説明

セメント組成物、ゴム組成物の接着方法及びタイヤ

【課題】特にゴム用接着剤として用いられた場合に、同種又は異種のゴム間の未加硫及び加硫後の接着性をさらに向上させることができるセメント組成物、それを用いるゴム組成物の接着方法、及び、セメント組成物又は接着方法を用いて製造したタイヤを提供することにある。
【解決手段】天然ゴムラテックスに極性基含有単量体をグラフト重合してなる変性天然ゴムラテックスを含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物、それを用いるゴム組成物の接着方法、及び、セメント組成物又は接着方法を用いて製造したタイヤに関し、より詳細には、同種又は異種のゴム間の未加硫及び加硫後の接着性を従来よりも向上させ、さらに、水系のものとすることで、環境負荷の低減及び作業者の安全性確保を容易にすることができるセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤの製造などにおいて複数のゴム部材を貼り合わせる際に、ゴム部材同士の充分な粘着力、接着力を確保するために、複数の未加硫のゴム部材の接合面に粘着性に優れたセメントを塗布し、これを乾燥させて接合することが行われている。このようなセメントとして、通常は、ゴム成分、充填剤、加硫促進剤などの通常のゴム組成物に有機溶剤を大量に配合したものが用いられている(例えば特許文献1〜3参照)。
【0003】
さらに、水系の接着剤として、特許文献4及び5では、カチオン性単量体を天然ゴムラテックスに共重合した新規な変性ゴムラテックス及びこれを含有するコールドシール接着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−179732号公報
【特許文献2】特開2008−144014号公報
【特許文献3】特開2007−269893号公報
【特許文献4】特開2000−319339号公報
【特許文献5】特開2001−49213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1〜3記載のゴムセメント組成物によりゴム同士の接着性を高めることが可能であるが、今日では、更なる接着力の向上が求められ、さらに、環境負荷の点などから溶剤系以外のセメント組成物の要求も高まっている。
また、特許文献4及び5の水系接着剤では、ゴム用接着剤として用いられた場合に、さらに高い接着性が要求されている。
【0006】
そこで、本発明の目的は、特にゴム用接着剤として用いられた場合に、同種又は異種のゴム間の未加硫及び加硫後の接着性をさらに向上させることができるセメント組成物、それを用いるゴム組成物の接着方法、及び、セメント組成物又は接着方法を用いて製造したタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ゴム成分として天然ゴムラテックスに極性基含有単量体をグラフト重合してなる変性天然ゴムラテックスを用い、これに水系溶媒を配合したセメント組成物を用いた際に、従来よりも同種又は異種のゴム間の未加硫及び加硫後の接着性をさらに向上させることが可能であることを見出した。
【0008】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下の通りである。
(1)本発明のゴム組成物は、天然ゴムラテックスに極性基含有単量体をグラフト重合してなる変性天然ゴムラテックスを含有することを特徴とする。
【0009】
(2)前記極性基含有単量体のグラフト量が、前記天然ゴムラテックスのゴム分に対し0.01〜5.0質量%であることを特徴とする上記(1)記載の水系セメント組成物。
【0010】
(3)前記極性基がアミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、含窒素複素環基および含酸素複素環基から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする上記(1)記載の水系セメント組成物。
【0011】
(4)前記変性天然ゴムラテックスは、乾燥ゴム分が20質量%以上であることを特徴とする上記(1)記載の水系セメント組成物。
【0012】
(5)カーボンブラック及び/又は樹脂をさらに含有することを特徴とする上記(1)の水系セメント組成物。
【0013】
(6)前記カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して20〜80質量部であることを特徴とする上記(5)記載の水系セメント組成物。
【0014】
(7)前記樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.1〜40質量部であることを特徴とする上記(5)記載の水系セメント組成物。
【0015】
(8)無機充填剤をさらに含有することを特徴とする上記(1)記載の水系セメント組成物。
【0016】
(9)前記無機充填剤が、シリカ及び/又は下記一般式(I)で表わされる無機化合物であることを特徴とする上記(8)記載の水系セメント組成物。
M・xSiO・yH
(式中のMは、Al、Mg、Ti及びCaから選択される少なくとも1種の金属酸化物又は金属水酸化物であり、x、yは共に0〜10の整数である。)
【0017】
(10)シランカップリング剤をさらに含有することを特徴とする上記(9)記載の水系セメント組成物。
【0018】
(11)上記(1)〜(10)のいずれか1項に記載のセメント組成物を用いて、ゴム組成物同士を接着させることを特徴とするゴム組成物の接着方法。
【0019】
