説明

セラミックス成形体の製造方法

【目的】 緻密かつ均一で、強度も大きく、寸法安定性も良いセラミックス成形体を、非常に薄いものから厚いものまで容易に成形する方法を提供する。
【構成】 セラミックス原料粉末、水溶性結合剤、分散剤として一般式(1)で示される化合物と無水マレイン酸との共重合体、その加水分解物またはその加水分解物の塩及び水を含有する混合された組成物を、押出成形または圧延ロール成形した後、焼成する。
【化1】


(ただし、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基でその50〜100モル%はオキシエチレン基、Rは炭素数1〜4のアルキル基、nは4〜150である。)

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、セラミックス成形体の改良された製造方法に関し、より詳しくは非常に薄いものから極端に厚いものまで種々の厚みのセラミックス成形体を容易に製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】セラミックス成形体は電子回路用多層配線基板の絶縁材料、積層コンデンサなどの誘電材料、圧電ブザー等の圧電材料などに使用されている。最近とくに注目されている使用例として、電子部品または回路を小型化するために使用されているアルミナ質セラミックスの多層配線基板がある。こうした分野に使用されるセラミックス成形体は、セラミックスをロッド、テープまたは薄いシート状に成形したいわゆるグリーンシートを焼成することによって得られるが、その代表的成形法として押出成形法と、鋳込み成形法の1種であるドクターブレードキャスティング法がある。
【0003】前者の押出成形法はセラミックス原料粉末に結合剤として水溶性ポリマー及び媒体として水を混合し、これを高圧または真空押出成形機で成形する方法である。ここで、水溶性ポリマーとしてポリビニルアルコール、セルロースエーテルなどが使用され、セラミックス原料に対して必要最低限の水量で成形することができる。この方法では緻密で寸法安定性の良い成形品を得ることができるため、特にコンデンサ等の誘電材料に使用されている。しかしながら、コンピューター等に使用される多層配線基板用セラミックステープの場合は約0.1〜0.3mmのきわめて薄いセラミックスが使用されるため、前記押出成形法では金型の両端と接触する部分で歪みを生じ、均一な厚さのテープに成形することが困難であった。
【0004】一方、押出成形法以上に広く採用されている方法としてドクターブレードキャスティング法がある。この方法はセラミックス原料粉末と結合剤と溶剤とを混合して得られるスラリーをキャリアシート上に流し込み、ドクターブレードにより一定の厚みに引き伸ばし、乾燥後キャリアシートより引剥がしてテープを得る方法である。この方法によれば幅の広いテープを容易に製造することができるがスラリー粘度に限界があるため、キャスティング後の粒子の沈降が認められ厚い均一なテープに成形することができず、一般に厚さ1.2mmが限界であると考えられていた。また、この方法においては、結合剤としてフィルム強度の大きい合成ポリマーが必要であり、主としてポリビニルブチラールが使用される。このポリビニルブチラールを溶かすためにアルコール、ケトン、塩素系溶剤、芳香族系溶剤等の有機溶剤を使用しなければならず、火災安全上、或いは環境衛生上の問題が生じていた。
【0005】そこで、上記問題を解決するために、ポリビニルアルコール、水溶性ポリウレタン等の水溶性結合剤が提案され、媒体として水が使用されるようになってきた。しかしながら、これらの水溶性結合剤を用いると、セラミックス原料粉末が水溶性溶媒中で凝集しやすく、粘度が上昇するためにセラミックススラリーの流動性が低下したり、セラミックスの分散不良が生じたりして、緻密で寸法安定性がよく、表面が平滑な所望の成形品が得られ難いという問題があった。
【0006】更に、上記水溶性結合剤の欠点を解決するために種々のアクリルポリマーも提案されている。例えば、特開昭58−190867号公報においては、ポリウレタン樹脂と水溶性アクリル樹脂とを組合わせた技術、特開昭59−121152号公報や特開昭60−122769号公報においては、アクリル酸エステル類とカルボキシル基含有単量体との共重合体を用いる技術、更に特開昭60−155567号公報にはアルコキシポリエチレングリコールの不飽和カルボン酸エステルを必須成分とする共重合体を用いる技術等が開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、これらの各種提案を用いても上記の問題を充分に解決することはできなかった。本発明は、セラミックス成形体を製造するに際し、火災安全上及び環境衛生上問題のない水溶性結合剤を用い、寸法精度も高く、非常に薄いものから厚いものまで任意の厚みの成形体を押出成形または圧延ロール成形した後、焼成して製造する方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨は、セラミックス原料粉末100重量部、水溶性結合剤1〜10重量部、分散剤として一般式(1)で示される化合物と無水マレイン酸との共重合体、その加水分解物またはその加水分解物の塩0.1〜10重量部及び水5〜30重量部を含有する混合された組成物を、押出成形または圧延ロール成形した後、焼成することを特徴とする。
【化1】(ただし、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基でその50〜100モル%はオキシエチレン基、Rは炭素数1〜4のアルキル基、nは4〜150である。)
【0009】本発明の方法で使用されるセラミックス原料粉末としては、アルミナ、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ジルコニア、酸化チタン、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ホウ素等が挙げられる。
【0010】水溶性結合剤としては、通常用いられている水溶性樹脂が使用できるが、特に水溶性ポリビニルアルコールや水溶性セルロースエーテルの使用が好ましい。中でも、ポリ酢酸ビニルのケン化度が70モル%以上で、重合度500以下の水溶性ポリビニルアルコールが好ましい。水溶性セルロースエーテルの中では、メトキシ基置換度が1.3〜2.2のメチルセルロースが好ましい。
【0011】分散剤として用いる一般式(1)で示される化合物中のAOで示される炭素数2〜4のオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシテトラメチレン基等が挙げられるが、オキシエチレン基が50〜100モル%以上を占める。オキシエチレン基が50モル%未満の場合は水溶性が不充分となり、分散性能が低下する。Rで示される炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、ブロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、第三ブチル基などが挙げられる。
