説明

セラミックスの固化方法

【課題】高温焼成が不要であり、機械的な強度に優れたセラミックス固化体が得られるセラミックス粉体の固化方法を提供する。
【解決手段】少なくとも表面がケイ酸及び/又はケイ酸塩からなるセラミックスを摩砕することによって表面がメカノケミカル的に非晶質化された活性化セラミックス粉体とする。こうして得られた活性化セラミックス粉体をアルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ土類金属水酸化物を含むアルカリ水溶液で処理することにより、活性化セラミックス粉体の表面を溶解及び再析出させてセラミックス固化体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックスの粉体をセメントや水ガラス等のバインダーを用いることなく、高温焼結することもなく固化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカーは、石灰岩が粘土と混合されて焼成されるため、石灰岩の焼成による炭酸ガスの放出と、重油燃料の燃焼による炭酸ガスの放出とがある。このため、1トンのセメントクリンカーを焼成するのに1トンの二酸化炭素が発生するといわれている。近年、地球温暖化現象が世界的に問題となり、炭酸ガス放出の規制が重要な課題となっていることから、セメントに代わる新たな代替技術の開発が求められている。
【0003】
こうした状況下、石灰石に依存せず、焼成する必要のない、省エネタイプの材料として、水ガラスを結合剤としてセラミックス粉末を結合した、常温固化型のセラミックス固化体が注目を浴びている(例えば、特許文献1〜4参照)。このセラミックス固化体では、水ガラスとメタカオリン等のフィラーとを混合し、フィラーからアルミ等の金属イオンを溶出させて水ガラスと反応させる。これにより、水ガラスの成分であるケイ酸ナトリウムが架橋して無機ポリマーとなる。そして水分の蒸発とともに脱水縮合が起こり、セラミックス固化体となる。
【0004】
以上のように、水ガラスを利用してフィラーを固化するセラミックス固化体によれば、石灰石を用いることなく、常温で容易にブロック等の建築材料を得ることができる(フィラーの活性化のために、750℃程度で焼成することが望ましいが、それでもセメントクリンカーの焼成温度と比較してはるかに低温である)。このため、製造時の炭酸ガスの発生量は、セメントに比べてはるかに発生量が少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−301638号公報
【特許文献2】特開平8−301639号公報
【特許文献3】特開平7−133147号公報
【特許文献4】特開2003−226569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の水ガラスを結合剤として用いたセラミックス固化体では、水ガラス中のケイ素とナトリウムとの比率や、重合度によってセラミックスの溶解性が大きく変化する。このため、固化の制御が困難であり、強度の高いセラミックス固化体を再現性良く得ることが困難であった。また、水ガラスを多量に使用するため、水ガラス中の水分が蒸発し、歪が入ったりひび割れが生じたりしやすく、ひいては、機械的な強度に劣るという問題があった。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、高温焼成が不要であり、機械的な強度に優れたセラミックス固化体が得られるセラミックス粉体の固化方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、従来の結合剤として水ガラスを用いるのではなく、メカノケミカル現象を利用してセラミックス固化体を得ることを考えた。メカノケミカル現象とは、粉砕などで衝撃応力やせん断応力を受けた固体中において、化学結合や電子密度の分布の変化が起こり、電荷移動による多様な化学反応が局部的に生じたり、熱的過程での励起状態と違って電子エネルギーの励起が起こったりする現象をいう。ケイ酸やケイ酸塩はメカノケミカルな処理で非晶質化を起こすことができる。このため、この現象を利用し、ケイ酸やケイ酸塩の粉体をボールミルなどで摩砕することにより、非晶質化させ、さらにアルカリを作用させれば、非晶質相とアルカリとが反応し、溶解及び再析出が起こり、固化することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のセラミックス粉体の固化方法は、
メカノケミカル作用によって、セミラックス粉体の表面に非晶質部を形成する工程と、
非晶質部が溶解可能な液に、非晶質部を溶解させるとともに再析出させて析出層を形成し、主に析出層によって、セラミックス粉体同士を固化させる工程と、
を備えることを第1の特徴とする。
【0010】
また、メカノケミカル作用によって非晶質部が表面に形成されたセミラックス粉体を用意し、非晶質部が溶解可能な液に、セミラックス粉体の非晶質部を溶解させるとともに再析出させて析出層を形成し、主に析出層によって、セラミックス粉体同士を固化させることを第2の特徴とする。
【0011】
また、析出層のみによって、セラミックス粉体同士を固化させることを第3の特徴とする。
【0012】
このようにして得られたセラミックス固化体は、水ガラスを用いていないため、脱水による収縮率がそれほど大きくなく、また、歪や空隙が少なく、機械的強度も高くなる。また、重合度等によって性質が大きく変化する水ガラスを用いていないため、制御が容易で、機械的強度等の品質安定性が優れている。
【0013】
