説明

セメント製造装置及び製造方法

【課題】電気集塵機の爆発や、ダイオキシン類のような有害物質の発生を回避しながら、セメント製造工程から鉛等の重金属類を効率よく回収すると同時に、塩回収量の増加を図る。
【解決手段】セメントキルン2の中間からプレヒータの最下段サイクロンまでの区間に、固定炭素を含む物質と、塩素分を含む物質とを混合して造粒したペレットPを供給するベルトフィーダ7と、キルンの窯尻2aからキルン燃焼ガスの一部を抽気する抽気プローブ4と、抽気ガスG1より塩素分を除去する乾式塩素バイパス設備8と、乾式塩素バイパス設備で得られた塩素バイパスダストD2に硫化剤を添加した後脱水する脱水機12と、脱水機によって脱水して得られたケークCから重金属類を回収する浮選装置18と、脱水機によって脱水して得られたろ液L1から塩類を回収するスプレードライヤ16とを備えるセメント製造装置1等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント製造装置及び製造方法に関し、特に、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのセメントキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部を抽気したガスに含まれるダストから鉛等の重金属類及び塩類を回収する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント中の鉛(Pb)は固定化されるため、土壌への溶出はないと考えられてきた。しかし、近年のセメント製造におけるリサイクル資源の活用量の増加に伴い、セメント中の鉛の量も増加し、これまでの含有量を大幅に上回りつつある。濃度増加に伴い土壌への溶出の危険性が増加する虞もあるため、セメント中の鉛濃度をこれまでの含有量程度まで低減する技術が必要である。
【0003】
また、近年、廃棄物のセメント原料化又は燃料化によるリサイクルが推進され、廃棄物の処理量が増加するに従い、セメントキルンに持ち込まれる塩素、硫黄、アルカリ等の揮発成分も増加し、それに伴い塩素バイパスダストの発生量も増加している。塩素バイパスダストは、セメント粉砕工程で利用しているが、その発生量の増加や、鉛を含む重金属類のセメント許容濃度の超過が予想されることから、余剰となる塩素バイパスダストの処理法やセメント製造工程からの重金属類の除去・回収法の開発が求められていた。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1には、セメント製造工程に供給される廃棄物中の塩素分及び鉛分を効果的に分離除去するため、廃棄物の水洗工程と、ろ別した固形分のアルカリ溶出工程と、このろ液から鉛を沈澱させて分離する脱鉛工程と、脱鉛したろ液からカルシウムを沈澱させて分離する脱カルシウム工程と、ろ液を加熱して塩化物を析出させて分離回収する塩分回収工程とを有する廃棄物の処理方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、飛灰等の廃棄物から鉛及び亜鉛を分別して除去するにあたって、カルシウムイオンを含む溶液を混合してスラリーを得た後、固液分離して、亜鉛を含む固形分と、鉛を含む水溶液とを得る工程と、鉛を含む水溶液に硫化剤を添加した後、固液分離して、硫化鉛と、カルシウムイオンを含む溶液とを得る工程等を含む廃棄物の処理方法が記載されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、セメント製造工程からセメントキルン燃焼ガスの一部を抽気し、抽気した燃焼ガスに含まれるダストを集塵し、タリウム、鉛、セレンから選択される1つ以上を除去又は回収することを特徴とするセメント製造工程からの重金属類除去・回収方法が記載されている。
【0007】
また、特許文献4には、セメントキルンの窯尻の燃焼ガスのO2濃度を5%以下及び/又はCO濃度を1000ppm以上に制御することで、セメントキルン内の原料温度が800〜1100℃の領域を還元雰囲気化して鉛の揮発を促進し、その上で、セメントキルンの燃焼ガスの一部を抽気して燃焼ガスに含まれるダストを集塵し、集塵したダストから鉛を回収する鉛除去方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−1218号公報
【特許文献2】特開2003−201524号公報
【特許文献3】特開2006−347794号公報