(12)前記接着するゴム組成物の少なくとも1つがシリカを含有するゴム組成物であることを特徴とする上記(11)記載のゴム組成物の接着方法。
【0020】
(13)上記(1)〜(10)のいずれか1項に記載のセメント組成物を用いたことを特徴とするタイヤ。
【0021】
(14)上記(11)又は(12)に記載のゴム組成物の接着方法を用いて製造したことを特徴とするタイヤ。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、従来と比べて、同種又は異種のゴム間の未加硫及び加硫後の接着性をさらに向上させることが可能なセメント組成物を提供できるという有利な効果を奏する。また、本発明によれば、ゴム組成物同士の剥離強力が従来よりも向上したゴム組成物の接着方法及びタイヤを提供することができるという有利な効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明のセメント組成物は、ゴム成分として、天然ゴムラテックスに極性基含有単量体をグラフト重合してなる変性天然ゴムラテックスを含有することを特徴とする。本発明のセメント組成物において上記変性天然ゴムラテックスをゴム成分として用いることによって、本発明のセメント組成物をゴム部材同士の接着に用いた際に、接合面に塗布したセメント層の補強性が向上して接着性を向上させ、加硫後のゴム部材間の剥離強力を向上させることが可能となる。さらに、前記変性天然ゴム中の極性基により、シリカとの親和性が向上するため、シリカを配合したゴムを接着するのにも有効となる。
【0024】
本発明に用いる変性天然ゴムラテックスについて以下に説明する。グラフト重合する前の天然ゴムラテックスについては、通常用いられるものであって、例えば、フィールドラテックス、アンモニア処理ラテックス、遠心分離濃縮ラテックス、界面活性剤や酵素で処理した脱蛋白ラテックス及びこれらを組み合わせたもの等を挙げることができる。
【0025】
本発明に用いる極性基含有単量体としては、分子内に少なくとも一つの極性基を有する単量体であれば特に制限されない。極性基の具体例としては、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、含窒素複素環基及び含酸素複素環基を好適に挙げることができる。これら極性基を含有する単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種又はそれ以上組み合わせて用いることができる。
【0026】
前記アミノ基含有単量体としては、1分子中に第1級、第2級及び第3級アミノ基から選ばれる少なくとも1つのアミノ基を有する重合性単量体がある。その中でも、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート等のような第3級アミノ基含有単量体が特に好ましい。これらアミノ基含有単量体は単独で、若しくは2種又はそれ以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
第1級アミノ基含有単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、4−ビニルアニリン、アミノメチル(メタ)アクリレート、アミノエチル(メタ)アクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、アミノブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0028】
第2級アミノ基含有単量体としては、(1)アニリノスチレン、β−フェニル−p−アニリノスチレン、β−シアノ−p−アニリノスチレン、β−シアノ−β−メチル−p−アニリノスチレン、β−クロロ−p−アニリノスチレン、β−カルボキシ−p−アニリノスチレン、β−メトキシカルボニル−p−アニリノスチレン、β−(2−ヒドロキシエトキシ)カルボニル−p−アニリノスチレン、β−ホルミル−p−アニリノスチレン、β−ホルミル−β−メチル−p−アニリノスチレン、α−カルボキシ−β−カルボキシ−β−フェニル−p−アニリノスチレン等のようなアニリノスチレン類、(2)アニリノフェニルブタジエン、1−アニリノフェニル−1,3−ブタジエン、1−アニリノフェニル−3−メチル−1,3−ブタジエン、1−アニリノフェニル−3−クロロ−1,3−ブタジエン、3−アニリノフェニル−2−メチル−1,3−ブタジエン、1−アニリノフェニル−2−クロロ−1,3−ブタジエン、2−アニリノフェニル−1,3−ブタジエン、2−アニリノフェニル−3−メチル−1,3−ブタジエン、2−アニリノフェニル−3−クロロ−1,3−ブタジエン等のアニリノフェニルブタジエン類、(3)N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド等のN−モノ置換(メタ)アクリルアミド類等が挙げられる。
【0029】
第3級アミノ基含有単量体としては、N,N−ジ置換アミノアルキルアクリレート、N,N−ジ置換アミノアルキルアクリルアミド及びピリジル基を有するビニル化合物等が挙げられる。
【0030】
