説明

セメント製成形体及びその製造方法

【課題】
使用環境に依存せずに水中の微生物菌を効果的に殺菌でき、藻類の繁殖を抑制する浄化作用を有し、かつ魚等の生物の生息を可能とするセメント製成形体及びその製造方法を提供することであり、さらには、このような浄化作用等を有しながら、多様な形状やサイズの構造体を安価に提供可能なセメント製成形体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】
銀イオン交換樹脂を含有するセメント製成形体であることを特徴とする。好ましくは、該成形体の構造が多孔質状であることを特徴とする。
また、本発明のセメント製成形体の製造方法は、少なくともセメント、骨材、水及び銀イオン交換樹脂を含む材料を混合し、成型後、養生・硬化させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水浄化作用に優れたセメント製成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境汚染の抑制や自然環境の改善、水資源の有効活用などを行うため、河川や池・湖、さらには水槽などにある水を浄化することが求めれらている。水が汚濁したり悪臭を放つ主な原因として、水質の過養分化による微生物や藻類の繁殖が指摘されている。
水を浄化する方法としては、有用微生物を用いて、この微生物等の繁殖を抑制する方法が提案されている。
例えば、酵母菌等の有用微生物をコンクリートの混和剤として使用し、家庭汚水、工場排水、畜産業の処理水の浄化施設の浄化槽の壁面や床のライニングとして、微生物菌を含ませたコンクリートを使用する方法である(例えば、特許文献1又は2参照)。
【特許文献1】特開平8−169745号公報
【特許文献2】特開平10−113688号公報
【0003】
しかしながら、コンクリートの原料であるセメントは強アルカリ性であるため、セメントに微生物菌を混ぜ込んでも、殆どの微生物が死滅して狙いの効果が得られず、効能の持続性がないものとなる。
このため、特許文献3では、バチルスサブチルス(Bacillus subtilis)、バチルスツリュゲナイセス(Bacillus thuringiensis)及びバチルススパリカス(Bacillus sphaericus)の特定の微生物菌の混合物をセメントに混合することにより、コンクリートのプレートやブロック状態でも微生物菌による浄化作用を維持することを可能にしたものも提案されている。
【特許文献3】国際公開第WO02/48069号
【0004】
セメントを用いたコンクリートブロックなどのセメント製成形体に、微生物菌を利用する場合には、上述のように使用可能な微生物菌が限定される上、浄化作用も限定的なものとなる。しかも、製造工程や製品保管時に高温状態となると微生物菌自体が死滅する場合がある。さらに、微生物菌毎に活発に活動する環境が異なるため、使用環境が限定されると共に、多様な環境に対応するためには、多種多様な微生物菌を含有した製品を用意する必要がある。特に、藻類を発生される微生物に対しては、抑制効果のあるセメント製成形体は得られていない。
【0005】
他方、抗菌性を有する物質として銀が知られており、銀イオンを含有する抗菌剤(例えば、特許文献4乃至6参照)が提案されている。これらの抗菌剤は、樹脂に混入されたり、溶解性ガラスやシリカゲル等の担体に担持させる状態で使用されている。銀イオンを用いて水の浄化を行うには、水中で銀イオンを徐々に放出可能とすると共に、銀イオンを含む浄化剤を担持する構造体は、セメント製成形体のように多様な形状やサイズに、任意に加工形成することが可能なものが好ましく、また、その製造コストも安価なものが好ましい。そして、何よりも、浄化した水の中で魚などの生物が生息可能であることが求められる。
【特許文献4】特開2000−198708号公報
【特許文献5】特開平8−26921号公報
【特許文献6】特開2005−47884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明に係る課題は、上述のような問題を解決し、使用環境に依存せずに水中の微生物菌を効果的に殺菌でき、藻類の繁殖を抑制する浄化作用を有し、かつ魚等の生物の生息を可能とするセメント製成形体及びその製造方法を提供することである。
また、上記のような浄化作用等を有しながら、多様な形状やサイズの構造体を安価に提供可能なセメント製成形体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、銀イオン交換樹脂を含有するセメント製成形体である。
本発明に用いる「銀イオン交換樹脂」とは、イオン交換樹脂、特に陽イオン交換樹脂のプロトン等を銀イオンに置換されたものを意味し、例えば、パーフルオロスルホン酸樹脂又はスルホン酸基を有するイオン交換樹脂を、硝酸銀、硫酸銀等の水溶液又はアセトニトリル溶液に所定時間浸漬することにより製造される。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のセメント製成形体において、該成形体の構造が多孔質状であることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、少なくともセメント、骨材、水及び銀イオン交換樹脂を含む材料を混合し、成型後、養生・硬化させることを特徴とするセメント製成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明により、銀イオン交換樹脂を含有するセメント製成形体であるため、銀イオンが水中に放出されることとなり、微生物菌を用いた浄化作用と比較し、水質や温度などの使用環境に依存せず、水中の微生物菌を効果的に殺菌でき、特に、藻類の繁殖を抑制する浄化作用を高めることが可能となる。また、銀イオン交換樹脂であるため、銀イオンの放出が緩やかであり、浄化作用の持続性を高めるだけでなく、水中の銀イオン濃度が魚等の生物の生息を可能とする程度に維持されることから、極めて自然環境に優しい浄化作用を提供することが可能となる。