【特許文献4】国際公開2008/050678号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記特許文献1〜3に記載の方法においては、塩素バイパスダスト等に含まれる鉛等の重金属類を除去しているが、塩素バイパスダストを通じて系外に除去される重金属類の割合は、全体の30%程度に過ぎず、たとえ、塩素バイパスダスト中の重金属類を100%除去したとしても、残りの70%程度は、依然としてセメントキルンで製造されるクリンカに取り込まれるため、セメントの重金属類含有率を低下させるのは容易ではない。そこで、セメントキルン内の重金属類の揮発を促進し、塩素バイパスダスト等への重金属類の濃縮率を高めることが重要である。
【0010】
ここで、重金属類の揮発技術には、塩化揮発法と還元揮発法が知られている。しかし、一般的に行われる塩化揮発法をセメント焼成工程に適用すると、セメント製造において常識的な量を遙かに上回る量の塩素を投入する必要がある。一方、還元揮発法を適用するのは、セメントの色が黄色を呈することとなるため、セメントの品質面で問題となる。
【0011】
また、特許文献4に記載の方法では、重金属類の揮発率を上昇させるため、セメントキルンの窯尻部の酸素濃度を抑え、COガスを発生させるような雰囲気を形成するが、この場合、セメントキルン燃焼ガスに含まれるダストを集塵するための電気集塵機の爆発や、ダイオキシン類のような有害物質の発生する虞があるという問題がある。
【0012】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、電気集塵機の爆発や、ダイオキシン類のような有害物質の発生を回避しながら、セメント製造工程から鉛等の重金属類を効率よく回収すると同時に、塩類の回収量の増加を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は、セメント製造装置であって、セメントキルンの中間から該セメントキルンに付設されているプレヒータの最下段サイクロンまでの区間に固定炭素を含む物質を供給する供給装置と、前記セメントキルンの窯尻から前記最下段サイクロンに至るまでのセメントキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気する抽気プローブと、該抽気プローブによって抽気された燃焼ガスに含まれるダストを集塵する集塵装置と、該集塵装置によって集塵されたダストを水に溶解させる溶解槽と、該溶解槽に溶解したダストに硫化剤を添加した後脱水する脱水装置と、該脱水装置によって脱水して得られたケークから重金属類を回収する重金属類回収装置と、前記脱水装置によって脱水して得られたろ液から塩類を回収する塩回収装置とを備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、セメント製造装置であって、セメントキルンの中間から該セメントキルンに付設されているプレヒータの最下段サイクロンまでの区間に固定炭素を含む物質を供給する供給装置と、前記セメントキルンの窯尻から前記最下段サイクロンに至るまでのセメントキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気する抽気プローブと、該抽気プローブによって抽気された燃焼ガスに含まれるダストを湿式集塵する湿式集塵装置と、該湿式集塵装置によって湿式集塵されたダストに硫化剤を添加した後脱水する脱水装置と、該脱水装置によって脱水して得られたケークから重金属類を回収する重金属類回収装置と、前記脱水装置によって脱水して得られたろ液から塩類を回収する塩回収装置とを備えることを特徴とする。
【0015】
そして、上記両発明によれば、セメントキルンのセメントキルン中間から該セメントキルンに付設されているプレヒータの最下段サイクロンの区間に固定炭素を含む物質を供給することにより、セメントキルン内での重金属類の揮発率を高め、また、セメントキルンの燃焼ガスの一部を抽気する位置での重金属類の濃縮率を高めることができる。これにより、セメントキルンの燃焼ガスの一部を抽気する際に、その燃焼排ガスに同伴して抽気される重金属類が増加するため、塩素バイパスダスト等で効率よく重金属類を回収することができるとともに、塩類を回収することもできる。また、重金属類を回収した分だけ、セメント製造工程における廃棄物の処理量を増加させることができる。さらに、セメントキルンの窯尻部の酸素濃度を抑えてCOガスを発生させるような雰囲気を形成する必要もないため、セメント製造装置の安全性も確保し、環境負荷を増加させることなく実施することが可能になる。
【0016】
