。
【0115】
【表2】

【0116】
<重合体含有組成物のセメント分散性の評価>
(実施例11)
実施例4〜7及び9で得られた本発明の重合体含有組成物(1)〜(4)及び(6)、並びに、比較例3、5及び6で得られた比較重合体含有組成物(1)、(3)及び(4)を用いて、セメント分散性の評価用モルタルを調製し、下記のようにしてモルタルのフロー値及び空気量を測定した。その測定結果を表3に示す。
【0117】
まず、性能評価試験に用いる重合体含有組成物における不揮発分を測定し、この不揮発分を基準にして、所定の配合でセメント分散剤水溶液を調製した。なお、不揮発分は、約0.5gの重合体含有組成物をアルミカップに量り採り、これにイオン交換水を約1g加えて均一に広げ、窒素雰囲気下に130℃で1時間乾燥し、乾燥前後の質量差から測定した。
【0118】
セメント分散剤水溶液は、重合体含有組成物の所定量、すなわちモルタル中のセメント質量に対して重合体含有組成物が不揮発分として0.1質量%になる量を、アルミカップに量り採り、これに消泡剤のMA404(ポゾリス物産製)原液を100倍に希釈し水溶液を、重合体含有組成物の不揮発分に対して10質量%添加し、さらにイオン交換水を加えて合計220gになるようにして、調製した。
【0119】
性能評価試験用モルタルは、上記セメント分散剤水溶液220gに対して、普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)550g及びISO標準砂(セメント協会製)1350gを配合したものとし、この評価試験用モルタルにおいて、以下の手順でフロー値及び空気量の測定を行った。
(フロー値の測定)
上記セメント550gとセメント分散剤水溶液220gをミキサー(ホバート社製:型番N−50)により低速で30秒混練した後、30秒かけて上記ISO砂1350gをミキサーに投入した。次いで、高速で30秒混練後、回転を停止させ15秒かけて釜の壁についたモルタルを掻き落とした。さらに75秒間経過後、高速で60秒間混練して、モルタル試料とした。
このモルタル試料をJIS R 5201に準ずるテーブルにおいたフローコーン(JIS R 5201)に半量詰め、突き棒を使って15回突いた。さらにモルタルをフローコーンのすりきりいっぱいまで詰め、突き棒を使って15回突いた。その後、モルタルを詰めたフローコーンを静かに垂直に持ち上げ、テーブルに広がったモルタルの長径(mm)と短径(mm)を測定し、その平均値をモルタルフロー値(初期値)とした。なお、上記モルタル試料を静置し、注水後30分、60分経過した後に再度モルタルフロー値(30分、60分)を測定した。
(空気量の測定)
上記のように調製したモルタル試料を500mlメスシリンダーに約200ml詰め、径8mmの丸棒で突いた後に容器に振動を加え、粗い気泡を抜いた。さらにモルタルを約200ml加えて同様に粗い気泡を抜いた後、体積と質量を測定し、質量と各材料の密度から空気量を計算した。
【0120】
【表3】

【0121】
(実施例12)
重合体含有組成物として、複数の重合体含有組成物を表4に示した重量比で混合して調製される重合体含有組成物の混合物を用いた以外は実施例11と同様にして、セメント分散性の評価用モルタルを調製し、モルタルのフロー値及び空気量を測定した。その測定結果を表4に示す。
【0122】
【表4】

【0123】
実施例及び比較例の結果から、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)100質量%に対して、ポリアルキレングリコールを1〜5質量%、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)における二重結合の位置が転移した異性体を1〜5質量%含む不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物を重合して得られる重合体含有組成物は、優れたセメント分散性を発揮し、セメント組成物に高い流動性を付与することができると共に、高い流動性を一定時間安定に保持することができる、ということが実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1);
【化1】

(式中、AOは炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表し、mはオキシアルキレン基の平均付加モル数であって、25〜250の数である。)で示される不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)に由来する繰り返し単位と、
下記一般式(2);
【化2】

(式中、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子、メチル基または−COOMを表す。ただし、R及びRは、同時に−COOMを表さない。Rは水素原子、メチル基又は−CHCOOMを表す。Rが−CHCOOMのときR及びRは同一若しくは異なって、水素原子又はメチル基を表す。M、M及びMは、水素原子、一価金属、二価金属、アンモニウム又は有機アミンを表す。)で示される不飽和カルボン酸系単量体(II)に由来する繰り返し単位とを有する重合体を含む組成物であって、
該重合体含有組成物は、該不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)100質量%に対して、ポリアルキレングリコール(A)を1〜5質量%、該不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)における二重結合の位置が転移した異性体(B)を1〜5質量%含む不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物を重合してなることを特徴とするセメント分散剤用重合体含有組成物。
【請求項2】
前記重合体含有組成物は、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)100質量%に対するポリアルキレングリコール(A)の含有量をα質量%、異性体(B)の含有量をβ質量%とした時、それらの含有量が、次の式(3)および式(4)を満足する不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物を重合してなることを特徴とする請求項1記載のセメント分散剤用重合体含有組成物。
3≦α+0.75×β≦8 (3)
1≦β≦4 (4)
【請求項3】
請求項1又は2記載のセメント分散剤用重合体含有組成物の製造方法であって、
該製造方法は、下記一般式(3);
【化3】

(式中、AOは炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nはオキシアルキレン基の平均付加モル数であって、2〜15の数である。)で示される不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(III)にアルキレンオキシドを付加する工程を含み、該付加反応工程の温度を80℃以上100℃未満の範囲とし、該付加反応工程に使用するアルカリ触媒の量を不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(III)とアルキレンオキシドとの総量に対して500〜3000ppmの範囲とすることを特徴とするセメント分散剤用重合体含有組成物の製造方法。
【請求項4】
下記一般式(1);
【化4】

(式中、AOは炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表し、mはオキシアルキレン基の平均付加モル数であって、25〜250の数である。)で示される不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)を含む組成物であって、
該単量体(I)含有組成物は、該不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)100質量%に対して、ポリアルキレングリコール(A)を1〜5質量%、該不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)における二重結合の位置が転移した異性体(B)を1〜5質量%含むことを特徴とする不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物。
【請求項5】
前記単量体(I)含有組成物は、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)100質量%に対するポリアルキレングリコール(A)の含有量をα質量%、異性体(B)の含有量をβ質量%とした時、それらの含有量が、次の式(3)および式(4)を満足することを特徴とする請求項4記載の不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物。
3≦α+0.75×β≦8 (3)
1≦β≦4 (4)
【請求項6】
請求項4又は5記載の不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物の製造方法であって、
該製造方法は、下記一般式(3);
【化5】

(式中、AOは炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nはオキシアルキレン基の平均付加モル数であって、2〜15の数である。)で示される不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(III)にアルキレンオキシドを付加する工程を含み、該付加反応工程の温度を80℃以上100℃未満の範囲とし、該付加反応工程に使用するアルカリ触媒の量を不飽和ポリアルキレングリコールエーテル(III)とアルキレンオキシドとの総量に対して500〜3000ppmの範囲とすることを特徴とする不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体(I)含有組成物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−87049(P2012−87049A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−13893(P2012−13893)
【出願日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【分割の表示】特願2011−526767(P2011−526767)の分割
【原出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】