説明

セメント混和材およびセメント組成物

【課題】 凝結遅延剤や亜硝酸塩を併用した場合でも、まだ固まらないセメントコンクリートの沈下を効果的に抑制でき、プラスティックひび割れの発生も抑制できるセメント混和材を提供する。
【解決手段】 過酸化物質50〜99.9部とアルミ粉0.1〜50部とを含有してなるセメント混和材であり、過酸化物質が、過炭酸塩及び/又は過ホウ酸塩である該セメント混和材であり、セメント混和材が、セメント100部に対して、0.01〜1である該セメント組成物であり、セメント100部、過酸化物質0.0005〜0.999部、及びアルミニウム粉0.00001〜0.5部を含有してなるセメント組成物を構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木・建築業界において使用されるセメント混和材およびセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントコンクリートは、任意の形状の、かつ、大きな構造物を造成することができ、しかも安価な材料である。
しかしながら、このようなセメントコンクリートにもいくつかの課題がある。そのひとつとして、まだ固まらないセメントコンクリートの沈下現象が挙げられる。
【0003】
型枠へ、セメントコンクリートを充填したり、既設のコンクリートや他の素材からできている構造物にセメントコンクリートを打ち継ぐ場合、まだ固まらないセメントコンクリートが沈下現象を起こすと、上面に隙間を生じ、既設の構造物と一体化が図られないという問題が生じてしまう。これを補う用途に用いられる材料としては、グラウト材がその代表といえる。
【0004】
従来、まだ固まらない状態のセメントコンクリートの沈下を防止する目的で、アルミニウム粉を配合したグラウト材が多く提案されている(特許文献1〜特許文献7参照)。
しかしながら、近年では、グラウト材に対する要求は益々高まっている。特に、多種多様な材料と併用するケースが多く見受けられ、例えば、急硬系のグラウト材では凝結遅延剤を併用したり、断面修復用途では、防錆材として亜硝酸塩を併用したりする。
凝結遅延剤や亜硝酸塩を併用すると、アルミニウム粉の発泡反応が阻害され、グラウト材の初期膨張が充分に発揮されないことが問題となっている。
【0005】
そこで、本発明者は、前記課題を解決すべく、種々の検討を重ねた結果、特定のセメント混和材が、凝結遅延剤や亜硝酸塩を併用した場合でも、まだ固まらないセメントコンクリートの沈下を効果的に抑制でき、初期膨張性を与えることができることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0006】
【特許文献1】特開平08−337455号公報
【特許文献2】特開2001−019523号公報
【特許文献3】特開2001−019528号公報
【特許文献4】特開2001−097759号公報
【特許文献5】特開2001−130943号公報
【特許文献6】特開2001−192251号公報
【特許文献7】特開2005−231981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、凝結遅延剤や亜硝酸塩を併用した場合でも、まだ固まらないセメントコンクリートの沈下を効果的に抑制できるセメント混和材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、過酸化物質50〜99.9部とアルミニウム粉0.1〜50部とを含有してなるセメント混和材であり、過酸化物質が、過炭酸塩及び/又は過ホウ酸塩である該セメント混和材であり、セメントと該セメント混和材とを含有してなるセメント組成物であり、セメント混和材が、セメント100部に対して、0.01〜1である該セメント組成物であり、セメント100部、過酸化物質0.0005〜0.999部、及びアルミニウム粉0.00001〜0.5部を含有してなるセメント組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、凝結遅延剤や亜硝酸塩を併用した場合でも、まだ固まらないセメントコンクリートの沈下を効果的に抑制でき、初期ひび割れ(プラスティックひび割れ)を抑制できるセメント混和材を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、セメントコンクリートとは、セメントペースト、モルタル、あるいはコンクリートを総称するものである。
なお、本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【0011】
本発明で使用する過酸化物質は特に限定されるものではないが、その具体例としては、例えば、過炭酸ナトリウムや過炭酸カリウムなどの過炭酸塩、過ホウ酸ナトリウムや過ホウ酸カリウムなどの過ホウ酸塩、過マンガン酸ナトリウムや過マンガン酸カリウムなどの過マンガン酸塩、及び過酸化水素等が挙げられ、これらの一種又は二種以上が使用可能である。これらのうち、過炭酸塩の使用が好ましい。
【0012】
本発明で使用するアルミニウム粉は特に限定されるものではない。
アルミニウム粉(以下、アルミ粉という)の製造法については、いろいろな方法があるが、現在は大きく分けて、スタンプミル法やボールミル法等のアルミニウムを機械的に粉化させる方法と、アトマイズ法と呼ばれる、アルミニウムを地金から溶湯し、直接粉化させる方法がある。
本発明では、さらに、アルミ粉の表面を改質したものも使用可能である。その具体例としては、ステアリン酸処理を施したものが挙げられる。
【0013】
過酸化物質とアルミ粉の配合割合は、過酸化物質とアルミ粉からなるセメント混和材100部中、過酸化物質は50〜99.9部で、アルミ粉は50〜0.1部であり、過酸化物質が70〜99.5部で、アルミ粉が30〜0.5部がより好ましい。過酸化物質が50部未満で、アルミ粉が50部を超えると、凝結遅延剤や亜硝酸塩を併用した場合に、まだ固まらないセメントコンクリートの沈下を効果的に抑制できない場合があり、過酸化物質が99.9部を超え、アルミ粉が0.1部未満では、継続的な初期膨張性が得られない場合がある。
【0014】
本発明のセメント混和材の使用量は特に限定されるものではないが、通常、セメントや、後述のその他の水硬性材料、潜在水硬性材料、及びポゾラン物質からなる結合材100部に対して、0.01〜1部が好ましく、0.1〜0.5部がより好ましい。0.01部未満では本発明の効果が充分に得られない場合があり、1部を超えて使用すると、使用目的にもよるが過膨張となる場合がある。
【0015】
本発明で使用するセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメント、石灰石粉末等や高炉徐冷スラグ微粉末を混合したフィラーセメント、並びに、各種の産業廃棄物を主原料として製造される環境調和型セメント、いわゆるエコセメントなどが挙げられ、これらのうちの一種又は二種以上が併用可能である。本発明では、初期強度発現性の面から、また、材料分離抵抗性の面から、早強セメントが好ましい。
【0016】
本発明では、過酸化物質、アルミ粉、及びセメントのほかに、急硬材や膨張材等の水硬性材料、炭素物質、凝結調整剤、高性能減水剤、及び高性能AE減水剤や、高炉水砕スラグ微粉末、フライアッシュ、及びシリカヒュームなどの潜在水硬性物質やポゾラン物質、石灰石微粉末、高炉徐冷スラグ微粉末、下水汚泥焼却灰やその溶融スラグ、都市ゴミ焼却灰やその溶融スラグ、パルプスラッジ焼却灰等の混和材料、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、及び収縮低減剤や、スチールファイバー、ビニロンファイバー、炭素繊維、及びワラストナイト繊維等の繊維物質、ポリマー、ベントナイトなどの粘土鉱物、並びに、ハイドロタルサイトなどのアニオン交換体等のうちの一種又は二種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0017】
本発明において、各材料の混合方法は特に限定されるものではなく、それぞれの材料を施工時に混合しても良いし、あらかじめ一部を、あるいは全部を混合しておいても差し支えない。
【0018】
混合装置としては、既存のいかなる装置も使用可能であり、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、及びナウタミキサなどの使用が可能である。
【実施例】
【0019】
以下、実施例、比較例を挙げてさらに詳細に発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
実験例1
表1に示す過酸化物質とアルミ粉を配合してセメント混和材を調製した。
調製したセメント混和材を、セメントからなる結合材100部に対して、0.3部、さらに、本発明の効果を明確にみるため、通常ではアルミ粉の発泡反応が阻害される亜硝酸リチウムを固形分換算で1部使用し、JIS R 5201に準じて、水/セメント比50%、セメントと細骨材の比率は1/3のモルタルを調製した。調製したモルタルの初期膨張収縮率を測定した。また、プラスティックひび割れの観察も行った。結果を表1に併記する。
【0021】
<使用材料>
セメント :市販の普通ポルトランドセメント、ブレーン比表面積3,000cm2/g
過酸化物質イ:試薬1級の過炭酸ナトリウム
過酸化物質ロ:試薬1級の過ホウ酸ナトリウム
過酸化物質ハ:試薬1級の過酸化物質イと過酸化物質ロの等量混合物
アルミ粉 :市販品、
亜硝酸リチウム:市販品、40%溶液
水 :水道水
細骨材 :JIS R 5201で用いる標準砂
【0022】
<測定方法>
初期膨張率:土木学会「膨張コンクリート設計施工指針(案)」付録2.付属書「膨張材を用いた充填モルタルの施工要領(案)」に従い測定。ただし、表中の−は収縮側、+は膨張側を示す。
圧縮強度 :モルタルを型枠に詰めて4cm×4cm×16cmの成形体を作成し、材齢3時間の圧縮強度をJIS R 5201に準じて測定。
初期ひび割れ:プラスティックひび割れ抵抗性、既設コンクリート上にモルタルを厚さ2cm×縦2m×横50cmの面積で打設し、送風機によって打設したモルタル表面に温風を吹き込んだ。材齢3時間後にひび割れの有無を観察した。不可は2本を超えてひび割れが発生、可はひび割れが1〜2本発生、良はひび割れの発生なし。
【0023】
【表1】