上記セメント製造装置は、前記固定炭素を含む物質と、塩素分を含む物質とを混合して造粒する混合造粒装置を備え、該混合造粒装置による造粒物を、前記供給装置によって、前記セメントキルンの中間から該セメントキルンに付設されているプレヒータの最下段サイクロンまでの区間に供給することができる。
【0017】
本発明によれば、固定炭素を含む物質と、塩素分を含む物質とを混合した造粒物を用いることで、セメントキルン内等の重金属類の効率的な揮発、濃縮が可能となる900℃〜1300℃の目標位置へ固定炭素を含む物質と塩素分の両方を供給し、重金属類の揮発率をさらに高めることができ、燃焼ガスの一部を抽気する位置での重金属類の濃縮率をさらに上昇させることができる。さらに、塩素分を加えることによって塩素バイパスダスト中のKCl濃度も高くなるため、浮選後の溶液から塩類の回収量を増加させることもできる。
【0018】
さらに、本発明は、セメント製造方法であって、セメントキルンの中間から該セメントキルンに付設されているプレヒータの最下段サイクロンまでの区間に固定炭素を含む物質を供給し、前記セメントキルンの窯尻から前記最下段サイクロンに至るまでのセメントキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気し、該抽気した燃焼ガスに含まれるダストを集塵し、該集塵したダストを水に溶解させ、該溶解したダストに硫化剤を添加した後脱水し、該脱水によって得られたケークから重金属類を回収し、前記脱水によって得られたろ液から塩類を回収することを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、セメント製造方法であって、セメントキルンの中間から該セメントキルンに付設されているプレヒータの最下段サイクロンまでの区間に固定炭素を含む物質を供給し、前記セメントキルンの窯尻から前記最下段サイクロンに至るまでのセメントキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気し、該抽気した燃焼ガスに含まれるダストを湿式集塵し、該湿式集塵したダストに硫化剤を添加した後脱水し、該脱水によって得られたケークから重金属類を回収し、前記脱水によって得られたろ液から塩類を回収することを特徴とする。
【0020】
上記セメント製造方法に関する両発明によれば、上記セメント製造装置に関する発明と同様に、セメント製造装置の安全性を確保し、環境負荷を増加させることなく、塩素バイパスダスト等で効率よく重金属類を回収することができるとともに、塩類を回収することもできる。また、重金属類を回収した分だけ、セメント製造工程における廃棄物の処理量を増加させることができる。
【0021】
上記セメント製造方法において、前記固定炭素を含む物質と、塩素分を含む物質とを混合して造粒した物を、前記セメントキルンの中間から該セメントキルンに付設されているプレヒータの最下段サイクロンまでの区間に供給することができ、重金属類の揮発率をさらに高め、燃焼ガスの一部を抽気する位置での重金属類の濃縮率をさらに上昇させることができる。また、塩素分を加えることで塩素バイパスダスト中のKCl濃度を増加させ、浮選後の溶液からの塩類の回収量を増加させることも可能となる。
【0022】
上記セメント製造方法において、前記集塵したダストのCl濃度に対するCaO濃度の比を0.1以上20以下に調節することができ、これにより、塩素バイパスダストを溶解して鉛を浮選回収する際に、回収効率を向上させることができる。
【0023】
また、上記セメント製造方法において、前記ダストを集塵した後の燃焼ガス中のSO2濃度を、標準酸素濃度を18%として、1000ppm以上10000ppm以下に調節することができる。これにより、鉛の揮発状態を安定させることができ、揮発が不十分であれば、固定炭素を含む物質を投入して調節することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、安定運転を維持し、有害物質の発生を回避しながら、セメント製造工程から鉛等の重金属類を効率よく回収すると同時に、塩類の回収量も増加させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明にかかるセメント製造装置の第1の実施形態の全体構成を示すフローチャートである。
【図2】図1のセメント製造装置の乾式塩素バイパス設備を示すフローチャートである。
【図3】塩素バイパスダスト中のCl濃度と鉛濃度の関係を示す図である。
【図4】塩素バイパス中の排ガスのSO2濃度と鉛揮発率の関係を示す図である。