N,N−ジ置換アミノアルキルアクリレートとしては、たとえばN,N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノブチル(メタ)アクリレート、N−メチル−N−エチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジブチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジブチルアミノブチル(メタ)アクリレート、N,N−ジヘキシルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジオクチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン等のアクリル酸又はメタクリル酸のエステル等が挙げられる。特に、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジオクルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−メチル−N−エチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が好ましい。
【0031】
N,N−ジ置換アミノアルキルアクリルアミドとしては、たとえばN,N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、N―メチル―N−エチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジヘキシルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジヘキシルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジオクチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド化合物又はメタクリルアミド化合物等が挙げられる。特に、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジオクチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等が好ましい。
【0032】
また、アミノ基の代わりに含窒素複素環基であってもよい。含窒素複素環としては、たとえばピロール、ヒスチジン、イミダゾール、トリアゾリジン、トリアゾール、トリアジン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、インドール、キノリン、プリン、フェナジン、プテリジン、メラミン等が挙げられる。含窒素複素環は、他のヘテロ原子を環中に含んでいてもよい。
【0033】
ピリジル基を有するビニル化合物としては、たとえば2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、5−メチル−2−ビニルピリジン、5−エチル−2−ビニルピリジン等が挙げられる。特に、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン等が好ましい。
【0034】
ニトリル基含有単量体としては、(メタ)アクリロニトリル、シアン化ビニリデン等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上併用してもよい。
【0035】
ヒドロキシル基含有単量体としては、1分子中に少なくとも1つの第1級、第2級及び第3級ヒドロキシル基を有する重合性単量体が挙げられる。かかる単量体としては、たとえばヒドロキシル基含有不飽和カルボン酸系単量体、ヒドロキシル基含有ビニルエーテル系単量体、ヒドロキシル基含有ビニルケトン系単量体等がある。このようなヒドロキシル基含有単量体の具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のようなポリアルキレングリコール(アルキレングリコール単位数が、たとえば2−23である)のモノ(メタ)アクリレート類;N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ビス(2−ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド等のヒドロキシル基含有不飽和アミド類;o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、o−ヒドロキシ―α―メチルスチレン、m−ヒドロキシ―α―メチルスチレン、p−ヒドロキシ―α―メチルスチレン、p−ビニルベンジルアルコール等のヒドロキシル基含有ビニル芳香族化合物類;(メタ)アクリレート類がある。これらの中で、ヒドロキシル基含有不飽和カルボン酸系単量体、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、ヒドロキシル基含有ビニル芳香族化合物が好ましく、特にヒドロキシル基含有不飽和カルボン酸系単量体が好ましい。ヒドロキシル基含有不飽和カルボン酸系単量体としては、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のエステル、アミド、無水物等の誘導体であり、特にアクリル酸、メタクリル酸等のエステル化合物が好ましい。
【0036】
カルボキシル基含有単量体としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、テトラコン酸、桂皮酸等の不飽和カルボン酸類;又はフタル酸、琥珀酸、アジピン酸等の非重合性多価カルボン酸と、(メタ)アリルアルコール、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有不飽和化合物とのモノエステルのような遊離カルボキシル基含有エステル類及びその塩等が挙げられる。これらの中で、不飽和カルボン酸類が特に好ましい。かかる単量体は単独で用いるか、又は2種以上併用してもよい。