したがって、本発明のセラミックス粉体の固化方法によれば、高温焼成が不要であり、機械的な強度に優れたセラミックス固化体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のセラミックス固化体の製造方法における固化原理を示す模式図である。
【図2】ボールミル時間とセラミックス固化体の強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<原 料>
原料となるセラミックスとしては、少なくとも表面がケイ酸及び/又はケイ酸塩からなることが要件とされる。このようなセラミックスとしては、例えば、ベントナイト、カオリナイト、メタカオリン、モンモリロナイト等の粘土鉱物、石英、ムライト等のSiO2-Al2O3系無機質粉体等を用いることができる。これらの中でも、粘土鉱物や石英は、安価かつ大量に得られるため、好適である。発明者らは、粘土鉱物としてメタカオリンを用いた場合、緻密で機械的強度に優れたセラミックス固化体を得ている。
【0016】
その他、フライアッシュ、キラ、ガラス、ペーパースラッジ、アルミドロス等の廃棄物をセラミックスとして用いることができる。
【0017】
また、表面のみがケイ酸及び/又はケイ酸塩からなるセラミックスとしては、例えば窒化ケイ素、炭化ケイ素、アルミノ珪酸塩(ゼオライト)、サイアロン(SiAlON)、シリコンオキシナイトライド(SiON)、シリコンオキシカーバイド(SiOC)等が挙げられる。
【0018】
また、骨材を併用することもできる。このような骨材としては、砂、砕砂、砂利、砕石、珪砂、珪石粉、結晶質アルミナ、フライアッシュ、アルミナ、マイカ、珪藻土、雲母、岩石粉末(シラス、抗火石等)、玄武岩、長石、珪灰石、粘土、ボーキサイト、セピオライト、繊維材料等を用いることができる。
<摩砕工程>
摩砕工程では、図1に示すように、少なくとも表面がケイ酸及び/又はケイ酸塩からなるセラミックス1を摩砕することによって、表面がメカノケミカル的に非晶質化された非晶質層2aを有する活性化セラミックス粉体2とされる。非晶質層2aではシリカの網目構造がアモルファス状態とされており、アルカリによって侵食され易い状態となっている。このようなメカノケミカル作用を行うためには、衝撃、摩擦、圧縮、剪断等の各種の力を複合的に作用させることが効果的である。このような作用を行うことができる装置としては、ボールミル、振動ミル、遊星ミル、媒体攪拌型ミル等の混合装置ボール媒体ミル、ローラーミル、乳鉢等の粉砕機などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、被粉砕物に対し、主として衝撃、摩砕等の力を作用させることができるジェット粉砕機等も用いることができる。ジェット粉砕機で粉砕すれば、圧縮力、せん断力、衝撃力等を加えることができ、これによりセラミックス表面のケイ酸及び/又はケイ酸塩を非晶質化し、活性化セラミックス粉体とすることができる。
【0019】
また、摩砕工程においては、粒度分布の経時変化がなくなるまで、摩砕することが好ましい。粒度分布の経時変化がなくなるまで摩砕するということは、セラミックス1が摩砕によって細かくできる限界に達していると考えられ、セラミックス表面のメカノケミカル的な非晶質化が最も進行した状態となっている。こうした状態にまで摩砕されて得られる活性化セラミックス粉体2は、アルカリ水溶液による溶解も進みやすくなり、得られるセラミックス固化体は緻密で機械的な強度の高いものとなる。
<アルカリ処理工程>
アルカリ処理工程では、活性化セラミックス粉体2をアルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ土類金属水酸化物を含むアルカリ水溶液で処理する。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。また、アルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。
【0020】
アルカリ水溶液と活性化セラミックス粉体2との混合・混練を行うための装置としては、特に限定されるものではなく、従来公知の任意の混合機、混練機が使用できる。例えば、双腕ニーダー、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサー、バンバリーミキサー、コンティニュアスミキサー、あるいは連続混練機等が挙げられる。気泡を抜くために真空土練機を用いることも好ましい。こうであれば、セラミックス固化体の中に気泡が残ることを防止することができる。
【0021】
この処理により活性化セラミックス粉体2の表面の非晶質層2aは溶解し、さらには脱水縮合されて析出層3aが生成する。この析出層3aが接着剤の役割を果たしてセラミックス固化体3が得られる。このアルカリ処理工程では、非晶質層2aの溶解反応や、脱水縮合反応は室温で行ってもよいし、加熱して迅速化を図ることもできる。反応温度は原料となるセラミックスの種類やアルカリ水溶液の種類や濃度によって適宜選択すればよいが、一般的には室温〜200°Cが好ましく、さらに好ましいのは室温〜60°Cの範囲である。
【0022】
ところで、背景技術の欄で説明した従来の水ガラスを結合剤として用いたセラミックス固化体では、水ガラス中のケイ素とナトリウムとの比率や、重合度によってセラミックスの溶解性が大きく変化する。このため、固化の制御が困難であり、強度の高いセラミックス固化体を再現性良く得ることが困難であった。また、水ガラスを多量に使用するため、水ガラス中の水分が蒸発し、歪が入ったりひび割れが生じたりしやすく、ひいては、機械的な強度に劣るという問題があった。また、水分の蒸発によって収縮が起こるため、寸法精度に劣るという問題もあった。さらには、水ガラスを多量に用いることから、水ガラス成分が表面に浮き出し、白く汚れて見栄えが悪いという問題もあった。また、粘性の高い水ガラスとセラミックス粉体とをよく混合する必要があるため、混合に多大なエネルギーと時間を要するという問題があった。さらには、多量の水ガラスとセラミックスとを化学反応させるため、セラミックスは、表面のみならず、ある程度の内部までケイ酸又はケイ酸塩の相が存在する必要が合った。
