説明

セメント組成物

【課題】都市ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造したセメント組成物であって、流動性に優れ、かつ、所望の流動性を一定時間維持しうるセメント組成物を提供する。
【解決手段】都市ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造した焼成物の粉砕物、石膏、高炉スラグ粉末および石灰石粉末を含むセメント組成物であって、前記高炉スラグ粉末のブレーン比表面積が4500cm2/g以上で、前記石灰石粉末のブレーン比表面積が5000cm2/g以上であるセメント組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰等の生活・産業廃棄物を原料として製造した焼成物の粉砕物を含むセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国では、経済成長、人口の都市部への集中化に伴い、産業・生活廃棄物が急増している。従来から、かかる廃棄物の大半は、焼却によって十分の一程度に減容後、埋め立て処分されている。しかし、最近では埋め立て処分場の残余容量が逼迫していることから、新しい廃棄物処理方法の確立が緊急課題になっている。その方法の一つに、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰を原料としてセメントを製造する方法が提案されている(特許文献1)。
【0003】
しかし、上記特許文献1に記載されたセメントでは、水和反応性が高い3CaO・Al2O3を10質量%以上含むため、モルタルやコンクリートに使用すると、普通ポルトランドセメントと比べて流動性が低下することに加え、流動性の経時変化も大きくなるという課題があった。
【0004】
そのため、都市ゴミ焼却灰等を原料として製造したセメントに対して、ブレーン比表面積が4000cm2/g程度の石灰石粉末や高炉スラグ粉末を添加して、流動性を向上させる方法が提案されている(特許文献2、3)。前記特許文献2、3の方法では、ブレーン比表面積が4000cm2/g程度の石灰石粉末や高炉スラグ粉末を添加することにより、モルタルの流動性を5〜6%程度向上させることは可能であるが、より一層の流動性の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−281395号公報
【特許文献2】特開2003−95710号公報
【特許文献3】特開2004−189546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、都市ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造したセメント組成物であって、流動性に優れ、かつ、所望の流動性を一定時間維持しうるセメント組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、都市ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造した焼成物の粉砕物と特定の材料を組み合わせることによって、流動性に優れ、所望の流動性を一定時間維持しうるセメント組成物とすることができることを見いだし、本発明を完成させたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[2]を提供するものである。
[1]都市ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造した焼成物の粉砕物、石膏、高炉スラグ粉末および石灰石粉末を含むセメント組成物であって、前記高炉スラグ粉末のブレーン比表面積が4500cm2/g以上で、前記石灰石粉末のブレーン比表面積が5000cm2/g以上であることを特徴とするセメント組成物。
[2]焼成物が、3CaO・Al2O3を10〜15質量%、4CaO・Al2O3・Fe2O3を10〜15質量%かつ3CaO・Al2O3と4CaO・Al2O3・Fe2O3の合計量が20〜30質量%、2CaO・SiO2量が0.1〜10質量%、塩素量が0.1質量%以下で、さらに、3CaO・SiO2を含むものである上記[1]に記載のセメント組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明のセメント組成物では、流動性に優れるうえ、流動性の経時変化も小さく、実用上問題ない強度発現性を有するモルタルやコンクリートを製造することができる。