【0037】
エポキシ基含有単量体としては、(メタ)アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−オキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等があげられる。これら単量体は単独で用いるか、又は2種以上併用してもよい。
【0038】
グラフト重合用の開始剤としては、特に限定はなく種々の開始剤、たとえば乳化重合用の開始剤を用いることができ、その添加方法についても特に限定はない。一般に用いられる開始剤の例としては、過酸化ベンゾイル、過酸化水素、クメンヒドロパーオキサイド、tert−ブチルヒドロパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ヒドロクロライド、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。なお、重合温度を低減させるためには、レドックス系の重合開始剤を用いるのが好ましい。かかるレドックス系重合開始剤に用いる過酸化物と組合せる還元剤としては、たとえばテトラエチレンペンタミン、メルカプタン類、酸性亜硫酸ナトリウム、還元性金属イオン、アスコルビン酸等が挙げられる。特に、tert−ブチルヒドロパーオキサイドとテトラエチレンペンタミンとの組合せがレドックス系重合開始剤として好ましい。
【0039】
本発明で行うグラフト重合は、前記極性基含有単量体を天然ゴムラテックス中に添加し、所定の温度で撹拌しながら重合する一般的な乳化重合である。予め極性基含有単量体に水と乳化剤を加え、十分に乳化させたものを天然ゴムラテックス中に添加してもよいし、極性基含有単量体を直接天然ゴムラテックス中に添加し、必要に応じて単量体の添加前又は添加後に乳化剤を添加してもよい。乳化剤としては、特に限定されず、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のようなノニオン系の界面活性剤が挙げられる。
【0040】
充填剤と配合した時に加工性を低下させることなく、接着性を向上させることを考慮すると、天然ゴムの分子に対し、満遍なく少量の極性基を導入することが重要であるため、前記重合開始剤の添加量は、極性基含有単量体100モルに対し1〜100モル%が好ましく、10〜100モル%がより好ましい。上述した各成分を反応容器に仕込み、30〜80℃で10分〜7時間反応させてグラフト重合を行うことにより、変性天然ゴムラテックスが得られる。このようにして得た変性天然ゴムラテックスを凝固し、洗浄後、真空乾燥機、エアドライヤー、ドラムドライヤー等の乾燥機を用いて乾燥することにより変性天然ゴムが得られる。
【0041】
本発明に係る変性天然ゴムにおいて、極性基含有単量体のグラフト量は天然ゴムラテックスのゴム分に対し0.01〜5.0質量%が好ましく、0.01〜3.0質量%、さらには0.05〜1.5質量%がより好ましい。極性基含有単量体のグラフト量を0.01質量%以上にすることで、目的の効果を達成することができる。また、グラフト量を5.0質量%以下にすることで、反応中にゲル分が増加することなく、接着性を維持することができる。
【0042】
本発明のセメント組成物は、ゴム成分として上述した変性天然ゴムを含有する。該変性天然ゴムの含有量は少なくとも20質量%含有することが好ましく、30〜100質量%含有することがより好ましく、50〜100質量%含有することが更に好ましい。含有量を20質量%とすることで、セメントとしての接着性改良効果を得ることができる。
【0043】
変性天然ゴムと併用するゴム成分としては、通常の天然ゴム及びジエン系合成ゴムが挙げられる。ジエン系合成ゴムとしては、たとえばスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、ポリブタジエン(BR)、ポリイソプレン(IR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン―プロピレン共重合体及びこれらの混合物等がある。
【0044】
また、前記天然ゴムラテックスは、接着性確保の点から、乾燥ゴム分が20質量%以上であることが好ましく、同様の理由から、グラフト重合された変性天然ゴムラテックスについても、乾燥ゴム分を20%以上含有することが好ましい。
【0045】
さらに、本発明のセメント組成物は、カーボンブラック及び/又は樹脂をさらに含有することが好ましい。加硫接着時の強度を高めるためである。前記カーボンブラックの種類としては、例えば、GPF、FEF、SRF、HAF、ISAF、SAFグレードのもの等が挙げられる。なお、これら充填剤は、一種単独で用いてもよし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
また、充填剤としてカーボンブラックを用いる場合、本発明のセメント組成物におけるカーボンブラックの含量は、ゴム成分100質量部に対して20〜80質量部が好ましく、30〜50質量部がより好ましい。含量を20質量部以上とすることで、加硫接着時の強度を十分に保つことができる。また、含量を80質量部以下とすることで、セメント組成物の粘度を適切に保つことができるため、加工性を良好に発揮できる。
【0047】
本発明のセメント組成物に用いる樹脂としては、フェノール樹脂、テルペン系樹脂、変性テルペン系樹脂、水添テルペン系樹脂、ロジン系樹脂及びクマロン−インデン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、ゴムと相溶性が良いことから、フェノール樹脂が好ましい。なお、これら樹脂は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。また、樹脂の含量は、目的の性能を充分に得るためには、ゴム成分100質量部に対して0.1〜100質量部が好ましく、0.1〜40質量部がより好ましい。