【図5】塩素バイパスダスト中のCaO濃度/Cl濃度と鉛回収率の関係を示す図である。
【図6】本発明にかかるセメント製造装置の第2の実施形態の全体構成を示すフローチャートである。
【図7】図6のセメント製造装置の湿式塩素バイパス設備を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明にかかるセメント製造装置の第1の実施形態を示し、このセメント製造装置1は、セメント焼成設備を構成するセメントキルン2、クリンカクーラー3及び仮焼炉5と、乾式塩素バイパス設備8と、乾式塩素バイパス設備8で発生した塩素バイパスダストD2から鉛等の重金属類及び塩類を回収するための排水処理装置13、スプレードライヤ16及び浮選装置18等で構成される。
【0028】
混合造粒機6は、重油灰等の炭素源と、CaCl2等の塩素源とを混合しながら造粒するために備えられ、この混合造粒機6には、アイリッヒミキサ、ペレガイヤ等、撹拌や混練と造粒とを同時に行うことができる装置を用いることができる。尚、混合造粒機6に代えて、バッチ式又は連続式の混練/混合機と、押出式(ディスクペレッタ、プレスペレッタ等)、圧縮式(タブレットマシーン、ブリケットマシーン等)、転動式(パンペレタイザー等)の造粒機とを組み合わせて用いることもできる。
【0029】
ベルトフィーダ7は、混合造粒機6で造粒されたペレットPをセメントキルン2の窯尻2aに投入するために備えられる。尚、ベルトフィーダ7に代えて、エプロンフィーダー、振動フィーダー等を用いることもでき、空気等を利用してペレットPを窯尻2aからセメントキルン2の内部に噴出してもよく、セメントキルン2の胴体部より投入することもできる。
【0030】
プローブ4は、乾式塩素バイパス設備8の一部を構成するものであって、セメントキルン2の窯尻2aから燃焼ガスの一部を抽気するために設けられる。
【0031】
乾式塩素バイパス設備8は、セメントキルン2の燃焼排ガスから塩素分を除去するために一般に用いられるものであって、図2に示すように、プローブ4による抽気ガスG1を冷風A1によって冷却する冷却ファン23と、冷却した抽気ガスG1を、粗粉D1と、微粉(塩素バイパスダスト)D2及びガスG2とに分級するサイクロン24と、微粉D2及びガスG2を冷却する冷却器25と、微粉D2を回収するための集塵機27等を備え、分離された塩素含有率の低い粗粉D1はセメントキルン系に戻され、集塵機27によって回収された塩素含有率の高い塩素バイパスダストD2はダストタンク9に貯留される。尚、集塵機27から排出された排ガスG3は、排気ファン29を経てキルン2に付設されたプレヒータ、又はプレヒータの出口等の排ガス流路に戻される。
【0032】
図1に戻り、溶解槽10は、ダストタンク9から供給された塩素バイパスダストD2に水Wを添加して、塩素バイパスダストD2に含まれる水溶性の塩素分等を溶出させるために備えられる。
【0033】
撹拌槽11は、溶解槽10から排出されたスラリーS1に硫化剤を添加し、スラリーS1に含まれる塩化鉛等を硫化するために備えられる。
【0034】
脱水機12は、撹拌槽11から排出されたスラリーS2をろ過して固液分離するために備えられる。この脱水機12には、縦方向に段積み配置された複数のろ板を有する縦型フィルタープレスや、ベルトフィルタ等を用いることができる。
【0035】
排水処理装置13は、脱水機12から排出されたろ液L1に含まれる重金属類を回収するために備えられ、塩酸、第1鉄化合物、炭酸カリウム等の各々の添加装置(不図示)を備える。
【0036】
ろ過分離装置14は、ラメラ構造を有する超極細不織布を備えた固液分離装置であって、排水処理後のろ液L2から塩鉄等の沈降物を除去するために設けられる。
【0037】
COD処理装置15は、ろ過分離装置14からの排水L3のCODを低下させるために備えられ、図示を省略するが、高分子凝集剤等の凝集剤と排水L3とを混合する混合槽と、COD成分を凝集剤に凝集吸着させる凝集槽と、凝集槽の後段に固液分離機とを備える。尚、上記構成以外にも、COD処理装置15として活性炭吸着塔を設置し、活性炭にCOD成分を吸着させてもよい。あるいは、オゾン、過酸化水素、次亜塩素酸塩等の酸化剤を酸化触媒の存在下で作用させる接触酸化分解法を適用してもよい。
【0038】
