説明

セメント添加材及びセメント組成物

【課題】セメント組成物の水和熱を低下させ、流動性を向上させるとともに、製造(粉砕)が容易なセメント添加材を提供する。
【解決手段】2CaO・SiO2及び2CaO・Al23・SiO2を含有し、2CaO・SiO2 100質量部に対して、2CaO・Al23・SiO2+4CaO・Al23・Fe23が10〜100質量部であり、3CaO・Al23の含有量が20質量部以下で、かつ、容重が900〜1200g/Lである焼成物を粉砕してなるセメント添加材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物の水和熱を低下させ、流動性を向上させるとともに、粉砕が容易なセメント添加材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、廃棄物等を原料として大量に使用した焼成物を粉砕してなるセメント混和材として、2CaO・SiO2(C2S)と2CaO・Al23・SiO2(C2AS)を含有し、C2S 100質量部に対して、C2AS+4CaO・Al23・Fe23(C4AF)を10〜100質量部含有し、3CaO・Al23(C3A)の含有量が20質量部以下である焼成物を粉砕したものが知られている(特許文献1)。
【0003】
このセメント混和材は、セメント組成物の水和熱を低下させ、かつ流動性を向上させることができるものであるが、焼成物の被粉砕性が悪く、焼成物の粉砕に手間がかかるという問題があった。
【特許文献1】特開2004−2155号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、セメント組成物の水和熱を低下させ、流動性を向上させるとともに、製造(粉砕)が容易なセメント添加材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる実情において、本発明者らは、鋭意研究を行った結果、前記のような焼成物のうち、特定範囲の容重のものが、被粉砕性が良好で、容易に粉砕できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、C2S及びC2ASを含有し、C2S 100質量部に対して、C2AS+C4AFが10〜100質量部であり、C3Aの含有量が20質量部以下で、かつ、容重が900〜1200g/Lである焼成物を粉砕してなるセメント添加材を提供するものである。
また、本発明は、セメントと、当該セメント添加材を含有するセメント組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のセメント添加材は、焼成物の被粉砕性に優れるので、容易に製造(粉砕)することができる。本発明のセメント添加材を用いれば、水和熱が低く、かつ流動性が良好なセメント組成物を得ることができる。
さらに、本発明の添加材は、産業廃棄物、一般廃棄物等を原料として用いることができるので、廃棄物の有効利用の促進にも貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いる焼成物は、C2S及びC2ASを含有するもので、C2S100質量部に対して、C2AS+C4AFを10〜100質量部、好ましくは15〜90質量部含有するものである。C2AS+C4AF含有量が10質量部未満では、焼成時に焼成温度を上げてもフリーライム量(未反応CaO量)が低下しにくく、焼成が困難になり、また、生成するC2Sも水和活性のないγ型C2Sである可能性が高くなり、セメントの強度を大きく低下させることがある。一方、C2AS+C4AF含有量が100質量部を超えると、高温における融液が増加するため、焼成可能温度が狭まり、またC2Sが少ないため、セメント組成物の強度発現性が低下する。
なお、本発明においては、C2AS質量の70質量%以下がC4AFであるのが好ましい。C4AFがこの範囲を超えると、焼成の温度範囲が狭くなり、製造の管理が難しくなる。
【0009】
焼成物は、C2S100質量部に対するC3Aの含有量が20質量部以下、好ましくは10質量部以下である。20質量部を超えると、セメント組成物の水和熱が上昇し、流動性も悪化する。
【0010】
このような組成の焼成物の原料としては、一般のポルトランドセメントクリンカー原料、例えば、石灰石、生石灰、消石灰等のCaO原料;珪石、粘土等のSiO2原料;粘土等のAl23原料;鉄滓、鉄ケーキ等のFe23原料を使用することができる。
また、産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土から選ばれる1種以上を原料とし、これを焼成することにより製造することができる。産業廃棄物としては、例えば生コンスラッジ;下水汚泥、浄水汚泥、建設汚泥、製鉄汚泥等の各種汚泥;建設廃材、コンクリート廃材、ボーリング廃土、各種焼却灰、鋳物砂、ロックウール、廃ガラス、高炉2次灰などが挙げられ;一般廃棄物としては、例えば下水汚泥乾粉、都市ごみ焼却灰、貝殻等が挙げられる。また、建設発生土としては、建設現場や工事現場等から発生する土壌や残土、さらには廃土壌等が挙げられる。
【0011】
焼成物の鉱物組成は、使用原料中のCaO、SiO2、Al23、Fe23の各含有量(質量%)から、次式により求めることができる。
4AF=3.04×Fe2O3
3A=1.61×CaO−3.00×SiO2−2.26×Fe2O3