【0048】
さらに、本発明のセメント組成物は、シリカ及び/又は所定の無機化合物からなる無機充填剤をさらに含有することが好ましい。上記の無機充填剤に対して、極性基との相互作用による補強性及び分散性を得られるためである。
【0049】
前記シリカについては、狭義の二酸化珪素のみを示すものではなく、ケイ酸系充填剤を意味し、具体的には、無水ケイ酸の他に、含水ケイ酸、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等のケイ酸塩を含む。また、本発明のセメント組成物中のシリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して5〜95質量部、より好ましくは15〜80質量部である。シリカの含有量を上記範囲とすることにより、ゴム組成物と共に用いた場合に、優れた氷上性能およびWET性能を得ることができる。
【0050】
さらに、前記無機充填剤としてシリカを用いる場合、補強性及び分散性を向上させる点から、シランカップリング剤を含有することが好ましい。該シランカップリング剤としては、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、ビス(3−ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド等が挙げられ、これらの中でも、補強性改善効果の観点から、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド及び3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィドが好ましい。これらシランカップリング剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
本発明において、該シランカップリング剤の含有量は、前記無機化合物とシリカの合計量に対して、4〜15質量%の割合で含有することが好ましい。
【0051】
また、前記無機化合物は、例えば下記一般式(I)で表わされる。
M・xSiO・yHO・・・(I)
(式中のMは、Al、Mg、Ti及びCaから選択される少なくとも1種の金属酸化物又は金属水酸化物であり、x、yは共に0〜10の整数である。)
式(I)の無機化合物を含有することで、所望の補強性及び分散性を得ることが可能となる。
【0052】
上記一般式(I)で表される無機化合物の具体例としては、アルミナ(Al23)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、酸化マグネシウム(MgO2)、チタン白(TiO2)、チタン黒(TiO2n-1)、タルク(3MgO・4SiO2・H2O)、アタパルジャイト(5MgO・8SiO2・9H2O)、クレー(Al23・2SiO2)、カオリン(Al23・2SiO2・2H2O)、パイロフィライト(Al23・4SiO2・H2O)、ベントナイト(Al23・4SiO2・2H2O)等が挙げられる。また、ケイ酸マグネシウムカルシウム(CaMgSiO4)、ケイ酸マグネシウム(MgSiO3)も同等の効果を発揮する。
【0053】
さらに、前記無機化合物は、その平均粒径が50μm以下、好ましくは、1〜30μm、であることが好ましい。さらに前記無機化合物の粒度分布が2〜30μmの粒径成分を65%以上占めることが好ましい。平均粒径の大きな無機化合物を用いることによって、ゴム組成物とともにタイヤに用いられた場合に、優れたWET性能及び氷上性能得ることができるためである。粒径の大きな前記無機化合物は、タイヤ走行中に組成物から脱離し大きな空間ができるため、発泡ゴム層の独立気泡と前記空間とがあいまって更なる水路を確保することができる結果、氷上性能が向上する。
また、前記無機化合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して5〜50質量部であることが好ましく、5〜25質量部であることがより好ましい。含有量を上記範囲とすることで、耐摩耗性を維持することができるためである。
【0054】
本発明のセメント組成物には、上述のゴム成分、カーボン、樹脂、無機充填剤及びシランカップリング剤の他に、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、老化防止剤、軟化剤、ステアリン酸、亜鉛華、加硫促進剤、加硫剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。本発明のセメント組成物は、ゴム成分に、必要に応じて適宜選択した各種配合剤を配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0055】
また、本発明にセメント組成物は、前記変性天然ゴムラテックスと、上述のカーボン、樹脂又は無機充填剤等を含有する水分散スラリー液とを混合してなることが好ましい。ここで、前記水分散スラリー液とは、上述のカーボン、樹脂又は無機充填剤等の配合剤と、水系の溶媒との混合物のことをいう。前記水系の溶媒については、前記前記変性天然ゴムラテックスと混合して、所望の水系セメント組成物を形成できるものであればよく、例えば、水、アルコール、又はこれらの混合物等が用いられる。
【0056】