スプレードライヤ16は、COD処理された排水L4を噴霧・微粒化させ、乾燥室(不図示)中で高温気流と接触させて瞬間的に造粒乾燥を行い、排水L4中の塩類を球状の粉粒体にして回収するために備えられる。この造粒乾燥には、クリンカクーラー3から排出された熱ガスG4が使用される。一方、熱量が不足する場合や、熱量を確保することができない場合には、熱風炉等の新たな熱源や、セメントキルン系統のいずれかの排ガスや除塵後の熱ガスを利用してもよい。尚、回収する塩の品質によっては、排水処理装置13とろ過分離装置14との組み合わせ、又はCOD処理装置15のいずれか一方、あるいは両方を省略することができる。
【0039】
混合撹拌槽17は、脱水機12からのケークCにpH調整剤と、気泡剤又は疎水剤、及びフィルタープレス19からの浮選水を添加して混合撹拌するために備えられる。
【0040】
浮選装置18は、バブリング装置を備え、混合撹拌槽17からのスラリーS3を浮選操作により、鉛を含むフロスFと、塩素分、タリウム、セレン等を含むシンク(テール側スラリー)SIとに分離するために備えられる。
【0041】
フィルタープレス19は、浮選装置18からのフロスF、シンクSI又はろ過分離装置14からの塩鉄等を固液分離して、各々より鉛、石膏(CaSO4・2H2O)又は鉄原料を回収するために備えられる。
【0042】
次に、上記構成を有するセメント製造装置1の動作について、図1を中心に参照しながら説明する。
【0043】
炭素源としての重油灰と、塩素源としてのCaCl2とを混合造粒機6に定量性のある供給機を用いて投入し、さらに、造粒物が所定の水分となるように水を添加して混合造粒する。尚、重油灰とCaCl2の投入量の詳細については後述する。混合造粒機6によってペレットPとするのは、窯尻2a等から投入した際に、粒径が小さすぎるとセメントキルン排ガス流路を流れるガスに同伴して最下段サイクロン側にペレットPが流れ、その結果、鉛の揮発領域への重油灰、並びに鉛濃縮領域へのCaCl2供給量が減少し、効率的な鉛揮発・回収ができなくなることを回避するためである。
【0044】
混合造粒機6において、ペレットPの粒径が5〜50mmとなるように造粒し、その後乾燥機(不図示)で乾燥させることが好ましい。乾燥したペレットPの粒径が5mm未満の場合には、セメントキルン2に投入したペレットPが飛散し、鉛の揮発温度域へのペレットPの供給量が減少し、効率的な揮発率を確保できなくなるとともに、効率的な鉛の濃縮・回収ができなくなる。一方、ペレットPの粒径が50mmを超える場合には、セメントの色が黄色を呈してセメントの品質面で問題となることが懸念される。
【0045】
次に、セメントキルン2によるセメント焼成中に、ベルトフィーダ7によってペレットPをセメントキルン2の窯尻2aから投入し、セメントキルン2内での鉛の揮発を促進させる。また、ペレットPの投入と併せ、セメントキルン2内に投入するセメント原料の配合や、セメントキルン2内で処理する廃棄物の処理量を調節し、窯尻2a又はその近傍での塩素濃度を高める。具体的には、図3に示すように、プローブ4による抽気ガスG1から集塵されるダストの塩素濃度が5〜40質量%となるように調節し、これにより、ダスト中の鉛濃度を上昇させることができる。
【0046】
また、乾式塩素バイパス設備8から排出されるガス中のSO2濃度を測定することにより、鉛が揮発している状況を把握し、不足していれば、ペレットPをさらに投入し、鉛揮発率を上昇させることができる。具体的には、図4に示すように、前記SO2濃度を1000ppm以上10000ppm以下(ガス中のO2濃度が18%のときの値)に調節することで、鉛揮発率を92%以上に維持することができる。
【0047】
次に、プローブ4によって、セメントキルン2の窯尻2aから燃焼ガスの一部を抽気し、乾式塩素バイパス設備8において、図2に示すように、プローブ4よる抽気ガスG1を冷却ファン23からの冷風A1によって冷却し、サイクロン24によって抽気ガスG1を粗粉D1と、微粉(塩素バイパスダスト)D2とに分離し、分離された塩素含有率の低い粗粉D1をセメントキルン系に戻し、冷却器25において冷却ファン26からの冷風A2によって冷却したガスG2及び微粉D2を集塵機27で集塵し、集塵した塩素含有率の高い塩素バイパスダストD2をダストタンク9に貯留する。この塩素バイパスダストD2には、鉛がより多く揮発した分、鉛が従来よりも多く濃縮されているため、この鉛を分離することによりセメント製造工程から鉛を効率よく除去し、セメントキルン2で製造され、クリンカクーラー3から排出されるセメントクリンカの鉛含有率を低下させることができる。
【0048】
