説明

セラミック焼結体の製造方法、セラミック焼結体および発光容器

セラミックスの成形体を準備し、前記セラミックスの粉末および分散媒を含有するスラリーを準備する。前記成形体の表面を前記スラリーによって自由表面を形成するように被覆する。次いで成形体を焼成し、セラミック焼結体を得る。これによって成形体表面の凹凸を低減し、焼結体表面の平滑性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、セラミック焼結体の製造方法、セラミック焼結体および発光容器に関するものである。
【背景技術】
イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAl12:YAG)セラミックスは、可視部から赤外領域までの広範囲にわたって高い透光性を示す。このため、サファイヤ代替窓材、放電ランプ用発光管材料、耐食部材への適用が検討されている。
本発明者は、イットリウム・アルミニウム・ガーネット焼結体を、例えば高圧放電灯(メタルハライドランプや水銀灯等)の放電管として使用することを検討している。こうした高圧放電灯は、自動車用ヘッドランプやプロジェクタの光源として期待されている。なぜなら、イットリウム・アルミニウム・ガーネット焼結体は透光性が高いために、この焼結体から放電管を形成することによって、放電管内の放電アークを点光源として利用できるからである。
特開平2003−73584号公報においては、セラミックス水溶性コーティング液をセラミック焼結体上に塗布し、焼成することによって、亀裂が無く表面平滑性に優れ、透光性を有する薄膜を得ている。
特許第3407284号公報においては、透光性母材の一面に、ギブスの標準生成エネルギーが負で絶対値が母材よりも大きい酸化物で形成される耐食膜を形成する。この耐食膜は、発光管内に封入されるアマルガムを構成する主元素の酸化物からなる。
特開平11−255559号公報においては、耐食性向上を目的として、放電管の管状YAGの内面にTmAG,YbAG,LuAGのセラミックス膜を形成させている。
【発明の開示】
しかし、発光容器は、例えば図5(a)に示すように、両端がすぼまった筒状を呈している。この発光容器8は、焼結直後には例えば数%程度の直線透過率しかない。従って、発光容器8の外側面8eおよび内側面8dを、砥粒ダイヤモンド等によって研磨加工することによって、外側面8eおよび内側面8dの平滑性を向上させ、これによって発光容器8の直線透過率を向上させる必要がある。しかし、発光容器8の両端部8a、8cは、中央の発光部8bに比べて径が小さく、このために発光空間6に面する内側面8dを研磨加工することは困難であり、十分に高い直線透過率が得られるまで研磨加工を行うためには手間とコストとを必要とする。
本発明の課題は、セラミック焼結体の表面の平滑性を高くできるようにすることである。
本発明は、セラミックスの成形体を準備する工程;前記セラミックスの粉末および分散媒を含有するスラリーを準備する工程;成形体の表面をスラリーによって自由表面を形成するようにコーティングする工程;および、次いで成形体を焼成する工程を含むことを特徴とする、セラミック焼結体の製造方法に係るものである。
また、本発明は、前記方法によって得られたことを特徴とする、セラミック焼結体に係るものであり、また、このセラミック焼結体からなる発光容器に係るものである。
本発明者は、成形体の表面を、この成形体を構成するセラミック粉末を含むスラリーによって自由表面を形成するように被覆することを想到した。これによって、焼成後の表面を平滑に仕上げることができることを見いだした。また、これにより、焼成後の研磨加工を不要とすることができ、あるいは研磨加工を最小限とすることができる。
この理由は明らかではないが、次のように考えられる。まず成形体の製造時には型を使用するが、型の内壁面の粗さが成形体表面に転写され、若干の凹凸が残る。この後、成形体の表面に、この成形体の少なくとも一部を構成する粉末のスラリーを、自由表面を形成するような形でコーティングする。この段階において平滑なセラミック面が形成される。続く焼成段階における表面粗さの劣化は小さく、平滑な焼成面を形成できることが分かった。
なお、特開平2003−73584号公報に示されるように、焼結体の表面に、この焼結体と同種の材質を構成するスラリーをコーティングすることも考えられる。しかし、この方法では、コーティング膜の焼結工程が別途必要になるし、コーティング膜と焼結体との界面にクラックが発生しやすい。また、特許第3407284号公報、特開平11−255559号公報では、セラミック成形体上に、耐蝕膜のスラリーをコーティングしており、次いで成形体を焼結している。この方法では、焼結体表面に耐蝕性を持つ膜を形成することはできるが、焼結体表面の平滑性は保証されない。本発明においては、セラミック成形体表面に、この成形体を構成するセラミック粉末を含有するスラリーを自由表面を持つようにコーティングする点に特徴がある。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の一実施形態に係るプロセスを示すフローチャートである。