【0023】
これに対して、発明の実施形態の欄で説明した方法によって得られたセラミックス固化体は、水ガラスを用いていないため、脱水による収縮率がそれほど大きくなく、寸法精度に優れた成形体を製造することができる。また、歪や空隙が少なく、機械的強度も高くなり、得られるセラミックス固化体の強度を10MPa以上とすることができる。
【0024】
また、重合度等によって性質が大きく変化する水ガラスを用いていないため、制御が容易で、機械的強度等の品質安定性が優れている。
【0025】
さらに、粘性が高くて原料との均一な混合が困難な水ガラスと異なり、アルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ土類金属水酸化物を含むアルカリ水溶液は粘度が低く、原料となるセラミックスとの均一な混合が容易であり、混合に要するエネルギーが小さく、混合時間も短くて済む。また、均一な混合が容易となるため、アルカリの偏析によって外観が白く汚れるという問題も生じ難い。
【0026】
したがって、発明の実施形態の欄で説明したセラミックス粉体の固化方法によれば、高温焼成が不要であり、固化の制御が容易であり、機械的な強度及び寸法精度の優れており、見栄えも良く、製造時のエネルギーの消費が少なくて、幅広い資源を原料とすることができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を具体化した実施例について、詳細に説明する。(実施例1)
実施例1では、カオリナイトを焼成して脱水したメタカオリン(平均粒子径1μm)を用い、アルカリ水溶液として水酸化カリウム水溶液を用いて、以下の各工程を経てセラミックス固化体を製造した。<摩砕工程>
上記メタカオリン200gを1000mLの磁性ポットに入れ、ジルコニアボール(径10φ)を投入し、ボールミル装置で100時間回転させて、活性化メタカオリン粉体を得た。<アルカリ処理工程>
摩砕工程によって得られた活性化メタカオリン粉体に50質量%の水酸化カリウム溶液を原料に対して65質量%加え、真空土練機を用いて押し出し、所定の長さに裁断して角柱状の混合体を得た。さらに、この混合体を40°Cに設定した乾燥機に入れて24時間加熱乾燥し、実施例1のメタカオリン固化体を得た。
(実施例2〜5)
実施例2では、摩砕工程におけるポットの回転時間を70時間、実施例3では50時間、実施例4では25時間、実施例5では10時間とした。他の条件は実施例1と同様であり説明を省略する。
(比較例1)
比較例1では、摩砕工程を行わなかった。他の条件は実施例1と同様であり説明を省略する。
<評価>
上記実施例1〜5のセラミックス固化体について、JIS R 1601に準じ、強度試験装置を用いて3点曲げ強度を室温で測定した。その結果、図2に示すように、実施例1〜5のセラミックス固化体では、ボールミル時間の増加と共に、メタカオリン固化体の強度が大きくなることが分かった。このことから、ボールミル時間を長くすることにより、メタカオリン粒子の表面の非晶質化が進み、さらにはアルカリ処理工程において、その非晶質化された表面が水酸化カリウムによって溶出・再析出されて、強固なメタカオリン固化体となることが分かった。
【0028】
これに対して、比較例1では、固化させることができず、測定不能となった。
【0029】
この発明は、上記発明の実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、省エネルギタイプで、製造における炭酸ガスの排出も少ない構造材料として多くの産業分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1…セラミックス
2…活性化セラミックス粉体2
2a…非晶質層
3…セラミックス固化体
3a…析出層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メカノケミカル作用によって、セミラックス粉体の表面に非晶質部を形成する工程と、
前記非晶質部が溶解可能な液に、前記非晶質部を溶解させるとともに再析出させて析出層を形成し、主に前記析出層によって、前記セラミックス粉体同士を固化させる工程と、
を備えることを特徴とするセラミックス粉体の固化方法。
【請求項2】
メカノケミカル作用によって非晶質部が表面に形成されたセミラックス粉体を用意し、前記非晶質部が溶解可能な液に、前記セミラックス粉体の前記非晶質部を溶解させるとともに再析出させて析出層を形成し、主に前記析出層によって、前記セラミックス粉体同士を固化させることを特徴とするセラミックス粉体の固化方法。
【請求項3】
前記析出層のみによって、前記セラミックス粉体同士を固化させることを特徴とする請求項1又は2記載のセラミックス粉体の固化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−95444(P2010−95444A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22830(P2010−22830)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【分割の表示】特願2007−84460(P2007−84460)の分割
【原出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】