溶解槽10において、ダストタンク9から供給された塩素バイパスダストD2に水Wを添加し、塩素バイパスダストD2に含まれる水溶性の塩素分を溶出させる。次に、撹拌槽11において、溶解槽10から排出されたスラリーS1に水硫化ソーダ(NaSH)、硫化ナトリウム(Na2S)等の硫化剤を添加した後、撹拌槽11から排出されたスラリーS2を脱水機12でろ過して固液分離する。硫化剤を添加するのは、スラリーS1に含まれる塩化鉛等を硫化して硫化物として沈殿させるためであり、この硫化によって硫化鉛(PbS)が生じる。
【0049】
脱水機12で分離したろ液L1を排水処理装置13へ供給し、排水処理装置13において、ろ液L1に塩酸、第1鉄化合物、炭酸カリウム等を各々添加し、ろ液L1に含まれる鉛等の重金属類を回収する。排水処理装置13において、重金属類の鉄による共沈効果を利用し、まず、ろ液L1に塩酸を添加してpHを4以下とした後、第1鉄化合物を添加し、2槽目でpH調整剤を添加してpHを8.5〜11.0とし、生成した塩鉄等の沈殿物をろ過分離装置14で回収する。
【0050】
次に、COD処理装置15において、ろ過分離装置14からの排水L3と、高分子凝集剤等の凝集剤とを混合し、COD成分を凝集剤に凝集吸着させ、排水L3のCODを低下させる。
【0051】
次いで、スプレードライヤ16において、COD処理された排水L4を噴霧・微粒化させ、クリンカクーラー3からの熱ガスG4と接触させて瞬間的に造粒乾燥を行い、排水L4中のKCl等の塩類を球状の粉粒体にして回収する。スプレードライヤ16の排気は、全量大気に放出するか、又は、ガス中の水分を回収し、回収水を溶解槽10等で再利用し、ガスは大気に放出したり、キルン系に戻される。
【0052】
一方、脱水機12で分離したケークCを混合撹拌槽17に供給し、フィルタープレス19からの浮選循環水を用いて再溶融させてスラリーS3とし、硫酸を添加してpHを調整後、MIBC(Methyl Isobutyl Carbinol)等の気泡剤や疎水化剤を添加する。
【0053】
次に、浮選装置18において、混合撹拌槽17からのスラリーS3を、浮選操作により、鉛を含むフロスFと、塩素分、タリウム、セレン等を含むシンクSIとに分離する。ここで、乾式塩素バイパス設備8で回収された塩素バイパスダストD2のCl濃度に対するCaO濃度の比(CaO濃度/Cl濃度)を0.1以上20以下に調節することで、図5に示すように、浮選工程における鉛回収率を向上させることができる。このCaO濃度/Cl濃度を調節するにあたっては、セメントキルン2内に投入するセメント原料の配合や、セメントキルン2内で処理する廃棄物の処理量を調節したり、乾式塩素バイパス設備8のサイクロンの分級点を変更することで対処することができる。尚、回収したフロスFに含まれる鉛は、フィルタープレス19で固液分離後に回収され、山元に還元するなどして再利用することができる。
【0054】
一方、塩素等を含むシンクSIも、フィルタープレス19によって固液分離される。ここで得られる塩素分が除去されたケークには、脱水機12の後段で添加した硫酸と、ダストに含まれるカルシウム分とが反応して生成された石膏(CaSO4・2H2O)が含まれているため、回収した石膏をセメントミルに供給してセメント製造に利用することができる。
【0055】
また、ろ過分離装置14からの塩鉄等をフィルタープレス19によって固液分離し、得られたケークをセメント製造用の鉄原料として利用することができる。
【0056】
一方、フィルタープレス19で得られたろ液は、浮選装置18に戻して循環水として再利用することができる。
【0057】
尚、上記実施の形態においては、塩素バイパスダストD2から鉛を分離する場合を例示したが、亜鉛、カドミウム、アンチモン、セレン、砒素、タリウム、水銀についても上記と同様の要領にて分離することができる。
【0058】
また、塩素バイパスダストD2以外にも、セメントキルン2の窯尻2aから最下段サイクロンに至るまでのセメントキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気し、抽気した燃焼ガスに含まれるダストであれば、上記と同様の方法にて上記重金属類を分離することができる。
【0059】
尚、上記実施の形態においては、固定炭素を含む物質として重油灰を例示したが、コークス、コールタールピッチ、タイヤ、石炭、無煙炭、瀝青炭、亜炭、褐炭、黒鉛、難燃性プラスチック、フェノール樹脂、フラン樹脂、熱硬化性樹脂、セルロース、木炭、廃トナー、ミックスコークス、ファインコークス、電極くず、活性コークス、炭化物及びフライアッシュに含まれる未燃カーボンを単独で、又はこれらの2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
