説明

セラミック多孔質膜およびその製造方法

【課題】外周エッジ部Aや内周エッジ部Bにおけるガラスシール層のアルカリ溶出に起因する基材露出を回避し、耐久性に優れたセラミック多孔質膜およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】多孔質アルミナ基材に形成された複数の貫通孔と、流体の流路となる該貫通孔の内表面に形成されたMF膜層と、該流体流路方向の端面側に形成されたガラスシール層を有するセラミック多孔質膜において、該多孔質アルミナ基材の外周面と該流体流路方向の端面とが角をなす外周エッジ部を面取り加工した外周面取り部と、該MF膜層と該流体流路方向の端面とが角をなす内周エッジ部を面取り加工した内周面取り部を有し、該外周面取り部および内周面取り部が該ガラスシール層で被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセラミック多孔質膜およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミック多孔質膜は、簡便な操作により液体中の懸濁物質や微生物等を効果的に除去し得るため、食品加工分野で使用されることも多い。
【0003】
一般に食品加工分野で使用される機器類は、機器に付着するタンパク成分の除去を目的として、苛性ソーダで洗浄される。例えば、洗浄対象が有機膜の場合には、0.01〜0.05重量%もしくはpH12以下の苛性ソーダで洗浄を行うことが通常であるが、有機膜に比べて耐食性の強いセラミック多孔質膜の場合には、0.5〜2重量%程度の苛性ソーダを用いて洗浄を行うことも可能である。
【0004】
図6には、通常、食品加工分野で使用されるセラミック多孔質膜の断面説明図を示している。図6に示すように、該セラミック多孔質膜1は、弾性材料からなるO−リング等のシール材2によって、モノリス形状のセラミック多孔体(比較的平均細孔径が大きい)からなる基材9の外周面3と流体流路方向端面4とが、気密的に隔離されるようにハウジング5内に収納されて使用される。該セラミック多孔質膜1の構造に関し、流体流路方向端面4をガラスシール層6で被覆する技術が開示されている(特許文献1等)。
【0005】
流体流路方向端面4にガラスシール層6を形成することにより、被処理流体は、図6に実線(F)で示すように、必ず、貫通孔7と、該貫通孔7の表面に形成された濾過膜層8を透過して基材の外周面3に流出することになる。当該構造によれば、図6に破線(F´)で示すように、流体流路方向端面4側から基材の内部に浸入した被処理流体が、濾過膜層8を透過することなく基材の外周面3から流出してしまう現象を回避し、目的とする濾過を確実に行うことができる。
【0006】
しかし、従来、基材9は、予め焼成されたモノリス形状のセラミック多孔体を定寸で切断し、該切断面である流体流路方向端面4と外周面3とが角をなす外周エッジ部10や、該流体流路方向端面4と貫通孔7とが角をなす内周エッジ部11を有するものを使用しており、これらの外周エッジ部10や内周エッジ部11にシリカ系釉薬を塗布および焼成してガラスシール層6を形成する場合、塗布された釉薬に対し、焼成過程で表面張力が働く結果、図6に示すように、ガラスシール層6の厚みが、外周エッジ部10や内周エッジ部11で薄くなる現象が不可避的に生じていた。このため、セラミック多孔質膜のアルカリ洗浄を繰り返して、ガラスシール層6が溶出し始めた場合、まず、これらの外周エッジ部10や内周エッジ部11から基材9が露出し、膜寿命が短くなる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−263498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は前記の問題を解決し、外周エッジ部Aや内周エッジ部Bにおけるガラスシール層のアルカリ溶出に起因する基材露出を回避し、耐久性に優れたセラミック多孔質膜およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明のセラミック多孔質膜は、多孔質アルミナ基材に形成された複数の貫通孔と、流体の流路となる該貫通孔の内表面に形成されたMF膜層と、該流体流路方向の端部に形成されたガラスシール層を有するセラミック多孔質膜において、該多孔質アルミナ基材の外周面と該流体流路方向の端面とが角をなす外周エッジ部を面取り加工した外周面取り部と、該MF膜層と該流体流路方向の端面とが角をなす内周エッジ部を面取り加工した内周面取り部を有し、該外周面取り部および内周面取り部を、該ガラスシール層で被覆したことを特徴とするものである。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のセラミック多孔質膜において、多孔質アルミナ基材がモノリス形状のセラミック多孔体であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1記載のセラミック多孔質膜において、MF膜層の膜厚が120〜200μmであることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1記載のセラミック多孔質膜の製造方法であって、外周エッジ部を回転砥石で面取り加工する外周面取り部形成工程と、内周エッジ部を研磨ブラシで面取り加工する内周面取り部形成工程を有することを特徴とするものである。