【0012】本発明で用いる分散剤は、下記(A)ないし(C)の共重合体からなる。(A);一般式(1)の化合物と無水マレイン酸との共重合体、(B);(A)のマレイン酸単位の加水分解物、(C);(B)のマレイン酸単位のカルボキシル基の全部または一部の塩である。一般式(1)の化合物と、無水マレイン酸、マレイン酸またはマレイン酸塩単位とがモル比で3:7〜7:3の割合の共重合体が好ましく、特に4:6〜6:4の割合の共重合体が好ましい。一般式(1)の化合物と無水マレイン酸との共重合体は,一般式(1)の化合物と無水マレイン酸とを通常の重合開始剤を用いて共重合させることにより容易に得ることができる。重合開始剤として過酸化物系開始剤、アゾ系開始剤、過酸化水素、または過硫酸塩等の水溶性開始剤が挙げられる。その際、スチレン、α−オレフィン、酢酸ビニルなどの他の共重合可能な単量体を混合して共重合させてもよい。
【0013】更に、共重合体の加水分解物は、一般式(1)の化合物と無水マレイン酸とを共重合した後に、無水マレイン酸単位を加水分解して得ることができる。この中には一般式(1)の化合物とマレイン酸との共重合体も含まれる。また、共重合体の加水分解物の塩は、一般式(1)の化合物と無水マレイン酸とを共重合させた後に、無水マレイン酸単位と塩を形成する化合物を含む水溶液で加水分解して得ることができる。この中には一般式(1)の化合物とマレイン酸塩との共重合体も含まれる。
【0014】これらの塩の具体的な例としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルキル金属塩、アルキル土類金属塩のほか、アンモニウム塩や有機アミン塩が挙げられる。有機アミン塩としては、メチルアミン塩、エチルアミン塩、プロピルアミン塩、ブチルアミン塩、アミルアミン塩、ヘキシルアミン塩、オクチルアミン塩、2−エチルヘキシルアミン塩、デシルアミン塩、ドデシルアミン塩、トリデシルアミン塩、テトラデシルアミン塩、ヘキサデシルアミン塩、イソヘキサデシルアミン塩、オクタデシルアミン塩、イソオクタデシルアミン塩、オクチルドデシルアミン塩、ドコシルアミン塩、デシルテトラデシルアミン塩、オレイルアミン塩、リノールアミン塩、ジメチルアミン塩、トリメチルアミン塩、アニリン塩等の脂肪族や芳香族のモノアミン塩、エチレンジアミン塩、プロピレンジアミン塩、テトラメチレンジアミン塩、ジエチレントリアミン塩、トリエチレンテトラミン塩、テトラエチレンペンタミン塩、ペンタエチレンヘキサミン塩等のポリアミン塩、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタールアミン塩、モノイソプロパノールアミン塩、ジイソプロパノールアミン塩、トリイソプロパノールアミン塩、これらのアルキレンオキシド付加物の塩、第一または第二アミンのアルキレンオキシド付加物の塩等のアルカノールアミン塩、リジン塩、アルギニン塩等のアミノ酸塩が挙げられる。これらの中、特にナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩及びモノエタノールアミン塩が好ましい。
【0015】本発明において、セラミックス原料粉末に対する水溶性結合剤及び分散剤の配合割合は、セラミックス原料粉末100重量部に対して水溶性結合剤1〜10重量部、好ましくは3〜8重量部であり、分散剤0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜9重量部である。水溶性結合剤の量が1重量部未満では添加した効果が得られず、10重量部を越えると成形体の強度が低下するので好ましくない。分散剤の量が0.1重量部未満では添加した効果が得られず、10重量部を越えると成形体の強度が低下するので好ましくない。
【0016】水の添加量は、セラミックス原料粉末100重量部に対して5〜30重量部である。水の量が5重量部未満ではセラミックススラリー粘度が上昇して流動性が低下したり、分散剤によるセラミックスの分散性能が充分に発揮され難いことがある。一方、30重量部を越えるとスラリー中のセラミックス粒子が沈降して均一な分散体が得られ難くなることがある。
【0017】セラミックス原料粉末の粒度、粒径及び水溶性結合剤の種類により、上記範囲内で最適の水の添加量が異なるが、一般的にセラミックス原料粉末の見掛け密度が大きい場合或いは水溶性結合剤の粘性が小さい場合は水の添加量を少な目にする。他方、セラミックス原料粉末の見掛け密度が小さい場合或いは水溶性結合剤の粘性が大きい場合は水の添加量をやや多くすることを要する。
【0018】本発明の製造方法において、原料配合物の混合及び熟成を充分に行う必要がある。セラミックス原料粉末に対する水溶性結合剤、分散剤及び水の添加は同時に行ってもよいが、予め水溶性結合剤を水に溶解したものをセラミックス原料粉末に添加した後分散剤を添加する方法、または水溶性結合剤と分散剤を水に溶解或いは分散した溶液或いは分散液をセラミックス原料粉末に添加する方法が、セラミックス原料粉末の均一な分散体を容易に得る上で好ましい方法である。
【0019】本発明のセラミックス成形体焼成用の組成物には上記成分の他、タルク、粉末粘土などの焼結助剤等、セラミックス焼成に使用される他の成分を含有させることもできる。
【0020】
【作用】本発明の方法はセラミックス原料粉末を用いてセラミックス焼成前の成形物を成形するにあたり、分散性に優れた特定の分散剤を使用するものである。すなわち、圧延ロールによるテープ成形ではロール間のクリアランスを調整するだけで任意の厚さのテープを成形でき、従来、ドクターブレードキャスティング法でしか得られなかった厚さ0.3mm以下のテープも容易に成形することができる。一方、セラミックス原料粉末粒子の沈降も回避できるので厚いテープの製造も可能である。
【0021】更に、セラミックステープは焼結前にパターン印刷を行う場合があり、このとき印刷インキの浸透性が問題となるが、本発明では結合剤として水溶性ポリマーを使用しているので印刷インキのにじみやダレがなく、精緻な印刷も容易に行うことができる。そして、このセラミックス成形体用組成物の焼成により良好な状態のセラミックス成形体が得られる。
【0022】
【実施例】以下、参考例及び実施例を挙げて本発明を説明する。
【0023】参考例1〜8水溶性コポリマー(A)の製造還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管及び撹拌器を付した四つ口フラスコにポリオキシエチレンモノアリルモノメチルエーテル(平均分子量550)550g、無水マレイン酸98g及びトルエン300mlを入れ、窒素ガス気流下に充分に撹拌して溶解した。溶解後、50℃まで昇温し、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート2.0gを加えて70℃まで昇温し、同温度で、終始窒素ガスを通じながら10時間共重合反応を行った。反応後、減圧下に50℃でトルエンを留去して赤褐色透明な粘稠な液体である本発明で用いる水溶性の分散剤(A)を得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより分子量を測定した結果、重量平均分子量は15,000であった。
【0024】水溶性コポリマー(B)〜(H)の製造以下同様にして、表1に示す分散剤(B)〜(E)を製造した。また、分散剤(A)に水を加えて共重合体の無水マレイン酸単位を加水分解して分散剤(F)を得た。分散剤(A)に40%水酸化ナトリウム水溶液を加えて共重合体の無水マレイン酸単位をナトリウム塩にして分散剤(G)を得た。分散剤(A)に30%アンモニア水溶液を加えて共重合体の無水マレイン酸単位をアンモニウム塩にして分散剤(H)を得た。
【0025】
【表1】