また、塩素分を含む物質としてCaCl2を例示したが、NaCl、KCl等のアルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物、FeCl2、CuCl2等の金属塩化物、含塩素廃プラスチック、塩化ビニル、都市ごみ焼却灰、浚渫土、廃自動車シュレッダーダストを単独で、又はこれらの2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0061】
次に、本発明にかかるセメント製造装置の第2の実施形態について、図6及び図7を参照しながら説明する。
【0062】
本実施の形態にかかるセメント製造装置31は、第1の実施形態におけるセメント製造装置1の乾式塩素バイパス設備8に代えて、湿式塩素バイパス設備32を用いたことを特徴とし、他の構成要素については、セメント製造装置1と同様であるため、図6において、図1と同じ装置、物質等については、同一の参照番号及び符号を付して詳細説明を省略する。
【0063】
湿式塩素バイパス設備32は、図7に示すように、プローブ4による抽気ガスG1を冷風A3によって冷却する冷却ファン33と、冷却した抽気ガスG1を、粗粉D1と、微粉(塩素バイパスダスト)D2及びガスG2とに分級するサイクロン34と、サイクロン34からの排気を湿式集塵する湿式集塵装置35等を備える。
【0064】
湿式集塵装置35は、微粉D2及びガスG2をスラリーS4中の水分と接触させて冷却するスクラバ35aと、スクラバ35aとの間で集塵ダストスラリーを循環させる循環液槽35bと、工水を噴霧する洗浄塔35cと、循環ポンプ35dと、排出ポンプ35eを備える。
【0065】
上記湿式塩素バイパス設備32において、プローブ4によって、セメントキルン2の窯尻2aから燃焼ガスの一部を抽気し、冷却した抽気ガスG1を粗粉D1と、微粉(塩素バイパスダスト)D2とに分離し、分離された塩素含有率の低い粗粉D1をセメントキルン系に戻し、塩素含有率の高い微粉及びガスを湿式集塵装置35に導き、循環液槽35bから供給されるスラリーS4の水分等によって冷却する。そして、ガスG2中の微粉D2を湿式集塵装置35によって集塵し、集塵ダストスラリーS5を脱水機12でろ過して固液分離する。尚、湿式集塵装置35の洗浄塔35cから排出された排ガスG3は、排気ファン36を経てキルン2に付設されたプレヒータ、又はプレヒータの出口等の排ガス流路に戻される。
【0066】
図6に示したセメント製造装置31において、混合造粒機6を用いて重油灰等の炭素源と、CaCl2等の塩素源とを混合造粒したペレットPを、ベルトフィーダ7を介してセメントキルン2の窯尻2aに投入する工程、及び、上記湿式塩素バイパス設備32を経た後の脱水機12以降の工程は、図1に示したセメント製造装置1と同様であり、最終的に、スプレードライヤ16において塩類を回収し、フィルタープレス19において、鉛、石膏、鉄原料を分離回収することができる。この際、プローブ4によって抽気された抽気ガスG1から集塵されるダストの塩素濃度が5〜40質量%となるように調節したり、湿式塩素バイパス設備32から排出されるガス中のSO2濃度を1000ppm以上10000ppm以下に調節したり、塩素バイパスダストD2のCaO濃度/Cl濃度を0.1以上20以下に調節することで鉛の揮発・回収率を向上させるこができることも第1の実施形態におけるセメント製造装置1の場合と同様である。
【符号の説明】
【0067】
1 セメント製造装置
2 セメントキルン
2a 窯尻
3 クリンカクーラー
4 プローブ
5 仮焼炉
6 混合造粒機
7 ベルトフィーダ
8 乾式塩素バイパス設備
9 ダストタンク
10 溶解槽
11 撹拌槽
12 脱水機
13 排水処理装置
14 ろ過分離装置
15 COD処理装置
16 スプレードライヤ
17 混合撹拌槽
18 浮選装置
19 フィルタープレス
23 冷却ファン
24 サイクロン
25 冷却器
26 冷却ファン
27 集塵機
29 排気ファン
31 セメント製造装置
32 湿式塩素バイパス設備
33 冷却ファン
34 サイクロン
35 湿式集塵装置
35a スクラバ
35b 循環液槽
35c 洗浄塔
35d 循環ポンプ
35e 排出ポンプ
36 排気ファン
A1〜A3 冷風
C ケーク
D1 粗粉
D2 微粉(塩素バイパスダスト)
F フロス
G1 抽気ガス
G2 ガス
G3 排ガス
G4 熱ガス
L1、L2 ろ液
L3、L4 排水
P ペレット
S1〜S4 スラリー
S5 集塵ダストスラリー
SI シンク