さらに、セメント製成形体内及び表面では、銀イオン交換樹脂を安定的に保持することが可能であるため、上記浄化作用を有する多様な形状やサイズの構造体を、安価に提供することも可能となる。
【0011】
請求項2に係る発明により、セメント製成形体の構造が多孔質状であるため、銀イオン交換樹脂と水とが接触する面積を拡大することができ、より多くの水を早く浄化させることが可能となる。
【0012】
請求項3に係る発明により、本発明に係るセメント製成形体の製造方法は、少なくともセメント、骨材、水及び銀イオン交換樹脂を含む材料を混合し、成型後、養生・硬化させるため、安価な材料を用いて多様な形状やサイズの構造体を容易に形成することが可能であり、製造コストを安価にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係るセメント製成形体及びその製造方法について、以下に詳細に説明する。
本発明のセメント製成形体は、銀イオン交換樹脂を含有するセメント製成形体である。特に、セメント製成形体の原料であるセメントなどと一緒に銀イオン交換樹脂を混ぜ合わせ、成型硬化させたものであり、該成形体表面及び内部に銀イオン交換樹脂が保持されているものである。
【0014】
本発明に用いる「銀イオン交換樹脂」は、イオン交換樹脂、特に陽イオン交換樹脂のプロトン等を銀イオンに置換されたものを使用する。具体的には、パーフルオロスルホン酸樹脂又はスルホン酸基を有するイオン交換樹脂を、硝酸銀、硫酸銀等の水溶液又はアセトニトリル溶液に所定時間浸漬することにより製造される。
【0015】
本発明のセメント製成形体は、セメント、骨材、銀イオン交換樹脂及び水を主原料とし、必要に応じて添加剤を添加することにより、当該成形体を形成する。
セメントには、普通ポルトランドセメントや高炉セメント等の従来から使用されている任意のセメントを使用することができ、特に限定されるものではない。
【0016】
骨材としては、砂、天然砕石、セラミックなどの焼結体を粉砕したものなど、各種の粗骨材や細骨材等が利用可能である。淡水を浄化する場合には、骨材には、塩分を含まないものが好ましい。また、骨材として多孔質体を選択し、セメント製成形体の表面積を増加させたり、軽量化を図ることも可能である。このような多孔質な骨材としては、天然軽石や焼結発泡体などが利用できる。
骨材のサイズとしては、用途に応じて異なるが、骨材間の空間を利用して多孔質な成形体を製造するためには、JIS篩による粒径が2.5mm〜10mm程度のものが好適に利用可能である。河川や湖沼など規模の大きい環境で使用する場合には、10mmを超える骨材を使用し、セメントや銀イオン交換樹脂など、相対的にコストの高い材料の使用を抑制することが、好ましい。
【0017】
本発明のセメント製成形体に用いる銀イオン交換樹脂は、市場で入手しうる銀イオン交換樹脂であれば使用することができ、例えば、強酸性陽イオン交換樹脂(ムロマチテクノス株式会社製,製品名「Muromac XSC-1416」)を硝酸銀(純正化学株式会社製)に十分に浸漬し、その後、該樹脂を洗浄・乾燥して製造したもの等を用いることができる。
【0018】
添加剤としては、成形体の固化を早める凝固促進剤や逆に固化を遅延させる遅延材、セメントや細かな骨材を多く含む場合でも多孔質な成形体を形成するのに役立つ起泡剤、添加する水の量を抑制する減水剤、成形体を着色するための顔料等の着色剤など、各種の添加材を用途に応じて利用することが可能である。
【0019】
次に、本発明に係るセメント製成形体の製造方法について説明する。
上述した、セメント製成形体の原材料である、セメント、骨材、水及び銀イオン交換樹脂、さらに、必要に応じて添加剤を混合し、均一に混練する。混練した材料を型枠に入れ成型し、養生・硬化させる。
なお、成形体の形状は特に限定されないが、方形のブロックやプレート状、さらには、円柱又は角柱などが可能である。また、表面積を増加させるため、中空部分を有するリング状とすることも可能である。
【0020】
セメント製成形体に係る原材料の配合量についても、特に限定されるものではないが、一例として、成形体1m当たり、骨材として砕石:1500kg〜1950kg、セメント量:250kg〜300kg、水:ゼロスランプ成型に適する範囲、混和剤:希釈混和剤を350cc程度にする。さらに、銀イオン交換樹脂は、セメントや骨材の合計100重量部に対し0.005〜10重量部となる範囲で添加することが好ましい。
また、多孔質な成形体を得るには、セメント配合量を含有させる骨材に対して少ない量で配合して、骨材間に間隙を形成させたり、または配合材料として起泡剤を添加して、気泡を発生させることで、多孔質成形体とすることができる。