2AS=−1.63×CaO+3.04×SiO2+2.69×Al2O3+0.57×Fe2O3
2S=1.02×CaO+0.95×SiO2−1.69×Al2O3−0.36×Fe2O3
【0012】
従って、例えば、廃棄物原料中にカルシウムが不足する場合には、その不足分を調整するために、石灰石等を混合して用いることができる。混合割合は、廃棄物原料の組成に応じて、得られる焼成物の組成が、本発明の範囲内になるよう、適宜決定すれば良い。
【0013】
本発明においては、焼成物中のSO3量が0.5〜3質量%、特に0.7〜2質量%であるのが、焼成物の容重を900〜1200g/Lに調整するためや、焼成中のSO3の揮発の低減、カルシウムサルホアルミネートの生成を抑制するために好ましい。
SO3原料としては、廃石膏ボード、廃硫酸等の廃棄物原料を使用することができる。また、石膏も使用することができる。さらに、ペトコークス等の高硫黄含有燃料を使用することもできる。
なお、SO3を含む焼成物においては、カルシウムサルホアルミネートの含有量が1質量%以下、特に0.5質量%以下であるのが、セメント組成物の水和熱を低下させ、良好な流動性を得るために好ましい。
【0014】
これらを焼成する際の焼成温度は、1200〜1400℃、特に1250〜1370℃であるのが、焼成工程の熔融相の状態が良好であるので好ましい。
用いる装置は特に限定されず、例えばロータリーキルン等を用いることができる。また、ロータリーキルンで焼成する際には、燃料代替廃棄物、例えば廃油、廃タイヤ、廃プラスチック等を使用することができる。
【0015】
このような焼成により、C2ASが生成し、その分C3A量がBogue式から導かれる量よりも少なくなり、本発明のような組成の焼成物を得ることができる。
なお、本発明においては、焼成物中のフリーライム量は、セメント組成物の水和熱や流動性等の点から、1.5質量%以下、特に1質量%以下であるのが好ましい。
【0016】
なお、本発明においては、ロータリーキルンで焼成する際、キルンバーナの燃料量、空気量、キルン回転数及びキルン内通風量等を制御することによっても、焼成物の容重を900〜1200g/Lに調整することができる。
【0017】
本発明において、焼成物の容重は、900〜1200g/L、好ましくは950〜1150g/L、特に好ましくは970〜1130g/Lである。容重が900g/L未満では、セメント組成物の強度発現性が低下し、1200g/Lを超えると、焼成物の被粉砕性が悪くなり、セメント添加材の製造(粉砕)に手間がかかる。
【0018】
なお、本発明において、容重とは、図1に示す測定容器(内容積250mL)及び漏斗を用い、焼成物を、漏斗を用いて測定容器に充填したときの質量と、測定容器質量から次式により求められるものである。
【0019】
容重値(g/L)=(測定質量(g)−容器質量(g))×4.0
【0020】
より具体的には、測定容器及び漏斗は、図1に示す形状、寸法で、材質と厚さは特に制限されない。
JIS Z 8801に規定された標準網ふるい9.5mm及び4.75mm、又はこれらに準ずる板ふるいを用い、焼成物2kgをふるい分け、9.5mmふるいを通過し、4.75mmふるい残分の粒径の焼成物を試料とする。図2に示すように、測定容器中に挿入された漏斗上に焼成物試料を、すりきりいっぱいまで静かに注ぎ入れる。次に、注意して、静かに漏斗を引き上げる。なお、焼成物が漏斗脚部に詰まり、円滑に流れ落ちない場合は、試料を容器に充填する操作からやり直す。
【0021】
漏斗を引き上げた後、容器内の試料の表面は、その突出した部分と窪んだ部分が同じ程度になるよう、指先でならす。試料の充填が終了したら、容器とともにその質量を1g単位まで正確にはかりとり、前記式によって容重値を算出する。なお、容重測定は、原則として2回実施し、その平均を用いるが、2回の測定値の差は20g/L以内としなければならない。
【0022】
本発明のセメント添加材は、このような焼成物を粉砕してなるものである。焼成物の粉砕物100質量部に対して、石膏をSO3換算で6質量部以下含有させることもできる。
粉砕方法は特に制限されず、例えばボールミル等を用い、通常の方法で粉砕すれば良い。焼成物の粉砕物は、ブレーン比表面積が2500〜5000cm2/gであることが、モルタルやコンクリートのブリーディングの低減や、流動性、強度発現性の観点から好ましい。
【0023】
本発明のセメント組成物は、前記のような焼成物の粉砕物とセメントを混合することにより得られ、例えば、ポルトランドセメントクリンカー粉砕物100質量部に対して5〜100質量部混合することにより、得ることができる。混合量はセメントの種類によって異なるが、例えば普通ポルトランドセメントとして使用する場合は5〜50質量部、特に10〜40質量部混合するのが好ましく、低熱セメントとして使用する場合は50〜100質量部、特に66〜100質量部混合するのが好ましい。
【0024】
また、本発明のセメント組成物には石膏を配合することができ、セメント中に全SO3換算で1.5〜5質量%、特に2〜3.5質量%、更に2.5〜3質量%配合するのが、一般的な凝結性状が得られるので好ましい。石膏としては、特に制限されず、例えば二水石膏、α型又はβ型半水石膏、III型無水石膏、II型無水石膏等が挙げられ、これらを単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0025】