図2(a)は、成形体1を示す模式的断面図であり、
図2(b)は、成形体5を示す縦断面図である。
図3は、成形体5中への溶媒の流し方の一例を示す模式図である。
図4は、成形体5の内側面および外側面上にコーティング7を形成した状態を示す縦断面図である。
図5(a)は、発光管(焼結体)8を示す縦断面図であり、
図5(b)は、成形体5の表面5d上のコーティング7を示す模式的断面図である。
図6は、比較例1の試料の表面の電子顕微鏡写真である。
図7は、実施例1の試料の表面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の好適な実施形態について述べる。
図1は、好適な実施形態のフローチャートである。このフローチャートに沿って、発光容器に適用した図2〜図5を参照しつつ、説明する。
まずセラミック粉末、分散媒および必要に応じて分散剤を混合し、スラリーを得る。ここで、セラミック粉末は特に限定されず、以下を例示できる。
アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリカ、マグネシア、フェライト、コージェライト、イットリア等の希土類元素の酸化物等の酸化物系セラミックス
チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ジルコン酸鉛、希土類元素のマンガナイト、希土類元素のクロマイト等の複合酸化物
窒化アルミニウム、窒化珪素、サイアロン、酸窒化アルミニウム等の窒化物系セラミックス
炭化珪素、炭化ホウ素、炭化タングステン等の炭化物系セラミックス
弗化ベリリウム、弗化マグネシウム、弗化カルシウム、弗化ストロンチウム、弗化バリウム等の弗化物系セラミックス
分散媒は、スラリー形成に利用可能であれば特に限定されないが、以下を例示できる。すなわち、▲1▼アルコール ▲2▼ケトン ▲3▼エーテル ▲4▼トリアセチン ▲5▼エステルのうち、少なくとも1種以上を用いたものが挙げられる。
また、必要に応じて分散剤、ゲル化剤などの他の添加剤を添加することができる。
このスラリーを成形型にいれて成形する。例えば、図2(a)に示す例では、成形型1に中子2を挿入し、中子2にろう中子3を取り付ける。これによって成形空間4を形成する。成形空間4は、細長い端部成形空間4a、4cおよび発光部成形空間4bを備えている。矢印Aのように空間4aからスラリーを注入し、空間4b、4cを充填する。次いで、そして過剰なスラリーを矢印Bのように型外に排出する。次いで型1を加熱してロウ中子3を脱ろうし、型1を開く。これによって、図2(b)に示す成形体5を得、乾燥する。この成形体5は、例えば、端部5a、5cおよび発光部5bを備えており、発光部5b内に空間6が形成されている。
次いで、成形体5の所望の表面上にセラミックスラリーをコーティングする。発光管の場合には、外側面5eおよび内側面5dにスラリーをコーティンダする。このときに好適な実施形態においては、スラリーのコーティング前に成形体の表面に溶媒を接触させる。これによって、成形体表面近傍に残留する気泡を溶媒によって置換し、また成形体表面のスラリーによる濡れ性を向上させることができる。この溶媒の種類は限定されないが、以下を例示できる。すなわち、
▲1▼アルコール ▲2▼ケトン ▲3▼エーテル ▲4▼トリアセチン ▲5▼エステルのうち、少なくとも1種以上を用いたものが挙げられる。
特に好ましくは、成形体表面に対する溶媒の濡れ角が60°以下となるようにする。また、特に好ましくは、次工程で使用するスラリーを構成する分散媒が、溶媒のうち少なくとも一種を含んでいる。
成形体表面に溶媒を接触させる方法は限定されない。例えば、成形体を溶媒内に浸漬することができる。あるいは、成形体表面に溶媒を流延することができる。例えば、図3に示すように、矢印Cのように溶媒を端部5aから流し、矢印Eのように空間6に面する内側面5dに沿って流し、矢印Dのように排出できる。
次いで、成形体表面にセラミックスラリーをコーティングする。このコーティング方法は特に限定されない。例えば、成形体をスラリー内に浸漬することができる。あるいは、成形体表面にスラリーを流延することができる。例えば、図3に示すように、矢印Cのようにスラリーを端部5aから流し、矢印Eのように空間6に面する内側面5d(ないし外側面5e)に沿って流し、矢印Dのように排出できる。これによって、図4に示すように、成形体5の内側面5d、外側面5eの全体にわたってコーティング7を形成できる。このときに、図5(b)に示すように、コーティング7の表面7aは、前述のように、コーティング前の成形体表面5dに比べて平滑化されている。