【0021】
本発明のセメント製成形体は、浄化処理を行う水に浸漬させるだけで、浄化作用を発揮することが可能である。
成形体は、水中において、銀イオン交換樹脂が保持している銀イオンを、水中に緩やかに放出する。該銀イオンは、菌類の表面に付着し、菌類の表面を破壊するだけでなく、菌類の内部まで侵入し、結果として、菌類の細胞自体を破壊することが期待される。
【実施例】
【0022】
本発明を以下の実施例等により説明する。
但し、以下の実施例等おいて用いる銀イオン交換樹脂は、強酸性陽イオン交換樹脂(ムロマチテクノス株式会社製,製品名「Muromac XSC-1416」)を硝酸銀(純正化学株式会社製)に十分に浸漬し、その後、該樹脂を洗浄・乾燥して製造したものである。
成形体を製造するにあたり、以下の分量で原材料を均一に撹拌混合し、直径9cm,高さ8cmの円筒状成形体(重量400g)を作成した。
(1)普通ポルトランドセメント:20kg
(2)多孔質骨材:39kg
(3)銀イオン交換樹脂:70g
(4)顔料:600g
【0023】
(銀の溶出試験)
実施例の成形体を1リットルの水道水に浸漬し、水分中の銀濃度を測定した。
測定結果を、表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1の結果より、成形体内の銀イオンは最初の数時間の間に急速に、水中に放出されるが、24時間経過後は、放出量は抑制され、緩やかなものとなっている。
【0026】
(試験水の色調等の観察)
得られた成形体を用いて、試験水の色調等の以下の試験を行った。
藻体を接種した水に検体(上記実施例の成形体)及び対照品(上記実施例から銀イオン交換樹脂を用いない以外は、実施例と同様に成形体を作成したもの。)を投入し、試験水の色調及び状態を観察し、比較を行った。
【0027】
試験生物として、藻類(学名:pseudokirchneriella subcapitata,入手先:American Type Culture Collection,入手株番号:ATCC22662株)を用いた。
試験に用いた藻類は、保存培養から植え継ぎを行い、3日間培養し、指数関数的増殖期の藻類懸濁液を得た。次に、藻類の細胞数を計数し、試験水中の細胞濃度が約1×10[cells/ml]となるように、脱塩素水道水に添加した。そして、試験水10リットルに対し検体又は対照品を1個投入した。
試験水の色調及び状態の観察結果を表2に示す。また、試験水のpH及び水温の測定結果を表3に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
表2の結果より、実施例のセメント製成形体に、藻類が繁殖が効果的に抑制されていることが容易に理解される。
【0031】
(魚類急性毒性試験(ヒメダカ))
財団法人日本食品分析センターに依頼し、以下の実験を行った。
検体(上記実施例の成形体)の魚類に対する半数致死濃度の濃度範囲を調べるために、OECD Guidelines for the Testing of Chemicals 203(1992)を参考にして、ヒメダカに対する96時間急性毒性試験を実施した。
試験は、検体5個を希釈水(水道水を脱塩素したもの)50リットルに添加し、24℃±1℃で24時間溶出した水を検液とした。この検液に希釈水を添加し、1.0,10,100(V/V%)の濃度の試験水を調整し、濃度区とした。対照区は、希釈水のみとした。
各試験区に10尾のヒメダカ(全長約2.0cm,体重約0.07g)を入れ、死亡数及び異常な外観・行動を観察した。
【0032】
結果として、96時間後でも、死亡したもの、異常外観及び異常行動は、いずれの試験区においても観察されなかった。
参考までに、試験開始時及び96時間後の溶存酸素濃度(DO)及びpHを表4に示す。
これらのことから、本発明のセメント製成形体は、生物の生息にも極めて安全なものであることが理解できる。
【0033】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のように、本発明によれば、使用環境に依存せずに水中の微生物菌を効果的に殺菌でき、藻類の繁殖を抑制する浄化作用を有し、かつ魚等の生物の生息を可能とするセメント製成形体及びその製造方法を提供することが可能となる。
また、上記のような浄化作用等を有しながら、多様な形状やサイズの構造体を安価に提供可能なセメント製成形体及びその製造方法を提供することも可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀イオン交換樹脂を含有するセメント製成形体。
【請求項2】
請求項1に記載のセメント製成形体において、該成形体の構造が多孔質状であることを特徴とするセメント製成形体。
【請求項3】
少なくともセメント、骨材、水及び銀イオン交換樹脂を含む材料を混合し、成型後、養生・硬化させることを特徴とするセメント製成形体の製造方法。

【公開番号】特開2008−308390(P2008−308390A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160656(P2007−160656)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(303048341)株式会社ビッグバイオ (10)
【Fターム(参考)】