本発明のセメント組成物は、前記成分等を混合して製造することができるが、その方法は特に制限されず、例えば、ポルトランドセメントクリンカー、焼成物、石膏等の配合成分を、混合した後粉砕するか、あるいは各成分を粉砕した後に混合しても良い。また、焼成物と石膏を粉砕して得られたセメント添加材を、セメントクリンカー粉砕物と混合して製造することもできる。得られるセメント組成物は、ブレーン比表面積が2500〜4500cm2/gであることが、モルタルやコンクリートのブリーディングの低減や、流動性、強度発現性の観点から好ましい。
【実施例】
【0026】
次に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。
【0027】
実施例1
(1)焼成物の製造:
表1に示す化学組成の石灰石、下水汚泥及び廃石膏ボードを原料として、表2に示す容重及びSO3量の焼成物を製造した。焼成は、ロータリーキルンを用い、焼成温度1350℃で行なった。なお、焼成物の鉱物組成は、C2S:100質量部に対して、C2AS:51質量部、C4AF:37質量部、C3A:0質量部、フリーライム:0.6質量部、カルシウムサルホアルミネート:0質量部であった。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
(2)焼成物の粉砕性の評価:
焼成物を約5kg用意する。これを、下部間隔約10mmに調整した大型ジョークラッシャで粉砕する。粉砕した焼成物を、目開き9.52mmのふるいにかけ、ふるい上の試料に対し、更に下部間隔約3mmに調整した小型ジョークラッシャで粉砕する。得られたふるい通過分と小型ジョークラッシャで粉砕した試料を混ぜ合わせ、4.0kg秤量する。秤量した試料を、粉砕助剤のジエチレングリコール1.8mLとともにボールミルに加え、70rpmで500回転した後、50回転で払出をする。得られた粉砕物の0.6mm通過分(質量%)を測定した。結果を表3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
表3の結果より、容重が1200g/L以下の焼成物は、被粉砕性が良好であることがわかる。
【0033】
(3)セメント組成物の製造:
表2のNo.5、No.8又はNo.11の焼成物、普通ポルトランドセメントクリンカー(C3S:100質量部、C2S:25質量部、C4AF:14質量部、C3A:16質量部)、石膏(排脱二水石膏、住友金属社製)を用い、これらを表4に示す割合で混合し、バッチ式ボールミルでブレーン比表面積が3250±50cm2/gとなるように同時粉砕して、セメント組成物を製造した。
得られたセメント組成物について、水和熱、モルタルフロー及びモルタル圧縮強さを評価した。結果を表4に併せて示す。
【0034】
(評価方法)
(1)水和熱:
JIS R 5203に従って測定した。
(2)モルタルフロー:
W/C=0.35、S/C=2、セメント組成物に対して0.8質量%のポリカルボン酸系高性能AE減水剤を混合したものを、5分間混練したモルタルについて、JIS R 5201−1997に規定されているフローコーンを用い、JIS R 5201に従って、モルタルフローを測定した。
(3)モルタル圧縮強さ:
7日及び28日後のモルタル圧縮強さを、JIS R 5201に従って測定した。
【0035】
【表4】

【0036】
表4の結果より、本発明のセメント添加剤を含むセメント組成物では、水和熱が低く、かつ流動性が良好であることが分かる。これに対し、容重が低い(800g/L)焼成物No.11から製造したセメント添加材を用いたセメント組成物では、強度発現性が低かった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明において、容重を測定する際に用いる測定容器及び漏斗の形状及び寸法を示す図である。
【図2】本発明において、容重を測定する際、測定容器中に挿入された漏斗上に、焼成物を充填した状態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2CaO・SiO2及び2CaO・Al23・SiO2を含有し、2CaO・SiO2 100質量部に対して、2CaO・Al23・SiO2+4CaO・Al23・Fe23が10〜100質量部であり、3CaO・Al23の含有量が20質量部以下で、かつ、容重が900〜1200g/Lである焼成物を粉砕してなるセメント添加材。
【請求項2】
焼成物中のSO3量が0.5〜3質量%である請求項1記載のセメント添加材。
【請求項3】
焼成物の粉砕物100質量部に対して、石膏をSO3換算で6質量部以下含有する請求項1又は2記載のセメント添加材。
【請求項4】
焼成物が、産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土から選ばれる1種以上を原料とする請求項1〜3のいずれか1項記載のセメント添加材。
【請求項5】
セメントと、請求項1〜4のいずれか1項記載のセメント添加材を含有するセメント組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−37685(P2008−37685A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212808(P2006−212808)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】