さらに、変性天然ゴムラテックスのゴム成分は、15〜60質量%の範囲であることが好ましい。15質量%以上とすることで、変性天然ゴムラテックスの効果を発揮することができる。また、60質量%とすることで、ゲルの発生量を少なく保てるため、充填剤を十分に分散させることができる。
【0057】
また、前記水分散スラリー液の調製は、例えば、高速せん断ミキサー等を用いることで行われる。高速せん断ミキサーとは、ローターとステーター部からなるせん断ミキサーであって、高速で回転するローターと、固定されたステーターが狭いクリアランスで設置され、ローターの回転によって高いせん断速度を生み出す。ここで、高速せん断とは、せん断速度が2000/s以上、好ましくは4000/s以上を意味する。
実際の高速せん断ミキサーとしては、例えば、特殊機化工業社製ホモミキサー、独PUC社製コロイドミル、独キャビトロン社製キャビトロン、英シルバーソン社製ハイシアーミキサー等が挙げられる。
【0058】
前記高速せん断ミキサーを用いて得られた水分散スラリー液の特性としては、スラリー液中の前記各配合剤の粒度分布が、体積平均粒子径(mv)が25μm以下、90体積%粒径(D90)が30μm以下であり、かつスラリー液から回収された乾燥配合剤の24M4DBP吸油量は、分散溶媒に分散させる前の24M4DBP吸油量の93%以上であることが好ましい。ここで、24M4DBP吸油量とは、ISO6894に準拠して測定される値である。
【0059】
さらに、前記配合剤は、体積平均粒子径(mv)が20μm以下で、かつ90体積%粒径(D90)が25μm以下であることがより好適である。前記配合剤の粒度を適切にすることで、セメント組成物中の分散を良好にし、補強性及び耐摩耗性を高めることができる。
一方、前記配合剤の粒度を小さくするために、スラリーに過度のせん断力をかけると、前記配合剤のストラクチャーが破壊され、補強性の低下を引き起こす恐れがある。そのため、前記スラリー液から回収された乾燥配合剤の24M4DBP吸油量が、分散溶媒に分散させる前の配合剤の24M4DBP吸油量の93%以上であることが好ましく、96%以上であることがより好ましい。
【0060】
また、前記水分散スラリー液において、前記配合剤の濃度は、10〜25質量%の範囲とすることが好ましく、10〜20質量%の範囲とすることがより好適である。前記配合剤の濃度が10〜20質量%の範囲とすることで、配合剤の量が適切な範囲となるため、作業上の問題を生じさせることなく、スラリー液を使用できる。
【0061】
なお、前記水分散スラリー液と、前記変性天然ゴムラテックスとの混合は、例えば、ホモミキサー中にスラリー液を入れ、攪拌した状態で、前記変性天然ゴムラテックスを混合する方法や、逆に前記変性天然ゴムラテックスを混合した状態で、前記スラリー液を滴下する方法が用いられる。また、一定の流量割合をもつ水分散スラリー流と、変性天然ゴムらテックス流とを、激しい水力攪拌の条件下で混合する方法によって行われる。
【0062】
なお、本発明のセメント組成物は、例えば、タイヤを構成するゴム組成物同士の接着に好適に用いることができる。本発明のセメント組成物は、上記変性天然ゴムラテックスを含有することによって、補強性が向上して、接着面での接着性を向上させるのと同時に、加硫前粘着性を同等に維持することができ、加硫後の剥離強力を向上させることができる。また、本発明のセメント組成物を用いて充填剤としてシリカを配合したゴムを接着させる場合、上記変性天然ゴムに導入された極性基によりゴム成分とシリカとの親和性が向上し、接着力を強化することができる。
【0063】
本発明のゴム組成物同士の接着方法は、上記のセメント組成物を用いることを特徴とする。本発明の接着方法は、従来よりも接着力を向上させた本発明のセメント組成物を用いることによって、同種又は異種のゴム組成物同士をより効果的に接着することができる。本発明のゴム組成物同士の接着方法において、ゴム組成物同士の接着は、例えば、本発明のセメント組成物をゴム組成物同士を接着させる面にハケ等を使用して塗布し、次いで、本発明のセメント組成物を塗布したゴム組成物同士を接合させた後、本発明のセメント組成物に含まれる有機溶剤を揮発させることによりゴム組成物同士を接着させ、さらに加硫することによって行うことができる。なお、本発明の接着方法は、シリカを含有するゴム組成物をより効果的に接着させることができることから、接着するゴム組成物の少なくとも1つがシリカを含有するゴム組成物であることが好ましい。
【0064】
本発明のタイヤは、本発明のセメント組成物を用いるか、又は本発明のゴム組成物の接着方法を用いて製造することを特徴とする。上記セメント組成物を用いたタイヤ及び上記接着方法を用いて製造されたタイヤは、そのタイヤを構成するゴム部材同士の接着力及び剥離強力に優れ、特に接着するゴム部材のいずれかがシリカを含有する場合において、従来よりもゴム部材同士の接着力が向上している。なお、本発明のタイヤは、ゴム部材同士の接着に本発明のセメント組成物又は本発明の接着方法を用いること以外特に制限は無く、常法に従って製造することができる。また、該タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0065】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
<製造例1>
(1)天然ゴムラテックスの変性反応工程