この成形体を脱脂、仮焼、本焼成することによって、図5(a)に示すような発光管(焼結体)8を得る。この焼結体8をアニールしてもよい。この発光管8は、端部8a、8cと発光部8bとを備えている。
ここで、焼結体の表面にスラリーをコーティングしたものとする。この場合には、この後の焼結工程において焼結体とコーティング膜の収縮差が発生し、境界面で剥離が起こるなど成膜が不良となりやすい。これに対して、未焼成の成形体の表面にスラリーをコーティングした場合には、焼結工程において収縮差が小さいために剥離なく良好に成膜できる。
本発明においては、成形体の表面をスラリーによって自由表面を形成するように被覆する。流動体を成形体上に外力を加えることなしに接触させたときには、流動体の表面張力によって流動体と雰囲気との界面が生成する。この界面を自由表面と呼ぶ。従って、自由表面を形成するように、ディップ、流延などによって、外力を直接スラリーに加えることなしに成形体上にスラリーをコーティングする必要がある。
成形体表面に形成するコーティングの膜厚は、焼結体表面のRaを小さくするという観点からは、20μm以上であることが好ましく、35μm以上であることが更に好ましい。
好適な実施形態においては、成形体をゲルキャスト成形する。また、好適な実施形態においては、成形体上にコーティングするスラリーをゲルキャストスラリーとする。これによって成形体とスラリーとの濡れ性を高め、また平滑な表面を形成しやすい。
ゲルキャスト法は、セラミックスの粉体、分散媒、及びゲル化剤を含むスラリーを注型した後に、このスラリーを温度条件や架橋剤の添加等によりゲル化させることにより固化して成形体を得る方法である。
ゲルキャスト法としては、以下の方法を例示できる。
(1) セラミック粉体とともに、ゲル化剤となるポリビニルアルコール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のプレポリマーを分散媒中に分散してスラリーを調製し、注型後、架橋剤により三次元的に架橋してゲル化させることにより、スラリーを固化させる。
(2) 反応性官能基を有する有機分散媒とゲル化剤とを化学結合させることにより、スラリーを固化させる。この方法は、本出願人の特開2001−335371号公報に記載されている。
こうしたゲルキャストスラリーは、以下のようにして製造できる。
(1)分散媒にセラミック粉体を分散してスラリーとした後、ゲル化剤を添加する。
(2)分散媒にセラミック粉体及びゲル化剤を同時に添加して分散することによりスラリーを製造する。
本発明によって得られた焼結体は、コーティングを形成しない場合に比べて平滑な表面を有している。焼結体が透光性である場合には、直線透過率が、コーティングを形成しない場合に比べて増大する。さらにこのような焼結体表面を研磨加工する場合は、コーティングを形成しない場合に比べて研磨前のRaが小さいために研磨加工の時間とコストを削減できる。研磨加工することによって一層Raは小さくなり、直線透過率は向上する。しかし焼結体表面の研磨加工は必須ではない。
【実施例】
図1〜図5を参照しつつ説明した前記プロセスに従って、イットリア−アルミナガーネットからなる実施例1〜8の試料を作製し、得られた試料の膜厚、Ra、直線透過率を測定した。
実施例1〜6においては、下記のゲルキャストスラリーを作製した。
粉末(「BB」(信越化学株式会社製))とAl粉末(「UA−5100」(昭和電工株式会社製))とを混合し、混合粉末を1500℃で加熱し、イットリウム・アルミニウム・ガーネットからなる仮焼体を得る。この仮焼体を粉砕して粉末を得、分散媒(トリアセチンとグルタル酸ジメチルの混合物)とバインダーとを添加し、48時間樹脂ポット中でボールミル混合する。Y粉末およびAl粉末において、(Y/Al)(mol比)が0.600となるようにする。得られたスラリーの固形分濃度は、72.3%、70.3%または68.3%とした。
実施例7、8においては、下記の水系スラリーを作製した。
粉末(「BB」(信越化学株式会社製))とAl粉末(「UA−5100」(昭和電工株式会社製))とを混合し、混合粉末を1500℃で加熱し、イットリウム・アルミニウム・ガーネットからなる仮焼体を得る。この仮焼体を粉砕して粉末を得、水とバインダーとを添加し、48時間樹脂ポット中でボールミル混合する。Y粉末およびAl粉末において、(Y/Al)(mol比)が0.600となるようにする。得られたスラリーの固形分濃度は69.3%とした。