【0013】
請求項5記載の発明は、請求項4記載のセラミック多孔質膜の製造方法において、研磨ブラシが、粒度#170〜#240、直径0.6〜1.0mm、長さ15〜25mmのダイヤモンド糸からなり、該研磨ブラシを回転数800〜1200rpm、偏心回転数24〜40rpmで回転することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るセラミック多孔質膜は、多孔質アルミナ基材に形成された複数の貫通孔と、流体の流路となる該貫通孔の内表面に形成されたMF膜層と、該流体流路方向の端部に形成されたガラスシール層を有するセラミック多孔質膜において、該多孔質アルミナ基材の外周面と該流体流路方向の端面とが角をなす外周エッジ部を面取り加工した外周面取り部と、該MF膜層と該流体流路方向の端面とが角をなす内周エッジ部を面取り加工した内周面取り部を有し、該外周面取り部および内周面取り部を、該ガラスシール層で被覆した構成とすることにより、外周エッジ部や内周エッジ部に塗布された釉薬に対し、焼成過程で表面張力が働いても、なお、該外周エッジ部や内周エッジ部におけるガラスシール層の厚みを、面取り加工分確保することが可能となった。これにより、従来セラミック多孔質膜のアルカリ洗浄を繰り返して、ガラスシール層が溶出し始めた場合、まず、これらの外周エッジ部や内周エッジ部から基材が露出して膜寿命が短くなっていた問題が解消され、従来に比べて耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ハウジング内に収納された使用状態におけるセラミック多孔質膜の断面説明図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】貫通孔と、貫通孔の内表面に形成されたMF膜層を有する多孔質アルミナ基材の全体説明図である。
【図4】外周エッジ部を回転砥石で面取り加工する外周面取り部形成工程の説明図である。
【図5】内周エッジ部を研磨ブラシで面取り加工する内周面取り部形成工程の説明図である。
【図6】従来から食品加工分野で使用されるセラミック多孔質膜の断面説明図(ハウジングに収納された状態図)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
【0017】
図1には、ハウジング内に収納された使用状態におけるセラミック多孔質膜の断面説明図を示し、図2には図1の要部拡大図を示している。
【0018】
図1のセラミック多孔質膜1は、図3に示される多孔質アルミナ基材9(例えば、直径30〜180mmφ、長さ150〜2000mmの円柱状基材)を用いて、該基材9の外周面3と流体流路方向の端面4とが角をなす外周エッジ部10を面取り加工する外周面取り部形成工程と、MF膜層12と該流体流路方向の端面4とが角をなす内周エッジ部11を面取り加工する内周面取り部形成工程と、該外周面取り部13および内周面取り部14を被覆するように、該流体流路方向の端部Aにガラスシール層6を形成するガラスシール層形成工程を経て、製造される。図3に示す多孔質アルミナ基材9は、複数の貫通孔7と、流体の流路となる該貫通孔7の内表面に形成されたMF膜層12を有している。
【0019】
(外周面取り部形成工程)
図4には、外周エッジ部10を回転砥石15で面取り加工する外周面取り部形成工程の説明図を示している。回転砥石15はテーパ―状の内周面を備えたものであり、従来公知のもの(例えば、中心に孔部を有する円盤状(ドーナツ状)の台金の外周面に、メタルボンドで保持されたダイヤモンド砥粒層を取り付けた構造を有するホイール等)を使用することができる。
【0020】
外周面取り部形成工程では、流体の流路となる複数の貫通孔7の内表面にMF膜層12が形成されたアルミナ質の基材9(例えば、直径30〜180mmφ、長さ150〜2000mmの円柱状基材)を用い、回転砥石15のテーパ―面を、該基材9の流体流路方向の端面4に圧接しながら回転させることによって、外周エッジ部10に面取り加工を行い、外周面取り部13を形成している。面取り角度は30〜60°が好ましく、図4には45°の例を示している。
【0021】
(内周面取り部形成工程)
図5には、内周エッジ部11を研磨ブラシ16で面取り加工する内周面取り部形成工程の説明図を示している。
【0022】
内周エッジ部11の面取り加工は、リューター等の研削機を用いて貫通孔を1か所ずつ、順次研磨していく事も可能であるが、複数(例えば、19、37、61ヶ所)の貫通孔を有するアルミナ質基材の場合には、当該手法は手間と時間がかかり実用性に欠ける。そこで、本実施形態では、粒度#170〜240、直径0.6〜1.0mm、長さ15〜25mmのダイヤモンド糸からなる研磨ブラシ16を使用し、該研磨ブラシ16を回転数800〜1200rpm、偏心回転数24〜40rpmで回転して面取り加工を行い、内周面取り部14を形成している。
【0023】