フィールドラテックスをラテックスセパレーター(斎藤遠心工業製)を用いて回転数7500rpmで遠心分離して乾燥ゴム濃度60質量%の濃縮ラテックスを得た。この濃縮ラテックス1000gを、撹拌機、温調ジャケットを備えたステンレス製反応容器に投入し、予め10mlの水と90mgの乳化剤(エマルゲン1108,花王株式会社製)をN,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート3.0gに加えて乳化したものを240mlの水とともに添加し、これらを窒素置換しながら30分間撹拌した。次いで、重合開始剤としてtert−ブチルヒドロパーオキサイド1.2gとテトラエチレンペンタミン1.2gとを添加し、40℃で30分間反応させることにより、変性天然ゴムラテックスを得た。なお、得られた変性天然ゴムラテックス中のゴム成分の割合は48質量%である。
【0067】
(2)極性基導入の確認
次いで、ギ酸を添加してpHを4.7に調整することにより、変性天然ゴムラテックスを凝固させた。このようにして得た固形物をクレーパーで5回処理し、シュレッダーに通してクラム化し、熱風式乾燥機により110℃で210分間乾燥して変性天然ゴムラテックスAを得た。このようにして得た変性天然ゴムラテックスAの重量から極性基含有単量体としてのN,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートの転化率は100%であることが確認された。また、該変性天然ゴムラテックスAを石油エーテルで抽出し、さらにアセトンとメタノールの2:1混合溶媒で抽出することによりホモポリマーの分離を行ったところ、抽出物の分析からホモポリマーは検出されず、添加した単量体の100%が天然ゴム分子に導入されていることを確認した。
【0068】
<製造例2〜8>
3.0gのN,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートの代わりに、製造例2では2−ヒドロキシエチルメタクリレートを2.1g、製造例3では4−ビニルピリジンを1.7g、製造例4ではイタコン酸を2.1g、製造例5ではメタクリル酸を1.4g、製造例6ではアクリロニトリルを1.7g、製造例7ではグリシジルメタクリレートを2.3g、製造例8ではメタクリルアミドを2.8g用いた以外、製造例1と同じ処理を行って変性天然ゴムラテックスB,C,D,E,F,G,Hをそれぞれ得た。製造例1と同様な方法により変性天然ゴムラテックスB−Hを分析したところ、添加した単量体の100%が天然ゴム分子に導入されていることを確認した。
【0069】
<製造例9>
極性基含有単量体の添加量を60.0g、乳化剤を1.8g、tert−ブチルヒドロパーオキサイドの量を0.6g、テトラエチレンペンタミンの量を0.6g、反応時間を2時間に変えた以外、製造例1と同じ処理を行って変性天然ゴムラテックスIを得た。製造例1と同様な方法により変性天然ゴムラテックスIを分析したところ、単量体の転化率は98.2%であることを確認した。また、抽出によりホモポリマーの量を分析したところ、単量体の4.8%があることを確認した。
【0070】
<製造例10>
N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートの代わりに、2−ヒドロキシエチルメタクリレートを用いた以外、製造例9と同じ処理を行って変性天然ゴムラテックスJを得た。製造例1と同様な方法により変性天然ゴムラテックスJを分析したところ、単量体の転化率は98.7%であることを確認した。また、抽出によりホモポリマーの量を分析したところ、単量体の4.1%があることを確認した。
【0071】
<製造例11>
天然ゴムラテックスを、変性することなく、水を加えて天然ゴムラテックスKを得た。
【0072】
<製造例12>
天然ゴムラテックスを、変性することなく、凝固−乾燥して、天然ゴムLを得た。
【0073】
<製造例13>
天然ゴムラテックスを、製造例1と同様に変性し、凝固−乾燥して、変性天然ゴムMを得た。
【0074】
【表1】

【0075】
次に、表2に示す配合処方のゴム組成物を、表2記載の配合成分を配合することによって調製した。製造例1〜11の変性天然ゴムラテックス又は天然ゴムラテックスに対しては、水分散スラリー(表2の天然ゴム以外の配合成分からなる)との混合、製造例12、13の天然ゴムに対しては、表2の天然ゴム、水以外の配合成分をバンバリーミキサーによる混練にて配合し、300質量部のゴム揮発油に溶解させた。得られたセメント組成物について、表3に示す配合処方のカーボンブラック配合のゴム組成物同士の接着及び表4に示すシリカ配合ゴム組成物同士の接着における接着性及び耐亀裂成長性を以下に示す方法で評価した。また、得られたセメント組成物を用いて、表3に示す配合処方のカーボンブラック配合のゴム組成物及び表4に示す配合処方のシリカ配合ゴム組成物からなるトレッドに対する成形作業性、経時タック、逆バフがけを以下に示す方法で評価した。カーボンブラック配合のゴム組成物同士の接着及び該ゴム組成物からなるトレッドに対する結果を表5に、シリカ配合ゴム組成物同士の接着及び該ゴム組成物からなるトレッドに対する結果を表6に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
(1)未加硫接着性
未加硫での接着性の評価は、室温にてピックアップ式タッキネス計((株)東洋精機製作所製、製品名:PICMA タックテスタ)を用いて測定した。結果は、実施例1〜11、比較例1〜4では比較例1を100とし、実施例12〜22、比較例5〜8では比較例4を100としたときの指数で表した。数値が大きいほど接着性が良好であることを示す。
【0080】
(2)加硫接着性