【0026】参考例9公知の分散剤であるアクリル樹脂の製造還流冷却器、温度計、滴下ロート、窒素ガス導入管及び撹拌器を付した5つ口フラスコに脱イオン水1kgを入れ、窒素ガス気流下に70℃まで昇温した。次いで70〜75℃に保持しながらポリオキシエチレンモノメチルメタクリレート(平均分子量540)200g、アクリル酸50g、アクリル酸メチル500g及び2,2’−アゾビス〔2−メチル−N−2−プロペニルプロピオンアミジン〕ジヒドロクロリド3.0gを脱イオン水200gに溶解した水溶液を5時間かけて滴下し、更に75℃に2時間保持した。重合反応後、30%アンモニア水溶液を加えて中和し、アクリル樹脂水溶液を得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより分子量を測定した結果、重量平均分子量は160,000であった。
【0027】実施例1〜10表1に示した分散剤を用いて以下に示した処方のセラミックス成形体用の組成物を得た。
アルミナ粉末(平均粒径4μm) 100重量部タルク粉末 6重量部粘土粉末 2重量部ポリビニルアルコール ※1 6重量部分散剤 0.3〜8重量部水 20重量部※1……ユニチカ化成(株)製ポバールUMR−10H、ポリ酢酸ビニルのケン化度70〜90モル%、重合度100のポリビニルアルコール。
なお、これらの組成物の配合は、先ずアルミナ粉末、タルク粉末及び粘土粉末の規定量に、予め規定量のポリビニルアルコールと分散剤とを水に溶解した水溶液を添加し、充分に混練した後、真空押出成形機により厚さ10mm、幅500mmのシート状に押出成形した。押出成形作業時の状況とシートの状態を表2に示した。
【0028】比較例1実施例1で使用した水溶性コポリマーを使用しない以外は実施例1と同様にしてシートを製造した。その結果を表2に併記した。
【0029】比較例2実施例1で使用した分散剤(A)の添加量をアルミナ粉末100重量部に対して0.05重量部にした以外は実施例1と同様にしてシートを製造した。その結果を表2に併記した。
【0030】比較例3分散剤として参考例9で得た公知の水溶性アクリル樹脂を5重量部使用した以外は実施例1と同様にしてシートを製造した。その結果を表2に併記した。
【0031】
【表2】