また、本発明のセメント組成物は、都市ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造するものであるので、資源の有効利用に大いに貢献することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、都市ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造した焼成物の粉砕物について説明する。
前記焼成物の原料としては、都市ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上と、必要に応じて、貝殻や下水汚泥に生石灰を混合した下水汚泥乾粉、その他の一般廃棄物や産業廃棄物などが用いられ、さらには、通常のセメントクリンカーの原料である石灰石、粘土、珪石、アルミ灰、ボーキサイト、鉄等を混合して成分調整した原料を用いても良い。
【0011】
本発明においては、廃棄物から主に由来する塩素およびナトリウム、カリウム等のアルカリを、焼成工程で蒸気圧の低いアルカリ塩化物に変換して揮発させて除去するため、上記焼成物の原料調整において、アルカリ塩化物を生成するのに十分な量のアルカリ源または塩素源を添加する、即ち、アルカリ量に比べ塩素量が過剰な原料に対してはアルカリ源を添加し、一方、塩素量に比べアルカリ量が過剰な場合は塩素源を添加することが好ましい。
なお、アルカリ源としては、炭酸ナトリウムまたはアルカリ含有廃棄物を使用することができる。塩素源としては、塩化カルシウムまたは塩化ビニル樹脂等の塩素含有廃棄物を使用することができる。
【0012】
上記成分調整した原料を1200〜1450℃で焼成した後、粉砕して、焼成物の粉砕物を調製する。
本発明において、焼成物の粉砕物のブレーン比表面積は3000〜5500cm2/gであることが好ましい。なお、本発明においては、前記焼成物を粉砕する際に石膏を添加し同時に粉砕しても良い。この場合、焼成物と石膏の混合粉砕物(混合粉砕物)のブレーン比表面積は、3000〜5500cm2/gであることが好ましい。
焼成物の粉砕物または混合粉砕物のブレーン比表面積が3000cm2/g未満では、モルタルやコンクリートの強度発現性が低下するので好ましくない。ブレーン比表面積が5500cm2/gを越えると、モルタルやコンクリートの流動性が低下するうえ、流動性の経時変化も大きくなるので好ましくない。
【0013】
本発明において上記焼成物は、3CaO・Al2O3を10〜25質量%、4CaO・Al2O3・Fe2O3を10〜20質量%かつ3CaO・Al2O3と4CaO・Al2O3・Fe2O3の合計量が20〜35質量%、塩素量が0.1質量%以下で、さらに、2CaO・SiO2及び/又は3CaO・SiO2を含むものであることが好ましい。焼成物が前記鉱物組成を有するものであれば、該焼成物の調製において廃棄物起源材料の有効利用を促進することができるうえ、モルタルやコンクリートの流動性、強度発現性等を良好なものとすることができる。
なお、本発明においては、モルタルやコンクリートの流動性向上の観点から、焼成物は、 3CaO・Al2O3を10〜15質量%、4CaO・Al2O3・Fe2O3を10〜15質量%かつ3CaO・Al2O3と4CaO・Al2O3・Fe2O3の合計量が20〜30質量%、2CaO・SiO2量が0.1〜10質量%、塩素量が0.1質量%以下で、さらに、3CaO・SiO2を含むものであることがより好ましく、
3CaO・Al2O3を10〜14質量%、4CaO・Al2O3・Fe2O3を10〜14質量%かつ3CaO・Al2O3と4CaO・Al2O3・Fe2O3の合計量が20〜26質量%、2CaO・SiO2量が0.5〜9.0質量%、塩素量が0.1質量%以下で、さらに、3CaO・SiO2を含むものであることが特に好ましい。
【0014】
本発明のセメント組成物は、上記焼成物の粉砕物と、石膏、高炉スラグ粉末及び石灰石粉末を含むものである。
石膏としては、無水石膏、ニ水石膏、半水石膏、又はこれらの混合物が挙げられる。