【0024】
実験例2
表2に示す過酸化物質とアルミ粉を配合してセメント混和材を調製した。
セメント75部と急硬材25部からなる結合材100部に対して、凝結遅延剤1部とセメント混和材0.3部を添加し、JIS R 5201に準じて、水/セメント比50%、セメントと細骨材の比率は1/3のモルタルを調製したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0025】
<使用材料>
急硬材 :アルミニウムノケイ酸カルシウムガラスと無水セッコウを主成分とする市販品
凝結遅延剤:炭酸塩と有機酸の混合物を主成分とする市販品
【0026】
【表2】

【0027】
実験例3
過酸化物質イ95部とアルミ粉5部からなるセメント混和材を調製した。
セメントからなる結合材100部に対して、表3に示すセメント混和材を使用したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0028】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のセメント混和材は、凝結遅延剤や亜硝酸塩を併用した場合でも、まだ固まらないセメントコンクリートの沈下を効果的に抑制でき、また、初期ひび割れ(プラスティックひび割れ)の抑制効果も発揮するため、橋脚の鋼板巻き立て工法、大型しゅう座の充填工法、その他の間隙充填、セルフレベリング床材等、土木および建築用途に広範に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化物質50〜99.9部とアルミニウム粉50〜0.1部とを含有してなるセメント混和材。
【請求項2】
過酸化物質が、過炭酸塩及び/又は過ホウ酸塩である請求項1に記載のセメント混和材。
【請求項3】
セメントと、請求項1又は請求項2に記載のセメント混和材とを含有してなるセメント組成物。
【請求項4】
セメント混和材が、セメント100部に対して、0.01〜1部である請求項3に記載のセメント組成物。
【請求項5】
セメント100部、過酸化物質0.005〜0.999部、及びアルミニウム粉0.00001〜0.5部を含有してなるセメント組成物。

【公開番号】特開2008−7333(P2008−7333A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176362(P2006−176362)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】