【0032】表2より、本発明で用いる分散剤として一般式(1)で示される化合物と無水マレイン酸との共重合体、その加水分解物または加水分解物の塩を特定量用いた組成物は押出の状況及び得られたシートの状態共に優れていることが理解される。
【0033】実施例11表2の実施例2と実施例4の組成物について、それぞれ充分混練した後、真空押出成形機により厚さ10mm、幅500mmのシート状に押出し、次いでクリアランス5mm、2mm、1mmと順次狭めたロール間を通過させながら最終的に厚さ0.2mmのアルミナテープを得た。テープの表面状態はいずれも均一で光沢があった。これらのテープを約1450℃の還元炎で焼成して得たセラミックスの表面状態は平滑であり、均一であった。
【0034】
【発明の効果】本発明により、緻密かつ均一で、強度も大きく寸法安定性も良いセラミックス成形体を、非常に薄い成形体から厚い成形体まで幅広い厚み選択性をもって成形することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 セラミックス原料粉末100重量部、水溶性結合剤1〜10重量部、分散剤として一般式(1)で示される化合物と無水マレイン酸との共重合体、その加水分解物またはその加水分解物の塩0.1〜10重量部及び水5〜30重量部を含有する混合された組成物を、押出成形または圧延ロール成形した後、焼成することを特徴とするセラミックス成形体の製造方法。
【化1】


(ただし、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基でその50〜100モル%はオキシエチレン基、Rは炭素数1〜4のアルキル基、nは4〜150である。)