内周面取り部形成工程では、約120μmの厚みを有するMF膜層12と基材の流体流路方向端面4とが角をなす内周エッジ部11を面取り加工することが必要となるが、研磨ブラシ16のダイヤモンド糸が、長さ300mm以上になると、ダイヤモンド糸の撓み量が過剰になり、内周エッジ部11の研磨を効果的に行うことができず好ましくない。一方、研磨ブラシ16のダイヤモンド糸が、長さ100mm以下の場合、ダイヤモンド糸の撓み量が不足し、基材の流体流路方向端面4も研磨されてしまい、内周エッジ部11の研磨を効果的に行うことができず好ましくない。これに対し、研磨ブラシのダイヤモンド糸を、長さ15〜25mmとすることにより、研磨ブラシ16の毛先が、内周エッジ部11の研磨を効果的に行う角度となるように、ダイヤモンド糸の撓み量を最適に調整することができる。
【0024】
(ガラスシール層形成工程)
ガラスシール層形成工程では、前記工程で形成した外周面取り部13と内周面取り部14を被覆するガラスシール層6を形成する。本発明のガラスシール層6とは、基材の流体流路方向端面4を被覆するように配置された液不透過性のシール材であって、ガラス釉薬で構成されたものを意味する。このガラスシール層6は、被処理流体が流体流路方向端面4から基材内部に浸入することを防止する。このガラスは耐食性に優れ、しかも低融点である。
【0025】
ガラスシール層6は、従来手法に従って形成すればよく、例えば、以下のような方法により形成することができる。まず、ガラス原料を、アルカリ成分含有率が10〜15%のシリカ―ジルコニア系の組成となるように混合し、溶融して均一化し、これを冷却した後に平均粒径10〜20μm程度となるように粉砕したフリットを用意する。次いで、そのフリットに対し、水、及び有機バインダを加えて混合することによりガラスシール形成用スラリーを調製する。そのガラスシール形成用スラリーをセラミックフィルタの両端面に塗布して外周面取り部と内周面取り部を被覆し、乾燥した後、焼成する。なお、該ガラスシール層を、アルカリ成分含有率が10〜15%のシリカ―ジルコニア系のガラス釉薬から構成とすることにより、高濃度のアルカリを用いた膜洗浄の繰り返しによっても、アルカリによる該ガラスシール層の溶出を効果的に抑制することができる。
【0026】
前記の各工程によれば、該外周エッジ部10や内周エッジ部11における面取り加工分、ガラスシール層6の厚みを確保することが可能となる。外周エッジ部10や内周エッジ部11におけるガラスシール層6の厚みを確保することにより、セラミック多孔質膜1のアルカリ洗浄を繰り返してガラスシール層6が溶出し始めた場合であっても、これらのエッジ部における基材9の露出を、従来に比べて効果的に抑制することができる。
【0027】
また、ガラスシール層は、MF膜に対する接着性が弱い傾向が見られるが、内周面取り部を形成することにより、ガラスシール層とMF膜との接着面積を大きく確保でき、シール性の向上を図ることもできる。ここで、シール性とは、セラミック膜の多孔体に水を染み込ませ(水中に浸漬させ、脱気を行う)1次側、若しくは2次側からエアーで加圧し、反対側より気泡が発生するかで確認されるガラスシール層のシール機能を意味するものであり、シール性の向上とは膜寿命の延長を意味するものである。
【符号の説明】
【0028】
1 セラミック多孔質膜
2 シール材
3 外周面
4 流体流路方向端面
5 ハウジング
6 ガラスシール層
7 貫通孔
8 濾過膜層
9 基材
10 外周エッジ部
11 内周エッジ部
12 MF膜層
13 外周面取り部
14 内周面取り部
15 回転砥石
16 研磨ブラシ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質アルミナ基材に形成された複数の貫通孔と、流体の流路となる該貫通孔の内表面に形成されたMF膜層と、該流体流路方向端部に形成されたガラスシール層を有するセラミック多孔質膜において、
該多孔質アルミナ基材の外周面と該流体流路方向の端面とが角をなす外周エッジ部を面取り加工した外周面取り部と、該MF膜層と該流体流路方向の端面とが角をなす内周エッジ部を面取り加工した内周面取り部を有し、
該外周面取り部および内周面取り部を、該ガラスシール層で被覆したことを特徴とするセラミック多孔質膜。
【請求項2】
多孔質アルミナ基材がモノリス形状のセラミック多孔体であることを特徴とする請求項1記載のセラミック多孔質膜。
【請求項3】
MF膜層の膜厚が120〜200μmであることを特徴とする請求項1記載のセラミック多孔質膜。
【請求項4】
請求項1記載のセラミック多孔質膜の製造方法であって、外周エッジ部を回転砥石で面取り加工する外周面取り部形成工程と、内周エッジ部を研磨ブラシで面取り加工する内周面取り部形成工程を有することを特徴とするセラミック多孔質膜の製造方法。
【請求項5】
研磨ブラシが、粒度#170〜240、直径0.6〜1.0mm、長さ15〜25mmのダイヤモンド糸からなり、該研磨ブラシを回転数800〜1200rpm、偏心回転数24〜40rpmで回転することを特徴とする請求項4記載のセラミック多孔質膜の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−187492(P2012−187492A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52356(P2011−52356)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】