実施例1〜8においては、前記各スラリーを型内にいれ、平板形状の成形体を得た。この成形体を95℃で乾燥した。次いで、実施例1〜6の成形体を溶媒(トリアセチンとグルタル酸ジメチルの混合物)に浸漬した。実施例7、8の成形体は水中に浸漬した。次いで各成形体を各例のスラリー中に再び浸漬し、コーティングを行った。このときの浸漬時間と浸漬回数は表1に示す。また形成された膜厚も表1に示す。得られた各成形体を600℃で脱脂し、1600℃で大気雰囲気下で仮焼し、1800℃で水素雰囲気下で本焼成した。次いで得られた焼結体を1350℃でアニールした。
また、比較例1では、上記した実施例1の成形体を作製した後、成形体表面に膜を形成しなかった。他は実施例1と同様にして焼結体を製造した。参考例1においては、上記した比較例1の焼結体の両面をダイヤモンドスラリーによって精密研磨加工した。
各例の試料の表面の中心線平均表面粗さRa、直線透過率を測定した。この結果を表1に示す。

実施例1〜6においては、比較例1に比べて、焼結体試料のRaが小さく、直線透過率が著しく増大している。実施例7、8においては、コーティングの膜厚が一層大きくなっているが、これによって焼結体試料のRaが一層小さくなっている。なお、参考例1においては、焼結体試料を精密研磨加工することによって、試料の直線透過率を62%まで向上させているが、本発明の実施例1〜8においては研磨前でも高い直線透過率を得ることに成功している。
図6は、比較例1の試料の表面の電子顕微鏡写真である(倍率500倍)。図7は、実施例1の試料の表面の電子顕微鏡写真である。このように、本発明に従うことによって、研磨前の焼結体表面が著しく平滑化することが分かる。
実施例1の試料の表面付近を観察すると、成形体と成形体表面の膜とは焼結後には完全に一体化しており、膜と下地との継ぎ目やクラックは見られない。
なお、実施例としてスラリーに用いるセラミック粉末は、イットリウム・アルミニウム・ガーネット粉末を例示したが、スラリーとして使用可能なセラミック粉末は、イットリウム・アルミニウムガーネット粉末に限定されるものではない。使用可能なセラミック粉末として上に例示した、酸化物系セラミックス、複合酸化物、窒化物系セラミックス、炭化物系セラミックス、弗化物系セラミックスの各粉末をスラリーとして使用できる。
また、実施例においては、焼結体の材質をイットリウム・アルミニウムガーネット粉末としたが、作製される焼結体の材質は、イットリウム・アルミニウムガーネットに限定されるものではない。セラミック粉末として上に例示した、酸化物系セラミックス、複合酸化物、窒化物系セラミックス、炭化物系セラミックス、弗化物系セラミックスの各粉末を原料として得られる焼結体も例示できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスの成形体を準備する工程;
前記セラミックスの粉末および分散媒を含有するスラリーを準備する工程;
前記成形体の表面を前記スラリーによって自由表面を形成するようにコーティングする工程;および
次いで前記成形体を焼成する工程
を含むことを特徴とする、セラミック焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記成形体をゲルキャスト法によって成形することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記成形体の表面に溶媒を接触させ、次いで前記スラリーをコーティングすることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記スラリーの前記分散媒が前記溶媒の少なくとも一種を含むことを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記スラリーがゲルキャスト用スラリーであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一つの請求項に記載の方法によって得られたことを特徴とする、セラミック焼結体。
【請求項7】
請求項6記載のセラミック焼結体からなることを特徴とする、発光容器。

【国際公開番号】WO2005/028170
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514122(P2005−514122)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013981
【国際出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】