石膏の量は、焼成物の粉砕物100質量部に対してSO3換算で1.0〜6.5質量部が好ましく、1.5〜6.0質量部がより好ましい。石膏の量が、焼成物の粉砕物100質量部に対してSO3換算で1.0質量部未満では、モルタルやコンクリートの流動性が低下するうえ、流動性の経時変化も大きくなるので好ましくない。6.5質量部を越えると、モルタルやコンクリートの強度発現性が低下するので好ましくない。
石膏のブレーン比表面積は3000cm2/g以上が好ましい。なお、本発明においては、前記のように焼成物を粉砕する際に石膏を添加し同時に粉砕しても良いし、焼成物の粉砕物に石膏を添加し混合しても良い。後者の場合、焼成物の粉砕物と石膏との混合物(混合物)のブレーン比表面積は、3000〜5500cm2/gであることが好ましい。混合物のブレーン比表面積が3000cm2/g未満では、モルタルやコンクリートの強度発現性が低下するので好ましくない。ブレーン比表面積が5500cm2/gを越えると、モルタルやコンクリートの流動性が低下するうえ、流動性の経時変化も大きくなるので好ましくない。
【0015】
高炉スラグ粉末の量は、焼成物の粉砕物100質量部に対して5〜180質量部が好ましく、7〜150質量部がより好ましく、10〜100質量部が特に好ましい。高炉スラグ粉末の量が、焼成物の粉砕物100質量部に対して5質量部未満では、モルタルやコンクリートの流動性を向上する効果がほとんど認められないので好ましくない。180質量部を越えると、モルタルやコンクリートの強度発現性が低下するので好ましくない。
高炉スラグ粉末のブレーン比表面積は、4500cm2/g以上であることが好ましく、5000〜10000cm2/gであることがより好ましい。高炉スラグ粉末のブレーン比表面積が4500cm2/g未満では、モルタルやコンクリートの流動性の向上効果が低下するうえ、強度発現性も低下するので好ましくない。10000cm2/gを越えると、コストが高くなるうえ、モルタルやコンクリートの流動性が低下し、さらに流動性の経時変化も大きくなるので好ましくない。
【0016】
石灰石粉末の量は、焼成物の粉砕物100質量部に対して2〜50質量部が好ましく、5〜30質量部がより好ましい。石灰石粉末の量が、焼成物の粉砕物100質量部に対して2質量部未満では、モルタルやコンクリートの流動性を向上する効果がほとんど認められないので好ましくない。50質量部を越えると、モルタルやコンクリートの強度発現性が低下するので好ましくない。
石灰石粉末のブレーン比表面積は、5000cm2/g以上である。石灰石粉末のブレーン比表面積が5000cm2/g未満では、モルタルやコンクリートの流動性の向上効果が低下する。本発明において石灰石粉末のブレーン比表面積は、粉砕の手間やコスト、モルタルやコンクリートの流動性や強度発現性等から、5500〜10000cm2/gであることが好ましく、6000〜9000cm2/gであることがより好ましい。
【0017】
本発明のセメント組成物の製造方法としては、例えば、
(1)焼成物の粉砕物、石膏、石灰石粉末、高炉スラグ粉末を混合する方法、
(2)焼成物と石膏を同時粉砕しておき、該混合粉砕物、石灰石粉末、高炉スラグ粉末をを混合する方法、
などの方法が挙げられる。
なお、本発明においては、モルタルやコンクリートの製造の際に、セメント組成物を調製しても差し支えない。具体的には、骨材、減水剤、水等とともに、
(3)焼成物の粉砕物、石膏、石灰石粉末、高炉スラグ粉末をミキサに投入する、
(4)混合粉砕物、石灰石粉末、高炉スラグ粉末をミキサに投入する、
などの方法が挙げられる。
【0018】
本発明のセメント組成物は、フライアッシュ、シリカフューム、膨張材等の混和材、AE剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、消泡剤、収縮低減剤等の混和剤を混合して使用することも可能である。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を説明する。
実施例1
1.都市ゴミ焼却灰を原料とした焼成物の調製
都市ゴミ焼却灰、石灰石、鉄原料及びソーダ灰を配合して成分調整した原料をロータリーキルンを用いて、1300〜1450℃で焼成して、表1に示す焼成物を調製した。
【0020】
【表1】