加硫後の接着性の評価は、未加硫ゴムの塗布面同士を貼り合わせた後、145℃、30分で加硫し、1cm幅の試験片を打ち抜き、引張試験機を用いて接着面の剥離強度をストログラフを用いて測定するピーリングテストを行った。実施例1〜11、比較例1〜4では比較例1の剥離強度を100とし、実施例12〜22、比較例5〜8では比較例4の剥離強度を100としたときの指数で表した。数値が大きいほど接着性が良好であることを示す。
【0081】
(3)耐亀裂成長性
JIS K6260に準拠して、40℃の温度条件で加硫ゴム組成物サンプルの亀裂成長試験を行った。結果は、実施例1〜10、比較例1〜5では比較例2を100とし、実施例11〜20、比較例6〜10では比較例7を100としたときの指数で表した。数値が大きいほど接着性が良好であることを示す。
【0082】
(4)成形作業性
各セメント組成物を塗布した各トレッドを用いてそれぞれのタイヤ成形時に貼合わせ部の貼り合わせやすさを評価した。
【0083】
(5)経時タック
各タイヤ成形後1時間後にトレッドのトレッドスプライス部の合わせ不良の有無を目視で評価した。
【0084】
(6)逆バフがけ
加硫後の各タイヤについて、トレッドのスプライス部にスプライス部を剥がす方向に回転式グラインダーをかけ、表面を削ったときのスプライス部の剥がれ、界面の露出具合を評価した。
【0085】
【表5】

【0086】
【表6】

【0087】
表5及び6のそれぞれにおける実施例と比較例の比較から、天然ゴムラテックスに代えて極性基含有単量体で変性した変性天然ゴムラテックスを用いたセメント組成物を用いて、カーボンブラック配合ゴム組成物同士の接着、及びシリカ配合ゴム組成物同士との接着を行った場合、そのいずれにおいても、未加硫接着性、加硫接着性及び耐亀裂成長性を改善でき、さらに、当該変性天然ゴムを含有するセメント組成物を用いてカーボンブラック配合ゴム組成物及びシリカ配合ゴム組成物からなるトレッドを製造した際、成形作業性、経時タック及び逆バフがけのいずれについても良好であることがわかった。
また、実施例の水系セメントの機能及び作業性については、従来の溶剤系セメントと比較した場合も、何ら遜色がないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、特にゴム用接着剤として用いられた場合に、同種又は異種のゴム間の未加硫及び加硫後の接着性をさらに向上させることができるセメント組成物、それを用いるゴム組成物の接着方法、及び、セメント組成物又は接着方法を用いて製造したタイヤを提供することが可能となった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムラテックスに極性基含有単量体をグラフト重合してなる変性天然ゴムラテックスを含有することを特徴とする水系セメント組成物。
【請求項2】
前記極性基含有単量体のグラフト量が、前記天然ゴムラテックスのゴム分に対し0.01〜5.0質量%であることを特徴とする請求項1記載の水系セメント組成物。
【請求項3】
前記極性基がアミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、含窒素複素環基および含酸素複素環基から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1記載の水系セメント組成物。
【請求項4】
前記変性天然ゴムラテックスは、乾燥ゴム分が20質量%以上であることを特徴とする請求項1記載の水系セメント組成物。
【請求項5】
カーボンブラック及び/又は樹脂をさらに含有することを特徴とする請求項1記載の水系セメント組成物。
【請求項6】
前記カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して20〜80質量部であることを特徴とする請求項5記載の水系セメント組成物。
【請求項7】
前記樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.1〜40質量部であることを特徴とする請求項5記載の水系セメント組成物。
【請求項8】
無機充填剤をさらに含有することを特徴とする請求項1記載の水系セメント組成物。
【請求項9】
前記無機充填剤が、シリカ及び/又は下記一般式(I)で表わされる無機化合物であることを特徴とする請求項8記載の水系セメント組成物。
M・xSiO・yHO・・・(I)
(式中のMは、Al、Mg、Ti及びCaから選択される少なくとも1種の金属酸化物又は金属水酸化物であり、x、yは共に0〜10の整数である。)
【請求項10】
シランカップリング剤をさらに含有することを特徴とする請求項9記載の水系セメント組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のセメント組成物を用いて、ゴム組成物同士を接着させることを特徴とするゴム組成物の接着方法。
【請求項12】
前記接着するゴム組成物の少なくとも1つがシリカを含有するゴム組成物であることを特徴とする請求項11記載のゴム組成物の接着方法。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のセメント組成物を用いたことを特徴とするタイヤ。
【請求項14】
請求項11又は12に記載のゴム組成物の接着方法を用いて製造したことを特徴とするタイヤ。


【公開番号】特開2011−241363(P2011−241363A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117440(P2010−117440)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】