W 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントキルンの中間から該セメントキルンに付設されているプレヒータの最下段サイクロンまでの区間に固定炭素を含む物質を供給する供給装置と、
前記セメントキルンの窯尻から前記最下段サイクロンに至るまでのセメントキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気する抽気プローブと、
該抽気プローブによって抽気された燃焼ガスに含まれるダストを集塵する集塵装置と、
該集塵装置によって集塵されたダストを水に溶解させる溶解槽と、
該溶解槽に溶解したダストに硫化剤を添加した後脱水する脱水装置と、
該脱水装置によって脱水して得られたケークから重金属類を回収する重金属類回収装置と、
前記脱水装置によって脱水して得られたろ液から塩類を回収する塩回収装置とを備えることを特徴とするセメント製造装置。
【請求項2】
セメントキルンの中間から該セメントキルンに付設されているプレヒータの最下段サイクロンまでの区間に固定炭素を含む物質を供給する供給装置と、
前記セメントキルンの窯尻から前記最下段サイクロンに至るまでのセメントキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気する抽気プローブと、
該抽気プローブによって抽気された燃焼ガスに含まれるダストを湿式集塵する湿式集塵装置と、
該湿式集塵装置によって湿式集塵されたダストに硫化剤を添加した後脱水する脱水装置と、
該脱水装置によって脱水して得られたケークから重金属類を回収する重金属類回収装置と、
前記脱水装置によって脱水して得られたろ液から塩類を回収する塩回収装置とを備えることを特徴とするセメント製造装置。
【請求項3】
前記固定炭素を含む物質と、塩素分を含む物質とを混合して造粒する混合造粒装置を備え、
該混合造粒装置による造粒物を、前記供給装置によって、前記セメントキルンの中間から該セメントキルンに付設されているプレヒータの最下段サイクロンまでの区間に供給することを特徴とする請求項1又は2に記載のセメント製造装置。
【請求項4】
セメントキルンの中間から該セメントキルンに付設されているプレヒータの最下段サイクロンまでの区間に固定炭素を含む物質を供給し、
前記セメントキルンの窯尻から前記最下段サイクロンに至るまでのセメントキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気し、
該抽気した燃焼ガスに含まれるダストを集塵し、
該集塵したダストを水に溶解させ、
該溶解したダストに硫化剤を添加した後脱水し、
該脱水によって得られたケークから重金属類を回収し、
前記脱水によって得られたろ液から塩類を回収することを特徴とするセメント製造方法。
【請求項5】
セメントキルンの中間から該セメントキルンに付設されているプレヒータの最下段サイクロンまでの区間に固定炭素を含む物質を供給し、
前記セメントキルンの窯尻から前記最下段サイクロンに至るまでのセメントキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気し、
該抽気した燃焼ガスに含まれるダストを湿式集塵し、
該湿式集塵したダストに硫化剤を添加した後脱水し、
該脱水によって得られたケークから重金属類を回収し、
前記脱水によって得られたろ液から塩類を回収することを特徴とするセメント製造方法。
【請求項6】
前記固定炭素を含む物質と、塩素分を含む物質とを混合して造粒した物を、前記セメントキルンの中間から該セメントキルンに付設されているプレヒータの最下段サイクロンまでの区間に供給することを特徴とする請求項4又は5に記載のセメント製造方法。
【請求項7】
前記集塵したダストのCl濃度に対するCaO濃度の比を0.1以上20以下に調節することを特徴とする請求項4、5又は6に記載のセメント製造方法。
【請求項8】
前記ダストを集塵した後の燃焼ガス中のSO2濃度を、標準酸素濃度を18%として、1000ppm以上10000ppm以下に調節することを特徴とする請求項4乃至7のいずれかに記載のセメント製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−57495(P2011−57495A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207807(P2009−207807)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】