【0021】
2.セメント組成物の調製
上記焼成物1を縦型ミルで粉砕した後、半水石膏を焼成物1の粉砕物100質量部に対してSO3換算で2.1質量部添加・混合して焼成物1の粉砕物と半水石膏の混合物(混合物1)を製造した。該混合物1のブレーン比表面積は4360cm2/gであった。
また、上記焼成物2を縦型ミルで粉砕した後、半水石膏を焼成物2の粉砕物100質量部に対してSO3換算で2.1質量部添加・混合して焼成物2の粉砕物と半水石膏の混合物(混合物2)を製造した。該混合物2のブレーン比表面積は4300cm2/gであった。
混合物1、混合物2、石灰石粉末1(ブレーン比表面積6770cm2/g)、石灰石粉末2(ブレーン比表面積4000cm2/g)、高炉スラグ粉末(ブレーン比表面積4510cm2/g)を用いて、表2に示す割合のセメント組成物を調製した。
【0022】
【表2】

【0023】
3.流動性の評価
表2のセメント組成物を用いて、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準じてフロー値を測定した。結果を表3に示す。
【0024】
【表3】

【0025】
表3より、ブレーン比表面積が4510cm2/gである高炉スラグ粉末及びブレーン比表面積が6770cm2/gである石灰石粉末を使用した本発明のセメント組成物2では、ブレーン比表面積が4000cm2/gである石灰石粉末を使用したセメント組成物4に比べて、流動性の向上効果が大きく、流動性の経時変化も小さいことが分かる。
【0026】
実施例2
1.セメント組成物の調製
実施例1の混合物1、石灰石粉末1(ブレーン比表面積6770cm2/g)、高炉スラグ粉末(ブレーン比表面積4510cm2/g)を用いて、表4に示す割合のセメント組成物を調製した。
【0027】
【表4】

【0028】
2.流動性及び圧縮強度の評価
(1)0打フロー
表4のセメント組成物を用いて、水/セメント組成物(質量比)=0.5、細骨材/セメント組成物(質量比)=2.7、高性能AE減水剤/セメント組成物(質量比)=0.012のモルタルのフロー値を、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)11.フロー試験」に記載される方法において、15回の落下運動を行わないで測定した。
モルタルの混練は、ホバートミキサを使用して、各材料を一括してミキサに投入して4分間混練した。
なお、細骨材としては山砂(粗粒率2.94、吸水率2.04%、表乾密度2.57g/cm3)を、高性能AE減水剤はBASFポゾリス社製「SP8SVX2」を使用した。
(2)圧縮強度
表4のセメント組成物を用いて、水/セメント組成物(質量比)=0.5、細骨材/セメント組成物(質量比)=2.7で、0打フローが180mmとなる量の高性能AE減水剤を添加したモルタルの材齢3日、7日、28日、91日の圧縮強度を、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準じて測定した。
なお、細骨材と高性能AE減水剤、モルタルの混練方法は、上記(1)と同じである。
結果を表5に示す。
【0029】
【表5】

【0030】
表5より、ブレーン比表面積が4510cm2/gである高炉スラグ粉末及びブレーン比表面積が6770cm2/gである石灰石粉末を使用した本発明のセメント組成物9〜12では、流動性が良好であり、実用上十分な強度を発現していることが分かる。
一方、高炉スラグ粉末又は石灰石粉末のみを使用したセメント組成物5〜8では、流動性が低いことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
都市ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造した焼成物の粉砕物、石膏、高炉スラグ粉末および石灰石粉末を含むセメント組成物であって、
前記高炉スラグ粉末のブレーン比表面積が4500cm2/g以上で、前記石灰石粉末のブレーン比表面積が5000cm2/g以上であることを特徴とするセメント組成物。
【請求項2】
焼成物が、3CaO・Al2O3を10〜15質量%、4CaO・Al2O3・Fe2O3を10〜15質量%かつ3CaO・Al2O3と4CaO・Al2O3・Fe2O3の合計量が20〜30質量%、2CaO・SiO2量が0.1〜10質量%、塩素量が0.1質量%以下で、さらに、3CaO・SiO2を含むものである請求項1記載のセメント組成物。